メディア

2016年11月14日

大統領選挙・日本を覆いつくした米国メディアのソフトパワー

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大統領選挙・日本を覆いつくした米国メディアのソフト・パワー

米国の大統領選挙に関して日本人は当然投票権を持っているわけではありません。しかし、多くの人が米国大統領選挙に関心を持っていたことも事実です。そして、大半の人がヒラリー勝利を確信していたものと思います。

実際にはヒラリー勝利は「米国メディがそう報じたこと」以外はほとんど無根拠な予測でしかなく、トランプ氏がヒラリーを破ったことで皆が幻想を見せられていたことが分かりました。このことについて筆者は散々論じてきたので今回は割愛します。興味ある人はこちらまで。(なぜ有識者は「トランプ当選」を外し続けたのか?

今回、筆者が伝えたいことは、巨大なメディアを有している国のソフトパワーについてです。

ソフトパワーは元々ジョセフ・ナイ(クリントン大統領時代のブレーン・知日派)によって提唱された通貨、文化、その他諸々多様な要素を含む国力の新しい概念でした。そして、この概念はグローバル社会におけるハードパワー(軍事力)に匹敵する力として様々な批判を浴びながらも定着したものになっていると思います。

今回、米国大統領選挙に関する日本の様子を見ていて、筆者が感じたことは「この国は簡単に米国のプロパガンダにやられる、ソフトパワーとしては三流国なのだ」ということです。

日本のメディアは米国の報道を垂れ流し続けて何の疑問もなく、そして国内からもほとんど報道内容がおかしいという検証もなされないわけです。ヒラリー万歳報道に散々騙された挙句、更に米国メディアの「かくれトランプ支持者」なる言い訳報道を何の検証もなく鵜呑みにしているわけです。オレオレ詐欺が無くならないわけだとしみじみします。

まさに文化的・メディア的な植民地状態を露呈した有り様であり、米国のメディアが持つ影響力は日本にとって非常に脅威だと感じました。

米国エスタブリッシュメントの代弁者としての日本人有識者という存在

さらに、単純に日本のメディアが米国メディアの丸写しであるというだけでなく、そこに登場する有識者の大半も米国エスタブリッシュメントの代弁者に善意によって自然となってしまう構造があります。

それらの有識者とされる人々は官僚・学者・メディアの人間ですが、彼らは米国滞在中に大学・メディア・役人などの極めてリベラルな人たちと接触する機会を多く持つことになります。

そして、日本人は米国政治における基礎的な政治教育を受けることないので、先方のエリート大学などに留学して教育を受けてすっかりリベラルに染め上げられてしまいます。更に、ハーバードをはじめとした米国のエリート大学の中でエスタブリッシュメントとの人間関係が出来上がります。

彼らが米国の友人に聞いたとか、米国でヒアリングしたとか、という際に接触しているのは、リベラルなエスタブリッシュメントばかりなので情報にバイアスがかかります。

そのため、これらの人々が日本のメディアに出て解説を行うことでメディアの偏りが一層加速する形になります。これは陰謀説というよりも、人間ってそういうものだよね、っていう話だと思ってください。彼らが悪いというよりも構造上仕方がないことなのです。

こうして米国エスタブリッシュメントの無自覚な代弁者が出来上がっていくものなのです。筆者は一方に偏り過ぎた情報のみが真実として日本に入ってくることには強い疑問を感じます。

米国のように優れた大学などの教育機関を有していると、世界各国から人材を受け入れてネットワークを作ることができるという「ソフトパワー戦略の見本」を示してくれているとも言えますが。。。

なぜ米国民の半数は強力なメディアキャンペーンに屈しなかったか

私たちのような外人(日本人)がすっかりヒラリー大統領だと思い込まされていたにも関わらず、米国では何故半数の人々がヒラリーを拒絶するような不屈の精神を発揮できたのでしょうか。

それは共和党系のグラスルーツ(草の根団体)による政治教育の結果です。米国共和党系の保守派グラスルーツは長年のCNNを筆頭とした偏向報道に対して非常に深い懸念を抱いています。そのため、大手メディアは常に民主党に偏向していることを自らの支持者に伝えているため、もはや米国共和党支持者にとっては米国メディアの偏向報道は慣れっこ&スルーになっているわけです。

更に、どのテレビ番組が放映時間の何分間で偏向報道を行ったのか、を計測して発表するような非営利団体まで存在しており、大手メディアは国民側からも常に監視されています。もはや権力と化したメディアは国民に根差したグラスルーツに監視される存在になっているのです。

