米国政治

2017年04月11日

トランプが「シリアの子どもの写真」を見て爆撃したと本気で思っている人へ

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🄫AFP (ISISはイラクでほぼ敗北しシリアでも風前の灯に)

トランプ大統領が「シリアの子どもの写真」を見て本気で爆撃を決意したと思っているのか?

トランプが化学兵器を散布した軍が駐留しているとされる空軍基地をトマホークで爆撃した件について、人道的な措置として大義名分が必要であることは理解できます。そして、国連でも度重なる議論を行った上での措置(ロシアの拒否権で話が進まない)であり、米国はシリアのアサド政権に対する軍事介入のための正当性作りは過去から粛々と行ってきました。

そのため、今回のシリアの空軍基地爆撃に際して、「トランプ大統領が化学兵器で苦しめられるシリアの子どもの写真を見て爆撃を決意した」と人道上の理由を強調することは武力行使にあたって当然強調されるべきでしょう。オバマ政権が実施できなかったことをトランプがやって見せたことの意義も大きいものと思います。

しかし、国際政治学者やジャーナリストとされる人々が「上記の理由」を真に受けて「トランプ政権が孤立主義から介入主義に転じたor軍事政権化したor思い付きで攻撃した」と論評している姿は残念すぎるどころか滑稽ですらあります。この人たちはホワイトハウスのHPすら見たことないのか?と思う次第です。

トランプ大統領が1月に発表した2つの大統領についておさらいする

トランプ大統領は1月27日に「軍備増強に関する大統領覚書」、1月28日に「シリアとイラクのISISを掃討するための大統領覚書」の2つの大統領覚書を発表しています。これはイスラム圏7か国からの入国禁止の大統領令とバノンをNSCの常任メンバーに加えた大統領覚書の影に隠れて現在までほとんど報道されないままとなっています。

1月27日「軍備増強に関する大統領覚書」は米軍の即応体制を整えることに主眼を置いたものであり、そのための行政管理局とともに予算措置なども併せて講じることになっています。また、1月28日「シリアとイラクのISISを掃討するための大統領覚書」は、国防総省に関係各機関と連携してISISを打倒するためのコンティンジェンシープランを1か月以内に策定して提出するものでした。

マティス国防長官はこれらの大統領覚書にしたがってトランプ大統領に指示された報告しており、その後から小規模ではあるものの、シリアとイラクに対して地上軍の派兵が進みつつある状態となっています。

一方、トランプ大統領・ペンス副大統領・ティラーソン国務長官らは中東の関係諸国に安全地帯の設置やISIS掃討キャンペーンへの協力を求める外交努力を続けてきました。粛々とトランプ政権の中東への介入及び派兵の準備は進んでいたものと言えます。

シリアへの攻撃は「マティス&マクマスター」の軍人コンビが主導したもの

仮に報道の通り、マティス及びマクマスターの二名によってシリア空軍基地の爆撃を行ったとした場合、上記の経緯から「アサド政権に対する人道的介入」も計画プランに入っていたと想定することが極めて妥当だと思われます。

元々アサド政権の化学兵器使用は度々国連でも制裁の議題としてあがっており、中東地域のISIS掃討計画の要素の中に組み込まれていないとすることには無理があります。マティスとマクマスター主導の軍事展開が無計画に行われると考えるのは中学生以下の妄想です。(相手は米軍ですよ?(笑))

では、なぜトランプ政権はアサド政権に対して人道的介入に踏み切ったのでしょうか。それはISISが当初想定していたよりも早く壊滅しつつあることが要因として大きいと見るべきです。直近では、米軍が本格的に介入する前に、米軍の介入根拠であるはずのISISがアサド・反政府軍・クルドによって片づけられてしまい、米国抜きで和平に向けたプロセスが進む可能性が高まっていました。

ISIS掃討計画には戦後構想が含まれることは当然であり、上記の大統領覚書には国防総省だけでなく幅広い政府機関の協力が求められています。そして、ISISが壊滅しつつある現在、シリアの状況は既に戦後構想を巡る主導権争いに移っていると理解するべきでしょう。

アサド政権による化学兵器の使用は、上記の文脈の中で反体制派に対して「米軍は助けに来ない」ことを印象付けるためのアサド政権の示威行為であったと見ることが妥当であり、米軍はそれを拒否してシリア情勢に介入する意志を見せたことになります。

軍事介入をを正当化する理由として人道介入を強調することは当然ですが、米国が同地域の和平プロセスについてロシアや関係各国に米国の存在を見せつけることが理由でしょう。今後、更に主導権を取り戻すために米軍が何らかの関与を強めるのか、ロシア・アサド側が何らかの妥協を行うのか、交渉フェーズに改めて入ったと見るべきでしょう。

NSCの構成メンバーの変更が持つ意味合いについて

バノンなどのオルト・ライトとして位置づけられる勢力が中東地域への介入に否定的であったために外されて、軍人主導の中東への介入政策がとられる方向に舵が切られたと理解することは間違いです。

元々バノンも含めてトランプ政権は中東、ISIS絡みの事案への介入に関しては積極的であり、孤立主義でも無ければ非介入主義でもありません。むしろ、中東地域については地上軍の派兵も含めて積極的な介入を当初から謳っていました。

NSC常任メンバーからバノンが外れた理由は、バノンやセバスチャン・ゴルカなどが主張するグローバル・ジハード(つまり、テロ)への対応よりもシリア、ロシア、イランなどの敵性国家への対応に重点が置かれたからでしょう。バノンらは米国内でテロが発生した場合に再び台頭してくる可能性が高いものと思います。

今回のNSC人事の中で国家情報長官と統合参謀本部議長が復活するとともに、核管理を所管しているエネルギー省のリック・ペリー長官も加わることになりました。これはロシアとの核軍縮やイランとの核合意(エネルギー省も関与)についての交渉を進めていく上で必要な人事として捉えるべきでしょう。特に5月に行われるイラン大統領選挙は反米勢力が勝利する可能性があり注目に値します。

したがって、トランプ政権としての優先目標の変更はあったものの、基本的な対中東シフトの方向性は変わらず、むしろ元々政権の中に存在していたISISやイランに対する強硬姿勢が徐々に表面化しつつあるといったところです。

議会対策などの国内政局上の意味合いも考慮するべき

オバマケア代替法案(ライアンケア)に反対した保守強硬派はコーク兄弟からの支援を受けており、コーク兄弟はムスリムの入国禁止を巡ってトランプと激しく対立してきた経緯があります。

主流派を推す一部のメディアの報道によると、議会対策に失敗した理由はバノンの傲慢な対応にあったとするプロパガンダまがいの記事が公定力を持って垂れ流されており、議会対策をしたいならバノンを主要ポストから外せ、という反対勢力の意思表示は明確であったように思われます。

したがって、同入国禁止を主導してきたバノンをNSC常任メンバーから外すことは、国内政局上の観点からトランプのコーク兄弟に対する恭順の意を示すものとも言えそうです。

以上のようにアサド政権への介入やNSCメンバーの変更は孤立主義から介入主義へとか、軍国主義化したとか、何も考えていないとか、そのような論調が論外であることはお分かり頂けたことでしょう。

