米国政治

2017年02月06日

なぜトランプ大統領は豪州首相に電話会談でブチ切れたのか

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<写真はThe Gurardianから引用>

豪州首相との電話会談ブチ切れ事件の真相とは何か

トランプ大統領の豪州首相との電話会談でのブチ切れ事件、毎日事件が起きるので既に過去のものとなりつつありますが、一応本ブログでも内容についてフォローしておきたいと思います。

結論から申し上げると、筆者は「電話会談でブチ切れるのもどうか」と思いますが、トランプ大統領が怒っても仕方がない内容だと感じています。

なぜなら、原因となった「米国と豪州の難民交換の取引」は明らかに不当な内容であり、オバマ前大統領がトランプ大統領を困らせるためだけに実施したものだからです。前大統領が行った国際的な取り決めだからそれを引継げ、という主張はまともな取引なら成立する話ですが、単なる嫌がらせまでその類に入れるのはあまりに理不尽です。

難民交換が行われるきっかけは豪州の難民への虐待が暴露されたことだった

そもそも豪州から米国に引き渡されるはずの難民はどのような人々なのでしょうか。

豪州の難民制度は極めて劣悪であり、豪州に海を渡って入国しようとする難民は海上で拿捕された上に、豪州本土ではなくパプアニューギニアやナウルの収容所送りになります。

これはインドネシアなどの密航業者が手引きして豪州に船で難民(≒不法移民)を送り込むビジネスが発達し、それらへの対応に苦慮した豪州政府が編み出した苦肉の対応策でした。豪州本土で難民を受け入れる代わりに、資金難の周辺の島国に援助金を払って収容所の管理をさせるというご都合主義のモデルです。

ところが、昨年8月10日、豪州政府は同収容所の超絶劣悪な環境を英国のガーディアン紙に暴露されてしまう事態に陥りました。収容者への性的虐待、人権侵害、自傷行為などの数々が記録された凄まじい内容であり、豪州の人権侵害ぶりが白日の下にさらされることになったのです。

豪州は自らを頼って辿り着いた入国希望者への責任を放棄し、事実上の迫害をそれらの人々に加え続けていたため、世界中の人権団体からの厳しい非難にさらされることになりました。

ここで人権侵害国家である豪州に手を差し伸べたのが、米国のオバマ大統領でした。

オバマ大統領はトランプ勝利直後に取引を決定、連邦議会から激烈な反発を受けていた

11月9日のトランプ大統領の大統領選挙勝利の直後、オバマ大統領は豪州政府との間で難民の受入れを成立させました。

オバマ大統領が豪州政府からの難民受け入れを実施することを決めたとき、米国連邦議会は何の相談もされていませんでした。当然ですが、既に退任が決まったオバマ大統領が議会に何の断りもなく唐突に難民の受け入れを決定したことは連邦議員からの強い反発を招きました。

同11月チャック・グラスリー上院司法委員会委員長はオバマ政権に対して豪州政府との間で行われた「秘密取引」について公開の場で説明するように正式な要求を行っています。

要約すると、連邦議会に無断で数か月の交渉を行ってきたこと、合意内容の詳細が不明であること、国務省が指定したテロ支援国家の人々が含まれていること、豪州の責任であるはずの難民を引き受ける正当性がないこと、などの疑念が激烈に表現されています。

つまり、メディアの影響で多くの人が錯覚しているように、トランプ大統領が突然「酷い取引だ!」と言ったわけではなく、オバマ大統領が自分の任期中に完了しないことを承知で強引に進めた劣悪な取り決めに対して、連邦議会で当初から問題となっており、議会の難民政策の責任者である司法委員会のトップが強い反発の意志を示していたことになります。

難民を受け入れる・受け入れない、どちらを選んでも罰ゲームに追い込まれたトランプ

トランプ大統領は選挙期間中から不法移民に対して強い姿勢を示してきており、イスラム教徒への入国禁止などの物議を醸す内容の発言を行ってきました。

そのため、オバマ前大統領は豪州からイスラム教徒を受け入れる代わりに、米国から中南米からの難民を豪州に渡すという意味不明な取引を無理やり成立させることで、トランプ政権の出鼻を挫く仕掛けを準備することにしたのでしょう。

