選挙
2015年12月22日
書籍紹介(2)「当確師」真山仁、選挙版・ハゲタカ!
「選挙版ハゲタカ」、全580回話の連載、市長選挙を描いた選挙小説の決定版
真山仁さんと言えば、NHKドラマとして大ヒットを記録した「ハゲタカ」の著者として知られています。ハゲタカは経済小説として緻密さ、アッと驚く展開、そして濃いキャラクターという3拍子揃った作品でした。
その真山氏が経済小説ではなく選挙小説の領域に「タカ」のごとく挑戦した作品が「当確師」です。選挙では一般的に「当確」とは選挙報道で開票直後に目にする「当選確実」報道のことを指しますが、その当確が確実に出るように選挙の帰趨を決めてしまう選挙プランナー「当確師」聖達磨が主人公の物語です。
「政治家が主人公ではない」という独特のキャラクター設定の政治小説
米国では選挙のプランニングは一般的に行われているものであり、世論調査、争点設計、組織整備、広報担当、WEB担当、その他諸々の専門家が協力して一つの選挙を組み上げていくことが一般的です。
日本では公職選挙法の不毛な壁によって民主主義が未成熟な段階にあるため、従来までは元秘書などの経験則によるインフォーマルな助言などが細々と行われている状態でした。しかし、現在では選挙プランナーの第一人者として有名な三浦博さんや若い腕利きのプランナーである松田馨さんのような方々も増えてきており、政治業界自体に新風が吹きこまれている環境にあります。
法整備の不足などから難しい問題があるため、実際の動きは限定的にならざるを得ないものの、政治活動に科学的な手法が浸透してきていることを喜ばしいことです。そして、そのような選挙プランナーの様々な側面をエンターテイメントとして描いた作品が本作となります。
テレビドラマ化される可能性もあるのでは?、「ハゲタカ」のスリリングな展開は健在
本作はテレビドラマ化される可能性もありそうと睨んでおります。それは読み物として非常にスリリングかつ「濃い」キャラクターの面々が登場するからです。「この役は誰がやるのかな」と思うとこも多々あり、配役を考えながら読み進めてみるのも面白いかもしれません。
個人的には「デモで民主主義は守れない」の売り文句に大いに賛意を示したいと思っています。民主主義とは投票してナンボの世界なので、その現実を真正面から描いた本作は、真山仁さんから国民への「民主主義とは何か」という問題提起とも言えるでしょう。
本作以降のシリーズ連載に向けて是非ともヒットしてほしい作品です。アマゾンや本屋さんで見かけたらぜひ手に取ってみてください。インパクトがある表紙が目印なので分かりやすいと思います。
yuyawatase at 21:37|Permalink│Comments(0)
2015年12月01日
日本に求められるハイレベルな選挙訓練学校
米国には民主主義を実践するために選挙技術を学ぶための訓練学校が存在している
米国では自由主義系の保守派の運動員を育てるための学校としてThe Leadership Instituteという訓練学校が存在しています。全米から集まった志ある運動員候補者たちが、米国のワシントン郊外に設置された同組織の施設の中で日々選挙技術や政治活動技術を伝播し、強力な草の根組織を創るための教育が行われています。
私自身もThe Leadership InstititeのCampaign Management Schoolを受講し、所謂選対の事務局長として知っておかねばならない基礎知識を学習できるプログラムを体験しました。本日は同メニューで受講できる内容、そして選挙の訓練学校が存在している意義について触れていきたいと思います。
米国の共和党保守派ではCampaign Management Schoolを修了したことは一つのステータスであり、同プログラム修了後には政治活動のスタッフとして様々な道が開かれることになります。
キャンペーン、資金調達、世論調査、WEBコミュニケーション、団体対策、ネガキャンなど多数のプログラム
受講者は施設が提供する地下ドミトリーで5日間寝起きする合宿環境の中に置かれて、朝9時~夕方5時までびっしり詰まった一日6プログラム程度を受講します。
まず、朝食から簡単なベーグルとリンゴを食べつつ、FOXニュースがつけっぱなしの環境という保守っぷり抜群な環境で過ごすことになります。ドミトリーではバスティアの「法」を読む人が多くイデオロギーの徹底ぶりが半端ではないです。
その後、1限が開始するのですが、初っ端の授業からネガキャンの打ち方からスタート、その後、スケジュール、個別訪問、電話作戦、資金調達、名簿管理、世論調査、WEB、団体対策、組織構築、選挙不正対策、予備選挙の戦い方、その他諸々の内容について1時間~1時間30分のコースを5日間ぶっ続けで受講します。
濃密な5日間を過ごすだけで、ちょっとした選挙マニアになることが可能です。内容としては、日本でも通用する内容であり、選挙に関する万国共通のノウハウであることが分かると思います。日本で現場で徒弟制度で叩き込まれる内容が洗練された教育コンテンツとして整理されているイメージです。
日本の各政党などが実施している偉い国会議員や有識者が出てきて自分の知っていることをしゃべるだけの内容とは異なる、そのまま実践に使うための知識が徹底的に詰め込まれることになります。
