トランプ
2018年10月17日
「トランプ国連演説に失笑」と報じるメディアに冷笑を浴びせたい
先週行われたトランプ大統領の国連演説の自画自賛の部分で「失笑」が起きた、とメディアが報じた。
トランプ氏の国連総会演説に予想外の笑い声(BBC)
トランプ氏の国連演説、米国第一前面 「友達だけ援助」(朝日新聞)
トランプ氏の国連演説 世界の失笑の意味考えよ(毎日新聞)
トランプ氏自慢、各国首脳が失笑 国連演説(日経新聞)
自画自賛のトランプ氏に失笑も 国連総会で演説(ANN)
しかし、現実はトランプ大統領が言うように就任僅か2年でトランプ大統領が達成した功績は多い。
実際にWashington Examiner誌は下記の通りメディアが無視する功績を報じている。
Media blackout: Trump’s 60-point accomplishment list of ‘American Greatness’
では、実際にトランプ大統領が達成していることを同記事から引用しよう。まずは経済面から。
・就任以来、約300万の雇用を創出。
・就任以来、304,000人の製造雇用が創出され、製造業の雇用は2008年12月以来の最高水準に達する。
・就任以来、33万7,000件の建設雇用が創設され、2008年6月以降、建設雇用は最高水準に達する。
・失業率は3.8に低下し、2000年4月以来の最低水準であり、雇用は660万人に達し、最高水準を記録した。
・ギャラップによると、アメリカ人の67%は今、良質な仕事を見つける良い時期だと考えている。
・ギャラップが17年前に質問を始めて以来、トランプ大統領の下でのみ、アメリカ人の50%以上が良質の仕事を見つける良い時期であると信じている。
・職業訓練と労働力開発の優先順位を決め、労働者が見習いの機会を拡大するために大統領令に署名し、より多くの機会を奪うことを可能にした。
・トランプ大統領は、消費者と企業の両方が自信を持ってアメリカ経済に自信を取り戻しました。
・コンファレンス・ボードによると、現在の状況に対する消費者の信頼指数は17年ぶりの高水準に達している。
・ナショナルアソシエイツ協会(National Association of Manufacturers)によると、メーカー間の楽観的見通しは、トランプ大統領の下で過去最高を記録した。
・中小企業の楽観的見通しは、独立系ビジネス連盟(National Independent Business Federation)によると、トランプ大統領の下で過去最高の水準を維持した。
・トランプ大統領は、歴史的な減税法案に署名し、アメリカの家族の税金を削減し、アメリカのビジネスをより競争力のあるものにした。
・アメリカの過程は減税政策で総額3.2兆ドルを受け取るとともに、子供の税額控除が倍増した。
・最高法人税率は35%から21%に引き下げられ、アメリカの企業はより競争力を高めることができた。
・トランプ大統領は不必要な雇用規制を期待以上に後退させた。
・2017年、トランプ大統領は規制を2対1の比率で廃止するとの約束をはるかに上回り、新たな規制措置のたびに22の規制緩和措置を出した。
・ウォーターズ・オブ・ユナイテッドステイツ・ルールやクリーン・パワー・プランのような農家やエネルギー生産者に害を与える規則と規制を取り消した。
・トランプ大統領がドッド・フランク法によって課せられた有害な要求を減らす法律に署名した後、地域および地域の銀行と信用組合が救済された。
・何十年にもわたって破壊的な貿易政策を終え、アメリカの労働者を保護する自由で公平な、そして相互の貿易取引を進めた。
・就任して数日後、太平洋太平洋パートナーシップ交渉と合意から米国を撤回した。
・トランプ政権の大統領は、一連の行動を通じて中国の不公平な行為からアメリカの知的財産を守るために努力している。
・大統領は韓国との貿易協定を改善し、これは関税引き下げによる米国への自動車輸出や医療品の輸出を増加させるものだ。
・・・圧倒的な経済振興の成果と実績の数々である。国連に出席している半分独裁国家のような国や半社会主義国には逆立ちしても実現できないものだ。
トランプ大統領が自画自賛したくなる気持ちもわかるし、世界の無能な政府の国々は明らかにトランプ大統領の政策を見習うべきだろう。
では、次にトランプ大統領の外交面での成果と実績を紹介していきたい。
・イスラエルの駐韓米大使館をエルサレムに移送するという約束を履行した。(クリントン時代に制定された法律に従って執行)
・恐ろしいイラン・ディールへの米国の参加を終了するよう命じ、直ちに解除された制裁を再度行うプロセスを開始した。
・イランとその支援勢力による侵略に立ち向かうための行動を取った。
・スラム革命防衛隊を含むイランの活動とその実行団体を対象とした一連の制裁を出している。
・米国は、朝鮮半島の平和的な非核化を達成するための前例のない世界的なキャンペーンを率いてきた。
・トランプ大統領のリーダーシップは、海外で拘束された17人のアメリカ人の帰還に貢献した。
・2018年5月だけでベネズエラは1名、北朝鮮は米国に帰国した3人のアメリカ人を解放した。
・何年もの有害な予算上限措置を見直し、米国の軍備を立て直すために必要な防衛予算を確保した。
・防衛予算が2018年度7000億ドルと2019年度・7110億ドルとなるように予算に署名した。
・米国は国際的な同盟国とともに協力してISISを打倒した
・2017年4月と2018年4月に政権が化学兵器を使用したことに対応して、シリアに対する攻撃を命じた。
・マドゥロと他の政府高官を対象とした制裁を含め、ベネズエラのマドゥロ独裁に制裁を課している。
などです。長年の懸案事項を片付けた上で、米国のリーダーシップを回復するための米軍再建に力を入れている。また、化学兵器使用や独裁政権に対する制裁を見ても分かる通り、トランプ大統領はオバマ的な役に立たない国連主義ではなく、実際に事態を改善させるだけの措置を実行している。
その他のポイントも見ていこう。
・限られた資源と議会からの妨害にもかかわらず、トランプ大統領は私たちの国境を支配し、移民法を施行した。
・国境を守るために必要な資源を提供し、移民法が完全に施行されるのを妨げる閉鎖的な抜け穴を議会に提出するよう求めた。
・国境警備隊の配備を許可し、国境を確かなものにした。
・法の支配に基づいて移民執行活動を行っている。
・政権発足から2017年度末まで、米国移民局(ICE)は、違法犯罪者を110,568人逮捕した。
・この期間に行われた逮捕は、2016年度の同じ期間から42%増加しました。逮捕された110,568人のうち92%が刑事告発された。
・トランプ大統領は、ギャングが広がった恐ろしい暴力からコミュニティを守るために、彼の政権がMS-13の脅威と戦い続けることを明らかにした。
・2017年、司法省は中央アメリカのパートナーと協力し、4000人以上のMS-13メンバーに対して刑事告訴を提起した。
・違法薬物の輸入と流通を断絶して、それらが地域社会に到達しなくなり、さらなる荒廃が起きることを阻止した。
・2018年4月現在、米国国境で2018年度に合成オピオイド284ポンドを押収し、2017年度に押収された合計181ポンドをすでに上回っている。
・アメリカ全土のコミュニティを荒廃させたオピオイド危機に対抗するため、全国的な取り組みを開始した。
・オピオイド・イニシアチブは、治療の機会を拡大することによって、薬物需要を減らし、不法薬物の流れを止め、命を救うことを目指している。
・オピオイドの流行に対処するために約40億ドルを提供する関連支出法案に署名した。
・この法案には、最も被害を受けた州と人々に焦点を当てた助成金に10億ドルが含まれ、苦痛と中毒に関する官民共同研究のための資金提供が行われた。
さらに、
・最初の年に大統領の最裁判所判事を確認し、ニール・ゴーサッチ判事の米国最高裁への承認人事を経た。
・退役軍人局に責任を持ち、退役軍人が受けるケアの選択肢をより豊かにするための法律に署名した。
・不正行為に対処するためのプロセスを改善し、退役軍人事務局の責任と告発者保護法に2017年に署名した。
・法律に署名し、Veterans Choice Programのために21億ドルの追加資金を認可した。
・Obamacareの負担を軽減するために、それに伴う罰金措置を廃止した。
・より手頃な価格の医療保険を提供し、Obamacare計画の手ごろな代替案への幅広いアクセスを求めている。
・アメリカ人の薬価を引き下げるためのブループリントを発表した。
・アメリカ人の宗教的自由と良心が連邦政府によって保護され、尊重されるようにした。
・言論の自由や宗教上の自由(リトルシスターズオブプアーズのような)を守るために大統領令に署名した。
・司法省は、連邦プログラムにおける宗教的自由を守るために、すべての行政機関に指針を出した。
トランプ大統領の実績は確かなものであり、失笑の対象になるようなものではない。トランプ大統領の実績自体にケチをつけることはイデオロギーの違いによるもの以外は難しい。
つまり、その公約達成度自体に文句のつけようがないために、リベラルなメディアは「失笑報道」くらいしかトランプを批判することができないのだ。
民主主義と自由主義を笑う国連貴族とメディアは、一体誰の味方なのだろうか。
yuyawatase at 08:00|Permalink│Comments(0)
2018年10月15日
トランプにビビるな!日本は対中共通関税の導入を検討すべきだ
(『日本人が知らないトランプ再選のシナリオ―奇妙な権力基盤を読み解く』から写真引用)
