合意

2016年02月20日

大人の教科書(24)「議員定数削減」で権力者の都合が良い政治に

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野田佳彦元首相が議員定数削減の履行を安倍首相に求めたため、安倍首相も渋々議員定数削減に向けた重い腰を上げる形になったようです。

議員定数削減は「国民に痛みを強いるなら、国会議員から身を切るべき」という理屈で正当化されることが多い主張です。しかし、本当に議員定数の削減は国民のためになる政策でしょうか?今回は議員定数削減の本質について説明していきます。

議員定数削減によって「国会議員が有権者よりも有利な立場になる」ことを知ってますか?

国会議員と国民の間の関係には一種の緊張関係が働いています。国会議員は民意に沿わない政治を行った場合、有権者である国民の一票の行方によって落選する可能性があるからです。

たとえば、現在、衆議院議員が一人当選するために必要な票数を小選挙区・約10万票程度と仮定します。この際、一人の有権者が持つ力は国会議員が当選するために必要な投票量の10万分の1ということになります。

現状の295小選挙区を148小選挙区まで半減、つまり小選挙区の議員定数を半分にした場合、衆議院議員が一人当選するためには約20万票の得票が必要になります。したがって、一人の有権者が持つ力は現在の半分、20万分の1にまで減少することになります。

逆に、中選挙区制度を導入して5万票程度で衆議院議員が当選できる仕組みに変更した場合、一人の有権者が力は現在の2倍になることになり、国会議員に対して強い影響力を持つことが可能となります。

つまり、議員定数が多い(または少ない有権者数で当選できる)ならば、国会議員に対する有権者の力が強まり、議員定数が少なければ国会議員に対する有権者の力が弱まるのです。議員定数を削減すればするほど、国会議員は有権者の投票による縛りから自由に行動できるようになるのです。これは単純な算数の問題であって議論の余地すらないことです。

議員定数を削減すると「議員一人のあたりの国家予算」は幾ら増加するのか?

現在の衆議院議員総数は475人から10人議員定数を削減した場合、衆議院議員数は約2.1%減少することになります。

日本の一般会計予算だけで平成27年度96.7兆円という巨額なものです。現在の衆議院議員475名は頭割り1人につき2035億円の予算を審議していることになります。仮に10名の衆議院議員を削減すると、頭割りで1人つき2079億円に審議する予算額が増加することになります。つまり、国会議員一人当たり44億円分の権力が単純計算で強まることになるのです。

甘利事務所の口利き問題が依然として国会でも問題となっていますが、議員一人当たりの権力を増やす議員定数削減は、政治家による腐敗を是正するどころか、問題をより深刻化させるだけのことに過ぎません。議員定数の削減とは、国会議員の権力増大の手段であって身を切る改革とは真逆の方向にかけ離れたものです。

国会議員に対する有権者一人当たりの影響力を下げた上に、国会議員一人当たりの予算の差配権を強化することは、国民にとって何ら益するところがないものです。究極的には国会議員が一人なら独裁制、複数人なら寡頭制と呼ぶことも可能であり、逆に国会議員数が多ければ多いほど国会議員一人当たりの権力は制限されます。

国会議員が議員定数削減のようなバカげた政策を国民に提案してくること自体がナンセンスなことです。

正しい議員定数改革は「議員定数を増やして政党助成金を減らすこと」である

国民から見て正しい政策は「議員定数を増やして歳費を減らすこと」です。議員定数を増やすことで国会議員に対する有権者の一人当たりの影響力を強化し、国会議員一人当たりの権力を低下させることが望ましいのです。

国会の場に多様な意見を持った国会議員が存在することにより、従来までは埋没していたような政治的ニーズが議論される余地が生まれることにもなり、日本の議会制民主主義の発展にも大いに寄与することでしょう。

