ヒラリー

2016年12月03日

ポリコレ馬鹿につける薬、米国の分断の真相とは何か?

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米国の分断を一側面から語り続ける「インテリンチ」の偏向ぶり
 
トランプ勝利から1か月が経とうとしていますが、その間に様々な有識者と報道関係者が「米国の分断は深刻だ!」という発言を繰り返し続けています。

これらの人々は「レイシスト」「格差社会」「反知性主義」「不法移民への差別」などの理由をつけて、トランプ及び共和党が米国の分断の元凶であるかのように語り、トランプと共和党が米国を分断させたがっているかのように見せています。

しかし、その話の大半は民主党側、つまりポリコレ側に立った物言いばかりであり、米国の政治状況を一側面から見たものでしかありません。これでは米国政治の実態がまるで掴めず、「ヒラリー勝利を予測・礼賛し続けた愚かな人々」の意見を鵜呑みにするだけの状態が継続することになってしまいます。

大統領選挙も終わったわけですから、そろそろいい加減に「トランプ」「共和党」の視点から米国政治を語ることも必要です。そのため、本稿ではトランプ・共和党の視点から米国の分断と統合について語っていきます。

学者やジャーナリストなどの自らが発見した「ポリコレ」で社会を統合しようとする人々

民主党支持のポリコレ識者や報道関係者は、人間を属性に基づいて区別して語る傾向を持っています。つまり、上記の事例を挙げるならば、人種、所得、学歴、などの分かりやすい属性ラベリングによって人間を区別した上で、それらの違いを再否定することによって自らの主張の正当性を得ようとしています。

「トランプ支持者は、白人、低所得、低学歴、不満層だ!」という話は、大統領選挙が終わるまでメディア上の様々な場面で耳タコだったと思います。これがポリコレ・パーソンの人間を見るときの目線です。

そして、ポリコレ・パーソンにとっては「自らの知性が見出した社会の構成員間にある違い」を無くすということが正義です。そして、その差異を無くすという考え方を受け入れるべきだ、という主張を通じて、自らが見出だした社会の分断の再統合を図ろうとします。具体的には、人種平等、格差是正、不法移民容認など、自らが人々の間に見出した違いを政府機能を使って埋めようとするわけです。

半ばマッチポンプみたいなものですが、この手の人は学者やジャーナリストに山ほど存在しており、日々新しいポリコレを発見・生産しては非ポリコレ・パーソンに対する知的マウンティング作業に精を出しています。そして、日本に暮らしていると発信力が強いポリコレ側の意見が世の中の正義であるように見えてしまいます。

しかし、トランプや共和党は人間を属性ラベリングによって区別して再統合しようという発想はそもそも持っていません。そのため、ポリコレパーソンからは「酷い差別主義者だ!」というレッテルが貼られることになります。

「米国人であること≒米国の建国の理念を受け入れること」で社会を統合しようとする人々

トランプや共和党が人々を区別する尺度は「米国の価値観を受け入れているかどうか」です。

つまり、建国の理念である「自由」の概念を共有できる相手か、それとも、それを否定する相手か、ということで人間を区別します。

具体的には、米国はイギリスによる課税などに反対して独立・建国された経緯があります。そのため、政府介入を意味する増税や規制強化に非常に厳しい主張を持っています。

米国の建国の理念の立場に立つならば、「政府の役割は小さい方が良いか?(≒税金は安い方が良いか)?」という問いに対し、極めて単純化して考えると「Yesと答える人は共和党支持」、「Noと答える人は民主党支持」ということになります。

共和党保守派議員などの演説を耳にすると直ぐに気が付きますが、「私たちは米国人である。だから、税金が安くて規制が少ない方が良いのだ」というスピーチの論理構成になっています。また、共和党支持者らの話を聞くと、彼らが合衆国憲法を非常に大切にしており、その読書会などが催されていることも分かります。

共和党にも黒人・ヒスパニックなどの有色人種系の候補者・支持者もいますが、彼らは須らく上記の米国の建国の理念に賛同し、それらを擁護することを誇りに思っています。特に共産主義全盛時代に母国で政治的な弾圧を受けて米国に逃れてきた有色人種は共和党支持の傾向があります。そして、多少粗削りなところもありますが、トランプ支持者も同様の理念には大筋賛成することでしょう。

したがって、共和党は「米国人であること≒米国の建国の理念を受け入れること」で社会を統合しようとしていると言えるでしょう。いわば郷に入れば郷に従えに近い発想ですが、そこではポリコレ勢力が区別した人種、所得、学歴ではなく、「同じ米国の価値観を信じる」という枠組みで人々の統合が図られることになります

共和党が不法移民に対して強く反対する(合法移民に関してはOK)理由は、不法移民は米国の価値観を受け入れる宣言をしていない人々であり、共和党が持つ米国統合の発想と根本的に相容れない存在だからです。

「米国の分断」の根本原因を理解できていない人は米国政治のことを知らない

したがって、主に民主党側の学者やジャーナリストが作り出したポリコレのうち、共和党が主張する「米国人の価値観」とぶつかる部分が社会の分断として表面化しているわけです。(もちろんポリコレと米国の価値観が一致することもあります。)

具体的には、ポリコレ勢力が推進する、アファーマティブアクション、大きな政府による腐敗、学者が作り出す新たな規制、米国の価値観を相容れない不法移民の容認などは、共和党側からは絶対に受け入れることができない要素ということになります。共和党側にとっては「米国を米国で無くす≒米国を分断させる」存在はポリコレ側だということです。

一方、ポリコレ・パーソンから見ると、ポリコレに反対する人を自分の知性が見出だした分断を統合する試みを邪魔する差別主義者として認定することになります。

ちなみに、外国人である日本人が犯しがちな勘違いは、米国の国是が「自由主義」であることを理解できず、「欧州のファシスト右翼」と「米国の保守派」が同じものに見えてしまうというものです。米国の保守派は「自由主義」という合衆国の理念を受け入れる人のことであり、欧州のファシスト右翼とは本質的な部分で真逆の発想を持った人々のことです。米国政治の理解が足りない人は両者を同じ文脈で語っているために注意が必要です。

米国の分断とは「どのような基準で社会を統合するのか」という価値観の違い

共和党・民主党の差は根本的な部分で既に異なっているために埋めようがない分断だと言えるでしょう。

以上のように、米国の分断とは「どのような基準で社会を統合するのか」という価値観の違いによって生じています。したがって、ポリコレ勢力の話を垂れ流しているだけの翻訳家に毛が生えた程度の人々の説明だけでは何も理解することができません。

「米国の分断は深刻であること」を理解すると同時に、「民主党側も共和党側も異なる価値観・方法で社会統合を図ろうとしていること」も明瞭になったと思います。

少なくとも今後4年間はトランプ&共和党政権が継続するわけですから、米国政治に対する一面的な言説だけでなく、共和・民主両サイドの側の主張を理解していく取り組みが必要です。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2016年11月29日

なぜ、安倍首相はヒラリーのみと会談したのか?

