金融政策

2015年11月28日

「アベノミクス」、全ての矢が折れた後に(金融政策編)

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アベノミクス、つまり安倍政権の政策は、弱肉強食、格差拡大、福祉切り捨てなどの色々な名目で批判されます。そして、アベノミクスを「新自由主義的な政策で小さな政府だ」と総括する人々もいます。

しかし、アベノミクスの本質は「弱肉強食・格差拡大」ではあるものの、「反自由主義的で巨大な政府」であるということ、そして超巨大な政府を創りだした金融緩和・財政支出・規制不緩和による経済停滞による不都合な事実こそが問題だということをお話ししていきます。

アベノミクスの金融緩和は「庶民」にも「大企業」にも無意味だった

金融緩和とは「日本円」という通貨価値を意図的に引き下げる政策です。そして、日本円を安くすることによって輸出を増加させること、人為的にインフレを生じさせることでお金を使わせて景気を浮揚させることを狙うことを目的としています。

しかし、現実に起きたことは輸出数量はほとんど増加せず、デフレからの脱却も行うこともできませんでした。実際に金融緩和によって発生した「メリットはほとんど無いということ」です。

つまり、何となく日本円がジャブジャブになったような印象があるだけで肝心のGDPへの影響があまりなかったということ、要は庶民にも大企業にもほとんど関係がないことが行われただけだったのです。

輸出も増加しなければデフレからも脱却しなかった異次元緩和


まず、輸出面ですが、ドルベースで日本からの輸出額を見た場合、円高で苦しんでいるとされた2009年のほうが中国市場の過熱から輸出総額が高い状況でした。

アベノミクス以前の2011-12年のほうがアベノミクス以後の13-14年よりも輸出額が多い状況となっており、輸出は買い手の経済の影響を大きく受けるので、日本の金融政策の影響は微々たるものであることが明らかになっています。

また、目標とした物価上昇2%というデフレからの脱却も達成できておらず、実際の食品と原油を除いた消費物価指数は直近の数か月でも1%未満の上昇率で推移しています。人口減少によって総需要が縮小を続ける日本で金融緩和によるインフレ効果は限定的だからです。

2年以内で目標不達成なら辞めると明言した黒田日銀総裁がしどろもどろの言い訳を実施していますが、潔く辞任したらよいのではないかと思います。

企業業績の回復は「人件費を減らしたこと」と「為替による見せかけ」の複合現象

ここからが重要なのですが、アベノミクスの本質を知るにはドルベースで企業業績に注目するべきです。

2011-12年から日本企業のドルベースの売上は大幅に減少しているにも関わらず営業利益は横ばい・微減程度になっています。営業利益を維持できた主要因の一つはドルベースの人件費は2011-12年段階から2015年現在で約3分の2に減少しているからです。

円安によって円ベースの見かけ上の企業収益は改善していますが、ドルベースの実際の収益状況を見た場合の重要な一つの要素として人件費を減らしたことのインパクトは大きいです。

これが日本企業の実態であり、本当の日本の実体経済だと思います。人件費を削って利益を出しているので働く人の間で景気回復の実感が無くて当たり前です。

また、円安に推移している原因は金融緩和の影響もあるとは思いますが、経常黒字の内容の変化による構造問題が影響しております。海外資産からの所得収支の黒字を貿易赤字が侵食し始めていることに注目すべきです。むしろ、円安は金融政策だけではなく産業競争力の低下という日本経済の構造上の問題です。

従って、日本企業は付加価値の向上によって競争力を高めたわけではなく、コストカットと為替で収益を出している虚構の業績改善を達成しただけなので、企業が日本市場への再投資や賃金アップを実施しないことは必然なのです。

政府から企業への賃上げ要請は完全にお門違いの議論でしかない

アベノミクスは効果が無かったどころか、アベノミクス時代に行われたことは人件費の大幅な削減と為替の構造調整だけだったのです。

たしかに、株価は上がりましたが、それは世界経済の回復に日本経済も便乗したこと及び過剰な人件費を急激に削減して利益を維持したことを好感したものだと推測します。

株価の上昇の主要因は2012年末頃に実施された欧米の政策による世界同時株高の影響であり、日銀による株価上昇は2014年末の国債大量購入の発表によるものくらいのはずです。

そのため、安倍政権発足後の株価が上昇した理由をアベノミクスに求めることは明らかな間違いです。

現在、安倍政権は労働組合のように大企業らに対して賃金アップを政治力を用いて交渉していますが、アベノミクスで実質的な業績回復が実行されたわけではなく、あくまでも「人件費削減」と「為替効果」での業績改善であるため、企業側は政権に恩に着せられる覚えは全く無いはずです。

ただし、現政権のもう一つの柱であった財政支出によって利権に浴した企業群は、安倍政権への政治献金の増額を決定しています。これこそがアベノミクスの本質的な姿と言えるでしょう。まあ、一党支配状態の政権に政治献金の増額を求められたら断る気概がある経済人がいると思えませんが。。。

「大企業が儲けているのにトリクルダウンが起こらない」という認識が間違っている

アベノミクスでは、経済的に豊かになれる人から豊かになっていき、その後社会の隅々まで順番に豊かになる、というトリクルダウンが発生しない理由は明白になったと思います。

トリクルダウンが起きない理由は日本全体が豊かになっていなからです。ドルベースの日本のGDPも2013年以降には激減しており、日本の国際的な中での競争力自体も著しく低下しています。アベノミクスとは少なくなっていくパイの取り合いをしているだけなのです。

大企業であっても自衛を実行するだけで精一杯の状態であり、まして中小企業やそこで働く従業員にまでお金が回るわけがないのです。つまり、簡単に言うと、実体経済の状況は悪化しているのです。GDPが2期連続でマイナスに陥っているにも関わらず景気が良いわけがありません。

2009年リーマンショック後から安倍政権まで続く失業率の低下は、高齢化による労働量人口の減少と比較的賃金が安い福祉関連の就業者が増加したことが原因であり、少なくなった労働者向けのパイを薄く広く分け合ったに過ぎないのです。

このような状態になっている理由は、アベノミクスの2本目・3本目である財政政策と規制緩和政策が「ゴミ」のようなものだったからであり、さらには本当に必要な4本目の矢は議論すらロクにされなかったからです。

左派なら労働法制の強化などを打ち出すのでしょうが、上記で見てきたように問題は日本全体の経済停滞または衰退状態にあるため、本来は新しいパイを創り出していくことが必要です。

それらについても追々とりあげていこうと考えていますが、今回はここまでにしてきおきます。

戦後経済史
野口 悠紀雄
東洋経済新報社
2015-05-29




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yuyawatase at 12:35|PermalinkComments(0)