ムスリム
2016年05月19日
トランプをレイシストだと罵る人に不都合な真実
トランプは実は共和党系のムスリムから最も人気がある予備選の候補者だった
2016年の大統領選挙において数か月前に一部のメディアで報道されたムスリムの投票傾向に関するデータの一つを紹介したいと思います。
上記のグラフはCouncil on American–Islamic Relations(CAIR)という在米のイスラム教徒の団体が今年3月に行われたスーパーチューズデーに際して、イスラム教徒1850人にアンケートを実施した結果です。(アンケート結果はこちら)
アンケート結果からも分かる通り、ムスリムのうち民主党系ムスリムが67%と過半数以上を占めている状況ではありますが、共和党系のムスリムも18%存在しており、回答者の約5人に1人は共和党系ムスリムという比率だったことが分かります。
一方、冒頭のグラフでも示した通り、トランプは共和党の予備選挙候補者の中では圧倒的な人気を誇っており、他候補者の追随を許さずにムスリム教徒からの圧倒的な支持を受けていました。米国在住ムスリムの10人に1人以上はトランプを支持しているということになります。
ヒラリーは有色人種対策に熱心であるためにサンダースよりもかなり高い数字を獲得しています。トランプ氏はレイシストだのなんだと誹謗中傷を受けることが多いのですが、下記のアンケート結果でいくとフロリダではサンダースとの支持率の差は僅か3%しかありません。同州ではサンダースはレイシストとして批判されるトランプとほぼ同じ程度しかムスリムから支持を獲得できていないということになります。
トランプがムスリムから人気の理由は「経済に強そう」だから
では、トランプ氏が共和党系のムスリムから支持を受けた理由を推察するためには、同アンケートで共和党系ムスリムが予備選挙で「経済」を最も重視する要素として取り上げていることに注目すべきでしょう。したがって、共和党系ムスリムからトランプは「経済に強そう」という理由で支持されていたことが分かります。
一方、民主党のムスリムはイスラム蔑視を最も重要視した人が多かったことが確認されています。ただし、関心事項1位のイスラム蔑視が27%、2位の経済が19%ということで1位と2位の差は僅か8%しかありません。つまり、民主党系ムスリムであったとしても「ムスリム蔑視」(レイシストの問題)を最重要視している人は約4人に1人ということになります。
「TIME」が取材したトランプに投票したムスリムの実像について
スーパーチューズデー後にTIME誌がトランプ氏に投票した3人のムスリムの実像について取材をしています。いずれの人々もトランプの反イスラム発言については深刻に捉えておらず、米国の住民として安全保障や経済問題などの観点からトランプ氏に投票していることが分かります。
Meet Three Muslims Voting for Donald Trump(TIME)
筆者は彼らがトランプ氏がレイシストであると主張して集会などで大声で抗議するような人々よりも極めて知的な回答を行っている印象を受けます。トランプ氏の発言を大人の目線で冷静に捉えており、自分自身が
ムスリムだからといってナイーブに騒ぎ立てるような印象はありません。
もちろん、筆者自身はムスリムではありませんから、彼らの心中については想像するしかありません。しかし、公表されたデータからは当のムスリムが全員一丸となって反トランプではないことが読み取れます。
「トランプはレイシストだからムスリムからは支持されていない」は間違っている
米国の大手メディアの大半は反共和党かつエスタブリッシュメント寄りであり、トランプ氏とその支持者は安易なステレオタイプ化の被害者となっています。そして、米国のメディアに情報を依存する日本メディアと日本人有識者らによって、日本人は単純化された解像度の低い米国大統領選挙の報道を消費させられています。
しかし、現実は「共和党の予備選挙候補者でムスリムから最も支持されていた候補者はトランプだった」ということは動かしがたい事実です。
在米のムスリムが彼らへの差別を感じていることは事実だと思います。しかし、殊更にそのことを重視するか否かは共和党系・民主党系ムスリムで異なるとともに、両者に共通する問題は経済であり、さらに共和党系ムスリムは「経済に強そう」という理由で予備選挙でトランプ氏に投票しているのです。
街頭・集会でデモをやったり抗議をしたりする類いのニュースにしやすい情報は日本にも入ってきます。そして、それを煽り立てる偏ったメディアや知識人が多いため、私たち日本人の目には在米ムスリムは「反トランプ一色」に見えしまいます。しかし、現実はちょっと違うみたいです。
トランプ氏をレイシストだと煽り立てる人々にとって不都合な真実は今後もフィルタリングをかけられて葬り去られていくでしょう。今回は備忘録的に書き留めておきたいと思います。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
yuyawatase at 07:00|Permalink│Comments(0)
2015年12月11日
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか
*写真はロイターから引用
反イスラム発言でホワイトハウスがトランプ氏を「大統領失格」と明言、しかし・・・
全てのムスリムを米国に入国禁止にするという発言が国内外のエスタブリッシュメントから非難を浴び、ホワイトハウスからはトランプ氏を名指しで大統領候補失格とする痛烈な罵倒が浴びせられました。
トランプ氏は民主党だけでなく共和党エスタブリッシュメントから煙たがられており、それらの人々による「彼はエンターテイナーである」という蔑視した発言が度々取り上げられています。
