ブッシュ
2016年02月16日
中山俊宏教授のための共和党保守派入門(後篇)
前回、米国政治を専門と称する中山教授の「念願のCPACに初参加」という告白が、「自分は共和党保守派についてビギナー」だと指摘しましたが、このCPACとは何なのでしょうか。
CPAC(Conservative Political Action Conference)とは何か?
まず、前回のおさらいですが、CPACは米国共和党保守派にとっては入門的な場であるとともに、大統領予備選挙の指名を実質的に決める場です。
CPACは米国保守派の年次総会とも言えるような場であり、毎年開催されているCPACでは全ての大統領候補者が壇上に立ち、約1~2万人程度の保守派の草の根リーダーらに自らの考え方をアピールしています。
これは何故かというと、特に大統領選挙の年ではCPAC内で開催される大統領予備選挙の模擬投票が実際の予備選挙にも大きな影響を与えるからであり、2012年のロムニー予備選勝利に関してもCPACの投票結果は多大なインパクトをもたらしました。
2015年2月のCPACに出席していれば、ジェブ・ブッシュ氏の勢いがイマイチ欠けており、ドナルド・トランプ氏の旋風、マルコ・ルビオ氏の台頭などはある程度予測ができる空気感が漂っていました。
つまり、昨年の夏段階でブッシュ推しの日本人有識者はまったく共和党の空気感が分かっていない人だということが言えます。特に近年のCPACでは会長職の変更などの影響もあったのか、有色人種比率・若者比率も格段に増えていること、米国共和党保守派の変化を肌で体感することができる貴重な場でもあります。
また、CPAC会場内では多くの分科会・レセプションが開催されており、共和党保守派がどのような政策テーマに関心があるかを知ることもできます。つまり、米国共和党のイデオロギー的・政策的なテーマの方向性を知る上でもCPACへの参加は必須であると言えます。ちなみに、私の関与している団体がCPAC会場内でACUと共同で日米関係のレセプションを用意しています。
さらに、CPAC会場ではVIP用の部屋が別に構えられており、多忙なキーパーソンから会いたい人物が別室に招かれて会談を行うことも重要な機能です。私も過去に参加したCPACで当時の大統領予備選挙候補者とVIPルームで面会する機会が得られました。CPACは参加するだけなら「誰でも参加」できますが、インビテーションが無ければ入室できない催しもあり、間口は広く敷居の奥は深いイベントです。
CPACに一度も行ったことがなく、米国共和党保守派について知ったように語ることがいかにチープであるか、情報不足の日本メディアからは中山氏ら米国通を称する大学教授は持て囃されるかもしれませんが、米国の少なくとも「共和党保守派」を解説するには役不足だと思います。
こうした役不足の人物が偏見に基づいた解説をすることは、日本人に米国政治の潮流を見誤らせることになり、戦前と同じ過ちを我が国に侵させかねない行為です。
既存の政治関係者・有識者ルートから脱却した若い世代の外交ルートの発達
そもそも共和党保守派の日本への関心は従来までは高くありませんでした。上述の通り、私が関与している団体がACUとの共同レセプションを開催するまで、JapanのJの字もない状況だったと言っても過言ではありません。
これは米国共和党保守派という近年の政治シーンでは無視できない存在に対して、日本の政治・学会関係者がほぼノータッチだったことを意味しています。どれだけ日本外交は無策なんですかと。
従来までのように一部の米国通とされる有識者らが情報を独占し、自分にとって都合が良い解釈をメディアで流し続けて安泰でいられる時代ではなくなりました。日米関係という非常に重要な二国間関係に関わる情報ルートであっても、人間の行き来の活発化やネットの発達によって情報寡占は不可能になりつつあります。いまや新聞・テレビで解説されている程度の話は英字新聞どころか、英字新聞の日本語版サイトを見れば十分です。(日本のメディアでどんな発言しているかも相手国にキーパーソンに容易に伝わるようになりました。)
一方、これから重要になることは情報の解釈であり、筆者は米国共和党保守派の理念である「小さな政府」を始めとした政治思想が日本にとって伝えられるべき重要な思想であると考えています。
