CPAC
2016年03月05日
トランプのCPACドタキャンで予備選挙の流れが変わるだろう
(CPAC主催団体のマット・シュラップACU会長)
トランプ・CPACドタキャンという前代未聞の選挙戦術を実行、結果は如何に・・・
全米から保守派運動家が集まるCPACをトランプ氏がまさかのドタキャン。そもそも4日の参加予定を5日早朝に変更した上に、何もかもすべてをドタキャンした状況です。大統領予備選挙に与えるCPACのインパクトは絶大であり、全ての大統領予備選候補者が出席することは通例となってきました。(ちなみに、昨年はトランプ氏も参加して演説しています。)
先日、CPACへの出席をマルコ・ルビオ氏が渋ってきた結果、予備選挙候補者が一人だけ別日程という形になっていたものの、トランプ氏の場合は4日の出席をキャンセルして5日に変更、しかしCPAC開催中の4日になって5日の予定をドタキャン、という形なので失礼にもほどがある感じです。
とはいうものの、トランプ氏が「あえて他の人物が全員出席する場所をドタキャンして格の違いを見せる」のは、アイオワ州党員集会直前の討論会をボイコットした時にもあるので、これがトランプ氏ならではの話題作りの戦術だと思われるため、欠席は残念であるものの、CPACの現地でトランプ戦術を体感したこと個人的な意味は大きかったように思います。私が以前から指摘している通り、トランプ氏は予備選挙のライバルを片付けた後のヒラリー対策に既に移っているということも言えます。
トランプ・CPACドタキャンが与える政治的な影響は計り知れないものになるだろう
今年のCPACには延べ1万人程度の熱心な保守派運動員が参加費3万円以上支払って参加しており、旅費なども含めると10万円以上かかって参加している人も珍しくありません。しかも、彼らの多くは共和党の地域における選挙運動の足腰を支える役割を果たしています。
CPACでの出席をアナウンスして全米から共和党支持者を集めながら、それをドタキャンした悪印象は相当なものだと推測されます。実際、テッド・クルーズの演説で「トランプは逃げた!」というようなニュアンスで話が展開されると会場では大盛り上がりという状況になりました。
従来までトランプ氏は、共和党の他候補者やおおよそ共和党に投票しない層を叩くことで、共和党支持者の約30%にコアなファン層を形成する戦略を取ってきました。しかし、今回は初めて明確な共和党支持者層に対して悪印象を与えたものと思います。彼らにお金を払わせた上に出演をスポイルしたわけですから、その影響は今までの発言による反響とは違うものになるでしょう。
共和党執行部とトランプ氏の激しい対立は報道されているところですが、共和党保守派についてはトランプ氏への意見は割れた状態であったように思います。トランプ氏はリベラルであるとみなされているため、当初から保守派のイデオロギーが強い層からは敬遠されてきました。しかし、既存政治へのアウトサイダーという位置づけから一部の保守派から人気があることも事実です。今回はその両者の有権者層に対して好ましくない印象を与えたことは確かでしょう。
米国の保守派の人々は誠実な人が多いため、トランプ氏にメンツを潰された形になったことは個人的に残念ではあるものの、彼らが今度の大統領選挙で更に本腰を入れるきっかけになったものと思います。最終日の模擬投票の結果で誰が勝利するのか、各候補者間でどの程度の差がつくのか、非常に楽しみな状況となってきました。
2016年03月04日
CPACに起きた「ある異変」が予備選全体に影響を与えるか?