以上のように、トランプ政権の行動を陰謀まがいの「バノン黒幕説」「クシュナー黒幕説」で説明することはナンセンスです。国内外の情勢を時系列で並べながら分析を加えていくことが重要です。


 本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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2017年04月08日

日経新聞・秋田浩之氏の「トランプ論」はデタラメ

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(国連安保理緊急会合でシリアで化学兵器の犠牲になった子どもの写真を掲げるニッキー・ヘイリー米国連大使)*ニューズウィークから写真引用

日経新聞のトランプ政権論評のデタラメぶりが際立つ

シリア攻撃、処方箋なき劇薬  コメンテーター 秋田浩之

という日経新聞の記事が掲載されました。この内容があまりにも事実誤認に基づくデタラメであるため、日経新聞のクオリティーペーパーとしての信頼性が揺らぐのではなかと驚きました。

しかし、秋田氏の名前を見て納得、以前にトランプが極右 !? 日経新聞へのエール(笑)でも書いたように、現地取材もろくにせずに伝聞と想像だけでトランプと共和党保守派をディスる文章を書いているのだから仕方がないかと思います。

話にならない事実無視、そして取材不足の論評

今回のシリア空軍基地へのトマホークによる攻撃について、同記事中では

<秋田>
こんな体制で強行された今回の攻撃は、長期の中東戦略を描き、満を持した末の行動のようにはみえない。

<事実>
⇒トランプ大統領は1月27日に軍備の即応体制を整備するように大統領覚書を発し、その翌日にはシリアとイラクのISISを一掃する大統領覚書にもサインしています。その結果としてマティス国防大臣から1か月後に中東における軍事計画がトランプ大統領に提出されており、イラクとシリアへの地上軍の派兵が小規模ながら進みつつあります。
⇒また、ダンフォード統合参謀本部議長とゲラシモフ参謀総長(ロシア)はアゼルバイジャンで事前に接触し、軍事機関同士のホットラインもできています。今回、米軍はロシア軍に対して事前に連絡していたのもこのためです。
⇒当然ですが、トマホークを積んだ艦船を思い付きで中東に配備しているわけでもなければ、何の計画もなくシリア空軍基地を攻撃することは有り得ません。

<秋田>
それでも、今回の行動は性急すぎると言わざるを得ない。正当な攻撃であることを証明するための事前の努力が、あまりにも足りないからだ。シリアが化学兵器を使ったのなら、国際法違反であり、人道的にも許されない。ならば、国連安全保障理事会に証拠を示し、少なくとも議論を交わすべきだった。

<事実>
⇒シリアでは2013年にアサド政権が化学兵器を使用しており、当時もオバマ大統領がレッドラインを越えたら軍事介入すると明言(しかし、ほぼ何もしなかった。)
⇒国連と化学兵器禁止機関(OPCW)の調査で、シリア軍が2014年と2015年に3度、化学兵器を使用していることは明らかになっている。(BBC
⇒2011年のシリア内線勃発以来、国連における非難決議は7回。(ロシア・中国が拒否権発動)直近は今年の2月28日。
⇒ニッキー・ヘイリー国連大使は国連安保理でサリンで倒れた子どもの写真を掲げて演説し、米英仏は化学兵器使用を批判し、真相究明に向けた調査に関する決議案を提出。(少なくとも議論は行われている。アサドを守るロシアが聞く耳を持たないのは前提)

<秋田>
この攻撃はさまざまな副作用も生みそうだ。まず考えられるのが、中ロによる一層の接近だ。両国には根深い不信感が横たわるが、米国に対抗するため、静かに枢軸を強めるだろう。

<事実>
⇒中国報道官が「冷静さと抑制した対応を維持し、情勢をさらに緊張させないよう求める」と述べ、シリアで猛毒のサリンとみられる化学兵器が使用されたとみられる空爆については「厳しく非難する」と述べ、 真相解明に向けて国連機関による独立した調査が必要だとの考えを示した。(産経新聞
⇒ロシアは化学兵器は反体制派が保有していたものであり、空爆の際にそれが飛散したものとしているため、中ロの立場は異なるものとなっています。米中首脳会談に被せたこともあり、中国の反応は極めて抑制的です。(ロイター

<秋田>
こうした問題を精査し、トランプ氏に進言できる側近は少ない。ティラーソン国務長官や、最側近の娘婿であるクシュナー上級顧問はビジネス界出身だ。2人を知る元米高官は「実務や交渉力は優れているが、外交経験はない。危機への対応力は未知数」と語る。

<事実>
⇒本件はマティス国防長官とマクマスターNSC議長主導のものであり、両氏ともに中東政策を専門とする戦略家です。また、キャスリーン・マクファーランド副補佐官も中東に強く、NSCに復帰したCIA長官のマイク・ポンぺオも中東問題に熱心な下院議員でした。
⇒ティラーソンやクシュナーは中東政策について一定の影響力はあるものの、この問題を精査し、トランプに進言できる側近が2名しかいない、というのは、トランプ政権に対してあまりに無知。

・・・とまさに、事実誤認と取材不足のオンパレード。中学生の文章かと思いました。

日本経済新聞は「偉い人」が書いたからといって駄文を掲載するな

日本経済新聞は「自社の偉い人」が書いた文章だからといって無批判に記事を掲載することは慎むべきです。少なくともジャーナリズムを名乗るのであれば、最低限思い込みではなくファクトベースで語る習慣を身に付けてほしいと思います。

日本のメディアも「トランプ政権」が誕生したことを受け入れて、リベラルの狼狽という醜態をさらし続けることをそろそろ恥ずかしい事だと認識するべきです。

日経新聞内にも当然事実について気が付いている人も多数おり、駄文を掲載することを読者に申し訳ないと思っている記者・編集者もいるはずです。しかし、筆者は自社の偉い人にすら抗議できないジャーナリストがジャーナリズムを守れるとは思いません。是非ジャーナリストとしての矜持を取り戻してほしいと思います。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2017年04月06日

バノンが「トランプの黒幕」ではないのは当たり前だ

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(ひぐらしのなく頃に、から引用)

スティーブ・バノンは重要人物だが「黒幕」と呼べるほどの存在ではない

トランプ大統領誕生以来、新設の首席戦略官というポストに就任したスティーブ・バノンは「トランプの黒幕」と表現されてきました。バノンの存在は米国共和党のことを良く知らない「ど素人」の有識者らには格好のネタだったのだと思います。

筆者はバノンについては「トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置」でも指摘してきた通り、「バノンのトランプ政権内での立ち位置は共和党内の派閥争いの微妙な均衡の上に成り立つ砂上の楼閣」として評価してきました。

今回NSC常席からバノンが外されたことについてトランプ政権は理由をつけて大したことがないように表現していますが、同政権内での力関係に変化が生じつつあることは明らかです。

トランプの黒幕は「トランプ政権を作った共和党保守派」の人々である

3月31日発刊した拙著は「トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体」(祥伝社)というタイトルで、全国の書店に置いていただいています。もちろんバノン単体をトランプの黒幕だと断定する内容ではありません。

しかし、正直言って、「バノン」や「クシュナー」、挙句の果てには「イヴァンカ」がトランプの黒幕であるというトンデモ解説が溢れており、Googleで「トランプの黒幕」のワードを検索するとロクな分析が出てこない有り様です。