結果として、トランプ大統領は難民を受け入れなければ国際的な取り決め違反、そして難民を受け入れれば公約違反という、どちらにしても負ける罰ゲームを強いられることになりました。

上記の通り、本来は豪州から難民を受けれ入れる必要は全くなかったので、この取り決めはオバマ大統領が豪州政府と結託して行った完全な嫌がらせ行為だと言えるでしょう。

豪州首相に一度はブチ切れるスタンスを示したトランプ、直後に国際的な取り決めを受け入れる対応

トランプ大統領としてはオバマ前大統領と豪州首相に「はめられた」形になっているため、豪州首相との電話会談でわざとブチ切れて見せたものと思われます。

つまり、どっちに転んでも罰ゲームであれば自分の支持者の満足を取ったということです。しかし、当然に国際的な取り決めを反故にするわけにもいかないので、その後難民の受け入れを正式に発表しています。

豪州首相にとってはなかなか良い取引であり、自国の劣悪な難民受け入れ制度についてトランプ大統領が言及しない代わりに、トランプ大統領の政治的なパフォーマンスを受け入れた上で、トランプの入国禁止措置についてもほとんど発言していない状況となっています。

豪州は米国の政争に付け込むことで、自国からテロ懸念国の難民を米国に引き取らせた上に、自国の劣悪な人権状況についてオバマ前大統領やトランプ大統領に指摘されないように話をもっていくことができたわけです。まさに、豪州にとっては最高、米国にとっては最低の取引だったと言えるでしょう。

以上のように、オバマ前大統領が残したマッチポンプ的な嫌がらせに焼かれ続けるトランプ大統領ですが、メディアはオバマ大統領の陰湿な行為に全く触れようとしないどころか、トランプ大統領を責め続けるばかりで流石に気の毒になってきました。

少なくとも本件については豪州との難民交換での米国側には何のメリットもなく、また筋論として豪州自体が自らの難民問題への責任を果たすべきものであり、メディアもこの程度のことくらいはまともに報道してほしいものだと思います。







本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2017年02月04日

トランプの入国禁止の合理性が分からない人へ

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トランプ大統領側の視点に立って「入国制限」のロジックを考える

トランプの入国制限について「入国禁止措置でトランプの頭がおかしくなったと思う貴方へ」というエントリーを作って投稿させて頂きました。過去記事では基本的には同時点で分かっていたこと・気が付いたことを中心に述べました。

正直に言えば、この問題について「入国禁止」という一事を持って物事を語っている有識者は、世界とトランプ政権に何が起こっているのか・これから何が起きるのか、についてほとんど何も分かっていないのではないか、と思います。

そして、それらは既に公式にオープンになっている情報からある程度推察することが可能であり、いつまでも観念論的な考察、制度的な説明、リベラルへの批判ばかりしていても、量産型ザクのような無意味な議論にしかなりません。そこで、今回の記事ではファクトに基づいてあえて物議を醸す内容をまとめてみました。

1月28日・トランプ大統領覚書「30日以内にイラク・シリアのISIS掃討作戦を作成しろ!」

1月27日の入国禁止措置で盛り上がった報道に隠れる形で、1月28日に「Presidential Memorandum Plan to Defeat the Islamic State of Iraq and Syria」という大統領覚書が公開されました。

簡単に内容をまとめると。関係機関が協力して「30日以内にイラク・シリアのISISを掃討する作戦素案を作れ!」という命令の文書です。文書内では予算付けに関する詳細な戦略を作るように指示されており、戦時国際法マニュアルの見直しを示唆する内容まで含まれています。

これはトランプ大統領による3つ目の大統領覚書となっています。

メディア上ではスティーブ・バノン首席戦略官がNSC(国家安全保障会議)の常任となり、統合参謀本部議長と国家情報長官は常任メンバーから格下げされた人事が行われたことも盛んに報道されました。この人事は2つ目の大統領覚書で行われたものであり、実は上記のISIS掃討作戦素案作りの覚書の中にはこの2つ目の人事変更を踏まえて計画を立案するべし、という趣旨の内容も盛り込まれています。

トランプ大統領はNSCを腹心で固めており、今後はスティーブ・バノン氏やマイケル・フリン氏らの対イスラム強硬派の勢力の影響力が強まることが予測されます。大統領府におけるバノン氏の側近であるセバスチャン・ゴルカ氏は著書でも「グローバル・ジハード」の脅威・対抗を述べています。

