タックスイーター
2018年02月10日
東京23区大学定員抑制に思う。何故、若者が東京に出ていくのか?
東京23区への大学定員抑制を10年間続けることで若者の東京流入を抑制するという極めて愚かな法案が閣議決定されました。法案には地方大学及び産業振興のための交付金も盛り込まれていますが、毛沢東ばりの現代版・下放政策として自民党の歴史的愚策として名を残すことになることでしょう。
地方の根本的な問題は、県庁・市役所・寡占化された企業による「風通しの悪い疑似封建制」に嫌気を指した若者が流出しているに過ぎません。自分の未来が生まれによってほぼ決定している場所から前途有望な若者が出ていくだけです。今回の定員抑制のように「領民が支配地域の外に出ることを防止するために関所を作ってしまえ」と言わんばかりのボス猿の田舎政治の発想には呆れるばかりです。
東京は日本各地からの人々が集まります。地元ではボス扱いされている役所・企業も東京に出てきてしまえば全体の中の1つでしかなく、地方と違って一握りの人々が東京を支配することはできません。若者は東京の自由で開かれた気風に惹かれて上京し、そこで個人の努力に応じたそれなりの機会を得ることができます。
したがって、18歳以下の人口が減少する日本社会においてはそもそも東京への進学意欲が減少するわけがなく、大学定員を抑制したところで東京への人口流入が止まることはないでしょう。
一方、最近では東京の大学も東京出身者の比率が高まりつつあり、東京の多様性・自由闊達な空気が退行する可能性が出てきたように感じます。
東京は域外からもっと人材を受け入れるべきですが、その送り出し元が日本の地方である必要性はありません。東京に存在している私立大学はピンキリであり、どうしようもない下位大学はそもそも必要なく、同様にそれらの大学の学生を地方から受け入れなくても問題ありません。
むしろ、大学定員抑制の例外とされている、海外大学の積極的な誘致及び留学生を獲得し、既存の東京の大学と積極的に競争させることで大学教育の質の向上を図ることが重要です。東京は日本最大のグローバル都市として、地方を相手にするのではなく、あくまでも世界と向き合っていくべきです。日本の中での序列はコップの中での小さな話であり、世界に開かれた競争を促進することで教育の質の改善を行うことが望まれます。
また、意欲がある人材は地方で大学を出た後に東京に出てくるので、東京側はそれらの人々のための専門職大学院の質を高める努力をしたほうが良いでしょう。地方に対して学部レベルでの争いではなく大学院レベルで決定的な差異が生まれるように高等教育の差別化を図るべきです。
「自分たちの領土から領民を逃さない」ための政策を臆面もなく実行するボス猿政治に支配された地方に未来はありません。腐りきった風通しの悪い政治・社会・経済構造が若者の流出を生み出していることは明らかです。
東京は従来までの日本全国から人が集まる風通しの良さに加えて、世界から人が集まる風通しの良さを手にし、地方の発想とは全く別次元の進化を遂げる方向に舵を切るべきです。その結果として、東京の自由な空気は若者を惹きつけ続けることでしょう。
2018年01月14日
東京都の真の改革は前年よりも予算を減らすことだ
東京都の2018年度予算編成に向けて関係各局からの予算要求を査定する「知事査定」が正月明けの1月4日からスタートしています。
都税収入は景気が好調なことから法人関連の税収が前年比で1千億円超増加し、新年度の予算は前年当初予算の7兆110億円に迫る見通しとなっています。これは政策的経費が増加したことに原因があり、オリンピック関連予算や無電柱化などの予算要求が行われた結果です。
一方、都債は16年度決算の都債残高5兆4342億円が増加しないように調整し、将来世代に過度な負債を残さないための配慮も行われています。そのため、流行のエビデンス・ベースの事業費の見直しや事業へのサンセット条項の適用などを実施して870億円程度の予算の見直しが行われることになりました。
東京都の予算見直し努力は着実に進展しつつあり、都債残高の抑制や事業費見直しは一定の評価をすべきものと考えます。ただし、税収増やオリンピックなどが背景として存在するものの、今後の予算査定の中で東京都の一般会計予算が前年を上回る規模に膨らむ可能性があることは極めて遺憾です。
従来型の政治は「〇〇に予算をつけた!」ことばかりが「政策的な成果」として強調されることが多いのですが、そのような過去の時代感覚を終わらせていくことが大事です。
東京都の予算が膨れ上がるということは、企業による自発的な設備投資や個人による消費活動、それに伴うイノベーションの原資を奪っていることになります。本来、地方交付税を受け取っていない東京都には減税政策の実施という更なる景気浮揚策を実行できる可能性もあります。(ちなみに、野党都議会自民党の公約は個人住民税10%削減でした。)
たとえ減税政策を実行することは難しくとも、東京都も中長期的には高齢化問題を避けることは困難であり、社会保障費の支出を抑制しつつも将来的な財政難に備えて都債返済や基金の積み立てを行うことも重視されるべきです。
小池都知事は「高齢社会が東京が直面するテーマである」としてメディア取材に対して繰り返し述べていますが、単なるバラマキ政策の実施というよりも生涯現役の発想に立ったシニア世代の頑張りを生かすこと、つまり予算よりも考え方の転換を主張されています。
筆者も徒に予算をつけることを推進するよりも「更なる支出を抑制するために何ができるのか」ということを真剣に向き合うべきという考え方に賛成します。