トランプ政権を作った原動力であり、現在も同政権を支えている人々は「共和党保守派の人々」です。小さな政府などの保守的な価値観、建国の理念を信じる人々の集団、そのリーダーたちがトランプ政権を支えています。

その多くはレーガン政権時代から続く保守派の流れの中で育ってきたプロフェッショナルです。彼らは黒幕というよりも本来は「黒子」という表現が正しいかもしれないと思っています。

バノンはマーサー(メルセル)財団という新興のパトロンを背景とした保守派内の新参勢力に過ぎず、トランプを支える保守派の中では明らかに浮いた存在です。実際に共和党保守派の重鎮らに会って話を聞けばバノンとの距離が離れていることは直ぐに分かることであり、彼をトランプをコントロールする黒幕として過大評価してきた有識者らは共和党のことを何も知らない人たちです。

選挙戦の経緯からトランプ政権にマーサーの意向が強く反映する傾向はあるものの、現在ではバノンは局的な下手を打ち過ぎたことから影響力の低下が起きていることは明らかでしょう。

ライアンケアの先送り後、急速に議会対策を綿密に行うようになったトランプ政権

ライアンケア(オバマケア代替法案)の先送り後、トランプ政権は議会対策・政局対策の面で極めて巧みな動きを見せるようになってきています。

切り崩し可能な様々な議連に接触したり、法案に反対しそうな個別の議員の説得に応じたり、保守派の重要人物らの囲い込みに走ったり、と今までにない積極的な対応を行うようになってきました。

ワシントン政治への対応力の急速な向上は、政権発足以来政局を担ってきたバノンから共和党の生え抜きの人々に議会対策・政局対策の主導権が移ったことを示唆しています。

また、バノンはテロリスト渡航防止法対象国からの入国禁止大統領令の積極的な推進者であり、彼のスタッフであるセバスチャン・ゴルカはグローバル・ジハード論者です。

この観点から保守派内のリバタリアン陣営(≒フリーダムコーカス)を率いる大富豪のコーク兄弟と対立してきましたが、バノンがNSC常任から外れることはコーク兄弟に対してトランプが議会対策の観点も踏まえて一定の恭順の意を示したものと捉えるべきでしょう。

ちなみに、バノンが外れるとともに、コーツ国家情報長官、ダンフォード統合参謀本部議長、常任に復帰、エネルギー長官、中央情報局長官、国連大使が追加されたところを見ると、これは5月19日のイラン大統領選で反米強硬派が勝利する可能性をを踏まえた布陣を敷いたと見るべきです。

トランプ政権を偏見や陰謀論で語る「小説」ではなく「分析・考察」が必要だ

現在、トランプ政権が発足してから随分と時が経った状況となっています。それにも関わらず、書店のトランプ本コーナーには相変わらず、国内の有識者の人々による偏見や陰謀論まがいの書籍が大量に並んだままです。

筆者は「バノン、クシュナー、イヴァンカなどがトランプの黒幕だ!」というトンデモ話をそろそろやめるべきだと確信しています。それらは小説的な読み物としては面白いかもしれませんが、トランプ政権を真剣に理解しようと思っている人には害悪でしかありません。

我々日本人もトランプ政権に対して真面目に「分析」と「考察」を行っていく段階となっています。


*下記の拙著をご覧いただければ米国で何が起きているのか、は論理的に分かります。


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2017年04月05日

トランプの対中国政策(2)対中政策人事の二面性

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トランプ政権の対中国人事は「揺さぶり」と「妥協」の二面性

トランプ政権の対中国人事は、通商面・外交面で「揺さぶり」を担当する対中強硬派、そして「妥協」を担当する対中融和派に分かれています。トランプ政権の対中政策は、これらの人事に明確に反映されており、同政権のおおよその意図を推測することが可能となります。

トランプ政権の「東アジア政策」は通商・貿易、そして地域の安定性確保を目的とする

トランプ政権の東アジア政策、特に対中人事の特徴は通商関連の人事に偏向しています。そして、対中強硬派とみなされる人々も軍人ではなく、あくまでも外交政策の専門家が配置されています。

これは現実に軍事力の行使(地上軍の派兵)が始まりつつある中東方面に対し、同政権が安全保障関連の軍人・専門家を任命している状況とは明確に異なります。

一部には米中衝突を煽る論説がありますが、それはトランプ政権の面子を見る限りでは直ぐには有り得ません。また、北朝鮮への武力行使の可能性も過大評価するべきではなく、あくまでも中国に交渉を通じて対処を促すことを念頭に置いているものと推測されます。(ただし、北朝鮮側が中国の言うことを聞くかどうかは定かではありません。)

トランプ政権は中東方面での軍事力行使を行う一方、東アジアでは中国の地域大国化を事実上容認(北朝鮮への対応含む)しながら、安全保障面でのプレッシャーと通商面での交渉を両立させていく形になるものと予測されます。

対中国強硬派による「揺さぶり」、通商問題の専門家を配置、狙いは2018年中間選挙

トランプ政権は貿易赤字などの通商問題で中国に対して強硬な姿勢を取っています。特に中国との通商問題を安全保障とリンクさせて語るピーター・ナヴァロ国会通商会議議長は目立つ存在です。

ピータ・ナヴァロ議長の共和党のメインストリームである自由貿易から距離がある政治スタンスは、大統領選挙のプロセスでトランプが共和党内のリバタリアン勢力と揉めて同勢力の影響力が落ちていること、グローバリゼーション推進派の主流派の力が落ちていることなども影響しています。

その他の閣僚級の対中強硬派人事として、ウィルバー・ロス商務長官、ロバート・ライトハイザー通商代表なども挙げることが出来るでしょう。これらの人々は中国への市場開放論者であるとともに、主に中国を対象とした二国間の不公正貿易に対する厳しい姿勢を取っている人々です。

2018年の中間選挙の上院が製造業州が多いことを踏まえた場合、中国に対する通商問題に対する姿勢で強気の立場を選挙対策としても非常に良く機能することになるでしょう。

また、国家安全保障会議にも2名の対中強硬派が存在しています。

ケネス・ジャスター国際経済問題担当補佐官はその表面的な経歴からグローバリストや穏健派として語られていますが、実際には対中国強硬派です。ジャスターは第一次ブッシュ政権時代商務省次官(産業安全保障局担当)、米印戦略的パートナーシップ構想の設計者(ハイテク協力、原子力協定等推進)、対中輸出規制強化を標榜している人物です。

マット・ポッティンジャーアジア担当上級部長は、在中国時代に腐敗や環境問題を記者として追及して拘束された経験を持つ人物であり、その後海兵隊に入ってインテリジェンスの立て直しをマイケル・フリンとともにレポートにまとめた経験を持つ人物です。

さらに、政権外ではあるものの、トランプ政権を支えるシンクタンクであるヘリテージ財団は、親台湾派であり、THAADなどのミサイルディフェンスに対して積極的に取り組む傾向があります。トランプと祭英文の電話会談を仲介したシンクタンクであり、韓国へのTHAAD配置の意義について詳細なレポートを公表しています。

これらの人々は中国に直接的な軍事行動を起こすための布陣ではなく、あくまでも中国に対してプレッシャーをかけるための材料を提供する存在として機能していくことになります。