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<The Japan Times から引用>

逢坂誠二・衆議院議員から提出された「9月に行われた安倍・ヒラリー会談に関する質問主意書」に対する政府からの回答がありました。質問主意書への回答は政府の公式見解ということになりますが、その内容は極めて問題の根が深いものとなっていることが分かります。


衆議院議員逢坂誠二君提出ヒラリー・クリントン候補重視の日本外交の問題意識に関する質問に対する答弁書


<逢坂議員の質問>

一 安倍総理が、九月の訪米時にドナルド・トランプ氏とは面談せず、ヒラリー・クリントン氏とだけ面談した理由は何か。政府の見解を示されたい。
 
四 政府は、ヒラリー・クリントン氏の当選が濃厚だとの見通しを持っていなかったのだとすれば、なぜ首相の九月の訪米時に、ヒラリー・クリントン氏とだけ面談したのか。政府の見解を示されたい。

<政府の回答>

一及び四について

平成二十八年九月十九日(現地時間)に行われた、ヒラリー・クリントン前米国国務長官による安倍内閣総理大臣への表敬は、同前米国国務長官側の発意を受け、調整し、実現したものである。ドナルド・トランプ氏からは安倍内閣総理大臣への表敬に関する提案はなされなかったため、同氏の表敬は実施されなかったところである。

<解説>
政府は安倍・ヒラリー会談はヒラリー側からの申し出があったために調整したとしています。そして、トランプ側からは表敬の申し入れがなかったとしています。つまり、同面談が受動的なものであったことが明示されています。


<逢坂議員の質問の続き>

二 九月の安倍総理の訪米時、ドナルド・トランプ氏と面談することを意図し、政府はトランプ陣営への働
きかけを行った事実はあるか。政府の見解を示されたい。

三 政府は、ヒラリー・クリントン氏の当選が濃厚だとの見通しを持っていたのか。見解を示されたい。

<政府の回答>

二及び三について

御指摘のような事実はない。


<解説>
ヒラリーに会うために米国を訪問するにあたって、バランスを取るためにトランプ陣営に働きかけた事実はない、と回答しています。

しかし、11月11日産経新聞によると「実は日本政府はこのとき、トランプ氏側にも会談を申し入れていた。結果的に本人は出てこなかったが、安倍首相はトランプ氏のアドバイザーの一人で投資家のウィルバー・ロス「ジャパン・ソサエティー」会長と会談している。ロス氏はこのとき、こう話したという。」とされています。

政府答弁が嘘をついているのか、産経新聞が飛ばし記事を書いたのか。両方が正しいとした場合、トランプ氏に元々会うつもりも無かったが、トランプ陣営の一人でジャパン・ソサエティーの会長であるウィルバー・ロス氏には個人的に会っておこうと考えたということだろうか。

<逢坂議員の質問の続き>

五 次期米国大統領にはドナルド・トランプ氏が就任するが、この間のヒラリー・クリントン氏だけを重視した日本外交は誤った見通しに基づいていたのではないか。政府の見解を示されたい。

六 米国大統領選挙の結果が出るまでは、ヒラリー・クリントン氏だけを重視する結果となったことは、情報収集と分析能力に課題があると思われる。米国における在外公館の情報収集活動や分析、さらには日本外交の前提となる政府内での情報収集や分析能力には課題があるのではないか。政府の見解を示されたい。

七 米ソ冷戦期および冷戦終結後という時代のレーガン政権からG・H・W・ブッシュ政権の終わった一九九三年以後、米国では二大政党による政権交代が繰り返され、民主党あるいは共和党の政権が連続して三期以上続いたことはないと承知している。その事実を踏まえれば、民主党のオバマ政権の次には共和党政権が誕生する可能性は低くないということは容易に推測できる。日米外交に携わる専門家であれば、当然踏まえておくべき認識であろう。それにもかかわらず、オバマ政権の次にヒラリー・クリントン政権が誕生すると推測し、ヒラリー・クリントン候補重視の日本外交の基本姿勢には、基本的な問題意識の欠如があるのではないか。政府の見解を示されたい。

<政府の回答>

五から七までについて

政府としては、ドナルド・トランプ陣営及びヒラリー・クリントン陣営双方との関係を早い時期から構築してきたところであり、「ヒラリー・クリントン氏だけを重視」したとの事実及び「オバマ政権の次にヒラリー・クリントン政権が誕生すると推測」したとの事実はなく「情報収集や分析能力には課題がある」及び「日本外交の基本姿勢には、基本的な問題意識の欠如がある」といった御指摘は当たらない。

<解説>
両陣営に人脈も持っており、ヒラリーを重視した事実はなく、情報収集や分析能力に課題はない、基本的な問題意識の欠如もないとの回答。

上記の回答を総合して考察すると「政府としては情報収集と分析能力は万全で、ヒラリーから打診が会ったから会っただけで、トランプ陣営には何も打診せず、元々繋がりがあったウィルバー・ロス氏だけは個人的に面談した。ヒラリーを重視していたわけではない。したがって、日本外交の基本姿勢に問題はない」ということになります。

<同時期に米国を訪問したイスラエルのネタニヤフ首相はヒラリー・トランプ両方に会っている>

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比較事例として米国に安倍首相と同時期に訪問したイスラエルのネタニヤフ首相はヒラリー・トランプ両氏に会っていることも紹介しておきます。

ユダヤ人国家という特殊な条件はあるものと思いますが、大統領選挙期間中に候補者の両方に会うことが当然の対応であることが分かります。

イスラエルはイラン核合意などで米国と関係が冷え込む中で、今年3月にオバマ大統領との面会することを取りやめるとともに、大統領予備選挙に干渉する印象を与えることを避けるため、ネタニヤフ首相の訪米日程を一旦キャンセルしていた経緯があります。

しかし、大統領選挙の最終盤に機を見て敏に共和・民主両候補者に面談する機会を持ったこと、そして両候補者からイスラエル寄りのコメントを引き出したことで、同国の卓越した外交力は示されたことになります。

自らの主張を通すために米国相手に駆け引きを行い、そして見事に果実を得る外交だと言えるでしょう。

<日本政府の問題点は「判断力」の欠如だった>

イスラエル政府が情報収集・分析能力に長けており、ネタニヤフ首相の判断力が極めて優れたものだったことは明らかです。

ウィルバー・ロス氏に個人的に面談したから「手を打っていた」という言い訳のリーク記事を新聞社に書かせて国民世論を誤魔化しつつ、正式な政府答弁で答えられない程度の対応しかしていなかった国とは違います。

逢坂議員の質問主意書に対する日本政府の答弁には大きな問題があります。

仮に政府の答弁通り、トランプ・ヒラリー両陣営との人脈を構築し、ヒラリーを重視した事実もなく、情報収集や分析能力に問題が無かったなら、「まともな対応を行ったイスラエルとの差」はどこから生まれたのでしょうか。

両者の差は「判断力」の差であったということが言えるでしょう。

つまり、この問題は「ヒラリーが会いたいと言ったから会いに行った」という受動的な姿勢、自分で外交的な意思決定を判断できない、という外交姿勢以前の根本的な問題だということです。

そして、米国大統領に就任する可能性がある前国務長官に呼びつけられたら、一国の首相が慌てて訪米するような「判断力の欠如した従属外交に問題が無い」という政府答弁に日本人の誇りはあるのでしょうか。

私は一人の日本人として、今回の政府答弁の内容に驚きを覚えました。同内容を公開すること自体に疑問を持たない現政権は日本人の代表としての誇りを問い直されるべきでしょう。



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2016年11月24日

ヒラリーがトランプを全米得票数で上回った本当の理由

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全米総得票数でヒラリーがトランプを上回っても無意味

大統領選挙の全米総得票数でヒラリーがトランプ氏を上回る結果となりました。この一事をもってヒラリーに民主的な正統性があるかのように主張する人々がいます。

しかし、重要なことは「ヒラリーは選挙に負けた」ということです。

民主主義国家では、選挙の前提として法律によってルールが設けられており、各候補者はそのルールに従って選挙活動を行っているという当たり前の現実があります。

ヒラリーがトランプ氏に総得票数で上回って選挙人数で負ける、という構図については「ふーん」という参考値程度の話題でしかなく、殊更取り上げて重要視するほどの意味はありません。

選挙活動はルールに最適化された戦略に基づいて実施される 

選挙はルールが決まった民主主義の試合です。そして、完璧なルールは存在せず、その時点で人々が妥当と認めているルールで行われることになります。そのため、事前に決められたルールを熟知した上で、各候補者陣営によって勝利に向けて最適化された戦略が採用されます。

米国大統領選挙は各州ごとに割り振られた選挙人の過半数を獲得する競争です。そのため、既に過去の記録から勝敗が決定している州よりも、スウィング・ステイト(接戦州)と呼ばれる州の勝敗で決着がつくことは誰の目から見ても明らかなことです。

