討論会
2016年07月25日
ニコニコ討論会、政策に切り込む上杉砲が炸裂した
(鳥越俊太郎氏が欠席する中で各候補者の激論が交わされました)
後半戦に入って安定のメンバー、上杉隆氏の戦闘能力の高さというイレギュラー発生
増田氏、山口氏、小池氏、上杉氏、中川氏の5名がニコニコ候補者ネット討論会を拝聴させて頂きました。
各人が非常に具体性に富む意見を述べており、非常に見応えがある内容になったものと思います。選挙戦も後半に差し掛かってきており、増田氏・小池氏はメディアで報道されている通りの安定した内容語りでした。中川氏についても自論の市町村への分権が炸裂して面白かったです。(討論詳細に興味がある人はこちらをどうぞ)
筆者の所感では今回の討論会で最もポイントが高かった討論者は上杉隆氏です。具体的な財源や数字に基づく論理構成で鋭く突く議論を展開、特に地方法人特別税に関する増田氏とのやり取りは都民の怒りがそのまま上杉氏による怒りとして乗り移ったように見えました。
増田氏の議論自体は悪くなかったが、それ以上に上杉隆氏の頑張りに都民として共感した
途中から何故か司会者が増田氏を庇わなければならないほどに岩手時代・総務大臣時代の実績を巡ってフルボッコ状態の討論会でしたが、その中で増田氏も行政経験者としてつつがなく対応していたように思います。
その中で上杉隆氏の討論が最も鋭かったポイントは、毎年約2000億円の地方法人特別税廃止後にその代替財源として決まっている東京都の法人住民税・毎年約3200億円の地方への巨額の移転についての賛否を増田氏に追及した点です。
むろん、東京都知事としての賛否なのだから国会で決めたことだという答弁に意味がないと思います。したがって、この仕組みに対して明確に反対を述べることが都民の税金を守るということになります。
なぜなら、この東京都からの法人住民税の地方への巨額移転を止めることができれば、介護・保育そのための予算を捻出することは容易だからです。上杉氏が指摘したように都内の介護士の月収10万円上げても110億円で済むことから、この法人住民税の移転への賛否こそが東京都民のために働ける人かどうかのメルクマールになるのです。
この廃止に賛成であれば増田氏も十分に東京都民の味方なのでしっかりと答えてほしかったです。(司会も含めてウヤムヤにされてしまいましたが・・・)
「東京に恩返ししたい」という上杉氏の当たり前の主張が素晴らしく見える異常事態
ちなみに、司会者が地方法人特別税は増田氏の責任ではないという擁護をし、増田氏もそれに対して「違います」と同意していましたが、自分が在職時の政策決定の責任を取りたくないなら総務大臣職を引き受けなければ良く、有権者に対して責任を負う決定を行う政治家の理屈として根本的に間違っています。
また、増田氏が借金の原因として述べていた整備新幹線の県負担は約950億円、県立大学は450億円超で、増田県政時代に積み上げられた借金約6000億円の約25%に過ぎず、それによって県の借金が積みあがった主要因とすることは無理があることも付記しておきます。
自分も増田氏にあまり言及したい訳ではないのですが、質問への答弁が気になる点が多すぎて仕方がありません。
それにしても、今回の都知事選挙に出馬している様々な候補者の中で、まともに政策議論ができる人が出てきて言いたいことを全部言ってくれたことに感謝したいです。正直ほとんど誰も都政に興味が無いんじゃないかと錯覚しそうな勢いだったので・・・。
上杉氏の参入(最初から参入していたんだが・・・)によって、政策論争がやっと熱くなってきました。東京都に恩返ししたいという出馬動機も本当に血が通った熱気を感じるものであり、今回の候補者らにもっとも欠けているものを持った人物が現れた形です。
討論企画を上杉隆氏込みで毎日続けていくことで本当の問題が分かると思う
今回の東京都知事選挙では上杉氏が討論会に参加できる機会はもうほとんど無いと思うのですが、東京都のことを真剣に考えられて政策の勉強もされていることが良く分かりました。
政策内容としては2・3日程度の付け焼刃ではなく、じっくりと練りこまれたものであることが傍から見ていても分かります。本来であればこのような候補者を会場に招いて議論することが当然であり、従来までの有力な討論者の一部が来ないからといって討論会自体を止めてしまうテレビ番組の在り方などは報道陣としての見識が問われるものと思います。
個人的には上杉隆氏を含める形で毎日討論会を開催していただくことで、東京都民が現在の東京の何が問題なのか、ということをしっかりと理解できることになると思います。上杉氏の今後の活躍にも期待しています。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
yuyawatase at 02:58|Permalink│Comments(0)
2016年01月30日
ドナルド・トランプがFOXの討論会を欠席した理由
ドナルド・トランプ氏がアイオワ州党員集会直前のFOXのTV討論会を欠席
ドナルド・トランプ氏がアイオワ州共和党党員集会直前のFOX主催のTV討論会を欠席しました。
欠席の公式理由としてFOXニュースのアナウンサーから不当な扱いを受けたことなどを挙げており、討論会場から僅か3マイル離れた場所で同時刻に退役軍人のための非営利団体向けの集会を開催しました。
トランプ氏の欠席の理由を説明することを求められた場合、手堅く話すなら上記の経緯に触れた上で適当にトランプ氏の姿勢をディスっておけば良いでしょう。大学の先生やシンクタンクの研究者の説明なら大体そんな感じで安牌ということになります。
しかし、それではトランプ氏の討論会欠席の説明にはなっても分析にはならないので、筆者は選挙戦略上の定石という観点からトランプ氏の真の意図を深堀していきたいと思います。トランプ氏の行動は突拍子もないものに見えますが、彼の行動は常に選挙戦略上の理にかなったものだからです。
