社会問題

2017年06月18日

2017年東京都議会議員選挙を10倍楽しむ超入門

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<毎日新聞から引用>


2017年・東京都議会議員選挙を考える上で知っておくべきこと

2017年東京都議会議員選挙は近年稀に見る複雑な政局が入り乱れており、その正しい見方を知っておかねば有権者やギャラリーとして十分に堪能することができません。

たとえば、小池氏は「なぜ豊洲移転をギリギリまで決断できなかったのか」、「なぜ都民ファーストは公明・元民進・生活ネに推薦を出すのか」、「なぜ都民ファーストは大阪維新のような保守ではなくリベラルな傾向があるのか」などについて正しい認識を持つことが重要です。

東京都議会を取り巻く政局構図を理解することで、有権者として構図を理解した上での投票を行うことが可能となり、ギャラリーとしては都議選後の政局予測を楽しむことが出来ます。

なぜ小池百合子は豊洲移転をギリギリまで決断しなかったのか

先日、小池百合子知事は市場移転問題プロジェクトチームの結論を待ってから「豊洲移転」を決断したわけですが、これはあくまでも形式上の話に過ぎません。小池知事の腹は最初から豊洲移転であったことは間違いなく、いつどのタイミングでそれを表明するのか、という問題に過ぎなかったものと思います。

それでは、なぜ小池知事は「決められない」という批判を受けながら、豊洲移転の表明をここまで先延ばしにしてきたのでしょうか。今まで識者らによって豊洲移転、築地再整備、様々な意見が開陳されてきました。しかし、この問題は市場整備の合理性ではなく完全に単なる政局であるため、それらの政策的な説明は的外れなものだと思います。

小池知事が豊洲移転を先送りしてきた理由は「都議会を正常に運営する」ため

小池知事が豊洲移転を先送りしてきた理由は、「政策的なものではなく都議会を正常に運営するためであった、」と考えるべきでしょう。

小池系の都議会議員は、都知事選当初はかがやけTokyoの3名のみであり、現在においても都民ファーストの都議は合計で5名しか存在していません。つまり、都議会を正常に運営するための過半数には遠く及ばず、都議会自民党と対決姿勢を強めた都知事選後に小池都政は早晩行き詰まることが明らかでした。

都議会で過半数を構成するためには、自民党を分裂させるか、公明党を含む他政党の全てを取り込むか、という二択しか存在せず、自民党からの引き抜きは僅か2名しかできなかったことに鑑み、小池知事の選択肢は後者しかなかったものと思われます。そのため、共産党が熱烈に反対する豊洲移転を「ギリギリのタイミングまで遅らせた」というだけのことでしょう。

したがって、小池知事が「決められなかった」理由は都議会与党会派が圧倒的に少数に過ぎないというだけのことだと思われます。仮に小池知事が豊洲移転を早々に決めた場合、それは自民党との中途半端な妥協を意味するとともに、政局運営上はより深刻な問題が生じたものと思われます。

都民ファーストの歪な推薦の乱発状況は都議会での過半数獲得のためのもの

都民ファーストが公明・元民進・ネットなどに推薦を乱発している理由も都議会を運営していくための手段であったとみなすべきでしょう。つまり、自党の推薦を乱発することによって、そのラベルが貼られた議員たちは都議会運営で小池知事に協力するという目印になります。

ただし、普段は都議会に関心が低い東京都の有権者の目から見た場合、都民ファースト公認と無所属or公明orネット・都民ファースト推薦などの良く分からない状況が生まれてしまいました。

一見すると都民ファースト公認&都民ファースト推薦で同一選挙区で複数議席取ることが狙いのように見えますが、これは行きがかり上そうなっただけのことであり、そこそこ強い現職の議員に推薦が出せれば良いという戦術上の判断よりも都議会運営を含めた政局上の判断が優先したと言えるでしょう。

大阪で橋下氏が自公推薦で府知事選挙で勝利したあと、大阪維新が元々自民党の内部会派からスタートし、大阪維新の分裂時に既に一定の候補者数を獲得してきた事情とは大きく異なるものといえます。むしろ、自民党と対決して誕生した小池都政はこれ以外の選択は困難であったと思われます。

東京都議会議員選挙の結果次第で、小池知事は「決められる知事」になる可能性が高い

したがって、東京都議会議員選挙で都民ファーストが躍進し、公明党と連立することで過半数を形成することに成功した場合、小池知事は従来までの妥協的な「決められない」政局運営のスタンスを大きく転換し、十分な指導力を発揮できる体制に移行することになります。

このとき、都議会運営上、共産党に配慮する必要がなくなるため、政策的選択の余地が飛躍的に拡がるものと思います。自民党との間で様々な政策的な交渉が可能となるため、小池知事による自民党からの引き抜きが本格化し、都議会自民党は空中分解していく可能性があります。

逆に、都民ファースト公認・推薦及び公明党で過半数に到達しなかった場合、小池都政は共産党との事実上の連携余地を残す必要があるため、小池知事の支持率は徐々に低下し続けるとともに、都民ファーストの素人議員の不祥事が乱発し、逆に都議会自民党側から都民ファーストの議員が一本釣りで抜かれていくことになるでしょう。

百戦錬磨の自民党の重鎮の当選が確実視される中で、都議会で親小池勢力が過半数を制することが出来るか、は小池都政にとっての生命線となるでしょう。

都議選後、都民ファーストの会の内部の勢力争いも本格化するのではないか

都議選後、もう一つ注目に値する要素は、都民ファーストの会内部の勢力争いです。江戸川区選挙区では、現職の都民ファーストの都議である上田令子氏に宿敵とも言える元民進の女性都議が「推薦ではなく公認」で立候補しています。

これは明らかに当初から小池知事を支持してきた、かがやけTokyoの3名、上田、両角、音喜多の3名を小池知事が排除しようとしているシンボリックな動きと言えるでしょう。

上記のような政局的な流れを受けて同議員らは当初こそは必要であったものの、都民ファーストが大量議席を獲得した際には存在価値が明らかに低下します。まして、自民党からの引き抜きを見据えた場合、非元自民・非元民進系、中途半端に当選回数の多い議員は政局運営上邪魔だと言えるでしょう。