当然、トランプ・ヒラリー両陣営ともに同じルールの中で選挙を行います。したがって、本来であればヒト・モノ・カネ・情報を戦略的に接戦州に投下してくことになります。そして、戦略の良否は最終的に各州における得票数に反映されることになります。

民主党陣営の選挙は「死ぬほど下手くそだった」ということ

ヒラリー陣営はトランプ陣営に比べて選挙キャンペーンに圧倒的な資金を投入しましたが、最終的な選挙人数獲得数でトランプ氏に大敗北を喫することになりました。

しかし、全米での得票数はヒラリーがトランプ氏を上回った状況となっています。これは何故でしょうか。

各州ごとに最終得票数を比較してみた場合、両者の得票差はカリフォルニア州の得票差によって生まれたものであることが分かります。

全米得票差は200万票差でヒラリー勝利、カリフォルニア州の得票差は400万票差でヒラリー勝利(同州のヒラリー総得票数802万票)です。つまり、ヒラリーの全米得票数での勝利の要因はカリフォルニア州による得票差で説明可能です。

しかし、カリフォルニア州でヒラリーが勝つことは世論調査上元々揺るぎない状況でした。そのため、同州でヒラリーが大量得票をしても選挙戦全体には何の影響もありません。

むしろ、2012年のオバマVSロムニーのカリフォルニア州での得票差は300万票(ヒラリー総得票数785万票)なので、ヒラリー陣営の選挙は西海岸で勝敗に関係が無い無駄な盛り上がりを見せていた、ということが言えます。

ヒラリー陣営は2012年オバマと比べて、アリゾナ、ジョージア、テキサス、ネバダ、フロリダなどで獲得票数を大幅に伸ばしていますが、ネバダ・フロリダ以外の得票増は完全に戦略ミスだったように思われます。

投票日近くのヒラリーの動きを見ても従来までの共和党の鉄板(レッド・ステート)をひっくり返すため、ジョージアやアリゾナにヒラリー自らが足を踏み入れて集会を実施していました。

これは勝利を確信していたヒラリー陣営が歴史的大勝を狙った驕りの表れでしょう。最終的な結果はそれらのレッド・ステートは従来通りの共和党(トランプ)勝利となり、ヒラリーの積極的な選挙キャンペーンは人材・時間・資金の全てをドブに捨てたことになりました。

トランプ陣営の各州選挙結果に見る試合巧者ぶりについて

トランプ陣営の選挙戦略は各州ごとに検証すると極めて明確なものだったと評価できます。

トランプ陣営の得票結果を見ると、ヒラリー優勢が明白であったカリフォルニア州を完全に捨てていたことが分かります。同州でトランプ氏は2012年のロムニーよりも65万票近い得票減という憂き目にあいました。しかし、カリフォルニア州はどうせ負けることが分かっていたため、トランプ氏にとっては大統領選挙の勝敗とは何の関係もない得票減でしかありませんでした。

また、その他の州でもトランプ氏がロムニーと比べて得票数を減らしたほぼ全ての州は元々民主党・共和党の勝敗が決している州ばかりでした。これらの州に勢力を投入しても結果は変わらないので、実に見事な手の抜きぶりであったと思います。

つまり、トランプ氏は、勝敗に関係がない州からの得票を減らしつつも、勝利に直結する州についての得票は着実に増加させていた、ということになります。これはトランプ陣営がメリハリをつけた選挙戦略を採用しており、その結果が得票数という形で如実に表れたものと推測できます。

また、トランプ陣営は費用対効果が不明瞭なテレビCMではなく、費用対効果が明白なネット広告に当初から予算を大きく割いてきたことも大きな勝因の一つとなったものと思います。

以上のように各州の得票数から、戦略と集中、という経営学の教科書のような選挙をトランプ陣営が行ってきたことは明らかになりました。大手メディアが支援するヒラリー陣営の惰性的で驕慢に満ちた選挙戦略とは明確な違いがあったと言えるでしょう。

総得票数で勝負する選挙でもトランプは勝利していただろう

何度も言いますが、選挙はルールが決まった民主主義の試合です。トランプ陣営はヒラリー陣営よりもルールを熟知した上で優れた選挙戦略を実行しました。

筆者は「全米の総得票数を争う選挙」であったとしてもトランプ陣営が勝利したものと予測します。冒頭にトランプ氏が自身のTwitterで述べていた通り、トランプ氏がカリフォルニア、NY、フロリダでのキャンペーンに力を入れれば大幅に得票が増えたことは明白だからです。

上記の通り、ルールを熟知した試合巧者が勝利するゲームが選挙です。

「総得票数が多い者が勝つ」というルールならば、トランプ陣営の優秀なスタッフは総得票数で勝利とするために最適な戦略を採用し、ヒラリーを上回る得票を獲得する戦いを行ったことでしょう。

選挙人獲得競争のルールの中で、総得票数で上回って選挙人獲得で負ける、ことが意味していることは1つです。それは、ヒラリーの選挙戦略を立案したスタッフが無能であり、トランプ陣営はヒラリー陣営と比べて極めて優秀だったということだけです。

以上のように、「総得票数でヒラリーが勝っていた!民主的正統性がトランプに欠けるのでは?」という疑問は、選挙というルールを前提にした場合は愚問だと言えるでしょう。事前に決められたルールの中で候補者がベストを尽くす、民主主義社会における選挙とはそういうものだからです。





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2016年11月12日

「隠れトランプ支持者によって勝敗が決定した」は大嘘

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「隠れトランプ支持者によって勝敗が決定した」は大嘘


トランプ大統領誕生直後、「報道の敗北、トランプの勝利 「世論調査」はなぜ外れた?」のように「隠れトランプ支持者が事前の世論調査を覆した」という報道が多数ありましたが、その実相は異なったものとなっています。
 
結論から述べると、トランプ大統領誕生の理由は、両陣営の支持者の投票率の違いではないか、と推測します。
 
2008年・2012年・2016年の大統領選挙の得票数と比較した場合、
 
2008年:オバマ69,498,215・マケイン59,948,240
2012年:オバマ65,915,795・ロムニー60,933,504
2016年:ヒラリー60,839,922・トランプ60,265,858
 
という状況であり、勝敗の境目は「オバマよりもヒラリーの得票数が圧倒的に少なかったこと」にあります。


また、トランプ氏については、モルモン教徒という特殊な宗教で保守派からの人気も低かったロムニー、正統派の候補者だったマケインよりも最終得票数を減らしている状況です。
 
更に事前の世論調査ではトランプ・ヒラリー両者の支持率は全米及び接戦州で拮抗していました。

ざっと数字を見ただけでも「隠れトランプ支持者」によって「世論調査が覆った」または「勝敗が決まった」は無理がある仮説であることは一目瞭然です。
 
「勝敗を決定した要因」はヒラリー・トランプ各陣営支持者の投票率の差
 
大統領選挙の勝敗を決した要因は、ヒラリー・トランプ各陣営支持者の投票率の差です。
 
元々ヒラリー・トランプの支持率差は極めて微小であり、両者の差は両陣営支持者の属性の差であったと捉えるべきです。具体的には拙稿「トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)」をご覧ください。
 
上記の分析は全米支持率に基づくものになりますが、その他の調査でも接戦州でも両者の差は統計の誤差の範囲内におさまるものであり、日々の報道で垂れ流されている世論調査に反してトランプが勝ったということ自体が事実に反します。
 
重要なポイントは、ヒラリー支持者の年代が若年世代に偏っていたこと&有色人種におけるヒラリー支持が圧倒的に高かったこと、の2点になります。


そして、米国の大統領選挙でも若者の投票率は元々高いものではなく、有色人種でもないヒラリーが黒人・ヒスパニックらの熱烈な支持を維持できるという根拠も薄弱であったため、表面的な支持率が拮抗していても支持者内訳による質的な差異が生じることは明らかでした。
 