そのためには「予算を増加させること(≒新しい政策を始めること)」が政治家の仕事であるという古い思考を捨て去る必要があり、メディアも「予算抑制や将来への備えをどれだけ実施しているのか」という観点から都市経営の在り方を見直した報道を行うことが重要です。
残念ながら、高度経済成長期の残滓をいまだに引きずる日本政治は「〇〇に予算をつけました!」ということが話題になる文化が残っています。そして、地方からこのような発想転換を主導することはほぼ不可能でしょう。
小池知事・都民ファーストの会(知事・与党)がこのような古い政治を捨て去って、責任ある政治、そして都市経営を行っていくことを望みます。
2018年01月09日
「2対1ルール」トランプ規制改革の驚異の経済効果
(Trump HPから引用)
トランプ大統領は「『規制産業』を終わらせる。」と選挙キャンペーン中から主張してきましたがが、2017年に大統領職としてその公約を達成してきました。(共和党HP)
前任者のオバマ大統領は「規制大王」であって、その任期期間中2007~15年に2万本以上の規制を交付し、規制による経済的な累積損失を年間$1080Billion(10兆円以上)も与えてきた人物だということはあまり知られていません。(ヘリテージ財団調べ)
一方、トランプ大統領は最初の1週間で大統領13771を発令し、新たな規制を1つ作るためには2つの既存の規制を廃止することを連邦政府機関に義務付け、規制コストが民間経済に与える影響を慎重に管理するように指示しました。「2対1ルール」と呼ばれる新しいルールの下では、法律で義務付けられない限り、行政予算管理局は新たな1つの規制のコストが2つの規制による廃止コストを上回らないように管理しなくてはなりません。
その結果としては、トランプ政権は新たな規制1本につき22本の規制を廃止するという驚異的な成果を生み出しました。また、2017年中に連邦政府は計画されていた1579本の規制について、635本を撤回し、244本が活動停止、700本が延期されることになりました。これによってトランプ政権は2017年だけで連保政府機関は、将来にわたる$8.1Billion(約1兆円弱)、そして年間$570Millionの経済損失を削減することに成功しました。ホワイトハウスによると2018年にはやはり将来にわたる規制コストを$9.8Billion削減することが約束されています。(The White House)
主に規制が緩和された分野は農業、インフラ、エネルギー産業です。特にエネルギー分野に対する規制廃止は顕著であり、石炭産業に対するオバマ大統領による失業作りをひっくり返し、政府による石炭産業への戦争を終わらせた状態となっています。また、ゴーサッチ氏の最高裁判事への任命、そして12の連邦高等裁判所で指名者を任命することに成功しており、今後数十年間の裁判所の法案形成にもインパクトを与えるものと想定されます。
以上のように、トランプ大統領は規制改革に関して歴代大統領でも成し遂げられない大改革を実はシレっと実行していたことになります。そのため、規制にぶら下がってご飯を食べている連邦職員や学者などからの評判は最悪であり、それらを情報源としているリベラル系のマスメディアによる報道内容も散々なものになっているわけです。
一方、トランプ政権の規制改革の恩恵を受けた民間の企業や労働者はその成果を理解しており、トランプ政権への評価は高いものとなっています。ただし、彼らの意見は全くメディアには乗らないために日本人はほとんど声を耳にすることはありません。
日本ではこのような規制コストが計算されて発表されることは皆無です。それは大半の学者が行政機関の御用学者となっていること、政府が自らの政策がもたらす説明責任を果たさないこと、そして小さな政府を是とする政党が存在しないことに起因します。つまり、トランプ大統領が「終わらせる」とした規制産業が日本では野放しになっているのです。
日本では1990年代から失われた時代で「立法爆発」という現象が発生し、2017年3月段階で1970年代の約2倍となる1967本の法律を含む合計8307本以上の法令が施行されるようになりました。(規制数はそれ以上の数が当然存在します。)
このような規制を増やし続けていければ日本経済の成長が鈍ることは必然であり、日本でも規制による経済損失の計算が公表されて規制改革の議論が進むことを期待します。
2017年07月29日
オバマケア・国境税調整、既得権に屈服したトランプ政権
Drain the swamp(ワシントン政治の沼掃除)の夢は潰えた
オバマケア見直し・廃止法案、そして縮小版のスキニー法案も、トランプと敵対する大富豪のコークの支援を受けるフリーダムコーカスと事実上民主党員と同じ行動を行うRepublican In Name Only(名ばかり共和党員)の抵抗にあって、連邦上院の採決で頓挫することになりました。
連邦上院は共和党52議席対民主党系48議席ではあるものの、スーザン・コリンズ上院議員に代表される名ばかり共和党員が多数存在しているため、実質的に共和党は過半数ギリギリの議席を確保しているだけに過ぎません。そのため、名ばかり共和党員らが数名反旗を翻すだけで、Drain The Swmp(ワシントン政治の沼掃除)を求める共和党保守派の夢は潰えることになります。
共和党保守派にとっての悪夢は、オバマケアの廃止・見直しの道が途絶えたこと、そして税制改革案から国境税調整が排除されることで、法人税や所得税の恒久的な大規模減税を求める財源は消滅することになったことです。つまり、当初トランプ大統領が15%、共和党保守派が目指した20%の法人税率を実現することは不可能となり、約27~28%程度の減税(大企業の多くは既存制度を利用して既に達成)に留まり、事実上の意味がほとんど無くなることになります。