自動車関税に右往左往する無為無策の日本の対米外交戦略
FFRを前にしてトランプ政権が日本に対して貿易交渉の圧力を強化している。それに対して、日本側から聞こえてくる声は「自動車関税の導入」に対する懸念ばかりである。また、国内既得権層に支えられた農業保護のための勇ましい掛け声、そして対米追従・ご機嫌取りの対米インフラ投資への協力なども合わせて耳にする。
有識者による論議も「トランプの怒りを回避できるか」という対処療法的な取るに足らない主張が幅を利かせている。もちろん自動車産業は日本の基幹産業であるため、日本政府が自動車関税を回避するために全力を尽くすことは重要である。
しかし、本来はトランプ政権を前にして日本政府として同政権を最大限に利用するしたたかな戦略を持って臨むことが必要ではないか。筆者はジャイアンを前にしたスネ夫としての善後策に関する議論ばかりで辟易している。
多国間協定で対中交渉力強化を進めるオバマ時代の日本の戦略
トランプ大統領の問題意識は基本的に正しいものだ。自由市場による恩恵を確保し、知的財産権保護を強化することは世界経済にとってプラスである。そのため、それらの障害となる制度を有する他国に制度変更を求めることは当然のことだろう。
そして、その本丸は単純なモノの貿易収支の問題ではなく、貿易黒字額が拡大している知財使用料の確保にある。21世紀の雇用増・所得増の基盤は知的財産にあり、安全保障上もハイテク技術の保持は欠かすことが出来ない。日本も先進国であるため対中交渉については米国と同様に知財制度是正などを中国に求める立場である。
日本政府は日欧EPAやTPPなどの多国間協定で中国に対する交渉力強化に努めており、これはオバマ時代に推進してきた政策上のレガシーとして評価に値するものだ。そして、多国間協定を軸として自由貿易を推進することは当時の時流に沿ったものだったと言える。
しかし、トランプ大統領が創り出している新しい交渉の流れに対して機敏に対応できているとは言えず、むしろ急激な状況変化を前にして一年以上も徒に恐怖に慄いているようにしか見えない。硬直化した官僚システムが推進する多国間協定以外の新しい発想の注入が必要な状態であるが、惰性の延長線上から抜け切れずに強面の取引先のオーナー企業の社長をビビりながら接待漬けにするような善後策しか生まれてきていない。
トランプの対中交渉を利用した通商戦略を実施すべきだ
中国共産党は日本に対する融和姿勢を示しているが、このような姿勢の変化はトランプ政権が強硬策に出ている間の一時的な対応に過ぎない。日本政府は米中の衝突の漁夫の利を得たかのように錯覚しているようだが、中国共産党は喉元過ぎれば熱さを忘れることは間違いなく、再び日本に対して傲岸不遜な態度に転換することは目に見えている。したがって、安倍政権は中国が表面上繰り返す「自由貿易を擁護する発言」の尻馬に乗るかのように、トランプ政権を自由貿易に対するリスクとして危険視するナンセンスな言動をやめるべきだ。
トランプ大統領ほどに中国に対して攻勢的な大統領はいない。特に日本も手を焼いている中国の貿易慣行・知財政策について米国の国力をフルに用いて是正圧力をかける貴重な存在とも言える。そのため、むしろ日本政府はトランプ大統領と歩調を合わせて対中交渉圧力を強化するべきだろう。そして、中国の不公正な貿易慣行や技術の強制移転政策等を叩き潰し、日本の知的財産・安全保障を守るためにトランプ政権とともに戦う姿勢にシフトするべきだ。
具体的には、7月のトランプ・ユンケル米欧首脳会談後の共同記者会見で中国の諸政策が不当であると批判を浴びたことも踏まえて、安倍政権は中国に知財政策是正を求める「日米欧による対中共通関税の導入」を求める方向に舵を切るべきだ。今、日本の目の前で起きているトランプによる貿易戦争という千載一遇のチャンスを逃せば、日本が中国に政策変更を迫るチャンスは二度と訪れることはないだろう。
現在、トランプ大統領が必要しているものは通商政策上の同盟者であり、貿易戦争をともに戦い抜くパートナーだろう。日本政府は、自由主義・民主主義の価値観を共通にする日米同盟を活用し、この貿易戦争の主導権を自らの手に取り戻すべきだ。レーガン時代の米ソ冷戦における軍拡競争のように、米中は知財・ハイテクにおける覇権戦争の真っ只中にある。日本が貿易戦争において重要な地位を占めることによって対日自動車関税は必然的に回避されるとともに、中国に対して強い交渉力を持つことができるようになる。
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10月10日渡瀬裕哉著『日本人が知らないトランプ再選のシナリオー奇妙な権力基盤を読み解く』発売告知
2018年10月10日に拙著『日本人が知らないランプ再選のシナリオ―奇妙な権力基盤を読み解く』(産学社)が出版される運びとなった。トランプ当選から現在までの権力闘争と政策成果をデータとファクトで整理した上で、中間選挙前後の予測をまとめた内容となっている。書籍の校了自体は8月でほぼ完了しており、9月中旬現在までは国際情勢は本書で書いた通りの展開を見せている。
著者として、この本のウリに少し触れておくと、「誰もが当たり前の前提として処理していること」をもう一度見直すことを大切にした本である。トランプとは何者か、トランプ支持者とは、トランプは最初の一年でやったことは何か、そして貿易戦争の前提となるロジックとは・・・、など、誰もが何らかの形で答えを出していることに改めて向き合うことで、現在、そして未来への道筋が見えてくるのだ。
現代の時間が流れる速度は日々増しており、ドックイヤーどころか、マウスイヤーとして呼ばれるようになっている。次々と起きる出来事、そして情報のシャワーを浴びながら、辻褄合わせの処理を繰り返すばかりだ。したがって、物事の本質を掴むことが難しくなり、現在への理解と将来の予測に問題をきたすようになる。そのため、物事をバラバラの現象として捉えるのではなく、全体の構造の中で把握していくことが重要となってくる。
「トランプは予測不能」という評価は、この構造的に物事を把握する、という基本的な作業が蔑ろにされている証左だろう。個別の事象だけを追いかけていれば何でも予測不能なものになる。
筆者の場合は、金融機関の方々向けのレクが多いことから、第一線で切ったはったをしている人々に様々な角度から質問がぶつけられることになる。それらに対処する際に最も必要になる能力は「構造を理解する」力であり、大枠の中で物事を整理するくせをつけることだ。仮に事前の仮説に反証する事態が実際に発生した場合(ほとんどないが・・・)、それはパズルを合理的な形に組み直す条件が新たに生じたものとして構造認識を高度化していく作業として取り組むべきだろう。
本書のタイトルはトランプ再選のシナリオとなっているが、実際に再選できるシナリオは限られていると言えるだろう。そして、そのシナリオは現代の米国政治の構造を理解することがなければ決して見えてくることはない。本書では中間選挙の結果によって生じるシナリオを4パターンにまとめている。中間選挙の結果次第で現代の米国政治におけるパワーバランスの構造が変容し、その変容は確実に2020年大統領選挙に影響を与えることになるだろう。
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2017年02月06日
なぜトランプ大統領は豪州首相に電話会談でブチ切れたのか
<写真はThe Gurardianから引用>
豪州首相との電話会談ブチ切れ事件の真相とは何か
トランプ大統領の豪州首相との電話会談でのブチ切れ事件、毎日事件が起きるので既に過去のものとなりつつありますが、一応本ブログでも内容についてフォローしておきたいと思います。
結論から申し上げると、筆者は「電話会談でブチ切れるのもどうか」と思いますが、トランプ大統領が怒っても仕方がない内容だと感じています。
なぜなら、原因となった「米国と豪州の難民交換の取引」は明らかに不当な内容であり、オバマ前大統領がトランプ大統領を困らせるためだけに実施したものだからです。前大統領が行った国際的な取り決めだからそれを引継げ、という主張はまともな取引なら成立する話ですが、単なる嫌がらせまでその類に入れるのはあまりに理不尽です。
難民交換が行われるきっかけは豪州の難民への虐待が暴露されたことだった
そもそも豪州から米国に引き渡されるはずの難民はどのような人々なのでしょうか。
豪州の難民制度は極めて劣悪であり、豪州に海を渡って入国しようとする難民は海上で拿捕された上に、豪州本土ではなくパプアニューギニアやナウルの収容所送りになります。
これはインドネシアなどの密航業者が手引きして豪州に船で難民(≒不法移民)を送り込むビジネスが発達し、それらへの対応に苦慮した豪州政府が編み出した苦肉の対応策でした。豪州本土で難民を受け入れる代わりに、資金難の周辺の島国に援助金を払って収容所の管理をさせるというご都合主義のモデルです。
ところが、昨年8月10日、豪州政府は同収容所の超絶劣悪な環境を英国のガーディアン紙に暴露されてしまう事態に陥りました。収容者への性的虐待、人権侵害、自傷行為などの数々が記録された凄まじい内容であり、豪州の人権侵害ぶりが白日の下にさらされることになったのです。
豪州は自らを頼って辿り着いた入国希望者への責任を放棄し、事実上の迫害をそれらの人々に加え続けていたため、世界中の人権団体からの厳しい非難にさらされることになりました。
ここで人権侵害国家である豪州に手を差し伸べたのが、米国のオバマ大統領でした。
オバマ大統領はトランプ勝利直後に取引を決定、連邦議会から激烈な反発を受けていた