したがって、筆者は上記の記事中で年代別投票率の差とキューバ系ヒスパニック(キューバ系は伝統的な共和党支持層、メキシコ系は民主党支持層)からの得票が勝負を決めると事前に述べてさせて頂きましたが、結果もおおよそ予想通りものになったものと言えます。


筆者としては米国の世論調査について語るなら、単純データをクロス分析した上で、アメリカ政治の質的要因を考量しながら、考察くらいしたらどうなの?と素朴に思いますね。案の定の結果となったため、個人的には何の驚きもありません。
 
トランプ氏の得票数増加は予備選挙段階から分かっていた話に過ぎない
 
トランプ氏側の得票数の増加についても容易に説明が可能です。こちらは拙稿「数字で分かる!トランプの大統領選挙・勝利の方程式とは(2016年5月7日)」をご覧ください。
 
2016年の共和党予備選挙は2012年時よりも圧倒的に多くの米国民が参加しています。2012年時の参加者総数は18,682,820名ですが、予備選挙のほぼ決着がついた5月3日のインディアナ州での予備選挙が終わった段階で参加者総数26,639,737名に激増している状態となっていました。


トランプ氏の加入によって共和党予備選挙が最高潮に盛り上がっていたことが分かります。
 
特に、重要な接戦州であるフロリダ州の共和党予備選挙では2012年・167万人から2016年・236万人まで増加しています。一方、民主党は2008年・175万人⇒2016年・171万人と予備選挙参加人数が減っている状況です。そのため、前回と比べた両陣営の得票数の増減は予備選挙参加者数からある程度予測することが可能な状況だったと言えます。
 
そして、実際にトランプ氏は大統領選本選で全米の得票数を増加させることに成功しました。一度予備選挙でコミットした有権者は本選でも投票すると考えることは当然でしょう。


ただし、トランプ氏は最終的に共和党主流派と諍いを起こしたため、一部の共和党員の得票が離れたことが控えめ目な得票増となったものと推測します。トランプ効果によって新規得票増と離反票の差し引き分だけの得票増加効果があったと言えるでしょう。

 
「隠れトランプ支持者」という虚構のストーリーが流布される心理的背景
 
実際に起きた出来事は「隠れトランプが多かった」ではなく「ヒラリー支持者が選挙行かなかった」だけです。トランプ支持者は最初から元気一杯で予備選挙に参加して世論調査にも回答しています。
 
では、メディア・有識者が何故「隠れトランプ支持者」」といういい加減な存在を作り出して今回の大統領選挙の結果を論評する風潮が生まれたのでしょうか。
 
「隠れトランプ支持者」の存在を吹聴している人々は、「トランプを支持していると言う人は馬鹿だと思われる」という偏見を前提として持っている、米国民主党系メディアのプロパガンダを信じ込んでいる人です。

つまり、自分達が予測を外した責任を「自分達が馬鹿だと思っている人たちのせい」に転嫁する見苦しい行為に戯れているわけです。一部の高学歴サークルの中で隠れトランプ支持者がいたかもしれませんが、それらの人々が大統領選挙の勝敗を決したとする論調の方向性は間違っています。
 
ここは重要なポイントなので明確に述べておきたいと思います。

一般に流布している話と異なり「トランプ支持者はヒラリー支持者を馬鹿な世間知らず」と思っています。


トランプ支持者の中核は独立ビジネス系の人間または自ら何らかの生産活動に従事している層の人々です。彼らにしてみたら現実を知らない規制・税金をかけてくるヒラリー支持者(特に有識者)は世間知らずでしかありません。
 
だから、世論調査でも約半数の人々は堂々と「トランプ支持」と回答しているのです。彼らは最初から全く隠れてなかったし、その数字がヒラリーシンパの識者の目に入らなかっただけです


トランプ氏には多少は女性問題などで恥ずかしいところはあったかもしれません。しかし、トランプ氏は元々テレビのエンターテイナーなので、共和党支持者は笑って済ませる人も多かったでしょう。彼らにとってはヒラリーの綺麗事よりも目の前の経済問題・不法移民問題などを解決するほうが先決なのです。
 
「隠れトランプ支持者」という概念はトランプ支持者に対する一方的な偏見に基づく概念です。

米国のメディア・世論調査機関がその存在を報じたからと言って、それを鵜呑みにしてドヤ顔で日本人に伝える日本の有識者・メディアは猛省してください。「米国の有名な世論調査屋のネイト・シルバーが『隠れトランプ支持者』で間違ったって言っているから正しい」という発想は論外です。


なぜ、有識者は「トランプ当選」を外し続けてきたのか

日本のメディア・有識者は「ヒラリー万歳の米国メディアの報道」を丸パクリして大恥かいたことを思い出した方が良いでしょう。自分の頭で考えられないなら有識者としての存在価値は低いですから。
 
英字情報を取るだけの舶来信仰は捨てて、自分の頭で考える習慣を日本人の有識者・メディアとされる人々には身に付けてほしいと思います。






本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。 


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2016年11月11日

大統領選の「インテリンチ」の空気に飲まれていた人へ

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トランプ大統領誕生まで繰り返された「酷すぎるインテリンチ」

2016年米国大統領選挙では、インテリによって「大衆」を「低所得・低学歴のポピュリズムに毒された人々」と定義する社会分析に見せかけた罵倒・侮辱が繰り返されました。

筆者は、この政治的な体裁を整えた人権侵害行為を「インテリンチ」と呼んでいます。(Brexitの際にも見られた同様の現象)

英国EU離脱は「インテリンチ(Intelynch)」が原因(2016年6月28日)

今回の大統領選挙期間中、有識者らはトランプ支持者を「白人ブルーカラー不満層」、場合によってはヒルビリー(彼らの薬物中毒の描写まで)として描き続けて徹底的な人格攻撃をメディア上で行い続けました。

そもそもトランプ氏は「共和党指名候補者である」ため、世論調査を見ても明らかな通り、米国の中産階級以上の人々に支持されていた人物です。そして、白人だけでなくヒスパニックからの一定の支持もありますし、女性からの根強い支持も十分に獲得しています。

 トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)

あえて、トランプ氏の熱烈な支持者として白人労働者を取り上げたとしても、それらの人々に対する人間像の描写は酷すぎるものだったと思います。全体の一部の事例を誇大宣伝するのはいかがなものでしょうか。

白人労働者が求める民主党が実施してきたアファーマティブアクション・不法移民に寛容な政策などの方針に反対し、フラットな条件での競争を行うことを求めることは検討に値する一つの意見です。

賛成するにしても反対するにしても、特定の意見を持つ集団を構成する人々の人格を貶めて、その主張の正当性を考慮に値しないものと切り捨てることは許されるべきではありません。

メディア上で「言論的弱者」をイジメ続ける嫌なヤツらのままで良いのか?