そのため、中山俊宏教授が述べられているような一方的なバイアスがかかった共和党保守派に関する言説ではなく、これら共和党保守派との間でしっかりと根をはった言論が増えてくることが望ましいものと思います。
これは日米関係だけではなく他国のケースであったとしても同様のことが言えるでしょう。海外の情報を摂取する際に、従来まで権威とされてきた情報源だけではなく、現地・現場とのリレーションに基づく情報の送受信の多様化が起きていくことが必要です。
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中山俊宏教授のための共和党保守派入門(前篇)
米国大統領選挙の解説で有名な中山俊宏教授とのTwitterでのやり取り
時節柄、米国大統領選挙の最新動向についての新聞やテレビ等でのコメンテーターによる解説が増えてきました。しかし、それらは、非常に偏った視点に基づく解説であることが多いのです。
その典型例は、NHK国際報道でお馴染みの慶応義塾大学教授の中山俊宏氏によるものです。彼の共和党保守派に対する分析は具体的な根拠に基づかない偏見や思い込みであり、しかも予想は連戦連敗しているのです。
中山氏は言います。
「今日のアイオワ党員集会にかんする短評を書き上げました。共同通信を介して明日配信されるはず。「共和党はこれでルビオでしょう」という雰囲気をかすかに漂わせせた。」
(2月2日、twitter)
→その後、ルビオ候補はニューハンプシャー予備選挙で5位と没落し、彼のtwitterはしばし沈黙し、その上でケーシックが善戦すると予想していたと言い始める始末。(ルビオ候補が有力であることは認めますし、NHの世論調査を見ていればケーシック善戦は誰でも分かる話ですが・・・)
「ジェブ・ブッシュがFB上で事実上の出馬表明。ブッシュとクリスティが競って、ブッシュが勝って、最終的に二人が組んでみたいなことになると、かなり強そう。」(2014年12月17日、twitter)
「ジェブ・ブッシュ氏(中略)の動向が要注目」(NHKBS国際報道、2014年10月28日)
→その後の展開を思えば的外れもよいところの予測です
「(米国における)茶会運動は政治運動としての保守主義が死んだ兆候だ」
(2010年12月17日)
→その後、茶会運動が滅亡することなく、政治運動としての保守主義が盛んになっていることを思えば失笑です
その他にも、テッド・クルーズは原理主義的で危険、ティーパーティ運動の参加者には陰謀論を持っている等の極端な言説が多く、共和党保守派やTea Party運動の方々と親交がある筆者としては以前より違和感・不快感を覚えてきました。
どうして、専門家を称しているのに、いつも的外れの予測と解説ばかりしてしまうのか。
しかし、中山教授の最近の以下の呟きを見て、私の疑問は一気に解決しました。
専門家ではなく、米国共和党保守派のビギナーだったのだから、これは仕方がないと。
この発言は、何を意味するのでしょうか。
CPACとは、米国保守派の入門的な一大イベントであり、そこで次期大統領候補が事実上決定される極めて重要な大会です。しかも、誰でも参加できるものであり、筆者も何度も参加して大統領予備選挙候補者を始めとした多くのVIPとの面談も行ってきました。CPACは共和党保守派を知る上では欠かすことができないイベントです。
筆者は中山教授に、この点を聞いてみました。
すると、中山教授からは、
というお返事をいただきました。ACUとはCPACの主催団体ですが、中山教授が名前を挙げているキーン会長は5年前に退任した方です。現在はアル・カーディナス前会長、マット・シュラップ現会長と二代も会長職が交代しています。しかも、ソルトレイクシティ―の話も2011年のことです。
2016年の大統領選挙はおろか、2012年大統領選挙の時でも現職でなかった方(立派な方ですが)の名前を挙げて、「俺は共和党保守派を知っているんだぞ」アピールされても、ますます「???」と思った次第です。米国のことは分からないだろうとタカをくくった態度が不誠実すぎますね。ちなみに、その後中山教授からはお返事ありません。CPAC初参加についての釈明もありません