また、国境税調整という一律のルールによる財源が無くなることで、恒久的な税制改革を実施するためには、各産業への個別の細かい課税案の議論が必要となり、腐敗したロビーによるワシントン政治ビジネスは益々活発化することになるでしょう。個別の業界団体との交渉は政治腐敗の温床であり、トランプ政権を奪取するにあたって共和党保守派が米国政治から一掃することを狙ったものでした。
トランプ政権は、ウォール街から連れてきた財務長官・国家経済会議議長、企業と癒着するミッチー・マコーネル上院院内総務らの主流派、大富豪のコーク氏による巨額の費用をかけたキャンペーン、に取り込まれてワシントン政治の沼の一員となりました。
共和党保守派とトランプ政権の全面戦争が始まる可能性が発生
トランプ政権は元々共和党保守派が支持したことで生まれた政権です。しかし、トランプ大統領は彼らが最も重視するオバマケアの廃止・見直し、減税政策などの税制改革案で完全に共和党保守派の願いを裏切る形となりました。(コーク財団の影響下にあるリバタリアンも報道などで保守派と表現されますが、この場合はレーガン保守系の他団体を指すものとします。)
本来はトランプ大統領が主導権を発揮することを通じて、両法案が議会で承認される可能性もあったわけですが、トランプ大統領は最後まで様子見を決め込んだ上、両案ともに不成立・骨抜きという結果に終わりました。その上、ワシントン政治にすっかり取り込まれた姿を共和党員に対して見せています。
トランプ政権下における米国政治の改革は、完全に骨抜きになった、と言えるでしょう。
共和党保守派の人々は「民主党政権ではなく共和党政権である」という消極的理由でトランプ政権を支持してきました。その結果がトランプ政権の支持率の40%前後での下げ止まりという形となって表れていたわけです。
形式だけの骨抜きの成果を保守派の人々が評価するとは思えず、今回の主要政策の公約に関する裏切りによって、今後は共和党員からの支持も瓦解していく可能性が出てきました。トランプ大統領の首を共和党保守派が本気で取りに行くのか、それとも同大統領の下で我慢をさせられるのか、いずれにせよその過程でトランプ大統領は共和党保守派からの本気の反抗を目にすることになるでしょう。
最後に、減税幅の縮小は、来年2018年の米国経済の腰砕けに繋がる可能性もあり、共和党が中間選挙で敗北した場合、トランプ大統領のロシアゲート問題が再燃していくことになります。トランプ大統領は目の前の政治的な困難に屈服して重要な決断を失敗した、と言えます。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2017年07月28日
都議会・利権ファースト、代官と越後屋の情報公開?
代官・越後屋の情報公開、都民ファーストの会の「各種団体」ヒアリング
都民ファーストの会が「各種団体」ヒアリングを公開の場で行っています。このヒアリングは例年よりも早い段階で行われており、予算策定前にじっくりと話を聞いて質疑を行うことを目的とされているそうです。
彼らはこれをもって「情報公開を行っているので改革だ!」と言っているわけですが、筆者の視点からは「全くの論外」であることは明らかです。各種団体とは、都庁・都議会に税金を集りに来るタックスイーターの団体であり、簡単に言うと従来から都庁・都議会とズブズブの利権団体のことです。
それらの利権団体とのやり取りを「情報公開」したから偉い、という話は、水戸黄門などで代官と越後屋のやり取りをTV放映していたから素晴らしい、と言っているに等しく、納税者を馬鹿にするのも大概にしたら良いと思います。
お上に対して内々で行っていた交渉を誰でも見れるようにしたところで実施される行為(利権の要求→利権の受諾)という点では何も変わりません。腐っているものの蓋をしておけば臭いに気が付きませんが、蓋を開けたところでやはり中身が腐っていることに変わりありません。
むしろ、利権団体に忠誠の切り替えを誓わせる会を公開することに引かざるを得ない
各種団体ヒアリングとは、従来までは自民党や民進党などと組んできたら、それらの利権団体を呼びつけて堂々と忠誠の切り替えを行わせる行為であり、そのような権力行為を都民・納税者に見せつけておかしいと思わないのでしょうか。
むしろ、他党の支持基盤であった各種団体に忠誠を誓わせて、それらの予算要望を都庁の予算に反映させることを通じ、「全く同じ連中と手を携えながらやっていく」ことを公に宣言する行為でしかありません。
従来まではブラックボックスであった各種団体ヒアリングが公開されてワイズスペンディングになる、という理屈は権力者の戯言だと思います。新たな代官に越後屋が要望を出しているだけのことで構図は何も変わっていません。
同じ各種団体をヒアリングに呼んで「古い→新しい」都議会になります、というのは悪い冗談でしょう。各種団体(=都民ファーストの新しい支持母体)が古臭いわけですから、都民ファーストの議員らも当然に利権塗れになっていくでしょう。わざわざ利権塗れになる場を公式に設定・公開する行為は、本当に改革勢力なら集団自殺行為です。
「利権団体の出禁」こそが改革、都民ファーストは利権ファーストでないと証明を
予算策定前に利権団体の意見をいち早く聴取し、それを予算に反映させていくという話は「都民ファースト」ではなく「利権ファースト」です。「利権の要望を少しでも早くヒアリングします」というのだから、その名称で間違いないでしょう(笑)
