アジア(中東)

2017年04月11日

トランプが「シリアの子どもの写真」を見て爆撃したと本気で思っている人へ

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🄫AFP (ISISはイラクでほぼ敗北しシリアでも風前の灯に)

トランプ大統領が「シリアの子どもの写真」を見て本気で爆撃を決意したと思っているのか?

トランプが化学兵器を散布した軍が駐留しているとされる空軍基地をトマホークで爆撃した件について、人道的な措置として大義名分が必要であることは理解できます。そして、国連でも度重なる議論を行った上での措置(ロシアの拒否権で話が進まない)であり、米国はシリアのアサド政権に対する軍事介入のための正当性作りは過去から粛々と行ってきました。

そのため、今回のシリアの空軍基地爆撃に際して、「トランプ大統領が化学兵器で苦しめられるシリアの子どもの写真を見て爆撃を決意した」と人道上の理由を強調することは武力行使にあたって当然強調されるべきでしょう。オバマ政権が実施できなかったことをトランプがやって見せたことの意義も大きいものと思います。

しかし、国際政治学者やジャーナリストとされる人々が「上記の理由」を真に受けて「トランプ政権が孤立主義から介入主義に転じたor軍事政権化したor思い付きで攻撃した」と論評している姿は残念すぎるどころか滑稽ですらあります。この人たちはホワイトハウスのHPすら見たことないのか?と思う次第です。

トランプ大統領が1月に発表した2つの大統領についておさらいする

トランプ大統領は1月27日に「軍備増強に関する大統領覚書」、1月28日に「シリアとイラクのISISを掃討するための大統領覚書」の2つの大統領覚書を発表しています。これはイスラム圏7か国からの入国禁止の大統領令とバノンをNSCの常任メンバーに加えた大統領覚書の影に隠れて現在までほとんど報道されないままとなっています。

1月27日「軍備増強に関する大統領覚書」は米軍の即応体制を整えることに主眼を置いたものであり、そのための行政管理局とともに予算措置なども併せて講じることになっています。また、1月28日「シリアとイラクのISISを掃討するための大統領覚書」は、国防総省に関係各機関と連携してISISを打倒するためのコンティンジェンシープランを1か月以内に策定して提出するものでした。

マティス国防長官はこれらの大統領覚書にしたがってトランプ大統領に指示された報告しており、その後から小規模ではあるものの、シリアとイラクに対して地上軍の派兵が進みつつある状態となっています。

一方、トランプ大統領・ペンス副大統領・ティラーソン国務長官らは中東の関係諸国に安全地帯の設置やISIS掃討キャンペーンへの協力を求める外交努力を続けてきました。粛々とトランプ政権の中東への介入及び派兵の準備は進んでいたものと言えます。

シリアへの攻撃は「マティス&マクマスター」の軍人コンビが主導したもの

仮に報道の通り、マティス及びマクマスターの二名によってシリア空軍基地の爆撃を行ったとした場合、上記の経緯から「アサド政権に対する人道的介入」も計画プランに入っていたと想定することが極めて妥当だと思われます。

元々アサド政権の化学兵器使用は度々国連でも制裁の議題としてあがっており、中東地域のISIS掃討計画の要素の中に組み込まれていないとすることには無理があります。マティスとマクマスター主導の軍事展開が無計画に行われると考えるのは中学生以下の妄想です。(相手は米軍ですよ?(笑))

では、なぜトランプ政権はアサド政権に対して人道的介入に踏み切ったのでしょうか。それはISISが当初想定していたよりも早く壊滅しつつあることが要因として大きいと見るべきです。直近では、米軍が本格的に介入する前に、米軍の介入根拠であるはずのISISがアサド・反政府軍・クルドによって片づけられてしまい、米国抜きで和平に向けたプロセスが進む可能性が高まっていました。

ISIS掃討計画には戦後構想が含まれることは当然であり、上記の大統領覚書には国防総省だけでなく幅広い政府機関の協力が求められています。そして、ISISが壊滅しつつある現在、シリアの状況は既に戦後構想を巡る主導権争いに移っていると理解するべきでしょう。

アサド政権による化学兵器の使用は、上記の文脈の中で反体制派に対して「米軍は助けに来ない」ことを印象付けるためのアサド政権の示威行為であったと見ることが妥当であり、米軍はそれを拒否してシリア情勢に介入する意志を見せたことになります。

軍事介入をを正当化する理由として人道介入を強調することは当然ですが、米国が同地域の和平プロセスについてロシアや関係各国に米国の存在を見せつけることが理由でしょう。今後、更に主導権を取り戻すために米軍が何らかの関与を強めるのか、ロシア・アサド側が何らかの妥協を行うのか、交渉フェーズに改めて入ったと見るべきでしょう。

NSCの構成メンバーの変更が持つ意味合いについて

バノンなどのオルト・ライトとして位置づけられる勢力が中東地域への介入に否定的であったために外されて、軍人主導の中東への介入政策がとられる方向に舵が切られたと理解することは間違いです。

元々バノンも含めてトランプ政権は中東、ISIS絡みの事案への介入に関しては積極的であり、孤立主義でも無ければ非介入主義でもありません。むしろ、中東地域については地上軍の派兵も含めて積極的な介入を当初から謳っていました。

NSC常任メンバーからバノンが外れた理由は、バノンやセバスチャン・ゴルカなどが主張するグローバル・ジハード(つまり、テロ)への対応よりもシリア、ロシア、イランなどの敵性国家への対応に重点が置かれたからでしょう。バノンらは米国内でテロが発生した場合に再び台頭してくる可能性が高いものと思います。