11月9日のトランプ大統領の大統領選挙勝利の直後、オバマ大統領は豪州政府との間で難民の受入れを成立させました。
オバマ大統領が豪州政府からの難民受け入れを実施することを決めたとき、米国連邦議会は何の相談もされていませんでした。当然ですが、既に退任が決まったオバマ大統領が議会に何の断りもなく唐突に難民の受け入れを決定したことは連邦議員からの強い反発を招きました。
同11月チャック・グラスリー上院司法委員会委員長はオバマ政権に対して豪州政府との間で行われた「秘密取引」について公開の場で説明するように正式な要求を行っています。
要約すると、連邦議会に無断で数か月の交渉を行ってきたこと、合意内容の詳細が不明であること、国務省が指定したテロ支援国家の人々が含まれていること、豪州の責任であるはずの難民を引き受ける正当性がないこと、などの疑念が激烈に表現されています。
つまり、メディアの影響で多くの人が錯覚しているように、トランプ大統領が突然「酷い取引だ!」と言ったわけではなく、オバマ大統領が自分の任期中に完了しないことを承知で強引に進めた劣悪な取り決めに対して、連邦議会で当初から問題となっており、議会の難民政策の責任者である司法委員会のトップが強い反発の意志を示していたことになります。
難民を受け入れる・受け入れない、どちらを選んでも罰ゲームに追い込まれたトランプ
トランプ大統領は選挙期間中から不法移民に対して強い姿勢を示してきており、イスラム教徒への入国禁止などの物議を醸す内容の発言を行ってきました。
そのため、オバマ前大統領は豪州からイスラム教徒を受け入れる代わりに、米国から中南米からの難民を豪州に渡すという意味不明な取引を無理やり成立させることで、トランプ政権の出鼻を挫く仕掛けを準備することにしたのでしょう。
結果として、トランプ大統領は難民を受け入れなければ国際的な取り決め違反、そして難民を受け入れれば公約違反という、どちらにしても負ける罰ゲームを強いられることになりました。
上記の通り、本来は豪州から難民を受けれ入れる必要は全くなかったので、この取り決めはオバマ大統領が豪州政府と結託して行った完全な嫌がらせ行為だと言えるでしょう。
豪州首相に一度はブチ切れるスタンスを示したトランプ、直後に国際的な取り決めを受け入れる対応
トランプ大統領としてはオバマ前大統領と豪州首相に「はめられた」形になっているため、豪州首相との電話会談でわざとブチ切れて見せたものと思われます。
つまり、どっちに転んでも罰ゲームであれば自分の支持者の満足を取ったということです。しかし、当然に国際的な取り決めを反故にするわけにもいかないので、その後難民の受け入れを正式に発表しています。
豪州首相にとってはなかなか良い取引であり、自国の劣悪な難民受け入れ制度についてトランプ大統領が言及しない代わりに、トランプ大統領の政治的なパフォーマンスを受け入れた上で、トランプの入国禁止措置についてもほとんど発言していない状況となっています。
豪州は米国の政争に付け込むことで、自国からテロ懸念国の難民を米国に引き取らせた上に、自国の劣悪な人権状況についてオバマ前大統領やトランプ大統領に指摘されないように話をもっていくことができたわけです。まさに、豪州にとっては最高、米国にとっては最低の取引だったと言えるでしょう。
以上のように、オバマ前大統領が残したマッチポンプ的な嫌がらせに焼かれ続けるトランプ大統領ですが、メディアはオバマ大統領の陰湿な行為に全く触れようとしないどころか、トランプ大統領を責め続けるばかりで流石に気の毒になってきました。
少なくとも本件については豪州との難民交換での米国側には何のメリットもなく、また筋論として豪州自体が自らの難民問題への責任を果たすべきものであり、メディアもこの程度のことくらいはまともに報道してほしいものだと思います。
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2017年01月30日
トランプの入国制限をちょっとだけ詳しく考えてみた
トランプが署名した大統領令による入国規制は「トンデモナイ」話なのか?
トランプがイラン、リビア、スーダン、シリア、イラク、ソマリア、イエメンの7か国について入国制限を実施することを発表したことで、全米で反対デモが巻き起こっており、米国メディアがそれらを取材した内容の丸写しニュースが日本でも流れています。
さて、今回はトランプが署名した大統領令が本当に「トンデモナイ」ものなのか、について話をしていきたいと思います。その背景と意図、そして今後の展開について筆者なりにまとめたものであり、日本国内で語られている他の情報とは少し変わった視点から情報が提供できれば幸いです。
元々トランプのイスラム教徒入国禁止は、予備選挙時にトランプと共和党の一部(コーク財団系)が本格的に衝突したきっかけでもあり、その後一時的にトランプのHPから掲載が消えていたものの、大統領選挙後にHP上に復活したトランプ政権にとっては肝いりの政策だと言えるでしょう。
入国制限対象国が少なすぎるのではないか?という批判も存在している
今回の入国制限国は7か国について、米国国務省はこれらの国々をテロ支援国家またはISISやアルカイーダなどのイスラム過激派が現在進行形で勢力を誇っているテロリスト・セーフ・ヘイブンとして名指ししています。
そして、2016年1月に施行されたテロリスト渡航禁止法によって上記の7か国に渡航または滞在歴がある人は米国のビザ免除プログラムが利用できず、ビザ申請をしなければならないという元々他国よりも一段高いハードルが設けられて警戒されていました。そのため、トランプ大統領の着手までの速度には目を見張るものがありますが、これらの優先度の高い国からの入国者に対する規制を見直し・強化するための90日間の一時的な入国禁止措置を実施することは十分に想定の範囲内の出来事だと言えます。
ちなみに、トランプ大統領が2017年の受入れ上限としている難民5万人はオバマの半分程度と言われていますが、それは2016年にオバマが難民受入れ件数を激増させたからです。ジョージ・W・ブッシュとオバマの2015年までの平均は約5万人程度なので特別におかしな数字ではありません。
大騒ぎしている人々もグリーンカード保有者が大統領令の対象外になることが発表されたことで一定の期間が経過すれば静かになることが予想されます。また、米国が要求する追加情報を対象国から得た場合、ほとんど全ての人が入国できる可能性が高いです。
ただし、オバマ政権は最近の僅か2年で約5万発の爆弾を落とし、誤爆などによって新たなテロリストを上記の対象国内(イラク、シリア、リビア、ソマリア、イエメン等)などに育ててしまっています。潜在的なテロリスト予備軍の増加によって対テロ戦争という意味では9.11時よりも場合によっては状況が悪化している可能性があります。
したがって、一部のメディアや有識者のように過去のテロの実績から今後のリスクを安易に想定することは誤りであると推測されます。
そのため、文言通りにテロ対策として考えるならば、上記のテロリスト・セーフ・ヘイブンの文脈からはアフガニスタン、レバノン、パキスタンなどの国も対象であり、トランプ政権が一時的な入国禁止阻止措置を更に拡大していくことも想定すべきです。
トランプの真の狙いは「シリアに地上兵力を派兵して安全地帯を作ること」ではないか?
しかし、従来の政策の延長線上の措置とは言えども、これらの入国制限措置を純粋なテロ対策の観点のみで考えるべきかについては疑問があります。特にシリア難民の恒久的な入国禁止措置には別の狙いもありそうです。
今回の措置で最も重要なポイントはシリア難民の無期限入国禁止だと言えるでしょう。そして、トランプ政権の狙いは「シリア難民の入国禁止」によって生じる国際情勢の変化だと推測されます。
トランプ大統領は以前から「シリア国内に安全地帯を設ける」旨を発表していますが、サウジアラビア国王との電話会談でも再び「安全地帯の設置」についての協力を求めています。
そして、今回の大統領令でシリア難民を受け入れないと宣言した結果、人道的な措置として「シリア国内の安全な場所で難民に該当する人々を保護する」ことを逆に大義名分として獲得できるわけです。
現在、シリアでは米国抜きの世界秩序の始まりを象徴するかのような出来事が起きてしまっています。
オバマ政権のシリア対応は象徴的な外交失政であり、予算をかけて空爆を継続して無関係の人々も含めて殺傷した上に、米国の地上兵力の不在は和平プロセスからの米国排除という結果を招いて国際的威信を著しく低下させました。
今回、トランプ政権はシリア難民の入国禁止をあえて実施することで、米軍及び同盟国はシリアに地上部隊を派兵して影響力を持つ地域を手にする国内外からの大義名分を得ることになります。そうすることで、シリアでの和平交渉におけるバーゲニングパワーを取り戻せるからです。
そのため、トランプ大統領はシリアへの地上兵力派兵のカードはまだ切っていませんが、国内の一部の有識者のように派兵の可能性を全否定することは早計でしょう。
実際、ティラーソン国務長官をトランプに推薦したロバート・ゲーツはコンドリーザ・ライスと一緒に連名で地上兵力を派遣してプーチンと交渉するべきだという公開書面をメディア上に掲載していたこともあります。
イスラム教徒の入国禁止だと騒がれている理由の一つは少数派キリスト教徒の保護優先だから
上記でも触れた通り、グリーンカード取得者は対象外ということになり、「イスラム教徒の入国禁止だ!」とは一概には言えない状況となっています。
ただし、この大統領令がイスラム教徒の入国禁止と揶揄される理由の一つには「少数派宗教で迫害されている人」(≒キリスト教徒)を優先して難民として入国を受け入れる可能性が付記されている点にあります。