ちなみに、筆者はフリーダムワークスから来賓として過去にダラスの大集会に招かれたことがありますが、直近4年以内の話なので中山氏に米国でお会いしたことはありませんね。
そもそも、中山教授の博士論文は、「米国共産党研究」ですから、共和党保守派をご存知ないのも無理はありません。
中山氏は2016年の予備選挙はセオリー通りではないことを予想が難しい理由に挙げていますが、トランプが全米支持率トップであることは一貫しており、トランプ台頭をあえて無視してきたか、そもそも世論調査すら見てないのか、どちらでしょうか?ちなみに、米国共和党に詳しくない人向けに解説すると、中山氏のセオリー通りではないという意味は中山氏が好きな共和党主流派の候補者らが苦戦しているというだけの話でしかありません。
次回は、そもそも、CPACとは何かについて、共和党保守派についてビギナーの中山教授の為にも解説したいと存じます。
中山俊宏教授のための共和党保守派入門(後編)に続く
2016年02月06日
トランプVSルビオ、ニューハンプシャー州予備選挙は佳境に
Wikipediaから引用
ここ数日、風邪で完全ダウンしており、ブログの更新頻度が落ちておりましたが、自分の身の回りでも体調不良の方が多く皆さんの体調はいかがでしょうか。寝込んでいる間に米国大統領選挙は佳境を迎えており、分析対象としても大変面白い展開を見せてきています。
ニューハンプシャー州は事実上の共和党の指名者を決める戦いになる可能性大
2月9日にニューハンプシャー州の共和党の予備選挙が実施される予定となっています。初戦の「保守的なアイオワ州」と比べてニューハンプシャー州は「リベラルな政治風土」の土地柄です。したがって、中間層の獲得が重要となる大統領選挙の本選を見据えた場合、共和党の選挙戦略としてはニューハンプシャー州の勝者が指名を獲得することが望ましいものと言えます。
そのため、今回のニューハンプシャー州での勝者が共和党の指名に最も近い候補者となることは間違いなく、トランプ氏がリードを保っている状態を逆転すべく、共和党の主流派陣営による様々なアクションが行われている状態となっています。
<過去記事>*トランプ・サンダース台頭、ブッシュ・カーソン失速、マルコルビオ躍進を予測解説
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?(12月8日)
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(12月11日)
ドナルド・トランプ共和党予備選勝利宣言としての「健康診断書」(12月16日)
民主番狂わせか?ヒラリーVSサンダースが面白いことに(12月20日)
アイオワ州党員集会直前、共和党・民主党の波乱が現実に?(1月22日)
ドナルド・トランプがFOXの討論会を欠席した理由(1月30日)
日本の政治にも「和製のテッド・クルーズ」の誕生を!(1月31日)
FiveThirtyEight:米国の政界有力者が誰を支持しているのか(2月1日)
アイオワ州党員集会・テッド・クルーズ勝利、今後の展開は・・・(2月2日)
ニューハンプシャー州の予備選挙に向けて急速に力を増し続けるマルコ・ルビオ氏
本ブログは初期のころからマルコ・ルビオ氏に注目してきましたが、ルビオ氏はアイオワ州で3位ながらも大健闘の結果を残したことから急速に支持を伸ばしています。日本でも様々な識者の皆さんがアイオワ州選挙以後から主流派の支持はマルコ・ルビオに集まる流れになると述べていましたが、本ブログではもう少し「ファクト」を示した解説を行っていきます。
そこで、エスタブリッシュメントからの支持率の推計するための使われる指標として、FiveThirtyEightが提供しているThe Endorsement Primaryを参考にしてみましょう。同指標は上下両院議員と州知事からの支持数をポイント換算したものであり、政界からの各共和党予備選挙候補者への支持率状況を分析するための目星となります。
そうしてみると、アイオワ州党員集会前(Before)はブッシュ1位(51ポイント)、ルビオ2位(43ポイント)ですが、・・・