その上で、議員一人当たりの歳費を削減することでコスト削減を行うこともできます。そもそも現状の国会議員数を10名削減したところで10億円程度、国全体の予算にとって雀の涙程度の予算削減しかできません。国会の運営費用は1日約3億円であり、このような不毛な議論に時間を費やすこと自体が無駄です。

それほどまでに国会議員に関する費用を削減したいのであれば、約320億円の政党助成金を3%削減すれば10億円捻出できます。この方法であれば議員定数を減らすことなく、国会議員に関する費用を削減することができます。しかし、政党助成金は各政党幹部が持つ利権と化しているため、政党助成金を減らそうという議論にはなりません。

現在、国会で行われている議員定数削減の議論の本質は「有権者の影響力を引き下げて、国会議員一人当たりの権力を強化し、なおかつ政党幹部の利権は維持する」という趣旨のものに過ぎません。国民は自分の頭で考えることが必要であり、無意味かつ有害な議員定数削減議論に与するべきではありません。

独裁者になるために
イニャツィオ シローネ
岩波書店
2002-12-20

 

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yuyawatase at 10:51|PermalinkComments(0)

2015年12月28日

日中限定戦争への道、慰安婦・日韓合意の真意を探る

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日韓の不可解な慰安婦に関する合意、突然の年内決着の思惑とは何か

タカ派で知られる安倍政権が年の瀬に突如として実行した岸田外相の訪韓と慰安婦問題における大幅な妥協は何を意味するのでしょうか。そして、慰安婦問題の立ち合い人として米国を据えた意味はどこにあるのでしょうか。

安倍政権の日韓合意に込めた意図は米国などの国際世論に「日本の正当性」をアピールすることにあります。

同政権は米国議会における演説などでも歴史修正主義的な内容を一切含まず、夏の談話についても文言を工夫して戦後民主主義・自由主義陣営に属するイメージづくりに励んできました。そして、従来までの慰安婦に関する政府主張を顧みない今回の日韓合意は安倍政権の対外的なイメージを決定付けるものです。

安倍政権が国内から一定の失望を受けながらも国際的にタカ派のイメージを放棄する理由は何でしょうか。能あるタカは爪を隠すという諺もありますが、筆者は安倍政権の真の狙いは全く別のところにあると予測します。

真の目的は「日中限定戦争」のための環境整備ではないのか?

筆者は安倍政権の真の目的は、日中限定戦争のための環境整備、ではないかと推測します。国際的な世論環境において、発足当初の安倍政権は中韓の宣伝によって非常にタカ派色が強い政権として認知されていました。

しかし、安倍政権の対米配慮姿勢の徹底、そして中国を取り囲むような対外援助増加を実行してきた結果、安倍政権に対する国際的な世論の風当たりは弱まり、むしろ中国の海洋覇権主義に対する懸念が高まりつつあります。

米国本国は東アジア・東南アジアの政治情勢、特に対中関係は関心が強くない状況ではありますが、全体的な空気感として米国の中国側に傾いていた国際世論の流れをかなり押し戻したものと思います。

仮に日中による尖閣諸島などで限定的な戦争(紛争)が発生した場合、日本が中国に対して優勢な状況を形成できれば米国が日本側で仲裁に入る環境が既に整備されてきています。その中で今回の日韓合意によって日中が限定的な戦争状態に突入するためのツメの作業に入ったと言えるでしょう。

憲法改正のための限定戦争という本末転倒な事態が発生する可能性

筆者が日中が限定的戦争またはそれに近い状態に突入する可能性が高いと見ている理由は、安倍政権の政策目標が「憲法改正」にあると看做しているからです。

大規模な金融緩和や消費増税の先送りなどの経済政策は支持率上昇のためのものであり、安倍政権にとってはそれ以上のものではないものと推測します。そのため、第三の矢である最も重要な規制緩和は現在までほとんど実施されておらず、円安による株高誘導や企業業績のかさ上げなどのモルヒネ的な経済政策が実行されている状況があります。