しかし、大問題となった反イスラム発言があっても、トランプ氏の支持率は落ちていく様子はありません。本ブログはこれら一連のトランプ氏の暴言がトランプ氏の明確な選挙戦略によるものと推測します。
たった一代で資産1兆円を築いたトランプ氏を馬鹿だと看做す人々は世間知らずであり、今回は記事ではトランプ氏の行動から見られる冷静な選挙戦略を確認していきます。
本ブログは最初から一貫してトランプ有利を予測し続けた理由
本ブログはトランプ氏の優勢が継続することを一貫して主張してきました。結果として、他の日本人の米国研究者らによって必ず落ちると言われたトランプ氏の支持率は落ちることなく高い水準をキープしています。
<米国大統領選挙に関する過去記事>
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙(11月6日)
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?(12月8日)
トランプ氏の支持率が落ちない理由は「米国内のエスタブリッシュメントがトランプ氏の支持率が落ちると言っているから」に他なりません。それらエスタブリッシュメントの発言が彼らを毛嫌いするトランプ支持層からトランプ氏への強固な支持を固めていると言えます。
実際、共和党支持層への世論調査では発言自体への賛否が拮抗しており、ムスリム自体に対する好ましくない感情は幅広く共有されている状況にあります。これらは陣営が世論調査を事前に実施していれば簡単に分かることです。
つまり、今回の反ムスリム発言に対して、ホワイトハウスや国内外のエスタブリッシュメントが懸念を示したことは、むしろトランプ氏にとっては共和党予備選挙の勝利を目指す上で計算通りの結果になったと言えるでしょう。
トランプ氏が共和党内の予備選挙を勝利するためには極めて妥当な戦略
前述のとおり、トランプ氏は共和党内部から異端視されている状況にありますが、それでは最初から大人しくしていれば、トランプ氏は共和党の予備選挙で指名獲得の有力候補者になれたのでしょうか。
答えは明らかに「No」です。行儀よく選挙戦をスタートした直後、トランプ氏の支持率は他候補者よりも大きく遅れを取った状況にあり、誰もトランプ氏が現在のような優勢を築くとは思っていませんでした。
その後、トランプ氏がエスタブリッシュメントに対して敵対姿勢を見せることで、彼らに反対する支持層を効率的に取り込んできた結果が現状の優勢に繋がっています。これらはトランプ氏の積極的な行動によって掘り起こされた有権者層です。既にトランプ氏は共和党支持層の30%程度を強固な形で手中にしており、あと20%を手に入れれば共和党の指名競争で勝利することができます。
トランプ氏の次なる戦略は党内保守派から票を奪い取ることであり、具体的にはテッド・クルーズ氏に集約されつつある保守票を切り崩しつつ、そのほかの保守派の受け皿となる候補者の芽を摘むことです。
保守派の運動家に支持される候補者はベン・カーソンの例でも明らかなように、メディアによるスキャンダルなどで支持率が上限する幅が大きく(2012大統領予備選挙も同様の現象が発生)、現在上がり調子のテッド・クルーズが支持を落とす瞬間にカーリー・フィオリーナなどの他候補者ではなく、トランプ氏に乗り換え票を積み増しできるかが勝負となります。
保守派指導部からも必ずしも好意的に思われていないトランプ氏が勝利するためには、指名競争で決定的な意味合いを持つ来年3月に予定されている保守派の総会であるCPACの前に実質的な決着をつけることが必須となります。そのため、極端に見える行動で他の保守派候補を全て片づけることが必要なのです。その上で、マルコ・ルビオ氏との最終的な対決を経て、共和党の指名を獲得することがゴールということになります。
ちなみに、共和党はトランプが共和・民主でもない第三の候補者として出馬することを恐れているので、トランプ氏が暴言を繰り返しても、共和党から追放するということはなかなか難しいでしょう。
トランプ氏で共和党は民主党大統領候補者に勝利することができるのか
トランプ氏が仮に指名競争で勝利した場合に、民主党の大統領候補者に勝利することができるか、という問いに関しては、トランプ勝利の可能性も極めて高い、ということが言えます。
共和党の予備選挙候補者が全員脱落した後、彼らに仕えていた政策スタッフが全て在野に戻ることになります。トランプ氏はそれらの有能な人材をM&Aしていくことによって、自分自身の政策力を高めてヒラリーとの討論に臨むことになるでしょう。
このとき、最も重要なことは、「ヒラリーを知的かつ論理的に倒す」という政治的インパクトを与えることです。これだけのことで、トランプ氏の評価は完全に逆転して米国大統領の地位を手に入れることができます。
自分自身の印象を良くするために「ギャップ」を利用することは選挙戦略の基本であり、現状のトランプ氏のイメージで大統領本選挙中の様子を予想することは不毛なことです。むしろ、トランプ氏は本選中のギャップのインパクトの最大化を図るための積み上げをしているとも言えます。
以上のように、トランプ陣営がどのような選挙戦略を採用しているのか、ということについて偏見を抜きにして、淡々とまとめてみました。トランプ氏はビジネスマンらしい極めてクレーバーな戦略を採用していることが分かります。
今後もトランプ氏の狙い通りにいくかは定かではありませんが、トランプ氏の高い支持率はマグレではなく、完全に計算されたマーケティングによって実行されている、と見たほうが正確に理解できると思います。
yuyawatase at 14:26|Permalink│Comments(0)