シリア

2017年01月30日

トランプの入国制限をちょっとだけ詳しく考えてみた

ISIL

トランプが署名した大統領令による入国規制は「トンデモナイ」話なのか?

トランプがイラン、リビア、スーダン、シリア、イラク、ソマリア、イエメンの7か国について入国制限を実施することを発表したことで、全米で反対デモが巻き起こっており、米国メディアがそれらを取材した内容の丸写しニュースが日本でも流れています。

さて、今回はトランプが署名した大統領令が本当に「トンデモナイ」ものなのか、について話をしていきたいと思います。その背景と意図、そして今後の展開について筆者なりにまとめたものであり、日本国内で語られている他の情報とは少し変わった視点から情報が提供できれば幸いです。

元々トランプのイスラム教徒入国禁止は、予備選挙時にトランプと共和党の一部(コーク財団系)が本格的に衝突したきっかけでもあり、その後一時的にトランプのHPから掲載が消えていたものの、大統領選挙後にHP上に復活したトランプ政権にとっては肝いりの政策だと言えるでしょう。

入国制限対象国が少なすぎるのではないか?という批判も存在している

今回の入国制限国は7か国について、米国国務省はこれらの国々をテロ支援国家またはISISやアルカイーダなどのイスラム過激派が現在進行形で勢力を誇っているテロリスト・セーフ・ヘイブンとして名指ししています。

そして、2016年1月に施行されたテロリスト渡航禁止法によって上記の7か国に渡航または滞在歴がある人は米国のビザ免除プログラムが利用できず、ビザ申請をしなければならないという元々他国よりも一段高いハードルが設けられて警戒されていました。そのため、トランプ大統領の着手までの速度には目を見張るものがありますが、これらの優先度の高い国からの入国者に対する規制を見直し・強化するための90日間の一時的な入国禁止措置を実施することは十分に想定の範囲内の出来事だと言えます。

ちなみに、トランプ大統領が2017年の受入れ上限としている難民5万人はオバマの半分程度と言われていますが、それは2016年にオバマが難民受入れ件数を激増させたからです。ジョージ・W・ブッシュとオバマの2015年までの平均は約5万人程度なので特別におかしな数字ではありません。

大騒ぎしている人々もグリーンカード保有者が大統領令の対象外になることが発表されたことで一定の期間が経過すれば静かになることが予想されます。また、米国が要求する追加情報を対象国から得た場合、ほとんど全ての人が入国できる可能性が高いです。

ただし、オバマ政権は最近の僅か2年で約5万発の爆弾を落とし、誤爆などによって新たなテロリストを上記の対象国内(イラク、シリア、リビア、ソマリア、イエメン等)などに育ててしまっています。潜在的なテロリスト予備軍の増加によって対テロ戦争という意味では9.11時よりも場合によっては状況が悪化している可能性があります。

したがって、一部のメディアや有識者のように過去のテロの実績から今後のリスクを安易に想定することは誤りであると推測されます。

そのため、文言通りにテロ対策として考えるならば、上記のテロリスト・セーフ・ヘイブンの文脈からはアフガニスタン、レバノン、パキスタンなどの国も対象であり、トランプ政権が一時的な入国禁止阻止措置を更に拡大していくことも想定すべきです。

トランプの真の狙いは「シリアに地上兵力を派兵して安全地帯を作ること」ではないか?

しかし、従来の政策の延長線上の措置とは言えども、これらの入国制限措置を純粋なテロ対策の観点のみで考えるべきかについては疑問があります。特にシリア難民の恒久的な入国禁止措置には別の狙いもありそうです。

今回の措置で最も重要なポイントはシリア難民の無期限入国禁止だと言えるでしょう。そして、トランプ政権の狙いは「シリア難民の入国禁止」によって生じる国際情勢の変化だと推測されます。

トランプ大統領は以前から「シリア国内に安全地帯を設ける」旨を発表していますが、サウジアラビア国王との電話会談でも再び「安全地帯の設置」についての協力を求めています。