トランプ大統領は、これらの対象となったイスラム教国内では少数派となっているキリスト教徒は極めて残酷な被害にあっていることも多く、これらの人々は宗教的迫害から逃れるために優先的に入国させるとしています。
大統領令の批判者の中にはこの内容が宗教的な差別に当たるとする見方があるようですが、これについては意見が分かれるところでしょう。 キリスト教徒の迫害に関するレポートは十分根拠があり、なおかつ同時にこれはキリスト教福音派などの共和党保守派の意向が働いたものと考えることが妥当かと思います。
大統領選挙の経過及び結果が政策の微妙な部分に反映されることも米国の政治を考察していく上で非常に興味深い点だと言えるでしょう。
<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>
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2017年01月02日
2017年・トランプ政権指名済全閣僚評価と展望
トランプ政権はトランプ・共和党保守派の連立政権
2017年、トランプ政権発足まで約20日程度となり、そろそろ本格的に同政権の閣僚人事について論評していきます。
同政権の閣僚人事を一言で評価すると「トランプ人脈と保守派人脈の連立政権」と言えるでしょう。ビジネスを重視するトランプ人脈、建国の理念(小さな政府)を重視する保守派、の両派によって主要閣僚人事が構成されており、米国共和党内で権勢をふるってきた主流派エスタブリッシュメントの影が薄くなりました。
大統領選挙本選においてブッシュ・ロムニーら共和党主流派が離反し、選挙戦をトランプ氏と保守派が協力して乗り切った結果が大きく影響していることが伺えます。
そのため、従来までと同じ共和党政権の体裁は取っているものの、史上最も保守的な政権と呼べる閣僚の配置状況となっており、それらの保守派の原理に上乗せされる形でトランプ氏の経済的な交渉センスが発揮される布陣がなされています。この特殊な二重構造を理解することで同政権に関する実態に近い論評が可能となります。
本論考では上記のトランプ・共和党保守派の連立政権という視座に立ち、今後米国内で起きる政策展開について予測を行っていきます。したがって、日本国内では極めて珍しい視点からの分析となるものと思われます。
産油・産ガス国、エネルギー産業国家に生まれ変わる米国
最も大きな政策転換は米国内のエネルギー資源開発に関する規制撤廃です。
昨年7月にノルウェーの独立系調査会社Rystad Energy社が試算したシェールを含めた石油埋蔵量は米国が世界第1位となっており、トランプ政権によって米国は産油・産ガス国、その輸出国として変貌していく可能性は十分にあります。
そして、入閣した保守派の3閣僚(エネルギー省・環境保護局・内務省)と国務長官人事がその政策転換を象徴しています。
リック・ペリー・エネルギー省長官は前テキサス州知事であり、2011年の共和党予備選挙で無駄が多い政府機関としてエネルギー省の廃止を謳った人物です。実際には同省の役割は原子力に関する管理がメインとなるものの、エネルギー産業と深く結びついたテキサス州知事経験者によってエネルギー規制緩和が強烈に推進されていくことになります。
スコット・プルイット環境保護局長官は、オクラホマ州司法長官などを歴任し、シェールオイルなどの採掘に重要な水圧破砕法の影響を連邦政府が監視することに異議を申し立ててきた人物です。また、直近では、オバマ政権下の環境保護局が実施した温室効果ガス削減のためのクリーンパワープランにも反対しています。
ライアン・ジンキ内務長官は連邦政府所管の土地でのエネルギー資源開発に前向きです。米国では州政府所管の土地でのエネルギー開発は進んでいますが、連邦政府所管の土地の開発は不十分な状況にあります。地味な役どころではあるものの、エネルギー開発における同省の役割は非常に大きいと言えるでしょう。
上記の保守系の閣僚の入閣に加えて、レックス・ティラーソン国務長官の存在は非常に大きいものと思います。エクソン・モービルCEOとしての国際的なエネルギービジネス経験、世界有数の産油・産ガス国であるロシアとのコネクションは、トランプ政権下におけるエネルギー増産政策・輸出政策を成功させる鍵となります。
これらのエネルギー関連の閣僚人事は、エネルギー関連規制の緩和という悲願を達成したい保守派、経済の柱としてエネルギー産業を育成したいトランプ氏の両者の意図が組み合わさった見事な人事と言えるでしょう。
ウォール街出身者と敵対する保守派の「ドッド・フランク法廃止」という手打ち
トランプ政権では、ゲーリー・コーン国家経済会議議長、スティーブ・ムニューチン財務長官らのゴールドマンサックス出身者、著名な投資家であるウィルバー・ロス商務長官などが登用されました。そのため、トランプ氏の選挙期間中の反ウォール街姿勢に対する支持への裏切りと看做す向きも出ています。
しかし、これらの投資銀行などの出身者と共和党を支持する保守派は、ドッド・フランク法の廃止または大幅な修正という一点で利害を共有しています。
リーマンショックへの反動として導入された金融機関に過度な規制を強いるドッド・フランク法を廃止し、金融機関の組織運営や貸し出しに関する自由度を高めることは、ウォール街も共和党保守派も賛成しています。したがって、同法案への理解が深いウォール街関係者が経済系の閣僚として入閣しても不思議ではありません。
共和党保守派の支持者の多くは自営業者などの小規模事業経営者などです。したがって、彼らは地域の金融機関であるコミュティバンクなどからの借り入れを行っています。トランプ氏及び共和党は、ドッド・フランク法が制定されたことで、地域金融機関の貸し渋り・倒産が増加していることを問題視しており、同法を廃止・修正することに合意しています。(商業銀行と投資銀行業務を切り分けるグラス・スティガール法が復活するかはまだ分かりません。)
ちなみに、トランプ氏が任命したプロレス団体CEOのリンダ・マクマホン中小企業局長は、叩き上げの経営者であるとともに、グラス・スティガール法の廃止が金融危機の一因とみなして連邦議会における再制定を働きかる活動をしていた保守派の人物として知られています。
したがって、パッと見た感じではエスタブリッシュメントな人々の入閣人事は保守派(トランプ支持者含)への裏切りのように見えますが、実際には政治的な妥協は既に済んでいると看做すべきでしょう。
国内法制(社会保障、労働、教育など)の再自由化を推進する保守派
規制廃止・緩和の流れはエネルギーや金融だけではなく、更に幅広い分野の政策に展開していくことになります。具体的にはオバマケア廃止、労働法制緩和、教育の自由化などについてです。
トム・プライス保健福祉長官は連邦議会における反オバマケアの急先鋒として知られており、連邦議会においてオバマケアの廃止法案を立案した人物です。米国版の国民皆保険であるオバマケアはバラ色の社会を保証したわけではなく、巨額の財政負担の見通し、保険料の値上げ、企業側の正社員削減への誘因増、無保険者への罰金などが問題となっており、共和党は同法に強く反対する立場を取っています。
アンドリュー・パズダー労働長官もオバマケアには反対の立場であるとともに、連邦政府による最低賃金の引き上げには反対する立場です。共和党は最低賃金の裁量を各州に移管することを主張しています。(現在は連邦法以上の最低賃金を各州が定める場合はそちらに準拠し、残りは連邦法によって定められた最低賃金が適用されます。)全米でファーストフードチェーンを展開・現場に精通してきた同氏が労働長官に就任することは理にかなっているものと思われます。
ベッツィ・デボス教育長官は米国児童連盟委員長を務め、スクール・チョイス(学校選択制度)やチャータースクールの推進者です。米国では公立学校の環境が必ずしも良いものとはいえず、近年で独自のカリキュラム・環境で教育を行うチャータースクールが増加しています。同氏は教育改革に熱心なマイク・ペンス副大統領の推薦と言われており、同政策は保守派が非常に力を入れている政策分野としても知られています。
トランプ氏とも大統領予備選挙で保守派候補として競合し、その後いち早くトランプ支持を打ち出した黒人医師であるベン・カーソン氏は住宅都市開発長官に就任。同氏は大統領予備選挙からインナーシティ問題などの都市問題に注目し、選挙の論功を含めて抜擢されることになりました。
一方、規制を強化する分野を挙げるならば不法移民対策ということになります。これはジェフ・セッションズ司法長官が担当することになりますが、実はオバマ政権下でも7年間で250万人の不法移民を追放しており、不法移民を不当に擁護する聖域都市への補助金支給などについて従来よりも厳しい運用がなされる程度となるでしょう。
保守派には減税政策、主流派・民主党にはインフラ投資の使い分け
トランプ氏は税制・財政政策を上手に活用することで経済成長と議会対策を実現していく模様を見せています。米国では減税政策は共和党保守派、インフラ投資は民主党に親和的な政策とされています。そして、共和党主流派は保守派・民主党の中間的な立場といったところです。
所得税の簡素化・減税、法人税の大減税、領域課税は共和党保守派にとっては非常に望ましいものと言えるでしょう。
マイク・ペンス副大統領はインディアナ州知事以前の連邦議員時代からのティーパーティー支持者であり、プリーバス大統領首席補佐官は2011年の共和党全国委員会委員長選挙で保守派から支持を受けて同委員長に選出された人物です。この二人が政権の重要職に就任しているだけでも政権内での保守派の影響力の強さを示されている状況です。