「妥協」を担当する習近平への権力集約を見越した親中派

 トランプ政権では表向きは対中強硬派を揃えている形となっていますが、実際には中国との関係が深い人々も配置されています。

トランプを取り囲む経済人の会議である大統領政策戦略フォーラムのスティーブン・シュワルツマン議長はその筆頭格と言えるでしょう。

シュワルツマンは習近平国家主席と非常に懇意であり、彼の出身大学である精華大学に多額の寄付を実施して自らの名前を冠する学院を発足させています。この際、習近平からも直々の祝辞が届いています。また、今年のダボス会議では習近平とランチミ―ティングを実施するなど、トランプの取り巻きの経済人のトップではあるものの、習近平・シュワルツマンの両者の蜜月ぶりは顕著です。

トランプが大統領選勝利早々に駐中国大使に任命したテリー・ブラウンスタッド・アイオワ州知事も習近平人脈です。ブラウンスタッドは習近平が訪米する度に接触するほど関係値が高く、両者は30年間の友好関係を持つ朋友です。習近平に権力集約が進む中で国家主席直結ルートの外交チャネルとして機能することになります。

トランプ一族も中国とは懇意な関係にあります。ジャレド・クシュナー大統領上級顧問は、中国の財閥とのビジネス関係を有しており、トランプ・祭英文の電話会談後の後処理に奔走する役割を担いました。本業の不動産業ではジャック・マーとの繋がりも有しており、トランプ・馬会談のお膳立てを行った人物です。また、実娘にはチャイナ服を着せて中国語の詩文を読ませるなど、一族ぐるみで中国への配慮を行う広報としての機能を果たしています。

ティラーソン国務長官は長官就任の際に行われる上院公聴会向けに公表した文書の中で、中国に対する問題意識を冒頭に掲げていた人物です。その内容は中国の振る舞いを脅威としつつも、中国を粘り強く交渉をしていく相手として強く認識しているものでした。また、同文書には北朝鮮問題については中国に積極的な役割を果たすことを促す論旨も含まれていました。ビジネスマンとして極めて妥当な現状認識だったと思います。

つまり、前述の閣僚級の対中強硬派とは裏腹に、大統領の意向で動く側近らは習近平や中国財界との関係を有しており、強気の交渉を裏側でいつでも手打ちを行う二重外交のための要員は揃っていることになります。

連邦議会内・共和党上院・下院の対中国政策のキーパーソン

中国に対する反中・親中の姿勢は連邦議会・共和党の内部で二重外交にあります。

共和党内で最も反中姿勢が強い連邦議員は、ダナ・ローラバッカー下院議員です。同氏はカリフォルニア州選出の下院議員であり、連邦下院外交委員会の重鎮です。トランプ政権の国務長官候補として有力な人物として名前が挙がっていた人物です。中国の人権問題について非常に強硬な姿勢を持っており、下院での中国政府の法輪功に関する人権弾圧に関する非難決議を取りまとめた経緯があります。

また、共和党内では少数派の親ロシア派としても知られており、日米露の三国による対中政策を取るべきであるという持論を有しています。そのため、トランプ政権とは極めて政策的な方向性が近いと言えるでしょう。

一方、連邦議会・共和党内で親中派として知られる人物は、ミッチ・マコーネル上院院内総務です。同氏の妻は台湾系のエレーン・チャオ(現・運輸長官)であり、東アジア地域とは深い人間関係を有しています。

チャオ一族は江沢民国家出席と一族ぐるみで仲が良く、マコーネルも現在では親中的な姿勢を取るようになっています。米国における大学での講演会で駐米中国大使と同席した際、同大使が米国による中国の法輪功に対する弾圧への批判への反論を試みた際、マコーネルはそれを黙認したまま聞いていたエピソードが有名です。

共和党は民主党と比べて親日であるかのように語られますが、それらは共和党関係の外交関係者によって日本人の国会議員や有識者が思い込まされている幻想にすぎません。現実には共和党内での対中・対日政策は振れ幅が非常に大きい状況だと言えるでしょう。

政策とは「人事」のことであり、対中政策人事の微妙な変化を観察することが大事

政策は「人」によって実行されていきます。したがって、トランプ政権の対中政策の方向性を知りたければ「人事」を見ることが大事なのです。

東アジアに精通した軍人が主要なポストに配置されていない現状では、少なくとも米国側から仕掛ける米中衝突論は非現実な想定に過ぎず、米中という二大大国の間で我々が議論するべきことは、エキセントリックな煽情論ではなく現実を踏まえた生き残りのための施策です。

次回の更新記事ではトランプ大統領当選以来の米中間でのやり取りを概観し、今後の米中関係についての分析を加えていきます。






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2017年04月04日

「トランプの黒幕」アマゾンでの書評で☆5つを頂きました。

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アマゾンレビューで☆5つ頂戴しました。4月1日に発刊した「トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体」ですが、レビュワーの皆様から☆5を頂き続けております。感謝です!

そこで、現在まで頂いておりますレビュワーをご紹介したいと思います。

<1人目>
・トランプ大統領はなぜ当選できたのか。納得のいく論理的でまとまった説明に、はじめて出会いました。
・トランプ大統領が云々以前に、日本のメディアにはそもそも、共和党の価値観や考え方を理解しようとする以前に、拒絶したり、嘲笑ったりするようなトーンが目につきます。
・それに対して本書は、日本からは注目されない、けれど実はアメリカ政治を動かす重要な力を持っている共和党の保守派の見方から、トランプ政権を分析しています。本書を読むと、日本の報道のどこが、どこから、なぜズレているのか、根本の部分に戻って理解できます。
・また、現在のアメリカ政治全体を見ようとする上での論点が網羅されており、入門書としても価値があります。

<2人目>
・政権内にも議会内にも共和党保守派の名だたる人物たちが存在し紹介もされていますが、その正体は、建国の理念である「自由」を守ろうとする愛国心にあふれた普通の市民です。
・トランプとは相いれない部分もありましたが、これ以上、民主党(クリントン)のような、インテリぶったエスタブリッシュメントにアメリカを任せておけないと譲歩してトランプを支持する事で、政権内での発言力やポストを手に入れ、トランプに協力しつつ保守主義に基づいた政治の実現を目指そうとしています。
・「最も名誉なことは一有権者であることだ」という言葉を思い出さずにはいられません。ティーパーティーや全米税制改革協会のような各種の団体の力もありましたが、それを作り上げたのは普通の市民だと思います。低学歴の低所得というレッテル貼りやカテゴライズこそ、差別や偏見ではないでしょうか?