また、共和党側からはリベラルに偏重する米国の大学への信頼も地に落ちているため、その代替機関として政府から独立した民間シンクタンクが発達しています。これらの組織は自由主義の立場(米国のリベラル=大きな政府の反対)から独自の提言・レポートを生産しており、共和党支持者はシンクタンクからの情報を信頼しています。

上記の通り、米国内ではメディア・大学・政府を牛耳るエスタブリッシュメントに対抗するソフトパワーが準備されており、 米国民はそれらの情報を摂取しているため、多少メディアが煽ったところで簡単に騙されにくい構造ができあがっています。

日本の課題はメディア報道に振り回されないリテラシーを構築すること

日本は独自のメディア情報網が非常に脆弱であり、米国における情報収集能力でも上記の有り様という状況になっています。そのため、一朝一夕で日本独自の情報発信組織を作ることは困難です。

そこで、一般的なメディアなどに対する免疫をつけることから始めるべきでしょう。

筆者は特に今回のヒラリー勝利の誤情報を国会議員ですら信じ込んでいた人も多かったことを懸念しています。このような貧弱なソフトパワー・脆弱な国家のままでは簡単に外国にひっくり返されるのが関の山だからです。今回、ヒラリーが必ず勝つと思っていた国会議員の人たちはリテラシーが低すぎて外交に携わって頂くのが心配で仕方がありません。

そのため、初歩としては、日本国内のメディア・大学などのリベラル偏向に対する米国流のグラスルーツの対抗措置を参考にして、日本版のリテラシーを高める試みを実践していくことが望まれます。そうすることで、外国メディアに対するリテラシーを高めることは自然とできるようになってくるでしょう。

米国エスタブリッシュメントが有する圧倒的なソフトパワーを見せつけられたこと、それが今回の大統領選挙における日本人としての最大の収穫だったと感じています。





本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 20:02|PermalinkComments(0)

2016年11月02日

トランプ大統領誕生時、「日本の米国研究者」というリスク

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Abe urges TPP approval in meeting with Clinton in New Yorkから引用>

トランプ支持率急上昇、ヒラリーは予測獲得選挙人数が減少

トランプ氏の支持率が急速に改善しつつあり、ヒラリー陣営のRCPの獲得選挙人予測も減少しつつあります。勝負の予測はもはや選挙当日にならないと分からない状況となっています。(筆者はヒラリー支持の若年層比率の高さからトランプが逆転できる可能性はあるものと予測しています。)

このような伯仲した選挙戦になることは支持率、特に接戦州の支持率調査を見ていればある程度は予測できました。

ヒラリー支持の各種メディアの発表よりも毎日発表される世論調査の数字を追いかけることで、米国政治の専門家でなくても状況を把握することが可能な状況があります。

トランプ大統領誕生時の最大のリスクは「ヒラリー万歳に偏った日本の米国研究者」たち

ところで、トランプ大統領誕生時の日本外交のリスクはトランプ氏自身にあるわけだけではありません。最大のリスクは「日本の外交チャネルの一部を担ってきた米国研究識者」たちです。

トランプ陣営も含めて米国政界では東アジア情勢に対する関心は中東・ロシアと比べて高くありません。そのため、トランプ大統領が誕生した場合、トランプ氏に対する東アジア各国の国内世論の情勢について再調査することが想定されます。

我が国の米国通とされる識者たちは、共和党の予備選挙段階からトランプ氏を「泡沫扱い」するような言動を繰り返してきました。そして、最近に至るまでヒラリー万歳の姿勢でトランプ氏に対して罵詈雑言に近い論評を発表し続けています。

筆者は個人としてのヒラリー支持が悪いと言っているわけではなく、メディアが登場させる「識者」とされる人々のヒラリー支持への傾斜ぶりが危険だと思っています。

これら日本の米国通とされる識者は予備選挙段階から予想を外し続けていますが、それでも米国側から見た場合、彼らの意見は日本の識者の見解の総意に見えるからです。トランプ陣営のスタッフがそれらの人々のせいで「日本の政府関係者はここまで反トランプなのか」と驚くことになる姿が想像できます。