民主主義体制で選挙を行う意義は「都庁・都議会に出入りする面子が変わる」から意味があります。たとえば、米国であれば共和党・民主党の支持母体は全く異なるため、政権交代が実施されると異なる考え方の人々が政権に出入りすることで、民主主義のダイナミズムが担保されることになります。
都民ファーストの会は、選挙時に連合と早々に政策協定を結んでいましたが、それ以外の利権団体とも代官・越後屋よろしくやっていくのであれば、「利権団体と縁が無かった有権者」や「東京都内のタックスぺイヤー」をやはり無視するということなんでしょうね。自分達に「票」を入れたのは、おたくらがヒアリングしている「利権団体」の皆さんだったんですか?と小一時間問い詰めたいものです。
都民ファーストが実施すべきは「各種団体へのヒアリング」ではなく「利権団体の出禁」です。利権団体とのやり取りを情報公開することを「成果」とする感覚には呆れてモノも言えません。
政権交代は「従来までの利権勢力と手を切る」から意味があるという当たり前の話でした。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2017年07月04日
都議選敗北はTOKYO自民党が生まれ変わる好機
自民党・東京都議選の敗因は「争点」設計のミス
自民党の東京都議選のマニフェストは「個人都民税10%削減」「事業所税50%削減」など、経済政策としては「都民ファースト」よりも筋が良いものでした。しかし、これらの政策は「やっつけ感」が元々漂っていたこと、どの候補者も真面目に訴えていなかったこと、そして党本部がほぼそれらの政策を無視したこと、などが響いて、その価値や位置づけが明確になりませんでした。
一方、憲法改正やテロ等準備罪などのタカ派的な政策イメージが先行し、国民の目から安倍政権が一定の評価をされてきた経済政策が目立たなくなったことで、有権者が安倍政権を積極的に支える理由が喪失したことも大きかったと思えます。
そのため、消極的な理由である「安倍首相・自民党以外の選択肢がない」という課題に対して、自民党に対して「古いか・新しいか」というだけで他はほぼコピーと変わらない「都民ファースト」が代替者としての地位におさまることになりました。(もちろん、選挙戦自体は公明党・連合という新進党型なので少し違う点もありますが。)
都議会自民党は各選挙区のボスの集合体で統一的なキャンペーンは実施しにくい体質がありますが、そこは党本部側が国政レベルでキャンペーンを設定して補うべき点だったと思います。
争点設計の失敗の結果としての「メディアによるネガティブキャンペーン」
森友・加計のような首相及び夫人に起因する問題はまだしも、豊田議員の暴言スキャンダルや金子議員の公用車育児通勤などは本来は都議選に影響を与えるほどのモノかと言えば極めて疑問です。
要は安倍政権自体がテロ等準備罪や加計スキャンダルなどの国会対策に手一杯に追い込まれて、東京都議選をどのように戦うのか、という点について無策であったことが、メディアのネガティブキャンペーンに拍車をかける結果になったものと思います。
たしかに、昨年段階から小池知事の支持率は非常に高い状況ではあるものの、豊洲問題をはじめとして都民からの支持に一瞬のかげりが生じたことも確かであり、その時に自民党があるべき「東京都のビジョン」を示せなかったことが致命傷になりました。
小池知事は議会運営日程を見ながらマイナスを修復するタイミングを計画的に伺っていたように見えるため、選挙に向けたスケジュール設定なども小池知事のほうが上手であったように思います。
政権側が選挙争点を設計することに失敗した場合、反政権的なメディアによる争点設計が優位となり、その結果として「通常は話題にもならないようなネタ」がワイドショーで幅を利かせることになったといったところでしょう。
東京都を痛めつけることを良しとする現在の自民党の愚さ
むしろ、自民党は東京都のビジョンを作るどころか、東京都を衰退させるようなスタンスを維持し続けています。昨年の夏の東京都知事選挙において、都政のドンの問題はクローズアップされましたが、それだけでなく、増田寛也氏という東京から地方への不当な資源移転を推進する人物を知事候補におしたことが拒否されたことを真剣に考えてこなかったことが問題です。
知事選挙で落選した増田氏は杉並区の顧問に据えて厚遇されています。自民党の重鎮のお膝元であり、有権者の民意を無視した忖度の極みでしょう。同氏のお墨付きのプラスアルファを得た杉並区は南伊豆への無用な特養建設に邁進し続けており、東京都内からの税金の流出に拍車をかけるモデルを構築しようとしています。また、同氏が座長代理を務める国の有識者会議が東京都内における大学抑制をはじめとした東京衰退政策を平然と公表している姿にも全く共感できません。
基礎自治体が独自に判断したというのかもしれませんが、都民が有権者として税金で雇うことを拒否した人物に、都内の基礎自治体が顧問料を支払うことに疑問を呈さない政党など不要でしょう。
小池知事の初登頂時の握手を拒否した無反省ぶりだけでなく、政策的な無反省ぶりは極まった状況であると言えます。この点も「都民ファースト」という名称のアンチとして都民の認識の深いところに影響したものと推測します。(追記・握手拒否はメディアが作ったフェイクニュースということで、自分も勘違いしていたため反省します。)
TOKYO自由民主党は「東京都民のための政党」に生まれ変わるべきだ
