マルコ・ルビオ

2015年12月19日

ミスリードするメディア、外交危機を招く共和党予備選挙報道

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Photo by Gage Skidmore、Wikimedia Commons


米国関係メディア・研究者関係者はジェブ・ブッシュからマルコ・ルビオに乗り換え中

12月中旬からマルコ・ルビオ氏に注目する言説が日本の中でも増えてきたようです。

トランプ氏を猛追する対中批判の急先鋒、ルビオ候補(JBpress古森義久氏)

元々日本の対米関係のメディア・研究関係の人々は穏健派の代表格であったブッシュ推しでした。私は今年2月に行われた共和党保守派の年次総会であるCPACに出席した段階でブッシュ氏に特別な勢いが無い姿を見ていたため、穏健派からしか情報を取れない人たちのブッシュ推しには一貫してかなり懐疑的でした。

しかし、日本メディアの米国報道は物事を見極める情報を十分に持たないため、上記の人々によって少なくとも2015年7月~8月段階ではブッシュを有力としてトランプは一時的な勢いとみなすような言説が溢れており、現在から見れば的外れな見通しが積み上げられてきました。

日本でマルコ・ルビオ氏に注目する論評が突然現れ始めた背景を推測する

最近、日本でマルコ・ルビオ氏に注目する論評が突然現れ始めた背景には、ウォール街も含めた共和党穏健派がブッシュからマルコ・ルビオ氏に乗り換えたことが影響しています。

日本の米国関係者は、米国共和党保守派から情報を取れないため、穏健派がマルコ・ルビオ氏を推している、という情報が出てから後追いで情報の垂れ流しを始めただけです。つまり、日本メディアは共和党穏健派のお墨付きが出てからでないと特定の大統領候補者を有力候補として扱わないというスタンスであり、米国の政治情勢の分析として一面的な報道が行われる欠陥があります。

実際、私が今年9月にお会いした日本人の研究者は「僕らのコミュニティではブッシュということになっています」と明言していましたが、情報収集・分析能力の低さにあきれ果てるばかりです。

上記の流れに対して、私の感想として「今更日本のメディアは何を言っているのか?」というところです。私自身は2012年段階、つまり前回の大統領選挙からマルコ・ルビオ氏には大統領候補としての逸材として注目してきました。

「共和党の大統領候補者選び、カギはマルコ・ルビオ氏!?」(日経ビジネスオンライン、2012年)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120220/227382/?rt=nocnt

今回のブログを開始してからもマルコ・ルビオ氏は穏健派・保守派の受け皿になるため、極めて有力な候補者として扱ってきています。実際、あたかも最近支持が伸びてきたかのように報道されているマルコ・ルビオ氏は各種世論調査でヒラリーに勝てる候補として米国では「かなり前から」扱われています。

<米国大統領選挙に関する過去記事>
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙(11月6日)
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?(12月8日)
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(12月11日)

ちなみに、私が上記の記事で言及したように12月19日現在の最新の世論調査でもトランプ氏の支持率は落ちていないどころかダントツです。

急ごしらえの取材・分析から共和党の外交政策の方向性を導き出すことは危機を招く


さて、そのような背景から今後マルコ・ルビオ氏への注目が日本における米国大統領選挙報道で増えていくことが予想されます。そして、米国大統領選挙に日本人からの関心を集めるために、マルコ・ルビオ氏は「尖閣諸島は日本領」と明言した唯一の立候補者として持ち上げられて報道されていくことになるでしょう。

実際、マルコ・ルビオ氏の外交方針は共和党の中でも極めてタカ派的であり、中国以外にも中東情勢に関しても共和党内随一の介入主義者です。しかし、現状では元記事にあるような米国の対中関係が大統領選挙の主要な争点になるということは言い過ぎだと思います。(ヒラリーが対中外交で弱みを抱えていることは事実のようですが・・・)

なぜなら、12月15日(米国時間)で行われた直近のCNNの共和党のディベート討論会の主要テーマは安全保障でしたが、共和党の予備選挙全候補者の議論が中東情勢とテロ対策に割かれており、米国では中国問題は完全に忘れ去られている状況だからです。

また、元記事でも使用されているマルコ・ルビオ氏の上記の写真は今年2月に行われた共和党保守派の総会であるCPACの時の写真ですが、同イベントでは対中問題はほとんど話題にはなっていません。(対中問題はCPAC会場で「台頭する中国」という分科会の一つとして取り上げられていたに過ぎません。)実際にCPACに出席していた人間なら共和党内の外交的関心が中東に集中していたことは自明だと思います。

日本の米国関係のメディア・研究者は、安易にマルコ・ルビオ氏の提灯を持とうとして日本人に誤った政策メッセージを送るべきではないと思います。

米国の関心を東アジア・東南アジアに引き止めるだけの努力を行うことが必要

米国では緊迫した中東情勢への関心が非常に高く、東アジア・東南アジアへの関心は相対的にかなり低い状況にあります。そのため、中国の海洋進出を始めとした拡張主義についての対応は、中東情勢の後回しになる可能性が極めて高いでしょう。

マルコ・ルビオ氏は米国の理念を強く主張しつつ中東への積極的な関与を主張しており、外交資源を中東以外の複数方面に振り向けることは現実的に極めて困難な状況になると推測されます。また、他の共和党候補者は中東情勢にすら積極的に介入することを好まない傾向を持つ人々もいます。そのような米国全体の雰囲気みたいなものを日本人は知る必要があるでしょう。

これらの状況を踏まえて、米国の東アジアへのコミットメント維持を望むのであれば、日本が米国の関与を積極的に引き出す試みを自主的に実施していくことが重要です。

日本人は米国人が東アジア、特に対中国という文脈で強い関心を持っているという幻想を抱くべきではありません。それらは日本人の願望から生まれる希望的観測に過ぎず、東アジア・東南アジア、日米同盟のパースペクティブに誤った認識を持つことになります。

今後、米国の関与を引き付けるために何をすべきなのか、日本自体がどのように振舞うべきなのか、米国大統領選挙の情勢を客観的に分析し、的確な対応を実施していくことが望まれます。





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yuyawatase at 17:40|PermalinkComments(0)