今回のNSC人事の中で国家情報長官と統合参謀本部議長が復活するとともに、核管理を所管しているエネルギー省のリック・ペリー長官も加わることになりました。これはロシアとの核軍縮やイランとの核合意(エネルギー省も関与)についての交渉を進めていく上で必要な人事として捉えるべきでしょう。特に5月に行われるイラン大統領選挙は反米勢力が勝利する可能性があり注目に値します。

したがって、トランプ政権としての優先目標の変更はあったものの、基本的な対中東シフトの方向性は変わらず、むしろ元々政権の中に存在していたISISやイランに対する強硬姿勢が徐々に表面化しつつあるといったところです。

議会対策などの国内政局上の意味合いも考慮するべき

オバマケア代替法案(ライアンケア)に反対した保守強硬派はコーク兄弟からの支援を受けており、コーク兄弟はムスリムの入国禁止を巡ってトランプと激しく対立してきた経緯があります。

主流派を推す一部のメディアの報道によると、議会対策に失敗した理由はバノンの傲慢な対応にあったとするプロパガンダまがいの記事が公定力を持って垂れ流されており、議会対策をしたいならバノンを主要ポストから外せ、という反対勢力の意思表示は明確であったように思われます。

したがって、同入国禁止を主導してきたバノンをNSC常任メンバーから外すことは、国内政局上の観点からトランプのコーク兄弟に対する恭順の意を示すものとも言えそうです。

以上のようにアサド政権への介入やNSCメンバーの変更は孤立主義から介入主義へとか、軍国主義化したとか、何も考えていないとか、そのような論調が論外であることはお分かり頂けたことでしょう。

以上のように、トランプ政権の行動を陰謀まがいの「バノン黒幕説」「クシュナー黒幕説」で説明することはナンセンスです。国内外の情勢を時系列で並べながら分析を加えていくことが重要です。


 本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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2017年04月08日

日経新聞・秋田浩之氏の「トランプ論」はデタラメ

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(国連安保理緊急会合でシリアで化学兵器の犠牲になった子どもの写真を掲げるニッキー・ヘイリー米国連大使)*ニューズウィークから写真引用

日経新聞のトランプ政権論評のデタラメぶりが際立つ

シリア攻撃、処方箋なき劇薬  コメンテーター 秋田浩之

という日経新聞の記事が掲載されました。この内容があまりにも事実誤認に基づくデタラメであるため、日経新聞のクオリティーペーパーとしての信頼性が揺らぐのではなかと驚きました。

しかし、秋田氏の名前を見て納得、以前にトランプが極右 !? 日経新聞へのエール(笑)でも書いたように、現地取材もろくにせずに伝聞と想像だけでトランプと共和党保守派をディスる文章を書いているのだから仕方がないかと思います。

話にならない事実無視、そして取材不足の論評

今回のシリア空軍基地へのトマホークによる攻撃について、同記事中では

<秋田>
こんな体制で強行された今回の攻撃は、長期の中東戦略を描き、満を持した末の行動のようにはみえない。

<事実>
⇒トランプ大統領は1月27日に軍備の即応体制を整備するように大統領覚書を発し、その翌日にはシリアとイラクのISISを一掃する大統領覚書にもサインしています。その結果としてマティス国防大臣から1か月後に中東における軍事計画がトランプ大統領に提出されており、イラクとシリアへの地上軍の派兵が小規模ながら進みつつあります。
⇒また、ダンフォード統合参謀本部議長とゲラシモフ参謀総長(ロシア)はアゼルバイジャンで事前に接触し、軍事機関同士のホットラインもできています。今回、米軍はロシア軍に対して事前に連絡していたのもこのためです。
⇒当然ですが、トマホークを積んだ艦船を思い付きで中東に配備しているわけでもなければ、何の計画もなくシリア空軍基地を攻撃することは有り得ません。

<秋田>
それでも、今回の行動は性急すぎると言わざるを得ない。正当な攻撃であることを証明するための事前の努力が、あまりにも足りないからだ。シリアが化学兵器を使ったのなら、国際法違反であり、人道的にも許されない。ならば、国連安全保障理事会に証拠を示し、少なくとも議論を交わすべきだった。

<事実>
⇒シリアでは2013年にアサド政権が化学兵器を使用しており、当時もオバマ大統領がレッドラインを越えたら軍事介入すると明言(しかし、ほぼ何もしなかった。)
⇒国連と化学兵器禁止機関(OPCW)の調査で、シリア軍が2014年と2015年に3度、化学兵器を使用していることは明らかになっている。(BBC
⇒2011年のシリア内線勃発以来、国連における非難決議は7回。(ロシア・中国が拒否権発動)直近は今年の2月28日。
⇒ニッキー・ヘイリー国連大使は国連安保理でサリンで倒れた子どもの写真を掲げて演説し、米英仏は化学兵器使用を批判し、真相究明に向けた調査に関する決議案を提出。(少なくとも議論は行われている。アサドを守るロシアが聞く耳を持たないのは前提)

<秋田>
この攻撃はさまざまな副作用も生みそうだ。まず考えられるのが、中ロによる一層の接近だ。両国には根深い不信感が横たわるが、米国に対抗するため、静かに枢軸を強めるだろう。