自由民主党の主要な支持基盤は土着の人々であり、ノスタルジーに駆られて田舎に税金をばらまくことを良しとする人たちばかりではありません。東京都内でも土着の人々はいるのであって、党本部が地方を重視するどころか、都議会自民党が地方へのバラマキを容認するなど言語道断です。
筆者は元々TOKYO自民支持でしたが、近年ではおかしな方向に向かっていたため、第三極への支持を強めていました。そして、TOKYO自民党は完全な敗北を決すまで間違った政策を進めてしまいました。これは東京オリンピック招致で東京都は国に協力を求める必要があり、政権与党であった自民党が東京都のために働くことに対して逆行した政策を容認してきた故もあることでしょう。
しかし、既に東京オリンピック招致は決定しており、それらの差配は小池知事・都民ファースト側に移ることが予想されるため、TOKYO自民党は利権争いはほどほどにして、東京都民のために働く、という原点に立ち返ってほしいと思います。タックスイーターの政党からタックスぺイヤーの政党に転換すべきです。
二度と党本部が指名するような天下りの地方バラマキ候補を都知事候補に指名する愚を繰り返さないでほしいものです。
TOKYO自由民主党は経済成長の具体策を出せる政党へ
小池知事及び都民ファーストの会は豊洲問題に象徴させるように政策よりも政局を優先させる傾向を持っています。そのため、そもそも経済政策自体を真剣に考えている可能性は極めて低いものと思います。一方、自民党本部も東京都のことをまともに考えているとは信じがたい政策を実行しています。
そのため、都議会の野党第一党であるTOKYO自民党は独自のシンクタンク機能を創設し、東京都の経済成長を促すためのまともな政策を立案していくことが望まれます。それらは今後の都知事選挙や都議選における礎となっていくことでしょう。
この東京都議会議員選挙の結果は、中央の党本部が推し進める地方へのバラマキを東京自民党が拒絶して、東京都を更に経済成長させるための政党に生まれ変わる絶好の機会が到来したと受け止めるべきです。
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2017年04月05日
元かがやけTokyo都議は「都民ファースト」から離党すべき
<TBSから引用>
連合東京と政策合意なら、元かがやけTokyo都議は「都民ファースト」から離党すべきだ
「7月都議選、都民ファーストの会と連合東京が政策合意」という報道がありました。
連合東京には当然ですが、 東京都の職員組合も所属しています。したがって、職員給与に関しては基本的に守るor増やす方向であることは間違いなく、事業の民間委託や民営化にも反対であることは明白です。
一方、元々小池百合子東京都知事を知事選挙で応援した「かがやけTokyo」の議員たちは、旧みんなの党のメンバーであり、職員給与の引き上げについては反対姿勢を取るとともに、都事業の民間委託などに前向きな姿勢を見せていたものと記憶しています。
彼らの元所属政党である「みんなの党」は2013年都議会議員選挙時に「東京アジェンダ」を発表し、その中で「公務員の総人件費20%カット」を謳っていましたので、このような政治姿勢の転換はほぼ180度真逆の方向に舵を切ったと言って過言ではありません。
したがって、仮に都民ファーストの代表が小池知事の野田特別秘書であったとしても、現在の都議会所属議員には連合東京との政策協定を結ぶことには責任があります。連合東京から支援を受けた都議候補者が自党から立候補することを黙認することは2013年の都議選挙の公約への事実上の裏切りでしょう。それとも、既に党名も内容も違う、または連合東京と一緒になっても公約は守れると嘯くつもりでしょうか?
元かがやけTokyoの都議会議員が「都民との公約」をまともに守るつもりがあるなら、「都民ファースト」から離党するか、連合東京との政策協定を撤回するように働きかけるべきです。
政治家なのか、政治屋なのか、それが問題だ
自分達が推薦した都知事が連合東京と組むからといって自らの政治スタンスを180度転換する議員は、政治家ではなく政治屋でしかありません。地方議会は小池知事の私塾である希望の塾の都議選候補者選抜試験にもあったように「二元代表制」であるため、小池知事の方針に従って自党が連合東京と組む必要はありません。現在の都民ファーストの都議会議員らはこの事態を容認したのでしょうか。
連合東京と政策協定を結ぶと言うならば、みんなの党⇒維新の党⇒民進党、と所属政党を変えてきた、旧みんなの党の都議会議員らと何も変わりません。自分達が受かりたいだけの都議会議員なら既に十分足りてますから、政策方針を転換するなら次の選挙に出馬するべきではありません。有権者にとっては改革派を僭称する勢力が存在することは紛らわしいだけで迷惑です。
明確に申し上げておきますが、ここで黙って都民ファーストに残って政策協定を追認するようであれば、それは「政治屋」です。元かがやけTokyoに所属していた都議会議員は、政治家なのか、政治屋なのか、それが問題なのです。現在の政治的な党派性をとるのか、前回の選挙で自分を都議会に送ってくれた有権者を信頼するのか、どちらを選ぶべきなのかが問われています。
ちなみに、筆者はかがやけTokyoの人々は都民ファーストを離党したほうが良いと考えています。なぜなら、筋が悪い公営市場移転問題に政局的に振り回されることなく、本来政策的に必要なことを有権者に訴えられるようになるからです。
元かがやけTokyoの都議会議員のTwitterアカウント
