シャープ

2016年02月08日

鴻海がシャープを買収することは自然の摂理である

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wikipediaより引用

鴻海がシャープを買収することは自然の摂理である

台湾企業の鴻海がシャープを買収する方向でほぼ決まりそうなことは非常に望ましいことです。鴻海がシャープブランドを活用した世界戦略を採用することは一つの考え方だと思います。まさに買収すべくして買収した自然の摂理のようなものであり、新興国で資本力を蓄えた企業として「歴史を買う」妥当な戦略だと思います。

それに比べて、産業革新機構は「再生」という名称で何をしようとしたのか全く不明です。シャープは経済産業省の天下り実績がある企業であり、「技術流出の防止」という大義名分を掲げて、更なる天下り先確保&過去の不透明な巨額投資の意思決定過程の記録を隠そうとしたんじゃないかと邪推もしたくなります。

むしろ、経営危機にあるシャープを買収するために7000億円も拠出する企業が現れたことについて、日本人であれば喜ぶべきところであり、本来はベンチャー投資に充てるべき血税を「大企業の再生案件」として投資しようとした政府系の官民ファンドから資金の引き上げを直ちに実行するべきです。

世界に対して日本が自由主義経済国であるメンツを辛うじて保つ形に

産業革新機構がおかしな行動をした上に、シャープの経営陣が鴻海の好条件に即決できない姿をさらしたせいで、日本は依然として自由経済の国ではないかのような印象を他国に与えるところでした。しかし、結果としてシャープが鴻海を選んだことで自由市場が機能していることを世界に示せたと思います。

現在の国際競争はグローバル企業からの投資をどれだけ惹きつける都市・企業・人材を創り出すかということが重要です。シャープという一企業の事例を通じて、日本は政府系ファンドが市場原理に反する不可解な行動を行う国であるという印象を与えることは中長期的に見て決定的にマイナスです。

先発資本主義国である日本は他国企業をM&Aしていきながら、更に付加価値を高めた都市・企業・人材への投資を集め続けるというスパイラルな上昇過程を続けることが大事であり、その流れを自ら断ち切ってしまうことこそが敗北への道ということになります。

今回の一件でも分かることは、国策の産業政策というものは「保護主義」を根幹に据えており、発展途上国の政策モデルであるということです。このような政策モデルを根本から転換させていくことが必要でしょう。

金融政策で景気が浮き沈みするのであれば「産業政策」は不要ではないか

筆者は政府と中央銀行を肥大化させるアベノミクスを支持する者ではありませんが、しかし安倍政権がアベノミクスの成果を強調することをそのまま認めるならば「産業政策」は根本的に不要だということになります。

安倍政権になる以前から、政府は大量の予算を産業政策に投資してきているのに、それらはアベノミクスが行われるまで何ら経済活動を好転させる成果を生み出さなかった、ということになるからです。したがって、金融緩和によって景気が浮揚するなら産業政策は不要と言えるでしょう。

筆者はアベノミクスによる景気浮揚効果は極めて限定的であり、リーマンショックからの景気循環による経済活動の好転のほうが大きいのではないか、と思っていますが、その場合であっても産業政策はやはり不要ということになります。

今回の産業革新機構のシャープの買収失敗は、日本の産業政策の必要性について根本から見直す良い機会になるのではないでしょうか。その大半は日本の産業構造の新陳代謝を遅らせるものであり、産業政策を極小化することが実は最大の産業政策であることに気が付くことでしょう。




日本の競争戦略
マイケル・E. ポーター
ダイヤモンド社
2000-04

1940年体制(増補版)
野口 悠紀雄
東洋経済新報社
2013-05-02





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yuyawatase at 21:58|PermalinkComments(0)