<事実>
⇒中国報道官が「冷静さと抑制した対応を維持し、情勢をさらに緊張させないよう求める」と述べ、シリアで猛毒のサリンとみられる化学兵器が使用されたとみられる空爆については「厳しく非難する」と述べ、 真相解明に向けて国連機関による独立した調査が必要だとの考えを示した。(産経新聞
⇒ロシアは化学兵器は反体制派が保有していたものであり、空爆の際にそれが飛散したものとしているため、中ロの立場は異なるものとなっています。米中首脳会談に被せたこともあり、中国の反応は極めて抑制的です。(ロイター

<秋田>
こうした問題を精査し、トランプ氏に進言できる側近は少ない。ティラーソン国務長官や、最側近の娘婿であるクシュナー上級顧問はビジネス界出身だ。2人を知る元米高官は「実務や交渉力は優れているが、外交経験はない。危機への対応力は未知数」と語る。

<事実>
⇒本件はマティス国防長官とマクマスターNSC議長主導のものであり、両氏ともに中東政策を専門とする戦略家です。また、キャスリーン・マクファーランド副補佐官も中東に強く、NSCに復帰したCIA長官のマイク・ポンぺオも中東問題に熱心な下院議員でした。
⇒ティラーソンやクシュナーは中東政策について一定の影響力はあるものの、この問題を精査し、トランプに進言できる側近が2名しかいない、というのは、トランプ政権に対してあまりに無知。

・・・とまさに、事実誤認と取材不足のオンパレード。中学生の文章かと思いました。

日本経済新聞は「偉い人」が書いたからといって駄文を掲載するな

日本経済新聞は「自社の偉い人」が書いた文章だからといって無批判に記事を掲載することは慎むべきです。少なくともジャーナリズムを名乗るのであれば、最低限思い込みではなくファクトベースで語る習慣を身に付けてほしいと思います。

日本のメディアも「トランプ政権」が誕生したことを受け入れて、リベラルの狼狽という醜態をさらし続けることをそろそろ恥ずかしい事だと認識するべきです。

日経新聞内にも当然事実について気が付いている人も多数おり、駄文を掲載することを読者に申し訳ないと思っている記者・編集者もいるはずです。しかし、筆者は自社の偉い人にすら抗議できないジャーナリストがジャーナリズムを守れるとは思いません。是非ジャーナリストとしての矜持を取り戻してほしいと思います。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2017年03月07日

トランプ「新大統領令」の真の狙いを検証する

新大統領令
<ロイターから引用>

トランプ大統領が「訴訟対策版・一時入国禁止に関する新大統領令」に署名

3月6日、トランプ大統領が1月27日に署名した旧大統領令を更新する新大統領令に署名しました。この大統領令の主な狙いは国内訴訟を回避するための修正を施すことにあるものと思われます。

トランプ大統領による旧大統領令は地裁・高裁で違憲判決を食らって執行停止状態となっていますが、そもそも米国大統領は入管規制を行う権限を形式上有していることは司法省が確認しています。

では、なぜ前回は違憲判決を受ける結果になったかというと、立法趣旨が宗教差別を認めない合衆国憲法に触れる、ということで違憲になったという経緯があります。つまり、形式上は問題ないけれども、選挙期間中の発言や旧大統領令中の規定からイスラム差別と読み取れるという判断が下されたわけです。

具体的には、旧大統領令中の、

・合衆国は暴力を振るう、憎悪する(名誉殺害、女性への暴力、自らと異なる宗教を実践する人々への迫害)、または人種、性別、性的指向を侮蔑する人々を認めない。

という文言と、

・迫害を受けている少数派の宗教を信じる難民は優先的に受入れいる、

という方針がセットになって、トランプ政権はイスラム教徒とは一言も名指していませんが、

「これはイスラム教が多数派を占める国を対象とした入国制限であり、宗教差別で違憲だ!」という論理構成を立てられて、裁判闘争でトランプ政権は民主党側に一本取られる形となりました。

実際には旧大統領令の入国禁止国は元々オバマ政権時代からのテロリスト渡航防止法の対象国であり、全イスラム人口に占める割合も高くないために、完全に油断していたトランプ政権は自らの支持基盤であるキリスト教団体らの意向を不用意に反映し過ぎてしまったと言えるでしょう。(イスラム教国でキリスト教徒が迫害されているという国際的なキリスト教団体などのレポートが影響したと考えます。)

ちなみに、民主党側の狙いは「最高裁での違憲訴訟勝利」⇒「連邦議会への大統領弾劾」だったと思いますが、政治的な危険を察知したトランプ政権が方針転換を実施し、今回の大統領令からは上記の趣旨が消えたことで、民主党側は思惑通りに物事を進めることが難しくなりました。

新大統領令の狙いは「シリアへの地上軍の派兵」であると推測する

筆者は以前からトランプの一時入国禁止の大統領令は「シリアへの地上軍の派兵」に向けた予防的措置であるという仮説を主張しています。

入国禁止措置でトランプの頭がおかしくなったと思う貴方へ(2017年1月31日)
トランプ側に立って入国禁止の合理性を検証する(2017年2月4日)

今回の大統領令からはイラクが対象から外れることになりましたが、イラク政府のアバディ首相は先月にペンス副大統領とミュンヘン安全保障会議で面会した際に、イラクを大統領令の対象から外すように求めていました。ペンス大統領はイラク政府の対ISISへの協力を高く評価しています。(マティス国防長官も現地司令官とは常に情報のやり取りを行っており、対ISISで共闘するイラク政府からの要求を断ることは難しかったものと思われます。)

