書籍紹介

2016年01月10日

書籍紹介(3)コトラー世界都市間競争

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マーケティングの大家、フィリップ・コトラーの最新の都市経営論

フィリップ・コトラーと言えばマーケティングの大家として知られる人物ですが、都市経営者向けのマーケティング論をまとめた一冊が日本語で発売されています。

本書の内容は「頭の中が凝り固まった日本人」のために書かれたような内容です。特に豊富なデータに支えられたシャープな議論は、日本の針路に関するモヤを打ち払った上で、現在の日本の政策とは180度異なる角度からの処方箋をもたらしてくれます。

一国単位で成長を考える古い発想から都市単位で成長を考える新しい時代へ

本書では世界の付加価値生産額(GWP)の90%が上位8000社の多国籍企業によって生み出されており、GWPの40%が上位100都市によって生み出されているという現実が指摘されています。

その上で国民国家単位で考えることが間違っており、これからの経済成長は都市と多国籍企業の取引の中で決定されていくという経済成長論が述べられています。

そして、経済成長による豊かさの恩恵を確保するためには都市を発展させていくことが重要であり、そのための基本的な視座が提供されています。

多国籍企業を積極的に受け入れて中産層を創出する戦略を採用する

また、先進国で消えゆく中産層は多国籍企業の本店・支店・研究所が立地することによって創出されるクラスであることが指摘されており、多国籍企業が先進国の都市から成長著しい新興国の都市に投資を移転させていることで、新たに新興国に中産層が生まれています。

先進国の都市経営者も自らの都市の経済成長・雇用増加を実現していくために、どのような多国籍企業を自らの都市に受け入れていくことが可能かつ望ましいのかについて真剣に検討する必要があります。TPPなどの外資からの投資受け入れ環境の重要性を学ぶことができるはずです。

格差の拡大を嘆くだけの愚かな思想を捨て去り、責任ある都市経営者には具体的な施策を現実に実行していくことが求められます。

「日本」という枠組みで閉塞化した「東京人」を救う必読の一冊

少子高齢化という未来を抱えた日本全体に明るい展望を持つことは難しい状況にあります。しかし、本書の内容を踏まえて東京を中心とした都市圏への重点的な投資によって難局を乗り切る可能性を見出すことができるでしょう。

是非、東京都内の政治家・有権者には本書を手に取って読んでみてほしいと思います。また、「東京税」(地方交付税など)を正当化している国会議員らには、その政策の継続が地方の没落にも直結していることを学ぶべきでしょう。




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yuyawatase at 12:00|PermalinkComments(0)

2015年12月22日

書籍紹介(2)「当確師」真山仁、選挙版・ハゲタカ!

当確師
真山 仁
中央公論新社
2015-12-18



「選挙版ハゲタカ」、全580回話の連載、市長選挙を描いた選挙小説の決定版


真山仁さんと言えば、NHKドラマとして大ヒットを記録した「ハゲタカ」の著者として知られています。ハゲタカは経済小説として緻密さ、アッと驚く展開、そして濃いキャラクターという3拍子揃った作品でした。

その真山氏が経済小説ではなく選挙小説の領域に「タカ」のごとく挑戦した作品が「当確師」です。選挙では一般的に「当確」とは選挙報道で開票直後に目にする「当選確実」報道のことを指しますが、その当確が確実に出るように選挙の帰趨を決めてしまう選挙プランナー「当確師」聖達磨が主人公の物語です。

「政治家が主人公ではない」という独特のキャラクター設定の政治小説

米国では選挙のプランニングは一般的に行われているものであり、世論調査、争点設計、組織整備、広報担当、WEB担当、その他諸々の専門家が協力して一つの選挙を組み上げていくことが一般的です。

日本では公職選挙法の不毛な壁によって民主主義が未成熟な段階にあるため、従来までは元秘書などの経験則によるインフォーマルな助言などが細々と行われている状態でした。しかし、現在では選挙プランナーの第一人者として有名な三浦博さんや若い腕利きのプランナーである松田馨さんのような方々も増えてきており、政治業界自体に新風が吹きこまれている環境にあります。

法整備の不足などから難しい問題があるため、実際の動きは限定的にならざるを得ないものの、政治活動に科学的な手法が浸透してきていることを喜ばしいことです。そして、そのような選挙プランナーの様々な側面をエンターテイメントとして描いた作品が本作となります。

テレビドラマ化される可能性もあるのでは?、「ハゲタカ」のスリリングな展開は健在

本作はテレビドラマ化される可能性もありそうと睨んでおります。それは読み物として非常にスリリングかつ「濃い」キャラクターの面々が登場するからです。「この役は誰がやるのかな」と思うとこも多々あり、配役を考えながら読み進めてみるのも面白いかもしれません。

個人的には「デモで民主主義は守れない」の売り文句に大いに賛意を示したいと思っています。民主主義とは投票してナンボの世界なので、その現実を真正面から描いた本作は、真山仁さんから国民への「民主主義とは何か」という問題提起とも言えるでしょう。

本作以降のシリーズ連載に向けて是非ともヒットしてほしい作品です。アマゾンや本屋さんで見かけたらぜひ手に取ってみてください。インパクトがある表紙が目印なので分かりやすいと思います。

当確師
真山 仁
中央公論新社
2015-12-18



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yuyawatase at 21:37|PermalinkComments(0)

書籍紹介(1)「スーパーパワー」イアン・ブレマー

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スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19


米国の未来を知るために必読の一冊となる本

米国の著名な外交評論家であるイアン・ブレマー氏の最新の著作です。

1998年僅か28歳で世界をリードする地政学リスクを評価するシンクタンクを創設し、度々日本にも来日して首相などへのアドバイザーを務める凄腕のコンサルタントです。私も過去に彼が考案した世界的な政治リスク指標であるGPRIを拝見させていただき非常に感銘を受けた思い出があります。

本書は今年5月に発刊された最新著作の日本語訳であり、多極化した世界であるGゼロの中で、米国はどのように振舞うべきなのか、世界と米国の現実を知ることができる必読の一冊となっています。

日本人の対米イメージの先入観が一掃されることになる内容

日本人は米国が対外関与を続けることを前提に世界像を描いていますが、イアン・ブレマー氏は本書の中で下記の3つの米国像をこれからの選択肢として提示しています。

1. 「独立するアメリカ」……国益を優先し、安全と自由を確保する
2. 「マネーボール・アメリカ」……自国の評価を上げ、国益も守る
3. 「必要不可欠なアメリカ」……アメリカ、そして世界を主導する

そして、多極化した世界に米国が関与しても狙った結果を引き出すことが難しいという事態の中で、衝撃的なことに1の独立するアメリカ、つまり3の世界の警察官も辞めて、2の現在の姿も放棄し、完全に自国中心の米国という選択が有力視されているのです。
 
大統領選挙でトランプやサンダースが台頭する雰囲気を知ることができる

来年は米国大統領選挙ですが、自国中心主義のトランプ氏やサンダース氏が台頭している背景が浮かび上がってくる良書だと思います。

特に、トランプ氏やティーパーティーに外交政策が無い、と考えている人は同書を手に取って読んでみれば、自分の先入観を捨てた現在・未来の米国の外交の方向性を知ることができるでしょう。

日本人としてはあまり信じたくない方向かもしれませんが、興味がある人は是非手に取って読まれてみてはいかがでしょうか。

スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19



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yuyawatase at 07:40|PermalinkComments(0)