茶会
2016年02月02日
アイオワ州党員集会・テッド・クルーズ勝利、今後の展開は・・・
アイオワ州党員集会でテッド・クルーズの勝利、トランプは2位、ルビオは3位
テッド・クルーズ氏が共和党アイオワ州党員集会でトランプ氏を差し切って得票率1位を獲得しました。直前の世論調査で両者の差はトランプ氏の1ポイントリードという状況であり、保守派が多いアイオワ州で運動力があるクルーズ氏が3ポイント程度の僅差で勝利したことは妥当またはトランプ氏にやや苦戦したと評価すべきでしょう。
クルーズ氏の勝利によって州内99群を網羅的に行脚する2012年にサントラムが実践した地域密着型の選挙手法の有効性が再び証明されたことになります。保守派に属する、キリスト教福音派、Tea Party Patriotsら茶会運動、National Review誌やグレン・ベックら保守派著名人などが直前期に支持を表明したことも大きなインパクトを与えたものと推測されます。
ドナルド・トランプ氏は下馬評の支持率1位から陥落し、実際の得票率では2位の立場に甘んじることになりました。しかし、同州でボランティアを動員した地上戦をほとんど展開していないにもかかわらず、約4分の1の得票率を獲得したことでトランプ氏の影響力が共和党内で無視できないものであることを改めて立証しました。
今回のアイオワ州党員集会で最も注目すべきことは、得票率3位のマルコ・ルビオ氏が予想以上に高い数字を獲得したことです。アイオワ州はキリスト教福音派などの社会的保守派の影響力が非常に強い地域であり、マルコ・ルビオ氏が比較的苦手とする有権者層が多数を占める地域です。それにも関わらず、1位クルーズ・2位トランプと比べても遜色ない支持を獲得したことは大きな意味があります。
昨年から一部の日本人有識者の間で有力視されてきたブッシュ氏は全く振るいませんでした。彼らがブッシュ推しをいつの間にか撤回してルビオ推しになっている風見鶏ぶりには甚だ呆れます。今後ブッシュ氏は撤退に向けた調整を行っていくことになるでしょう。
「アイオワを制した者は、ニューハンプシャーを制することはできない?」のジンクス
クルーズ氏は年明けから選挙運動のリソースをアイオワ州に集中投下してきました。アイオワ州での1位獲得はクルーズ氏の生命線であり、クルーズ陣営の立案した作戦は功を奏したと言えるでしょう。
今後の予備選挙の舞台は第2ラウンドのニューハンプシャー州予備選挙に移ります。
保守派が多いアイオワ州・リベラルが多いニューハンプシャー州では有権者の投票傾向が大きく異なります。そのため、アイオワ州での勝者であるクルーズもニューハンプシャー州の世論調査ではあまり振るっていない状況です。
近年ではアイオワ州とニューハンプシャー州の両方で1位を獲得せずに予備選挙で勝利した人物は民主党のビル・クリントン元大統領のみとなっています。共和党候補者ではアイオワ州とニューハンプシャー州の両方を落として予備選挙を勝ち抜いた人物はほぼ皆無です。
そのため、トランプ氏とルビオ氏はニューハンプシャー州における2枚目の切符の獲得競争に力を注ぐことになります。号砲が打ち鳴らされた共和党の予備選挙レースは激しさを増すばかりです。
メディアによるバッシングは、テッド・クルーズ氏に集中することになるだろう
クルーズ氏がアイオワ州で得票率1位を獲得したことで、今後はトランプ・バッシングに尽力してきた主流派メディアによるクルーズへのネガキャンの集中砲火が始まるものと予想します。
元々米国の主流派メディアはクルーズ氏が属する保守派陣営に対して厳しい姿勢を取り続ける傾向があり、今回の予備選挙でもトランプ氏の支持率を一時的に抜いたベン・カーソン氏を自伝中のエピソードの嘘疑惑などによって瞬殺した経緯があります。
カーソン氏の支持率急落後はトランプ氏が全米支持率でトップであり続けたので、クルーズ氏は保守派であるにも関わらず、主流派メディアのネガティブキャンペーンの対象になりにくい環境優位を享受してきました。しかし、アイオワ州党員集会で得票率トップを記録したことで、今後はトランプ氏に代わる共和党からの指名に最も近い保守派候補者としてメディアによるバッシングが本格化するものと思われます。
クルーズ氏がカーソン氏やトランプ氏に行われたような激しい攻撃に耐えられるか否かは不明であり、クルーズ氏の選挙の強さに対する真価は「ここ」から問われる事になります。
主流派のマルコ・ルビオの追撃、クルーズとトランプがどのように対抗していくのか
冒頭でも触れた通り、トランプ氏とクルーズ氏の順位についてはそれほど驚きはありませんでした。最も大きな衝撃は、主流派候補者であるマルコ・ルビオ氏が保守派が多いアイオワ州で極めて高い支持を得たことです。
