ルビオ
2016年03月04日
CPACに起きた「ある異変」が予備選全体に影響を与えるか?
共和党保守派の最大の集会であるCPACにスポンサーサイドとして参加しています。共和党大統領予備選挙候補者や保守系団体の幹部の方にお会いしましたが、その話はCPACの実況とともに後々触れていくとして、今回は予備選挙全体にインパクトを与える「ある日付」の話をお伝えしていきます。
CPACの要素として最も重要な大統領選挙の模擬投票
全米から保守派の中心人物が集まるCPACではSTRAWポールという大統領選挙の模擬投票が行われています。この投票は保守派が総体として誰を推しているのかを明らかにするためのものであり、共和党大統領選挙の結果に大きな影響を与えます。(写真は参加者が投票を機械で行っているところ)
2012年は穏健派と見られてきたロムニーが保守PRを繰り広げたことから辛うじて保守派のサントラムにSTRAWPOLLで勝利して、その後の大統領予備選挙の動向に決定的なインパクトを与えました。スーパーチューズデーの結果、3つ巴状態が色濃くなった共和党予備選挙ですが、今回のCPACでは保守派のクルーズ氏に対して、トランプ氏・ルビオ氏が逆転またはどこまで迫れるのかが予備選挙の帰趨を占う上で重要な指標となっています。
(4日はトランプ、ケーシック、クルーズ、カーソンら予備選候補者の演説日程目白押し)
(5日の予備選候補者の演説日程ははルビオのみ)
CPACの明暗を分ける4日・5日という演説日程の区分けとは
CPAC自体が本格的に開催されている期間は3月3日~5日であり、この間に各予備選挙候補者はメイン会場で演説を行って、その内容が評価される形で参加者が次々と模擬投票を行っていきます。
演説日程が参加者が最も集まる中日の午後早い時間が有利な時間設定だと思われます。なぜなら、多くの参加者の投票は最終日に至るまで決定しているからです。今回は一人の候補者を除いてほぼ全候補者の演説日程が4日となり、残りの1名の演説日程が最終5日となりました。
一人5日という不利なスケジュール設定をされた人物はトランプ氏ではなくルビオ氏です。ルビオ氏はCPACへの参加を最後まで渋っていたため、CPAC主催団体であるACUと険悪な関係になった結果、大統領候補者の演説が集中(参加者も多い)する4日ではなく、5日の午前の遅い時間が割り振られる状況となっています。
ルビオ氏は保守派への接近を懸念したことから、共和党の予備選挙で決定的なインパクトを与えるCPACへの参加を渋り続けてきました。その結果として、ルビオ氏とACUの関係は表立って報道されるほどにまで悪化しています。
トランプ氏・クルーズ氏との保守派からの得票競争を考えると、ルビオ陣営は共和党エスタブリッシュメント側の顔色を窺い過ぎて戦略上の致命的なミスを犯しました。今回の予備選挙ではエンドースの獲得という戦術面で主流派は功を奏していますが、選挙全体の構図のデザイン力でトランプ・保守派に劣っていると言えるでしょう。
その結果として、ルビオ氏はクルーズ氏を突き放すとともにトランプ氏と互角の戦いになるための重要な機会であるCPACにおける勝利の可能性を実質的に失った状況となっています。
テッド・クルーズに神風が吹いている状況となった予備選挙
3月4日未明現在、クルーズ陣営にとってルビオ陣営の失敗はまさに神風のような追い風となって機能するでしょう。ライバルであるルビオ陣営が自滅して保守派からの支持を失っていく中で、スーパーチューズデーに集中した保守的傾向がある州での勝利と合わせてトランプ氏に対抗できる唯一の候補者のイメージを形成していくことができるからです。
予備選挙で爆走状態を続けるトランプ氏を抑えるためには、共和党内でトランプ氏に対抗する候補者を絞りこむことが必要です。今後は北部のリベラルな州での予備選挙も増加していくことから、対抗馬として最も有力な候補者はルビオ氏と目されてきました。しかし、ルビオ陣営の致命的なミス、もっと言えば「エスタブリッシュメントの優柔不断さ」が露呈した結果、クルーズ氏がルビオ氏を差し切って2着の地位を維持する(つまり、トランプ氏への本命対抗馬としての地位を維持する)ことができるようになりそうです。
今回の予備選挙は「米国政治への怒り」がテーマとされていますが、それ以上に「エスタブリッシュメントの優柔不断さ」というテーマこそが隠れテーマだと感じています。この優柔不断さの間隙を突いて、トランプ氏・クルーズ氏が台頭した状況が生まれているのです。トランプ現象のみを切り取って「怒り」と表現する既存メディアの米国政治関連の報道には飽き飽きします。ジェブ・ブッシュの不発など、全てはエスタブリッシュメントの選挙戦略上のミスによって今回の大接戦が生まれているからです。
トランプではなく米国政治を根本から変える人物は「クルーズ」だ
日本の報道ではトランプ氏の勝利が米国政治を一変させるというものが多いのですが、筆者としてはトランプ・ルビオ・クルーズの3氏の中で米国政治を一変させる可能性が高い人物はクルーズ氏であると確信しています。トランプ氏が政治を変えるという言論を垂れ流している人は、米国政治について良く知らない人か、米国政治を知った上で虚偽を述べている人でしょう。