そして、今回の大統領令でシリア難民を受け入れないと宣言した結果、人道的な措置として「シリア国内の安全な場所で難民に該当する人々を保護する」ことを逆に大義名分として獲得できるわけです。

現在、シリアでは米国抜きの世界秩序の始まりを象徴するかのような出来事が起きてしまっています。

オバマ政権のシリア対応は象徴的な外交失政であり、予算をかけて空爆を継続して無関係の人々も含めて殺傷した上に、米国の地上兵力の不在は和平プロセスからの米国排除という結果を招いて国際的威信を著しく低下させました。

今回、トランプ政権はシリア難民の入国禁止をあえて実施することで、米軍及び同盟国はシリアに地上部隊を派兵して影響力を持つ地域を手にする国内外からの大義名分を得ることになります。そうすることで、シリアでの和平交渉におけるバーゲニングパワーを取り戻せるからです。

そのため、トランプ大統領はシリアへの地上兵力派兵のカードはまだ切っていませんが、国内の一部の有識者のように派兵の可能性を全否定することは早計でしょう。

実際、ティラーソン国務長官をトランプに推薦したロバート・ゲーツはコンドリーザ・ライスと一緒に連名で地上兵力を派遣してプーチンと交渉するべきだという公開書面をメディア上に掲載していたこともあります。

イスラム教徒の入国禁止だと騒がれている理由の一つは少数派キリスト教徒の保護優先だから

上記でも触れた通り、グリーンカード取得者は対象外ということになり、「イスラム教徒の入国禁止だ!」とは一概には言えない状況となっています。

ただし、この大統領令がイスラム教徒の入国禁止と揶揄される理由の一つには「少数派宗教で迫害されている人」(≒キリスト教徒)を優先して難民として入国を受け入れる可能性が付記されている点にあります。

トランプ大統領は、これらの対象となったイスラム教国内では少数派となっているキリスト教徒は極めて残酷な被害にあっていることも多く、これらの人々は宗教的迫害から逃れるために優先的に入国させるとしています。

大統領令の批判者の中にはこの内容が宗教的な差別に当たるとする見方があるようですが、これについては意見が分かれるところでしょう。 キリスト教徒の迫害に関するレポートは十分根拠があり、なおかつ同時にこれはキリスト教福音派などの共和党保守派の意向が働いたものと考えることが妥当かと思います。

大統領選挙の経過及び結果が政策の微妙な部分に反映されることも米国の政治を考察していく上で非常に興味深い点だと言えるでしょう。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07


本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2016年02月14日

2016年2月9日・首相動静ウォッチ

本ブログでは、時事通信社の首相動静について追加情報を加えながら首相の行動の意図を推測しています。少しでも皆様のお役に立つ情報が提供できれば幸いです。

<2月9日(月)>

・午前7時52分、公邸発。同53分、官邸着。
・午前7時57分から同8時2分まで、国家安全保障会議の9大臣会合。同3分から同7分まで、高市早苗総務相
・午前8時12分から同24分まで閣議。
・午前8時26分から同42分まで、国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議。
・午前8時50分から同59分まで、萩生田光一官房副長官
・午前10時30分から同11時5分まで、オバマ米大統領と電話会談。萩生田、世耕弘成両官房副長官、谷内正太郎国家安全保障局長同席
・午前11時50分から午後0時5分まで、韓国の朴槿恵大統領と電話会談。萩生田、世耕両官房副長官、谷内国家安全保障局長同席。同10分から同42分まで、谷垣禎一自民党幹事長
・午後0時53分、官邸発。同55分、国会着。同56分、衆院議長応接室へ。同59分、同室を出て、同1時、衆院本会議場へ。同2分、衆院本会議開会。
・午後2時31分、衆院本会議散会。衆院本会議場を出て、同32分、国会発。同34分、官邸着。
・午後2時56分、西村泰彦内閣危機管理監、谷内国家安全保障局長、北村滋内閣情報官、下平幸二内閣衛星情報センター所長、防衛省の前田哲防衛政策局長、宮川正情報本部長が入った。同3時10分、西村、谷内、下平、前田、宮川各氏が出た。同22分、北村氏が出た。
・午後3時31分から同37分まで、福井県あわら市の「あわら温泉おかみの会」の伊藤康代さんら。同53分、官邸発。同55分、国会着。同56分、参院議長応接室へ。同57分、同室を出て、参院本会議場へ。同4時1分、参院本会議開会。同8分、参院本会議散会。同9分、参院本会議場を出て、同10分、国会発。同12分、官邸着。
・午後5時6分、国家安全保障会議開始。
・午後5時41分、国家安全保障会議終了。
・午後5時54分から同6時39分まで、外務省の斎木昭隆事務次官、林肇欧州局長、上村司中東アフリカ局長。同42分、官邸発。
・午後6時51分、東京・銀座の日本料理店「つるとかめ」着。自民党の秋元司、石原宏高両衆院議員らと会食。
・午後8時30分、同所発。
・午後8時52分、東京・富ケ谷の私邸着。
・10日午前0時現在、私邸。来客なし。