以前にも書きましたが、インテリは快適な執務室や研究室から実際の生産活動に従事している大衆を小馬鹿にしトランプ支持者を「嘘に騙された・金が無い・頭が悪い」と述べるだけで仕事になります。

元々ジャーナリズムなどに奉仕する人々は権力者と対峙することが務めだと思うのですが、現代では大学・メディア関係者らは自ら権力となって平然と大衆を侮蔑するようになりました。実に楽な時代になったものだと思います。

彼らは強大な発信力を有するメディア媒体を寡占することで、言論的な弱者である市井の人が反撃できない場所から特定カテゴリーの人々に対する人格的な批判を行っています。

そして、それらに対して政治的な正統性の体裁を整えて、「自分達と意見が異なる愚かな人々は批判しても良い」という空気を作り出しています。腕力自慢の学校のいじめっ子が言論自慢の社会のいじめっ子に変わっただけです。

近年の顕著な勘違いとして、SNSの普及によって一般の人々が自由に情報発信できるようになったから、自分と意見が違う特定のカテゴリーの市井の人々を叩いて良いという風潮すらあります。

しかし、SNSの拡散過程は影響力が強いインフルエンサーが情報を発信・媒介することで進んでいくものです。そのため、本来はインフルエンサー同士の言論の応酬で競われるべき問題であり、特定の言論を拡散している市井の人を叩いてもあまり意味がありません。

自分が「ひょっとしたらインテリかもしれない」と自覚がある人に求めたいこと
 
筆者が「自分がひょっとしたらインテリかもしれない」と自覚がある人に求めたいことは、データを示しながら人々に有益な情報を提供するべきだということです。

毎日一生懸命自分の持ち場で人生を送っている人たちを、彼らが反撃できないメディア上から侮蔑すること、は間違っていると気が付いてほしいのです。

今回の大統領選であればインテリな人々はトランプ支持者を「白人のゴミ」と揶揄することでちょっとだけ楽しい気持ちになれたかもしれません。しかし、そこは自制心を持ってほしいと思います。

そして、言うまでもなく、政治家らの権力者に関しては、誰でも舌鋒鋭く追及してもらいたいと思います。トランプ氏やヒラリー氏の言動などを徹底的に精査した上で、その真偽や意図について論証していくことは良いことだと思います。

また、自らが海外メディアの尻馬に乗る形で何も考えず、米国の有権者の人格を貶めてきたことを反省することも必要でしょう。

米国メディアや世論調査機関の論調に合せて誤った予測を引用し、予測が外れたら同じように外国メディアらの「世論調査の精度がおかしかった」とする弁明を丸写しする行為は言論人として恥ずかしいことだと知ってください。

あなた方が間違っていた理由は「インテリンチ」の空気に飲まれて目が曇っていたからです。

なぜ有識者は「トランプ当選」を外し続けたのか?

そろそろ「インテリンチ」への参加は程々にして、未来の姿を描く言葉を身に付けるためにもう一度大衆の中に入ってみたらどうでしょうか。

インテリの無知・傲慢による言論レベルの低さこそが問われるべき課題となっています。言論的弱者ばかりを叩いて悦に入っている状況を止めて、彼らには切磋琢磨の言論空間を築く努力をしてほしいと思います。

トランプ
ワシントン・ポスト取材班
文藝春秋
2016-10-11





本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2016年11月05日

トランプ大統領誕生で米国経済は好景気になる

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トランプ大統領誕生は米国経済の浮揚に向けた切り札として機能する

政策音痴な識者たちによって「トランプ大統領が誕生した場合、経済にとってマイナスに作用する」という言論が行われています。しかし、それらのポジショントークの言論は経済政策の常識から考えて明らかに間違っています。

本日はヒラリーとトランプ氏の経済政策を比較することで、11月8日の米国大統領選挙後に経済がどのように推移していくのか、について予測を行うことにします。従来までの米国通とされる識者らが「実は政策をほとんど見ていない」で米国メディアの猿真似で論評していることが良く分かると思います。

ヒラリーの社会主義政策、トランプの減税&景気刺激政策の優劣は明らか

まず最初に基本的事項として確認して置くべきことはヒラリー・トランプ両氏が「何党」の代表者かということです。そして、言うまでもなく、ヒラリーは民主党、トランプ氏は共和党の指名候補者です。

ヒラリーを擁する民主党は企業活動や富裕層に対して厳しく規制強化・増税路線の政党だと言えます。更に、今回の大統領選挙でヒラリーはサンダース支持者を取り込むために左寄りの政策を採用せざるを得なくなっています。

富裕層への増税、企業への課税強化、金融機関への規制強化、TPPへの反対など、経済活動に制約を加える政策のオンパレードです。もちろんヒラリーはクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)の権化なので、それらの政策はいずれも骨抜きになるかもしれませんが、現状においては経済フレンドリーな候補者ではありません。

そして、ヒラリー大統領の下で何よりもオバマケアをはじめとした社会保障制度を強化していくことになるでしょう。ただし、社会保障費の増大が経済成長の足枷になることは既に日本で証明済のことです。

一方、トランプ氏を擁する共和党は企業活動や富裕層にフレンドリーな規制緩和・減税路線の政党です。

たしかに、今回の大統領選挙では減税路線についてはトランプ氏・共和党の政策は共同歩調であるものの、両者の方向性が必ずしも全てが一致しているわけではありません。

トランプ氏は大型のインフラ投資に向けた財政出動を標榜しています。そして、財源としては予備選挙段階では巨額の軍事費支出について言及する場面もありました。TPPなどの自由貿易に反対す方針についても明確に述べています。これらは従来までの連邦議会を牛耳る共和党と対立する政策だと言えます。

ただし、筆者はそれらの政策的齟齬は大統領・議会の間で深刻な対立にはならないものと推量します。トランプ氏と共和党にとってはオバマケアなどのオバマ時代の社会主義的政策を廃止することが重要であり、トランプ氏の政策に反対すること自体の優先順位は高くないからです。

そのため、財政規律に関しては減税・財政出動・軍事費の折り合いをつける形でなし崩しとなり、米国経済の景気過熱が拡大していくものと推測します。また、トランプ大統領誕生時には上下両院は共和党が多数を占める可能性が高く規制緩和に関しては議会主導で粛々と進んでいくものと思います。

政策音痴の勘違いは無視、米国は一瞬の株安・ドル安後に株高・ドル高に向かう

上記のように、ヒラリーの経済政策は経済成長を阻害する要因が多く含まれており、トランプ氏の経済政策は景気を過熱させる要素が盛り込まれていることが分かります。

オバマ政権からの安定性という観点からトランプ大統領誕生の瞬間には一時的に株価などの経済指標が悪化するかもしれませんが、中長期的にはトランプ大統領の政策によって米国は株高・ドル高に向かうことになるでしょう。

筆者は「トランプ氏の自由貿易を阻害すること・巨額の財政出動を実施すること」には極めて懐疑的な立場ではあるものの、経済成長という観点からは民主党よりも共和党の方が優れた政策を掲げていると理解しています。したがって、共和党指名候補のトランプ氏と共和党主導の連邦議会によって妥当な経済政策が採用されていく可能性は十分にあります。

「トランプ大統領で米国経済は長期不況に突入し、世界経済にもトランプ・ショックが甚大な被害を与える」という類の妄言は杞憂に終わることでしょう。ヒラリーとトランプ、どちらの経済政策を良しとするかによって、その人が政策音痴かどうか明確に分かると思います。





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2016年11月03日

米国大統領選挙・選挙人予測「トランプ勝利のシナリオ」

ヒラリーVSトランプ(11月3日)

<Battle for White House(11月3日現在)、RCPから引用>

「支持率じゃなくて選挙人数が大事なんだよ・・・」という人に向けて説明

米国の大統領選挙は全米支持率ではなく各州に割り振られた選挙人数の獲得合計で争うことになります。そして、過半数(270議席)を得た陣営が大統領選挙での勝者ということになります。

直近数日の間でトランプ氏の全米支持率がヒラリーを上回る数字が出てきたことで、ヒラリー万歳派の日本人有識者らが「支持率じゃなくて選挙人数だから」という言い訳を始めています。今まで散々「支持率で論評しきてた」のにご都合主義「ここに極まれり」ですね。

しかし、残念ながら、その選挙人数の獲得予測でもヒラリーはトランプ氏に激しい追撃を食らっており、RCPの選挙人予測で日々数字を落としています。同予測でヒラリーは一度過半数を獲得しましたが、その後大きく選挙人数を失っている状況です。

選挙人数予測から考える「トランプ勝利のシナリオ」

現在の選挙人数の予測はヒラリー226・トランプ180でヒラリーが有利な状況となっています。しかし、接戦州に分類されている州の中でトランプ氏が有利な州が複数存在しています。