米国の政治の左右の振れ幅を左から整理すると、サンダース、ヒラリー、トランプ、ルビオ、クルーズという順番であり、実は3氏の中でトランプ氏は限りなく民主党に近い経済政策や社会政策を持っています。そのため、見方によってはトランプ氏は共和党の中では比較的大規模な政策変更を米国に与える可能性が低い候補者であると評価することもできます。
しかし、クルーズ氏は筋金入りの保守派であり、小さな政府の理念を徹底的に追求することは間違いなく、最も大規模な政策変更を実行していくことになるでしょう。そして、そのような大規模な政府機構の改革は世界各国の政治の在り方にもインパクトを与えて、世界の姿を変える一つの軸が提示されることになります。
したがって、米国における既得権層が最大に恐れている人物はトランプ氏ではなくクルーズ氏なのです。CPACにおける演説日程はルビオ氏の苦戦を深刻化させることになり、トランプ氏への対抗軸として機能できるかどうかを左右する重要な要素となるでしょう。まさに政治の要諦は「日程」にこそがあるということは、日本だけでなく米国でも共通の事項なのだなと痛感させられる出来事でした。
*という状況だと思ったら、まさかのトランプ・ドタキャン。元々4日から直前に5日変更依頼し、その上ドタキャンというのは流石に保守派も怒るんじゃないかなと。
2016年02月19日
マルコ・ルビオ、サウスカロライナ予備選挙前に突き抜けた形に
サウスカロライナ予備選挙直前、マルコ・ルビオの放った強烈な一撃
共和党大統領候補者を選ぶサウスカロライナ予備選挙を前に、マルコ・ルビオ氏が強烈な一撃を放ちました。それは同州の知事であるNikki Haleyからのエンドースメントの獲得です。マルコ・ルビオ氏は既に同州の上院議員Tim Scottからもエンドースメントを得ており、サウスカロライナ州の予備選挙に向けて万全の体制を築いたと言えます。
Nikki Haleyサウスカロライナ州知事は昨年12月段階で同州の共和党員の支持率81%を確保した影響力が大きい女性知事であり、副大統領候補者としても名前がリストにあがる有力な人物です。同州知事がマルコ・ルビオ氏を支持したことは予備選挙においても極めて大きなインパクトを持つものと想定されており、同州予備選挙を前にマルコ・ルビオ氏が隠し玉を投入してきたことになります。
共和党主流派の首位争いを決める天王山としてのサウスカロライナ
共和党主流派はマルコ・ルビオ氏、ジェブ・ブッシュ氏、ケーシック氏の3名による同派内のトップ争いを演じています。ジェブ・ブッシュ氏は兄弟であるブッシュ前大統領を同州のイベントに投入するとともに、ケーシック氏はニューハンプシャー州での2位を足掛かりに勢いを得るべく、主流派のサウスカロライナでの争いは激戦の模様を呈してきています。
ニューハンプシャー州では5位となったマルコ・ルビオ氏ですが、同州における予備選挙以後に有力な政界関係者からのエンドースメントを増やした唯一の主流派候補者となっています。上記のサウスカロライナ州知事だけでなく、カンザス州知事・上院議員などからも支持を固めており、エスタブリッシュメントの支持は依然としてマルコ・ルビオ氏に集まりつつあると言えるでしょう。
同州予備選挙でマルコ・ルビオ氏がブッシュ・ケーシック両氏を突き放した場合、エスタブリッシュメントの支持はマルコ・ルビ氏に一気に傾くことが予想されるため、主流派争いとしては天王山の決戦ということになります。
スーパーチューズデーに向けて大きく山が動くことになるだろう
3月1日のスーパーチューズデーに向けて、主流派はトランプ&クルーズ両名に対して対抗馬を絞りこむ必要があります。今回のスーパーチューズデーには大票田のテキサス州などの多くの保守的な傾向がある州が含まれるため、主流派は候補者を絞り込まない場合、現在支持率1位のトランプ氏、地元テキサス州を抱える保守派のクルーズ氏に惨敗することが予想されます。
結果として、1位トランプ、2位クルーズが決定することになり、万が一共和党大会における決選投票になった場合の一翼に主流派が残ることができません。そこで、主流派はサウスカロライナ州での結果を試金石として候補者の絞り込みを行う可能性が高く、ブッシュ&ケーシック両名が撤退表明を行うかどうかが注目されます。
また、保守派の黒人候補であるベン・カーソン氏もスーパーチューズデーまで勢力を維持することは極めて難しく、彼が誰をエンドースメントするのかは注目に値します。同じアウトサイダーとしてトランプ氏を支持するのか、それともクルーズ氏かルビオ氏を支持するのか、ベン・カーソン氏は一定の運動力を持っているために去就が気になるところです。
いずれにしてもサウスカロライナ州予備選挙、ネバダ州党員集会を経た後に勝負は佳境となるスーパーチューズデーに突入していきます。
2016年02月16日
中山俊宏教授のための共和党保守派入門(後篇)
前回、米国政治を専門と称する中山教授の「念願のCPACに初参加」という告白が、「自分は共和党保守派についてビギナー」だと指摘しましたが、このCPACとは何なのでしょうか。
CPAC(Conservative Political Action Conference)とは何か?