共和党保守派の最大の集会であるCPACにスポンサーサイドとして参加しています。共和党大統領予備選挙候補者や保守系団体の幹部の方にお会いしましたが、その話はCPACの実況とともに後々触れていくとして、今回は予備選挙全体にインパクトを与える「ある日付」の話をお伝えしていきます。
CPACの要素として最も重要な大統領選挙の模擬投票
全米から保守派の中心人物が集まるCPACではSTRAWポールという大統領選挙の模擬投票が行われています。この投票は保守派が総体として誰を推しているのかを明らかにするためのものであり、共和党大統領選挙の結果に大きな影響を与えます。(写真は参加者が投票を機械で行っているところ)
2012年は穏健派と見られてきたロムニーが保守PRを繰り広げたことから辛うじて保守派のサントラムにSTRAWPOLLで勝利して、その後の大統領予備選挙の動向に決定的なインパクトを与えました。スーパーチューズデーの結果、3つ巴状態が色濃くなった共和党予備選挙ですが、今回のCPACでは保守派のクルーズ氏に対して、トランプ氏・ルビオ氏が逆転またはどこまで迫れるのかが予備選挙の帰趨を占う上で重要な指標となっています。
(4日はトランプ、ケーシック、クルーズ、カーソンら予備選候補者の演説日程目白押し)
(5日の予備選候補者の演説日程ははルビオのみ)
CPACの明暗を分ける4日・5日という演説日程の区分けとは
CPAC自体が本格的に開催されている期間は3月3日~5日であり、この間に各予備選挙候補者はメイン会場で演説を行って、その内容が評価される形で参加者が次々と模擬投票を行っていきます。
演説日程が参加者が最も集まる中日の午後早い時間が有利な時間設定だと思われます。なぜなら、多くの参加者の投票は最終日に至るまで決定しているからです。今回は一人の候補者を除いてほぼ全候補者の演説日程が4日となり、残りの1名の演説日程が最終5日となりました。
一人5日という不利なスケジュール設定をされた人物はトランプ氏ではなくルビオ氏です。ルビオ氏はCPACへの参加を最後まで渋っていたため、CPAC主催団体であるACUと険悪な関係になった結果、大統領候補者の演説が集中(参加者も多い)する4日ではなく、5日の午前の遅い時間が割り振られる状況となっています。
ルビオ氏は保守派への接近を懸念したことから、共和党の予備選挙で決定的なインパクトを与えるCPACへの参加を渋り続けてきました。その結果として、ルビオ氏とACUの関係は表立って報道されるほどにまで悪化しています。
トランプ氏・クルーズ氏との保守派からの得票競争を考えると、ルビオ陣営は共和党エスタブリッシュメント側の顔色を窺い過ぎて戦略上の致命的なミスを犯しました。今回の予備選挙ではエンドースの獲得という戦術面で主流派は功を奏していますが、選挙全体の構図のデザイン力でトランプ・保守派に劣っていると言えるでしょう。
その結果として、ルビオ氏はクルーズ氏を突き放すとともにトランプ氏と互角の戦いになるための重要な機会であるCPACにおける勝利の可能性を実質的に失った状況となっています。
テッド・クルーズに神風が吹いている状況となった予備選挙
3月4日未明現在、クルーズ陣営にとってルビオ陣営の失敗はまさに神風のような追い風となって機能するでしょう。ライバルであるルビオ陣営が自滅して保守派からの支持を失っていく中で、スーパーチューズデーに集中した保守的傾向がある州での勝利と合わせてトランプ氏に対抗できる唯一の候補者のイメージを形成していくことができるからです。
予備選挙で爆走状態を続けるトランプ氏を抑えるためには、共和党内でトランプ氏に対抗する候補者を絞りこむことが必要です。今後は北部のリベラルな州での予備選挙も増加していくことから、対抗馬として最も有力な候補者はルビオ氏と目されてきました。しかし、ルビオ陣営の致命的なミス、もっと言えば「エスタブリッシュメントの優柔不断さ」が露呈した結果、クルーズ氏がルビオ氏を差し切って2着の地位を維持する(つまり、トランプ氏への本命対抗馬としての地位を維持する)ことができるようになりそうです。
今回の予備選挙は「米国政治への怒り」がテーマとされていますが、それ以上に「エスタブリッシュメントの優柔不断さ」というテーマこそが隠れテーマだと感じています。この優柔不断さの間隙を突いて、トランプ氏・クルーズ氏が台頭した状況が生まれているのです。トランプ現象のみを切り取って「怒り」と表現する既存メディアの米国政治関連の報道には飽き飽きします。ジェブ・ブッシュの不発など、全てはエスタブリッシュメントの選挙戦略上のミスによって今回の大接戦が生まれているからです。