そして、これら3人の選挙区は公明党候補者が存在しているため、公明票獲得という戦術上の融和の余地もなく、民進候補者もいるために連合による支援という靱帯も機能しません。つまり、小池執行部はこの3人の首に鈴をつけることは難しく、早晩同会内での軋轢が表面化していくことになるものと思われます。

都議会といえども議席数は決定的に重要、都議選を10倍楽しむために背景情報を知る必要がある

豊洲問題などについても、メディアは表面的な報道を繰り返しており、都議会議席数の構図にまで踏み込んだ解説がほとんどなされることはありません。したがって、今、何が起きているのか、という基礎的な理解が進むことはありません。

上記の説明の通り、小池知事の行動は都議会での議席数の影響を受けて大きく変わることになるでしょう。筆者は今週のFLASHの取材を受けて、現時点での都議選挙の各選挙区予測を行いましたが、都民ファーストと自民党は過半数ラインを巡って極めて拮抗した戦いをしているものと思っています。予測を楽しんで頂ける方には是非とも同誌を手に取ってみてほしいと思います。

むろん、小池側は現在のまま行くわけもなく、都議選に向けてまだまだ仕掛けを行うものと思います。それらによっても当落の数字はまた前後することになるでしょう。当選と判定させて頂いた方はそのまま頑張ってほしいし、落選とした方も奮起の材料にしてもらえればと思います。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。




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2017年06月10日

なぜ、ホームグロウンテロは起きるのか

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トランプの入国規制に関してテレビで議論になりました

筆者はトランプ政権が実施している入国規制に関しては原則として賛成の立場です。本来は国境も何もない方が良いと思うものの、治安上の現実的な対応としては必要なものだと考えております。

本日出演させて頂きましたテレビ番組で、入国規制はホームグロウンテロ対策に役立たないのではないか、という指摘がありましたが、必ずしもそうとは言えないものと思います。

人間同士が相手に影響力を行使する際に、直接的に顔を合わせてテロに勧誘する行為は他の手法と比べて極めて有効だと思います。したがって、テロリストの可能性がある人物の入国をできるだけ排除することは、ホームグロウンテロを未然に防止することにも役立ちます。

低所得者は社会的不満を抱えているのでテロリストになりやすい、は本当か

筆者は、世間で流通している「低所得者は社会的不満を抱えているのでテロリストになりやすい」は昔の価値観ではないかと思います。下部構造が上部構造に影響を与えるというマルクス史観は一部正しい点はあるものの、テロリストの誕生に関して合理的な説明理由にはならないと思います。

人間の生死をかけた犯罪行為というものは「所得」という下部構造に関係なく、世界構造に対する「認知」の枠組みによるところが大きいものと思います。つまり、高所得者であったとしても低所得者であったとしても、何らかの思想に感染することは有り得ます。

高所得者が常に社会を肯定する理性的な認知を持っており、低所得者は常に社会を否定する狂信的な思想に染まりやすいという認知は、所得差別的な低所得者蔑視ではないかと考えます。そして、オウム真理教の事例でもそうであったように、テロの実行犯は低所得者とは限らないのです。

したがって、テロの原因を所得格差に過度に求めることは、原因と結果の履き違いに至る可能性が高く、現代の「認知操作」に軸を置くテロの「過激化」の前ではほぼ意味をなさないものと思います。テロの懸念は政府による思想の自由への過度の統制を認めない自由社会においては表裏一体のものです。


ホームグロウンテロは防止不可能、不可能な行為を正当化するために自由を制限すべきではない

ホームグロウンテロを防止することは事実上不可能です。なぜなら、テロを促すように人間の認知に影響を与える情報を社会から完全にシャットアウトすることは無理だからです。

人間の認知を左右するためのプログラムは、幾世代も経過する中で育まれる社会的認知行動の変化を必要とするものであり、簡単に変えられるようなものではありません。武力による国民統制、思想的な圧殺を徹底することによってテロを防ぐことはできるかもしれませんが、そのようなデストピアが良いとも思えません。

そのため、多様な価値観を包含する自由主義国家において事前の策として実行できることは水際対策であり、明らかにテロリストとして危険性が高い人物の入国を制限することだけだと言えるでしょう。政府はホームグロウンテロは何らかの方法によって防ぎ得ると主張するでしょうが、そのようなことは原則として無理です。

むしろ、ホームグロウンテロという防ぎようがない対象を防ぐ、という名目で、国民の思想・良心の自由、表現の自由、信仰の自由などに踏み込む各種の規制が整備されていくことのほうが社会にとっては極めて問題だと言えるでしょう。

ホームグロウンテロを防ぐことは困難であり、それ以前の水際対策をしっかりと行うこと、そして起きてしまった犯罪について厳しく処断すること、が何よりも重要であり、政府に全知全能の解決を求めることは間違っています。



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2017年06月09日

トランプ、ロシアゲート、補選、パリ協定、司法長官について

トランプ

トランプ大統領、コミ―証言の本質的な問題とは何か

トランプ大統領を取り巻くロシアゲートの正念場・第一弾のコミ―前FBI長官の上院情報特別委員会での公聴会が実施されました。

トランプ大統領にとって、有利なことは「トランプ氏自体はFBI捜査対象になっていないかった」点、不利なことは「大統領は自分に忠誠を誓うよう強要し、マイケル・フリン前大統領補佐官への捜査を打ち切るように示唆した」点です。後者は特に司法妨害として政敵が問題を複雑化させる可能性がある内容でした。

元々決定的な証拠が出ることは期待されていなかった公聴会であるため、実はコミ―証言は大したものではないと言えます。では、今後重要になる要素は何か、それはトランプ大統領と共和党の上下両院議員との間の信頼関係です。

ロシアゲートの問題を左右する共和党議員からの大統領への信任

トランプ大統領を捜査する機関は、モラー特別検察官、リチャード・バー議員が率いる上院情報委員会、マイク・コナウェイ及びとデビン・ニューネス両議員が率いる下院情報委員会、チャック・グラスリー議員率いる上院司法委員会、ジェイソン・チェイフェッツ議員率いる下院政府改革委員会など、非常に多岐に及んでいます。