また、シリアへの地上兵力の派兵に慎重な国防総省の軍の制服組のトップがNSCから外されたことは、シリアへの地上兵力の派兵の可能性が高まったことも同時に意味しています。

ティラーソン国務長官及びマティス国防長官の議会公聴会でのISIS掃討発言

米国では各省長官の任命に際して上院で公聴会が実施されることになっており、そのやり取りの中で各長官候補の現状の施政方針について確認することが可能です。そこで、外交・安全保障を担う国務長官と国防長官の中東情勢に関する認識を確認してみましょう。

ティラーソン国務長官はISISの打倒は急務かつ最優先課題としており、アサド政権への対応はその上で検討する、と述べています。ティラーソン氏は公聴会に先立って発表した自らの姿勢方針を示す文書の中でもISISに対して非常に厳しい認識を示しています。

また、マティス国防長官は、ISISに対して現在以上に強い対応を行うべきだという意志を示し、横断的で統合された戦略が必要だと述べており、中東で軍事的な打撃を与えるとも主張しています。マティス国防長官は中東などを統括する中央軍司令官だった経歴を持つ同地域のエキスパートです。

つまり、外交・安全保障のキーパーソンがISISの打倒を優先事項として掲げていることが分かります。そして、当然ですが、上記の戦争計画素案作成を指示した大統領覚書では、国防長官・国務長官、そして関係省庁の長官がズラッと並べられて協力してプランを作ることになっています。

7か国からの入国停止を冷静に受け止める湾岸諸国、シリアへの安全地帯構想を検討するロシア

イスラム教徒がマジョリティーを占める国々からの入国禁止措置について、全てのイスラム国家が反対の姿勢を示しているわけではありません。少なくとも、サウジアラビア、クウェート、UAE、バーレーンなどの比較的親米諸国はトランプ大統領の入国禁止措置への非難に加わっていません。したがって、入国禁止を指定された諸国以外の中東のイスラム系国家の反応は比較的冷静な態度を示しています。

また、米国はサウジアラビアやロシアなどのシリア情勢に直接的に関与している国から、シリア国内に安全地帯を設ける旨について検討することに対する内諾を得ています。米国はオバマ政権時代にトルコから安全地帯構想への賛同要請を地上部隊の派兵を嫌って断ってきました。しかし、トランプ政権下では態度を一転させて同構想について積極的な姿勢を見せている状況です。トランプ政権に呼応する形でロシアがアサド政権の存続を前提として同構想への態度を軟化させてきたことは驚きましたが、両国ともにそろそろ手打ちを図る時期が来ているとも言えます。

入国禁止措置でシリア難民の受入れを無期限停止すること、米国がオバマ時代に完全に失った中東での主導権を取り戻すことに鑑み、米国にとってシリアにおける安全地帯の確保は重要な施策と言えるでしょう。

安全地帯の確保には地上兵力の投入が少なからず必要になる可能性があり、トランプ大統領は選挙期間中に2~3万人の地上兵力をISISに投入する旨を明言しています。また、トランプ大統領は就任演説でも「イスラム過激派のテロに対し世界を結束させ、地球上から完全に根絶する」と改めて述べています。(ただし、地上兵力の派兵のカードは大統領就任から現在までまだ切られていません。)

以上のように中東、特にシリア・イラクにおけるトランプ大統領の外交・安全保障に対する構想に関係各国は各々の立場で一定の協力的な反応を示しているものと思われます。

シリア・イラクで掃討されたISISはグローバル・ジハード路線に転向する可能性

冒頭で確認した通り、約30日後にISISを掃討する計画素案がトランプ大統領に提出されることはほぼ確定事項です。そして、トランプ大統領によって公約通りISISを掃討するために同計画が実行された場合、何が起きてくるのでしょうか。

現在シリア・イラクに集中しているISISが同地域から排除されたとしても、そのことは全てのISISの構成員が地球上から消滅することを意味するわけではありません。では、一体どのような状況になってしまうのでしょうか。