トランプではなく米国政治を根本から変える人物は「クルーズ」だ
日本の報道ではトランプ氏の勝利が米国政治を一変させるというものが多いのですが、筆者としてはトランプ・ルビオ・クルーズの3氏の中で米国政治を一変させる可能性が高い人物はクルーズ氏であると確信しています。トランプ氏が政治を変えるという言論を垂れ流している人は、米国政治について良く知らない人か、米国政治を知った上で虚偽を述べている人でしょう。
米国の政治の左右の振れ幅を左から整理すると、サンダース、ヒラリー、トランプ、ルビオ、クルーズという順番であり、実は3氏の中でトランプ氏は限りなく民主党に近い経済政策や社会政策を持っています。そのため、見方によってはトランプ氏は共和党の中では比較的大規模な政策変更を米国に与える可能性が低い候補者であると評価することもできます。
しかし、クルーズ氏は筋金入りの保守派であり、小さな政府の理念を徹底的に追求することは間違いなく、最も大規模な政策変更を実行していくことになるでしょう。そして、そのような大規模な政府機構の改革は世界各国の政治の在り方にもインパクトを与えて、世界の姿を変える一つの軸が提示されることになります。
したがって、米国における既得権層が最大に恐れている人物はトランプ氏ではなくクルーズ氏なのです。CPACにおける演説日程はルビオ氏の苦戦を深刻化させることになり、トランプ氏への対抗軸として機能できるかどうかを左右する重要な要素となるでしょう。まさに政治の要諦は「日程」にこそがあるということは、日本だけでなく米国でも共通の事項なのだなと痛感させられる出来事でした。
*という状況だと思ったら、まさかのトランプ・ドタキャン。元々4日から直前に5日変更依頼し、その上ドタキャンというのは流石に保守派も怒るんじゃないかなと。
2016年02月16日
中山俊宏教授のための共和党保守派入門(後篇)
前回、米国政治を専門と称する中山教授の「念願のCPACに初参加」という告白が、「自分は共和党保守派についてビギナー」だと指摘しましたが、このCPACとは何なのでしょうか。
CPAC(Conservative Political Action Conference)とは何か?
まず、前回のおさらいですが、CPACは米国共和党保守派にとっては入門的な場であるとともに、大統領予備選挙の指名を実質的に決める場です。
CPACは米国保守派の年次総会とも言えるような場であり、毎年開催されているCPACでは全ての大統領候補者が壇上に立ち、約1~2万人程度の保守派の草の根リーダーらに自らの考え方をアピールしています。
これは何故かというと、特に大統領選挙の年ではCPAC内で開催される大統領予備選挙の模擬投票が実際の予備選挙にも大きな影響を与えるからであり、2012年のロムニー予備選勝利に関してもCPACの投票結果は多大なインパクトをもたらしました。
2015年2月のCPACに出席していれば、ジェブ・ブッシュ氏の勢いがイマイチ欠けており、ドナルド・トランプ氏の旋風、マルコ・ルビオ氏の台頭などはある程度予測ができる空気感が漂っていました。
つまり、昨年の夏段階でブッシュ推しの日本人有識者はまったく共和党の空気感が分かっていない人だということが言えます。特に近年のCPACでは会長職の変更などの影響もあったのか、有色人種比率・若者比率も格段に増えていること、米国共和党保守派の変化を肌で体感することができる貴重な場でもあります。
また、CPAC会場内では多くの分科会・レセプションが開催されており、共和党保守派がどのような政策テーマに関心があるかを知ることもできます。つまり、米国共和党のイデオロギー的・政策的なテーマの方向性を知る上でもCPACへの参加は必須であると言えます。ちなみに、私の関与している団体がCPAC会場内でACUと共同で日米関係のレセプションを用意しています。
さらに、CPAC会場ではVIP用の部屋が別に構えられており、多忙なキーパーソンから会いたい人物が別室に招かれて会談を行うことも重要な機能です。私も過去に参加したCPACで当時の大統領予備選挙候補者とVIPルームで面会する機会が得られました。CPACは参加するだけなら「誰でも参加」できますが、インビテーションが無ければ入室できない催しもあり、間口は広く敷居の奥は深いイベントです。