<Before:アイオワ州党員集会以前の状況・2月1日早朝>
アイオワ州党員集会以後(After)は、ルビオの上下両院の支持者が増加した結果、ルビオ1位(60ポイント)、ブッシュ2位(51ポイント)に逆転しているわけです。これがいわゆる「勝ち馬に乗る現象」となります。世間の世知辛さが感じられる変化です。
<After:アイオワ州党員集会以後の状況・2月6日現在>
マルコ・ルビオ氏の支持率は全米及びニューハンプシャーで増加する傾向を示しています。下記は直近のニューハンプシャー州の世論調査の推移をまとめたものですが、トランプ氏が10ポイント以上引き離し続けている点は変わらない状況です。ただし、マルコ・ルビオ氏が支持率2位に浮上しており、場合によってはニューハンプシャー州でトランプ氏に肉薄する可能性がある状況となっています。(前々からブッシュ氏ら主流派の支持率を合計するとトランプ氏を上回っている状況なので可能性はゼロではない)
<ニューハンプシャー州の世論調査結果の推移(RealClearPolitics)2月6日現在>
トランプ氏は終わりなのか?答えは「No」だと思う
メディアによる評価では、トランプ氏はアイオワ州における敗者と位置付けられており、高支持率が得票に結びつかない傾向が表面化したと評価されました。メディアや識者はこれで「トランプも終わり」的な雰囲気を醸しだそうとしていますが、トランプ氏の今後の浮き沈みはまだ分からない状況だと言えます。
筆者はトランプ氏はアイオワ州では善戦したと考えています。アイオワ州党員集会の直前の世論調査でトランプ氏は1ポイントしかテッド・クルーズ氏に差をつけることができておらず、筆者は支持団体の運動力などの実力差からトランプ氏がかなり苦戦する可能性も想定していました。しかし、結果として1位クルーズ氏と2位トランプ氏の差は3ポイント程度しか開きませんでした。(筆者は2012年のサントラム氏の予備選挙結果からMAX8ポイント程度の差がつくことも想定していたのでクルーズ氏はアイオワ州で勝ちきれなかったと見ています。)
クルーズ氏は保守派の候補者であるため、アイオワ州で高支持率を獲得できても、上記の支持率推移でみても分かるようにニューハンプシャーなどのリベラル州では際立った強さは保持していないことが明らかです。一方、クルーズ氏に比べてトランプ氏とルビオ氏はアイオワ・ニューハンプシャーの両州で高い支持率を有しており、大統領本選挙における汎用性が比較的高い候補者であると言えるでしょう(大方のイメージと違うかもしれませんが、トランプ氏の支持率の数字はそれを示しています。)
したがって、ニューハンプシャーでマルコ・ルビオ氏に肉薄または逆転されることなく、トランプ氏が10ポイント近い差をつけて1位を獲得した場合、予備選挙の有力な候補者として残留し続けることになるでしょう。
今後の予測は難しい状況、「定番セオリーが通用しない」予備選挙に・・・
共和党主流派はマルコ・ルビオ氏の下に結集していくことが明らかになりつつあり、マルコ・ルビオ氏が指名に最も近い候補者に近づいていくことはほぼ間違いないでしょう。筆者も以前から今回の大統領選挙のダークホースはマルコ・ルビオ氏である旨を主張し続けてきました。
ただし、共和党の指名レースの通常のパターンである、「主流派に好意的なメディアが保守派の候補者を叩いて、主流派候補者の支持率が保守派の支持率を上回って終わり」、というセオリーが、トランプ氏というスキャンダル耐性の強い非主流・非保守の存在によって主流派の予定が狂い続けているという状況が今回の大統領予備選挙の特徴ということになります。つまり、メディアが狙うべきターゲットが保守派のクルーズ氏なのか、しぶといトランプ氏なのか、絞り切れていないという現象が起きています。
「トランプ氏はアイオワ州で終わった」として片づけた後に、「残った保守派のクルーズ氏をニューハンプシャー以降で倒そう」という主流派の戦略は道半ばの状況であり、彼らの戦略が成功裡に進んでいるかは些かの疑問が残るところです。(ところで、ネタバレすると、このセオリーがあるために米国専門家の日本有識者は「主流派候補者が勝つ」と言い続けるだけで良かったわけです。日本のメディアで大統領選挙を解説する人々がブッシュ推しを放棄してルビオ推しの予測に切り替えたタネ明かしはそんなものです。)