まず、前回のおさらいですが、CPACは米国共和党保守派にとっては入門的な場であるとともに、大統領予備選挙の指名を実質的に決める場です。
CPACは米国保守派の年次総会とも言えるような場であり、毎年開催されているCPACでは全ての大統領候補者が壇上に立ち、約1~2万人程度の保守派の草の根リーダーらに自らの考え方をアピールしています。
これは何故かというと、特に大統領選挙の年ではCPAC内で開催される大統領予備選挙の模擬投票が実際の予備選挙にも大きな影響を与えるからであり、2012年のロムニー予備選勝利に関してもCPACの投票結果は多大なインパクトをもたらしました。
2015年2月のCPACに出席していれば、ジェブ・ブッシュ氏の勢いがイマイチ欠けており、ドナルド・トランプ氏の旋風、マルコ・ルビオ氏の台頭などはある程度予測ができる空気感が漂っていました。
つまり、昨年の夏段階でブッシュ推しの日本人有識者はまったく共和党の空気感が分かっていない人だということが言えます。特に近年のCPACでは会長職の変更などの影響もあったのか、有色人種比率・若者比率も格段に増えていること、米国共和党保守派の変化を肌で体感することができる貴重な場でもあります。
また、CPAC会場内では多くの分科会・レセプションが開催されており、共和党保守派がどのような政策テーマに関心があるかを知ることもできます。つまり、米国共和党のイデオロギー的・政策的なテーマの方向性を知る上でもCPACへの参加は必須であると言えます。ちなみに、私の関与している団体がCPAC会場内でACUと共同で日米関係のレセプションを用意しています。
さらに、CPAC会場ではVIP用の部屋が別に構えられており、多忙なキーパーソンから会いたい人物が別室に招かれて会談を行うことも重要な機能です。私も過去に参加したCPACで当時の大統領予備選挙候補者とVIPルームで面会する機会が得られました。CPACは参加するだけなら「誰でも参加」できますが、インビテーションが無ければ入室できない催しもあり、間口は広く敷居の奥は深いイベントです。
CPACに一度も行ったことがなく、米国共和党保守派について知ったように語ることがいかにチープであるか、情報不足の日本メディアからは中山氏ら米国通を称する大学教授は持て囃されるかもしれませんが、米国の少なくとも「共和党保守派」を解説するには役不足だと思います。
こうした役不足の人物が偏見に基づいた解説をすることは、日本人に米国政治の潮流を見誤らせることになり、戦前と同じ過ちを我が国に侵させかねない行為です。
既存の政治関係者・有識者ルートから脱却した若い世代の外交ルートの発達
そもそも共和党保守派の日本への関心は従来までは高くありませんでした。上述の通り、私が関与している団体がACUとの共同レセプションを開催するまで、JapanのJの字もない状況だったと言っても過言ではありません。
これは米国共和党保守派という近年の政治シーンでは無視できない存在に対して、日本の政治・学会関係者がほぼノータッチだったことを意味しています。どれだけ日本外交は無策なんですかと。
従来までのように一部の米国通とされる有識者らが情報を独占し、自分にとって都合が良い解釈をメディアで流し続けて安泰でいられる時代ではなくなりました。日米関係という非常に重要な二国間関係に関わる情報ルートであっても、人間の行き来の活発化やネットの発達によって情報寡占は不可能になりつつあります。いまや新聞・テレビで解説されている程度の話は英字新聞どころか、英字新聞の日本語版サイトを見れば十分です。(日本のメディアでどんな発言しているかも相手国にキーパーソンに容易に伝わるようになりました。)
一方、これから重要になることは情報の解釈であり、筆者は米国共和党保守派の理念である「小さな政府」を始めとした政治思想が日本にとって伝えられるべき重要な思想であると考えています。
そのため、中山俊宏教授が述べられているような一方的なバイアスがかかった共和党保守派に関する言説ではなく、これら共和党保守派との間でしっかりと根をはった言論が増えてくることが望ましいものと思います。
これは日米関係だけではなく他国のケースであったとしても同様のことが言えるでしょう。海外の情報を摂取する際に、従来まで権威とされてきた情報源だけではなく、現地・現場とのリレーションに基づく情報の送受信の多様化が起きていくことが必要です。
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中山俊宏教授のための共和党保守派入門(前篇)
米国大統領選挙の解説で有名な中山俊宏教授とのTwitterでのやり取り
時節柄、米国大統領選挙の最新動向についての新聞やテレビ等でのコメンテーターによる解説が増えてきました。しかし、それらは、非常に偏った視点に基づく解説であることが多いのです。
その典型例は、NHK国際報道でお馴染みの慶応義塾大学教授の中山俊宏氏によるものです。彼の共和党保守派に対する分析は具体的な根拠に基づかない偏見や思い込みであり、しかも予想は連戦連敗しているのです。
中山氏は言います。
「今日のアイオワ党員集会にかんする短評を書き上げました。共同通信を介して明日配信されるはず。「共和党はこれでルビオでしょう」という雰囲気をかすかに漂わせせた。」
(2月2日、twitter)
→その後、ルビオ候補はニューハンプシャー予備選挙で5位と没落し、彼のtwitterはしばし沈黙し、その上でケーシックが善戦すると予想していたと言い始める始末。(ルビオ候補が有力であることは認めますし、NHの世論調査を見ていればケーシック善戦は誰でも分かる話ですが・・・)
「ジェブ・ブッシュがFB上で事実上の出馬表明。ブッシュとクリスティが競って、ブッシュが勝って、最終的に二人が組んでみたいなことになると、かなり強そう。」(2014年12月17日、twitter)
「ジェブ・ブッシュ氏(中略)の動向が要注目」(NHKBS国際報道、2014年10月28日)
→その後の展開を思えば的外れもよいところの予測です
「(米国における)茶会運動は政治運動としての保守主義が死んだ兆候だ」
(2010年12月17日)
→その後、茶会運動が滅亡することなく、政治運動としての保守主義が盛んになっていることを思えば失笑です
その他にも、テッド・クルーズは原理主義的で危険、ティーパーティ運動の参加者には陰謀論を持っている等の極端な言説が多く、共和党保守派やTea Party運動の方々と親交がある筆者としては以前より違和感・不快感を覚えてきました。