対米外交の観点から見た場合、日本の大統領選挙関連の論評はかなりバランスが悪い状況だと言えるでしょう。

大統領選挙の結果が出る前に「ヒラリー支持を間接に打ち出した日本政府」というリスク

安倍首相は9月下旬にヒラリーと面会してTPPについてプッシュすることに成功しました。ヒラリー自身はTPPに選挙上は慎重な姿勢を取っているため迷惑だったかもしれませんが、安倍首相が大統領選挙の片方の候補者に間接的に支持を表明したことになります。(当然ですが、TPPの要望を行うことはヒラリーが大統領になることが前提だからです)

これはトランプ氏の全米的な猛追の可能性を予測できず、メディアや米国通の識者を妄信した安倍政権の暴走とも言える外交的な一手だったと思います。

同会談に関してはヒラリーの外交ブレーンであるカート・キャンベル氏が「(安倍総理は)より良い日ロ関係は利益になると説明した。クリントン氏は『戦略的な見識を受け入れる』と答えた」と内容を暴露しました。つまり、北方領土交渉で喉に刺さった骨になる米国側の了解がほしい安倍政権の外交的な賭けだったわけです。

しかし、現実にはヒラリーはトランプ氏に猛追されており、万が一トランプ氏が勝った場合に本件は外交的な大失敗ということになるでしょう。

キャンベル氏の発表直後にトランプ氏の外交アドバイザーであるフリン氏を来日させて意見交換していますが、このような対応を実施してもトランプ氏からの心証が良いはずがありません。

国の命運を賭けた外交は万が一を考えて慎重に行うべきものです。一か八かの賭け事のようなやり方に賛同できませんし、これも日本国内の米国研究識者らの意見の偏りが招いたリスクだと思います。

トランプ大統領が誕生した場合、日米外交のパイプは極めて希薄なものになる

米ブッシュ前政権で国家安全保障会議アジア上級部長を務めた知日派のマイケル・グリーン氏らはトランプ氏に対して批判的であり、ヒラリー寄りの発言を繰り返しています。

日本の米国通とされる国会議員・識者らはグリーン氏のような従来までの米国とのパイプしか持っておらず、トランプ陣営との繋がりは脆弱なものとなっています。これらの国会議員の中には大統領選挙中のトランプ氏を公然と批判するような事例も存在しています。

筆者はトランプ陣営に関与している安全保障関連のスタッフに面会する機会を得ましたが、同スタッフによると日米の外交的な関係は極めて希薄なものになっているとのことでした。

このような状況を招いてきたのは、ヒラリー万歳のポジショントークに終始し、トランプ陣営との外交チャネルの構築を怠ってきた既存の対米外交関係者の責任です。更に言及するならグリーン氏らのお馴染みの人々だけでなく、共和党・民主党の更にディープなレベルにまで恒常的に関係性を築いておくべきです。

まだ見たこともないトランプ外交をリスク扱いする以前に、日本政府及び米国研究の識者らの外交チャネルの偏りこそが最大のリスクになっていると思います。

仮にトランプ大統領が誕生した場合、従来までの外交チャネルを全面的に見直し、対米外交の在り方そのものを根本的に改革することが重要になるでしょう。





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2016年04月29日

何故、NHKの大統領選挙報道は視聴する価値がないのか?

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NHKの「米国大統領選挙に関する報道」は視聴するに値しない理由とは

トランプ氏 日本に負担増求め中ロ関係立て直しを(NHK、4月28日)

というニュースを目にして、現在無理やり加入させられているNHK解約を決意しました。ちょうど我が家のTVが故障して捨てるところだったこともありますが、正直言って報道取材のレベルの低さに飽き飽きしましたね。

本ブログの賢明な読者諸氏は、NHKなんぞ最初から見るに値しない、というかもしれませんが、私が呆れかえった理由は「自分以下の取材力」で「あるべき報道とは真逆の内容」を「堂々と国民に流布する」姿は辟易したということです。

自分はNHKが左翼だとか、現会長が安倍側近だとか、そんなことはどうでも良いんです。そうではなくて、まともに取材ができないなら報道を止めてしまえ、と思うわけです。この人たちは筆者から徴収した料金で常時ワシントンに駐在して何やってんだろうと。以下、何故NHKの米国大統領選挙報道を視聴する価値がないかを説明していきます。

トランプの外交ブレーンではなくトランプの政敵に取材して「トランプ外交」を語る愚劣な取材

一言で言うと、NHKは取材先すらまともに選択することができない組織だ、ということです。

本報道はトランプ氏の外交政策について日本国民に伝えるための報道だったと思います。それであれば、当然に「既に発表されているトランプ氏の外交ブレーン」に取材することが当然に求められます。