<3人目>

・第4章P172トランプ政権の二重外交の可能性について、分かりやすく解説していて興味深い。
そもそも外交の本質は、国益のためならあらゆる努力を惜しまないことであるからして、二重だろうが三重だろうがありなのである。
・たとえばトランプの娘イヴァンカさんは、彼女の幼い娘がピコ太郎体操をする動画を投稿して親日ぶりを示したが、一方その幼い娘に中国服を着せ中国の詩歌を歌わせている。イヴァンカさんのアパレルブランドの工場は中国にあるし、彼女の夫は中国とはビジネス上、切っても切れないほど深いつながりがある。このあたりは、なかなか面白い。もちろん、ここはトランプ政権自体の台湾への姿勢と対中政策についての分析がテーマだ。
・冷徹な米国の本質がわかり、日本はトランプ政権に甘い期待など持ってはいられないことが痛感された。
・本書で印象に残ったのは、共和党内部の主流派と保守派の違いである。共和党の主流とは言えないトランプが、どうやって共和党主流派を納得させて舵取りをしてゆこうとしているかという部分が興味深い。トランプ政権は、ナヴァロ、ロス、バノンなどの対中強硬派をそろえ、通商問題で中国に強い態度を示すことで2018年の中間選挙の勝利をめざす。イデオロギー、安全保障面で中国に「揺さぶり」をかけることで、共和党保守派と同盟国を満足させ、出来れば中国から一定の譲歩を得ることで「妥協点」を見出そうとしているとのこと。そこから、共和党全体を何とか納めて大統領としての足場を築きたいというところだろう。
・著者は、現実を伝えないヒステリックなマスゴミを批判、また「米中戦争」のような非現実的な仮定をたてるのではなく、冷静にトランプ政権の人事、行動、環境を見据え分析し、楽観を許さない現状を読み解いている。
・米国の共和党保守派との関係が濃密な著者ならではの一冊!是非ご一読ください。

<4人目>
・二重というのは、民主党から共和党へそして共和党主流派から共和党保守派(草の根団体)へという意味である。
・トランプ大統領とは、共和党保守派が押し上げたものである。「白人低所得者層の不満」、「ポピュリズム」ではない。「隠れトランプ」などは、予測を誤ったメディアのお粗末な言い訳に過ぎない。
・さて、共和党保守派とは一体何ものであろうか。日本に入って来る情報は、彼らを蔑視するアメリカリベラル学者の言説であり、日本の学者はその受け売りをするのである。翻訳学者のレベルである。
マスコミにしてもアメリカのリベラルメディアのそれを垂れ流すのみである。
・これらの状況は、トランプ政権誕生後も変わっていない。何故、誤ったのかの検証をしせず、それに対して知らんぷりしているからである。このままでは、日米関係に致命的ミスを犯す可能性がある。
・トランプ大統領は、大統領令・覚書により法の厳格な適用・規制緩和・政府関与の縮小・許認可のスピードアップ・テロリスト対策等々を粛々として実行中である。その政策の本質は「行政国家」の解体である。それは、通常の独裁者であれば自殺行為である。
・著者は、日本国内で数えきれない選挙に関わったプロであった。早くから、トランプ当選を予測し適中した。選挙分析を正しく解釈したのであった。知性の自主性である。
・全米保守連合がワシントンに於いて毎年開催する年次総会がある。著者は、毎年参加していて知人も多い。「保守とは何か」、「何が解決すべき課題か」を三日間に亘り論議するのである。政治家の発掘・養成・政治手法の機会も用意されている。日本の保守もこういったシステムを参考にすべきではないのか。
・日本のメディアは、ごく一部を除き無関心であるが何故、誤ったのかの検証をせずに参加してもステレオタイプな結論となるのは目に見えている。外務省も完全に予想を外し茫然とした状態であった。
救いは、政治家の動物的勘による安倍総理の行動であった。今回は、成功したがこれは、危ない。
3月27日、橋下さんはワシントンの戦力国際研究所で講演した。司会者は、マイケル・グリーンであった。トランプ政権は、従来のカウンターパートの大半を放逐中であるそうである。果して、吉か凶か。

<5人目>
日本のテレビ、新聞では分からない事が満載でビックリした本でした!本当の事を知るにはやはり本だなと改めて思いました。

<6人目>
・著者のブログの読者であり、他の有識者・知識人・専門家とされている方達との見解の違いに関心を持っていました。今回初めてのメジャー出版物となる様ですが、今後も多数出版をされていく存在になられることでしょう。
・くれぐれも物書きにとどまらず、確かな取材・分析・検証の上、共和党保守派の流れを日本の政治にも持ち込んでいただきたいと考えます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<筆者>
読者の皆様の期待に応えてこれからも頑張ります!

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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2017年04月02日

トランプの対中国政策(1)「揺さぶり」と「妥協」

AP
(AP)

トランプ政権の対中国政策は「揺さぶり」と「妥協」 

トランプ政権の東アジア政策、特に中国に対する政策について憶測が飛び交っています。そして、日本の有識者からはトランプ政権は対中強硬派であるとする見解も散見されます。

しかし、これらについては部分的には当たっているものの、トランプ政権の人事や行動を冷静に分析する限りは同政権を中国強硬派と断定するのは早計です。

トランプ政権は中国というプレーヤーに対して「揺さぶり」と「妥協」という交渉を行っています。

「揺さぶり」とは中国の国益に反する言動、そして「妥協」とは「揺さぶり」を引っ込めることへの対価を得ることを指します。

ただし、この「揺さぶり」は、中国からの譲歩、または日本・韓国・台湾などの米国の対中政策の変数として扱われる国々からの協力を引き出すための道具に過ぎません。実際には、「揺さぶり」は米中間での妥協、東アジア諸国からの協力、を引き出した後には一定の「妥協」による手打ちが行われてきています。

そして、この「揺さぶり」は共和党保守派の意向、「妥協」は共和党主流派の意向、という対応関係が存在しており、トランプ政権の対中政策は両派の国内政局の綱引きからの影響を受けることにもなります。したがって、トランプ政権の対中国政策を理解するためには、米国の国内政治情勢、その力関係を踏まえなくては片手落ちの状態となります。

日本人識者らは表面的な「揺さぶり」だけに注目し、徒にトランプ政権の対中政策を日本国民にミスリードしている人が多数存在しています。しかし、これらは米中関係・米国国内関係に関して理解できていない人々であり、基本的に話を真面目に聞くだけ野暮です。

そこで、本ブログでは、上記の観点を踏まえながら今後複数回に渡ってトランプ政権の対中国政策を分析し、その見通しについて予測を行っていきます。

トランプ政権の対中国政策に関する現実的な視座を持つべき

本分析はトランプ政権の対中国政策を、人事、行動、環境、の3点から解説していきます。具体論に入っていく前に、トランプ政権の対中国政策の基本的な理解について概要を整理しておきたいと思います。

筆者は米中戦争のような非現実な仮定を喧伝し、書籍の売上部数を稼ごうとする輩には嫌悪感を持っています。また、トランプ政権が無能であるという非現実な仮定についても賛同しません。

トランプ政権は「主に通商問題で有利な立場を構築するためにイデオロギーや安全保障を絡めた交渉事を行う」可能性が高い、という分析が筆者の結論です。

これは実際に配置されているトランプ政権の人事、大統領選挙から現在までの行動、そして中間選挙を見据えた米国国内の政局状況などを踏まえれば妥当なものだと思います。トランプ政権の対中国政策派国内政局の影響を受けるため、若干のブレはありますが概ね間違いないものと思います。

米国の保守派はイデオロギー的な自由主義の拡張を望んでおり、トランプ政権における外交政策においても一定のパワーを有しています。トランプは共和党内のこれらの支持基盤に配慮する必要があります。また、中国の拡張主義に対して安全保障上の懸念を示すことも必要であり、マティスをはじめとした同盟国との関係を重視する職業軍人らからの支持を得ることも重要です。

