社会問題

2017年01月11日

トランプTwitter、経団連会長は民主主義を知らない

ダウンロード

経団連会長の「ツイッターは政策発表の場でない」の時代錯誤

経団連の榊原定征会長は10日午後の記者会見で、トランプ次期米大統領がトヨタ自動車のメキシコ新工場の建設をツイッターで非難したことについて「ツイッターは一個人、私人のつぶやきであり、大統領の政策発表ではない」との見方を示した。(日経新聞2017年1月10日)

とのことです。経団連会長のおっしゃる意味を分からないでもないですが、トランプ氏への理解を根本的に欠いている、というよりも民主主義を理解できていないと思います。

現在トランプ氏は主流派メディアと対立している上に大統領就任前なのでTwitterでの情報発信に頼らざるを得ないという側面がありますが、だからこそTwitter上での発言を軽視することは時代錯誤です。

トランプ氏のTwitterは約2000万のフォロワーを抱えています。大統領に選出された人物が国民に直接声を届けることができるメディアの価値を正しく認識するべきです。

Twitterは民主主義の新たなメディアとして認知されるべき
 
トランプ氏は民主主義によって選ばれた大統領です。そして、彼の選挙の勝利に際して、Twitterによる支持者への訴えかけが非常に効果的な役割を果たしたことは明らかでした。そして、現在では主流派のメディアもトランプ氏のTwitterの後追い報道に終始しています。

トランプ氏には約6300万人以上の米国市民が投票しており、トランプ氏のTwitterはトランプ氏一個人の発言と見ることは間違っています。トランプ氏の意向は多くのトランプ氏に投票した人々の声でもあると理解することは米国という民主主義国を理解する上で重要な視点です。

たとえば、トヨタがトランプ氏のTwitterを意図的に軽視したり不快感を示した場合、おそらく共和党支持者が主要な顧客であるトヨタのピックアップトラックなどは一瞬で不買運動に巻き込まれる可能性があります。米国企業も同様であり、フォードなどが米国国内に工場を回帰させることはリスク回避策として妥当です。

メキシコに立地する工場に高関税をかけることは実質的に困難だと思いますが、それらの発言を通じて米国の巨大な市場を利用した事実上の経済政策としてのメッセージを発することが可能なのです。

そして、それらの米国の消費者が構成する市場に直接的かつ非公式に訴えかける手法としてTwitterは極めて有効な手段だと言えるでしょう。

トランプ氏の外交政策の基本は米国市場を背景とした圧力だ

トランプ氏はビジネスマンとしての大統領であると捉えることが妥当です。したがって、単純な自由貿易礼賛論者でも偏狭な保護主義者でもありません。まして、同氏をグローバル化を否定する存在であると看做すことは同氏の政策に対する根本的な錯誤に繋がるでしょう。(新たに任命される駐日大使を見ても明らかです。

トランプ氏が実施しようとしていることは、自国の巨大な市場を背景として各国に経済改革を迫る、というものであることは明らかです。自国民の感情を良く理解した上で、自国の市場の性質を操作することで、国際経済の基本的な構造を変化させようとしています。

ブッシュやオバマのような理想主義的な政権と違って、トランプ政権はグローバリズムとリアリズムの折衷のような政権だと言えるでしょう。

トランプ政権は今後中国に対して強烈な態度を更に見せ始めるものと思いますが、それらの動きは米国市場を巧みに活用しながら中国への更なる改革開放を迫る結果に繋がっていくはずです。その際、公式な場での政策発表では表明しづらいが、国民感情に訴えかけたいものについてはTwitterを積極的に利用していくものと思われます。

大統領就任後、主流メディアとTwitterなどの使い分けについて、それぞれの意味についてしっかりと汲み取っていく作業を行うべきでしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 13:08|PermalinkComments(0)

2017年01月10日

意外と現実的なトランプのメキシコ国境の壁

220px-Steel_Fence_SonoraMX_MTamez_Delegation_012708-1-


トランプが主張する「メキシコ国境の壁」について知られていないこと

トランプ氏が主張するメキシコ国境の壁はリベラルに偏向するメディアの情報を摂取しているだけでは荒唐無稽な主張のように感じるのも無理はありません。メディアはトランプ氏が実現不可能な馬鹿なことを述べているように演出していますが、実際は果たしてそうでしょうか。

従来までのセオリー通りで行くと、トランプ氏に対するレッテル貼りは極めて悪質なものが多く、物事は複数の角度から分析を加えることで初めて本質的なものが見えてくると思います。

そこで、今回は壁の建設を肯定する側からの見解を紹介することを通じ、メキシコ国境との壁に関する基本的な知識について、私たちが知っておいても損はないことをまとめていきたいと思います。

オバマもヒラリーも賛成していた「メキシコ国境の壁を建設する」法案

トランプ氏は万里の長城を作る荒唐無稽な妄想に取りつかれているのでしょうか。彼の発言には法的根拠は何もないのでしょうか。これらの思い込みは明確に間違っています。

メキシコ国境に壁(フェンス)を建設する法案については、ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2006年にSecure Fence Act of 2006が連邦上院・下院で承認されたことで法的な根拠を持っています。

この法案の趣旨は国境管理と移民システム改革を改善する努力に関して重要なステップとなり、物理的な障壁と21世紀の技術を展開することで、国境管理員の活動を支援して国境をより安全なものとすることでした。

そして、同法案は連邦上院・下院で上院80対19、下院283対138の圧倒的な多数に支持されました。このとき、当時上院議員であったバラク・オバマもヒラリー・クリントンも同法案に賛成票を投じたことは知られていません。

この際、同法案の推進者であった下院の国土安全保障委員会のピーター・キング委員長が議場で同法案は700マイル以上の二重のフェンスを設置することを目的としていることを説明しています。

全ての国境に二重の壁を作るための予算が全て承認されたわけではありませんが、共和党・民主党の両党の議員が「壁」の建設に賛同したことは事実として残っています。

つまり、トランプ氏とオバマ・ヒラリーの両者の違いはどこまで壁を作るのか、という点に過ぎません。

したがって、トランプ氏はゼロから法案を提出するのではなく、同法案の追加提案として予算を確保していくことによって壁の建設を粛々と進めていくことになります。

実際に壁を建設するために必要な費用はおおよそ幾らなのか

現在までに壁(フェンス)の建設に使用された予算は、1ドル100円換算で約2300億円程度です。これは現状までに建設された約650マイルの一重目の壁と約50マイルの二重目の壁の費用です。

ヘリテージ財団のDailySignalによると、国境管理を強化することを目的としたシンクタンクであるthe Center for Immigration Studiesの Jessica Vaughanの試算では、追加的な建設費用の最も野心的な見積りでは約1.1兆円程度になるとのことです。

ただし、上記のJessica女史のコメントとして、不法移民の犯罪や福祉に関するコストは、米国の納税者に少なく見積もっても毎年・約5兆円以上かかっていることも指摘されています。仮に壁を建設していくことで同コストを抑えることに繋がるのであれば一定の経済的な正当性もあるということになります。

なお、共和党は新予算案の承認期限である4月末までに予算を作成・承認する予定です。今回の予算で承認される予算規模はまだ発表されていませんが、何らかの形で予算付けがされることはほぼ確実と言えそうです。

メキシコ政府に費用負担させるために考えられる方法とは何か

トランプ氏は同壁の建設費用をメキシコ政府に負担させる旨を明言していますが、こちらについての実現性はどの程度あるのでしょうか。国家間の面子の張り合いという文脈では実現へのハードルはかなり高そうですが、経済的な交渉事としては成立する可能性も十分にあります。