トランプ氏の外交ブレーンとして名前を公表している人物らの連絡先は調べれば直ぐに分かります。メディアとして取材依頼を行うことは簡単なことです。そして、NHKが取材を断られたら断られたでそれ自体が価値ある情報であり、トランプ氏の外国メディアへの対応姿勢の現われということができたはずです。

しかし、NHKはそのような当たり前の取材行為をせずに「取材先としてあり得ない人物」のコメントを掲載し、それをあたかもトランプ氏の日米関係の外交政策に関する見通しとして日本人に伝えたわけです。

では、NHKが取材した先はどんな人物だったかというと、簡単に言うなら「トランプ氏の政敵」です(笑)

つまり、トランプ氏の外交方針に関する分析を行うという趣旨で「トランプ氏の外交方針を最初から全否定する人物」を選んで取材しているのです。

報道中のAEIというシンクタンクは日本の親米派保守系議員が日参するシンクタンクとして有名です。そして、彼らは米国内でも屈指のネオコン系のシンクタンクであり、トランプ氏の外交政策とは真っ向から衝突する研究機関でもあります。

従って、AEIの日本担当者の意見を聞いたところで、それは「トランプ氏の外交政策」をまともに解説することになるか甚だ疑問です。本来取材するべきトランプ氏の「外交ブレーン」ではなく「政敵」に取材をしただけで報道化する神経を疑います。

トランプ氏について昨年から見るに耐えかねるレベルの報道が多い理由とは

日本のメディアを見ていると、いずれのメディアも共和党予備選挙とトランプ氏について昨年から一貫して無価値な情報を垂れ流し続けてきました。彼らの共和党予備選挙の予測はことごとく外れており、現在でもトランプ氏については「取材先すら分からない」有様が続いています。

筆者は何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(2015年12月11日)、の中でも触れている通り、トランプ氏の放言は選挙戦略であり、本選時には発言内容を知的なものに修正していくと予言していました。他候補者のスタッフをM&Aしていくことで発言が修正されるということも断言させて頂きました。

そして、現実に直近に行われたトランプ氏の外交演説はまさに新規に加入したスタッフによる振付によるものであり、トランプ氏は本選を見据えて大統領らしい振る舞いに急速に自身のイメージを転換させつつあります。ほぼ全てが昨年に事前に予測した通りの状況です。

なぜ、NHKを始めとする日本メディアの予測が外れて、筆者の予測がほぼ全て当たるのでしょうか。それは筆者は米国に関する独自の取材網を構築しているとともに、日本の国会議員や政治家が頼りにしている「米国人の知日派」を重視していないからです。

米国には「知日派」と呼ばれる日本政策の担当者がいます。彼らはジャパンハンドラーズなどと呼ばれて、日本を操縦している云々と陰謀論が囁かれていることもありますが、「米国内での影響力は極めて限定的」です。

しかし、日本の国会議員もメディアもこれらの知日
派を神のごとく崇めており、そのご託宣を並べて有り難がっています。そして、既存の日本人の外交ルート・取材ルートも「知日派」しかいないため、これらの日本に関する利権で飯を食っている米国官僚の掌の上で転がされている状況となっています。日本の政治家は彼らの見解を垂れ流すだけで外交している気分になれるし、日本のメディアは米国政治を報道した気になれる便利な人々です。

更に言うと、現在、大半の知日派はトランプ政権への批判のトーンを明確に絞っており、彼らがトランプ政権入りを目指していることは明らかな状況です。そのため、NHKは知日派の中でも反トランプ姿勢を鮮明にしているAEIしか取材に応じてくれるところがなかったので、このコメントをそのまま流したのではないかと推測します。何とも貧弱な取材体制だなあと思わざるを得ません。

新しい対米関係を構築するための「新しい日本側のプレーヤー」が必要だ

既存の日本の政治家、官僚、メディアは「知日派」との関係が深すぎて簡単に方針転換することが困難であるため、日本人は新たな対米関係を築いていくための研究機関やメディアを構築していくことが必要です。

そして、米国の日本担当者でしかない知日派ではなく、もっと米国政治の深部に辿り着くようなディープなレベルでの情報網を構築し、アジア政策などについての情報交換を行う体制を整備することが望まれます。

そのような体制を構築出来て初めて、米国外交や米国に関する報道が価値を持つようになっていくことでしょう。米国と対等な関係を構築していくためには、日本人が米国内に知日派を上回る情報力と人脈を持つことが重要です。

スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19





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