ISISがシリア・イラクで掃討された結果として発生する状況を示唆する有力な事例が存在しています。

それは、アル・カイーダです。アル・カイーダは9.11の時は明確な指揮系統を持った組織でしたが、米国による徹底した攻撃を受けて、数年後には同組織は国際的に分散した形態に移行する状況となってしまいました。

つまり、ISISもカリフ国家に集中されていたパワーが分散化することにより、アル・カイーダのようなグローバル・ジハード路線に転向していく可能性が極めて高いものと思います。また、ISISの構成員の中には、そのままアル・カイーダに合流する勢力も少なくないでしょう。

トランプ政権がISISをシリア・イラクで掃討し、シリア・イラクに出来上がっていたテロリストの入れ物が壊れることは世界中へのテロの拡散の引き金になる可能性があります。このことはイスラム蔑視からテロリストが生まれる云々という迂遠な話よりも遥かにテロの拡散の直接的な原因となるでしょう。

トランプ政権はグローバル・ジハードへの対応を既に強化しており、政権発足後初めて軍事行動としてイエメンのアル・カイーダ系の組織を攻撃するために実施し、トランプ大統領自らが死亡した米兵のための墓参りを行うことで国際テロ組織壊滅に向けた断固たる決意を示しました。同行動からトランプ政権のグローバル・ジハードへの対応方針が強固なものであることが伺えます。

入国禁止措置はグローバル・ジハードへの対応を意図しているものと推測

上記の通り、トランプ大統領の公約通りISISへの掃討作戦が実行されることで、その後ISISがグローバル・ジハードに転向する可能性があることを確認しました。そして、それらの転向した勢力は当然のように米国に侵入してテロを実行しようとする可能性は極めて高いです。

これらの状況を想定することで、トランプ政権の「入国禁止」措置の意図を初めて理解できるようになります。

トランプ政権はISIS掃討後の世界の環境変化を見据えているものと推測されます。昨日まで平気だったから今日も平気だと思う人はリスク管理に向いていません。

グローバル・ジハード化したISIS及びアル・カイーダ系からのテロリストの流入を防止するために、既にオバマ政権がテロリストの流入可能性が高い国としてテロリスト渡航防止法で指定していた国々からの流入を90日間停止、難民受入れも120日間停止、シリアからの難民受入れは無期限停止する、ということは必須のものでしょう。また、場合によっては同期間内で対ISISの本格的な軍事行動が実行されることも想定すべきです。(当然ですが、同措置がISISが国際的に拡散することへの対応と言えるわけがありません。)

ちなみに、同掃討作戦への関与が大きいイスラム諸国からの流入については一旦停止することも困難であり、それについてはそれらの同盟国の対応を信頼するしかないという苦しい状況となっているものと思います。

ただし、いずれは上記の緊急性の高い国々に適用された新しい基準のテロリスト流入対策が他国にも求められていくことになるでしょう。人権上の問題はあるものの、テロリスト対策として高度な生体認証システムの実装などが図られていくものと思われます。私たち日本人は米国がテロと現在進行形で戦闘を行っている国であるという前提を忘れるべきではありません。

上記の通り、大統領覚書、政権人事、テロリストの状況などを勘案した場合、トランプ政権が実行している政策は一定の一貫性・合理性を備えているものと考えることができます。

トランプ大統領の政策に対するファクト・ベースの議論の必要性

上記の内容は、筆者がトランプ政権の公約及び発足後の行動を論理的に並べて仮説を構築したものに過ぎません。もちろん、筆者の想定が間違っている可能性もありますし、同じファクトを見ても違う結論を導き出す人もいるかもしれません。

しかし、一つだけ言えることは、「観念論的な考察、制度的な説明、リベラルへの批判などの低レベルな議論」はそろそろ止めにしましょう、ということです。トランプ政権は既にスタートしており、矢継ぎ早に様々な政策が実行されている状況にあります。これらについて子細に検討した上で、その意図と実現性を推察することが求められるフェーズに突入しつつあります。

また、トランプ政権の政策は国内政策などでも複数の要素が相互作用を起こすものが多く、その内容は高度に練り上げられたものです。そのため、一つ一つの政策の妥当性を検証するのではなく、それらの政策の繋がりを意識した分析を試みる必要があります。もちろん、それは実際に政策を立案・実行する人々の顔ぶれとも複雑に絡み合っており、真っ当な分析を行うためには政策の方向性と人事情報との整合性も検討していくことも必須の作業となります。

我々はトランプ政権に対する偏見・蔑視は捨て去り、その意図・能力について捉えなおしていくべきでしょう。筆者は国内のトランプ政権に関する議論が速やかに次のレベルまで進んでくれることを願っています。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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トランプ大統領就任演説
国際情勢研究会
ゴマブックス株式会社
2017-01-31


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2017年01月30日

トランプの入国制限をちょっとだけ詳しく考えてみた

ISIL

トランプが署名した大統領令による入国規制は「トンデモナイ」話なのか?