CPACに一度も行ったことがなく、米国共和党保守派について知ったように語ることがいかにチープであるか、情報不足の日本メディアからは中山氏ら米国通を称する大学教授は持て囃されるかもしれませんが、米国の少なくとも「共和党保守派」を解説するには役不足だと思います。
こうした役不足の人物が偏見に基づいた解説をすることは、日本人に米国政治の潮流を見誤らせることになり、戦前と同じ過ちを我が国に侵させかねない行為です。
既存の政治関係者・有識者ルートから脱却した若い世代の外交ルートの発達
そもそも共和党保守派の日本への関心は従来までは高くありませんでした。上述の通り、私が関与している団体がACUとの共同レセプションを開催するまで、JapanのJの字もない状況だったと言っても過言ではありません。
これは米国共和党保守派という近年の政治シーンでは無視できない存在に対して、日本の政治・学会関係者がほぼノータッチだったことを意味しています。どれだけ日本外交は無策なんですかと。
従来までのように一部の米国通とされる有識者らが情報を独占し、自分にとって都合が良い解釈をメディアで流し続けて安泰でいられる時代ではなくなりました。日米関係という非常に重要な二国間関係に関わる情報ルートであっても、人間の行き来の活発化やネットの発達によって情報寡占は不可能になりつつあります。いまや新聞・テレビで解説されている程度の話は英字新聞どころか、英字新聞の日本語版サイトを見れば十分です。(日本のメディアでどんな発言しているかも相手国にキーパーソンに容易に伝わるようになりました。)
一方、これから重要になることは情報の解釈であり、筆者は米国共和党保守派の理念である「小さな政府」を始めとした政治思想が日本にとって伝えられるべき重要な思想であると考えています。
そのため、中山俊宏教授が述べられているような一方的なバイアスがかかった共和党保守派に関する言説ではなく、これら共和党保守派との間でしっかりと根をはった言論が増えてくることが望ましいものと思います。
これは日米関係だけではなく他国のケースであったとしても同様のことが言えるでしょう。海外の情報を摂取する際に、従来まで権威とされてきた情報源だけではなく、現地・現場とのリレーションに基づく情報の送受信の多様化が起きていくことが必要です。
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2015年12月08日
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?
2015年10月~11月の各候補者の支持率推移について振り返る
本ブログでは、2016年米国共和党予備選挙について、過去3回に渡って分析を行ってきました。
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙(11月6日)
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
この中で予測として当たっていたことは、(1)ドナルド・トランプの支持率は落ちない、(2)ベン・カーソンの支持率は落ちる、(3)マルコ・ルビオの支持率は上がる&ブッシュは支持が低迷する、の3点です。これらはすべて的中したことになります。
上記の程度のことは米国側の政治情勢を理解して情報ルートを持っていれば当たり前のように分かることです。まあ、私が9月くらいに会った日本人の米国研究者・米国通の政治家らは「ブッシュが来る」「スコット・ウォーカーが来る」「トランプは落ちる」とかいい加減な話をしてましたが。。。
米国共和党大統領候補・予備選挙の主要なプレーヤーは来年1月中旬~末に確定する
とはいうものの、米国共和党の予備選挙の指名を最後まで争うプレーヤーは来年1月中旬~末に確定することになります。現時点ではトップを独走しているトランプはダントツなので1枠確定として、追加で2名程度1月下旬までに生き残りが確定することになるでしょう。
なぜなら、3月2日~5日に予定されている共和党保守派最大のイベントであるCPACにおける保守派運動員による模擬投票は実質的に共和党予備選挙に決着をつけることになるため、その1か月前までに各候補者は自分の指名の可能性に見切りをつけるからです。