注目すべき点はこの大統領令は「対ISISの文脈で対象国が変わる大統領令」だということです。そして、現実は筆者の仮説が想定している方向に動き始めています。

以前のブログでも触れた通り、旧大統領令が発された翌日1月28日にトランプ大統領はシリアとイラクのISISを掃討する大統領覚書を発しており、国防長官及び関係省庁は30日以内に詳細なプランを提出するように求められています。

その結果として、

More US Troops May Be Needed Against ISIS in Syria, a Top general says(2月22日、NYT)
Pentagon delivers plan to speed up fight against Islamic State that may boost US troop presence in Syria(2月27日、CNBC)

など、最近ではシリアへの地上軍派兵の可能性が米国メディアを賑わせる状況となっています。今回の大統領令がISISへの軍事的な協力を勘案して対象国が選ばれている(イラクが外れただけでなくサウジも外れている)ことから、入国禁止措置の一側面が対ISISの軍事行動と連動していることが一層示唆される状況となっています。

ちなみに、シリアに安全地帯を設ける構想については既にトランプ大統領との電話会談でサウジアラビアとUAEが賛成しており、ヨルダン国王もトランプ・ペンスとの面談時に協議している状況です。トランプ大統領の電話会談も基本的には中東諸国が中心であり、安倍首相とのゴルフ日程日にも中東諸国の元首達と対ISISの文脈で電話会談を行っていました。

現在メディアにアナウンスされ始めているトランプ政権の軍拡(年間10%増)は約5兆円程度であり、シリアに安全地帯を設置するためにかかるコスト(およそ年間1兆円超)は賄えるものと思われます。

トランプ政権の政策の本質を知るには背景情報を整理することが必要となる

トランプ政権の政策の本質を知るためには、トランプ政権の支持基盤がどのような人々であるかを確認することが必要です。これは政策のタマが出てくる大前提を理解することであり、外国政府の動向をチェックする上で基本的なことです。

その上で、大統領令・大統領覚書・議会署名、政権人事・要人面談、などの動きを丁寧に追って、政権の動向に関する仮説を構築して、現実の流れの中で検証を試みていくことが重要です。これは政策の推移を把握していくために必要な作業であり、ある程度の精度を持った予測を行うためには必須の作業です。

巷には有識者と呼ばれる学者先生が大量に溢れかえっていますが、あの人たちは絶対にトランプ政権の動向をしっかりとチェックしているとは言い難く、いい加減な抽象論ばかりが世の中に溢れかえっています。

今回の新大統領令もイラクが対象から外れたという表面的な事象ばかりが報道・解説されていますが、その背景には何があるのか、トランプ政権の行動をじっくりと吟味することが必要です。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07





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2016年01月21日

サウジアラビア・一面銀世界、「中東の冬」に突入へ

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https://twitter.com/Globe_Pics/status/688017056424407041/photo/1

サウジアラビアに85年ぶりに大規模な「雪」が降ったとのこと

サウジアラビアの報道Press Digitalでサウジアラビアに85年ぶりに雪が降ったそうで
す。http://www.pressdigitaljapan.es/texto-diario/mostrar/395676/85

実際には、サウジアラビアでは雪が局地的には降ることがあるので、今回の「雪が降った」という報道は記録的な大雪がサウジアラビア全域で降ったという意味なのかなーと思っています。

砂漠の国が一面銀世界に染まる幻想的な光景は、中東地域に迫る大きな変革の予兆とも言えるでしょう。

原油価格下落でサウジアラビアの懐が寒くなっている?

サウジアラビアは軍事費の拡大と原油価格の低迷のダブルパンチで財政がグロッキー寸前です。

年明けからイランの原油が市場に流れ込んできた影響もあり、頼みの原油価格は更に下落の一報を続けています。そのため、IMFによると、サウジアラビアの歳出に必要な金融資産は5年以内に枯渇すると言われています。

厳しい環境変化を受けて、サウジアラビアの副皇太子はエコノミストとのインタビューの中で、5%の付加価値税(甘いもの・たばこへの悪行税)、空地への課税強化、ガソリン・電気水道の値上げ、民営化(国民の3分の2を雇用する国営企業解体、20以上の基幹国営産業の民営化)という対策を語っています。GDPの半分・歳入80%を生み出す石油産業が低迷はサウジアラビアの政治経済体制に大きな変更を及ぼすものと推測されます。
 
なお、IMFは湾岸協力会議加盟のバーレーンとオマーンも財政的に危機的な状況に陥ると予測しており、原油価格の下落は中東全域に大きなインパクトを与えることになるでしょう。

果たして「中東の冬」が明けて「中東の春」は訪れるのか

サウジアラビアでは、国内のシーア派指導者を処刑したことから、年明けにカティーフなどの東部の石油地帯において大規模な暴動が発生しました。これらのその後の顛末は承知していませんが、国内に不満が鬱積していることは間違いないでしょう。

アラブの春では多くの民主主義政権が誕生することになりました(その後失敗したものも多かったですが・・・)が、原油価格下落による「中東の冬」の時代は民主化という「中東の春」への道なのかもしれません。

ただし、上記のようなサウジアラビアの急進的な改革が本当に実行された場合、それらは旧ソ連がロシアへの移行過程で経験したような一部の新興財閥による腐敗、汚職、経済混乱をもたらすことになるでしょう。そのため、中東の民が歩む中東の春への道のりは厳しいものになることが予想されます。