そのため、マルコ・ルビオ氏に対する主流派の期待が一気に高まることで同氏の支持率が大幅に上昇していくことが予測されます。現在までのニューハンプシャー州の世論調査で、ケーシック、ブッシュ、クリスティー、ルビオで割れている主流派の支持率がルビオ氏に集約されていく可能性があります。
一方、昨日までの世論調査では、トランプ氏はニューハンプシャー州において圧倒的にリードしています。トランプ陣営は元々アイオワ州はほとんど重視しておらず、最初からニューハンプシャー州での勝利に重点を置いています。ただし、アイオワ州で勝利を逃したことで期待値の剥離がどこまで進むかは予想が出来ません。トランプ支持者はトランプ氏への忠誠度が高い傾向がありますが、初戦で躓いた中で勢いを維持できるかどうかがポイントとなります。
また、クルーズ氏は、ニューハンプシャー州での連勝にこだわる必要はないので、同州では保守派候補者の中で最上位の地位をキープするだけで良いと思われます。クルーズ陣営はアイオワ州での手堅い選挙戦略から推察するに、次回の選挙戦略上の力点は保守派が多いサウスカロライナ州での勝利ということになるでしょう。
したがって、第二戦のニューハンプシャーはトランプVSルビオら主流派という構図になるかと思われます。トランプ氏は保守派や主流派と彼らの得意とする州でその都度正面衝突することになり、なかなかハードな選挙対応を強いられていると言えるでしょう。
アイオワ州での結果を受けて、トランプ、クルーズ、ルビオの3つ巴の戦いはしばらく続くことになりそうです。今回のトランプ首位陥落によって米国大統領選挙は更に面白い展開になってきました。
yuyawatase at 16:04|Permalink│Comments(0)
2016年01月31日
日本の政治にも「和製のテッド・クルーズ」の誕生を!
共和党大統領予備選挙候補者「テッド・クルーズ」とは何者なのか?
今回の記事は米国大統領選挙の選挙戦略の話ではなく、現在共和党予備選挙で議論されている視点が「なぜ、日本の政治にとっても大事なのか」という政策的な観点から内容をまとめてみました。そのため、今回の記事はトランプ氏ではなく、現在2位のテッド・クルーズ氏のビジョンと主張について触れていきます。
2012年テキサス州ダラス、筆者はFREEPACという全米の保守派集会に日本からの来賓として招待されました。同イベントには全米から10万人近い保守派運動家が結集しており、テキサスの大地が米国保守派の聖地と化した瞬間でした。
その際、尋常ではない数の共和党保守派運動員がプラカードを掲げて支援していた人物がテッド・クルーズ氏です。数万人の支持者が密集する会場の中でテッド・クルーズ氏は大歓声で迎えられていました。そのため、彼は筆者のテキサス訪問時において最も印象に残っていた人物となりました。
テッド・クルーズ氏は、キューバ移民の父と米国人の母を持つ人物であるとともに、茶会系の保守派議員として知られています。そして、小さな政府と社会的保守派の価値観を持ちながら、ウィンストン大学やハーバードロースクールで優秀な成績を修めたピカピカのエリート法曹でもあります。(奥さんはGSの管理職を務めているセレブな家庭です。)
米国の大衆と同一の価値観を持ちながら煌びやかな経歴を持つテッド・クルーズ氏。現在、彼はトランプ氏に対抗する2位候補者として激しい首位争いのデッドヒートを繰り広げている状態です。
<過去記事>*トランプ・サンダース台頭、ブッシュ・カーソン失速、マルコルビオ台頭を予測解説
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第7回共和党候補者討論会で見せた「知見」と「能力」について
ドナルド・トランプ氏が欠席戦術に出た1月28日の第7回候補者討論会において、テッド・クルーズ氏はトランプ氏に対して選挙の構図上の不利を背負ったものの、非常に見事なディベートを展開することに成功しました。
実際の支持率の変化については別の要因が働くことになると思いますが、日本に必要な「政策的視点」をテッド・クルーズ氏が提供していたために紹介したいと思います。
テッド・クルーズ氏は「エタノールに対する補助金の廃止」を主張しており、トランプ氏によって同主張がテキサスの石油産業の傀儡だからであると叩かれてきていました。
共和党保守派は伝統的に補助金などの政府支出に懐疑的であるため、テッド・クルーズ氏の主張自体はおかしなものではありません。しかし、初戦のアイオワ州は農業が盛んであることからエタノール利権も多いために、政治的に難しい立場に立たされている状況でした。