さらに、選挙の観点に立つのであれば、中国に強い態度を示すことで国内の選挙面での得点を稼ぐことを目指すことになります。こちらはナヴァロやロス、そしてバノンが志向している方向性になりますが、これは2018年の中間選挙での勝利を手にするためのデモンストレーションに過ぎないと思われます。その上で、輸出補助金問題などで中国側からの一定の譲歩を引き出すことができれば大きなポイント獲得となります。

しかし、現実には米中関係は経済面・金融面で非常に深い関係となっており、相互依存は切っても切れない状況となっています。また、中東方面などの地球上の別地域での安全保障上の課題を抱える米国は東アジアに新たな戦略正面を抱えることは困難であり、北朝鮮問題について中国の積極的な役割を求めています。これらの事象は共和党内での主流派からのトランプ政権へのプレッシャーとして働くことでしょう。

したがって、トランプ政権は中国に対して、イデオロギー・安保面での「揺さぶり」をかけることで保守派・同盟国を満足させるとともに、通商問題での強硬姿勢を示すことで選挙上の成果を上げた上で、更に中国から一定の譲歩を得ることで同国との妥協を模索する主流派を納得させる、という高度な外交戦略を実践に移すことになるでしょう。(それが成功するか否かは不透明だと言えます。)

明日以降、具体的なファクトベースでトランプ政権の対中国政権の方向性を検証していきます。

トランプの対中国政策(2)対中政策人事の二面性 に続く。




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2017年03月30日

著作『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)のご紹介

無題
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著作『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)を発刊します

ブログ読者の皆様のおかげで『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)を2017年4月1日に出版する運びとなりました。深く感謝いたします。(一部都心の本屋さんでは既に陳列が始まっているようです。)

読者の皆様のおかげで現在Amazonのカテゴリー「アメリカ」で1位~2位で推移しています。

本作を執筆するきっかけとなりましたのは、まさに本ブログの更新及びアゴラへの転載を祥伝社の編集の方に注目して頂いたことです。

日本国内ではヒラリー勝利が喧伝していたいい加減な言論が蔓延する中、データと事実を用いてトランプ当選の可能性を予測した圧倒的な少数派として、日本人に正しい情報を伝える取り組みを続けてきたことを認めて頂いたことを嬉しく感じております。

本作の読みどころ「日本人と180度真逆の発想を持った共和党保守派を知ること」

本作で取り上げた大統領選挙やトランプ政権の解説について是非多くの皆様にご一読いただければと思います。その上で、筆者が読者の皆様に強調したいことは「共和党保守派」という大半の日本人とは180度真逆の発想を持った人たちについて理解を深めてほしいということです。

多くの日本の有識者は共和党保守派について良く知らないまま、彼らについて偏見に基づく解説を行っています。米国政治に関する研究は共和党保守派を蔑視する学者らによって行われてきており、無自覚なのか意図的なのか分かりませんが、日本人に対して正しい情報が伝わりにくい環境があります。

本書は筆者が2009年当時から付き合ってきた保守派の人々の政治的な思考・行動を大統領選挙及び組閣に絡めてまとめたものであり、政権与党である米国の共和党の中で影響力を強める保守派の考え方を知るための一助となるものと思います。

なぜ共和党保守派は「小さな政府」を求めているのか、そして大統領選挙にどのように関わってきており、トランプ政権の中で自らのポジションをどのように位置付けているのか、リベラルな関係者によって寡占されている一面的な報道などでは伝わらない米国の今を理解できるものと思います。

次回作があれば、今度は「共和党保守派の政治システム」について書かせてほしい

万が一、本作が人々に受け入れて貰えて一定数以上販売実績が出た場合、将来的には「共和党保守派の政治システム」について解説する本を出したいと思います。

共和党保守派が有する、①統合機能(年次総会)、②司令塔機能(毎週実施される作戦会議)、③運動支援機能、④訓練機能(選挙学校)⑤政策立案(シンクタンク)、⑥資金源(財団)、⑦メディア及びメディア監視機能、➇歴史教育、などがどのように有機的に結びついて機能しているのかという分析をまとめたものを想定しています。日本の政治では見たことがない近代的なシステムが存在しており、筆者は非常に驚かされた経験を持っております。

2年前に我が大学に上記のシステムを調査する研究計画を提出したときに、このイデオロギー的に偏った企画は君の趣味だよね、という感じで却下された研究企画なのですが、米国政治やトランプ政権を理解するためだけでなく、日本の政治改革にとっても重要な示唆が含まれたものだと確信しています。(むしろ、本件について一緒に研究して頂ける大学研究室などがあれば同時に募集しています。)

上記の内容を出版という形でまとめることができれば、単なる研究というだけではなく多くの日本の方に知って頂く機会にもなるため、非常に有意義なものになるのではないかと夢想しております。

とはいうものの、まずは本作が売れてくることを願っております。読者の皆様にもご協力を賜れれば幸いです。



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2017年03月25日

何故「ライアンケア」の採決は見送りになったのか

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ライアンケア(オバマケア代替法案)の採決が見送りになった理由

オバマケアの代替法案であるライアンケア(オバマケア・ライト)の採決が民主党からの頑強な抵抗と共和党内の保守派の一部からの抵抗で可決の見通しが立たないために採決が見送りになりました。

今回のポイントは、トランプ政権を支える保守派が反旗を翻すとトランプ政権は法案を通すことができないということが如実になった ということです。

筆者は1月政権発足時に「 トランプを黙らせる方法」(アゴラ)という記事を執筆しました。内容としては政権基盤がぜい弱なトランプ政権は自らを支える保守派を他者におさえられると身動きが取れなくなるというものです。

トランプは自らを支える保守派を軽視して主流派に阿ったオバマケア改革案を認めたことで、保守派の一部から手痛くお灸を据えられた形になりました。

トランプ政権はコーク兄弟に一瞬の隙を突かれて保守派の一部を切り崩された
 
左傾化が進んでいる民主党がオバマケアを見直す同法案に賛成しないことは当然ですが、今回はトランプ政権を支えているはずの保守派の一部が強硬に反対を主張したことは注目に値します。

特に反対の急先鋒に立った人々はFreedom Caucusというリバタリアン色の強い保守系の議員連盟に所属している連邦議員です。彼らはライアンケアはオバマケアを廃止するとしていた政権公約に反する中途半端な粗悪品に過ぎないものとして批判を展開しました。

この背景には選挙期間中からトランプと激しく対立してきた大富豪のコーク兄弟との確執があります。

コーク兄弟はリバタリアン系(一応保守派の一部とみなされる)を中心に共和党連邦議員らに巨額の資金援助を実施しており、今回はライアンケア廃案と資金提供をバーターにする取引を連邦議員に持ちかけました。 the Club for Growth、the Heritage Foundation's political arm、Americans for Prosperity、Freedom Partnersなどのコーク兄弟と関係が深い団体もライアンケアに一斉に反旗を翻しました。

トランプと下院共和党指導部が法案通過を意図して共和党内主流派と妥協を行ったことで、コーク兄弟に保守派内に生まれた亀裂を突かれてお膝元の保守派を切り崩された形となります。