筆者は日本国内における大・小の選挙での経験はもちろん、米国における共和党系選挙訓練校での経験や米国内の知己の動向などから、今回の大統領予備選挙は一波乱あると予測しておりました。ただし、正直な感想としては予想以上に複雑な状況になっていると思います。トランプ氏について共和党の指名を獲得できなかった場合、共和党との誓約を守らずに独立系の候補者として出馬する可能性は依然として存在しており、予備選挙後も更なる波乱がありそうな予感もしています。
世界の運命を大きく左右する米国大統領選挙はその選挙動向について分析することでも十分に楽しめます。今後も継続的にウォッチしていきたいと思います。
2015年12月16日
ドナルド・トランプ共和党予備選勝利宣言としての「健康診断書」
(写真はANNから引用)
ドナルド・トランプが「健康診断書」を提出した意味とは・・・
トランプ氏が自分自身の健康診断書を提出し、「歴代の大統領で最も健康的な大統領になる」というコメントを発表しました。これを受けてオバマ政権は「歴代大統領の全員を診断したのか!」と的外れなコメントで応酬したことが日本でも話題になりました。
前代未聞のドナルド・トランプの健康診断書(トランプ氏のHP)
Monmouth大学の調査で予備選挙の支持率40ポイントを超えた段階で、トランプ氏の健康診断書を提出したことには大統領本選挙における重要なメッセージが含まれています。そして、民主党側であるホワイトハウスが過剰な反応を示したことは、大統領候補者の健康問題が民主党にとってアキレス健であることを意味しています。
ヒラリー・クリントンとの戦いに重点をシフトしたドナルド・トランプ
以前の記事でも書きましたが、トランプ氏にとっては40ポイントを超えることは予備選挙における勝利の可能性が格段に高まったことを意味します。脱落していく他の予備選挙候補者から支持者を残り10%を回収していくことで50%を超える結果を出すというプロセスが見えてくるからです。(同時期のABCでも38ポイントということで高い数字が一回限りマグレではないことが伺えます。)
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(12月11日、記事脱稿後にトランプ氏の支持率が上昇しました。)
そのため、トランプ氏は予備選挙における「勝利宣言」&「対ヒラリー」の意味を込めて、「健康診断書」を提出するという一手を打ってきたと言えるでしょう。
民主党の候補者として確定的だと思われているヒラリー・クリントンは在任中70歳を超える高齢になる点ではトランプ氏と一緒ですが、国務長官在任中に脱水症状から失神、脳振とうを起こして入院した上、現在も抗血液凝固剤を常用している状態です。
つまり、トランプ氏は予備選挙はほぼ終結したものとして、現状の各種世論調査でトランプVSヒラリーではヒラリー有利という数字を逆転するため、「ヒラリー・クリントンには健康不安があるが、自分は力強くて健康である」という民主党への宣戦布告を早々に行ったものと言えます。
トランプはアイオワ、ニューハンプシャー、サウスカロライナの初戦を制するか
トランプ氏は年明2月に党員集会が開催されるアイオワ州では現在の支持率でテッド・クルーズ氏と肉薄した状態にあります。しかし、アイオワ州は短期間の集中的な選挙キャンペーンによって比較的逆転することが可能な地域であり、トランプ氏が1月からアイオワ州に入って、積極的な草の根活動を行うことができれば支持率は回復することになるでしょう。(2012年大統領選挙のとき、保守派のサントラムは2週間で99郡を回る重点的なキャンペーンを貼り、大本命のロムニーにアイオワ州で勝利しました。)
トランプ氏はアイオワに続くニューハンプシャーやサウスカロライナでは高い支持率を維持しており、このまま共和党指導部がトランプ氏に対して無策のままであれば、トランプ氏が共和党の予備選挙を勝ち抜く可能性はかなりリアルな状況になってきました。