そのため、12月末~1月初旬にかけて既存の候補者らが退陣することで、彼らが獲得していた票が他候補者に集約された時点で大きく票が動くことになるため、現時点ではかなり予測が困難な状況と言えます。
「ベン・カーソンとテッド・クルーズは生き残らない」と予想する
本ブログが過去でベン・カーソンが生き残らないと予想した理由は、彼の支持率が保守派の草の根運動に支えられたブームに乗ったものだからです。
共和党大統領候補・予備選挙では一時的に保守派の特定の候補者が人気を集めた後に支持率を急落させる傾向があります。そして、再び別の保守派の候補者が急落した候補者の支持を奪って上昇していく形となります。それが今回のスコット・ウォーカー、ベン・カーソン、テッド・クルーズの3氏の支持率の変化の要因です。
これらは保守派の候補者は共和党穏健派・民主党にシンパシーが強いメディアからの凄まじいバッシングに曝されるため、長期間の高い支持率を維持することは困難なことに起因します。逆に保守派は候補者を濫立させることで、保守派が一人潰されても直ぐに次の候補者に乗り換えるという対処策を取っているようにも見えます。
現段階で高い支持率にある、ベン・カーソン、テッド・クルーズの両氏は1月中旬まで高支持率を維持できるかは極めて疑問です。
最後に生き残る候補者を数字の足し算・引き算から予測してみる
現在、穏健派、保守派、トランプ、という3つのグルーピングで分けた場合の支持率合計は、12月7日発表のRCPアベレージの数字を用いて計算すると、
穏健派・・・合計23.6ポイント(ルビオ、ブッシュ、クリスティー、ケーシック、パタキ)
保守派・・・合計39ポイント(カーソン、クルーズ、フィオリーナ、ハッカビー、ポール)
トランプ・・・合計30.3ポイント
というポイントになるわけです。現段階で高い支持率がある保守派のカーソン及びクルーズがメディア・バッシングを受け続けて失速する可能性が高く、ハッカビー及びポールも伸び悩むであろう中で、フィオリーナに保守派の支持が集まる動きが出てくるでしょう。
保守派の候補者らが撤退していくと同時に、穏健派もブッシュ、クリスティー、ケーシックの撤退が予想されるため、マルコ・ルビオに支持が一元化していくことになると思います。(ルビオにスキャンダルがあればブッシュ)
トランプの弱点は他候補者との親和性が低いため、穏健派・保守派が脱落していく数字のうち10ポイント以上獲得できるかどうかが勝負の分かれ目になるでしょう。5ポイント前後の吸収率では最終的な穏健派・保守派の候補者の合同数字には敵わないことが予測されるからです。
注目すべき点は3月CPAC前にトランプが他候補を突き放せるか
CPACはAmerican Conservative Unionという全米最大の保守派団体が毎年開いている年次総会であり、上述の通りCPACで行われる模擬投票で事実上の候補者が内定します。
現在、穏健派だけでなく保守派からもトランプへの風当たりはかなり強い状況だと思います。
トランプは強力な草の根組織を持つ保守派からも独立した存在であり、穏健派候補者以上にアンコントロールだと考えられているとともに、民主党のヒラリーに勝てるかどうかが危ぶまれているからです。
そのため、CPACでの投票でトランプが勝利することは困難ではないかと予測します。トランプは保守派の年次総会であるCPACで模擬投票が行われる前に事実上の決着をつけることができなければ極めて苦しい立場に立つことになるでしょう。逆にトランプ以外の候補者はCPACまで粘り切れば逆転の芽があるということになります。
したがって、2016共和党大統領候補・予備選挙の勝負の見どころは1月~2月でトランプが他候補者を突き放すか否か、ということになります。ますます面白い展開になりそうです。
2015年11月16日
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目
前回記事「支持率の変化から見た共和党大統領予備選挙」ではデータから共和党大統領予備選挙の各候補者の数字の推移を追いました。本日は実際に米国において各候補者の姿を見聞してきた印象をまとめてみたいと思います。
日本の米国研究者のピント外れな予想としての「ブッシュ」