2015年のメキシコへの直接投資額・約3兆円の半数は米国からであり、大手企業の一社当たりの投資額は数百億円規模のケースとなっています。

これらがトランプ氏が行っているTwitterによるメキシコに工場立地を予定している企業への介入によって撤回されていくことは、メキシコ政府にはボディーブローとして確実に効いてくるはずです。

また、数兆円規模とされるメキシコへの犯罪性資金の送金に関する管理を厳格化することにより、メキシコ政府はジワジワと首を締め上げられる状況となるものと思います。

公式的な圧力としては、米国からメキシコへの政府援助額の減額を示唆する事もあり得ます。

トランプ政権は、これらの厳しい措置を実施しつつ、メキシコ政府に同時にアメを配ることも考えられます。メキシコ政府のうち歳入・石油関連収入は約20%を占めており、この点についてメキシコ政府とエネルギー開発を進めるトランプ政権との利害は一致している状況です。

したがって、トランプ氏は非石油関連収入を得る機会を口先介入で制限しつつ、メキシコ政府と適当なところでエネルギー分野で握ることで壁建設のための予算を支出させることも不可能ではないと思います。

トランプ氏と共和党の思惑通りに全てが進むとは限りませんが、トランプ氏の「メキシコ国境の壁」を最初から荒唐無稽と切り捨てることは少なくとも間違っていることは確かです。

分断されるアメリカ
サミュエル ハンチントン
集英社
2004-05


本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 15:51|PermalinkComments(0)

2017年01月09日

「Post-Truth」論は言論の自由に対する脅威だ

a0830_000102


「Post-Truth」は「ヒラリー大統領選挙勝利」を垂れ流してきた大メディア・学識者

トランプ氏が米国大統領選挙に勝利したことで、Post-Truthという言葉が俄かに「リベラル界隈」では話題になっています。簡単に言うと、「客観的な事実ではなく感情に訴える事実らしいものが影響力を持つようになった」ことを意味するワードで、トランプ勝利はその象徴的な出来事だそうです。メディア関係者や学識者などがこの概念に飛びついて議論を始めています。

それにしても、自分が気に入らない存在を叩くために、ポリコレ的な形式を整える能力と努力に感心させられます。なぜなら、米国大統領選挙に関して言うならば、

「ヒラリー勝利確実」

こそが最大のデマであり、彼ら自身が垂れ流してきたPost-Truthだったわけですから。大統領選挙が終了するまで読む価値がない偏向報道があまりに多く、筆者と同じく大メディアの偏向報道の酷さに米紙の購読を一時中断した人も米国にもいたのではないかと思います。

「Post-Truth」論は言論の自由に対する脅威になり得る

Post-Truthを過度に強調する既存のメディア・学識者は自らが「正しい言論の擁護者」だと錯覚し、FakeNewsなどの問題性を指摘しています。しかし、明確に言えることは、これらの「正しい言論の擁護者」は「言論の自由に対する脅威」でしかありません。

彼らの多くはFakeNewsを問題視するあまり、それらを防止するために言論をフィルタリングにかける行為を擁護しがちです。または、そこまで行かなくても、Post-Truth論を盛り上げていくことで、それらのフィルタリングをかける行為を正当化する環境づくりに貢献していると言えるでしょう。

特に、既存の権威の中心(かつ、その信頼性が失われつつある)である大手メディアらは、新しいメディアの成功によって自らの権威が脅かされることに敏感です。

しかし、大手メディアも創刊当初からエモーショナルな内容が多く、なおかつ現在でも社説などを通じて自らの愚にもつかない感情を読者に吐露していることもしばしばです。これはそれらのメディアに寄稿している学識者も同じことが言えるでしょう。

いまさら「事実よりも感情に訴えかけるニュースを初めて見ました!」と言われて真に受ける人がどれだけいるのでしょうか、偏差値高いだけの世間知らずだけが信じる戯言だと思います。そして、大半の人は嘘ニュースも含めて冷静に受け止めていることでしょう。

分散化された多様な言論空間の存在が重要である

筆者は様々な意見の相違はあるものの、Post-Truthなどの言葉を使って他人の言論を封殺しようとすることを容認するべきではないと思います。

言論の自由と言論の質の多様化は表裏一体のものであり、質が高いとされる言論のみを残そうとすれば、必然的に言論の自由を制限せざるを得ません。その際のデメリットはメリットを遥かに上回ることになるのは想像に難くありません。

したがって、仮に冷静な議論を求めたいのであれば、それは言論の供給の在り方を問題視するのではなく、言論の需要者側をサポートするシステムや情報の合理的な選別を可能とする仕組みの議論を行うべきでしょう。

現在の日本で一例を挙げると、極めて脆弱な立法府の議員を支援する機能の強化、行政権と実質的に一体化した司法の改革、一部の大手メディアに対する制度的な既得権の付与の見直しなど、より多様な言論が共有される環境を整備するとともに、その選別のプロセスを効果的に行う仕組みを作ることが求められます。

Post-Truth論争は、昔からある話を焼き直して現在の言論的強者が既得権を守ろうとしている行為でしかなく、いまさら相手にするべき類の議論ではありません。まずは積み残された過去の課題をしっかり片づけていくことを優先するべきです。

プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く
アンソニー プラトカニス
誠信書房
1998-11-01

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 15:16|PermalinkComments(0)

2017年01月08日

ポリコレ無罪?おかしすぎるNHK、トランプが可哀想になってきた

chicago-facebook-beating
CBCNEWSから引用

NHKは米国メディアの垂れ流し以下の報道をやめたほうが良い

知的障害の白人にヘイトクライムか 黒人を逮捕 米国

2日前にNHKが4人の黒人が精神障害を持った白人を拉致して暴行を加えたニュースを報道しました。その際、犯行を行った犯人グループがFACEBOOKで白人に対するヘイトクラムやトランプ氏の発言に対する抗議と取れる発言を行っていたことから、NHK解釈では

『4人は、手を縛られた状態の男性にナイフを突きつけながら殴るなどしている30分間に及ぶ映像をフェイスブックに投稿しており、「この男はトランプの代わりだ」と叫ぶなど、排他的な言動を繰り返すトランプ次期大統領への批判とも受け取れる発言も行っています。

被害を受けた男性は、容疑者の1人の知り合いで、3日に男性が暴行を受けた現場周辺に住む人が大きな音がすることを不審に思い、警察に通報して事件が発覚したということです。容疑者らがフェイスブックに投稿した映像を見て、警察の黒人への過剰な取締りに抗議する運動をネット上で攻撃する動きも出ていて、アメリカのメディアは、社会の分断を象徴する事件として大きく伝えています。』

と紹介しています。

しかし、実際に米国のニュースの一例を挙げますが、

CBCNEWS

これを「人種主義や差別が家族や地域社会を脅かす」というイカレタ見解を示していたのはオバマ大統領のみです。もしかしたら、他のニュースではそのような見解を示しているのかもしれませんが、

4人で知り合いの精神障がい者の男性を拉致していたぶっている姿をFBに公開する凶悪犯罪者を擁護する必要は全くない上に、警察も人種差別・障がい者差別的な要素はあったと認めつつも、この拉致犯罪者から脅迫状が届いたこともあって被害者家族にゆすりをかける可能性があったと思っている、って書いてあるじゃないですか。

