給料

2016年01月20日

安倍・山尾質疑、与党も野党も「適当な数字ばかり」を並べる待機児童問題

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安倍首相と山尾しおり議員の「女性就業数」「待機児童」の質疑が話題に

2016年1月13日の衆議院予算委員会で山尾しおり議員による安倍首相の「安倍政権下で90万人の女性の就業者数が増加した。待機児童増加は嬉しい悲鳴」が虚偽である、という追及をしたことが話題になりました。

山尾議員曰く「25~44歳までの女性就業者数は2010~2015年で横ばい。増えたのは高齢者の女性ばかり」ということで、安倍首相が思い込みで答弁していると指摘しています。

その上で、山尾議員は「待機児童数が増加している背景の一つは保育士の給料が悪いから。したがって、保育士の給料を引き上げろ」と要望しています。

衆議院インターネット中継
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=45450&media_type=wb

本記事では上記の議論の妥当性について再検証することで、国会のあるべき姿について国民に再検討を促すことを目的としています。

本来であれば、古賀茂明氏のような有識者の皆さんが正しい話をするべきだと思うのですが、まったく的外れな感想をメディアに載せているので、本ブログが同問題についてミッチリと調べてました。

古賀茂明氏
待機児童が増えたのは「働く母」が増えたからじゃない! 白熱の質疑応答で暴かれた安倍総理の「ウソ」

女性の就業及び保育の実態を数字で検証してみた結果は・・・

女性の就業状況を検証する上で重要なことは、20~44歳の女性人口の絶対数が減少している、ということです。2010~2014年までの20~44歳までの女性人口数は約89万人減少しています。したがって、20~44歳までの女性の就業数が横ばいであることから就業率は上昇していることが分かります。
(参考:人口動向も含めた正規・非正規就業者数などの詳細をグラフ化してみる(2015年)(最新)

そのため、山尾議員が「就業率」ではなく「就業数」に質疑でこだわったことは正しいものと思います。安倍首相も数字を認識していなかったという点で極めて稚拙であったと思います。

しかし、待機児童数の増加を検討する上で、20~44歳の女性の就業者数が意味がある数字かどうかは別問題です。

なぜなら、2010~2014年の新生児の絶対数が減少している(約107万→約100万、累計約16万人)上に、保育園の利用児童数は増加しているからです。(約208万人→約227万人(2014年)→237(2015年))つまり、女性の就業者数は横ばいですが、子どもの絶対数は減っており、保育園の利用児童数は増えているのです。

では、山尾議員が指摘する2015年度の待機児童は何故増加したのでしょうか。実は待機児童数自体も2010~2014年まで減少が続いていました。(2.6万人→2.1万人)2015年に待機児童数が増加した原因は、子ども・子育て支援新制度が導入された結果として待機児童数が掘り起こされたからです。(2.1万人→2.3万人)
(参考:『保育所は増加・待機児童も増加』という怪奇現象の理由 〜 政府にとって好都合な数字ではダメ

ということで、結論としては、

「新生児数が減った上に保育園の増加で利用児童数は増加したため、直近数年間は既存の待機児童は解消に向かっていた。しかし、2015年度の新制度の導入で潜在的待機児童数が掘り起こされて待機児童の絶対数が増えた。一方、25~44歳の女性就業率は増加しているため、女性の間で保育園の話題が増えている」

ということが実態です。したがって、山尾議員がこだわる「女性の就業者数が横ばいであること」「保育士の給料」は、あくまで山尾議員が述べるように背景の一つでしかなく、2015年の待機児童数増加の直接の要因として捉えることには無理がある、ということが言えます。

保育士の給料の実態を数字で検証してみた結果・・・

その上で、山尾議員の持論である「待機児童の背景の一つ」は「保育士の給料が悪いから」であり、「保育士の給料の引き上げ」が必要だ、という主張の妥当性を検証します。

実際、現行制度では保育士が集まらなければ保育サービスの総量を増やせないので、現役保育士だけでなく潜在保育士が働くことができる環境整備が必要となります。

そこで、まずは保育士の給料環境について考察します。平成26年度の厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、

<全産業>平均年齢・平均年収は42.1歳329,600円で、労働時間は163時間・超過労働は14時間
<保育士>平均年齢・平均月収は34.7歳で216,100円で、労働時間は168時間・超過労働は4時間