下記が元かがやけTokyoの都議会議員のTwitterアカウントです。おかしいと思う人はこちらに意見投稿を行って、彼らに都民ファーストからの離党または連合東京の政策協定の撤回を要望してください。これは彼らに期待した都民への明白な裏切りであり、彼らに政治家としての志があるなら筋を通させるべきです。
音喜多駿 https://twitter.com/otokita
上田令子 https://twitter.com/uedareiko
もろずみみのる https://twitter.com/morozumi_m
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2017年03月24日
東京都の政党は「地方交付税」問題を争点にすべき
政治家にビジョン形成を求めること自体が時代錯誤ではないのか
宇佐美典也さんの「都議選は「空前絶後で超絶怒涛な公約」を待望してます」を読んで、やはり元官僚の方は言うことが違うなと思いました。
政治家はビジョナリーな空前絶後で超絶怒涛の公約を語ることよりも、現実の財布(=税金)の話をすることが本来の仕事であり、税支出の使途の妥当性を問うべきです。彼らは納税者の代表であって妄想を語ることは仕事ではありません。
政治家や官僚に社会のビジョン形成を求めること自体が時代錯誤であり、革新官僚的な発想で「政治にビジョンの提示を求める」という行為をやめていくべきでしょう。
東京に基盤を置く政党が地方交付税や地方バラマキ政策を問題にするのは当たり前
筆者も維新の会の「議員定数5分の1」は全く意味不明だと思いますが、都民ファーストの音喜多都議が地方交付税の在り方を問題にすることは東京都に基盤を置く政党の幹事長として至極当然のことだと思います。
年間7兆円以上も東京都内から流出している「みみっちい」税金の話を看過できるほど、東京都民は非現実な世界に生きているわけではありません。
宇佐美さんが主張する「東京の出生率を2.5まで引き上げる」とか、「75歳まで働ける社会」とか、「観光消費を倍増させて経済を成長させる」とか、「生活コストの引き下げ」などは東京都民の手に資金が残っていればある程度解決可能な問題です。このような政治家の対処療法的な個別のレトリックではなく、東京都からの税流出を防止することは問題の根治に繋がります。
東京に基盤を置きながら、都議会だけでなく国政に候補者を立てる準備を推進している「都民ファーストの会」の都議会幹事長が税金の話をすることは当たり前です。
まして、筆者も音喜多氏も東京出身者であり、それらの人々の声、そして地方から出てきて東京で子育てしている人々の声を代弁しても何ら不思議でもありません。
また、東京と地方の共存共栄とは、東京一人勝ち&地方へのバラまき、を前提とした関係ではなく、東京と地方が独立・協力・競争しながら一緒に栄えるものだと考えます。
必要とされるものは政治家の「口約束」ではなく、民間の力を信頼する「契約」だということ
筆者が都民ファースト会などに期待する都議会議員選挙の公約は、宇佐美さんが共感を示したような石原氏の「〇〇やります」的な公約ではなく、「〇〇やりません、東京都民の手にお金と権限を戻します」というものです。
豊洲新市場一つをとっても移転するか否か以前に、行政機関は意思決定までに時間がかかりすぎて、元々想定していた事業環境と大きく変化が生じてしまうことはザラだと思います。(豊洲市場は大赤字!金融の視点で見える事業面での大問題)小池知事が移転を早期に実行したところで、東京都庁が無能な投資家であることに違いはありません。
宇佐美さんと筆者は同年代ですが、東京都の政治家と都庁の役人に夢を見せてもらう必要はありませんし、むしろ政治家と役人は余計なことをせずに粛々と行革、減税、権限移譲・規制緩和を進めてほしいものと思います。
宇佐美さんが我々の世代を代表されるようなことをおっしゃっていたので本稿に引用してしまって申し訳ありませんが、意見が違う人もいるよということで大目に見てください。
政治家が考える「日本の中で東京がどのような役割を果たすべきか」を具体化した「空前絶後で超絶怒涛な公約」でげっそりさせられるよりも、日々をコツコツと生きている東京都民の生活が豊かになる政策をやってもらう方向性でお願いしたいものです。
これ以上東京都民の税金を政治家や役人のおもちゃに使う行為をやめること、次回の東京都議会議員選挙に一都民として唯一期待しております。起きながら見る夢とは民間人が努力する中で見るものであり、政治家ができることはそれを邪魔しないことです。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年02月08日
鴻海がシャープを買収することは自然の摂理である
wikipediaより引用
鴻海がシャープを買収することは自然の摂理である
台湾企業の鴻海がシャープを買収する方向でほぼ決まりそうなことは非常に望ましいことです。鴻海がシャープブランドを活用した世界戦略を採用することは一つの考え方だと思います。まさに買収すべくして買収した自然の摂理のようなものであり、新興国で資本力を蓄えた企業として「歴史を買う」妥当な戦略だと思います。
それに比べて、産業革新機構は「再生」という名称で何をしようとしたのか全く不明です。シャープは経済産業省の天下り実績がある企業であり、「技術流出の防止」という大義名分を掲げて、更なる天下り先確保&過去の不透明な巨額投資の意思決定過程の記録を隠そうとしたんじゃないかと邪推もしたくなります。