今後、上院情報委員会だけでなく他組織による調査などが実施されていくこと、トランプ大統領の腹心である娘婿のジャレド・クシュナー上級顧問や既にロシアとの濃厚な関係が指摘されているカーター・ペイジ外交アドバイザーなどへの公聴会への追及が進む可能性があること、など、コミ―氏の証言を凌ぎきっても政治的には依然としてピンチが続くことは間違いありません。

ただし、いずれの場合もトランプ大統領は上院・下院で過半数を占めている共和党議員からの信頼を固めることができている場合、余程の証拠が出てこない限りは安泰な状況が続くものと思います。

共和党議員及び共和党員からの支持を繋ぎ止めるための一連の行動

トランプ大統領は最近になって急速に保守派回帰を選択するようになりました。

元民主党員のクシュナー上級顧問、ムニューチン財務長官、コーン国家経済会議議長などを重視し、オルト・ライトの顔であったバノン首席戦略官を遠ざけ、レーガン保守派とも距離を取りつつあった方針を見直し、元々の自らの政権基盤を固める動きを強めています。

その最も象徴的な事案が「パリ協定からの脱退」であり、貿易不均衡などの問題をフォーカスする一連の大統領令の連発やTwitterを利用した入国禁止令(当初)を褒める発言や改めて壁の設置を確認する発言でしょう。外交的にも対イラン・ISIS強硬姿勢は共和党支持者を喜ばせるものだと言えます。

これらは崩れかけた共和党、特に保守派からの信頼を回復することで、自らへの弾劾機運を回避するため、共和党議員及び共和党員からの支持を繋ぎ止めようとしていると見ることが妥当です。

トランプ大統領の直近の試練は、ジョージア州の補欠選挙の行方である

トランプ大統領と共和党連邦議員の関係は、トランプ大統領が政策的に共和党議員と同じ方向を志向していることは当然のこととして、何よりも2018年の中間選挙でトランプ大統領が共和党議員を勝たせてくれる存在か否かということにかかっています。

各省長官などの任命によって発生した補欠選挙において、カンザス州やモンタナ州で行われた選挙結果は長官を輩出するほどに共和党有利の州でありながら比較的苦しい選挙結果となりました。

そして、6月20日に予定されているトム・プライス厚生長官の選挙区で予定されているジョージア州の補欠選挙では、民主党候補者が共和党候補者を世論調査で上回っている状況となっています。共和党の目玉政策であるオバマケアの廃止・見直しを所管するトム・プライスの地元で番狂わせが発生した場合、その衝撃は共和党全体のトランプ政権への信任を揺るがすものになる可能性があります。

また、トランプ側近であるジェフ・セッションズ司法長官が辞意を漏らしたと報道されるなど、トランプ大統領を守ろうとするインセンティブを持つ人たちの士気が十分に回復していないことが示唆される状況となっています。

共和党関係者はトランプ大統領を表面的には支持している状況ではあるものの、トランプ大統領が選挙が弱いことが明らかになりつつある現状に鑑み、本音レベルではペンス副大統領の大統領昇格を望む気持ちもあることは確かでしょう。

地雷原を歩き続けることになるトランプ政権

トランプ大統領は極めて党内基盤が弱い大統領であり、共和党主流派とは当初から対立状態または是々非々、共和党保守派は敵の敵は味方という消極的支持、という状況でした。

政権発足から約150日程度経とうとしていますが、トランプ大統領の曖昧な態度によって、共和党各派との関係は深まることはなく一層混迷を深めている現状と言えるでしょう。

また、本来は2018年の中間選挙は共和党にとっては民主党が上院で大勝した年の選挙区が対象になるために有利な環境があるのですが、上院だけでなく下院すら厳しい状況となりつつある今、万が一連邦議会での過半数割れが発生した場合、トランプ大統領の問題は人気期間中蒸し返され続けることになるでしょう。

トランプ大統領の命運は、共和党連邦議員及び共和党支持者からの支持にかかっている状況となっており、トランプ大統領は今後一層選挙戦を意識した政権運営を行うことが求められることになるでしょう。



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2017年05月12日

「禁煙条例」推進者に対する反論

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東京都が推進しようとしている「喫煙禁止条例」に対する考え方

喫煙及び受動喫煙によって発がん性が上がるかどうかについては様々な意見が存在しています。今回はその点について議論するのではなく、「東京都内で屋内で一律に喫煙を禁止する」ことの妥当性について考えてみたいと思います。

東京都が屋内で喫煙を禁止することを正当化する理屈は「それが強制的なものであるか」ということが問われるものと思われます。つまり、喫煙を許可している物件があるとして、非喫煙者が当該物件の利用が不可避であるケースであれば一定の妥当性があり、それ以外については非喫煙者が「利用しない」という選択を行うことで話は終わります。

筆者は既に禁煙していますが、禁煙ファシズムへの抗議の意味を込めて葉巻写真を使い続けています。自分が積極的に行わないことでも他者の自由も最大限尊重する世の中を目指しています。

受動喫煙が懸念される場所の大半は利用者によって「利用しない」という選択が可能

上記の厚生労働省が実施したアンケート調査によると、受動喫煙を体験した多い場所は「飲食店」「遊技場」「職場」「路上」ということになります。

このうち、「飲食店」は喫煙スペースがある店は利用しなければ良いだけの話です。喫煙が人々から嫌われる慣習であればあえて同店舗を利用しなければ潰れていくことでしょう。また、喫煙のみor禁煙のみの店舗はそれぞれの嗜好に合わせた独自店舗として付加価値を提供できます。

つまり、飲食店は利用者の自由意志で店舗が選べるために禁止する必要はありません。この点に関してはパチンコ・競馬場などの「遊技場」も一緒であり、議論の余地はないものと思われます。

次に「職場」についても同様のことが言えます。職場によっては喫煙がそもそも望ましくない職場もあり、それらはCSやESの向上のために各職場が戦略的に実行すべきでしょう。喫煙の有無によって働く人のインセンティブも変わるので、それによって職員の採用に影響が出るのは各職場の経営者の勝手です。