つまり、米国でもこの4人はクズ野郎認定されているということです。

凶悪犯罪者はどんな理由でも正当化できるものがあれば利用する

犯罪を実際に行う人間には3つの条件が揃うことが必要です。それは機会(動機)、環境、正当化の3つの条件です。

たしかに、今回の凶悪犯罪者は、暴力欲求・承認欲求(または金銭欲求)、健常者4人VS精神障がい者1人という圧倒的な物理的環境、の2つを有しており、最後の1つを反トランプ・反白人というロジックで埋めて正当化したことになります。

しかし、それを理由に、人種主義、差別、ましては社会の分断の象徴とすることはどうでしょうか。これらの犯罪者はトランプがいなかったとしても、何らかの別の正当化を行って犯罪行為に及んだことでしょう。クズ野郎にとって正当化の動機なんてのは社会的に議論されている(つまり、メディアで正当化されている)ことなら何でも良いのです。

こんなイカレタ犯罪者を象徴として社会の分断と称するほどに米国は終わっているのでしょうか。筆者にはオバマ大統領の上記のような発言やメディアが繰り返してきたほぼ無根拠なレイシズム批判が犯罪者に正当化ロジックを与えているものとすら感じられます。

正直言って、NHKのポリコレ無罪的な報道スタンスに疑問があります。

NHKは自らの解釈を米国メディアの報道内容に責任転嫁してますが、当の米国メディアですら頭のおかしいリベラル以外はこれら犯罪者に対してはもう少し客観的な解釈を行っています。まして、日本は米国国内ではなく外国なのだからもう少しリベラルバイアスを排除した報道をしたらどうか、と思う次第です。
<ワタセユウヤ(渡瀬裕哉)初著作のご紹介>







本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 22:03|PermalinkComments(0)

2017年01月06日

神社やお寺はベビーカーや車椅子を断っても良い

a0001_013134

神社やお寺は誰のものかという基本的な問題認識の欠落

初詣でベビーカー自粛を呼び掛けていたお寺が炎上した上に、お寺にはお寺なりの事情があったことが発覚した事案について、私たちはもう少し根本的な問題認識を深めるべきだと思います。

お寺は公益法人であるために、完全に私的な宗教施設とは言えないものの、基本的にはお寺の檀家さんのためにあるものだと理解するべきです。そのため、寺院が日常的に敷地の一部を一般公開していることは、多くの人に信仰に触れる機会を提供するためにあえて行っていることに過ぎません。

したがって、お寺が安全上の問題などでベビーカーや車椅子の自粛を呼び掛けたところで、それについて第三者が喧しく意見を言うことが自体が間違っており(どうしても発信したいならそれでも良いですが)、まして少子化問題と結びつけて行政府・立法府の見地から対応を求めることは論外だと言えます。

この問題はお寺がベビーカー自粛に至った経緯を知らなかった、というよりも、私的領域に対して行政府・立法府が無暗に介入するべきではないという大原則が守られなかったことに起因しています。(したがって、警察がベビーカー自粛をお寺に要請した云々を知らなかったという経緯はある意味どうでも良いのです。)

私的な存在に対して政治家や政府が行為を求めるときは法的根拠を持つべき

本件の事例を引き合いに考えると、他に幾らでもガラガラの神社やお寺は存在しているわけで、檀家でもないような人々のためにお寺が配慮する必要性は全くありません。神様は神社などにもいるわけで、そっちに行けば良いだけのことなのです。

初詣の時期に宗教施設という私的な空間がたまたま公開されているだけにも関わらず、政治家や政府が法的根拠もなく対応を求めることは間違っています。

お願い事または相談事という形式を取らず、政治家や政府が私的な存在に対して「どうして〇〇になっているんだ、改めろ」ということがそもそも政治的にも間違っているのです。

たまたま近くに住んでいたからとか、大きな神社やお寺だから、と正月にだけ初詣に行く人が特別な待遇を受けなくても当たり前です。むしろ、お寺側の方針によってそれらの対応の是非は決まるものであり、初詣ベビーカー自粛も何を優先すべきなのかを検討した上での配慮だと言えます。

お寺は初詣場所の提供者ではあるものの、仮に死亡事故などが発生した場合、宗教施設としての運営に支障が生じる可能性があり、住職の方が檀家さんにご迷惑をかけることになるリスクを避けることは当然です。

初歩的な確認事項として、5W1Hを確認し、誰がどのようなリスクを負担しているのかを認識すべきです。本件であれば、参拝者同士の事故などの発生について、他の参拝者と寺院がリスクを抱えています。

何でも社会問題と結びつけて政治家や政府の私的空間への介入を正当化すべきではない

ベビーカーや車椅子に優しいとか優しくないとか以前に、それが大事だと思うなら自分で神社やお寺の氏子や檀家になって対応を求めるべきだ、ということです。

たしかに、神社やお寺も初詣は重要なビジネス機会ではあります。しかし、初詣の対応の在り方にだけ文句がある人は、普段は神社やお寺を何とも思っていないのに正月だけクレーマーになる自分がおかしいと自覚するべきでしょう。

手厳しい物言いかと思いますが、今回の一件は少子化や障がい者差別などの社会問題と結びつけて、政治家や元政府関係者が己の全能感を満たそうとする性が表れたものに過ぎないと思います。

たとえ一見して理にかなっているように見えたとしても、私たちの社会の大前提である私的自治に対して政治家や政府が安易に口を挟む行為を認めるべきではなく、政治家や政府関係者はそれらの行為を厳に慎むべきです。

社会における他者からの寛容さとは、お互いの立場を理解した上で迷惑をかけない範囲で合理的に行動することであって、自らの権利を無理筋で通そうとすることではないのです。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 23:12|PermalinkComments(0)

2017年01月05日

なぜトランプ当選を外した国際政治学者が今年の予測を行っているのか

a1380_000087

米国大統領選挙は「全世界の国政選挙で最も情報が入手しやすい選挙」

最近、昨年の大統領選挙の予測について、国際政治学者などから「米国大統領選挙の予測を外すことは大したことではない」と述べている開き直りの論稿が出てきています。そして、相変わらずファクトが怪しい愚にもつかないほぼ思い込みに近い国際政治の予想を垂れ流している状況が続ています。

筆者は米国大統領選挙の予測すらまともにできない国際政治学者に他の国の政治動向がまともに説明できるとは思えません。

なぜなら、米国大統領選挙は「全世界の国政選挙で最も情報が入手しやすい選挙」だからです。

米国大統領選挙は英語という日本人でも比較的読みこなしやすい言語で情報収集が可能であり、世論調査に関する生データや政局動向についても逐次情報が更新され続けます。日本に物理的にいたとしても米国人並みの情報を得ることができるため、これほど簡単に結果を予測できる選挙は世界に他にありません。

むしろ、筆者のように世論調査・選挙分析を生業の一つとしてきた人間にとっては、日本のほうが各種情報公開の状況が悪くて正確な予測が難しいと思うぐらいです。(そもそも何時解散総選挙になるかを予測することすら難しい。)

つまり、国際政治、特に民主主義国の政治動向の予測という意味では、米国大統領選挙はビギナー中のビギナーが扱うべき題材と言えます。

今年予定されている欧州の選挙予測は米国大統領選挙よりも困難

今年予定されている欧州の国政選挙の予測は米国大統領選挙よりも困難であることは言うまでもありません。

米国大統領選挙のように世論調査結果が常に大量に提供されるわけでもなく、それらの国々の政治情勢は各国の母国語によって詳細に解説されることになります。これらの選挙を日本人がしっかりと予測することは難しく、多くの国際政治学者の皆さんも英字化されたメディアからの情報に頼ることになるのではないでしょうか。