日本は原油の大部分を中東に依存している危機的状況を回避し、今後は対外輸出を開始する米国や中東以外の産油国であるロシア・カナダなどとのエネルギー面での関係強化が必要となると思います。



スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19




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2016年01月04日

サウジアラビアのカティーフで暴動、中東動乱発生か?(動画)

無題

昨年末に記事にした「2016年に起きる世界的なリスクの可能性を展望する」で指摘した通り、まずはサウジアラビアで暴動が発生しています。今後、サウジアラビアの東部が急速に不安定化していくものと思います。

筆者は記事中で、

(6)サウジアラビア危機と中東の動乱化
原油価格の低下によってスンニ派の盟主であるサウジアラビアの政治経済体制に綻びが生じつつあります。王政の代替わりによって発生した権力の集中問題も問題を複雑化させています。特にサウジアラビアの東部では民主化圧力も高まりつつあり、政治体制の安定性に懸念が生じています。

と指摘しましたが、まさに予想した通りの状況が発生しています。

サウジアラビアの東部カティーフで発生した暴動の様子

サウジアラビアでの革命の様子を伝えるTwitterの投稿(1月3日)・動画

政府の車両が火炎瓶を投げつけられて大炎上している状況がTwiiterで中継されています。おそらくシーア派教徒が年明け早々に処刑されたことに関係した暴動の発生ということになります。

サウジアラビアは東部地域に油田を抱えていますが、同地域はシーア派教徒が多く居住しているエリアです。東部地域では度々民主化を求める活動が発生していましたが、今回はかなり大規模な暴動が発生しているようです。

東部地域は国営石油会社サウジ・アラムコの本社を置くダーランがあり、周辺には暴動が発生しているカティ―フも含めた油田が大量に存在しています。同地域の治安の安定にはサウジアラビア政府も注力していますが、スンニ派支配であるためにシーア派住民の不満はかなり溜まっていたと考えるべきでしょう。

暴動がどこまで拡大するのか、事態の推移を見守ることが必要

シリア・イラクが不安定化している状態でサウジアラビアが混乱に陥ることは中東が取り返しのつかない動乱状態になることを意味しています。

アベノミクスの影響も含めて円安となっている日本は世界的な原油価格の低迷で首の皮を繋いでいる状態ですが、サウジアラビアの混乱は原油価格の上昇に反映されてくることになるでしょう。異次元緩和などの無茶な政策を実行している日本の状況はかなり危険であり、ロシアや北米などのエネルギーの入手経路の多様化などの手を今からでも整えることが必要です。

上記のTwitterの投稿者にも思想的な偏りがありますので投稿内容は割り引いてみる必要もありますが、サウジアラビアの体制が永続すると考えることは難しく、中東からのエネルギー供給の比重を一層下げていくための政策を実行していくことが望ましいと言えるでしょう。




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2015年12月31日

2016年に起きる世界的なリスクの可能性を展望する

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2015年も大晦日を迎えたため、2016年の世界情勢について展望して新年に突入したいと思います。特に来年に危機が高まるであろう国際政治の要素を10個ほどまとめてみました。

<東アジア・東南アジア>

(1)中台関係の悪化

来年1月の台湾の総統選挙において、与党・国民党の朱立倫氏、野党・民進党の蔡英文女史の争いは後者の勝利となり、焦点は民進党の立法委員選挙での過半数確保に移っています。馬英九政権がシンガポールで行った中台の首脳の接触など中国傾斜を深める中で、今年夏に訪米した際に穏健化を主張した台独派民進党の蔡英文女史の支持が広がった形です。

民進党政権でも中国との関係が急速に悪化するということは無いと思いますが、米国の東アジアの安全保障の専門家の中には中国の南シナ海への進出は偽装であり、本丸は台湾海峡にあるという意見も根強く存在しています。そして、実際に中国にとっての真剣な脅威は民主主義・台湾であり、軍事大国化した中国の核心的な利益に触れる問題は台湾海峡によって発生する可能性が高いものと思います。

(2)北朝鮮の政治混乱

米国世論調査でも北朝鮮問題は中東のISの次に来るほどの危機として認識されており、日本人にとっては常態化した北朝鮮の異常な行動も世界から見ると深刻な脅威として認識され続けています。日韓の慰安婦問題についての「最終的かつ不可逆的な合意」も米国が北朝鮮情勢について深刻な懸念を持っていることの裏返しであり、2016年党大会における新方針など同国の動きは注目し続ける必要があります。

特に同国内における中国の経済的な影響力が強まる反面、同国に対する北朝鮮の国粋派による反感が強まって大国による制御不能な状況に陥ることが懸念されます。金正日体制からの体制移行後による粛清の嵐によって政権内の一体感が弱まっていることも政治混乱の引き金になる可能性があります。

(3)日本の対中包囲政策

安倍政権誕生以来、日本はセキュリティーダイヤモンド構想などの対中包囲網を敷く外交方針を継続してきました。その結果として、米国には米国議会演説・安倍談話・安保法制、韓国には慰安婦問題の妥協、インドやオーストラリアとの軍事交流強化、南シナ海問題でのASEAN各国との連携強化、中央アジア・東南アジアへの大型の円借款、ロシアへの北方領土問題のアプローチなどが進んでいます。

その結果として、安倍政権は対中政策について強いポジションを持てる国際環境が形成されつつあり、日中両国の間で何らかの小規模な紛争が発生する可能性が増しています。日本にとって外交安全保障関係が強化されることは望ましいことですが、それによるリスクも同時に高まっていることも認識されるべきです。