この二人は日本で紹介されるときには主流派との繋ぎ役として紹介されていますが、いずれも減税を推進するティーパーティー運動の拡大に努力してきた人物であり、主流派とも話ができる保守派の人物と評するほうが正しい認識と言えます。
一方、スティーブ・バノン首席戦略官が強烈に推進する巨額のインフラ投資は、共和党主流派及び民主党を取り込むための政策として機能していくことになるでしょう。なぜなら、インフラ投資のような財政政策は共和党保守派は好むものではなく、即効性がある景気浮揚策として必要ではあるものの議会対策は容易ではないからです。
そのため、ブッシュ政権でも閣僚を務めたエレーン・チャオ運輸大臣の登場ということになります。彼女の夫は上院共和党主流派のドンであるミッチ・マコネル氏です。彼女がインフラ投資を所管する運輸大臣に就任することは、トランプ政権におけるインフラ投資が共和党主流派の利権であることが事実上のメッセージとして送られたことになります。
一方、米国内の公共インフラは老朽化が進んでいるため、民主党側のヒラリーもサンダースもインフラ投資を打ち出していました。そして、トランプ氏のインフラ投資額として選挙期間中に明示されてきたものはヒラリーとサンダースの中間規模のものでした。共和党側の一部が反対することも視野に入れて、民主党側を取り込んでいく可能性も十分にあります。
インフラ投資は共和党主流派と民主党に対する交渉カードとして機能していくことになるでしょう。
国連、中東、ロシア、トランプ政権人事から見えてくる外交・安全保障の意図
上記でも触れた通り、トランプ政権においてはエネルギー外交などの経済外交が重視されていくものと推測されます。つまり、余計な軍事コストなどをかけず、経済的なメリットを得ていくという方向です。この点においてもトランプ氏と保守派のコラボレーションは上手に機能していると言えるでしょう。
米国にとって、国連、中東、ロシア、中国などが外交・安全保障上の重視すべき要素です。
国連(事実上は欧州)についてはトランプ氏はあまり重視する姿勢は見せていません。そのため、国連大使のポストを国内政治対策のためにうまく利用する形となっています。今回国連大使に指名されたニッキー・ヘイリー女史はインド系で女性のサウスカロライナ州知事です。日本ではあまり知られていませんが、2016年保守派年次総会であるCPACにおいて副大統領候補者に相応しい人物として首位となり、共和党保守派から絶大な人気を誇る人物です。
実は彼女はトランプ氏とは予備選挙では途中まで対立関係にありましたが、トランプ氏はこの曰くつき人物を国際的な見栄えの良いポストに立たせることで保守派の懐柔を図ることに成功しました。ニッキー・ヘイリー女史は共和党初の女性大統領候補者としてトランプ氏の次に頭角を現す可能性が高い人物として覚えておいて損はないでしょう。
中東については対イランで強硬な姿勢を見せている以外は比較的抑制的な布陣だと言えます。
共和党はイランとの核合意・制裁解除に一貫して反対しています。また、トランプ政権は米国内のエネルギー開発を順調に進めていく上でイランからの石油の輸出による価格下落を防止したいというインセンティブを持っています。そのため、イランに対しては極めて厳しい陣容であり、その急先鋒が対外諜報活動を統括するマイク・ポンぺオCIA長官です。同氏はイラン核合意について下院において最も強硬な反対の論陣を張った人物として知られています。
一方、ジェームズ・マティス国防長官やマイケル・フリン国家安全保障政策担当大統領補佐官は、様々なメディアの憶測とは異なり極めて現実的な人々だと思われます。両氏は米国保守派の基本的なスタンスである同盟国重視の姿勢であり、単独行動主義のネオコンとは距離が遠い人物です。そのため、中東においてもサウジアラビア、イスラエルとの関係を重視し、ロシアとの妥協によって同方面の安定化を図っていくものと考えられます。
ロシアについては選挙期間中からのトランプ・プーチン間のラブコールが示す通り、オバマ政権下の半冷戦状態から劇的に改善していくことになるでしょう。両国の間には本質的な安全保障上の利益の相違が存在しています。しかし、トランプ氏がその利益の相違を乗り越える意思があることはプーチン氏と深いつながりを有するティラーソン国務長官を任命したことで明確になっています。その結果として、米ロエネルギー産出国同士の国益に基づく非産油国に対する協商関係が生まれることになるでしょう。
ただし、両者の最も大きな利益の相違点はミサイルディフェンスに関する見解にあり、この点についてはトランプ・プーチン政権になったとしても解決しないでしょう。トランプ政権のブレーンとして機能しているヘリテージ財団は同政策の強烈な推進者であり、対ロシア安全保障政策はミサイルディフェンスに重点が置かれるものとなっていくことが予想されます。
アジア向けの通商政策の見直し、米中の表面上の対立と事実上の関係深化の可能性
アジア向けの人事で注目したい人物は、国家通商会議を統括するピーター・ナバロ大統領補佐官・通商産業政策部長、マット・ポッティンジャー米国家安全保障会議アジア上級部長、テリー・ブランスタド駐中国大使の3名です。
ピーター・ナバロ補佐官は、カリフォルニア大学教授で対中強硬派として知られた人物です。新設される国家通商会議は経済分野だけでなく安全保障面も大統領に具申するとされており、アジア政策に関する保守派側のキーパーソンということになります。12月に行われた台湾との電話会談もナバロ氏やヘリテージが仲介したものとされています。
マット・ポッティンジャー氏は中国でWallstreet Journal などの記者として、環境問題、エネルギー問題、SARS、汚職などについて報道し、その後海兵隊に所属してイラクやアフガニスタンなどの現場に従事した人物です。アフガニスタンにおけるインテリジェンス活動を再建させるためのレポートを上述のマイケル・フリン国家安全保障首席補佐官とまとめたメンバーでもあります。従来までの学者肌の同職の人々とは異なり、現場の中で揉まれたたたき上げの人物です。
テリー・ブランスタド駐中国大使はアイオワ州知事であり、習近平中国国家主席とは30年近い友人関係を持った人物です。トランプ政権が習近平国家主席をターゲットにしたトップ外交のための人脈として北京に送り込む形となります。また、アイオワ州の産品でもある農産物の輸入緩和を同国に迫る意図も見え隠れします。
以上のように、トランプ政権にとっては東アジア外交とは中国との関係を意味しており、TPPも日本も台湾も対中関係の変数として扱われていることが良く分かります。トランプ氏が祭英文女史と電話したり、ウィルバー・ロス商務長官がジャパンソサエティーの代表を務めていることに喜んでいる程度の日本外交のレベルでは先が思いやられます。
中国に対して貿易摩擦的な保守派の強硬な論調で押しつつも、習近平氏とのトップ会談による問題解決を志向する姿勢は明白です。おそらく為替、補助金、その他諸々の話題で米中関係は表面的には深刻化するでしょうが、両国の間における妥協が徐々に成立していくことで米中関係は却って更に深まる可能性もあります。
トランプ政権を理解・分析する上で必要となる視座とは何か
トランプ政権を理解・分析するためには、米国共和党の保守派の方向性を理解した上で、トランプ氏が任命する具体的な人事情報を基にしてその意図を汲み取ることが重要です。
現在、日本国内で流布している有識者・メディアによるトランプ政権評は、大統領選挙以前と何も変わらない米国やトランプ氏に対する無理解に基づく情報ばかりです。
トランプ政権に対するレベルの低い報道に終始した2016年は既に終っています。新しい年である2017年では、米国に誕生するトランプ政権という新たなスーパーパワーについてより意味がある議論が行われることを期待しています。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
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2016年12月13日
トランプ外交の「算盤勘定」への正しい対処法
(国務長官に指名濃厚・レックス・ティラーソン・エクソンモービルCEO)
祭英文・中華民国総統との電話会談は何を意味するのか
12月2日、「トランプ次期大統領が台湾の祭英文氏と電話会談を行った」とTweetしたニュースは東アジアに激震をもたらしました。米国と中国が所与のものと看做していた「一つの中国」の原則を覆すものであり、米国内の保守派だけでなく日本の保守派からも喝采の声が上がりました。
また、トランプ氏は「米国は台湾に何十億ドルもの兵器を売っているが、私は台湾からの祝いの電話を受けてはならないとは興味深い」ともTweetしています。そして、この2つのTweetの中にトランプ政権の外交方針の一端を垣間見ることができます。
米国の保守主義者の考え方である「自由主義」とビジネスマンの考え方である「金銭的利益」、この2つの異なる思考法が絶妙なバランスでブレンドされた外交、これがトランプ政権の外交方針だと看做すべきでしょう。
そして、今後のトランプ外交で何が起きていくのかを理解するためには、トランプ政権内での力関係を注意深く観察する必要があります。
トランプ政権の中で圧倒的なポジションを獲得した保守派・茶会党の面々
トランプ政権は史上最も保守的な政権と呼ぶことができると思います。これは選挙戦において共和党主流派が手を引く中で、保守派がフル回転したことで勝利を掴むことができた論功行賞によるものだと推測されます。