米国大統領選挙では英字メディア(つまり、エスタブリッシュメント側)の情報に頼り切ったため、藤原帰一氏のような国際政治学者がヒラリー大勝利を予言して赤っ恥をかいたわけです。しかし、今年の欧州の選挙はデータに基づく分析がほとんどの日本では行われないでしょうから、彼らが思い込みに近い予想を再び外しても恥の上塗りをしなくても済むことができるかもしれません。

筆者はトランプ当選すら外した人々がなお今年の国際政治の情勢を予測をメディア上で語り続けることに言論界の貧困を感じざるを得ません。欧州政治の話をするなら、せめて欧州の選挙情勢を専門にしている有識者にメディアは活躍の場を与えるべきでしょう。(それだと商業的に雑誌が売れないのかもしれませんが・・・)

今後は専門性の高い地域研究者が報われる環境になることに期待したい

今後は、国立大学などは、少なくとも選挙なら選挙、政局なら政局、各国情勢の専門家をしっかり育成することが望ましいと思います。従来までのように、〇〇国、〇〇地域の専門家、というだけで、専門の畑が全く異なる地域の選挙や政局まで語らせることは無理があるでしょう。まして、全く違う国・地域の専門家に専門ですらない分野を語らせることはいい加減にしてほしいです。

日本にも米国の選挙情勢などについて詳細かつ冷静に研究されている方々もおり、そのような方々に発言の機会がしっかりと用意されていれば、日本国内における今回の大統領選挙予測のようなおかしな結果にはならなかったはずです。今年の欧州の選挙では、昨年の反省を生かして付加価値が高い分析ができる人々が出てくることを望みます。

日本の言論界の悪弊であるリベラルな学者なら専門以外の何を語らせても「それっぽくしゃべることが許される」ことにはそろそろ見直されていくべきではないでしょうか。日本や世界を取り巻く国際政治が難局を迎える中で、高度で専門的な言論の必要性が認識されていくことが重要です。

当確師
真山 仁
中央公論新社
2015-12-18






本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。




このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 12:49|PermalinkComments(0)

2017年01月04日

悪いポピュリズムと良いポピュリズム

a1380_000474

議会制民主主義の限界について

観念的に言えば、民主主義は多数決で物事を決めるプロセスであり、自由主義は個々の意見を尊重する考え方(小さな政府に繋がる)のことです。

議会制民主主義は議会における議決によって民主主義を担保し、議会における自由な質疑応答によって自由主義を担保してきました。しかし、行政国家化によって議会自体が骨抜きにされることによって、議会は行政当局による法案の追認機関と化してきました。

行政権を見張るはずの立法府は政府からの利権を求める行政府に陳情を代弁するだけの組織に堕しており、議会制民主主義は既に死に体であるということも間違いありません。

したがって、政治的な意思決定と切り離された人々の苛立ちが高まることによって、世界中でポピュリズムが発生していることには同意します。そして、それらは議会制民主主義というよりも直接投票による大衆の歓呼によって出現しやすい状況となっています。

この状況はナチスドイツが出現した際にも見られたものであり、この大衆の歓呼をしてポピュリズムと看做すのであれば、ポピュリズムが危険なものであることは同意します。

悪いポピュリズムと良いポピュリズム

しかし、既に行政国家化とそれに反発するポピュリズムの発生という政治的状況について、私たちはそれらから逃れることはできません。この状況は所与のものであり、その中でベストを尽くすことを考えていくべきだと思います。

したがって、悪いポピュリズムと良いポピュリズムは何か、ということを考えることが重要です。

筆者が考える悪いポピュリズムとは、行政国家が残されたまま、為政者が民衆の願望を叶えるために、政府組織・権限を際限なく肥大化させていくタイプのものです。つまり、ナチス・ドイツが典型的な行政国家ということになります。

現在の日本も与党も野党も「空気を読みながら」バラマキ・増税志向の大きな政府を志向しているので、既に議会制民主主義は死んでいて静かなポピュリズムが進行しているとも言えます。日本では、政府に対する自由とは何か、ということがほとんど政治的なテーマにすらならい状況です。これは悪いポピュリズムの典型だと思います。

筆者が考える良いポピュリズムとは、行政国家を解体過程に乗せて民衆が自分の生活の自己決定権を取り戻すタイプのものです。残念ながら、既存のポピュリズムではあまり見かけることがないタイプではあるものの、私たちが目指すのはこちらのタイプのポピュリズムであるべきでしょう。

むろん、良いポピュリズムは、ハイエクが主張する「法の支配」のような考え方を重視するものであり、悪いポピュリズムに走らないように民衆が歴史や思想を深く理解することが重要になってきます。

少々理想的に過ぎるかもしれませんし、それが歴史上困難なプロジェクトであっても、そちらを志向する人々がどれだけいるかで人々の盛衰は変わるものと思います。

民衆の中に保守主義を根付かせることができるか

議会制民主主義がある程度機能してきた国では、民衆の代表がポピュリズムによって政権を取ったときに行政国家に対する歯止めを機能させようとする動きが出るかもしれません。

代表的な国は米国であって合衆国憲法の構造も然ることながら、合衆国憲法を信棒する米国民は必然的に法の支配を志向する傾向があるからです。

実際、米国の共和党保守派を中心に腐敗している立法・行政の双方の権限を縮小し、人々の自己決定権を取り戻そうとする主張が激しく喧伝されています。これらは良いポピュリズムとして議会制民主主義の機能を取り戻していくことにも繋がるかもしれません。

一方、欧州のポピュリズムは行政国家化が非常に進行している上に、EUによる更なる中央集権化後の社会に起きているものです。また、その国々の根幹にも自由主義や法の支配が必ずしも共有されているわけではありません。したがって、悪いポピュリズムに走る可能性が高いです。

今年はフランスなどの欧州諸国で国政選挙がありますが、その結果として極右や極左が台頭することで、EUから自己決定権を取り戻すと同時に、多くの国民が自らが選んだ為政者によって自国内で人生の意思決定権が奪われていくことを体験することになるでしょう。

悪いポピュリズムに走る国は歴史の流れの中で衰退し潰れていくしかありません。これは避けようがない現象であり、ポピュリズムは行政国家化した政府に対する一つの薬でしかなく、その結果が薬物依存患者の国になるのか、それとも健全な人々の国になるのかは、同国民の意志にかかっています。

つまり、民衆の中に保守主義を自生的に根付かせることができるかどうかが重要なのです。そういう意味で、多くの人にハイエクの隷属への道を読んでほしいと思います。


 


 本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 19:48|PermalinkComments(0)

なぜ「3.9+5.1=9.0」が正しくないのか?

a1130_000277

学校は「何」を習うところなのか?という問い

少し前から「3.9+5.1=9.0」という小学生の回答が減点対象となった事案について、「子どもの創造性を失わせる」という批判が浴びせられていますが、それらの批判は筆者には極めて教条主義的な教育論に思えて仕方がありません。

そもそも「3.9+5.1」の回答が9または9.0どちらであったとしても、子どもはそれが間違いでないことは知っています。「9.0」という回答が減点された瞬間には何が起こったのかは理解できないかもしれませんが、少し考えれば正しい回答ではあるものの、先生が何を言いたかったか分かるはずです。