(4)中国経済の国際化に伴う懸念

IMFのSDRに元が採用されたことなど、中国経済の規模拡大に合わせて国際化は急速に進みつつあります。しかし、中国の国内経済は新常態と呼ばれる中成長状況に減速し、シャドーバンキングなどによる不良債権問題は依然として片付いておらず、中国経済に致命傷を与える問題は臭いものに蓋をしたままです。

中国経済が国際化することは、昨年のバブル崩壊時に見せたような証券市場への強権的な対応などに対し、国際的なルールに従うことを求める圧力がかかることになり、政治力による金融・資本市場への統制に綻びが生じる可能性があります。経済混乱の結果として、中国の政治体制への影響や日本経済への影響も懸念されます。

<中東・中央アジア>

(5)ISの世界的な拡散に伴う危機

米国におけるホームグロウン・テロのようにSNSネットワークを通じた個人のテロリスト化はISの世界的な拡散の一つの事例となりました。また、IS占領地に存在していた大量の白紙のパスポート及びパスポート製造機によって世界中へのテロリストへの自由な移動を確保する実態が生まれています。ISの機関紙を見る限りでは日本への関心も高まっており、伊勢志摩のサミットなども厳重な警戒が求められます。

従来までは水際対策を講じられてきたテロリストへの対策が事実上不可能になる中で、各国政府は国内のリアル・ネット上のセキュリティーの強化を行う必要に迫られています。しかし、それは同時に欧米先進国で守られている人々の自由に対する侵害行為であり、自由を基調とする欧米先進国にとって社会的な自由が後退することはそれ自体が敗北であるというジレンマが生じています。

(6)サウジアラビア危機と中東の動乱化

原油価格の低下によってスンニ派の盟主であるサウジアラビアの政治経済体制に綻びが生じつつあります。王政の代替わりによって発生した権力の集中問題も問題を複雑化させています。特にサウジアラビアの東部では民主化圧力も高まりつつあり、政治体制の安定性に懸念が生じています。

また、イエメン隣接地域における反政府勢力との戦闘における敗北など、王政に忠誠を誓う軍隊の脆弱さが露呈しており、ISやアルカイダがイエメンで勢力を拡大し、中東全体ではイランが主導権を握らんとまい進する中で、サウジアラビアの安全保障面・治安面での危機が強まりつつあります。しかも、原油価格低下と終わりなきイエメンでの戦争により、サウジの16年度予算は10.5兆円の赤字となり、補助金見直しや付加価値税導入を検討する有様です。

バラマキ政策が限界をむかえつつあり、隣国との戦争が泥沼化し、国民と王族内の不満が高まりつつあるサウジアラビア。この国が混乱に陥った場合、中東地域は収拾不能な動乱に陥ることになります。そして、それは我が国が石油の三割を輸入している国を喪うと言う事を意味しているのです。

(7)中央アジアのIS化の可能性
 
タジキスタンの行方不明になっていた治安警察のテロ担当司令官がISの一員として同国大統領に宣戦布告のメッセージを伝えるなど、中東地域での激しい戦闘から逃れたIS勢力が中央アジアで新たな勢力を築く可能性が出てきています。

また、ISは9月に中国人の誘拐・殺害を行った上で、新疆ウイグル自治区に戦闘員を帰還させて蜂起を促すなど、同地域の不安定化に力を注いでいます。中国側が同自治区への弾圧を強化するほどIS側は勢いづくことは間違いなくイタチごっこの状況です。

中央アジアの不安定化に対応するため、対テロ戦争に中国が本格的に関与することが求められるようになり、国際政治の基本的な構図に変化を及ぼす可能性があります。

<欧米>

 (8)米国の指導力の低下

2016年は米国大統領選挙の年であり、レイムダック化したオバマ大統領の外交指導力が低下するため、大規模な国際環境への変化への米国の対応力が低下します。米国は既に世界の警察官としての役割を放棄し、世界中で頻発する問題に選択的介入を行う十分な能力を持っていない状況です。

米国大統領選挙は内向き志向を強める候補者らと対外関与の必要性を訴える候補者の路線闘争の状況を呈してきておりますが、オバマ大統領ではなくとも今後の指導力の低下は避けられないものと思われます。米国の同盟国は自国の外交・安全保障の在り方について再検討を行う必要性が生じています。

(9)欧州分裂・移民問題の危機 
 
人道上・経済上の問題から継続・拡大されてきた移民問題が深刻化しています。特にフランスの同時多発テロやシリア難民の増加は各国の右派政党の台頭に繋がっており排外主義の台頭が起きています。また、イギリスがEU離脱の国民投票を行う旨を発表するなど、EUの屋台骨自体が危機にさらされつつあります。

欧州は充実した社会保障制度を持っているために、自国民への社会保障を維持するために新たに受け入れる移民への反感が強まっているという、ケイジアン的な発想による新しい排外主義の形が出現しています。EU分裂や移民問題の危機は、政治経済体制の新しいパラダイムを見出す上で注目に値します。

(10)サイバー空間における攻撃の深刻化
 
サイバー空間における米中の摩擦が深刻化しており、実質的な紛争状態になりつつあります。特に、米国共和党は中国からのサイバー攻撃に非常に大きな懸念を示しており、共和党が大統領選挙に勝利することになれば同問題は大きな外交テーマとして取り上げられていくことになるでしょう。