ちなみに、私の目の前に座っていた受講者同士でいつの間にかカップルが成立していたので、これだけのプログラムをこなしながら凄い猛者もいるものだと思った記憶があります。
自由主義を実現するためのハイレベルな選挙訓練学校の存在
日本の選挙事務所の徒弟制度では10年程度かかって覚える内容を僅か5日間に凝縮したプログラムは、日本の自由主義運動の担い手を短期で集中的に育てるために効率的な仕組みであり、民主主義の健全な発展のためにも意義があるものです。
日本の選挙教育のシステムは、政治活動や選挙活動の部外者による表面的なノウハウ提供がほとんどであり、本格的な教育を行う手法というものは十分に存在していません。そのため、本当に能力がある政治活動や選挙活動のスタッフを調達することが困難な環境があります。
また、日本には公職選挙法という馬鹿げた法律があるために、米国ほど民主主義への参加が容易ではなく、一般の有権者が選挙に関わる際には万が一の時のリスク教育をしっかりする必要があります。(それでもこの法律を廃止しない限りは冤罪が限りなく生まれ続けていくことになると思います)
政治活動と選挙に関わる人々の登竜門として、The Leadership Instutiteのような訓練学校への日本の社会的ニーズは明確に存在しています。志ある選挙コンサルタントの皆さまは自らの知識を体系化し、日本にこれらの学校を展開していく社会貢献の道を歩まれることを祈念します。
yuyawatase at 23:20|Permalink│Comments(0)
2015年11月24日
政権交代可能な『与党』を求める有権者(選挙のイロハ)
「政権交代可能な野党が必要」という認識が根本的に間違っている
最近の国政政局の状態を見ていると、本当にピントがずれた議論が野党内で議論されていることが分かります。それは「政権交代可能な野党を作る」という言説です。自分も何度も選挙に関わってきましたが、このような発言を行っている時点で「負け」が確定していることを知るべきだと思います。
「政権交代可能な野党」という言葉は誰にとって意味がある言葉でしょうか。これは現在野党に所属している議員たちにとって必要な言葉(つまり、自らのアイデンティティーの正当化のため)であって、有権者には一切関係が無い言葉です。
そのため、このような言葉を連呼されたところで、有権者の心と打算には響くわけもなく、現在の野党の何を言っても支持率が上がらない迷走状態が継続することになります。
有権者が望んでいるものは「政権交代可能な『与党』」である
政権交代とは野党が与党になるものであり、自らが野党と名乗っている集団を支持する有権者は多くないでしょう。一定のコアなファン層は取れるかもしれませんが、逆説的には「与党」としての意識・能力を見せることが無い限り、野党が大衆からの支持を獲得することは困難です。
現在の野党の最大の問題は、民主党政権の失敗の烙印の影響で、「与党としての能力がない」という認識を有権者にもたれていることにあります。その上、自ら「政権交代可能な野党」と連呼しているのだから支持率が上がるわけがないのです。
有権者が望んでいる政党は「与党の資格がある政党」であり野党の野合ではないということです。有権者は一定の信頼性がある与党に相乗りしたいのであって、勝つか負けるか分からず、しかも政権奪取後の運営が見えない勢力を勝たせることはしばらくないでしょう。
大阪ダブル選挙で「維新」が勝利した理由は「維新が与党」だったから
大阪ダブル選挙で勝利した理由は、現職の知事・市長を擁する勢力であり、なおかつ実質的には官邸との連携が垣間見える「実質的な与党であった」からです。これらの要素は有権者心理に深く影響を与えて、与党体質を持つ自民党の票は分裂し、公明党も自主投票を決定することになりました。
一方、大阪自民党は共産党と組んだことで野合という批判を受けましたが、野合自体は選挙における敗因ではありません。問題は共産党と組んだことによって「野党臭」が強まったことにあります。自民党支持者や一般有権者はあくまでも与党であることを好む環境にあるため、野党としての立ち位置を設定した時点で負けが確定してしまいました。(共産党の支持がダメで公明党の支持がOKな理由は「与党だから」という以外は特にないはずです。)
国政の大阪維新が躍進する単純な理由は「与党」として参加するから
国政においては、大阪維新を「与党の補完勢力」として糾弾する声もありますが、これらは返って逆効果になるものと思います。なぜなら、有権者は「自民党ではない新しい与党を望んでいる」からです。
つまり、現状の政権担当能力がない野党ではなく、政権担当能力がありながら自民ではない、という条件を兼ね揃えた与党こそが、潜在的な国民心理の中で望まれている政党の姿です。有権者は常に「与党」を求めているのであり、野党を求めていることなどないのです。
そのため、国政野党の戦略・戦術・言葉選びは基本的な選挙戦略が間違っており、自らの立ち位置を根本から見直すべきです。有権者から見れば「世間交代可能な野党」と「たしかな野党(共産党)」の間は国会議員が思っているほど違いはないのです。
yuyawatase at 17:00|Permalink│Comments(0)