それに、小数点の計算は別に学校に行かなくても覚えられるものでしょうし、この程度のことで摘まれてしまう創造性など創造性ではありません。そのため、学校とは何を習いに行くところなのか、という問題に私たちは向き合う必要があるでしょう。

学校は役所に対する面従腹背を覚えるために行くところ

学校は行政機関の一部です。学校を教育機関として神格化している人々には大変申し訳ないのだけれども、そのような場所で創造性が育めると思っているほうがお門違いだと思います。

カリキュラム内容も学習指導要領で定められた英国数社理を中心とした課目を習うものであり、何のためにそれらを習っているかも二の次で、とりあえず最低限の点数が取れるように教育されていくわけです。したがって、カリキュラム自体にも自発性の欠片もありません。

学校で覚えられる事は、学校(=お役所)が求めていることを淡々とこなすこと、です。多くの国民は人生に必要な勉強か否かはともかくとして、政府が求めることに表向き従うことを学習することになります。

その中で「3.9+5.1」の回答が「9.0」で減点されて「9」であることを求められたら、心の中ではアッカンベーをしながら表向きは間違いを認めたように振舞うことを教えるだけで良いのです。

世間ではどちらでも良いが、学校では「9」である理由を教えることが大事です。そうすると、先生は満足してくれるわけで、子どもは「大人の社会とはこういうものか」と思えば良いのです。

それで創造性が削がれたり、9.0が本質的に間違った回答だと思う子どもはいないはずです。子どもはそこまで馬鹿ではありません。

むしろ、一歩踏み込んで「先生の反応がなぜそうなるのか」について「学習指導要領」、「文部科学省」、「職場の論理」などについてまで深い考察ができる子どもがいれば、探究心に溢れた学生として褒めてあげたいと思います。

学校は時代遅れな場所であり、その在り方を問うてもそもそも意味がない

学校はそもそも時代遅れな場所であり、家庭の親御さんのほうが先生よりも高度な教育を受けていることもザラになってきています。また、気が利いた家庭ならばPCやその他の機材についても学校よりも高度なものを有していることもあるでしょう。

創造性や自発性を引き出すような教育を学校のシステムに求めることは困難です。システムではなく人間として興味深い教育を授けてくれる先生がたまたま存在するのはギャンブルに過ぎるでしょう。学校というのは大人が思っている以上に、大人の社会のルールが適用されている場所なのです。

子どもに対して学校のシステム(しばしば理不尽なエラーを起こす)よりも高度な教育を与えようというならば、それらの教育を施す方針の私立の学校に入学させるか、家庭での教育をしっかりさせるしかありません。

そうでなければ永遠に終わることがない行政改革と同様に、子どもをいつまで経っても改善されることがない教育システムに放り込んで任せっきりにしていることと同義と言えます。

自発性や創造力を引き出す教育を学校に求めるという不可能な挑戦をやるべきだ、と論じるくらいなら、早々に学校での教育に見切りをつけて別の方法でそれらの教育を子どもに与えるべきでしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 14:33|PermalinkComments(0)

2017年01月02日

2017年・トランプ政権指名済全閣僚評価と展望

トランプ
 
トランプ政権はトランプ・共和党保守派の連立政権

2017年、トランプ政権発足まで約20日程度となり、そろそろ本格的に同政権の閣僚人事について論評していきます。

同政権の閣僚人事を一言で評価すると「トランプ人脈と保守派人脈の連立政権」と言えるでしょう。ビジネスを重視するトランプ人脈、建国の理念(小さな政府)を重視する保守派、の両派によって主要閣僚人事が構成されており、米国共和党内で権勢をふるってきた主流派エスタブリッシュメントの影が薄くなりました。

大統領選挙本選においてブッシュ・ロムニーら共和党主流派が離反し、選挙戦をトランプ氏と保守派が協力して乗り切った結果が大きく影響していることが伺えます。

そのため、従来までと同じ共和党政権の体裁は取っているものの、史上最も保守的な政権と呼べる閣僚の配置状況となっており、それらの保守派の原理に上乗せされる形でトランプ氏の経済的な交渉センスが発揮される布陣がなされています。この特殊な二重構造を理解することで同政権に関する実態に近い論評が可能となります。

本論考では上記のトランプ・共和党保守派の連立政権という視座に立ち、今後米国内で起きる政策展開について予測を行っていきます。したがって、日本国内では極めて珍しい視点からの分析となるものと思われます。

産油・産ガス国、エネルギー産業国家に生まれ変わる米国

最も大きな政策転換は米国内のエネルギー資源開発に関する規制撤廃です。

昨年7月にノルウェーの独立系調査会社Rystad Energy社が試算したシェールを含めた石油埋蔵量は米国が世界第1位となっており、トランプ政権によって米国は産油・産ガス国、その輸出国として変貌していく可能性は十分にあります。

そして、入閣した保守派の3閣僚(エネルギー省・環境保護局・内務省)と国務長官人事がその政策転換を象徴しています。

リック・ペリー・エネルギー省長官は前テキサス州知事であり、2011年の共和党予備選挙で無駄が多い政府機関としてエネルギー省の廃止を謳った人物です。実際には同省の役割は原子力に関する管理がメインとなるものの、エネルギー産業と深く結びついたテキサス州知事経験者によってエネルギー規制緩和が強烈に推進されていくことになります。

スコット・プルイット環境保護局長官は、オクラホマ州司法長官などを歴任し、シェールオイルなどの採掘に重要な水圧破砕法の影響を連邦政府が監視することに異議を申し立ててきた人物です。また、直近では、オバマ政権下の環境保護局が実施した温室効果ガス削減のためのクリーンパワープランにも反対しています。

ライアン・ジンキ内務長官は連邦政府所管の土地でのエネルギー資源開発に前向きです。米国では州政府所管の土地でのエネルギー開発は進んでいますが、連邦政府所管の土地の開発は不十分な状況にあります。地味な役どころではあるものの、エネルギー開発における同省の役割は非常に大きいと言えるでしょう。

上記の保守系の閣僚の入閣に加えて、レックス・ティラーソン国務長官の存在は非常に大きいものと思います。エクソン・モービルCEOとしての国際的なエネルギービジネス経験、世界有数の産油・産ガス国であるロシアとのコネクションは、トランプ政権下におけるエネルギー増産政策・輸出政策を成功させる鍵となります。

これらのエネルギー関連の閣僚人事は、エネルギー関連規制の緩和という悲願を達成したい保守派、経済の柱としてエネルギー産業を育成したいトランプ氏の両者の意図が組み合わさった見事な人事と言えるでしょう。

ウォール街出身者と敵対する保守派の「ドッド・フランク法廃止」という手打ち

トランプ政権では、ゲーリー・コーン国家経済会議議長、スティーブ・ムニューチン財務長官らのゴールドマンサックス出身者、著名な投資家であるウィルバー・ロス商務長官などが登用されました。そのため、トランプ氏の選挙期間中の反ウォール街姿勢に対する支持への裏切りと看做す向きも出ています。

しかし、これらの投資銀行などの出身者と共和党を支持する保守派は、ドッド・フランク法の廃止または大幅な修正という一点で利害を共有しています。

リーマンショックへの反動として導入された金融機関に過度な規制を強いるドッド・フランク法を廃止し、金融機関の組織運営や貸し出しに関する自由度を高めることは、ウォール街も共和党保守派も賛成しています。したがって、同法案への理解が深いウォール街関係者が経済系の閣僚として入閣しても不思議ではありません。