また、日本はアノニマスによって厚生労働省や首相HPがダウンさせられるなど、サイバーセキュリティー環境が極めて脆弱であり、来年の伊勢志摩サミットに際して何らかのサイバーセキュリティー上の問題が発生する可能性が高く、セキュリティー体制の早急な強化が必要です。今後は、大規模な国際会議などの開催国の要件としてサイバーセキュリティーへの対応力などが一層求められることになるでしょう。





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yuyawatase at 13:12|PermalinkComments(0)

2015年11月25日

トルコ軍機がロシア軍機を撃墜、どうなってしまうのか

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トルコ軍がロシア軍機を墜落させた場所、領土をちょっとカスッただけだった

11月24日トルコ軍が領空侵犯したロシア軍機を撃ち落としたようですが、上の地図の飛行経路から見るに明らかにトルコを攻撃するような意図はなかったように見えます。

トルコ軍は10回以上警告したと主張しているようですが、それにしても「無理やり撃ち落とした」感は結構強いなという印象を受けます。

一旦まとまりかけたフランスとロシアの方向性ですが、本件を通じてNATOとロシアの対立が生じる可能性があり、振り出しに戻りそうな雰囲気を漂わせています。

ロシアとトルコの関係悪化は中東の不安定化を促進することに

シリア情勢は極めて複雑な状況であり、ロシア軍の情け容赦ない打撃が展開されることで状況が動くかもしれないと思ったところで、今回のトルコ軍の突然の横やりは相当事態を混乱させることになるでしょう。

アサド政権の維持で動き始めたロシアとフランスに対し、アサド政権を好ましく思っていないトルコによるアサド政権継続を望んでいないという意思表示なのかもしれません。

ロシアはトルコをテロリストの手先と激しく非難しており、今後はトルコに対してエネルギーの制裁などを実施する可能性があります。ロシアとトルコの間で検討されているパイプライン構想も暗礁に乗り上げそうです。

日本は目立たない形で対応し、国連安保理常任理事国に任せるべき

単純なシリア領内・対テロ戦争だけの話ではなくなり、先進国間の軍事対立の可能性が出て来た以上、日本はこれ以上シリアに深入りすることは避けるべきだと思います。

国際情勢の不安定化への対処は、国連安保理の常任理事国に任せるべきであり、既に爆撃を開始している米ロ仏、爆撃予定の英、そしてほぼ沈黙している中国にしっかりとした対応を促すべきです。

特に中国に関しては国連安保理常任理事国中の唯一のアジアの国として、中東へのアジアから常任理事国としての対応をしっかりと果たすことを求めていくべきでしょう。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07




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yuyawatase at 12:00|PermalinkComments(0)

2015年11月19日

対イスラム国、安保理常任理事国・中国に責任を果たさせよ


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(ノルウェーでIS(イスラム国)によって誘拐された中国人、拘束されて身代金を要求されている)

シリアに蔓延るISの暴挙に対して、既に国連安保理常任理事国のうち、米国、フランス、ロシア(英も参加予定)が大規模な空爆を実施するようになっています。ISのテロ行為は世界中に拡大しており、世界全体の秩序にとって脅威となっています。 そのような中で常任理事国である中国はISに対して何ら対応を示そうとしておらず、極めて無責任な対応を行っています。

ISを世界の脅威として国連の多国籍軍が殲滅するべきである

欧州連合はブリュッセルで開催した国防相理事会でフランス政府が求めたEU基本条約に基づく集団的自衛権の行使について全会一致で支援を表明しました。フランスがISによるテロ行為の対象となった以上、当面の対応としては妥当であると思います。

しかし、ISは既に世界の脅威となっている以上、本来は集団的自衛権の対象としてではなく、国連による集団的安全保障の対象とし、国際社会が連合してISの殲滅に取り組むべきです。各国バラバラの空爆は必ずしもIS殲滅という目的を果たすことに繋がらず、全体の目標を定めた一致団結が必要です。

そのため、特定の国による対応ではなく全世界的な枠組みの中でISを殲滅することを宣言し、国際社会全体の大義を持ってISをシリア・イラクから殲滅することが望ましいものと思います。ISの蛮行は国連安保理に付託して決議を得るために十分な内容を伴っています。

国連安保理常任理事国としての「中国」の責任を問うべきである

既に中国以外の安保理常任理事国はISに対する戦闘に突入しており、中華人民共和国も現在の国際秩序の維持を担う国連の常任理事国としてISへの軍事行動を起こすべきです。

中国も2015年9月にISによって自国民が拘束された状況にあり、現実にISによる蛮行の被害が発生しています。そのため、直接的に軍事力を行使することも出来ると思いますが、責任ある大国として是非国連安保理常任理事国の全会一致の決議を出すことに賛同してほしいと思います。

今年9月に行っていた軍事パレードが世界の平和を維持するためのものであり、第二次世界大戦の戦勝国として世界の秩序を維持する責任を持つと自認するなら、中国は自ら安保理でISに対する集団的安全保障の行使の決議を発議するべきです。

その際には、200万人を超える中国人民解放軍が有する屈強な地上兵力を投入し、非欧米唯一の安保理常任理事国としてアジアの安定に貢献することが望まれます。中国は常任理事国として国際社会に対する義務と責任があります。