<過去記事>*トランプ・サンダース台頭、ブッシュ・カーソン失速、マルコルビオ台頭を予測解説
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙(11月6日)
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?(12月8日)
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(12月11日)
ドナルド・トランプ共和党予備選勝利宣言としての「健康診断書」(12月16日)
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現在のトランプ氏の支持率トップは薄氷の上のものでしかない、という事実
予備選挙初戦が予定されているアイオワ州でのトランプ氏の2位クルーズ氏との直近の支持率差は、1月29日現在の世論調査の数字では大よそ8ポイント以内という状況になっています。
これはトランプ氏がクルーズ氏に負ける可能性が十分にあることを示す数字です。アイオワ州は前回の2012年の予備選挙当時、トップを走っていたロムニー氏に対して2位サントラム氏が約6ポイントのビハインドを詰めて差し切った経緯があります。
アイオワ州は伝統的に徹底的な地域密着戦略が功を奏しやすい環境があり、クルーズ氏は年明けから同州での活動に積極的に注力してきました。また、彼を支えるキリスト教福音派もアイオワ州での集票に向けてフル稼働するものと考えられます。保守派の強烈なイデオローグであるグレン・ベック氏からクルーズ氏へのエンドースメントも大きなインパクトをもたらすでしょう。
それに対してトランプ氏は大味のメディア戦略を中心としたキャンペーンを展開しており、最終的な運動力の差でアイオワ州で逆転負け、その後トップランナーとしての地位を失う可能性すらあります。トランプ氏はメディアを牛耳る主流派と保守派を支える草の根団体からの支持が弱く、本来であれば同州内で綿密に展開するべき足を使った選挙戦を展開できていないように見えます。
実際、トランプ氏は支持率トップではありますが、非トランプの他候補者らのポイントを合計すると、トランプ氏の支持率を上回る状況にあります。現状の支持率トップはトランプ氏の巧みなメディア戦略によって支えられたものであり、選挙の足腰まで含めた陣営の底力を加味すると薄氷の上の優位でしかないと言えます。
トランプ氏の勝利は、トランプVSその他大勢、という構図を作ることで達成される
そこで、トランプ氏が打った奇策が「FOXのTV討論会欠席」という一手でした。選挙戦略における定石は、当選1名の選挙で複数の候補者が立った場合は「自分VSその他」という構図を作ることにあります。
自らが常に話題の中心となるように演出して、他の候補者を自らの存在を彩る脇役の地位に甘んじさせる、というやり方は極めて有効な戦術であり、日本国内の選挙でも良く見られる手法と言えるでしょう。
今回、トランプ氏は「討論会を欠席」した上で討論会場の間近で「自らの集会」を開いて見せることで、他の候補者がトランプ氏と同じ土俵に乗ることを拒否しました。その結果として各候補者は自らのPRを行う機会を得るとともに、出席した候補者同士が十分に互いを攻撃する機会を得ることが出来ました。
しかし、メディアの話題の中心はトランプ氏であり続けたことは間違いありません。他候補者を討論会上に置き去りにすることで、トランプ氏を頭一つ抜けた存在として視聴者に意識させつつ、他候補者を2位以下の候補者としてグルーピングすることに成功しました。
そして、案の定、討論会では2位のテッド・クルーズ氏と3位のマルコ・ルビオ氏が潰しあいを演じたこと、両氏ともに過去の自らの発言と現在の主張の整合性が問われる状況に陥ったことで、2位以下候補者の支持者の票はトランプ以外の候補者に広く分散したものと推測されます。
トランプ氏にとっては、トランプ氏に対抗できる2位候補者(現時点ではテッド・クルーズ氏)の支持率が減少することが最も望ましい成果であり、自分自身の不在というリスキーな選択肢を採用しつつも、選挙戦略上の目的を一定程度達成できたものと思われます。
トランプ氏のメディア戦略を通じた構図づくりの巧みさは目を見張るものがあり、既存の枠組みに捉われない圧倒的な存在感を発揮し続けています。
今後の展開を左右するアイオワ州・ニューハンプシャー州の結果に注目したい
現在まで濫立した候補者が撤退しない理由は、ベン・カーソン氏の撤退待ち、をしているからでしょう。ベン・カーソン氏は一時は支持率トップにまでなりましたが、保守派候補者の通例通りに主流派メディアのキャンペーンを食らって現在は支持率を大きく落としています。
残念ながら、ベン・カーソン氏が現在の位置から再浮上することは困難であり、彼が有する支持率(10ポイント弱)がいずれに候補者に流れるのか、ということは予備選挙の構図を左右する極めて重要なファクターになるでしょう。現在、トランプ氏、クルーズ氏、ルビオ氏の3者以外の泡沫化している候補者であっても、ベン・カーソン氏の撤退時の支持表明を受けることができれば、一気に2・3位争いの有力候補に浮上できるからです。
したがって、アイオワ州・ニューハンプシャー州の結果を受けて、誰がどのタイミングで撤退していくのか、そして撤退する候補者が誰を支持するのか、という点に今後は注目を絞っていきます。
共和党の大統領候補者を選ぶ予備選挙は佳境を迎えてきています。テッド・クルーズ氏もマルコ・ルビオ氏も十分に魅力的な候補者であり、彼らに対してトランプ氏のメディア戦略はどこまで通用し続けるのでしょうか。
アイオワ州の党員集会は各候補者が鎬を削るギリギリの戦いとなっており、米国の未来を左右する同州の投票結果の重要性が増しています。
yuyawatase at 08:00|Permalink│Comments(0)