共和党保守派の支持者の多くは自営業者などの小規模事業経営者などです。したがって、彼らは地域の金融機関であるコミュティバンクなどからの借り入れを行っています。トランプ氏及び共和党は、ドッド・フランク法が制定されたことで、地域金融機関の貸し渋り・倒産が増加していることを問題視しており、同法を廃止・修正することに合意しています。(商業銀行と投資銀行業務を切り分けるグラス・スティガール法が復活するかはまだ分かりません。)

ちなみに、トランプ氏が任命したプロレス団体CEOのリンダ・マクマホン中小企業局長は、叩き上げの経営者であるとともに、グラス・スティガール法の廃止が金融危機の一因とみなして連邦議会における再制定を働きかる活動をしていた保守派の人物として知られています。

したがって、パッと見た感じではエスタブリッシュメントな人々の入閣人事は保守派(トランプ支持者含)への裏切りのように見えますが、実際には政治的な妥協は既に済んでいると看做すべきでしょう。

国内法制(社会保障、労働、教育など)の再自由化を推進する保守派

規制廃止・緩和の流れはエネルギーや金融だけではなく、更に幅広い分野の政策に展開していくことになります。具体的にはオバマケア廃止、労働法制緩和、教育の自由化などについてです。

トム・プライス保健福祉長官は連邦議会における反オバマケアの急先鋒として知られており、連邦議会においてオバマケアの廃止法案を立案した人物です。米国版の国民皆保険であるオバマケアはバラ色の社会を保証したわけではなく、巨額の財政負担の見通し、保険料の値上げ、企業側の正社員削減への誘因増、無保険者への罰金などが問題となっており、共和党は同法に強く反対する立場を取っています。

アンドリュー・パズダー労働長官もオバマケアには反対の立場であるとともに、連邦政府による最低賃金の引き上げには反対する立場です。共和党は最低賃金の裁量を各州に移管することを主張しています。(現在は連邦法以上の最低賃金を各州が定める場合はそちらに準拠し、残りは連邦法によって定められた最低賃金が適用されます。)全米でファーストフードチェーンを展開・現場に精通してきた同氏が労働長官に就任することは理にかなっているものと思われます。

ベッツィ・デボス教育長官は米国児童連盟委員長を務め、スクール・チョイス(学校選択制度)やチャータースクールの推進者です。米国では公立学校の環境が必ずしも良いものとはいえず、近年で独自のカリキュラム・環境で教育を行うチャータースクールが増加しています。同氏は教育改革に熱心なマイク・ペンス副大統領の推薦と言われており、同政策は保守派が非常に力を入れている政策分野としても知られています。

トランプ氏とも大統領予備選挙で保守派候補として競合し、その後いち早くトランプ支持を打ち出した黒人医師であるベン・カーソン氏は住宅都市開発長官に就任。同氏は大統領予備選挙からインナーシティ問題などの都市問題に注目し、選挙の論功を含めて抜擢されることになりました。

一方、規制を強化する分野を挙げるならば不法移民対策ということになります。これはジェフ・セッションズ司法長官が担当することになりますが、実はオバマ政権下でも7年間で250万人の不法移民を追放しており、不法移民を不当に擁護する聖域都市への補助金支給などについて従来よりも厳しい運用がなされる程度となるでしょう。

保守派には減税政策、主流派・民主党にはインフラ投資の使い分け

トランプ氏は税制・財政政策を上手に活用することで経済成長と議会対策を実現していく模様を見せています。米国では減税政策は共和党保守派、インフラ投資は民主党に親和的な政策とされています。そして、共和党主流派は保守派・民主党の中間的な立場といったところです。

所得税の簡素化・減税、法人税の大減税、領域課税は共和党保守派にとっては非常に望ましいものと言えるでしょう。

マイク・ペンス副大統領はインディアナ州知事以前の連邦議員時代からのティーパーティー支持者であり、プリーバス大統領首席補佐官は2011年の共和党全国委員会委員長選挙で保守派から支持を受けて同委員長に選出された人物です。この二人が政権の重要職に就任しているだけでも政権内での保守派の影響力の強さを示されている状況です。

この二人は日本で紹介されるときには主流派との繋ぎ役として紹介されていますが、いずれも減税を推進するティーパーティー運動の拡大に努力してきた人物であり、主流派とも話ができる保守派の人物と評するほうが正しい認識と言えます。

一方、スティーブ・バノン首席戦略官が強烈に推進する巨額のインフラ投資は、共和党主流派及び民主党を取り込むための政策として機能していくことになるでしょう。なぜなら、インフラ投資のような財政政策は共和党保守派は好むものではなく、即効性がある景気浮揚策として必要ではあるものの議会対策は容易ではないからです。

そのため、ブッシュ政権でも閣僚を務めたエレーン・チャオ運輸大臣の登場ということになります。彼女の夫は上院共和党主流派のドンであるミッチ・マコネル氏です。彼女がインフラ投資を所管する運輸大臣に就任することは、トランプ政権におけるインフラ投資が共和党主流派の利権であることが事実上のメッセージとして送られたことになります。

一方、米国内の公共インフラは老朽化が進んでいるため、民主党側のヒラリーもサンダースもインフラ投資を打ち出していました。そして、トランプ氏のインフラ投資額として選挙期間中に明示されてきたものはヒラリーとサンダースの中間規模のものでした。共和党側の一部が反対することも視野に入れて、民主党側を取り込んでいく可能性も十分にあります。

インフラ投資は共和党主流派と民主党に対する交渉カードとして機能していくことになるでしょう。

国連、中東、ロシア、トランプ政権人事から見えてくる外交・安全保障の意図

上記でも触れた通り、トランプ政権においてはエネルギー外交などの経済外交が重視されていくものと推測されます。つまり、余計な軍事コストなどをかけず、経済的なメリットを得ていくという方向です。この点においてもトランプ氏と保守派のコラボレーションは上手に機能していると言えるでしょう。

米国にとって、国連、中東、ロシア、中国などが外交・安全保障上の重視すべき要素です。

国連(事実上は欧州)についてはトランプ氏はあまり重視する姿勢は見せていません。そのため、国連大使のポストを国内政治対策のためにうまく利用する形となっています。今回国連大使に指名されたニッキー・ヘイリー女史はインド系で女性のサウスカロライナ州知事です。日本ではあまり知られていませんが、2016年保守派年次総会であるCPACにおいて副大統領候補者に相応しい人物として首位となり、共和党保守派から絶大な人気を誇る人物です。

実は彼女はトランプ氏とは予備選挙では途中まで対立関係にありましたが、トランプ氏はこの曰くつき人物を国際的な見栄えの良いポストに立たせることで保守派の懐柔を図ることに成功しました。ニッキー・ヘイリー女史は共和党初の女性大統領候補者としてトランプ氏の次に頭角を現す可能性が高い人物として覚えておいて損はないでしょう。

中東については対イランで強硬な姿勢を見せている以外は比較的抑制的な布陣だと言えます。

共和党はイランとの核合意・制裁解除に一貫して反対しています。また、トランプ政権は米国内のエネルギー開発を順調に進めていく上でイランからの石油の輸出による価格下落を防止したいというインセンティブを持っています。そのため、イランに対しては極めて厳しい陣容であり、その急先鋒が対外諜報活動を統括するマイク・ポンぺオCIA長官です。同氏はイラン核合意について下院において最も強硬な反対の論陣を張った人物として知られています。