どうして、専門家を称しているのに、いつも的外れの予測と解説ばかりしてしまうのか。
しかし、中山教授の最近の以下の呟きを見て、私の疑問は一気に解決しました。
専門家ではなく、米国共和党保守派のビギナーだったのだから、これは仕方がないと。
この発言は、何を意味するのでしょうか。
CPACとは、米国保守派の入門的な一大イベントであり、そこで次期大統領候補が事実上決定される極めて重要な大会です。しかも、誰でも参加できるものであり、筆者も何度も参加して大統領予備選挙候補者を始めとした多くのVIPとの面談も行ってきました。CPACは共和党保守派を知る上では欠かすことができないイベントです。
筆者は中山教授に、この点を聞いてみました。
すると、中山教授からは、
というお返事をいただきました。ACUとはCPACの主催団体ですが、中山教授が名前を挙げているキーン会長は5年前に退任した方です。現在はアル・カーディナス前会長、マット・シュラップ現会長と二代も会長職が交代しています。しかも、ソルトレイクシティ―の話も2011年のことです。
2016年の大統領選挙はおろか、2012年大統領選挙の時でも現職でなかった方(立派な方ですが)の名前を挙げて、「俺は共和党保守派を知っているんだぞ」アピールされても、ますます「???」と思った次第です。米国のことは分からないだろうとタカをくくった態度が不誠実すぎますね。ちなみに、その後中山教授からはお返事ありません。CPAC初参加についての釈明もありません
ちなみに、筆者はフリーダムワークスから来賓として過去にダラスの大集会に招かれたことがありますが、直近4年以内の話なので中山氏に米国でお会いしたことはありませんね。
そもそも、中山教授の博士論文は、「米国共産党研究」ですから、共和党保守派をご存知ないのも無理はありません。
中山氏は2016年の予備選挙はセオリー通りではないことを予想が難しい理由に挙げていますが、トランプが全米支持率トップであることは一貫しており、トランプ台頭をあえて無視してきたか、そもそも世論調査すら見てないのか、どちらでしょうか?ちなみに、米国共和党に詳しくない人向けに解説すると、中山氏のセオリー通りではないという意味は中山氏が好きな共和党主流派の候補者らが苦戦しているというだけの話でしかありません。
次回は、そもそも、CPACとは何かについて、共和党保守派についてビギナーの中山教授の為にも解説したいと存じます。
中山俊宏教授のための共和党保守派入門(後編)に続く
2016年02月06日
トランプVSルビオ、ニューハンプシャー州予備選挙は佳境に
Wikipediaから引用
ここ数日、風邪で完全ダウンしており、ブログの更新頻度が落ちておりましたが、自分の身の回りでも体調不良の方が多く皆さんの体調はいかがでしょうか。寝込んでいる間に米国大統領選挙は佳境を迎えており、分析対象としても大変面白い展開を見せてきています。
ニューハンプシャー州は事実上の共和党の指名者を決める戦いになる可能性大
2月9日にニューハンプシャー州の共和党の予備選挙が実施される予定となっています。初戦の「保守的なアイオワ州」と比べてニューハンプシャー州は「リベラルな政治風土」の土地柄です。したがって、中間層の獲得が重要となる大統領選挙の本選を見据えた場合、共和党の選挙戦略としてはニューハンプシャー州の勝者が指名を獲得することが望ましいものと言えます。
そのため、今回のニューハンプシャー州での勝者が共和党の指名に最も近い候補者となることは間違いなく、トランプ氏がリードを保っている状態を逆転すべく、共和党の主流派陣営による様々なアクションが行われている状態となっています。
<過去記事>*トランプ・サンダース台頭、ブッシュ・カーソン失速、マルコルビオ躍進を予測解説
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?(12月8日)
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(12月11日)
ドナルド・トランプ共和党予備選勝利宣言としての「健康診断書」(12月16日)
民主番狂わせか?ヒラリーVSサンダースが面白いことに(12月20日)
アイオワ州党員集会直前、共和党・民主党の波乱が現実に?(1月22日)
ドナルド・トランプがFOXの討論会を欠席した理由(1月30日)
日本の政治にも「和製のテッド・クルーズ」の誕生を!(1月31日)
FiveThirtyEight:米国の政界有力者が誰を支持しているのか(2月1日)
アイオワ州党員集会・テッド・クルーズ勝利、今後の展開は・・・(2月2日)
ニューハンプシャー州の予備選挙に向けて急速に力を増し続けるマルコ・ルビオ氏
本ブログは初期のころからマルコ・ルビオ氏に注目してきましたが、ルビオ氏はアイオワ州で3位ながらも大健闘の結果を残したことから急速に支持を伸ばしています。日本でも様々な識者の皆さんがアイオワ州選挙以後から主流派の支持はマルコ・ルビオに集まる流れになると述べていましたが、本ブログではもう少し「ファクト」を示した解説を行っていきます。
そこで、エスタブリッシュメントからの支持率の推計するための使われる指標として、FiveThirtyEightが提供しているThe Endorsement Primaryを参考にしてみましょう。同指標は上下両院議員と州知事からの支持数をポイント換算したものであり、政界からの各共和党予備選挙候補者への支持率状況を分析するための目星となります。
そうしてみると、アイオワ州党員集会前(Before)はブッシュ1位(51ポイント)、ルビオ2位(43ポイント)ですが、・・・
<Before:アイオワ州党員集会以前の状況・2月1日早朝>
アイオワ州党員集会以後(After)は、ルビオの上下両院の支持者が増加した結果、ルビオ1位(60ポイント)、ブッシュ2位(51ポイント)に逆転しているわけです。これがいわゆる「勝ち馬に乗る現象」となります。世間の世知辛さが感じられる変化です。
<After:アイオワ州党員集会以後の状況・2月6日現在>
マルコ・ルビオ氏の支持率は全米及びニューハンプシャーで増加する傾向を示しています。下記は直近のニューハンプシャー州の世論調査の推移をまとめたものですが、トランプ氏が10ポイント以上引き離し続けている点は変わらない状況です。ただし、マルコ・ルビオ氏が支持率2位に浮上しており、場合によってはニューハンプシャー州でトランプ氏に肉薄する可能性がある状況となっています。(前々からブッシュ氏ら主流派の支持率を合計するとトランプ氏を上回っている状況なので可能性はゼロではない)