テッド・クルーズ氏は自身の見解への批判に対して「エタノールへの補助金を廃止する代わりに、エタノールの燃料への上限規制を取り払うことなどの規制緩和を通じて、エタノール市場を60%増加させることができる」と反論しました。
上記の発言をアイオワ州民が信じたかどうかは別として、テッド・クルーズ氏が行ったことは政治的な信念と勇気が必要なことです。同発言を通じて、補助金ではなく規制緩和による産業活性化を目指す、という彼の政治姿勢が更に鮮明になったと言えるでしょう。
日本の政治家に求められる「和製のテッド・クルーズ」の誕生
日本の政治家に「特定産業の補助金を廃止&規制緩和による成長ビジョン・具体策」を堂々と有権者に対して語ることができる知見と能力を持った人物がいるでしょうか。おそらく存在していないと思います。
したがって、日本では旧態依然とした既得権が蔓延り、新産業の芽が摘まれ続けている状況が発生しています。「民泊の解禁」という名称の既存の業界団体に配慮した実質的な規制強化など、その最たる事例として挙げることができると思います。
現在、日本に求められている政治家は「和製のテッド・クルーズ」である、ということができるでしょう。ドナルド・トランプ氏の政策は過激なように見えて、現状維持的な保護主義的な政策も意外と含まれており、実はテッド・クルーズ氏が大統領候補者に選ばれるほうが「日本に新たな政策的視点をもたらす」という意味ではインパクトが大きいものと思います。
ちなみに、日本のメディアでテッド・クルーズ氏がほとんど紹介されない理由は、上記のような思想が日本に持ち込まれると困る人々が米国通として蔓延っている日本の病巣を端的に象徴しているものと言えるでしょう。
共和党大統領予備選挙はいよいよ2月1日に最初の党員集会を迎えますが、日本の政治家には「テッド・クルーズ氏のビジョン・政策」にもぜひ注目してほしいものです。
yuyawatase at 08:00|Permalink│Comments(0)
2015年11月17日
ティーパーティー(茶会)に外交戦略は存在しないのか?
先日の続きで、日本の米国通とされる国会議員があまり良く理解できていないことについて、ティーパ―ティーら米国保守派の外交についての考え方を考えてみたいと思います。
米国保守派に「外交戦略は無い」という話は本当か
日本の国会議員からティーパーティーや米国保守派には外交戦略と呼べるような大戦略が無いのではないか、という質問を度々受けることがあります。特に外交安全保障に詳しいとされる議員は同様の理解をしているようです。
たしかに、ネオコンらの保守派の中のタカ派はともかくとして、一般的にティーパーティーやドメスティックな保守派が外交戦略についてあまり語らない傾向はあります。
しかし、彼らが外交戦略を持っていないとすることは短絡的で早計な理解だと思います。むしろ、彼らからあまり外交戦略が語られない点に注目し、米国保守派の政治理念が実現されていく過程で米国外交や安保政策がどうなるのか、ということについて考察することが重要です。
保守派が政権を取った場合に何が起きるのかを考えるべき
軍産複合体と結びついた一部の人々以外の保守派が掲げる政策理念は「小さな政府」です。
そのため、保守派の基本的な方向としては対外政策に関してはよほどクリティカルなもの以外は干渉を最小限にするという発想になると思います。
既に世界的な多極化の進展によって国際情勢の不安定性は増加していく傾向にあります。米国内では海外に徒に干渉するよりは国内の発展・繁栄に集中するべきという言論が力をもつ可能性があります。
特に、今年5月に著名な外交ストラテジストであるイアン・ブレマーの「Super Power」の中で、(1)「特別な存在としてのアメリカ(Indispensable America)」、(2)「利益優先のアメリカ(Moneyball America)」、(3)「独立したアメリカ(Independent America)」という3つの選択肢が示されたことに注目するべきです。
(1)は世界の警察の継続、(2)は利益に基づく選択的関与への転換、(3)は外国への干渉を最低限に留めて国内の繁栄に努める、というものです。個人的には外交政策の権威の著作の中で(3)の選択肢が重視されていることに少々驚きを覚えました。
しかし、実はこれは米国保守派の「小さな政府」による繁栄という発想、米国の伝統的なスタイルへの回帰という意味では現在米国内で蔓延する空気感との整合性があると感じています。(中東に地上軍を派遣すべし、という強硬な意見も存在しているが)