安倍政権が長期政権を目指す場合、安倍首相が本年行われた日本会議に送ったビデオメッセージの内容通り、憲法改正を政治日程に組み込むことが自然な流れとなります。

来年の参議院議員選挙において、消費増税の先送りを掲げて民主党などの改憲反対勢力を一掃した上で、日中の限定戦争ないしそれに近い状態を創り出すことができれば、憲法改正に向けた世論環境を創り出すことができます。

戦争というものは憲法が改正したから発生するものではなく、両国の指導者が意思を持って軍事力を行使することで始まります。来年11月米国大統領選挙の後の2017年が極めて危険だと思います。

筆者は上記の状況が発生することを支持するものではありせんが、安倍政権の一連の不可解な外交政策の積み重ねを総合的に鑑みるに、一つのシナリオとして十分な妥当性があるものと予測します。




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yuyawatase at 20:46|PermalinkComments(0)

2015年12月10日

「軽減税率の適用拡大という幻」の合意

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自民党が軽減税率の範囲を「生鮮食品」「加工食品」まで認めることに

自民・公明両党は軽減税率の対象を生鮮食品と加工食品を含む食料品まで拡大し、軽減される消費税は約1兆円規模となることが決まりました。

自民党は財政規律や手続きの煩雑さから軽減税率の適用範囲の拡大について抵抗してきましたが、来年の参議院議員選挙での選挙協力を念頭に公明党に妥協することになりました。

しかし、実は自民党は公明党に対して一切妥協しておらず、むしろ選挙協力のみを引き出したのではないか、ということが私の見方です。以下、私見を述べておきたいと思います。

参議院議員選挙の選挙争点は「消費増税の先送り」なので軽減税率は意味を失う

まず、来年の参議院議員選挙の争点は、景気動向などとの関係から「消費増税の見送り」になる可能性が高いということです。政権側は少なくともその形で選挙を行うことを前提として準備を開始するでしょう。一部では大手調査会社の予測結果として消費増税見送り&自民圧勝の数字も出回っています。

そのため、増税に伴う軽減税率は全く意味がない議論になる可能性があります。

そう考えると、現段階では軽減総額を多く設定したほうが来年の予算の見直しの際の影響力を小さくできるはずです。各省庁の予算編成は新年度から開始されることになりますが、夏の選挙結果を受けて予算編成内容を変える必要が出てくるでしょうから、増税幅を小さく見積もったほうが後々の対応が楽になります。

したがって、現在、自民党は公明党に妥協したふりをして軽減税率幅を拡大し、公明党の衆参同時選挙の選挙協力を引き出すほうが優先順位が高いことになります。

衆参ダブル選挙の高投票率で公明党は大幅に議席を失う結果になる

衆参ダブル選挙の結果として、大幅に投票率が上昇することを通じて、公明党は大量の議席を失うことになるでしょう。

大阪維新の衆参両方での議席大量増が予想されるため、連立政権内部での力関係に大きな変動が生じ、その結果として公明党の連立与党内での地位は低下することが予想されます。

大阪維新のボスである橋下氏は「軽減税率は新たな既得権を生むだけ」と反対している状態であり、衆参ダブル選挙の結果は軽減税率の適用範囲にも影響を与えていくことになるでしょう。

衆参ダブル選挙後の政局情勢で「軽減税率」の話は見直されることに

衆参ダブル選挙後は、大阪維新が連立政権入りすることで消費増税は先送りとなり、その後は軽減税率の見直しの議論が出てくることは必然です。 

政権としてはそのまま憲法改正の発議に持っていきたいところであり、軽減税率の適用範囲に関する合意・見直しは公明党に対する交渉カードとしてうまく扱われていくことになると思います。

そのため、現段階で自民党が公明党に軽減税率に関する妥協を行うことは政局上の合理的な判断と言えます。つまり、「軽減税率拡大が実際に意味がない」ということになります。

当確師
真山 仁
中央公論新社
2015-12-18






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