<ニューハンプシャー州の世論調査結果の推移(RealClearPolitics)2月6日現在>
トランプ氏は終わりなのか?答えは「No」だと思う
メディアによる評価では、トランプ氏はアイオワ州における敗者と位置付けられており、高支持率が得票に結びつかない傾向が表面化したと評価されました。メディアや識者はこれで「トランプも終わり」的な雰囲気を醸しだそうとしていますが、トランプ氏の今後の浮き沈みはまだ分からない状況だと言えます。
筆者はトランプ氏はアイオワ州では善戦したと考えています。アイオワ州党員集会の直前の世論調査でトランプ氏は1ポイントしかテッド・クルーズ氏に差をつけることができておらず、筆者は支持団体の運動力などの実力差からトランプ氏がかなり苦戦する可能性も想定していました。しかし、結果として1位クルーズ氏と2位トランプ氏の差は3ポイント程度しか開きませんでした。(筆者は2012年のサントラム氏の予備選挙結果からMAX8ポイント程度の差がつくことも想定していたのでクルーズ氏はアイオワ州で勝ちきれなかったと見ています。)
クルーズ氏は保守派の候補者であるため、アイオワ州で高支持率を獲得できても、上記の支持率推移でみても分かるようにニューハンプシャーなどのリベラル州では際立った強さは保持していないことが明らかです。一方、クルーズ氏に比べてトランプ氏とルビオ氏はアイオワ・ニューハンプシャーの両州で高い支持率を有しており、大統領本選挙における汎用性が比較的高い候補者であると言えるでしょう(大方のイメージと違うかもしれませんが、トランプ氏の支持率の数字はそれを示しています。)
したがって、ニューハンプシャーでマルコ・ルビオ氏に肉薄または逆転されることなく、トランプ氏が10ポイント近い差をつけて1位を獲得した場合、予備選挙の有力な候補者として残留し続けることになるでしょう。
今後の予測は難しい状況、「定番セオリーが通用しない」予備選挙に・・・
共和党主流派はマルコ・ルビオ氏の下に結集していくことが明らかになりつつあり、マルコ・ルビオ氏が指名に最も近い候補者に近づいていくことはほぼ間違いないでしょう。筆者も以前から今回の大統領選挙のダークホースはマルコ・ルビオ氏である旨を主張し続けてきました。
ただし、共和党の指名レースの通常のパターンである、「主流派に好意的なメディアが保守派の候補者を叩いて、主流派候補者の支持率が保守派の支持率を上回って終わり」、というセオリーが、トランプ氏というスキャンダル耐性の強い非主流・非保守の存在によって主流派の予定が狂い続けているという状況が今回の大統領予備選挙の特徴ということになります。つまり、メディアが狙うべきターゲットが保守派のクルーズ氏なのか、しぶといトランプ氏なのか、絞り切れていないという現象が起きています。
「トランプ氏はアイオワ州で終わった」として片づけた後に、「残った保守派のクルーズ氏をニューハンプシャー以降で倒そう」という主流派の戦略は道半ばの状況であり、彼らの戦略が成功裡に進んでいるかは些かの疑問が残るところです。(ところで、ネタバレすると、このセオリーがあるために米国専門家の日本有識者は「主流派候補者が勝つ」と言い続けるだけで良かったわけです。日本のメディアで大統領選挙を解説する人々がブッシュ推しを放棄してルビオ推しの予測に切り替えたタネ明かしはそんなものです。)
筆者は日本国内における大・小の選挙での経験はもちろん、米国における共和党系選挙訓練校での経験や米国内の知己の動向などから、今回の大統領予備選挙は一波乱あると予測しておりました。ただし、正直な感想としては予想以上に複雑な状況になっていると思います。トランプ氏について共和党の指名を獲得できなかった場合、共和党との誓約を守らずに独立系の候補者として出馬する可能性は依然として存在しており、予備選挙後も更なる波乱がありそうな予感もしています。
世界の運命を大きく左右する米国大統領選挙はその選挙動向について分析することでも十分に楽しめます。今後も継続的にウォッチしていきたいと思います。
2016年02月02日
アイオワ州党員集会・テッド・クルーズ勝利、今後の展開は・・・
アイオワ州党員集会でテッド・クルーズの勝利、トランプは2位、ルビオは3位
テッド・クルーズ氏が共和党アイオワ州党員集会でトランプ氏を差し切って得票率1位を獲得しました。直前の世論調査で両者の差はトランプ氏の1ポイントリードという状況であり、保守派が多いアイオワ州で運動力があるクルーズ氏が3ポイント程度の僅差で勝利したことは妥当またはトランプ氏にやや苦戦したと評価すべきでしょう。
クルーズ氏の勝利によって州内99群を網羅的に行脚する2012年にサントラムが実践した地域密着型の選挙手法の有効性が再び証明されたことになります。保守派に属する、キリスト教福音派、Tea Party Patriotsら茶会運動、National Review誌やグレン・ベックら保守派著名人などが直前期に支持を表明したことも大きなインパクトを与えたものと推測されます。
ドナルド・トランプ氏は下馬評の支持率1位から陥落し、実際の得票率では2位の立場に甘んじることになりました。しかし、同州でボランティアを動員した地上戦をほとんど展開していないにもかかわらず、約4分の1の得票率を獲得したことでトランプ氏の影響力が共和党内で無視できないものであることを改めて立証しました。
今回のアイオワ州党員集会で最も注目すべきことは、得票率3位のマルコ・ルビオ氏が予想以上に高い数字を獲得したことです。アイオワ州はキリスト教福音派などの社会的保守派の影響力が非常に強い地域であり、マルコ・ルビオ氏が比較的苦手とする有権者層が多数を占める地域です。それにも関わらず、1位クルーズ・2位トランプと比べても遜色ない支持を獲得したことは大きな意味があります。
昨年から一部の日本人有識者の間で有力視されてきたブッシュ氏は全く振るいませんでした。彼らがブッシュ推しをいつの間にか撤回してルビオ推しになっている風見鶏ぶりには甚だ呆れます。今後ブッシュ氏は撤退に向けた調整を行っていくことになるでしょう。
「アイオワを制した者は、ニューハンプシャーを制することはできない?」のジンクス
クルーズ氏は年明けから選挙運動のリソースをアイオワ州に集中投下してきました。アイオワ州での1位獲得はクルーズ氏の生命線であり、クルーズ陣営の立案した作戦は功を奏したと言えるでしょう。
今後の予備選挙の舞台は第2ラウンドのニューハンプシャー州予備選挙に移ります。