マイク・ペンス副大統領以外の閣僚メンバーとして、ラインス・プリーバス大統領首席補佐官、ジェフ・セッションズ司法長官、ベッツィ・デボス教育長官、マイク・ポンぺオCIA長官、トム・プライス厚生長官、スコット・プルイット環境保護局長官、ベン・カーソン住宅長官などの保守派が推す人々が次々と任命されました。
また、ニッキー・ヘイリー国連大使は予備選挙期間中にトランプ氏の政敵をエンドースし続けたにも関わらず、同ポストを手に入れることに成功しました。彼女は保守派が推す次期大統領または副大統領候補者と目される人物として注目されています。彼女の国連大使就任は、共和党保守派の重鎮であるATRのグローバー・ノーキストが「素晴らしい選択だ。ニッキー・ヘイリーは共和党の未来。トランプは長期戦を行っている。」と喜んでコメントするほど保守派の人々にとって慶事でした。
更にトランプ氏は上記の他にもアンディー・パズダー労働長官やリンダ・マクマホン中小企業局局長などの極めて保守的な主張を持つ企業経営者らを規制撤廃を推進する重要なポジションに就けています。
これらは米国建国の理念(≒道徳)である「自由主義」を体現する人選であり、リベラルな傾向を持つとして保守派から警戒されているトランプ氏にが保守派に対して相当に配慮したものと思われます。
トランプ政権の算盤勘定を担う国務長官、商務長官、財務長官の3人
レックス・ティラーソン国務長官、ウィルバー・ロス商務長官、スティーブン・ムニューチン財務長官の3人はトランプ次期大統領肝入りの人事です。この3人はいずれもビジネスマン出身の人々であり、トランプ氏の算盤勘定を担当する人々だと言えるでしょう。
特に当初名前が挙がっていたボルトン氏やロムニー氏ではなく、ティラーソン氏を国務長官に指名したことはトランプ政権が極めて強いビジネス志向を持った政権であることを示唆しています。また、同時にシェール革命を経て、エネルギーの自立を確立した米国が今後は石油・ガスなどの資源外交の側面を強化していくことを表す象徴的な人事だとも言えるでしょう。
ただし、トランプ人脈からの上記3長官の任命には、米国建国の理念を奉じる共和党内保守派から極めて強い違和感を持たれていることも事実です。ウォール街やグローバル企業が政権と接近することによるクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)は共和党保守派が最も嫌うところだからです。両者のパワーバランスの推移は中長期的には政権の不安定要因となる可能性があります。
とはいうものの、当面の間は対外交渉のツールとして冒頭の祭英文氏との電話会談のように保守派が満足するロジックをまぶしながら、トランプ政権内で保守派は米国国内の減税・規制緩和に注力し、国際的な外交・ビジネスについてはトランプ人脈がフル回転するという棲み分けによってお茶を濁す形になるのではないかと推測します。
卓越した職業軍人による効率的・効果的な国防政策の実施
ジェームス・マティス国防長官は「狂犬」というあだ名とは裏腹に極めて慎重な国防政策を立案する軍人だと言えます。同氏はブッシュ政権当時に無理な戦争計画を推進するネオコンと激しく対立し、同盟国重視の姿勢とアラブの価値観を理解した統治政策の必要性を説いた人物です。
今回の大統領選挙でもネオコン勢力によってトランプへの造反対抗馬として一時期名前が取り沙汰されましたが、それらの誘いを断ったという意味では論功行賞の意味合いもあるものと思われます。
一方、ジョン・ケリー国土安全保障長官も職業軍人出身の人物であり、トランプ政権は退役将校も含めた職業軍人経験者が多く踏まれることから軍事政権とも揶揄され始めています。また、国防費の増額などは共和党側も主張するところであり、財政の健全性の観点から心配する声もあります。
しかし、訓練を受けた職業軍人が現代の高度に複雑化された国防政策や行政機構の運用を担うことも効率性を重視するなら当然のことと言えるかもしれません。文民統制の観点からは共和党が多数を占める議会がしっかりと監視する必要がありますが、従来よりも効率的で有効性が高い国防政策が実行されていくものと推測されます。
米国版の論語と算盤を体現するトランプ政権の外交政策
上記のようにトランプ政権では国内政策、外交政策、国防政策がそれぞれ明確に色分けされた状況となっていることが分かります。国防政策はどちらかというと勢力均衡政策とテロ対策に注力することが想定されるため、実際に外国から見ても目立つ変化は外交政策の変化ということになるでしょう。
この外交政策の基本はトランプ政権の主要3閣僚による「算盤外交」になるものと思われます。諸外国との交渉によって米国経済に利益をもたらす方向で様々な成果が挙げられていくことになるでしょう。
東アジアでは中国に対する経済的な摩擦が米国との間で表面化していくことになりますが、実はこれは大したことはないものだと考えています。なぜなら、トランプ政権が求めることは経済的な算盤勘定であって中国の国体を揺るがすことは本気で考えていないと推測されるからです。むしろ、米中両国で喧嘩と妥協の繰り返しが行われる中で両国の関係が深化していく可能性すらあります。
一方、中国と比べて日本の「算盤上の価値」は減価する一方です。中国から魅力的な対価を引き出すためのツール(台湾と同様に)として使用されることにすら成りかねません。日本政府はジャパン・ソサエティー会長で知日派のウィルバー・ロス氏が商務長官に任命されたことで一安心しているかもしれませんが、トランプ政外交の算盤勘定への対処という点ではそれだけでは話になりません。
減価していく日米の価値、つまり日米同盟の価値を算盤勘定以上のところで補う努力をしなくては、日米同盟の将来、ひいては日本の安全保障は悲観的なものにならざるを得ないでしょう。
相対的に減少する日本の経済的価値、日米同盟は風前の灯となるのか
日本の経済的価値の相対的な減少は避けがたいものであり、 今後はそれらの環境変化を前提とした上でトランプ政権への対応を考えていくべきです。
漫然と従来通りの日米関係の延長線上で行けると考えているとしたら、ある日突然梯子を外されることは十分にあり得ます。トランプ氏は中国にプレッシャーをかけるために「一つの中国」という前提をあっさりと破った人物であり、日米関係という所与の前提を揺るがしかねない人物だからです。
では、トランプ政権への対応方針として、国内の一部で主張されている米軍基地費用の全額負担や武器購入費の増額のような経済的対応は正しいでしょうか。残念ながらそれらの対応は焼け石に水に過ぎず、中国の経済的価値の増大に伴う米中接近の危機への対処としては不十分です。
トランプ政権にお金の話で対応しようと試みたところで、次から次へと新たな取引を迫られることを通じて、多くの対価を払う割には実りの薄い結果がもたらされることになるでしょう。そのような場当たり的な対応は日米同盟の将来すら危うくするものと思います。
真の知米派を育てる試みの重要性、対米外交人脈の全面的な見直しが必要
上記の通り、筆者はトランプ政権はトランプ人脈と共和党保守派の政権であると分析しました。
トランプ人脈が政権の「算盤」を担当するなら、共和党保守派は「価値観」を担っている人々です。そして、トランプ政権と対峙するためには、共和党保守派との政治的な信頼関係を醸成することが極めて重要であると考えます。
政権発足当初は共和党保守派は国内改革に注力するものと思いますが、中長期的にはトランプ政権の外交政策に対して連邦議会から強い影響力を持ち続けることに変わりはありません。
そのため、経済的利害を越えて米国保守派と「価値観」で結ばれた信頼関係を作ることができれば、日本経済の相対的な減価という現実を覆す強固な日米同盟の礎を築くことができます。
しかし、そのためには対米外交人脈の全面的な見直しが必要です。
具体的には、安倍政権が対外的に主張する「自由と民主主義の価値観を共有する」という形式上の文言だけでなく、もう少し深いレベルでの米国理解を担う人材の育成が重要となります。日本のエスタブリッシュメントや国会議員の従来までの感覚で米国保守派と付き合うことは外交的な自殺行為だからです。
一例を挙げると、先日ある会合で国会議員が来日した米国保守派重鎮らに対し、「政官財でがっちりと組んで対米外交に取り組む」「自分の配偶者はウィルバー・ロスとジュリアーニと友人」と堂々と発言していました。筆者は非常に驚くとともに大きな危機感を覚えました。
上記でも述べた通り、政官財のトライアングルはクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)として米国保守派が毛嫌いする政治屋そのものであり、更に上記の二人はウォール街・リベラルとして保守派から距離が遠い人物だからです。わざわざ来日した米国保守派の方々に対するあまりに無理解な発言に日米同盟の未来を考えて暗い気持ちになりました。
米国ではGoogle社が対保守派のパブリックリレーションを行う人材の求人広告を出して話題になっていましたが、日本政府も米国保守派の思想・文脈を理解できる外交人材を採用・育成することが必要です。
表面的な米国の姿ではなく、米国建国の理念に対する深い理解力を持った「真の知米派」による対米外交政策の立案が望まれます。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
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2016年12月03日
ポリコレ馬鹿につける薬、米国の分断の真相とは何か?