トランプがイラン、リビア、スーダン、シリア、イラク、ソマリア、イエメンの7か国について入国制限を実施することを発表したことで、全米で反対デモが巻き起こっており、米国メディアがそれらを取材した内容の丸写しニュースが日本でも流れています。

さて、今回はトランプが署名した大統領令が本当に「トンデモナイ」ものなのか、について話をしていきたいと思います。その背景と意図、そして今後の展開について筆者なりにまとめたものであり、日本国内で語られている他の情報とは少し変わった視点から情報が提供できれば幸いです。

元々トランプのイスラム教徒入国禁止は、予備選挙時にトランプと共和党の一部(コーク財団系)が本格的に衝突したきっかけでもあり、その後一時的にトランプのHPから掲載が消えていたものの、大統領選挙後にHP上に復活したトランプ政権にとっては肝いりの政策だと言えるでしょう。

入国制限対象国が少なすぎるのではないか?という批判も存在している

今回の入国制限国は7か国について、米国国務省はこれらの国々をテロ支援国家またはISISやアルカイーダなどのイスラム過激派が現在進行形で勢力を誇っているテロリスト・セーフ・ヘイブンとして名指ししています。

そして、2016年1月に施行されたテロリスト渡航禁止法によって上記の7か国に渡航または滞在歴がある人は米国のビザ免除プログラムが利用できず、ビザ申請をしなければならないという元々他国よりも一段高いハードルが設けられて警戒されていました。そのため、トランプ大統領の着手までの速度には目を見張るものがありますが、これらの優先度の高い国からの入国者に対する規制を見直し・強化するための90日間の一時的な入国禁止措置を実施することは十分に想定の範囲内の出来事だと言えます。

ちなみに、トランプ大統領が2017年の受入れ上限としている難民5万人はオバマの半分程度と言われていますが、それは2016年にオバマが難民受入れ件数を激増させたからです。ジョージ・W・ブッシュとオバマの2015年までの平均は約5万人程度なので特別におかしな数字ではありません。

大騒ぎしている人々もグリーンカード保有者が大統領令の対象外になることが発表されたことで一定の期間が経過すれば静かになることが予想されます。また、米国が要求する追加情報を対象国から得た場合、ほとんど全ての人が入国できる可能性が高いです。

ただし、オバマ政権は最近の僅か2年で約5万発の爆弾を落とし、誤爆などによって新たなテロリストを上記の対象国内(イラク、シリア、リビア、ソマリア、イエメン等)などに育ててしまっています。潜在的なテロリスト予備軍の増加によって対テロ戦争という意味では9.11時よりも場合によっては状況が悪化している可能性があります。

したがって、一部のメディアや有識者のように過去のテロの実績から今後のリスクを安易に想定することは誤りであると推測されます。

そのため、文言通りにテロ対策として考えるならば、上記のテロリスト・セーフ・ヘイブンの文脈からはアフガニスタン、レバノン、パキスタンなどの国も対象であり、トランプ政権が一時的な入国禁止阻止措置を更に拡大していくことも想定すべきです。

トランプの真の狙いは「シリアに地上兵力を派兵して安全地帯を作ること」ではないか?