保守派が多いアイオワ州・リベラルが多いニューハンプシャー州では有権者の投票傾向が大きく異なります。そのため、アイオワ州での勝者であるクルーズもニューハンプシャー州の世論調査ではあまり振るっていない状況です。
近年ではアイオワ州とニューハンプシャー州の両方で1位を獲得せずに予備選挙で勝利した人物は民主党のビル・クリントン元大統領のみとなっています。共和党候補者ではアイオワ州とニューハンプシャー州の両方を落として予備選挙を勝ち抜いた人物はほぼ皆無です。
そのため、トランプ氏とルビオ氏はニューハンプシャー州における2枚目の切符の獲得競争に力を注ぐことになります。号砲が打ち鳴らされた共和党の予備選挙レースは激しさを増すばかりです。
メディアによるバッシングは、テッド・クルーズ氏に集中することになるだろう
クルーズ氏がアイオワ州で得票率1位を獲得したことで、今後はトランプ・バッシングに尽力してきた主流派メディアによるクルーズへのネガキャンの集中砲火が始まるものと予想します。
元々米国の主流派メディアはクルーズ氏が属する保守派陣営に対して厳しい姿勢を取り続ける傾向があり、今回の予備選挙でもトランプ氏の支持率を一時的に抜いたベン・カーソン氏を自伝中のエピソードの嘘疑惑などによって瞬殺した経緯があります。
カーソン氏の支持率急落後はトランプ氏が全米支持率でトップであり続けたので、クルーズ氏は保守派であるにも関わらず、主流派メディアのネガティブキャンペーンの対象になりにくい環境優位を享受してきました。しかし、アイオワ州党員集会で得票率トップを記録したことで、今後はトランプ氏に代わる共和党からの指名に最も近い保守派候補者としてメディアによるバッシングが本格化するものと思われます。
クルーズ氏がカーソン氏やトランプ氏に行われたような激しい攻撃に耐えられるか否かは不明であり、クルーズ氏の選挙の強さに対する真価は「ここ」から問われる事になります。
主流派のマルコ・ルビオの追撃、クルーズとトランプがどのように対抗していくのか
冒頭でも触れた通り、トランプ氏とクルーズ氏の順位についてはそれほど驚きはありませんでした。最も大きな衝撃は、主流派候補者であるマルコ・ルビオ氏が保守派が多いアイオワ州で極めて高い支持を得たことです。
そのため、マルコ・ルビオ氏に対する主流派の期待が一気に高まることで同氏の支持率が大幅に上昇していくことが予測されます。現在までのニューハンプシャー州の世論調査で、ケーシック、ブッシュ、クリスティー、ルビオで割れている主流派の支持率がルビオ氏に集約されていく可能性があります。
一方、昨日までの世論調査では、トランプ氏はニューハンプシャー州において圧倒的にリードしています。トランプ陣営は元々アイオワ州はほとんど重視しておらず、最初からニューハンプシャー州での勝利に重点を置いています。ただし、アイオワ州で勝利を逃したことで期待値の剥離がどこまで進むかは予想が出来ません。トランプ支持者はトランプ氏への忠誠度が高い傾向がありますが、初戦で躓いた中で勢いを維持できるかどうかがポイントとなります。
また、クルーズ氏は、ニューハンプシャー州での連勝にこだわる必要はないので、同州では保守派候補者の中で最上位の地位をキープするだけで良いと思われます。クルーズ陣営はアイオワ州での手堅い選挙戦略から推察するに、次回の選挙戦略上の力点は保守派が多いサウスカロライナ州での勝利ということになるでしょう。
したがって、第二戦のニューハンプシャーはトランプVSルビオら主流派という構図になるかと思われます。トランプ氏は保守派や主流派と彼らの得意とする州でその都度正面衝突することになり、なかなかハードな選挙対応を強いられていると言えるでしょう。
アイオワ州での結果を受けて、トランプ、クルーズ、ルビオの3つ巴の戦いはしばらく続くことになりそうです。今回のトランプ首位陥落によって米国大統領選挙は更に面白い展開になってきました。
2015年12月16日
ドナルド・トランプ共和党予備選勝利宣言としての「健康診断書」
(写真はANNから引用)
ドナルド・トランプが「健康診断書」を提出した意味とは・・・
トランプ氏が自分自身の健康診断書を提出し、「歴代の大統領で最も健康的な大統領になる」というコメントを発表しました。これを受けてオバマ政権は「歴代大統領の全員を診断したのか!」と的外れなコメントで応酬したことが日本でも話題になりました。
前代未聞のドナルド・トランプの健康診断書(トランプ氏のHP)
Monmouth大学の調査で予備選挙の支持率40ポイントを超えた段階で、トランプ氏の健康診断書を提出したことには大統領本選挙における重要なメッセージが含まれています。そして、民主党側であるホワイトハウスが過剰な反応を示したことは、大統領候補者の健康問題が民主党にとってアキレス健であることを意味しています。
ヒラリー・クリントンとの戦いに重点をシフトしたドナルド・トランプ
以前の記事でも書きましたが、トランプ氏にとっては40ポイントを超えることは予備選挙における勝利の可能性が格段に高まったことを意味します。脱落していく他の予備選挙候補者から支持者を残り10%を回収していくことで50%を超える結果を出すというプロセスが見えてくるからです。(同時期のABCでも38ポイントということで高い数字が一回限りマグレではないことが伺えます。)
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(12月11日、記事脱稿後にトランプ氏の支持率が上昇しました。)
そのため、トランプ氏は予備選挙における「勝利宣言」&「対ヒラリー」の意味を込めて、「健康診断書」を提出するという一手を打ってきたと言えるでしょう。
民主党の候補者として確定的だと思われているヒラリー・クリントンは在任中70歳を超える高齢になる点ではトランプ氏と一緒ですが、国務長官在任中に脱水症状から失神、脳振とうを起こして入院した上、現在も抗血液凝固剤を常用している状態です。
つまり、トランプ氏は予備選挙はほぼ終結したものとして、現状の各種世論調査でトランプVSヒラリーではヒラリー有利という数字を逆転するため、「ヒラリー・クリントンには健康不安があるが、自分は力強くて健康である」という民主党への宣戦布告を早々に行ったものと言えます。
トランプはアイオワ、ニューハンプシャー、サウスカロライナの初戦を制するか