現状の支持率で推移した場合、バージニア13はヒラリー陣営、オハイオ18、ネバダ6、アイオワ6、アリゾナ11、はトランプ陣営に転ぶ可能性が高い状況です。したがって、実際にはヒラリー239・トランプ221が妥当な現状分析でしょう。

フロリダ、ノースカロライナ、ペンシルバニア、コロラド、ニューハンプシャー、メイン(2)は激戦中であり、どちらの陣営に軍配が上がってもおかしくない状況です。

トランプ氏が勝利するためには、フロリダ29、ノースカロライナ15、ニューハンプシャー4、メイン(2)1で270人の選挙人を獲得するというシナリオが最も妥当なシナリオでしょうか。ペンシルバニア20やコロラド9を陥落させた場合、形勢は一気にトランプ大勝利に流れていくことになるでしょう。(支持率を参考にするとトランプ氏のニューハンプシャー勝利は若干厳しいため、現実的にはコロラドが重要になるものと思います。)

上記のシナリオは現状の各州における支持率を見ている限りでは不可能ではありません。

鍵となるフロリダ州ではキューバ系移民からのトランプ支持が増加したこともあり、トランプ氏に有利な世論調査結果が出始めています。大票田であるフロリダがトランプ陣営の手中に入った場合、トランプ勝利の選択肢は大きく拡がることになります。

ヒラリー陣営は崩れ落ちる牙城を支え切ることができるのか?

選挙最終盤を迎えてヒラリーの獲得選挙人数予測の数字は下落し続けています。トランプ氏に比べて大量の広告費を投入して選挙戦を行ってきたヒラリー陣営にとってショックは隠しきれないものでしょう。

ヒラリー陣営は既に大統領選挙を勝利したものと看做して接戦州での対応を怠り、トランプ氏による徹底した反撃に対して後手に回った状況に置かれています。まさにエスタブリッシュメント特有の慢心と驕りによって、トランプ陣営の窮鼠猫を噛む攻撃に苦しめられる結果となったと言えるでしょう。

ヒラリー優位の残りの州の中で、ウィンスコンシン州とミシガン州は比較的崩れる可能性がありますが、ヒラリー陣営も流石にこれ以上は止血すると思います。そのため、上記の接戦州での勝敗こそが大統領選挙の勝敗を左右することになると言えるでしょう。

ちなみに、ヒラリー・トランプの獲得選挙人数が269VS269となった場合、連邦下院議員の投票によって大統領が選ばれることになります。連邦下院議員は共和党多数がほぼ確定的であるため、ヒラリー寄りの議員らが造反しなければトランプ大統領誕生ということになります。

開票日まで1週間を切っている米国大統領選挙ですが、両者の鎬を削る戦いは熱くなる一方です。毎日、米国で何が起きるのか目が離せません。





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2016年11月02日

トランプ大統領誕生時、「日本の米国研究者」というリスク

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Abe urges TPP approval in meeting with Clinton in New Yorkから引用>

トランプ支持率急上昇、ヒラリーは予測獲得選挙人数が減少

トランプ氏の支持率が急速に改善しつつあり、ヒラリー陣営のRCPの獲得選挙人予測も減少しつつあります。勝負の予測はもはや選挙当日にならないと分からない状況となっています。(筆者はヒラリー支持の若年層比率の高さからトランプが逆転できる可能性はあるものと予測しています。)

このような伯仲した選挙戦になることは支持率、特に接戦州の支持率調査を見ていればある程度は予測できました。

ヒラリー支持の各種メディアの発表よりも毎日発表される世論調査の数字を追いかけることで、米国政治の専門家でなくても状況を把握することが可能な状況があります。

トランプ大統領誕生時の最大のリスクは「ヒラリー万歳に偏った日本の米国研究者」たち

ところで、トランプ大統領誕生時の日本外交のリスクはトランプ氏自身にあるわけだけではありません。最大のリスクは「日本の外交チャネルの一部を担ってきた米国研究識者」たちです。

トランプ陣営も含めて米国政界では東アジア情勢に対する関心は中東・ロシアと比べて高くありません。そのため、トランプ大統領が誕生した場合、トランプ氏に対する東アジア各国の国内世論の情勢について再調査することが想定されます。

我が国の米国通とされる識者たちは、共和党の予備選挙段階からトランプ氏を「泡沫扱い」するような言動を繰り返してきました。そして、最近に至るまでヒラリー万歳の姿勢でトランプ氏に対して罵詈雑言に近い論評を発表し続けています。

筆者は個人としてのヒラリー支持が悪いと言っているわけではなく、メディアが登場させる「識者」とされる人々のヒラリー支持への傾斜ぶりが危険だと思っています。

これら日本の米国通とされる識者は予備選挙段階から予想を外し続けていますが、それでも米国側から見た場合、彼らの意見は日本の識者の見解の総意に見えるからです。トランプ陣営のスタッフがそれらの人々のせいで「日本の政府関係者はここまで反トランプなのか」と驚くことになる姿が想像できます。

対米外交の観点から見た場合、日本の大統領選挙関連の論評はかなりバランスが悪い状況だと言えるでしょう。

大統領選挙の結果が出る前に「ヒラリー支持を間接に打ち出した日本政府」というリスク

安倍首相は9月下旬にヒラリーと面会してTPPについてプッシュすることに成功しました。ヒラリー自身はTPPに選挙上は慎重な姿勢を取っているため迷惑だったかもしれませんが、安倍首相が大統領選挙の片方の候補者に間接的に支持を表明したことになります。(当然ですが、TPPの要望を行うことはヒラリーが大統領になることが前提だからです)

これはトランプ氏の全米的な猛追の可能性を予測できず、メディアや米国通の識者を妄信した安倍政権の暴走とも言える外交的な一手だったと思います。

同会談に関してはヒラリーの外交ブレーンであるカート・キャンベル氏が「(安倍総理は)より良い日ロ関係は利益になると説明した。クリントン氏は『戦略的な見識を受け入れる』と答えた」と内容を暴露しました。つまり、北方領土交渉で喉に刺さった骨になる米国側の了解がほしい安倍政権の外交的な賭けだったわけです。

しかし、現実にはヒラリーはトランプ氏に猛追されており、万が一トランプ氏が勝った場合に本件は外交的な大失敗ということになるでしょう。

キャンベル氏の発表直後にトランプ氏の外交アドバイザーであるフリン氏を来日させて意見交換していますが、このような対応を実施してもトランプ氏からの心証が良いはずがありません。

国の命運を賭けた外交は万が一を考えて慎重に行うべきものです。一か八かの賭け事のようなやり方に賛同できませんし、これも日本国内の米国研究識者らの意見の偏りが招いたリスクだと思います。

トランプ大統領が誕生した場合、日米外交のパイプは極めて希薄なものになる

米ブッシュ前政権で国家安全保障会議アジア上級部長を務めた知日派のマイケル・グリーン氏らはトランプ氏に対して批判的であり、ヒラリー寄りの発言を繰り返しています。

日本の米国通とされる国会議員・識者らはグリーン氏のような従来までの米国とのパイプしか持っておらず、トランプ陣営との繋がりは脆弱なものとなっています。これらの国会議員の中には大統領選挙中のトランプ氏を公然と批判するような事例も存在しています。

筆者はトランプ陣営に関与している安全保障関連のスタッフに面会する機会を得ましたが、同スタッフによると日米の外交的な関係は極めて希薄なものになっているとのことでした。

このような状況を招いてきたのは、ヒラリー万歳のポジショントークに終始し、トランプ陣営との外交チャネルの構築を怠ってきた既存の対米外交関係者の責任です。更に言及するならグリーン氏らのお馴染みの人々だけでなく、共和党・民主党の更にディープなレベルにまで恒常的に関係性を築いておくべきです。