一方、ジェームズ・マティス国防長官やマイケル・フリン国家安全保障政策担当大統領補佐官は、様々なメディアの憶測とは異なり極めて現実的な人々だと思われます。両氏は米国保守派の基本的なスタンスである同盟国重視の姿勢であり、単独行動主義のネオコンとは距離が遠い人物です。そのため、中東においてもサウジアラビア、イスラエルとの関係を重視し、ロシアとの妥協によって同方面の安定化を図っていくものと考えられます。

ロシアについては選挙期間中からのトランプ・プーチン間のラブコールが示す通り、オバマ政権下の半冷戦状態から劇的に改善していくことになるでしょう。両国の間には本質的な安全保障上の利益の相違が存在しています。しかし、トランプ氏がその利益の相違を乗り越える意思があることはプーチン氏と深いつながりを有するティラーソン国務長官を任命したことで明確になっています。その結果として、米ロエネルギー産出国同士の国益に基づく非産油国に対する協商関係が生まれることになるでしょう。

ただし、両者の最も大きな利益の相違点はミサイルディフェンスに関する見解にあり、この点についてはトランプ・プーチン政権になったとしても解決しないでしょう。トランプ政権のブレーンとして機能しているヘリテージ財団は同政策の強烈な推進者であり、対ロシア安全保障政策はミサイルディフェンスに重点が置かれるものとなっていくことが予想されます。

アジア向けの通商政策の見直し、米中の表面上の対立と事実上の関係深化の可能性

アジア向けの人事で注目したい人物は、国家通商会議を統括するピーター・ナバロ大統領補佐官・通商産業政策部長、マット・ポッティンジャー米国家安全保障会議アジア上級部長、テリー・ブランスタド駐中国大使の3名です。

ピーター・ナバロ補佐官は、カリフォルニア大学教授で対中強硬派として知られた人物です。新設される国家通商会議は経済分野だけでなく安全保障面も大統領に具申するとされており、アジア政策に関する保守派側のキーパーソンということになります。12月に行われた台湾との電話会談もナバロ氏やヘリテージが仲介したものとされています。

マット・ポッティンジャー氏は中国でWallstreet Journal などの記者として、環境問題、エネルギー問題、SARS、汚職などについて報道し、その後海兵隊に所属してイラクやアフガニスタンなどの現場に従事した人物です。アフガニスタンにおけるインテリジェンス活動を再建させるためのレポートを上述のマイケル・フリン国家安全保障首席補佐官とまとめたメンバーでもあります。従来までの学者肌の同職の人々とは異なり、現場の中で揉まれたたたき上げの人物です。

テリー・ブランスタド駐中国大使はアイオワ州知事であり、習近平中国国家主席とは30年近い友人関係を持った人物です。トランプ政権が習近平国家主席をターゲットにしたトップ外交のための人脈として北京に送り込む形となります。また、アイオワ州の産品でもある農産物の輸入緩和を同国に迫る意図も見え隠れします。

以上のように、トランプ政権にとっては東アジア外交とは中国との関係を意味しており、TPPも日本も台湾も対中関係の変数として扱われていることが良く分かります。トランプ氏が祭英文女史と電話したり、ウィルバー・ロス商務長官がジャパンソサエティーの代表を務めていることに喜んでいる程度の日本外交のレベルでは先が思いやられます。

中国に対して貿易摩擦的な保守派の強硬な論調で押しつつも、習近平氏とのトップ会談による問題解決を志向する姿勢は明白です。おそらく為替、補助金、その他諸々の話題で米中関係は表面的には深刻化するでしょうが、両国の間における妥協が徐々に成立していくことで米中関係は却って更に深まる可能性もあります。

トランプ政権を理解・分析する上で必要となる視座とは何か

トランプ政権を理解・分析するためには、米国共和党の保守派の方向性を理解した上で、トランプ氏が任命する具体的な人事情報を基にしてその意図を汲み取ることが重要です。

現在、日本国内で流布している有識者・メディアによるトランプ政権評は、大統領選挙以前と何も変わらない米国やトランプ氏に対する無理解に基づく情報ばかりです。

トランプ政権に対するレベルの低い報道に終始した2016年は既に終っています。新しい年である2017年では、米国に誕生するトランプ政権という新たなスーパーパワーについてより意味がある議論が行われることを期待しています。

スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 21:31|PermalinkComments(0)

2016年12月13日

トランプ外交の「算盤勘定」への正しい対処法

Rex_Tillerson_Head_Shot
(国務長官に指名濃厚・レックス・ティラーソン・エクソンモービルCEO)

祭英文・中華民国総統との電話会談は何を意味するのか

12月2日、「トランプ次期大統領が台湾の祭英文氏と電話会談を行った」とTweetしたニュースは東アジアに激震をもたらしました。米国と中国が所与のものと看做していた「一つの中国」の原則を覆すものであり、米国内の保守派だけでなく日本の保守派からも喝采の声が上がりました。

また、トランプ氏は「米国は台湾に何十億ドルもの兵器を売っているが、私は台湾からの祝いの電話を受けてはならないとは興味深い」ともTweetしています。そして、この2つのTweetの中にトランプ政権の外交方針の一端を垣間見ることができます。

米国の保守主義者の考え方である「自由主義」とビジネスマンの考え方である「金銭的利益」、この2つの異なる思考法が絶妙なバランスでブレンドされた外交、これがトランプ政権の外交方針だと看做すべきでしょう。

そして、今後のトランプ外交で何が起きていくのかを理解するためには、トランプ政権内での力関係を注意深く観察する必要があります。

トランプ政権の中で圧倒的なポジションを獲得した保守派・茶会党の面々

トランプ政権は史上最も保守的な政権と呼ぶことができると思います。これは選挙戦において共和党主流派が手を引く中で、保守派がフル回転したことで勝利を掴むことができた論功行賞によるものだと推測されます。

マイク・ペンス副大統領以外の閣僚メンバーとして、ラインス・プリーバス大統領首席補佐官、ジェフ・セッションズ司法長官、ベッツィ・デボス教育長官、マイク・ポンぺオCIA長官、トム・プライス厚生長官、スコット・プルイット環境保護局長官、ベン・カーソン住宅長官などの保守派が推す人々が次々と任命されました。

また、ニッキー・ヘイリー国連大使は予備選挙期間中にトランプ氏の政敵をエンドースし続けたにも関わらず、同ポストを手に入れることに成功しました。彼女は保守派が推す次期大統領または副大統領候補者と目される人物として注目されています。彼女の国連大使就任は、共和党保守派の重鎮であるATRのグローバー・ノーキストが「素晴らしい選択だ。ニッキー・ヘイリーは共和党の未来。トランプは長期戦を行っている。」と喜んでコメントするほど保守派の人々にとって慶事でした。

更にトランプ氏は上記の他にもアンディー・パズダー労働長官やリンダ・マクマホン中小企業局局長などの極めて保守的な主張を持つ企業経営者らを規制撤廃を推進する重要なポジションに就けています。

これらは米国建国の理念(≒道徳)である「自由主義」を体現する人選であり、リベラルな傾向を持つとして保守派から警戒されているトランプ氏にが保守派に対して相当に配慮したものと思われます。

トランプ政権の算盤勘定を担う国務長官、商務長官、財務長官の3人

レックス・ティラーソン国務長官、ウィルバー・ロス商務長官、スティーブン・ムニューチン財務長官の3人はトランプ次期大統領肝入りの人事です。この3人はいずれもビジネスマン出身の人々であり、トランプ氏の算盤勘定を担当する人々だと言えるでしょう。