米国の分断を一側面から語り続ける「インテリンチ」の偏向ぶり
トランプ勝利から1か月が経とうとしていますが、その間に様々な有識者と報道関係者が「米国の分断は深刻だ!」という発言を繰り返し続けています。
これらの人々は「レイシスト」「格差社会」「反知性主義」「不法移民への差別」などの理由をつけて、トランプ及び共和党が米国の分断の元凶であるかのように語り、トランプと共和党が米国を分断させたがっているかのように見せています。
しかし、その話の大半は民主党側、つまりポリコレ側に立った物言いばかりであり、米国の政治状況を一側面から見たものでしかありません。これでは米国政治の実態がまるで掴めず、「ヒラリー勝利を予測・礼賛し続けた愚かな人々」の意見を鵜呑みにするだけの状態が継続することになってしまいます。
大統領選挙も終わったわけですから、そろそろいい加減に「トランプ」「共和党」の視点から米国政治を語ることも必要です。そのため、本稿ではトランプ・共和党の視点から米国の分断と統合について語っていきます。
学者やジャーナリストなどの自らが発見した「ポリコレ」で社会を統合しようとする人々
民主党支持のポリコレ識者や報道関係者は、人間を属性に基づいて区別して語る傾向を持っています。つまり、上記の事例を挙げるならば、人種、所得、学歴、などの分かりやすい属性ラベリングによって人間を区別した上で、それらの違いを再否定することによって自らの主張の正当性を得ようとしています。
「トランプ支持者は、白人、低所得、低学歴、不満層だ!」という話は、大統領選挙が終わるまでメディア上の様々な場面で耳タコだったと思います。これがポリコレ・パーソンの人間を見るときの目線です。
そして、ポリコレ・パーソンにとっては「自らの知性が見出した社会の構成員間にある違い」を無くすということが正義です。そして、その差異を無くすという考え方を受け入れるべきだ、という主張を通じて、自らが見出だした社会の分断の再統合を図ろうとします。具体的には、人種平等、格差是正、不法移民容認など、自らが人々の間に見出した違いを政府機能を使って埋めようとするわけです。
半ばマッチポンプみたいなものですが、この手の人は学者やジャーナリストに山ほど存在しており、日々新しいポリコレを発見・生産しては非ポリコレ・パーソンに対する知的マウンティング作業に精を出しています。そして、日本に暮らしていると発信力が強いポリコレ側の意見が世の中の正義であるように見えてしまいます。
しかし、トランプや共和党は人間を属性ラベリングによって区別して再統合しようという発想はそもそも持っていません。そのため、ポリコレパーソンからは「酷い差別主義者だ!」というレッテルが貼られることになります。
「米国人であること≒米国の建国の理念を受け入れること」で社会を統合しようとする人々
トランプや共和党が人々を区別する尺度は「米国の価値観を受け入れているかどうか」です。
つまり、建国の理念である「自由」の概念を共有できる相手か、それとも、それを否定する相手か、ということで人間を区別します。
具体的には、米国はイギリスによる課税などに反対して独立・建国された経緯があります。そのため、政府介入を意味する増税や規制強化に非常に厳しい主張を持っています。
米国の建国の理念の立場に立つならば、「政府の役割は小さい方が良いか?(≒税金は安い方が良いか)?」という問いに対し、極めて単純化して考えると「Yesと答える人は共和党支持」、「Noと答える人は民主党支持」ということになります。
共和党保守派議員などの演説を耳にすると直ぐに気が付きますが、「私たちは米国人である。だから、税金が安くて規制が少ない方が良いのだ」というスピーチの論理構成になっています。また、共和党支持者らの話を聞くと、彼らが合衆国憲法を非常に大切にしており、その読書会などが催されていることも分かります。
共和党にも黒人・ヒスパニックなどの有色人種系の候補者・支持者もいますが、彼らは須らく上記の米国の建国の理念に賛同し、それらを擁護することを誇りに思っています。特に共産主義全盛時代に母国で政治的な弾圧を受けて米国に逃れてきた有色人種は共和党支持の傾向があります。そして、多少粗削りなところもありますが、トランプ支持者も同様の理念には大筋賛成することでしょう。
したがって、共和党は「米国人であること≒米国の建国の理念を受け入れること」で社会を統合しようとしていると言えるでしょう。いわば郷に入れば郷に従えに近い発想ですが、そこではポリコレ勢力が区別した人種、所得、学歴ではなく、「同じ米国の価値観を信じる」という枠組みで人々の統合が図られることになります
共和党が不法移民に対して強く反対する(合法移民に関してはOK)理由は、不法移民は米国の価値観を受け入れる宣言をしていない人々であり、共和党が持つ米国統合の発想と根本的に相容れない存在だからです。
「米国の分断」の根本原因を理解できていない人は米国政治のことを知らない
したがって、主に民主党側の学者やジャーナリストが作り出したポリコレのうち、共和党が主張する「米国人の価値観」とぶつかる部分が社会の分断として表面化しているわけです。(もちろんポリコレと米国の価値観が一致することもあります。)
具体的には、ポリコレ勢力が推進する、アファーマティブアクション、大きな政府による腐敗、学者が作り出す新たな規制、米国の価値観を相容れない不法移民の容認などは、共和党側からは絶対に受け入れることができない要素ということになります。共和党側にとっては「米国を米国で無くす≒米国を分断させる」存在はポリコレ側だということです。
一方、ポリコレ・パーソンから見ると、ポリコレに反対する人を自分の知性が見出だした分断を統合する試みを邪魔する差別主義者として認定することになります。
ちなみに、外国人である日本人が犯しがちな勘違いは、米国の国是が「自由主義」であることを理解できず、「欧州のファシスト右翼」と「米国の保守派」が同じものに見えてしまうというものです。米国の保守派は「自由主義」という合衆国の理念を受け入れる人のことであり、欧州のファシスト右翼とは本質的な部分で真逆の発想を持った人々のことです。米国政治の理解が足りない人は両者を同じ文脈で語っているために注意が必要です。
米国の分断とは「どのような基準で社会を統合するのか」という価値観の違い
共和党・民主党の差は根本的な部分で既に異なっているために埋めようがない分断だと言えるでしょう。
以上のように、米国の分断とは「どのような基準で社会を統合するのか」という価値観の違いによって生じています。したがって、ポリコレ勢力の話を垂れ流しているだけの翻訳家に毛が生えた程度の人々の説明だけでは何も理解することができません。
「米国の分断は深刻であること」を理解すると同時に、「民主党側も共和党側も異なる価値観・方法で社会統合を図ろうとしていること」も明瞭になったと思います。
少なくとも今後4年間はトランプ&共和党政権が継続するわけですから、米国政治に対する一面的な言説だけでなく、共和・民主両サイドの側の主張を理解していく取り組みが必要です。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
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2016年11月29日
なぜ、安倍首相はヒラリーのみと会談したのか?
<The Japan Times から引用>
逢坂誠二・衆議院議員から提出された「9月に行われた安倍・ヒラリー会談に関する質問主意書」に対する政府からの回答がありました。質問主意書への回答は政府の公式見解ということになりますが、その内容は極めて問題の根が深いものとなっていることが分かります。
〇衆議院議員逢坂誠二君提出ヒラリー・クリントン候補重視の日本外交の問題意識に関する質問に対する答弁書
<逢坂議員の質問>
一 安倍総理が、九月の訪米時にドナルド・トランプ氏とは面談せず、ヒラリー・クリントン氏とだけ面談した理由は何か。政府の見解を示されたい。
四 政府は、ヒラリー・クリントン氏の当選が濃厚だとの見通しを持っていなかったのだとすれば、なぜ首相の九月の訪米時に、ヒラリー・クリントン氏とだけ面談したのか。政府の見解を示されたい。
<政府の回答>
一及び四について
平成二十八年九月十九日(現地時間)に行われた、ヒラリー・クリントン前米国国務長官による安倍内閣総理大臣への表敬は、同前米国国務長官側の発意を受け、調整し、実現したものである。ドナルド・トランプ氏からは安倍内閣総理大臣への表敬に関する提案はなされなかったため、同氏の表敬は実施されなかったところである。
<解説>
政府は安倍・ヒラリー会談はヒラリー側からの申し出があったために調整したとしています。そして、トランプ側からは表敬の申し入れがなかったとしています。つまり、同面談が受動的なものであったことが明示されています。
<逢坂議員の質問の続き>
二 九月の安倍総理の訪米時、ドナルド・トランプ氏と面談することを意図し、政府はトランプ陣営への働
きかけを行った事実はあるか。政府の見解を示されたい。
三 政府は、ヒラリー・クリントン氏の当選が濃厚だとの見通しを持っていたのか。見解を示されたい。
<政府の回答>
二及び三について
御指摘のような事実はない。
<解説>
ヒラリーに会うために米国を訪問するにあたって、バランスを取るためにトランプ陣営に働きかけた事実はない、と回答しています。
しかし、11月11日産経新聞によると「実は日本政府はこのとき、トランプ氏側にも会談を申し入れていた。結果的に本人は出てこなかったが、安倍首相はトランプ氏のアドバイザーの一人で投資家のウィルバー・ロス「ジャパン・ソサエティー」会長と会談している。ロス氏はこのとき、こう話したという。」とされています。
政府答弁が嘘をついているのか、産経新聞が飛ばし記事を書いたのか。両方が正しいとした場合、トランプ氏に元々会うつもりも無かったが、トランプ陣営の一人でジャパン・ソサエティーの会長であるウィルバー・ロス氏には個人的に会っておこうと考えたということだろうか。
<逢坂議員の質問の続き><解説>
ヒラリーに会うために米国を訪問するにあたって、バランスを取るためにトランプ陣営に働きかけた事実はない、と回答しています。
しかし、11月11日産経新聞によると「実は日本政府はこのとき、トランプ氏側にも会談を申し入れていた。結果的に本人は出てこなかったが、安倍首相はトランプ氏のアドバイザーの一人で投資家のウィルバー・ロス「ジャパン・ソサエティー」会長と会談している。ロス氏はこのとき、こう話したという。」とされています。
政府答弁が嘘をついているのか、産経新聞が飛ばし記事を書いたのか。両方が正しいとした場合、トランプ氏に元々会うつもりも無かったが、トランプ陣営の一人でジャパン・ソサエティーの会長であるウィルバー・ロス氏には個人的に会っておこうと考えたということだろうか。
五 次期米国大統領にはドナルド・トランプ氏が就任するが、この間のヒラリー・クリントン氏だけを重視した日本外交は誤った見通しに基づいていたのではないか。政府の見解を示されたい。
六 米国大統領選挙の結果が出るまでは、ヒラリー・クリントン氏だけを重視する結果となったことは、情報収集と分析能力に課題があると思われる。米国における在外公館の情報収集活動や分析、さらには日本外交の前提となる政府内での情報収集や分析能力には課題があるのではないか。政府の見解を示されたい。