喫煙を望まない優秀な労働者を集めるために積極的に禁煙にするのも良いですし、その逆も然りです。労働価値説が通用するような非生産的な職場であればタバコタイムは無駄なので経営者判断で禁止すべきかと思います。しかし、これも経営者の判断に対して労働者は職場を選べるので、政府が禁止するような話ではありません。

議論がある点は路上と公共施設でしょう。路上や公共施設は喫煙者も非喫煙者も利用を回避することはできない、そして両者ともに納税者でもあることから「分煙」が正しい対応になります。喫煙者・非喫煙者の双方が納得できる形の対応を取るべきです。(WHOが主張するように欧州の一地域の分煙の無効性似に関する特定調査のデータで日本にも同様の規制を求めることは議論が粗雑に過ぎます。)

ちなみに、「家庭」についてはそれほど受動喫煙が嫌なら結婚しないor同居しない、という選択を取ればよいです。または、どの場所で吸うかなどのルールを家庭の自治で決めることが可能なので、一律に禁止することは理屈に合いません。子どもの受動喫煙などは虐待の問題として別途扱うべき問題です。

賃貸物件の場合は、喫煙を許容するか否かは物件オーナーの方針によるところもあり、民間同士の賃貸契約に政府が介入する必要もありません。オーナーと利用者が情報開示を適切に行うことで対応できます。

極めて解像度が荒い国際機関による条約内容を受け入れる国・地方自治体は無能だ

東京都知事や厚生労働大臣が屋内禁煙にこだわっている理由は、国際機関による条約を守らなくてはならない、というインセンティブが存在しているからでしょう。

2005年に日本も批准している「たばこ規制枠組条約」が発効し、受動喫煙の防止対策、製品への警告表示方法、たばこ税引き上げまで盛り込まれています。また、同条約に基づく「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」の中では屋内施設の100%完全禁煙が求められています。

そして、これらの条約の影響もあって、2010年から国際オリンピック委員会と世界保健機関が「たばこの無い五輪」を推進しています。

しかし、筆者は「国際機関が主張している世界の常識」を日本もさっさと受けれ入れろ、という意見には一切与しません。なぜなら、地域における政策はできるだけ住民に近い場所で判断するほうが適切に判断できるからです。

上記のアンケート調査を見ても明らかなように、飲食店などは自由意志で利用の有無を選べるため、一律に禁止する必要はありません。また、遊技場などの屋内施設については議論する余地すらないでしょう。

つまり、国際条約・ガイドラインの立案者は、個々の地域の内情までは情報の非対称性の問題で分からないので一律禁止しろ、と言っているに過ぎず、補完性の原理を無視した全く非効率で非民主主義的な決定に過ぎないからです。

要は政府や地方自治体が国際条約を根拠に自らが定めたい条例制定について法的正当性を訴えることは、自らが住民の個々のニーズや実態を把握できない無能な政府であることを証明しているのです。

また、喫煙によって何らかの特定疾患の医療費が増加するとした場合、その疾患に対して既存のたばこ税の使途を特別に割り当てるだけで良く、従来までのようにたばこ税を一般財源として扱うことがそもそも間違いです。

仮にオリンピックを実施するために質の悪い条例を制定し、国民の自由を制約することを優先するならオリンピックなど必要ありません。



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2017年05月09日

「教育無償化」の憲法明記という思考停止を超えた改革を

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「大学・大学院まで含めた高等教育を受ける権利」=「教育を税金で提供すること」ではない

大学・大学院まで含めた高等教育の教育無償化(税負担化)について、多くの人が根本的に勘違いしていることは「人々が教育を受ける権利を保障すること」を「人々に教育を税金で提供することを保障すること」と勘違いしているということです。

この2つは似ているようで全く違うものを意図的に混同しています。

まして、「大学・大学院まで含めた高等教育の教育無償化」を憲法に明記することは完全な思考停止の産物であり、学生のためにも社会のためにもならなことを説明していきます。

「高等教育を受ける権利を保障する方法」は「税金で保障する以外にも十分に可能」

さて、そもそも大学教育を受けるために人々が必要とする金額は幾らでしょうか。現状の最低価格帯は卒業までに約70万円程度です。これは放送大学などの通信制大学の価格帯の話です。

授業内容という意味では大学教授に中途半端に対面で習うよりも余程しっかりした内容が教えられています。仮に4年間かけて卒業すると仮定した場合、1年間16~17万円、月に1万数千円の負担ということになります。

さらに、筆者も大学に関与する立場を持っていますが、正直に言ってしまえば「4年間も大学に物理的に通う必要性」は教育を受けるだけならありません。むしろ、現状の大学は毎週ごとに自分の著作を教科書に指定する教授の話を一章づつ延々と聞くだけの授業が多く、指定された教科書を一冊読み切って理解すれば単位が取れる課目が大半です。

大学教育が高くつく理由は、研究者が教室でダラダラと4年間も教える、という現状の大学の高コスト体質が問題なだけでしょう。奨学金問題は役に立たない授業をダラダラと提供し、その教育価値も良く考えずに金を貸す体制にこそ原因があります。大学の授業の方法は時間コスト・金銭コストも含めて理にかなったものではありません。

人々に等しく大学教育を提供するためには、現状の古臭い対面形式の授業ではなく、各課目をオンライン化して低価格で効率的に提供することで対応できます。誰もが研究者になるわけではないので、専門分野の最低限の知識を享受できる環境の構築ができれば大半の学生の教育には十分です。

上記の月1万円のコストを負担できない人はそもそもやる気がないと看做して良いでしょう。どうしても、それでも全ての人に月1万円を払ってあげたいという方は私設の奨学金を用意してあげてください。皆さんの給料の一部からでも払えます。

「インドの大学」で見かけたドイツの大学のオンライン授業の営業活動

筆者がインドの大学に仕事で訪れていた際に、偶然にもドイツの大学関係者が来印して当該インドの大学の関係者とビジネスミーティングを開いているところに出くわしました。

ドイツの大学関係者の人々は、インダストリー4.0などの最近のドイツの工業事情も踏まえた非常に質の高いオンライン授業のパッケージを構築しており、英語が比較的得意なインドの学生向けに同パッケージの営業活動に来ていました。筆者は話の流れでプレゼンテーションの場に同席することになり、大いに感銘を受けた事を覚えています。