中国は安保理常任理事国の責任を果たさないなら地位を退くべき

日本は国連安保理の非常任理事国として、常任理事国・非常任理事国の調整を図り、国際社会全体での対ISに関する決議が採択されるように努力するべきです。

特にISに対する態度が煮え切らない中国が断固たる対応を実行するよう、アジアから選出されている非常任理事国として強くプッシュすることが望まれます。仮に中国がISに対する決議に拒否権を行使するようであれば、その場で中国の国連安保理の常任理事国からの追放を提起するべきです。

国際連合憲章には、

第24条

1 国際連合の迅速且つ有効な行動を確保するために、国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせるものとし、且つ、安全保障理事会がこの責任に基く義務を果すに当って加盟国に代って行動することに同意する。
 
2 前記の義務を果すに当たっては、安全保障理事会は、国際連合の目的及び原則に従って行動しなければならない。この義務を果たすために安全保障理事会に与えられる特定の権限は、第6章、第7章、第8章及び第12章で定める。

と定められています。中国には「国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任」が存在し、他の常任理事国がシリアでISと戦っている姿を横で眺めているわけにはいかないはずです。

今こそ、中国は国連安保理常任理事国に籍を置く真価が問われるときです。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07




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yuyawatase at 07:00|PermalinkComments(0)

2015年11月14日

私がフランス大使館前で献花した5つの理由

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(写真はフランス大使館前、カメラ光は大使館前で取材中の大手メディアのものです。)

2015年11月14日午後6時、私はパリで同時多発的に発生したテロの犠牲者への哀悼の意を捧げるべく、フランス大使館前に献花を行いました。一市民である自分が何故このようなことを行ったのか、下記に5つの理由を述べさせていただきます。

(1)犠牲者への哀悼の意を捧げること

今回のテロでお亡くなりになられた皆様への哀悼の意を、フランスの方々に日本人として直接何らかの形で示したかったからです。

私自身も海外に出かけることも多く、フランスにも一昨年訪れた経験があり、パリにも友人や知人も住んでいます。平和に暮らす人々が突然命を奪われたことに強い怒りを覚えつつ、その犠牲者となられた皆様への思いを表現させて頂きました。

(2)自由社会への挑戦であるテロに屈してはならないこと

テロは私たちの社会を構成する「自由」という価値観を脅かし、理不尽な暴力で生命・財産を奪う行為です。

自由と民主主義を標榜する日本人として私たちの社会を構成する価値観への挑戦に対して屈さない意志を示す必要があります。そのため、遠く離れたフランスの地にいる自由と平和を愛する仲間への連帯の意志を示させて頂きました。

(3)国会議員・地方議員のFBやTwitter配信内容に義憤を感じたこと

本来であれば、犠牲者への哀悼の意やテロに屈さない意志は、国会議員などの皆さまが強い決意を持って意見表明されるべきだと感じています。なぜなら、これはテロリストと私たちの社会の「価値観」の衝突だからです。

しかし、私が、FB、Twitter、報道を見ている限り、誰一人として自らの行動としてフランス大使館まで出向いて連帯の意志を示そうという方がいませんでした。既に公務がある場合や地元で予定があることは理解しますが、このような時に国際社会に日本人の代表として意思表明(価値観を表明する)をせずに一体いつ行うのでしょうか。

日本の国会議員のあり方に義憤を感じ、私自身も夕刻以降の予定はキャンセルし、フランス大使館前に向かわせて頂きました。正直申し上げまして、私の微力な行為がどれだけ意味があるかは分かりませんが、この理由が最も大きな理由です。

(4)TVメディアの報道内容を論じるよりもメッセージの発信が大事だということ

テロの第一報が入って以来、ネット上は平常運転でくだらない内容を流し続けるTVの報道内容の是非の話題で盛り上がっていたように思います。しかし、TVが社会の木鐸としての役割を放棄するなら彼らは勝手に廃れて滅んでいけば良いだけのことです。

そのような不毛なメディアについて是非を論じるよりも、まず優先事項として、日本人としての態度、そして自由を標榜する諸国との連帯する意志を示すべきだと感じました。だから、報道に対する受け手の姿勢ではなく、自らが主体的に動こうと思ったことも動機の一つです。

(5)国内の反動勢力の言論へのアンチテーゼを示したかったこと

このような事件が起きた後、国内ではこれに乗じて警備の強化などを名目として、国民の自由を制限する意見が多数出てくることになるでしょう。

私はテロリストには断固たる対応を行うべきだと思っています。しかし、明確に申し上げますが、「テロと戦うこと」と「国民の自由を制限すること」は全く異なる行為です。むしろ、国民の自由を制限する行為は、私たちの社会の価値観を放棄し、テロリストに対して譲歩するということを意味します。

テロリストにとっては世界中を半戦争状態とし、私たちの社会から自由の価値観を奪うことが政治的な勝利なのです。たとえ、テロリストを全員捕らえて罰したとしても、私たちの自由が社会から無くなっていれば私たちの負けなのです。

この場を借りて、私たちの社会の内部から現われる「自由の価値観を放棄しよう」という声に対して明確に抗する意志を述べさせて頂きます。

最後に、多くの日本人にフランスで自由のために戦う人々を精神的に支える表明をしてほしい、と思います。この戦いは自由の価値観に対する戦いであり、私たちが連帯の意志を示すことが最も有効なテロへの対抗手段となります。

テロリストの暴力では私たちの社会を変えることはできません。私たち自身が自由を放棄したときにテロリストが勝利することになるのです。この戦いは既にフランスだけでなく日本でも始まっているのです。





 

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yuyawatase at 20:59|PermalinkComments(0)