財政出動

2016年06月01日

安倍演説から読み解く「衆議院解散総選挙」の可能性

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安倍首相の会期末演説から「衆議院解散」の可能性を読み解く

「本日、通常国会が閉会いたしました。」の一文で始めった安倍首相の会期末演説。(全文はこちら

非常に良く計算された文章によって構成されており、しっかりとしたスピーチライターと練りに練った内容だったように思われます。直前まで世論動向を踏まえて修正を繰り返したものであることも伝わってきました。そして、安倍首相の質疑への流暢な答弁から記者とのやり取りも事前の仕込みは万端であったことからも明らかです。

つまり、本演説は計算され尽した内容であるからこそ、筆者はその内容から「衆議院解散」の可能性を探ることができると考えています。

ちなみに、衆議院解散自体は参議院選挙の1か月前程度に臨時国会を召集して解散すれば良いだけなので、まだ十分に解散総選挙に至る道は留保された状態にあります。したがって、筆者は解散がある場合を想定し、以下安倍演説の読み解きをしていきます。

安倍首相が設定した「参議院議員選挙の争点」について

「1年半前、衆議院を解散するに当たって、まさにこの場所で、私は消費税率の10%への引き上げについて「再び延期することはない」とはっきりと断言いたしました」

「新しい判断(増税再延期)について、国政選挙であるこの参議院選挙を通して国民の信を問いたいと思います。 」

安倍首相は今回の参議院議員選挙の争点を上記のように設定しました。つまり、「消費税増税再延期の是非」「アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか」の2点ということになります。

前回の衆議院議員選挙で「消費税増税延期」については争点として問うていますので、同じ争点で衆議院を再解散することはできません。そのため、「消費税増税再延期を参議院で問う」という形式になるわけです。

つまり、あくまで消費税増税再延期は「参議院議員選挙の争点」であることが強調されています。ここは大きなポイントであり、仮に臨時国会を開いて衆議院解散を実行するなら「消費税増税再延期」は「衆議院議員選挙」の争点ではないということです。

すっぽりと抜け落ちたサミットで主張した「財政出動の具体策」の存在

「今こそ、アベノミクスのエンジンを最大に噴かし、こうしたリスクを振り払う、一気呵成に抜け出すためには脱出速度を最大限まで上げなければなりません。アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか。これが、来る参議院選挙の最大の争点であります。」

「しかしこの選挙で、しっかりと自民党、公明党の与党で過半数という国民の信任を得た上で、関連法案を秋の臨時国会に提出し、アベノミクスを一層加速させていく、その決意であります。 」

上記のように 安倍首相は演説と質疑応答で上記のように回答して「消費税増税再延期」とともに、アベノミクスの加速、そして財政出動を含めた関連法案の提出に言及しています。

つまり、サミットでも散々主張した財政出動については今回の演説では「まったく具体策が示されなかった」わけです。経済学者ヒアリング、サミット、会期末演説など消費税増税再延期に向けて周到な準備をしてきた政権としては些か拍子抜けの感があります。

あくまで上記は参議院議員選挙の文脈で語られていますが、本来は「財政出動の具体策」がここで示されて選挙に突入するのが当たり前の流れであるように思われます。しかし、消費税増税再延期=参議院議員選挙を印象付けることが狙いだと思うのですが、あえて何ら具体策への言及はありませんでした。


衆議院解散で問われるのは「アベノミクスを加速させる財政出動」ではないか

筆者が「衆議院解散の可能性が残っている」と思う理由は、まさに「財政出動の具体策が言及されていない」という一点に尽きます。

現状のままでは野党が設定した「アベノミクスは失敗した」という選挙争点が主流となる可能性が高く、安倍首相が主張する「アベノミクスを加速させるか否か」という争点に落ち着く可能性は低いと思われます。

これから選挙に突入するにも関わらず、財政政策の目玉となる具体策を何も打ち出さない、ことは考えれず、与党側が意図的に発表を留保しているのではないでしょうか。

筆者は与党が直近1週間程度で消費税増税再延期に伴なうネガティブなイメージを払拭するためのキャンペーンを実行した上で、「衆議院議員選挙の争点」として「財政出動の具体策」を打ち出す可能性があると想定しています。

このような流れを経ることで選挙争点を「アベノミクスは失敗したのか?」から「アベノミクスを加速させるか」に切り替えることが可能になるからです。

そして、野党は相変わらず批判するばかりで目を引く対案が無く、「巨額の財政出動」という餌がぶら下げられればひたすら「反対」を繰り返すばかりということになるのが目に浮かびます。

そう考えると、安倍首相が今回の演説で再三に渡ってアベノミクスの期間中の税収増に触れている点も怪しく、税収増の果実を巨額の財政出動に転用する、というロジック形成のための下準備ではないかと訝しくなります。

参議院議員選挙と衆議院議員選挙の「争点を切り分ける」というロジック

上記のように参議院議員選挙は「消費税増税再延期の是非」、衆議院議員選挙は「巨額の財政出動の是非」という形で切り分けることで、衆議院解散総選挙の大義を整えることが可能となります。