トランプ氏は年明2月に党員集会が開催されるアイオワ州では現在の支持率でテッド・クルーズ氏と肉薄した状態にあります。しかし、アイオワ州は短期間の集中的な選挙キャンペーンによって比較的逆転することが可能な地域であり、トランプ氏が1月からアイオワ州に入って、積極的な草の根活動を行うことができれば支持率は回復することになるでしょう。(2012年大統領選挙のとき、保守派のサントラムは2週間で99郡を回る重点的なキャンペーンを貼り、大本命のロムニーにアイオワ州で勝利しました。)
トランプ氏はアイオワに続くニューハンプシャーやサウスカロライナでは高い支持率を維持しており、このまま共和党指導部がトランプ氏に対して無策のままであれば、トランプ氏が共和党の予備選挙を勝ち抜く可能性はかなりリアルな状況になってきました。
WSJが2012年大統領選挙時のミット・ロムニーの未公開株でのスキャンダルを引き合いに出し、トランプ氏の30年前の思い出話をネタにして「トランプ氏とマフィアの関係について調査しろ」という社説を掲載するほど、共和党シンパの中でもトランプ氏勝利への危機感は高まっています。
CNNの共和党予備選挙のディベートが決める今後の対戦構図
日本時間16日午前中今年最後のCNNの共和党予備選挙候補者のディベートが予定さており、共和党の予備選挙候補者が激しく火花を散らす予定です。
このディベートでは、トランプ氏とテッド・クルーズ氏の対決がどのようになるかが見所です。両者はアウトサイダーと保守派という共和党内部では反主流勢力の代表者ですが、現在支持率で1位と2位というトップ争いで鎬を削る状況となっています。
構図としては、トランプ氏は「テッド・クルーズ氏がハーバード出身でGSマネージングディレクターの奥さんを持ち石油会社から資金提供を受けているエスタブリッシュメントの操り人形だ」と批判することが予想されます。それに対して、今回のディベートのメインテーマとして設定されている安全保障の政策論争で、各候補者がトランプ氏の支持率をどのように切り崩すかが注目されるところです。
このディベートでテッド・クルーズ氏が落ちていくことになれば、誰がその受け皿になるのか、が問われることになり、トランプ氏と雌雄を決する共和党予備選挙の候補者が再浮上してくることになります。私はヒラリーに対して現在の世論調査で唯一勝っている候補者である、マルコ・ルビオ氏に穏健派・保守派の支持が集約していくのではないかと予測します。
現在の世論調査でヒラリーに勝てる数字を出しているマルコ・ルビオ氏(2016年大統領選挙世論調査)
もしくは、トランプ氏はもはや共和党予備選挙レースを終わったものとして、穏健派・保守派の連合した候補者と戦う道は避けたいでしょうが、トランプ氏の思惑通りにうまくことは運ぶでしょうか?
2016年大統領選挙はトランプの掌の上で踊ったまま?
さて、上記の筋書きはトランプ陣営が描いているであろう戦略について簡単にまとめてみたものです。今のところ、トランプ氏に対する共和党の他候補者たちは完全にトランプ氏の掌の上で転がされている状況にあります。
トランプ氏は様々な問題発言(特に反ムスリム発言)で支持率が上昇してきていますが、それらを実行することは実務上非常に難易度が高く、その連続的な成功が一連のトランプ氏の行動が計算されたものであることを証明しています。最も難しい発言であったムスリム入国拒否が「テレビの突発的な発言」ではなく、ダメージコントロールしやすい「プレスリリース」で行われたことからもトランプ陣営の選挙戦の腕の良さが分かります。
ムスリム入国拒否プレスリリース(原本)
年明けから本格化する共和党の指名レースはまだまだ見応えが十分な状況です。共和党の他候補者たちもトランプ氏の戦略に乗せられていたことに気が付いているはずであり、ここから巻き返しが図れる策を練りこんでくるでしょう。まさに「これが民主主義だ!」という熱戦が繰り広げられる米国大統領選挙の面白さは知れば知るほど病みつきになります。
追記:CNN でもトランプ氏はうまく乗りきり、しかも驚くべきことに冗談交じりにテッド・クルーズ氏を副大統領候補として持ち上げました。トランプ氏の沈着な算盤には驚きます。明らかにトランプ氏はレースをクロージングしたがってますが、手強いライバルがそれを許してくれるのか。今後も面白くなりました。
2015年12月08日
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?
2015年10月~11月の各候補者の支持率推移について振り返る
本ブログでは、2016年米国共和党予備選挙について、過去3回に渡って分析を行ってきました。
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙(11月6日)
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
この中で予測として当たっていたことは、(1)ドナルド・トランプの支持率は落ちない、(2)ベン・カーソンの支持率は落ちる、(3)マルコ・ルビオの支持率は上がる&ブッシュは支持が低迷する、の3点です。これらはすべて的中したことになります。
上記の程度のことは米国側の政治情勢を理解して情報ルートを持っていれば当たり前のように分かることです。まあ、私が9月くらいに会った日本人の米国研究者・米国通の政治家らは「ブッシュが来る」「スコット・ウォーカーが来る」「トランプは落ちる」とかいい加減な話をしてましたが。。。
米国共和党大統領候補・予備選挙の主要なプレーヤーは来年1月中旬~末に確定する
とはいうものの、米国共和党の予備選挙の指名を最後まで争うプレーヤーは来年1月中旬~末に確定することになります。現時点ではトップを独走しているトランプはダントツなので1枠確定として、追加で2名程度1月下旬までに生き残りが確定することになるでしょう。
なぜなら、3月2日~5日に予定されている共和党保守派最大のイベントであるCPACにおける保守派運動員による模擬投票は実質的に共和党予備選挙に決着をつけることになるため、その1か月前までに各候補者は自分の指名の可能性に見切りをつけるからです。
そのため、12月末~1月初旬にかけて既存の候補者らが退陣することで、彼らが獲得していた票が他候補者に集約された時点で大きく票が動くことになるため、現時点ではかなり予測が困難な状況と言えます。
「ベン・カーソンとテッド・クルーズは生き残らない」と予想する
本ブログが過去でベン・カーソンが生き残らないと予想した理由は、彼の支持率が保守派の草の根運動に支えられたブームに乗ったものだからです。
共和党大統領候補・予備選挙では一時的に保守派の特定の候補者が人気を集めた後に支持率を急落させる傾向があります。そして、再び別の保守派の候補者が急落した候補者の支持を奪って上昇していく形となります。それが今回のスコット・ウォーカー、ベン・カーソン、テッド・クルーズの3氏の支持率の変化の要因です。