インドは大学が一大産業となっており、筆者がお会いした大学経営者も6大学を経営しているというビジネスオーナーでした。その下で働くスタッフもドイツのオンライン授業がどのように学生に役立つのかを真剣に質問していました。卒業生の質の確保も含めた激しい競争下にあるインドの大学の姿は日本の牧歌的な雰囲気の大学とは趣が違うものでした。(ちなみに、このインドの大学は中の下ぐらいのレベルです。)

上記の話は授業のオンライン化などが世界的にも進展しているという教育環境の変化の一つの事例です。もはや対面で授業を行う必要がなくなっているだけでなく、他国の大学の優れた授業をオンラインで受講することが可能な状況が生まれつつあり、日本の大学教育も根本から見直しを検討するべきでしょう。

「高等教育の教育無償化(税負担化)」の憲法明記は教育の形を固定化して時代遅れにする

大学・大学院まで含めた教育無償化(税負担化)をどのように憲法に盛り込むのか、は議論があるところですが、憲法は一度制定されると再度改正することは極めて困難だと思われます。

そして、これらの税負担を前提とした大学・大学院の教育は、世の中の流れについていくことは極めて困難でしょう。なぜなら、政府の保護によって自由市場からの影響を排除した形になるため、教育機関間の健全な競争が働かず、社会からの要請への感度が下がることになるからです。

政府が大学を厳しく管理して競争を促すという発想もありますが、そのような発想はそもそも研究や教育というものを全く理解していないものです。政府が認定する教育内容というものは社会的に権威化されたorポリティカルコレクトネスにかなうものだけになる可能性が高いと思われます。

したがって、そのような大学教育は時々の支配的な思想・方法論に盲従するだけとなり、社会に革新をもたらすような優れた教育は行われないでしょう。学生に既に化石化しつつある教育内容を延々と受けさせることが「学生や社会のためになるのか」ということは良く考えたほうが良いと思います。

また、筆者は、シグナリング効果を除けば、大学・大学院という教育モデルが存在価値が問われる過渡期に突入していると感じています。社会から大学・大学院という教育の形が有効なものといつまで看做され続けるか疑問です。(大学によってはほぼ意味がないものと既に看做されているケースも少なくありません。)

そのため、教育環境自体が過渡期にある中で、大学・大学院を前提とした教育無償化(税負担化)を盛り込むことが実際には社会の革新を妨げることすらあり得ると感じます。

最後に、税金ジャブジャブで運営されるような機関は、新たな天下り先となることは必然であり、学生のための教育ではなく文科省と大学関係者が暮らしていくためのものになるだけです。社会を停滞させる利権作りはもう沢山です。

「正しい改革」の基本は「利用者側」ではなく「供給側」を改革すること

「特定の社会的なサービスを受けられないから、サービス利用者にお金を配る(税負担)」という発想は良いサービスも生まれなければ利用者のモラルハザードも生みだします。また、現状の制度・サービスの革新を考える必要もなく、単純に金をばらまく思考停止そのものです。

「全ての人にサービスを受ける権利を保障する」と言えば聞こえが良いですが、時代遅れのサービスを全ての人に提供することは間違いでしょう。また、サービス利用者がサービスの利用に適切にコミットするインセンティブを与えることも当然に考慮すべきものです。したがって、サービスの対価を税金で賄えば良いという単純な話ではありません。

本当に必要なことはサービスの供給側の改革であり、現状の高価格・低品質・長期間かかるサービスを、低価格・高品質・短期間で利用できるサービスに変更するために知恵を絞ることです。

サービス利用者を甘やかす行為は結果としてサービス供給者の怠慢を生みだし、結果としてサービス利用者の便益が低下することに繋がります。

「政府が税金で負担することが人々の権利を保障することだ」という思い込みはソヴィエトが存在していた頃から現役の人たちの時代で終わりにしてください。

そして、現代を生きる若者は自分たちがどのような教育を受けるべきなのか、を真剣に考えてほしいと思います。



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2017年05月05日

憲法9条と防衛大臣、本当に議論されるべきことは何か

稲田

憲法9条改正で多くの国民が勘違いしていることとは何か

安倍首相が中途半端な憲法改正を打ち出したこともあり、左も右からも憲法論議が少しだけ盛んになっているように思います。

ただし、筆者は憲法9条については改憲論者(現状の著しく不合理な内容は改正すべき)ですが、そもそも憲法改正論議などという不毛な議論に政治的資源を割り当てることは論外だと思っています。

左も右も「憲法があるから戦争が起きない」とか「憲法を改正すれば中国・北朝鮮に勝てる(または抑止になる」とか、低レベルな議論はいい加減にするべきでしょう。

はっきり言いますが、「憲法」を議論すること、「安全保障・防衛政策」を議論すること、まして「戦争を議論すること」は全く別物です。

憲法があるから戦争が起きない、憲法9条を改正するから抑止になる、のでもなく、米軍・自衛隊の具体的な戦力及び日米に国際環境を形成する外交能力があるから物理的な戦争が起きていないだけです。

憲法の内容を変えることで戦争開始・戦争勝敗に影響があると思う「呪術志向」の人たちは実際の安保・防衛政策や戦争について議論することは危険なのでやめてほしいです。

象徴としての憲法9条改正を主張する首相と全く無能な防衛大臣の組み合わせ

安倍首相は憲法9条改正を主張していますが、実際の安全保障政策・防衛政策にどこまで関心を持っているのか極めて疑問です。

なぜなら、安全保障・防衛政策を所管している防衛大臣に不適格な人事を行っているからです。国会答弁の最中に泣き始めるような感情的な人物を防衛大臣に任命していることは話になりません。また、スーダンのPKOに関する日記問題では組織を全く統率できていないことも明らかになりました。