むしろ、経営危機にあるシャープを買収するために7000億円も拠出する企業が現れたことについて、日本人であれば喜ぶべきところであり、本来はベンチャー投資に充てるべき血税を「大企業の再生案件」として投資しようとした政府系の官民ファンドから資金の引き上げを直ちに実行するべきです。
世界に対して日本が自由主義経済国であるメンツを辛うじて保つ形に
産業革新機構がおかしな行動をした上に、シャープの経営陣が鴻海の好条件に即決できない姿をさらしたせいで、日本は依然として自由経済の国ではないかのような印象を他国に与えるところでした。しかし、結果としてシャープが鴻海を選んだことで自由市場が機能していることを世界に示せたと思います。
現在の国際競争はグローバル企業からの投資をどれだけ惹きつける都市・企業・人材を創り出すかということが重要です。シャープという一企業の事例を通じて、日本は政府系ファンドが市場原理に反する不可解な行動を行う国であるという印象を与えることは中長期的に見て決定的にマイナスです。
先発資本主義国である日本は他国企業をM&Aしていきながら、更に付加価値を高めた都市・企業・人材への投資を集め続けるというスパイラルな上昇過程を続けることが大事であり、その流れを自ら断ち切ってしまうことこそが敗北への道ということになります。
今回の一件でも分かることは、国策の産業政策というものは「保護主義」を根幹に据えており、発展途上国の政策モデルであるということです。このような政策モデルを根本から転換させていくことが必要でしょう。
金融政策で景気が浮き沈みするのであれば「産業政策」は不要ではないか
筆者は政府と中央銀行を肥大化させるアベノミクスを支持する者ではありませんが、しかし安倍政権がアベノミクスの成果を強調することをそのまま認めるならば「産業政策」は根本的に不要だということになります。
安倍政権になる以前から、政府は大量の予算を産業政策に投資してきているのに、それらはアベノミクスが行われるまで何ら経済活動を好転させる成果を生み出さなかった、ということになるからです。したがって、金融緩和によって景気が浮揚するなら産業政策は不要と言えるでしょう。
筆者はアベノミクスによる景気浮揚効果は極めて限定的であり、リーマンショックからの景気循環による経済活動の好転のほうが大きいのではないか、と思っていますが、その場合であっても産業政策はやはり不要ということになります。
今回の産業革新機構のシャープの買収失敗は、日本の産業政策の必要性について根本から見直す良い機会になるのではないでしょうか。その大半は日本の産業構造の新陳代謝を遅らせるものであり、産業政策を極小化することが実は最大の産業政策であることに気が付くことでしょう。
2016年01月20日
安倍・山尾質疑、与党も野党も「適当な数字ばかり」を並べる待機児童問題
安倍首相と山尾しおり議員の「女性就業数」「待機児童」の質疑が話題に
2016年1月13日の衆議院予算委員会で山尾しおり議員による安倍首相の「安倍政権下で90万人の女性の就業者数が増加した。待機児童増加は嬉しい悲鳴」が虚偽である、という追及をしたことが話題になりました。
山尾議員曰く「25~44歳までの女性就業者数は2010~2015年で横ばい。増えたのは高齢者の女性ばかり」ということで、安倍首相が思い込みで答弁していると指摘しています。
その上で、山尾議員は「待機児童数が増加している背景の一つは保育士の給料が悪いから。したがって、保育士の給料を引き上げろ」と要望しています。
衆議院インターネット中継
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=45450&media_type=wb
本記事では上記の議論の妥当性について再検証することで、国会のあるべき姿について国民に再検討を促すことを目的としています。
本来であれば、古賀茂明氏のような有識者の皆さんが正しい話をするべきだと思うのですが、まったく的外れな感想をメディアに載せているので、本ブログが同問題についてミッチリと調べてました。
古賀茂明氏
待機児童が増えたのは「働く母」が増えたからじゃない! 白熱の質疑応答で暴かれた安倍総理の「ウソ」
女性の就業及び保育の実態を数字で検証してみた結果は・・・
女性の就業状況を検証する上で重要なことは、20~44歳の女性人口の絶対数が減少している、ということです。2010~2014年までの20~44歳までの女性人口数は約89万人減少しています。したがって、20~44歳までの女性の就業数が横ばいであることから就業率は上昇していることが分かります。
(参考:人口動向も含めた正規・非正規就業者数などの詳細をグラフ化してみる(2015年)(最新))
そのため、山尾議員が「就業率」ではなく「就業数」に質疑でこだわったことは正しいものと思います。安倍首相も数字を認識していなかったという点で極めて稚拙であったと思います。
しかし、待機児童数の増加を検討する上で、20~44歳の女性の就業者数が意味がある数字かどうかは別問題です。
なぜなら、2010~2014年の新生児の絶対数が減少している(約107万→約100万、累計約16万人)上に、保育園の利用児童数は増加しているからです。(約208万人→約227万人(2014年)→237(2015年))つまり、女性の就業者数は横ばいですが、子どもの絶対数は減っており、保育園の利用児童数は増えているのです。
では、山尾議員が指摘する2015年度の待機児童は何故増加したのでしょうか。実は待機児童数自体も2010~2014年まで減少が続いていました。(2.6万人→2.1万人)2015年に待機児童数が増加した原因は、子ども・子育て支援新制度が導入された結果として待機児童数が掘り起こされたからです。(2.1万人→2.3万人)