<2月9日の見どころ>

2月9日は北朝鮮関連の出入りが多い一日となりました。安倍首相が電話でやり取りする相手はオバマ大統領と朴槿恵大統領ということで順当だと思いますが、ロシアや中国などの向こう側の関係国とは必ずしも意思の疎通が良さそうに思えません。

夕刻の欧州局長・中央アフリカ局長を交えた会議はシリア情勢があわや第三次世界大戦か、というほどに緊迫している中でのものであり、安倍政権も事態の深刻さを認知し始めたものではないかと思われます。中東アフリカ局長との面談は今年初めてということになります。

 


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2015年11月25日

トルコ軍機がロシア軍機を撃墜、どうなってしまうのか

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トルコ軍がロシア軍機を墜落させた場所、領土をちょっとカスッただけだった

11月24日トルコ軍が領空侵犯したロシア軍機を撃ち落としたようですが、上の地図の飛行経路から見るに明らかにトルコを攻撃するような意図はなかったように見えます。

トルコ軍は10回以上警告したと主張しているようですが、それにしても「無理やり撃ち落とした」感は結構強いなという印象を受けます。

一旦まとまりかけたフランスとロシアの方向性ですが、本件を通じてNATOとロシアの対立が生じる可能性があり、振り出しに戻りそうな雰囲気を漂わせています。

ロシアとトルコの関係悪化は中東の不安定化を促進することに

シリア情勢は極めて複雑な状況であり、ロシア軍の情け容赦ない打撃が展開されることで状況が動くかもしれないと思ったところで、今回のトルコ軍の突然の横やりは相当事態を混乱させることになるでしょう。

アサド政権の維持で動き始めたロシアとフランスに対し、アサド政権を好ましく思っていないトルコによるアサド政権継続を望んでいないという意思表示なのかもしれません。

ロシアはトルコをテロリストの手先と激しく非難しており、今後はトルコに対してエネルギーの制裁などを実施する可能性があります。ロシアとトルコの間で検討されているパイプライン構想も暗礁に乗り上げそうです。

日本は目立たない形で対応し、国連安保理常任理事国に任せるべき

単純なシリア領内・対テロ戦争だけの話ではなくなり、先進国間の軍事対立の可能性が出て来た以上、日本はこれ以上シリアに深入りすることは避けるべきだと思います。

国際情勢の不安定化への対処は、国連安保理の常任理事国に任せるべきであり、既に爆撃を開始している米ロ仏、爆撃予定の英、そしてほぼ沈黙している中国にしっかりとした対応を促すべきです。

特に中国に関しては国連安保理常任理事国中の唯一のアジアの国として、中東へのアジアから常任理事国としての対応をしっかりと果たすことを求めていくべきでしょう。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07




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yuyawatase at 12:00|PermalinkComments(0)

2015年11月21日

切捨御免!ひきこもり保守の代表格「はすみとしこ」さん

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シリアで発生した難民問題に関して、日本のイラストレーターの「はすみとしこ」さんが人種差別的なイラストを描いたことで話題となりました。一部の保守がこのイラストに賛同したことは大変残念であり、日本の保守のブランドを汚すものとして、そのグローバル意識の低さは改善されるべきものです。