まだ見たこともないトランプ外交をリスク扱いする以前に、日本政府及び米国研究の識者らの外交チャネルの偏りこそが最大のリスクになっていると思います。

仮にトランプ大統領が誕生した場合、従来までの外交チャネルを全面的に見直し、対米外交の在り方そのものを根本的に改革することが重要になるでしょう。





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2016年10月31日

トランプ支持者は「白人ブルカラー不満層」という大嘘


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<http://www.breitbart.com/から引用>

ミスリードされた「トランプ支持者像」が選挙結果を見誤らせるだろう 

トランプ支持者像として典型的に語られるイメージは「白人ブルカラー不満層」というものです。このような誤ったイメージはヒラリー陣営による徹底したプロパガンダの結果として米国内外にまで浸透しています。

トランプ支持者を紹介する日本のテレビ番組でも「デトロイトまで出かけて白人労働者」をわざわざ見付けて取材しています。トランプ支持者なんてものは全米(ワシントンD.CやNYでも)に存在するのに随分と手が込んだ画作りだなと感心してしまいます。

しかし、現実にはトランプ氏とヒラリーの支持率は拮抗している(地域によってはトランプ氏が上回っている)状況です。「米国人の約半数が白人ブルカラー不満層」だというおよそ非現実な仮定を信じない限り、トランプ支持者に対する愚かな理解が通用しないことが分かります。

私たちはステレオタイプのプロパガンダをまき散らす有識者らの悪質なデマを信じこまされて米国の大統領選挙の状況を大きく見誤っている状況に陥っています。

性別・年代・所得・学歴・人種の観点から「トランプ支持者・ヒラリー支持者」を比較する

では、10月30日発表のIBD/TIPP poll という世論調査の詳細を見ながら、実際のトランプ支持者・ヒラリー支持者の実像を探っていきたいと思います。

同世論調査は回答者のデータを詳細に公開しているため、メディアが垂れ流すイメージとは異なるトランプ支持者・ヒラリー支持者像をしっかりと理解することができます。

女性の半数はヒラリー支持、ただし白人女性に限定するとトランプ支持の割合が多い

まず、性別から見ていきましょう。男女別の支持率としては男性はヒラリー38%・トランプ49%、女性はヒラリー50%・トランプ36%となっています。

ヒラリーが獲得している女性票は約半数でしかありません。しかし、これは回答者の人種ファクターの影響が大きく、白人女性だけに限定するとヒラリー41%・トランプ43%でトランプが上回っています。

つまり、トランプ氏が男性から支持を受けていることは明らかであるとともに、10月初旬を賑わせた一連の女性スキャンダルがあってもトランプ氏が女性からの一定の支持を維持していることが分かります。

トランプ氏はミドルエイジ~高齢層、ヒラリーは相対的に若年層から人気

次に、年代を見ていきます。トランプ支持者とヒラリー支持者に関して顕著な違いが出ている年代層は若年世代です。18~44歳までの層ではヒラリー45%・トランプ33%でトランプ支持は大きく水があけられています。

これはリバタリアン党のジョンソンが支持を拡大していることが影響しています。当初はヒラリーを削る可能性も予想されていたジョンソンですが、結果としてトランプ支持者を削る形になっています。

一方、45~64歳と65歳以上の層ではヒラリー・トランプの支持率は拮抗しています。誤差の範囲かもしれませんが、数字の上ではトランプ氏のほうがヒラリーを上回る状況となっています。若年層は米国においても投票率が低い傾向があるため、トランプ支持者のほうが投票率が高くなる可能性を示唆しています。

トランプ支持者は中間層から高所得者、ヒラリー支持者は低所得者が相対的に多い

所得についても冷静に見ていきましょう。3万ドル未満の層はヒラリー55%・トランプ31%、3~5万ドルの層はヒラリー46%・トランプ36%、5~7.5万ドルはヒラリー42%・トランプ42%、7.5万ドル以上はヒラリー43%・トランプ47%となっています。

つまり、「低所得者はヒラリー支持、高所得者はトランプ支持」は世論調査の数字から明確に確認できると言えるでしょう。トランプ支持者が「低所得の白人ブルカラー層」という嘘っぱちは一体どこからでてきたものでしょうか(笑)

トランプ氏は共和党の指名候補者であり、同世論調査では共和党支持層の8割以上を固めることに成功しています。したがって、米国においてはタックスイーターではなくタックスぺイヤー(納税者≒高所得者)側の候補者であることは改めて確認するまでもないことです。インデペンデントからの支持率もヒラリーを上回っており、「トランプ支持者はヒラリー支持者よりも所得が高い」が正しい分析です。

トランプ支持者は高卒・大学中退者が多く、ヒラリー支持者は大卒以上が多い

学歴については、高卒者でヒラリー35%・トランプ52%、大学中退者でヒラリー38%・トランプ47%、大卒以上でヒラリー50%・トランプ36%となっています。

トランプ支持者は相対的に学歴が低い傾向があり、ヒラリー支持者のほうが高学歴者が多いことが分かります。本人が望んだのか不幸にも進学できなかったかは定かではありませんが、トランプ支持者はたたき上げの人物ということになります。

しかし、大卒以上でも36%はトランプ支持であるわけで3人に1人はトランプ支持者であるわけです。したがって、トランプ支持を単純に低学歴だと断定することは明らかな間違いです。

また、上記の所得層と合わせて考えると、学歴についてはトランプ支持者はヒラリー支持者よりも低いけれども、所得についてはトランプ支持者はヒラリー支持者を上回っていると推量することができます。

ヒラリー支持者が高学歴層で多数派を占めていることで、メディア上のオピニオンは徹底的にトランプ・パッシングだらけになっているわけですが、それらは学歴エスタブリッシュメントのインナーサークルの言論でしかないと言えるかもしれません。

トランプ支持者は白人が中心ではあるものの、ヒスパニックも3人に1人はトランプ支持

白人男性はヒラリー31%・トランプ57%、白人女性はヒラリー41%・トランプ43%となっており、白人層においてはトランプ氏が相対的に優位な状況となっています。黒人層でヒラリー85%・トランプ4%と圧倒的な差がついている状況とは顕著な違いがあると言えるでしょう。

トランプ氏は「メキシコ国境に壁を築く」などの不法移民に対する厳しい姿勢を見せていますが、ヒスパニック層からの支持はヒラリー48%・トランプ35%という状況となっています。3人に1人のヒスパニックはトランプ支持という状況です。

ヒスパニックにはキューバ系とメキシコ系が存在しており、両者は異なる政治的な支持の傾向を持っています。キューバ系は自主独立の精神が高く、共和党の基本的な方向性と親和性があります。

その結果としてヒスパニックにもトランプ支持が一定層存在する形となっているため、トランプをレイシストと単純に罵る人々は複雑な現実を理解できない層と言えるでしょう。実際にフロリダ州ではキューバ系のトランプ支持が高まりつつあります。

<フロリダのキューバ系ヒスパニックでトランプの支持率上昇>
Poll: Donald Trump +4 in Florida; Jumps 19 Points Among Cubans

・・・以上となります。

トランプ支持者が「白人ブルカラー不満層」というステレオタイプが間違っていることが明らかになったと思います。トランプ支持者を馬鹿にしている日本人有識者よりも約3分の1のトランプ支持者は学歴も所得も上回っている可能性があります。

米国大統領選挙は依然として支持率が拮抗した状況が続いていますが、支持年代層の分布を加味した場合、トランプ氏が相対的に伸びると推測する見方が妥当です。この年代別の支持分布の構造は英国のBrexitと酷似しており、数%の差であればトランプ氏がヒラリーをまくることも現実的なものと言えるでしょう。

いずれにせよ、今回の選挙ほど有権者にレッテルを貼る酷いメディアのキャンペーンはありません。それらの偏ったメディア情報を鵜呑みにするのではなく、実際の世論調査の数字を見ながら冷静に状況を見ていきたいものです。