米国は自国に資源を集中することで自由主義・民主主義による繁栄を謳歌し、軍事力を使わなくても米国の魅力を海外の人々が自然と感じるようになる、という選択肢が現実に議論の俎上に上がってきているのです。
日本が準備しておくべき外交戦略とは何か
米国の外交政策について、日本の国会議員や有識者らはせいぜい(1)や(2)のレベルしか想定しておらず、米国が(3)の道に行くことについて、「薄々感じていても信じたくない」未来だと思います。今夏に制定された安保法制は米国が自国優先の姿勢に転換しないよう、(2)の観点に立って日本側が米国の関与を引き出すべく努力したものだと思います。
しかし、外交戦略はあらゆる選択肢の中を考慮した上で構築されていくべきです。米国が「世界における軍事力・経済力などのハードパワーにおける存在感を低下させつつ、自国の自由主義・民主主義による繁栄を世界に対して示す」という従来以上のソフトパワー重視の戦略に移行する場合、日本も同戦略に対応を迫られることになるでしょう。
日本はアジアにおける最大の経済力を持つ自由主義・民主主義国であり、これらの魅力を最大限に発揮できる方向に舵を切る必要があります。すなわち、日本も小さな政府を実現して国民の生命・財産を守る確固たる意志を示し、更なる経済成長を実現していくことで中国などの全体主義国に対するアジアの自由主義・民主主義としての中心地としての魅力を強化するべきです。
強力な経済・確かな価値観を持つことは外交・安全保障について基本であり、米国保守派が米国で主張することと同様に、日本も経済・社会の構造改革を断行することが望まれます。
yuyawatase at 12:00|Permalink│Comments(0)
2015年11月16日
〇〇議員、ティーパーティー(茶会)は景気を悪化させません
日本の国会議員と話していると、米国のティーパ―ティー(茶会)に対するヘンテコな誤解が蔓延していることに気が付きます。それはティーパ―ティーが財政再建至上主義であり、景気を悪化させる存在だという誤解です。
ティーパ―ティーを誤解している国会議員たち
一体誰に吹き込まれたのかは不明ですが、我が国の国会議員にはティーパーティーが「小さな政府」=「財政再建」=「景気悪化」という印象操作の図式が刷り込まれている方が多すぎるように感じます。
例えば、私がある国会議員主催の勉強会での講師を務めた際に、参加者の国会議員の一人が「ティーパーティーは財政再建至上主義だから景気回復を求める自分とは違う」と質問の中で発言してきました。
その時は「この人はティーパーティーについてあまり良く知らずに発言しているのだろうな」と聞き流したのですが、他にも国会議員で誤った理解をしている人に、何人も出会うようになって、これは何かおかしいぞと思うようになりました。
ティーパーティーが求めている政策の原則
たしかに、ティーパーティーは「財政規律」を求めています。しかし、ここで注意しなければならないのは、彼らが主張している「財政規律」の文脈は我が国のものとは全く異なるということです。日本における「財政規律」は財務省的による「増税」が必要だという文脈ですが、米国における「財政規律」とは「政府支出カット」と「減税政策」を意味しているのです。
米国のティーパーティーでは政府規模の縮小自体がテーマであり、政府支出カットと減税政策を実行することがセットになっています。日本では財政政策の選択として「増税」と「予算バラマキ」のセットだけのため、「減税」と「政府支出カット」という発想自体が無いことも理解を難しくしているのかもしれません。
つまり、米国のティーパーティーは「財政再建」というよりも「財政縮小」を目指していると理解することが正しいのです。そして、その過程で大規模な減税政策が実行されていくことで、民間の消費と投資が誘発されて景気は回復していくという論理です。
国会議員に誤った理解を吹き込んだのは誰か?を推測する
上記の国会議員の方々は基本的に米国通を自認されている方が多かった印象があります。しかし、残念ながらティーパーティーについて正しく理解しているとは言い難いものでした。そのレベルは米国の民主党員にも劣る理解でしょう。このような誤解が発生する理由は、彼らが米国の共和党穏健派または民主党と付き合いがある研究者のみと付き合っているからだと思います。
彼らは米国のティーパーティーら保守派についてかなり歪曲した世界観を日本に持ち帰ってくる傾向があります。
たしかに、戦後から現在までの対米関係であれば穏健派視点の偏った情報のみが輸入されても日米関係や日本社会に現実的な問題は生じなかったのでしょう。