WSJが2012年大統領選挙時のミット・ロムニーの未公開株でのスキャンダルを引き合いに出し、トランプ氏の30年前の思い出話をネタにして「トランプ氏とマフィアの関係について調査しろ」という社説を掲載するほど、共和党シンパの中でもトランプ氏勝利への危機感は高まっています。
CNNの共和党予備選挙のディベートが決める今後の対戦構図
日本時間16日午前中今年最後のCNNの共和党予備選挙候補者のディベートが予定さており、共和党の予備選挙候補者が激しく火花を散らす予定です。
このディベートでは、トランプ氏とテッド・クルーズ氏の対決がどのようになるかが見所です。両者はアウトサイダーと保守派という共和党内部では反主流勢力の代表者ですが、現在支持率で1位と2位というトップ争いで鎬を削る状況となっています。
構図としては、トランプ氏は「テッド・クルーズ氏がハーバード出身でGSマネージングディレクターの奥さんを持ち石油会社から資金提供を受けているエスタブリッシュメントの操り人形だ」と批判することが予想されます。それに対して、今回のディベートのメインテーマとして設定されている安全保障の政策論争で、各候補者がトランプ氏の支持率をどのように切り崩すかが注目されるところです。
このディベートでテッド・クルーズ氏が落ちていくことになれば、誰がその受け皿になるのか、が問われることになり、トランプ氏と雌雄を決する共和党予備選挙の候補者が再浮上してくることになります。私はヒラリーに対して現在の世論調査で唯一勝っている候補者である、マルコ・ルビオ氏に穏健派・保守派の支持が集約していくのではないかと予測します。
現在の世論調査でヒラリーに勝てる数字を出しているマルコ・ルビオ氏(2016年大統領選挙世論調査)
もしくは、トランプ氏はもはや共和党予備選挙レースを終わったものとして、穏健派・保守派の連合した候補者と戦う道は避けたいでしょうが、トランプ氏の思惑通りにうまくことは運ぶでしょうか?
2016年大統領選挙はトランプの掌の上で踊ったまま?
さて、上記の筋書きはトランプ陣営が描いているであろう戦略について簡単にまとめてみたものです。今のところ、トランプ氏に対する共和党の他候補者たちは完全にトランプ氏の掌の上で転がされている状況にあります。
トランプ氏は様々な問題発言(特に反ムスリム発言)で支持率が上昇してきていますが、それらを実行することは実務上非常に難易度が高く、その連続的な成功が一連のトランプ氏の行動が計算されたものであることを証明しています。最も難しい発言であったムスリム入国拒否が「テレビの突発的な発言」ではなく、ダメージコントロールしやすい「プレスリリース」で行われたことからもトランプ陣営の選挙戦の腕の良さが分かります。
ムスリム入国拒否プレスリリース(原本)
年明けから本格化する共和党の指名レースはまだまだ見応えが十分な状況です。共和党の他候補者たちもトランプ氏の戦略に乗せられていたことに気が付いているはずであり、ここから巻き返しが図れる策を練りこんでくるでしょう。まさに「これが民主主義だ!」という熱戦が繰り広げられる米国大統領選挙の面白さは知れば知るほど病みつきになります。
追記:CNN でもトランプ氏はうまく乗りきり、しかも驚くべきことに冗談交じりにテッド・クルーズ氏を副大統領候補として持ち上げました。トランプ氏の沈着な算盤には驚きます。明らかにトランプ氏はレースをクロージングしたがってますが、手強いライバルがそれを許してくれるのか。今後も面白くなりました。
2015年11月16日
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目
前回記事「支持率の変化から見た共和党大統領予備選挙」ではデータから共和党大統領予備選挙の各候補者の数字の推移を追いました。本日は実際に米国において各候補者の姿を見聞してきた印象をまとめてみたいと思います。
日本の米国研究者のピント外れな予想としての「ブッシュ」
2016年共和党の大統領候補者を選ぶ予備選挙について、日本の米国研究者はブッシュ氏を大本命として推してきていました。
たまに日本人の米国研究者と偶然に席を持つことがありますが、その際に「今回は保守派が強い」という話をしても彼らは鼻で笑いながら「僕らのコミュニティでは(穏健派の)ブッシュという予想になっています」と述べていたものです。(実際、米国研究者は「知ったか」が多く、あまり当てにならない印象があります。)