特に当初名前が挙がっていたボルトン氏やロムニー氏ではなく、ティラーソン氏を国務長官に指名したことはトランプ政権が極めて強いビジネス志向を持った政権であることを示唆しています。また、同時にシェール革命を経て、エネルギーの自立を確立した米国が今後は石油・ガスなどの資源外交の側面を強化していくことを表す象徴的な人事だとも言えるでしょう。

ただし、トランプ人脈からの上記3長官の任命には、米国建国の理念を奉じる共和党内保守派から極めて強い違和感を持たれていることも事実です。ウォール街やグローバル企業が政権と接近することによるクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)は共和党保守派が最も嫌うところだからです。両者のパワーバランスの推移は中長期的には政権の不安定要因となる可能性があります。

とはいうものの、当面の間は対外交渉のツールとして冒頭の祭英文氏との電話会談のように保守派が満足するロジックをまぶしながら、トランプ政権内で保守派は米国国内の減税・規制緩和に注力し、国際的な外交・ビジネスについてはトランプ人脈がフル回転するという棲み分けによってお茶を濁す形になるのではないかと推測します。

卓越した職業軍人による効率的・効果的な国防政策の実施

ジェームス・マティス国防長官は「狂犬」というあだ名とは裏腹に極めて慎重な国防政策を立案する軍人だと言えます。同氏はブッシュ政権当時に無理な戦争計画を推進するネオコンと激しく対立し、同盟国重視の姿勢とアラブの価値観を理解した統治政策の必要性を説いた人物です。

今回の大統領選挙でもネオコン勢力によってトランプへの造反対抗馬として一時期名前が取り沙汰されましたが、それらの誘いを断ったという意味では論功行賞の意味合いもあるものと思われます。

一方、ジョン・ケリー国土安全保障長官も職業軍人出身の人物であり、トランプ政権は退役将校も含めた職業軍人経験者が多く踏まれることから軍事政権とも揶揄され始めています。また、国防費の増額などは共和党側も主張するところであり、財政の健全性の観点から心配する声もあります。

しかし、訓練を受けた職業軍人が現代の高度に複雑化された国防政策や行政機構の運用を担うことも効率性を重視するなら当然のことと言えるかもしれません。文民統制の観点からは共和党が多数を占める議会がしっかりと監視する必要がありますが、従来よりも効率的で有効性が高い国防政策が実行されていくものと推測されます。

米国版の論語と算盤を体現するトランプ政権の外交政策

上記のようにトランプ政権では国内政策、外交政策、国防政策がそれぞれ明確に色分けされた状況となっていることが分かります。国防政策はどちらかというと勢力均衡政策とテロ対策に注力することが想定されるため、実際に外国から見ても目立つ変化は外交政策の変化ということになるでしょう。

この外交政策の基本はトランプ政権の主要3閣僚による「算盤外交」になるものと思われます。諸外国との交渉によって米国経済に利益をもたらす方向で様々な成果が挙げられていくことになるでしょう。

東アジアでは中国に対する経済的な摩擦が米国との間で表面化していくことになりますが、実はこれは大したことはないものだと考えています。なぜなら、トランプ政権が求めることは経済的な算盤勘定であって中国の国体を揺るがすことは本気で考えていないと推測されるからです。むしろ、米中両国で喧嘩と妥協の繰り返しが行われる中で両国の関係が深化していく可能性すらあります。

一方、中国と比べて日本の「算盤上の価値」は減価する一方です。中国から魅力的な対価を引き出すためのツール(台湾と同様に)として使用されることにすら成りかねません。日本政府はジャパン・ソサエティー会長で知日派のウィルバー・ロス氏が商務長官に任命されたことで一安心しているかもしれませんが、トランプ政外交の算盤勘定への対処という点ではそれだけでは話になりません。

減価していく日米の価値、つまり日米同盟の価値を算盤勘定以上のところで補う努力をしなくては、日米同盟の将来、ひいては日本の安全保障は悲観的なものにならざるを得ないでしょう。

相対的に減少する日本の経済的価値、日米同盟は風前の灯となるのか

日本の経済的価値の相対的な減少は避けがたいものであり、 今後はそれらの環境変化を前提とした上でトランプ政権への対応を考えていくべきです。

漫然と従来通りの日米関係の延長線上で行けると考えているとしたら、ある日突然梯子を外されることは十分にあり得ます。トランプ氏は中国にプレッシャーをかけるために「一つの中国」という前提をあっさりと破った人物であり、日米関係という所与の前提を揺るがしかねない人物だからです。

では、トランプ政権への対応方針として、国内の一部で主張されている米軍基地費用の全額負担や武器購入費の増額のような経済的対応は正しいでしょうか。残念ながらそれらの対応は焼け石に水に過ぎず、中国の経済的価値の増大に伴う米中接近の危機への対処としては不十分です。

トランプ政権にお金の話で対応しようと試みたところで、次から次へと新たな取引を迫られることを通じて、多くの対価を払う割には実りの薄い結果がもたらされることになるでしょう。そのような場当たり的な対応は日米同盟の将来すら危うくするものと思います。

真の知米派を育てる試みの重要性、対米外交人脈の全面的な見直しが必要

上記の通り、筆者はトランプ政権はトランプ人脈と共和党保守派の政権であると分析しました。

トランプ人脈が政権の「算盤」を担当するなら、共和党保守派は「価値観」を担っている人々です。そして、トランプ政権と対峙するためには、共和党保守派との政治的な信頼関係を醸成することが極めて重要であると考えます。

政権発足当初は共和党保守派は国内改革に注力するものと思いますが、中長期的にはトランプ政権の外交政策に対して連邦議会から強い影響力を持ち続けることに変わりはありません。

そのため、経済的利害を越えて米国保守派と「価値観」で結ばれた信頼関係を作ることができれば、日本経済の相対的な減価という現実を覆す強固な日米同盟の礎を築くことができます。

しかし、そのためには対米外交人脈の全面的な見直しが必要です。

具体的には、安倍政権が対外的に主張する「自由と民主主義の価値観を共有する」という形式上の文言だけでなく、もう少し深いレベルでの米国理解を担う人材の育成が重要となります。日本のエスタブリッシュメントや国会議員の従来までの感覚で米国保守派と付き合うことは外交的な自殺行為だからです。

一例を挙げると、先日ある会合で国会議員が来日した米国保守派重鎮らに対し、「政官財でがっちりと組んで対米外交に取り組む」「自分の配偶者はウィルバー・ロスとジュリアーニと友人」と堂々と発言していました。筆者は非常に驚くとともに大きな危機感を覚えました。

上記でも述べた通り、政官財のトライアングルはクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)として米国保守派が毛嫌いする政治屋そのものであり、更に上記の二人はウォール街・リベラルとして保守派から距離が遠い人物だからです。わざわざ来日した米国保守派の方々に対するあまりに無理解な発言に日米同盟の未来を考えて暗い気持ちになりました。

米国ではGoogle社が対保守派のパブリックリレーションを行う人材の求人広告を出して話題になっていましたが、日本政府も米国保守派の思想・文脈を理解できる外交人材を採用・育成することが必要です。

表面的な米国の姿ではなく、米国建国の理念に対する深い理解力を持った「真の知米派」による対米外交政策の立案が望まれます。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr
yuyawatase at 18:07|PermalinkComments(0)