たしかに、戦後から現在までの対米関係であれば穏健派視点の偏った情報のみが輸入されても日米関係や日本社会に現実的な問題は生じなかったのでしょう。
しかし、米国共和党内で保守派の力が強まっている昨今、仮にも米国通を自認する国会議員が相当のバイアスがかかった状態でいることは、日本の安全保障や社会構想を考える上で大きな問題だと思います。米国保守派とのパイプを整備して最大の同盟国である米国の動向を常に察知することの重要性は日々高まっています。
yuyawatase at 21:00|Permalink│Comments(0)
2015年10月30日
米国共和党式!「小さな政府」を創る6つの仕組みとは
米国共和党の大統領予備選挙で各候補者の熾烈な戦いが続いています。今回は台風の目としてドナルド・トランプ氏が注目されていますが、共和党の予備選挙は穏健派と保守派の2つの派閥の闘争として分析することが可能です。そして、保守派を支える政治闘争のシステムを理解して輸入することは、日本において小さな政府を目指す人々にとっては重要なことです。
表舞台で注目されるようになった保守派
共和党内部では社会保障政策などで民主党に近い穏健派と小さな政府を信条的・政策的に追求する保守派に分かれています。これらの対立の歴史はかなり古い歴史を持っていますが、歴史的には穏健派の勝利という政治情勢が続いてきました。そして、労働組合などの利権団体による動員マシーンを背景とする民主党による連邦議会も戦後の長期間の支配が続いてきました。
しかし、1994年になると共和党保守派が民主党及び共和党内の穏健派を倒すための体制を構築し、連邦議会における民主党支配を覆すことに成功しました。そして、共和党の本来の政治的な主張である「小さな政府」を金科玉条に掲げる政治勢力が政局の表舞台で注目されることになりました。保守派は民主党や共和党穏健派を凌駕する動員力、政策力、資金力を確立し、現在の連邦議会で大きな力を持っています。
米国共和党式!保守派の「小さな政府」を創る6つの仕組み
私見では、保守派を支える政治闘争のシステムは、極めてシステマチックに構築されています。代表的な事例としては、(1)保守派の大方針や大統領候補者を実質的に決定する意思決定としての保守派の年次総会(CPAC:Conservative Political Action Conference)、(2)ワシントンにおける日常的な保守派の動き司令塔となる定期会議(全米税制改革協議会主催のWednesday Meeting)、(3)保守派の運動員を育てる訓練機関(The Leadership Institute)、(4)保守派の政策立案を担うシンクタンク(ヘリテージ財団など)、(5)保守派の主張を伝えるメディアやメディア監視団体(フォックスニュースやMedia Research Center)、(6)保守派の価値観を教育する草の根組織(Tea PartyやFreedom Works)など、その他多様な能力を持つ組織が存在し、多くの仕組みが分散的・有機的に結合した巨大な運動ネットワークとして機能しています。
大統領候補者や連邦議員から政策的な言質を引き出すとともに、彼らを国政の場に送り出すための力強い運動が展開されて、減税や規制改革の政策が次々に提供される仕組みには目を見張るものがあります。
日本で旧来の米国通の識者が保守派を紹介するとき、これらの識者は穏健派との繋がりが深い傾向があり、故意に矮小化された保守派のイメージ(保守派は極端な主張を述べているという類のレッテル貼り)が伝えられることが多く、保守派の優れたネットワークの有機的な結合についての全体感が語られることは少ない印象を受けます。
そのため、本来、日本の「小さな政府」を求める政治勢力にとって必要な「米国の保守派の政治闘争のシステム」の輸入という貴重な機会が失われています。
共和党予備選で注目すべきポイント
日本の政治状況は自民党及び官僚による支配が継続しており、彼らが生み出し続けている巨額の政府債務と張り巡らされた規制制度が未来への希望を閉ざしています。しかし、依然として小さな政府を求める政治勢力の力は弱く、「大きな政府」と「更に大きな政府」を求める政治勢力による不毛な政争が続けられています。
「小さな政府」を掲げる政治勢力を代表する政党が誕生し、責任ある二大政党政治を創り上げるためには、政党や政治家だけではなく、周辺の政治闘争のためのシステムを構築することが必要不可欠です。
共和党の大統領予備選挙に注目が集まる中で、候補者同士戦いの背景で動いている米国の保守派の政治闘争のシステムについて、より多くの日本国民が注目し、日本でも「小さな政府」の政治勢力を強化する仕組みづくりが開始されることが期待されます。