安倍首相は、質疑応答の中で、

「しかし、熊本地震の被災地ではいまだ多くの方々が避難生活を強いられている中において、参議院選挙を行うだけにおいても、その準備でも大変なご苦労をおかけをしているという状況であります。こうしたことなどを考慮いたしまして、同じく国政選挙である参議院選挙において、「国民の信を問いたい」と、このように判断したわけであります。」

「そして、私の任期は、18年の12月でなく9月まででありまして、この任期の間に、選挙をやるかどうか。今の段階では、解散の「か」の字もないということであります。」

ということで、熊本地震を理由としながら解散しないことを述べていますが、あくまで任期中の解散については同じセリフ「解散の「か」の字もない」を繰り返しているだけです。

しかし、重要な仕掛けをする際に表現がぶれることは最も避けるべきことであり、安倍首相の「同じセリフ」を繰り返す行為は官邸にとって重要な決め事だということが逆に伺い知ることができます。

一方、安倍首相は熊本震災については、

「世界経済は今大きなリスクに直面しています。しかし率直に申し上げて、現時点でリーマンショック級の事態は発生していない。それが事実であります。熊本地震を大震災級だとして、再延期の理由にするつもりももちろんありません。そうした政治利用は、ひたすら復興に向かって頑張っておられる皆さんに、大変失礼だと思います。 」

「こうした諸改革と合わせて、今なお地震が続く、熊本地震の被災者の皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、被災地のニーズをしっかりと踏まえつつ、本格的な復興対策を実施致します。」

と述べており、消費税増税再延期の理由にはしないが、本格的な復興対策のための予算を講じる旨が述べられており、イザとなれば「熊本復興に向けた巨額予算」を組み込む形で財政出動した場合に衆議院解散の大義は立つわけです。

上記のような観点から衆議院解散の可能性は十分に残されていると思いますが、現実はどのように推移していくでしょうか。まだまだ衆議院解散が無くなったと最終判断するには早計な状況と言えるでしょう。

自省録
中曽根 康弘
新潮社
2004-06-26


本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

 

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2015年12月07日

アベノミクスはモディノミクスを見習うべき(3本目の矢の飛ばし方)

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「消えた・アベノミクスの3本目の矢」 という真の改革

アベノミクスの3本の矢は、「金融緩和」(1本目)と「財政出動」(2本目)が放たれたまま、「規制緩和」(3本目)の矢は忘れ去られた状態となっています。

そして、新3本の矢として「GDP600兆円」「出生率1.8」「介護離職ゼロ」というバラマキと社会保障が新たに掲げられた結果、タックスイーターが予算取りに向けた陳情祭りを繰り広げています。

しかし、日本経済にとっては「3本目の矢」である規制緩和こそが最も重要な改革であり、これらが実施されない状態のままでは、円安による国富流出、財政出動による産業硬直化、のみが行われることになり、日本経済は更なる苦境に立たされることになります。

3本目の矢としての「規制の廃止」と「中央から地方へ」

規制緩和の中身としては国家戦略特区があるのかもしれませんが、一部の農業などの事例を除いて目を見張るようなものは見当たりません。そもそも日本再生に必要なものは全面的な「規制廃止」であり、規制緩和を一部分実行するような中途半端な改革ではありません。

もう一つ重要な視点として、経済政策の重点を「中央から地方」に移していくことが重要です。全国一律の規制・税制を施行している現在の国の制度は極めて非合理です。そのため、中央から地方に権限を移しつつ、所得税・法人税などの地方税化を実施して経済・雇用の責任を地方に移すべきです。

そして、地方自治体側で経済に関する規制廃止の競争を促進し、良いものに関しては国全体で採用・展開する状況を創り出すべきです。ポイントは地方に全て自発的に先行させて実施させることにあります。

「100規制廃止リスト」、インド・モディ政権が大統領選で用いた選挙キャンペーン

安倍政権には規制改革については何ら期待できないため、次回の参議院議員選挙では非自民政権側から2つのリストを提出して選挙争点を創り出していくべきだと思います。

(1)100規制廃止リスト(中央省庁で廃止すべき法律の規制100個の公表)
(2) 100事業移譲リスト(中央省庁から地方自治体に移譲する規制100個の公表)

です。つまり、どの規制を廃止・移譲するのかということを明示して選挙を戦うということになります。そうすることで、初めて「失われた3本目の矢」の形が国民に見える形ではっきりするのです。

ちなみに、不要な法律を100個廃止する、というアイディアはインドのモディ政権が選挙キャンペーン(Repeal of 100 laws Act)で用いた手法であり、その選挙でモディ率いる人民行動党は圧勝することになりました。

これらの規制廃止・規制移譲をリスト化するためには、非自民政権側は「政策のための調査・研究」にまともに予算をかける必要が出てきます。これらは普段は政治活動・選挙活動にしか使われていない、政党助成金の正しい使い方なので是非とも実行したら良いと思います。

これらのリストが出揃ったとき、国民は真の改革ができる政党はいずれか、ということを明確に認識することでしょう。そして、これが作れないなら所詮は政党助成金漬けの公務員政党ということであり、国民生活とは乖離した政党ということになります。

来年の参議院議員選挙までにいずれかの政党が同様のリストを創れるかどうか見物です。



 

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