(参考:『保育所は増加・待機児童も増加』という怪奇現象の理由 〜 政府にとって好都合な数字ではダメ)
「新生児数が減った上に保育園の増加で利用児童数は増加したため、直近数年間は既存の待機児童は解消に向かっていた。しかし、2015年度の新制度の導入で潜在的待機児童数が掘り起こされて待機児童の絶対数が増えた。一方、25~44歳の女性就業率は増加しているため、女性の間で保育園の話題が増えている」
ということが実態です。したがって、山尾議員がこだわる「女性の就業者数が横ばいであること」「保育士の給料」は、あくまで山尾議員が述べるように背景の一つでしかなく、2015年の待機児童数増加の直接の要因として捉えることには無理がある、ということが言えます。
保育士の給料の実態を数字で検証してみた結果・・・
その上で、山尾議員の持論である「待機児童の背景の一つ」は「保育士の給料が悪いから」であり、「保育士の給料の引き上げ」が必要だ、という主張の妥当性を検証します。
実際、現行制度では保育士が集まらなければ保育サービスの総量を増やせないので、現役保育士だけでなく潜在保育士が働くことができる環境整備が必要となります。
そこで、まずは保育士の給料環境について考察します。平成26年度の厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、
<保育士>平均年齢・平均月収は34.7歳で216,100円で、労働時間は168時間・超過労働は4時間
ということで確かに保育士の給料は低いように思われます。しかし、保育士の20代・30代労働者比率は70%という異常に低い年齢構成の産業であり、我が国の年功序列賃金を前提とし場合に全産業平均よりも平均年収が低くなっている点も忘れるべきではありません。そして、もう一つ注目すべき数字としては、
〇賃金の男女格差
*男女の賃金格差は30代以上になると大きくなる傾向があります
〇勤続年数
保育士は7.6年という極めて短い勤続年数であるということ
が挙げられます。
男性保育士は年齢相応の給料を得ているが、女性保育士は極めて低い給料しか得られておらず、非常に短い勤続年数から離職・復職を繰り返す業界=勤続年数に応じて給料が継続的に上がらない業界構造があることも推察できます。これは業界の構造問題であって、単純に「保育士の給料を上げる」という結論は思考停止以外の何物でもないことが分かります。
待機児童問題を国会で語る上での大前提を整理した結果は下記の通り
・25~44歳の女性の「人口は減少」「就業率は上昇」「就業者数は横ばい」ということで、働く女性の比率が上昇したことで女性の会話内容で保育園の話題があがる機会増。
・問題の本質は申込ベースの待機児童数の測定方法では「サービス変更で潜在的ニーズが掘り起こされる」と数字が増加するため、保育所ニーズ全体の状況を掴む数字として不適切だということ。したがって、待機児童数で一喜一憂する国会質疑は意味無し。
・保育園増加させると利用児童数は増加しており、現状において保育所ニーズは存在。ただし、中長期的には新生児が減少している状況を加味する必要あり。
・20~30代中心の保育士給料は全産業平均よりも低い。ただし、保育所を運営する小規模事業者が増加し続けており、離職・復職が比較的容易であることから雇用には強い職場であり、各事業者が保育士を継続的に確保することに困難さを感じている。(給料は低いが雇用に強い構造が潜在保育士を増加させている)
・上記のような環境から、保育士は勤続年数が短くなる傾向があり、給料アップのためのキャリアパスはほとんど存在しない。保育園は小規模事業者であるために経営者や管理職になれる人は少数。つまり、保育士の低賃金問題とは、若者の低賃金というよりも「年齢を重ねても給料が増えない」業界の経営状況にある。
本来、国会の質疑で問われるべきことは下記の通り、首相も議員もしっかりしてほしいものです
保育園数が増加すると利用者数が増加する現状に鑑み、今後も継続的に保育園の整備を行っていくことが望まれます。しかし、今後の人口動態推移や業界構造に関する問題を考慮した上で、下記のような解決策について議論することが必要です。
・中長期的には新生児数は減少することが見込まれるため、保育ニーズの需給調整をフレキシブルに行える経営主体によって保育サービスが提供されることが望ましい
・小規模事業者の濫立によって保育士の頻繁な離職・復職及びキャリアパス不足などが発生し、保育士の給料が構造的に上がらない状況が生まれている現状を是正するべき。
・したがって、保育園の小規模経営を止めて大規模チェーン化を進めることで、保育サービスの供給増を強力に進めていくとともに、将来的な需給ギャップを調整できる経営体制を整備。また、大規模で安定した事業体の中で保育士の中長期的なキャリア形成を行うことができるようにすることが望ましい。
・政府は、保育園の経営主体、保育料、保育サービス、保育士給与などの全面自由化を実施することを通じて、保育サービスの市場経済化を推進するべき。低所得者対策については別途考慮するべき。
筆者は上記のようなソリューションを提案するべきだと思います。保育園をタックスイーターの政治的な食い物にしていくのではなく、しっかりとした経営主体とすることで、サービス向上・保育士の待遇改善を図るべきです。
これらについては異論がある人もいるかもしれませんが、少なくとも首相と国会議員は上記の数字程度のことは踏まえて国会質疑を行ってほしいものです。