別の国会の場面では、稲田大臣は長島昭久衆議院議員に「特定の自衛隊の具体的な装備内容・予算」について問われて「事前通告が無かったので答えられない」と答弁していましたが、嫌がらせ的なクイズはダメとしても事前通告がなかった場合に如何なる兵装についてなら答えられるのでしょうか。法務・総務・財金畑のド素人を防衛大臣の席につけた責任は重いと思います。

また、外交交渉を担う岸田外務大臣は安倍首相にとっては現在政敵とも言える人物です。現在、重要な外交交渉は官邸主導で実施しているように見えますし、防衛・外務両大臣がまともに機能しているか不安を覚えます。

安倍首相が憲法9条改正を議論してもかまいませんが、現在の安全保障・防衛・外交政策の人事的な意味での適切化を行う方が先であるかことは明らかです。

まさか安倍首相は憲法9条改正が目の前の安全保障・防衛・外交の具体的な問題よりも大事だと思っているとは思いませんが、仮に今すぐ戦争になった場合に「稲田防衛大臣」「岸田外務大臣」で十分に戦えないでしょう。

憲法9条と安全保障・防衛政策・外交交渉は別物、具体論を議論する時代に

国民の多くは左右の識者たちの議論によって、憲法9条改正と安全保障・防衛・外交が結びついているように錯覚させられています。しかし、安全保障・防衛政策・外交交渉は具体論であって憲法9条と現実の戦争は直接的には関係ありません。

政府答弁によって攻撃的兵器を持つことは憲法上禁止されているとされていますが、このような地理的な概念に制約された兵器概念自体が時代遅れであり、不合理な政府答弁が見直されることは必然だと思います。したがって、このようなことも議論するまでもなく見直されるべきものであり、現行憲法下でも内容の見直しは可能です。(昨年の安保法制で事実上見直されたものと理解しています。)

その上で、国際環境形成、自衛隊の目的、装備内容、運用の実際などが体系だった議論によって行われていくべきです。日本の安全保障を守るために必要な議論とは、防衛大綱や中期防でどのような兵力を揃えていくべきか、などの具体論です。

国会議員のうち何名が日本の具体的な兵装の在り方についてまともに話ができるでしょうか。まして、現実妥当な装備計画、予算、運用について議論できる人は少数しかいないはずです。これが世界有数の軍事費支出を行っている日本という国の現状なのです。

また、北朝鮮への日本自らによる制裁だけでなく、米国に言われるまでもなく北朝鮮の貿易相手国に積極的に制裁を行うことを確約させるよう動くべきでした。米国の指示で慌てて関係国への働きかけを行っている日本の姿は悲しくなります。

国力の基本は経済力と外交能力であり、各国はその制約下で兵装を整えていくことが求められます。闇雲な軍拡はかえって国力を削ぐ結果を生みだすため、憲法改正したとしても軍拡をすれば良いという問題ではないのです。現在の国会の議論の状況ではどのみち実際の戦争に対応することは困難かと思います。

安保法制の議論の時の左派のような愚かな議論は必要ありませんし、ほぼド素人と言っても過言ではない防衛大臣を任命している場合でもありません。そして、国民もいつまでも憲法9条改正という、実際にはどうでも良い話題にかまけているべきではないでしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2017年04月27日

クリスチャントゥデイで「トランプの黒幕」の書評を頂きました。

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クリスチャントゥデイで「トランプの黒幕」の書評を取り上げて頂きました

神学書を読む(14)渡瀬裕哉著『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』

キリスト教系メディアであるクリスチャントゥデイで拙著『トランプの黒幕』の書評を取り上げて頂きました。

自分は洋の東西問わず神学や思想書が好きで結構読むことが多いので、同メディアで書評を頂いたことは新鮮であるとともに素直に嬉しいです。本書がキリスト教者の皆様のトランプ政権理解に少しでもお役立ちできれば著者として幸甚です。

トランプ政権とキリスト教の関係、その協調と緊張関係についての考察

トランプ政権は、共和党支持者が持つ極端なリベラルを排した素朴な倫理観を代表する政権であり、選挙戦の時には「ヒラリーでなければ良い」という敵の敵は味方という理屈もあって、特に共和党保守派が押し上げて作った政権です。その結果として、最高裁判事の人事などでは保守派のゴーサッチ氏が選任されるとともに、中絶を巡るメキシコシティポリシーの問題などでは成果を上げるに至っています。

しかし、トランプ自身は必ずしも敬虔なキリスト教徒ではなく保守派の体現する倫理観を共有している存在とは言えません。トランプは政敵に勝つために自身の思想信条をコントロールするタイプの人物であり、まさに商人スタイルの政治家ということが言えると思います。

したがって、トランプ政権と保守派(≒福音派)の間では政権の裏側では緊張関係が続くとともに、クシュナーなどの元民主党員が政権内で台頭することによる軋轢は高まるものと推測されます。

書評が増えてくると結構嬉しい、ということ

拙著『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』最初はどんな辛口の書評が出てくるだろうか、もしくは全く書評もつかないのではないか、と懸念していましたが、意外と様々なところで書評に取り上げて頂けるようになってきました。

相変わらずリベラルな大手メディアは国際政治学者らの「的外れなトランプ本」の書評ばかりを取り上げておススメしていますが、今回キリスト教福音派の研究をされているような「米国の実相に近い方」から評価頂けることは非常に光栄です。感謝いたします。



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2017年04月15日

#FireKushner がトランプ支持者の間で流行っている

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(CNNから引用、オバマケア代替法案成立失敗時にスキーに出かけていたクシュナー一家)

共和党保守派によるトランプ・ファミリーへの逆襲開始

トランプの黒幕?何故、クシュナーは台頭しているのか

を投稿したら、Twitterのハッシュタグで #FireKushnerが増加していることに気が付きました。

米国民の保守派はホワイトハウスで何が起きているのかを理解しているようです。嫌々ながらも選挙で応援してきた保守派の人々を裏切って、主流派や民主党出身者を重用しようというのだから、保守派から逆襲されて当然と言えるでしょう。

保守派とトランプの間の蜜月関係にもヒビが入ることになるだろう

トランプも直径家族であるクシュナーを安易に退けることは難しいため、上記の対立関係が深刻化した場合、トランプ政権自体を事実上レイムダック化させるところまで行く可能性すらあります。