七 米ソ冷戦期および冷戦終結後という時代のレーガン政権からG・H・W・ブッシュ政権の終わった一九九三年以後、米国では二大政党による政権交代が繰り返され、民主党あるいは共和党の政権が連続して三期以上続いたことはないと承知している。その事実を踏まえれば、民主党のオバマ政権の次には共和党政権が誕生する可能性は低くないということは容易に推測できる。日米外交に携わる専門家であれば、当然踏まえておくべき認識であろう。それにもかかわらず、オバマ政権の次にヒラリー・クリントン政権が誕生すると推測し、ヒラリー・クリントン候補重視の日本外交の基本姿勢には、基本的な問題意識の欠如があるのではないか。政府の見解を示されたい。
<政府の回答>
五から七までについて
政府としては、ドナルド・トランプ陣営及びヒラリー・クリントン陣営双方との関係を早い時期から構築してきたところであり、「ヒラリー・クリントン氏だけを重視」したとの事実及び「オバマ政権の次にヒラリー・クリントン政権が誕生すると推測」したとの事実はなく、「情報収集や分析能力には課題がある」及び「日本外交の基本姿勢には、基本的な問題意識の欠如がある」といった御指摘は当たらない。
<解説>
両陣営に人脈も持っており、ヒラリーを重視した事実はなく、情報収集や分析能力に課題はない、基本的な問題意識の欠如もないとの回答。
上記の回答を総合して考察すると「政府としては情報収集と分析能力は万全で、ヒラリーから打診が会ったから会っただけで、トランプ陣営には何も打診せず、元々繋がりがあったウィルバー・ロス氏だけは個人的に面談した。ヒラリーを重視していたわけではない。したがって、日本外交の基本姿勢に問題はない」ということになります。
<同時期に米国を訪問したイスラエルのネタニヤフ首相はヒラリー・トランプ両方に会っている>
比較事例として米国に安倍首相と同時期に訪問したイスラエルのネタニヤフ首相はヒラリー・トランプ両氏に会っていることも紹介しておきます。
ユダヤ人国家という特殊な条件はあるものと思いますが、大統領選挙期間中に候補者の両方に会うことが当然の対応であることが分かります。
イスラエルはイラン核合意などで米国と関係が冷え込む中で、今年3月にオバマ大統領との面会することを取りやめるとともに、大統領予備選挙に干渉する印象を与えることを避けるため、ネタニヤフ首相の訪米日程を一旦キャンセルしていた経緯があります。
しかし、大統領選挙の最終盤に機を見て敏に共和・民主両候補者に面談する機会を持ったこと、そして両候補者からイスラエル寄りのコメントを引き出したことで、同国の卓越した外交力は示されたことになります。
自らの主張を通すために米国相手に駆け引きを行い、そして見事に果実を得る外交だと言えるでしょう。
<日本政府の問題点は「判断力」の欠如だった>
イスラエル政府が情報収集・分析能力に長けており、ネタニヤフ首相の判断力が極めて優れたものだったことは明らかです。
ウィルバー・ロス氏に個人的に面談したから「手を打っていた」という言い訳のリーク記事を新聞社に書かせて国民世論を誤魔化しつつ、正式な政府答弁で答えられない程度の対応しかしていなかった国とは違います。
逢坂議員の質問主意書に対する日本政府の答弁には大きな問題があります。
仮に政府の答弁通り、トランプ・ヒラリー両陣営との人脈を構築し、ヒラリーを重視した事実もなく、情報収集や分析能力に問題が無かったなら、「まともな対応を行ったイスラエルとの差」はどこから生まれたのでしょうか。
両者の差は「判断力」の差であったということが言えるでしょう。
つまり、この問題は「ヒラリーが会いたいと言ったから会いに行った」という受動的な姿勢、自分で外交的な意思決定を判断できない、という外交姿勢以前の根本的な問題だということです。
そして、米国大統領に就任する可能性がある前国務長官に呼びつけられたら、一国の首相が慌てて訪米するような「判断力の欠如した従属外交に問題が無い」という政府答弁に日本人の誇りはあるのでしょうか。
私は一人の日本人として、今回の政府答弁の内容に驚きを覚えました。同内容を公開すること自体に疑問を持たない現政権は日本人の代表としての誇りを問い直されるべきでしょう。
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2016年11月24日
ヒラリーがトランプを全米得票数で上回った本当の理由
全米総得票数でヒラリーがトランプを上回っても無意味
大統領選挙の全米総得票数でヒラリーがトランプ氏を上回る結果となりました。この一事をもってヒラリーに民主的な正統性があるかのように主張する人々がいます。
しかし、重要なことは「ヒラリーは選挙に負けた」ということです。
民主主義国家では、選挙の前提として法律によってルールが設けられており、各候補者はそのルールに従って選挙活動を行っているという当たり前の現実があります。
ヒラリーがトランプ氏に総得票数で上回って選挙人数で負ける、という構図については「ふーん」という参考値程度の話題でしかなく、殊更取り上げて重要視するほどの意味はありません。
選挙活動はルールに最適化された戦略に基づいて実施される
選挙はルールが決まった民主主義の試合です。そして、完璧なルールは存在せず、その時点で人々が妥当と認めているルールで行われることになります。そのため、事前に決められたルールを熟知した上で、各候補者陣営によって勝利に向けて最適化された戦略が採用されます。
米国大統領選挙は各州ごとに割り振られた選挙人の過半数を獲得する競争です。そのため、既に過去の記録から勝敗が決定している州よりも、スウィング・ステイト(接戦州)と呼ばれる州の勝敗で決着がつくことは誰の目から見ても明らかなことです。
当然、トランプ・ヒラリー両陣営ともに同じルールの中で選挙を行います。したがって、本来であればヒト・モノ・カネ・情報を戦略的に接戦州に投下してくことになります。そして、戦略の良否は最終的に各州における得票数に反映されることになります。
民主党陣営の選挙は「死ぬほど下手くそだった」ということ
ヒラリー陣営はトランプ陣営に比べて選挙キャンペーンに圧倒的な資金を投入しましたが、最終的な選挙人数獲得数でトランプ氏に大敗北を喫することになりました。
しかし、全米での得票数はヒラリーがトランプ氏を上回った状況となっています。これは何故でしょうか。
各州ごとに最終得票数を比較してみた場合、両者の得票差はカリフォルニア州の得票差によって生まれたものであることが分かります。
全米得票差は200万票差でヒラリー勝利、カリフォルニア州の得票差は400万票差でヒラリー勝利(同州のヒラリー総得票数802万票)です。つまり、ヒラリーの全米得票数での勝利の要因はカリフォルニア州による得票差で説明可能です。
しかし、カリフォルニア州でヒラリーが勝つことは世論調査上元々揺るぎない状況でした。そのため、同州でヒラリーが大量得票をしても選挙戦全体には何の影響もありません。
むしろ、2012年のオバマVSロムニーのカリフォルニア州での得票差は300万票(ヒラリー総得票数785万票)なので、ヒラリー陣営の選挙は西海岸で勝敗に関係が無い無駄な盛り上がりを見せていた、ということが言えます。
ヒラリー陣営は2012年オバマと比べて、アリゾナ、ジョージア、テキサス、ネバダ、フロリダなどで獲得票数を大幅に伸ばしていますが、ネバダ・フロリダ以外の得票増は完全に戦略ミスだったように思われます。
投票日近くのヒラリーの動きを見ても従来までの共和党の鉄板(レッド・ステート)をひっくり返すため、ジョージアやアリゾナにヒラリー自らが足を踏み入れて集会を実施していました。
これは勝利を確信していたヒラリー陣営が歴史的大勝を狙った驕りの表れでしょう。最終的な結果はそれらのレッド・ステートは従来通りの共和党(トランプ)勝利となり、ヒラリーの積極的な選挙キャンペーンは人材・時間・資金の全てをドブに捨てたことになりました。
トランプ陣営の各州選挙結果に見る試合巧者ぶりについて
トランプ陣営の選挙戦略は各州ごとに検証すると極めて明確なものだったと評価できます。
トランプ陣営の得票結果を見ると、ヒラリー優勢が明白であったカリフォルニア州を完全に捨てていたことが分かります。同州でトランプ氏は2012年のロムニーよりも65万票近い得票減という憂き目にあいました。しかし、カリフォルニア州はどうせ負けることが分かっていたため、トランプ氏にとっては大統領選挙の勝敗とは何の関係もない得票減でしかありませんでした。
また、その他の州でもトランプ氏がロムニーと比べて得票数を減らしたほぼ全ての州は元々民主党・共和党の勝敗が決している州ばかりでした。これらの州に勢力を投入しても結果は変わらないので、実に見事な手の抜きぶりであったと思います。
つまり、トランプ氏は、勝敗に関係がない州からの得票を減らしつつも、勝利に直結する州についての得票は着実に増加させていた、ということになります。これはトランプ陣営がメリハリをつけた選挙戦略を採用しており、その結果が得票数という形で如実に表れたものと推測できます。
また、トランプ陣営は費用対効果が不明瞭なテレビCMではなく、費用対効果が明白なネット広告に当初から予算を大きく割いてきたことも大きな勝因の一つとなったものと思います。
以上のように各州の得票数から、戦略と集中、という経営学の教科書のような選挙をトランプ陣営が行ってきたことは明らかになりました。大手メディアが支援するヒラリー陣営の惰性的で驕慢に満ちた選挙戦略とは明確な違いがあったと言えるでしょう。
総得票数で勝負する選挙でもトランプは勝利していただろう
何度も言いますが、選挙はルールが決まった民主主義の試合です。トランプ陣営はヒラリー陣営よりもルールを熟知した上で優れた選挙戦略を実行しました。
筆者は「全米の総得票数を争う選挙」であったとしてもトランプ陣営が勝利したものと予測します。冒頭にトランプ氏が自身のTwitterで述べていた通り、トランプ氏がカリフォルニア、NY、フロリダでのキャンペーンに力を入れれば大幅に得票が増えたことは明白だからです。
上記の通り、ルールを熟知した試合巧者が勝利するゲームが選挙です。
「総得票数が多い者が勝つ」というルールならば、トランプ陣営の優秀なスタッフは総得票数で勝利とするために最適な戦略を採用し、ヒラリーを上回る得票を獲得する戦いを行ったことでしょう。
選挙人獲得競争のルールの中で、総得票数で上回って選挙人獲得で負ける、ことが意味していることは1つです。それは、ヒラリーの選挙戦略を立案したスタッフが無能であり、トランプ陣営はヒラリー陣営と比べて極めて優秀だったということだけです。
以上のように、「総得票数でヒラリーが勝っていた!民主的正統性がトランプに欠けるのでは?」という疑問は、選挙というルールを前提にした場合は愚問だと言えるでしょう。事前に決められたルールの中で候補者がベストを尽くす、民主主義社会における選挙とはそういうものだからです。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
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