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2016年10月27日

トランプ大統領が爆誕する5つの理由

トランプ

米国大統領選挙投開票日まで2週間を切った状況となっており、既に「ヒラリーが勝利した」というヒラリー陣営のプロパガンダが大量に流れている結果、日本人の間でもスッカリ決着がついたかのように錯覚している人が多く存在しています。

特にいわゆる有識者と呼ばれる人々にとってはトランプ勝利の可能性に触れること自体がポリティカルコレクトネス(政治的に正しい言説)に反するものになっているため、米国の現実とはかい離したヒラリー万歳を繰り返すだけの有様となっています。

しかし、現実の米国世論はいまだトランプかヒラリーかで大きく割れている状態であり、一度はヒラリー勝利を予測したメディアでも第3回討論会後の世論調査の推移から情勢変化を見守る姿勢に変化しているものもあります。

クリントン氏、再び過半数割れ=米大統領選

そのため、Brexitと同様にメディアの論調ではなく世論調査の数字で実際の見通しを予測することが肝要です。筆者は5月段階で「トランプはヒラリー・クリントンに勝つ!」5つの理由という記事を書きました。

残念ながらトランプ氏と共和党の関係は大人の関係を築くことができず、トランプ氏と共和党主流派は仲たがいする形になりました(ヒラリーの健康問題は炸裂しましたが・・・)が、それでもトランプVSヒラリーの状況は五分五分の状況となっています。

今回は数字と情勢から読み取ることができるトランプ氏が勝利できる5つの要素についてまとめました。米国大統領選挙は依然として伯仲した争いが続いており、読者の皆様にも冷静な判断を求めたいものと思います。

(1)トランプVSヒラリーの世論調査は第3回討論会後に縮小傾向を見せている

トランプVSヒラリーの支持率差は一部の世論調査結果を除いて第3回討論会後に縮小傾向を見せています。

つまり、大方のメディアの評価に反して有権者による第3回討論会の評価はトランプ優勢であったと考えることができます。最新の世論調査では一部を除いて約5%以内の支持率差の範囲に留まっており、調査によっては互角または1%程度の差、つまり両者の支持率差はほとんど無いとするデータも存在しています。

トランプ氏は討論会で共和党保守派の支持者に効果的なアピールを行ったため、女性問題で離反しつつあった共和党保守派系を自陣営に繋ぎとめることに成功しています。一方、共和党の30%程度である主流派支持者がトランプ陣営を離反してヒラリーに流れている状態です。

離反した共和党支持層がトランプ支持に転ぶことは困難かもしれませんが、実際の投票段階でこれらの層が投票棄権に転んだ場合、ヒラリーへの投票が減少して相対的にトランプ氏が浮上する状況となるでしょう。

(2)大統領選挙の勝敗を決める接戦州ではトランプ・ヒラリーの支持率は拮抗している

米国の大統領選挙の勝敗は接戦州とされている州の投票結果で決まります。各州に割り振られた選挙人を勝者が総取りできる制度となっており、接戦州以外は既に共和党勝利・民主党勝利がほぼ確定的な状況となっています。

トランプ氏は接戦州のうちオハイオ州・アイオワ州で優位な状況にあり、最新のブルームバーグによる世論調査ではフロリダ州でもヒラリーの支持率を上回りました。

Trump Has 2-Point Edge in Bloomberg Politics Poll of Florida

全米支持率でも支持率差が再び縮まりつつある中で、接戦州では両者の支持率が更に拮抗または逆転した数字が出てくることになるでしょう。

(3)トランプは共和党主流派と縁を切ったことで接戦州の勝敗に集中できる

トランプ氏の共和党主流派との決別は選挙戦略上は極めてマイナスに働くものとして捉えることが妥当です。実際に共和党主流派と同傾向を持つ比較的リベラルな傾向を持つ共和党員からの支持は失われています。

しかし、物事には負の側面もあれば良い側面もあります。

共和党主流派との決別はトランプ氏が「連邦議会選挙」を気にせずに「大統領選挙を決める接戦州のみ」に全力を注ぐことができることを意味します。ヒラリー陣営が民主党の連邦議員候補者らに配慮して全米的なキャンペーンを実行する必要があるのに比べて、トランプ陣営は大統領選挙における自分達の勝敗のみを意識したキャンペーンが可能です。

トランプ氏は全米支持率でヒラリーに負けたとしても接戦州の投票結果でヒラリーを逆転することができれば大統領選挙に勝利することができます。

たしかに、トランプ陣営が上記の戦略を実行し続けたことで、ヒラリー陣営の全米的なキャンペーンによってテキサス州などの共和党の金城湯池が攻め落とされた場合、トランプ氏は歴史的な大敗を帰することになる可能性もあります。

しかし、大統領選挙の慣習通りにレッドステイツ(共和党優位の州)でトランプ氏が勝利することになれば、トランプ陣営の接戦州に特化する戦略を成功を収めることになるでしょう。トランプ陣営にとっては状況を有利に活用して一か八かの博打を打つことが可能な状況が生まれていると言えます。

(4)ヒラリー支持者は若年世代が多く実際の投票率が低い可能性がある

ヒラリー支持者はトランプ支持者よりも若年層が相対的に多い状況となっています。

Clinton Vs. Trump: IBD/TIPP Presidential Election Tracking Poll

そして、米国大統領選挙においても若年層の投票率は低い傾向があるため、表面上のヒラリーVSトランプの数字が拮抗していたとしても、実際のヒラリー陣営の支持率から若年層の支持率を割り引いて考えることが妥当です。

英国のBrexitの国民投票時にも若年層の相対的な投票率の低さによって事実上の決着がついたこともあり、米国の大統領選挙においても若年層の投票率は大きな勝敗を決めるファクターとなるでしょう。

(5)消極的な選択肢であるヒラリー支持は第三極候補者に流れる可能性がある
 
ヒラリーは予備選挙・本選挙を通じて「何故自らが大統領になるのか?」ということを有権者に十分にアピールしてきませんでした。ヒラリーは常に「消去法としてのヒラリー」でしかなく、米国の有権者は彼女を積極的に大統領に押し上げる理由がありません。彼女は現在もせいぜい「トランプを大統領にしてはいけない」という程度の消極的支持を得ているに過ぎません。

ヒラリー支持者の票は若者が多いこと・熱心な支持者ではないことから、流石にトランプに流れることはないものの、ジョンソンやステインらの第三極候補者に流れる可能性があります。エスタブリッシュメントらに配慮して無意味なポリティカルコレクトネスに基づくセリフを繰り返し、大統領候補者として自らの言葉を失った結果ということが言えるでしょう。

ヒラリーに比べてトランプ氏は「何故トランプ氏なのか」ということについて、「アメリカを再び偉大にする」というキャッチフレーズとともに、経営者経験があるアウトサイダーとしてのメッセージを有権者に提示し続けました。そのため、トランプ支持者は全くの政治素人が多いものの、熱心な支持者としてメディアの異常なバッシング下でも高い士気を保ち続けています。

一例を挙げると、2016年の共和党予備選挙は2012年時よりも圧倒的に多くの米国民が参加しています。2012年時の参加者総数は約1860万人でしたが、今回の予備選挙では3100万人を超えています。民主党の予備選挙の参加人数が2008年のオバマVSヒラリーのデットヒート時よりも減少している点とは対照的な状況です。


以上のように、トランプVSヒラリーの支持率差は縮小しつつあり、特に接戦州では逆転している数字も存在しており、トランプ陣営が接戦州に戦力を集中する中で、ヒラリー支持者の若者が投票に行かないか・第三極候補者に投票することによって、トランプ氏がヒラリーに逆転できる可能性が残されています。

これらはメディア・有識者によるイメージ操作ではなく世論調査の数字に基づく分析結果です。2016年の米国大統領選挙は未曽有の大接戦になっています。そして、米国にエスタブリッシュメントを葬り去るアウトサイダーの大統領が誕生する日が現実になる日が近付きつつあるのです。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
 

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