外交ブレーン

2016年04月26日

トランプの外交ブレーン公表に隠された真の意図を読み解く

Donald_Trump_by_Gage_Skidmore

トランプ氏に対するピントがずれた分析が日本で横行する理由は何故か?

筆者は昨年からドナルド・トランプ氏が共和党予備選挙で圧倒的優位を築くことを予測し、彼が大統領選挙本選を前にして発言を穏健な方向に切り替えてくることを明言してきました。

何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(2015年12月11日)

一方、国内で米国通の有識者とされる人々は「ブッシュが本命」という嘘っぱちを垂れ流し続けた挙句、その後に乗り換えようとしたルビオ・ケーシックは大失敗、完全に「的外れな分析」を続けてきました。彼らの恥ずかしい米国大統領選挙分析のトラックレコードはインターネットを検索すれば山のように出てきます。

日本国内の米国通の有識者とされる人々は、「現在、米国で何が行われているのか」という単純なことさえ理解できないほどに、自らの知識を過信して盲目的になっています。

米国内の一部のグローバリストとの付き合いで自分が何者であるかを勘違いした人々の分析によって右往左往させられる日本政府関係者が可哀想だと思います。

現在、米国で行われていることは「共和党の予備選挙」という当たり前の事実を確認する

現在、米国で行われていることは「共和党の予備選挙」であって「米国大統領による外交」ではありません。この根本をはき違えているから、トランプ氏の発言にイチイチ過剰に反応する醜態をさらすことになるのです。

彼の発言は共和党の予備選挙を勝つために徹頭徹尾計算されたものであり、ドナルド・トランプ氏が置かれた状況中での最適な生存戦略として行われています。

筆者が昨年段階で上記の趣旨の意見を述べると「そんなことはない」とか、「それは悪夢だ」とか、色々な反応がありましたが、そういう発言をしていた人たちもそろそろ目が覚めてきたことでしょう。

メディアなどでコメントしている大学の先生らは、米国外交や米国社会などの専門家であって選挙の専門家ではなく、云わば全くの門外漢の人々が「米国の話題」というだけの理由で適当な私見を述べているに過ぎないのです。

本ブログでは賢明な読者と一緒に「現在は共和党の予備選挙の最中である」という小学生でも確認可能な事実を前提としてトランプ陣営の動きを分析していきたいと思います。

トランプ氏が公表した外交ブレーンの「正しい意味」を読み解けるか、という試金石

トランプ陣営が3月末に公開した外交ブレーンは下記の5名です。

(1)ワリド・ファレス氏(元国防大学教授、ロムニーのアドバイザー、ただしレバノンの暴力的民兵との繋がり)
(2)キース・ケロッグ氏(元陸軍中将、2003~4年にイラク暫定占領当局及びイラク駐留米軍司令官を率いた)
(3)ジョー・シュミッツ氏(元国防総省監察総監、同総監時代に様々な疑惑で辞任、ブラックウォーター幹部経験、サウド家が援助したシリア反政府勢力への武器輸出支援など)
(4)カーター・ペイジ氏(外交問題評議会研究員経験者、露・ガスプロムとの取引経験)
(5)ジョージ・パパドプロス氏(弁護士、ベン・カーソンのアドバイザー)

米国通とされる識者らによって、これらのアドバイザーについて無名だとか・過激発言だとか、トランプ外交の見通しについて散々な評価が下されて、見通しが不安なトランプ外交のリスクが喧伝されています。正直言って、あまり筋が良くない面子かもしれないので、WSJ論評の焼き直しのような評価を下したくなる気持ちも理解できます。

しかし、筆者にしてみれば、この面子を見て「その程度の分析」しかできないことのほうが「日本外交」にとってはリスクだと断言します。

何度も言いますが、米国で現在行われていることは「米国共和党の予備選挙」です。そして、トランプ氏は共和党の予備選挙を勝ち抜くために最適な選択を行ってきています。トランプ氏も当然にこれらの面子が外交アドバイザーとして十分でないことは承知していることでしょう。

では、何故トランプ氏はこれらのメンバーを公表したのでしょうか?この理由が分からない人はトランプ氏について語る資格はないでしょう。

共和党予備選挙に影響を与えるエスタブリッシュメントの機密を知り尽くした人々

トランプ氏が発表した外交ブレーンは、ハハドプロス氏以外は「米国の軍事・エネルギー政策の現場実務に携わってきた人」であり、同時に「共和党のエスタブリッシュメントに切り捨てられた人々」です。

言い換えるなら、彼らは、米国の外交の裏面(暴力的民兵や反政府組織への支援)、イラク戦争及びイラク占領の内実、国防省内の不祥事に関する記録、ロシアなどとのエネルギー企業との取引など、つまりは「ブッシュ政権時代の影の部分」を知る人々です。そして、その後、ワシントンにおけるエスタブリッシュメントに使い捨てにされて軽蔑や嘲笑の対象となっている人々でもあります。

ここまで言及すれば本ブログの賢明な読者は理解できたと思います。トランプ氏の外交ブレーンとは「単なる外交ブレーン」ではありません。彼らの名前が公表された真の目的は「予備選挙に影響を与えるエスタブリッシュメントに対する脅し」だと理解するべきでしょう。

現在、エスタブリッシュメントの大半は反トランプで結束して共和党からトランプを追放すべく動いていますが、トランプ氏の外交ブレーン公表はエスタブリッシュメント内、その奥深いところで波紋を与えているものと推測されます。

グローバルな権益を持つエスタブリッシュメントにしてみれば、彼らのアキレス健を知るトランプのアドバイザーからの情報が「トランプ拡声器」を通じて全米に公表されることは恐るべき事態だからです。

そのため、トランプ氏の外交ブレーンには実は外交的な意味はなく国内の選挙対策として公表されたものと理解すべきです。トランプ氏の外交政策について上記のメンバーから読み解くことは「不毛であるばかりか、完全なミスリードに過ぎない」と言うことができます。

日本の対米分析力の強化は急務、既存の外交ルートの見直しが求められている

以上のように、トランプ氏の外交ブレーンの公表の真の意図を読み解いてきました。しかし、驚くべきことに筆者と同じような分析を行っている論説にはいまだ出会ったことがありません。そのため、筆者の分析をバカげた意見だと思う人も多いことでしょう。

ただし、昨年の状況を思い返してみれば、筆者のように一貫してトランプ優位とブッシュ没落を予言してきた日本人はほとんどいませんでした。しかし、実際の物事の経過を見れば明らかなように、トランプを過小評価していた米国通の識者らは惨めな予測分析の残骸をネット上に晒し、現実の共和党予備選挙は筆者が予測した範囲で展開してきています。

筆者と他の識者のどちらの分析が正しいか、賢明な読者の皆さんに判断は任せたいと思います。

しかし、筆者の理解では現在の日本の対米分析力は表層的すぎて話にならない、と痛感しています。今後は米国のエスタブリッシュメントからの伝聞情報の垂れ流しではなく、自分の頭で考えて思考できる人々が独自の情報ルートを築いていくことが必要でしょう。

それこそがトランプ外交のリスクに備える真の対処法になるものと信じています。

スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19






本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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