2016年共和党の大統領候補者を選ぶ予備選挙について、日本の米国研究者はブッシュ氏を大本命として推してきていました。
たまに日本人の米国研究者と偶然に席を持つことがありますが、その際に「今回は保守派が強い」という話をしても彼らは鼻で笑いながら「僕らのコミュニティでは(穏健派の)ブッシュという予想になっています」と述べていたものです。(実際、米国研究者は「知ったか」が多く、あまり当てにならない印象があります。)
しかし、私は今年2月末に実施された共和党保守派の集会であるCPAC(Conservative Political Action Conference:大統領予備選候補者が全員参加する大演説会)に参加した感想としてブッシュ氏はかなり難しいという印象を受けました。
たしかに、ブッシュ氏が講演したメイン会場では多くの立ち見が出ている状況ではありましたが、ブッシュ氏の演説自体はイマイチ迫力に欠けるものであり切れ味がありませんでした。一方のドナルド・トランプ氏は大量のSPに囲まれてホテルに登場して圧倒的な威圧感を周囲に与えていました。この段階で両者の間には風格としてかなり差がついていたと思います。
勿論、現段階では最終的な候補者は確定していないため、ブッシュ氏が盛り返す可能性は0%ではありませんが、現地で見た空気感としては2月末段階からブッシュ氏の現在の低迷はある程度予想できました。
ブッシュ氏の凋落ぶりは激しくケーシック氏などの他穏健派候補者にスイッチされる可能性すらあります。
マルコ・ルビオというダークホースの登場
私自身は現在の有力候補となっているマルコ・ルビオ氏については2012年から注目してきました。
「共和党の大統領候補者選び、カギはマルコ・ルビオ氏!?」(日経ビジネスオンライン、2012年)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120220/227382/?rt=nocnt
2012年当時は保守派の筆頭格のような扱いを受けていたマルコ・ルビオ氏ですが、ヒスパニック移民に対する態度の軟化を保守派に非難されてから、保守派の色を残しつつ穏健派の取り込みを行う巧みな選挙戦略にシフトしてきました。
ブッシュ氏の低迷はマルコ・ルビオ氏のスタンスの変化が影響している部分も大きく、仮に穏健派の候補者が勝つにしても、現状はマルコ・ルビオ氏のほうがブッシュ氏よりも優勢な状況にあります。最近ではウォール街もブッシュ氏を切ってマルコ・ルビオ氏に乗り換える動きが出ています。
また、マルコ・ルビオ氏の特徴はキューバ移民の子どもでバリバリのたたき上げだということも大衆受けの面から大きな要素です。対立候補であるトランプ氏が持っているアメリカンドリームの魅力も兼ね揃えた候補者として強力だと思います。
ベン・カーソン、ランドポール、カーリー・フィオリーナなどの保守派候補について
ベン・カーソン氏とランド・ポール氏は今年のかなり早い段階からキャンペーンを開始していました。私自身は実際にランド・ポール氏とは直接お会いしたことがありますが、非常に真摯な印象を受けた記憶があります。
ランド・ポール氏に関しては、父のロン・ポール氏とは政策が違うことから仲違いしたこと、ケートー研究所が支持を撤回したことなど、コアなファン層を持つものの、現状から挽回することはかなり難しい印象です。
カーリー・フィオリーナ女史に関しては唯一の女性候補者として目立つ存在ではありますが、実際の見た感じではやや尖がった感じを受けたため、支持がどこまで拡大できるかは今一つ疑問だと思います。
穏健派に比べて保守派はメディアがかなり敵対的なスタンスを取るために支持率があがると、大規模なネガキャンが直ぐに開始されます。トランプ氏以外の保守派候補者は早い段階で有力という名前が挙がることは危険なことだと思います。
共和党大統領予備選挙は何故これほどまでに複数の候補者が出るのか
米国民主党の候補者レースがヒラリーとサンダースの2名に絞られているのに対し、米国共和党の候補者が複数出馬する理由は「共和党の人材の層の厚さ」「共和党の草の根団体の独立性」の2点が挙げられると思います。
米国共和党は米国民主党と比べて分散的なネットワーク型の草の根組織で支えられています。そのため、候補者も多様なメンバーが発掘されやすく、また一部の権力者による候補者選びが極めて難しい環境があります。