ということで確かに保育士の給料は低いように思われます。しかし、保育士の20代・30代労働者比率は70%という異常に低い年齢構成の産業であり、我が国の年功序列賃金を前提とし場合に全産業平均よりも平均年収が低くなっている点も忘れるべきではありません。そして、もう一つ注目すべき数字としては、

〇賃金の男女格差
<保育士(男)・40~44歳>平均月収369,400円で、労働時間は173時間・超過労働11時間(保育士全体7%)
<保育士(女)・40~44歳>平均月収234,700円で、労働時間167時間・超過4時間
 *男女の賃金格差は30代以上になると大きくなる傾向があります

〇勤続年数
保育士は7.6年という極めて短い勤続年数であるということ

が挙げられます。

男性保育士は年齢相応の給料を得ているが、女性保育士は極めて低い給料しか得られておらず、非常に短い勤続年数から離職・復職を繰り返す業界=勤続年数に応じて給料が継続的に上がらない業界構造があることも推察できます。これは業界の構造問題であって、単純に「保育士の給料を上げる」という結論は思考停止以外の何物でもないことが分かります。

待機児童問題を国会で語る上での大前提を整理した結果は下記の通り

・25~44歳の女性の「人口は減少」「就業率は上昇」「就業者数は横ばい」ということで、働く女性の比率が上昇したことで女性の会話内容で保育園の話題があがる機会増。

・近年減少を続けてきた待機児童数が2015年度に増加した理由は新制度による申込者数増が原因。

・問題の本質は申込ベースの待機児童数の測定方法では「サービス変更で潜在的ニーズが掘り起こされる」と数字が増加するため、保育所ニーズ全体の状況を掴む数字として不適切だということ。したがって、待機児童数で一喜一憂する国会質疑は意味無し。

・保育園増加させると利用児童数は増加しており、現状において保育所ニーズは存在。ただし、中長期的には新生児が減少している状況を加味する必要あり。

・20~30代中心の保育士給料は全産業平均よりも低い。ただし、保育所を運営する小規模事業者が増加し続けており、離職・復職が比較的容易であることから雇用には強い職場であり、各事業者が保育士を継続的に確保することに困難さを感じている。(給料は低いが雇用に強い構造が潜在保育士を増加させている)

・上記のような環境から、保育士は勤続年数が短くなる傾向があり、給料アップのためのキャリアパスはほとんど存在しない。保育園は小規模事業者であるために経営者や管理職になれる人は少数。つまり、保育士の低賃金問題とは、若者の低賃金というよりも「年齢を重ねても給料が増えない」業界の経営状況にある。

本来、国会の質疑で問われるべきことは下記の通り、首相も議員もしっかりしてほしいものです

保育園数が増加すると利用者数が増加する現状に鑑み、今後も継続的に保育園の整備を行っていくことが望まれます。しかし、今後の人口動態推移や業界構造に関する問題を考慮した上で、下記のような解決策について議論することが必要です。

・中長期的には新生児数は減少することが見込まれるため、保育ニーズの需給調整をフレキシブルに行える経営主体によって保育サービスが提供されることが望ましい

・小規模事業者の濫立によって保育士の頻繁な離職・復職及びキャリアパス不足などが発生し、保育士の給料が構造的に上がらない状況が生まれている現状を是正するべき。

・したがって、保育園の小規模経営を止めて大規模チェーン化を進めることで、保育サービスの供給増を強力に進めていくとともに、将来的な需給ギャップを調整できる経営体制を整備。また、大規模で安定した事業体の中で保育士の中長期的なキャリア形成を行うことができるようにすることが望ましい。

・政府は、保育園の経営主体、保育料、保育サービス、保育士給与などの全面自由化を実施することを通じて、保育サービスの市場経済化を推進するべき。低所得者対策については別途考慮するべき。

筆者は上記のようなソリューションを提案するべきだと思います。保育園をタックスイーターの政治的な食い物にしていくのではなく、しっかりとした経営主体とすることで、サービス向上・保育士の待遇改善を図るべきです。

これらについては異論がある人もいるかもしれませんが、少なくとも首相と国会議員は上記の数字程度のことは踏まえて国会質疑を行ってほしいものです。

マンガでわかる統計学
高橋 信
オーム社
2004-07



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yuyawatase at 13:22|PermalinkComments(0)