しかし、私は今年2月末に実施された共和党保守派の集会であるCPAC(Conservative Political Action Conference:大統領予備選候補者が全員参加する大演説会)に参加した感想としてブッシュ氏はかなり難しいという印象を受けました。
たしかに、ブッシュ氏が講演したメイン会場では多くの立ち見が出ている状況ではありましたが、ブッシュ氏の演説自体はイマイチ迫力に欠けるものであり切れ味がありませんでした。一方のドナルド・トランプ氏は大量のSPに囲まれてホテルに登場して圧倒的な威圧感を周囲に与えていました。この段階で両者の間には風格としてかなり差がついていたと思います。
勿論、現段階では最終的な候補者は確定していないため、ブッシュ氏が盛り返す可能性は0%ではありませんが、現地で見た空気感としては2月末段階からブッシュ氏の現在の低迷はある程度予想できました。
ブッシュ氏の凋落ぶりは激しくケーシック氏などの他穏健派候補者にスイッチされる可能性すらあります。
マルコ・ルビオというダークホースの登場
私自身は現在の有力候補となっているマルコ・ルビオ氏については2012年から注目してきました。
「共和党の大統領候補者選び、カギはマルコ・ルビオ氏!?」(日経ビジネスオンライン、2012年)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120220/227382/?rt=nocnt
2012年当時は保守派の筆頭格のような扱いを受けていたマルコ・ルビオ氏ですが、ヒスパニック移民に対する態度の軟化を保守派に非難されてから、保守派の色を残しつつ穏健派の取り込みを行う巧みな選挙戦略にシフトしてきました。
ブッシュ氏の低迷はマルコ・ルビオ氏のスタンスの変化が影響している部分も大きく、仮に穏健派の候補者が勝つにしても、現状はマルコ・ルビオ氏のほうがブッシュ氏よりも優勢な状況にあります。最近ではウォール街もブッシュ氏を切ってマルコ・ルビオ氏に乗り換える動きが出ています。
また、マルコ・ルビオ氏の特徴はキューバ移民の子どもでバリバリのたたき上げだということも大衆受けの面から大きな要素です。対立候補であるトランプ氏が持っているアメリカンドリームの魅力も兼ね揃えた候補者として強力だと思います。
ベン・カーソン、ランドポール、カーリー・フィオリーナなどの保守派候補について
ベン・カーソン氏とランド・ポール氏は今年のかなり早い段階からキャンペーンを開始していました。私自身は実際にランド・ポール氏とは直接お会いしたことがありますが、非常に真摯な印象を受けた記憶があります。
ランド・ポール氏に関しては、父のロン・ポール氏とは政策が違うことから仲違いしたこと、ケートー研究所が支持を撤回したことなど、コアなファン層を持つものの、現状から挽回することはかなり難しい印象です。
カーリー・フィオリーナ女史に関しては唯一の女性候補者として目立つ存在ではありますが、実際の見た感じではやや尖がった感じを受けたため、支持がどこまで拡大できるかは今一つ疑問だと思います。
穏健派に比べて保守派はメディアがかなり敵対的なスタンスを取るために支持率があがると、大規模なネガキャンが直ぐに開始されます。トランプ氏以外の保守派候補者は早い段階で有力という名前が挙がることは危険なことだと思います。
共和党大統領予備選挙は何故これほどまでに複数の候補者が出るのか
米国民主党の候補者レースがヒラリーとサンダースの2名に絞られているのに対し、米国共和党の候補者が複数出馬する理由は「共和党の人材の層の厚さ」「共和党の草の根団体の独立性」の2点が挙げられると思います。
米国共和党は米国民主党と比べて分散的なネットワーク型の草の根組織で支えられています。そのため、候補者も多様なメンバーが発掘されやすく、また一部の権力者による候補者選びが極めて難しい環境があります。
まさに、共和党の大統領候補者選びこそが米国の自由で民主的な空気を体現したものと言えるでしょう。米国共和党の大統領予備選挙の現状を参考とし、日本の政党の党首・代表選挙も改善されていくことが望まれます。