しかも、その理屈はライアンケアは手ぬるく公約違反であるというものでした。つまり、政局的な要素ではなく、あくまでもコーク兄弟はトランプ政権の最優先政策を頓挫させる大義名分まで得て政局を制するという大勝利となりました。(もちろん、トランプにとっては完敗となりました。)

連邦議会の掌握に失敗したホワイトハウス・共和党下院指導部

ライアンケアはポール・ライアン下院議長が主導した紛い物であると反旗を翻した保守派からは非難されています。そのため、ポール・ライアン議長にしてみれば連邦下院という自らの庭でコーク兄弟に赤っ恥をかかされたことになりました。

ホワイトハウスでもポール・ライアン議長と懇意にしていたラインス・プリーバス首席補佐官、コーク財団系の運動団体であるFreedom Partnersの元代表のマーク・シュートを議会対策の文脈で顧問に据えているペンス副大統領などは、連邦議会との調整力という意味では疑問符がついたことになります。

連邦上院では民主党によるフィリバスターや反トランプの議員らの抵抗が想定されるため、元々ライアンケアがそのまま成立する可能性が薄かったわけですが、トランプ政権と近い関係にあるはずの連邦下院、しかも保守派からの造反が出たことは、トランプ政権が議会対策を根本的に見直す必要があることを示唆しています。

トランプ政権が取り得る選択肢にはどのようなものがあるのか

トランプ政権が取り得る選択肢としては、最も手堅いものはコツコツと難易度の低い法案を通して、議会運営の実績を積んで成果が出ているように見せていくことでしょう。

しかし、次の山場はトランプ政権が想定している下院の税制改革案ということになります。こちらは国境税調整を含むものであり、主流派との妥協が必要な点、保守派の団結に綻びがある点、コーク兄弟が反対している点、など、ライアンケアとほぼ同じ構図が成立しており、コーク兄弟の影響力を見せつけられた現在、予算成立は極めて困難になってきました。

トランプ政権とポール・ライアン下院議長は保守派をまとめ上げて国境税調整を含む税制改革をごり押しすることができるのか、それとも民主党や主流派との妥協を通じた対応を継続していくのか、その際コーク兄弟の影響力をどのように排除または利用するのか、ということが問われることになります。

仮に今回同様の失敗の可能性がある場合、保守派と一緒にごり押しして来年の中間選挙で民主党・主流派との全面対決姿勢を取るのか、保守派と距離を取ってインフラ投資などをバーターとして民主党・主流派との関係を仕切り直しするのか、それとも何もしないで無策でいくのか、次の一手が非常に興味深いことになりました。

今回のライアンケアの一件は、トランプ政権内における保守派の重要性を再認識させる出来事であるとともに、ホワイトハウス内での勢力争いの力関係の変更にも繋がることから、トランプ政権の動向からますます目が離せない状況となってきました。



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2017年03月20日

トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置とは

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スティーブ・バノン首席戦略官はトランプ政権の黒幕なのか? 

最近の報道などではスティーブ・バノン首席戦略官への注目が高まっているようです。

散々オルト・ライトを馬鹿にしてきた日本人有識者もバノンの存在感の大きさが無視できなくなりつつあり、欧米メディアがバノンの報道を増やすのに合わせて解説記事などが増えてきました。

たしかに、バノン首席補佐官はトランプ政権の意思決定について重要な役割を果たしていると思います。現在のトランプ政権における最重要人物の一人と言えるでしょう。しかし、バノンのトランプ政権内での立ち位置は共和党内の派閥争いの微妙な均衡の上に成り立つ砂上の楼閣でしかありません。

トランプ政権内での影響力を過大評価する論調には全く同意できず、彼も広義の保守派の中の一つのパートを担っている存在として冷静に認識していく必要があります。

スティーブ・バノンの人生、そして力の源泉とは何か

スティーブ・バノンの父は朴訥とした真面目な労働者であり、AT&Tを務め上げた米国における父親像を体現するような人物です。スティーブ・バノンは父であるマーティー・バノンのような人々が米国を支えていると認識しています。

一方、スティーブ・バノンは一流大学を卒業、機関投資家であるゴールドマン・サックスで活躍し、自らの父とは対極にある米国内の特権階級側に所属する一員としての人生を歩みました。

この二人の人生が交錯した瞬間がリーマンショックでした。

父のマーティーがコツコツと積み上げたAT&Tの株価が下落・一夜にして財産を失った一方、スティーブは政府と癒着した一部の人々が何ら責任を取らずにヌケヌケと暮らす姿を金融マンとして目の当たりにしました。この際、バノンは父のような真面目な米国民を蔑ろにした米国の政治への深い憤りを持ったと伝えられています。

この後、スティーブ・バノンはオルト・ライト系とされるネットメディア「ブライトバートニュースネットワーク」との関係を強化し、同サイトをニュースメディアとして大きく飛躍させることに成功しました。

ただし、バノンをホワイトハウスに送り込んだ力はネットメディアの力ではなく、このときブライトバートニュースネットワークの飛躍を支えた、ある有力者の存在にありました。

マーサー財団とトランプの同盟、その同盟関係の代理人としてのバノン

米国には政治運動の資金面を富豪が設立した財団が支えることは珍しくありません。有名な財団はコーク財団などであり、主に共和党系連邦議員らに対して巨額の資金援助が行われていることで有名です。

トランプは大統領選挙の過程でコーク財団と対立・ムスリム入国禁止などの舌禍によって共和党主流派とも対立関係に陥ってしまい、大統領選挙で資金面・運動力面でヒラリーに対して大きく劣後する状況に陥りました。

トランプの苦境に手を差し伸べた存在がマーサー財団です。マーサー財団は共和党予備選挙で保守派の大統領候補者であったテッド・クルーズのスーパーPACへの巨額資金提供者であり、ティーパーティー運動や保守系シンクタンクなどへの資金提供者として近年存在感を高めてきた財団です。

バノンのブライトバートニュースもマーサー財団から10億円以上の資金援助を受けていたと報道されており、バノンとマーサーは政治的同盟関係にあったものと推測されます。

テッド・クルーズの予備選挙撤退後、マーサー財団は急速にトランプに接近し、その過程の中で財団設立者のロバート・マーサーがバノンをトランプに引き合わせました。

また、クルーズのスーパーPACの責任者は現大統領顧問のケリーアン・コンウェイが務めていましたが、同スーパーPACはトランプを支援するためのものに看板が架け替えられるとともに、コンウェイはトランプの選挙対策本部長に就任することになりました。

バノンとコンウェイの合流以降、トランプ選対に保守派の政治運動が結集し始めてトランプとヒラリーの支持率差は急速に詰まっていくことになりました。

ロバート・マーサーの娘のレベッカ・マーサーはトランプ政権移行チームの執行役員に選ばれており、バノンとコンウェイのホワイトハウス入りも含め、人事面・資金面の観点からトランプとマーサー財団が緊密な関係を維持していることが分かります。