原則として「保守派は裏切り者を許さない」傾向があります。元々保守派の運動団体は納税者保護誓約書に署名しなかったトランプと彼の取り巻きのリベラル傾向を警戒しており、今回のクシュナーの台頭に象徴されるようなトランプのリベラル回帰をある程度予測していたと言えるでしょう。

実際、バノンの降格をきっかけとして反クシュナー(主流派・民主党出身者)のキャンペーンが貼られたことは、保守派の意見表明、ということになります。これらの草の根ネットワークによる反クシュナー運動が盛り上がると、共和党議会の保守派対策にも影響が出ることになります。

また、クシュナーは議会でロシアとの繋がりを糾弾されつつありますが、こちらも共和党保守派が庇わなくなった場合、かなりの窮地に立たされることが予想されます。

政治家事務所などの鉄則としてはNo2に家族をおいてはならないということ

これは日本でも言えることですが、事務所のNo2に家族をつけることは望ましくないこと、ということです。息子などを政治的な後継者する場合は例外ではあるものの、何らかの形で家族に批判が寄せられた場合、その批判は家族だけではなく政治家本人にまで及んでしまうからです。

トランプが家族を信用するというのは理解できますが、クシュナーやイヴァンカをホワイトハウスに招き入れたことは政治的な悪手だと言えます。No2を悪者にしてトップへの批判を回避するという伝統的な政治的やりくりの手法を採用することができないからです。

現状はまだ保守派の運動団体の一部に火が付き始めた段階であり、トランプは対処を誤らなければボヤで済ませることができるはずです。しかし、一度保守派を敵に回してしまうと大炎上することになって議会対策どころではなくなることになるでしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 21:30|PermalinkComments(0)

トランプの黒幕?何故クシュナーは台頭しているのか

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ジャレド・クシュナー大統領上級顧問の力が強まってきているとされているが・・・

当ブログでは、トランプの黒幕と噂されていたスティーブ・バノンについて、

トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置

の記事などで砂上の楼閣であり、その影響力の低下の可能性について触れてきました。当時は何も知らない日本の有識者らがバノンを黒幕として恥ずかしい動画などをネットに公開したり、陰謀論めいた論説を記事公開・出版などを行っていました。(ちなみに、筆者の著作である『トランプの黒幕』はバノンのことを指しているわけではありません。)

現在、バノンの影響力が相対的に低下しており、代わりにクシュナー上級顧問の影響力が強まっていることから「クシュナーこそが黒幕だ!」という妄言が再び出てくるようになっています。娘のイヴァンカがシリア攻撃を決断させた要因だったとか、本当にひどい言説がばかりで面白いものです。

きっと、もう少ししたらトランプの「頭」の中にクシュナーが乗って操縦しているような表紙のトンデモ本が出版されることになることでしょう。

クシュナーの影響力の源泉は、共和党主流派・ウォール街とのパイプ役として

トランプ政権のホワイトハウス及び主要閣僚は共和党保守派によってほぼ独占されている状況となっています。そのため、それらと対立する共和党主流派・ウォール街が政権にアクセスするルートは限られていることになります。

クシュナーはゲーリー・コーン国家経済会議議長とムニューチン財務長官とも親しい元民主党員です。コーンも民主党員であり、ムニューチンはリベラルの影響が強いハリウッドでも活躍していた投資家です。(二人ともGS出身であり、クシュナーと親しいことも要因の一つとなって政権入りしています。)したがって、共和党内部では保守派よりも民主党に近い主流派寄りの人物と言えます。

現在のトランプ政権では、このNY派の人々を通じた共和党主流派・ウォール街による政権へのハイジャックが起きようとしている状況です。つまり、トランプ政権を誕生させた保守派、そしてオルトライト的な傾向がある面々の立場が弱まり、選挙時にはトランプに敵対していたはずの主流派・ウォール街がホワイトハウスの新たな主になるべく蠢いている状況です。

クシュナーはトランプに近い立場にある非保守派の人間であることから、彼らの代理人としての影響力を強めている状況にあります。保守派の特攻隊員的な位置づけであるバノンの力が低下し、クシュナーの力が伸びていることはホワイトハウス内の保守派・主流派の両派の力関係の変化を示すバロメーターとなっています。

したがって、黒幕というよりも、バノンもクシュナ―も党内の勢力争いの状況を観測するための観測球のような役割を担っていると言えるでしょう。

トランプは元々保守派ではないリベラル・民主党員・ニューヨーカー

トランプ大統領は多くの人が勘違いしているように保守派の人ではありません。民主党系の人々やメディアが滅茶苦茶なバッシングを行っていますが、むしろ過去にはクリントンにも献金していたリベラル派の人物であり、ニューヨークでの大富豪でもあります。

彼は近年民主党での大統領選挙出馬の可能性が無くなったことから急速に共和党保守派に接近してきた人物であり、今回の大統領選挙では「敵の敵は味方」(ヒラリーの敵は味方)の論理で、保守派が仕方なく応援して誕生した大統領です。

トランプ自体は選挙時の選対本部長もコーク系のリバタリアン団体出身のコーリー・ルワンドウスキー、主流派のポール・マナフォート、保守派のケリーアン・コンウェイとその都度必要に応じて全く主義主張の異なる人々を採用する蝙蝠のような行動をしてきています。

そのため、ホワイトハウスの要職は最後に協力していた保守派が占めていましたが、トランプと保守派は潜在的な緊張関係にあり、クシュナーの存在、ましてイヴァンカのホワイトハウス入りは保守派はあまり快くは感じていないものと思われます。

実際、トランプは政権発足当初は保守派に配慮した運営を行ってきましたが、徐々に保守派色を弱める政策対応を行ってきています。その結果として、トランプ一族が持つリベラルなエリート傾向とワシントン政治の一掃を求める保守派との間で亀裂が生じつつあります。

大統領選挙で応援した人々を敵に回す大統領に未来はあるのか?