これらは保守派の候補者は共和党穏健派・民主党にシンパシーが強いメディアからの凄まじいバッシングに曝されるため、長期間の高い支持率を維持することは困難なことに起因します。逆に保守派は候補者を濫立させることで、保守派が一人潰されても直ぐに次の候補者に乗り換えるという対処策を取っているようにも見えます。
現段階で高い支持率にある、ベン・カーソン、テッド・クルーズの両氏は1月中旬まで高支持率を維持できるかは極めて疑問です。
最後に生き残る候補者を数字の足し算・引き算から予測してみる
現在、穏健派、保守派、トランプ、という3つのグルーピングで分けた場合の支持率合計は、12月7日発表のRCPアベレージの数字を用いて計算すると、
穏健派・・・合計23.6ポイント(ルビオ、ブッシュ、クリスティー、ケーシック、パタキ)
保守派・・・合計39ポイント(カーソン、クルーズ、フィオリーナ、ハッカビー、ポール)
トランプ・・・合計30.3ポイント
というポイントになるわけです。現段階で高い支持率がある保守派のカーソン及びクルーズがメディア・バッシングを受け続けて失速する可能性が高く、ハッカビー及びポールも伸び悩むであろう中で、フィオリーナに保守派の支持が集まる動きが出てくるでしょう。
保守派の候補者らが撤退していくと同時に、穏健派もブッシュ、クリスティー、ケーシックの撤退が予想されるため、マルコ・ルビオに支持が一元化していくことになると思います。(ルビオにスキャンダルがあればブッシュ)
トランプの弱点は他候補者との親和性が低いため、穏健派・保守派が脱落していく数字のうち10ポイント以上獲得できるかどうかが勝負の分かれ目になるでしょう。5ポイント前後の吸収率では最終的な穏健派・保守派の候補者の合同数字には敵わないことが予測されるからです。
注目すべき点は3月CPAC前にトランプが他候補を突き放せるか
CPACはAmerican Conservative Unionという全米最大の保守派団体が毎年開いている年次総会であり、上述の通りCPACで行われる模擬投票で事実上の候補者が内定します。
現在、穏健派だけでなく保守派からもトランプへの風当たりはかなり強い状況だと思います。
トランプは強力な草の根組織を持つ保守派からも独立した存在であり、穏健派候補者以上にアンコントロールだと考えられているとともに、民主党のヒラリーに勝てるかどうかが危ぶまれているからです。
そのため、CPACでの投票でトランプが勝利することは困難ではないかと予測します。トランプは保守派の年次総会であるCPACで模擬投票が行われる前に事実上の決着をつけることができなければ極めて苦しい立場に立つことになるでしょう。逆にトランプ以外の候補者はCPACまで粘り切れば逆転の芽があるということになります。
したがって、2016共和党大統領候補・予備選挙の勝負の見どころは1月~2月でトランプが他候補者を突き放すか否か、ということになります。ますます面白い展開になりそうです。
2015年11月06日
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙
米国大統領の共和党予備選挙は非常に長期間に渡って行われるため、各候補者のデータを見ているだけで楽しむことが可能です。各人の推移を見ていると、候補者の支持率の浮き沈みの理由を知ることができます。(http://www.realclearpolitics.com/epolls/2016/president/us/2016_republican_presidential_nomination-3823.html)
ベン・カーソンの支持率は何故伸びているのか
黒人医師のベン・カーソンの支持率が爆走していたトランプと並んできています。何故、ベン・カーソンの支持率が伸びているかというと、同じ保守派のスコット・ウォーカー・ウィンスコンシン州知事が撤退したことによります。ベン・カーソンの支持率が伸びると同時にスコット・ウォーカーの支持率が落ちています。
ベン・カーソンは保守派の踏み絵である「納税者保護誓約書」(全ての増税に反対する署名)に11月2日署名したため、今後もベン・カーソンが伸びていく流れはしばらく継続することになると思います。全米税制改革協議会が管理する同誓約書は米国においては保守派であることの証明書の役割を果たしており大変に重要視されています。
ジェブ・ブッシュの支持率は何故上がらないのか
ジェブ・ブッシュの支持率はマルコ・ルビオとジョン・ケーシックの支持率との間で関係性が見られます。ジェブ・ブッシュの支持率はマルコ・ルビオとジョン・ケーシックの支持率が上がる度に低下している形になります。
マルコ・ルビオは元々保守派として知られていましたが、移民問題への弱腰な姿勢を問われて徐々に穏健派にも軸足を置くようになり、現在は穏健派の代表格であるジェブ・ブッシュとの支持層が被るようになっています。二人の地盤がフロリダ州という意味でも競合が激しい状況です。
ドナルド・トランプの支持層は他の候補の支持層とは一線を画している
ドナルド・トランプは独自のトランプ支持層を形成しており、他の支持者の支持率の浮き沈みから影響を受けにくい状態になっていることが分かります。そのため、トランプ支持層が決定的に瓦解することは現時点では予想し難い状況です。
米国の保守派の選挙運動は「草の根組織による盛り上げ」が重要です。ベン・カーソンらの保守派の候補者はこの盛り上げ効果によって急激に支持率が変動する特徴があります。そのため、一度流れが変わると支持率の上げ下げが激しい傾向があります。保守派にはベン・カーソン以外の選択があるため、現在トランプに肉薄しているベン・カーソンは支持を落とす可能性もあります。
共和党大統領予備選挙の本番は年明けから開始
現状の予測ではどのような展開になるかは分かりませんが、現在の自分の予想では、ドナルド・トランプ、マルコ・ルビオ、ジェブ・ブッシュの3つ巴になるのではないかと思っています。
独自の支持層を固めるドナルド・トランプが脱落していく保守派の支持者をどれだけ取り込めるのか、マルコ・ルビオが着実に穏健派からの支持を集めつつ保守派の受け皿にもなれるのか、ジェブ・ブッシュがルビオから穏健派の支持を取り戻すことができるのか。
勝負の予測は全くつかない状況ですが、共和党の米国大統領候補者選びが日本に与える影響は大きく、今後も注意深く見守っていきたいと思います。