脆弱な国内レイシストとしての育った戦後保守

戦後日本の保守の一部は、第二次世界大戦に敗北した結果、戦勝国や在日朝鮮人らに対して劣勢な立場に立たされてきており、そのカウンターカルチャーとして発展してきた傾向があります。つまり、自分たちが何者であるかを自己規定できない中で、自分たちに敵対的な勢力を鏡として自らの姿を規定してきたのです。

そのため、これらの矮小な保守はグローバルな動きは敵とみなし、自ら国内でしか通用しないレイシスト的な貧弱な愛国意識を育んでしまっています。

このようなレイシスト的な傾向が発達してきた傾向の背景には、敵対勢力による理不尽な日本人への敵対行為やバッシングが存在しており、それらのバッシング主体を口汚く罵ることによって歪んだ保守は影響力を持つことができるようになりました。特に中国、韓国、北朝鮮の対日姿勢は非常に愚かであり、それらの国の政府が日本の保守のゆがみを育てた育ての親と言えるでしょう。

<はすみとしこさんの作品>
無題


実は日本人全体の潜在意識に埋め込まれた歪んだ精神

日本国民は現在人口減少と遅れたグローバル化という2つの難題に直面しています。

安倍首相は国連の場でシリア難民の受け入れよりも日本人の人口減少対策が急務であることを述べて顰蹙をかいましたが、それは上記のような歪んだレイシズムに基づく保守の影響を受けたものだと言えます。(そして、日本人単体の人口減少は子育て支援などで解決できるようなレベルでもないため、人権問題以前に冷静な国家運営すらできないということを露呈しています。)

もう一つは世界的な人口成長・経済成長から取り残された、遅れたグローバル化の状況も深刻です。途上国に出て見ればわかりますが、既に日本の資本は他国に対して大きく後れを取っています。これは日系企業の官僚主義=国内の内向き姿勢が影響したものです。

実は上記のような歪んだ保守の持っている特徴は多くの日本人が抱いている日本像に近いものがあり、それらの意識が歪んだ保守の浸透を側面的に支えています。いわゆる左派であったとしても、米国に対する劣等意識から排除的な反米論を述べており、同じように脆弱な日本人の精神を体現しています。

国内でしか通用しない保守を自浄する「新しい保守」が必要 

ただし、現在の日本が抱えている上記の2つの問題は、脆弱で歪んだ保守、には解決できません。

今回の問題であれば、シリア難民の話は人権に敏感な西欧社会を中心に発生している問題であり、基本的な国際社会に通用するグローバルな感覚を持っていない、ひきこもり保守が起こした典型のような失敗談です。本人は偽装難民を揶揄したものとして弁明していますが、グローバルな活動をするにはリテラシー能力が低かった、ということが根源にあります。

これから必要な保守は、日本国に対する誇りを持ったグローバルな意識を持つ保守です。敵対国によるカウンターカルチャーとしての保守ではなく、自らの意志を発することができる日本ということになります。

日本が経済的・社会的に飛躍するときは常に対外的に開けた時代であり、外国人の力を利用しながらそれらの力を日本社会に統合することに成功してきた歴史を思い出すべきでしょう。

海外から人間が入ってくる程度のことでビビッて閉じこもるような日本人であれば、遅かれ早かれ諸外国から食い物にされていくことになります。私はそのような自信のない日本人に魅力を感じることはありません。

私自身はアベノミクスの第四の矢として「移民の推進」が当然提示されると思っていたのですが、代わりに1億総活躍社会という真逆の方向の標語が掲げられたことで、やはり安倍政権にそのような大胆な政策を期待することが間違っていたと思います。

国内の歪んだ保守、そしてその背景にある日本人の引きこもり根性を自浄する、自信と誇りを持った力強い日本国民による保守が今こそ重要です。

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)
オルテガ・イ・ガセット
筑摩書房
2013-11-15


 

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yuyawatase at 12:00|PermalinkComments(0)