トランプはバノンの処遇を問われて「バノンは選挙の終盤で合流しただけだ」と発言しました。

それはケリーアン・コンウェイを含めた保守派の運動団体全般にも該当する発言であり、筆者はオバマケア代替法案先送りの際にトランプが「フリーダムコーカスは敵だ」と言い放った時よりも政局運営上深刻な発言だったと感じています。

トランプ政権はオバマケア代替法案の失敗の経験からワシントン政治に漬かったやり方に方針転換し、非常にきめ細やかな議会対応を行うようになってきています。これは政権運営上プラスではあるものの、トランプは政権を支える自らの屋台骨の入れ替え(保守派から主流派・民主党へ)に着手したように見えます。

はたして、トランプ政権の方針転換を保守派がどこまで容認するでしょうか。

保守派は最高裁判事の任命で同じ保守派のゴーサッチ氏が任命されるまでは、選挙で応援してきたはずのトランプによる保守派に対する無礼な発言に対して我慢してきたものと想定されます。しかし、ゴーサッチ氏の上院承認が行われた以上、今後はトランプ一族によるホワイトハウスの塗り替えを許容し続けることはないでしょう。

差し当たって、債務上限問題、税制改革、インフラ投資など、様々な議会案件について保守派による巻き返しが行われていくことになるものと想定されます。トランプは自らの唯一の政権基盤(≒保守派)をひっくり返す博打を打ちつつあるわけですが、それが功を奏す可能性は高くありません。

政権発足から約100日、対外的な緊張も高まる中で米国内の政局は更なる混沌に陥りつつあります。



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2017年04月06日

バノンが「トランプの黒幕」ではないのは当たり前だ

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(ひぐらしのなく頃に、から引用)

スティーブ・バノンは重要人物だが「黒幕」と呼べるほどの存在ではない

トランプ大統領誕生以来、新設の首席戦略官というポストに就任したスティーブ・バノンは「トランプの黒幕」と表現されてきました。バノンの存在は米国共和党のことを良く知らない「ど素人」の有識者らには格好のネタだったのだと思います。

筆者はバノンについては「トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置」でも指摘してきた通り、「バノンのトランプ政権内での立ち位置は共和党内の派閥争いの微妙な均衡の上に成り立つ砂上の楼閣」として評価してきました。

今回NSC常席からバノンが外されたことについてトランプ政権は理由をつけて大したことがないように表現していますが、同政権内での力関係に変化が生じつつあることは明らかです。

トランプの黒幕は「トランプ政権を作った共和党保守派」の人々である

3月31日発刊した拙著は「トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体」(祥伝社)というタイトルで、全国の書店に置いていただいています。もちろんバノン単体をトランプの黒幕だと断定する内容ではありません。

しかし、正直言って、「バノン」や「クシュナー」、挙句の果てには「イヴァンカ」がトランプの黒幕であるというトンデモ解説が溢れており、Googleで「トランプの黒幕」のワードを検索するとロクな分析が出てこない有り様です。

トランプ政権を作った原動力であり、現在も同政権を支えている人々は「共和党保守派の人々」です。小さな政府などの保守的な価値観、建国の理念を信じる人々の集団、そのリーダーたちがトランプ政権を支えています。

その多くはレーガン政権時代から続く保守派の流れの中で育ってきたプロフェッショナルです。彼らは黒幕というよりも本来は「黒子」という表現が正しいかもしれないと思っています。

バノンはマーサー(メルセル)財団という新興のパトロンを背景とした保守派内の新参勢力に過ぎず、トランプを支える保守派の中では明らかに浮いた存在です。実際に共和党保守派の重鎮らに会って話を聞けばバノンとの距離が離れていることは直ぐに分かることであり、彼をトランプをコントロールする黒幕として過大評価してきた有識者らは共和党のことを何も知らない人たちです。

選挙戦の経緯からトランプ政権にマーサーの意向が強く反映する傾向はあるものの、現在ではバノンは局的な下手を打ち過ぎたことから影響力の低下が起きていることは明らかでしょう。

ライアンケアの先送り後、急速に議会対策を綿密に行うようになったトランプ政権

ライアンケア(オバマケア代替法案)の先送り後、トランプ政権は議会対策・政局対策の面で極めて巧みな動きを見せるようになってきています。

切り崩し可能な様々な議連に接触したり、法案に反対しそうな個別の議員の説得に応じたり、保守派の重要人物らの囲い込みに走ったり、と今までにない積極的な対応を行うようになってきました。

ワシントン政治への対応力の急速な向上は、政権発足以来政局を担ってきたバノンから共和党の生え抜きの人々に議会対策・政局対策の主導権が移ったことを示唆しています。

また、バノンはテロリスト渡航防止法対象国からの入国禁止大統領令の積極的な推進者であり、彼のスタッフであるセバスチャン・ゴルカはグローバル・ジハード論者です。

この観点から保守派内のリバタリアン陣営(≒フリーダムコーカス)を率いる大富豪のコーク兄弟と対立してきましたが、バノンがNSC常任から外れることはコーク兄弟に対してトランプが議会対策の観点も踏まえて一定の恭順の意を示したものと捉えるべきでしょう。

ちなみに、バノンが外れるとともに、コーツ国家情報長官、ダンフォード統合参謀本部議長、常任に復帰、エネルギー長官、中央情報局長官、国連大使が追加されたところを見ると、これは5月19日のイラン大統領選で反米強硬派が勝利する可能性をを踏まえた布陣を敷いたと見るべきです。

トランプ政権を偏見や陰謀論で語る「小説」ではなく「分析・考察」が必要だ

現在、トランプ政権が発足してから随分と時が経った状況となっています。それにも関わらず、書店のトランプ本コーナーには相変わらず、国内の有識者の人々による偏見や陰謀論まがいの書籍が大量に並んだままです。

筆者は「バノン、クシュナー、イヴァンカなどがトランプの黒幕だ!」というトンデモ話をそろそろやめるべきだと確信しています。それらは小説的な読み物としては面白いかもしれませんが、トランプ政権を真剣に理解しようと思っている人には害悪でしかありません。

我々日本人もトランプ政権に対して真面目に「分析」と「考察」を行っていく段階となっています。


*下記の拙著をご覧いただければ米国で何が起きているのか、は論理的に分かります。


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