まさに、共和党の大統領候補者選びこそが米国の自由で民主的な空気を体現したものと言えるでしょう。米国共和党の大統領予備選挙の現状を参考とし、日本の政党の党首・代表選挙も改善されていくことが望まれます。
2015年10月30日
米国共和党式!「小さな政府」を創る6つの仕組みとは
米国共和党の大統領予備選挙で各候補者の熾烈な戦いが続いています。今回は台風の目としてドナルド・トランプ氏が注目されていますが、共和党の予備選挙は穏健派と保守派の2つの派閥の闘争として分析することが可能です。そして、保守派を支える政治闘争のシステムを理解して輸入することは、日本において小さな政府を目指す人々にとっては重要なことです。
表舞台で注目されるようになった保守派
共和党内部では社会保障政策などで民主党に近い穏健派と小さな政府を信条的・政策的に追求する保守派に分かれています。これらの対立の歴史はかなり古い歴史を持っていますが、歴史的には穏健派の勝利という政治情勢が続いてきました。そして、労働組合などの利権団体による動員マシーンを背景とする民主党による連邦議会も戦後の長期間の支配が続いてきました。
しかし、1994年になると共和党保守派が民主党及び共和党内の穏健派を倒すための体制を構築し、連邦議会における民主党支配を覆すことに成功しました。そして、共和党の本来の政治的な主張である「小さな政府」を金科玉条に掲げる政治勢力が政局の表舞台で注目されることになりました。保守派は民主党や共和党穏健派を凌駕する動員力、政策力、資金力を確立し、現在の連邦議会で大きな力を持っています。
米国共和党式!保守派の「小さな政府」を創る6つの仕組み
私見では、保守派を支える政治闘争のシステムは、極めてシステマチックに構築されています。代表的な事例としては、(1)保守派の大方針や大統領候補者を実質的に決定する意思決定としての保守派の年次総会(CPAC:Conservative Political Action Conference)、(2)ワシントンにおける日常的な保守派の動き司令塔となる定期会議(全米税制改革協議会主催のWednesday Meeting)、(3)保守派の運動員を育てる訓練機関(The Leadership Institute)、(4)保守派の政策立案を担うシンクタンク(ヘリテージ財団など)、(5)保守派の主張を伝えるメディアやメディア監視団体(フォックスニュースやMedia Research Center)、(6)保守派の価値観を教育する草の根組織(Tea PartyやFreedom Works)など、その他多様な能力を持つ組織が存在し、多くの仕組みが分散的・有機的に結合した巨大な運動ネットワークとして機能しています。
大統領候補者や連邦議員から政策的な言質を引き出すとともに、彼らを国政の場に送り出すための力強い運動が展開されて、減税や規制改革の政策が次々に提供される仕組みには目を見張るものがあります。
日本で旧来の米国通の識者が保守派を紹介するとき、これらの識者は穏健派との繋がりが深い傾向があり、故意に矮小化された保守派のイメージ(保守派は極端な主張を述べているという類のレッテル貼り)が伝えられることが多く、保守派の優れたネットワークの有機的な結合についての全体感が語られることは少ない印象を受けます。
そのため、本来、日本の「小さな政府」を求める政治勢力にとって必要な「米国の保守派の政治闘争のシステム」の輸入という貴重な機会が失われています。
共和党予備選で注目すべきポイント
日本の政治状況は自民党及び官僚による支配が継続しており、彼らが生み出し続けている巨額の政府債務と張り巡らされた規制制度が未来への希望を閉ざしています。しかし、依然として小さな政府を求める政治勢力の力は弱く、「大きな政府」と「更に大きな政府」を求める政治勢力による不毛な政争が続けられています。
「小さな政府」を掲げる政治勢力を代表する政党が誕生し、責任ある二大政党政治を創り上げるためには、政党や政治家だけではなく、周辺の政治闘争のためのシステムを構築することが必要不可欠です。
共和党の大統領予備選挙に注目が集まる中で、候補者同士戦いの背景で動いている米国の保守派の政治闘争のシステムについて、より多くの日本国民が注目し、日本でも「小さな政府」の政治勢力を強化する仕組みづくりが開始されることが期待されます。