トランプの黒幕は「共和党保守派」であって「バノン個人」とは言えない

共和党内では保守派の政治運動を基盤としている保守派、様々な利権構造に支えられた有力な政治家を基盤とする主流派の2つの派閥が権力闘争を繰り広げています。

現在までトランプ政権は大統領選挙の経緯を反映してバノンを含めた保守派の影響力が相対的に強い状況となっています。

ただし、トランプを支える政治勢力の中心は大統領選挙の途中からトランプ陣営に合流したレーガン大統領の流れを組む保守派の政治運動の担い手です。たとえ、バノンやコンウェイなどのマーサー財団と近い関係にある人々が論功行賞でホワイトハウスの重要な地位を占めていたとしても、その影響力の過大評価することは誤っています。

バノンは保守主義運動の中ではニュースサイト運営者に過ぎず、バノンの権力基盤はマーサー財団という保守系の一つの財団が支えているに過ぎません。共和党保守派全体から見た場合、あくまでも彼の位置づけは保守派の一角を占めている新参者の重要人物というだけです。

そのため、共和党保守派の政治勢力全体を指してトランプを支える黒幕と表現することは可能であっても、バノン個人を黒幕と表現する行為は小説であって分析はありません。

また、保守派と対立する主流派はバノンの動きを警戒しており、陰に陽にバノンを追い落とそうとする動きが活発化している状況があります。バノンとコンウェイを支える政治的な背景は他の保守派の人々よりも弱いため、ホワイトハウスや連邦議会の主流派、そして彼らに近いメディアがバノンとコンウェイをネガティブキャンペーンのターゲットにしています。

大統領選挙の過程で生まれた保守派と主流派の対立の関係を背景とし、その天秤のバランスを保守派側に傾けるためにバノンは一時的に保守派から同盟相手として認識されている状態であり、その地位は砂上の楼閣として表現できるものと思われます。

したがって、バノンが首席戦略官として国内政策に強い影響力を持ちながら、国外政策に影響力があるNSCの常席になったとしても、その権勢を過大に評価する論調に与することは誤りです。

スティーブ・バノン首席戦略官の扱いは共和党内の権力闘争のバロメーター

それにも関わらず、筆者はトランプ政権におけるバノンの扱いについては注目すべきと考えています。なぜなら、バノンの扱いは共和党内の勢力争いを測る指標となるからです。

仮に何らかの勢力構造の変化によってバノンがトランプ政権から追放された場合、その現象は従来までの保守派が更に勢力を拡大したのか、それとも主流派が勢力を盛り返しているのか、のいずれかを意味します。

逆に現状のままバノンの権力が拡大し続ける場合、それは保守派・主流派の両派の力が拮抗している状況であり、トランプ大統領の独自の権勢が勢力均衡下で拡大している状況にあることを示唆しています。

スティーブ・バノン首席戦略官はその人生、政治観、歴史観を含めて小説のネタとしては非常に魅力的な人物像を持った人物だと思いますが、その人間性からトランプ政権の性格を導き出そうとする行為はバランスの悪い論評だと思います。

米国政治について面白い物語を描くだけでなく、冷静に分析を加えていく目線が必要です。

<ワタセユウヤ(渡瀬裕哉)初著作のご紹介>


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2017年03月17日

トランプ「不完全な」予算教書が示唆すること

無題

3月16日予算教書(骨格)から分かるホワイトハウスと議会の確執

トランプ大統領が3月16日に発表した予算教書(骨格)は、国務省や環境保護局などの予算を削って、その分を防衛費の増額に充てるというものであり、内容の是非はともかくトランプ政権が明言してきた内容が反映されただけのものであり、それほど驚くべき内容ではありません。

予算を削られる分野に関連している人々からは様々な批判が寄せられると思いますが、それは予算削減の折に見られるお約束の批判であるので重要な情報として相手にする必要も特にありません。

一部のバラマキ的なプロジェクト停止が上院・下院の選挙に影響を与える可能性はあるものの、大半の分野が民主党議員の利権分野であることから肉を切らせて骨を断つ内容とも言えます。

ただし、本予算教書は全く不完全なものであり、現在の段階でこれ以上の議論を行っても仕方がありません。そして、その不完全さがトランプ政権の今後の道筋の困難さを表すものとなっています。

春先まで減税案と財政赤字の見通しの公表は先送りに
 
トランプ大統領が提示する予算で最も焦点になるポイントは、国境税調整を含めた減税改革、の内容となります。しかし、その中心となる減税案の公表が先送りとなったことで、今後の展望が見えにくい状況となっています。

これはトランプ政権と連邦議会の間で税制改革の合意がほとんど得られていないことを意味しています。米国大統領は予算教書で自らの見解を述べることしかできず、実際の予算策定・承認の全ては連邦議会で行われます。

そのため、トランプ大統領は事前にある程度連邦議会側とネゴシエーションして税制改革案を提示するわけですが、現段階まで減税案を示すことができていないことは、肝心の議会対策が不調であることを示唆しています。

トランプ政権の苦しい議会運営、トランプを支持する勢力の実数は25~30%程度か

共和党が上下両院過半数を占めているため、トランプ政権の議会運営が楽になったとみなす向きもありますが、それは現実の政局構造を踏まえていない論説だと思います。

トランプ政権に対して連邦議会の共和党内の約半数を占める保守派が支持、残りの半数の主流派は是々非々というスタンスです。これは選挙戦の軋轢を反映した結果として生まれた構図であり、トランプ政権側が掌握している連邦議会の共和党保守派に属する勢力は全体の25~30%程度でしかありません。

特に連邦上院では100議席中60議席以上を獲得しなくてはフィリバスター(議事妨害)によって予算決議は妨害されるために大幅な妥協が強いられます。また、予算決議に付帯させることが可能な財政調整措置に減税の規模・内容を技術的に委任することもできますが、その方法を採用しても技術的に過半数の賛成が必要となります。

トランプは予算教書(骨格)に先立つ一般教書演説で議会に協力を求めましたが、それは上記のような苦しい議会運営の状況が表れたものでした。

連邦下院の保守派が推進する国境税調整の行方、上院との落としどころを巡る争いは続く

元々共和党下院のポール・ライアン議長とケビン・ブレイディ歳入委員長は国境税調整を含めた大幅な法人税などの減税案を推進しています。連邦下院は共和党の議席の絶対数が上院よりも多く、共和党保守派が推進する税制改革案を推し進めやすい構造があるからです。

しかし、上院は共和党・民主党の議席数が拮抗しているとともに、共和党議員でありながら実際の投票行動が民主党と変わらない「名ばかり共和党員」、マケインなどのトランプと大統領選の過程で深刻な亀裂を抱えた有力議員、国境税調整に反対するウォルマートが地元にある州選出議員などがおり、下院の税制改革案がそのまま通る状況ではありません。

したがって、トランプ政権としては、減税規模や減税内容について上下両院議員との間である程度の合意の目途をつけてから春先に予算教書の本格版を提示する形を取ったのでしょうが、実際にどの程度合意できるかということは不透明感が漂っています。

筆者の見立てでは大統領の予算教書(本格版)と下院が国境税調整入りの減税案を推進し、上院が減税規模の縮小と一部の財源を国境税調整以外のものに切り替える修正を行うのではないかと想定しています。(もちろん、全てが崩壊して減税案自体がほぼ骨抜きになる可能性もゼロではありません。)

トランプ政権の減税改革は世界経済、日本企業に与えるインパクトも非常に強烈なものであり、今後もその展開から目を離すことはできません。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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