しかし、従来の政策の延長線上の措置とは言えども、これらの入国制限措置を純粋なテロ対策の観点のみで考えるべきかについては疑問があります。特にシリア難民の恒久的な入国禁止措置には別の狙いもありそうです。

今回の措置で最も重要なポイントはシリア難民の無期限入国禁止だと言えるでしょう。そして、トランプ政権の狙いは「シリア難民の入国禁止」によって生じる国際情勢の変化だと推測されます。

トランプ大統領は以前から「シリア国内に安全地帯を設ける」旨を発表していますが、サウジアラビア国王との電話会談でも再び「安全地帯の設置」についての協力を求めています。

そして、今回の大統領令でシリア難民を受け入れないと宣言した結果、人道的な措置として「シリア国内の安全な場所で難民に該当する人々を保護する」ことを逆に大義名分として獲得できるわけです。

現在、シリアでは米国抜きの世界秩序の始まりを象徴するかのような出来事が起きてしまっています。

オバマ政権のシリア対応は象徴的な外交失政であり、予算をかけて空爆を継続して無関係の人々も含めて殺傷した上に、米国の地上兵力の不在は和平プロセスからの米国排除という結果を招いて国際的威信を著しく低下させました。

今回、トランプ政権はシリア難民の入国禁止をあえて実施することで、米軍及び同盟国はシリアに地上部隊を派兵して影響力を持つ地域を手にする国内外からの大義名分を得ることになります。そうすることで、シリアでの和平交渉におけるバーゲニングパワーを取り戻せるからです。

そのため、トランプ大統領はシリアへの地上兵力派兵のカードはまだ切っていませんが、国内の一部の有識者のように派兵の可能性を全否定することは早計でしょう。

実際、ティラーソン国務長官をトランプに推薦したロバート・ゲーツはコンドリーザ・ライスと一緒に連名で地上兵力を派遣してプーチンと交渉するべきだという公開書面をメディア上に掲載していたこともあります。

イスラム教徒の入国禁止だと騒がれている理由の一つは少数派キリスト教徒の保護優先だから

上記でも触れた通り、グリーンカード取得者は対象外ということになり、「イスラム教徒の入国禁止だ!」とは一概には言えない状況となっています。

ただし、この大統領令がイスラム教徒の入国禁止と揶揄される理由の一つには「少数派宗教で迫害されている人」(≒キリスト教徒)を優先して難民として入国を受け入れる可能性が付記されている点にあります。

トランプ大統領は、これらの対象となったイスラム教国内では少数派となっているキリスト教徒は極めて残酷な被害にあっていることも多く、これらの人々は宗教的迫害から逃れるために優先的に入国させるとしています。

大統領令の批判者の中にはこの内容が宗教的な差別に当たるとする見方があるようですが、これについては意見が分かれるところでしょう。 キリスト教徒の迫害に関するレポートは十分根拠があり、なおかつ同時にこれはキリスト教福音派などの共和党保守派の意向が働いたものと考えることが妥当かと思います。

大統領選挙の経過及び結果が政策の微妙な部分に反映されることも米国の政治を考察していく上で非常に興味深い点だと言えるでしょう。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07


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2017年01月22日

トランプ大統領就任演説で何を悟るべきなのか

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トランプに対する偏見や単なる翻訳学者の言論が溢れる日本の知的空間

トランプの大統領就任式の演説が終わりました。日本でも演説内容について評論が行われていますが、正直言って読むに耐えかねるものが多くて、ほとんどサラサラと目を通しただけの状況となっています。

この就任演説の内容を正しく理解すること、現在の米国内部及び共和党内部での権力闘争の状況を伺い知ることができます。今回はトランプの大統領就任演説を通じて、それらの状況を概観していきたいと思います。

米国民としての一体性を取り戻すパトリオティズムの発露としての演説

トランプ政権の反ワシントンの姿勢は、米国における伝統的なパトリオティズムの発露に過ぎません。建国の歴史から連なる反ワシントン、反連邦政府の姿勢は米国共和党にとってはスタンダードな考え方です。

そして、米国共和党、特に共和党保守派はこの考え方を強く支持しています。

トランプは合衆国への忠誠、つまり自由主義と保守主義という米国の規範を規範を共有することによって、米国民は共通の理念の下に団結(分断を乗り越える)というイデオロギーを表明しました。

これはポリティカル・コレクトネスによって人種・性別・所得・学歴などで人間を分類する思考法を持つリベラルに対する強烈なアンチテーゼを示したことになります。(リベラル派それを多様性と呼んでいます)

民主党と共和党では何によって国民の一体性を取り戻すのか、という基本認識にズレがあり、この演説は共和党保守派が標榜する米国民を統合する価値観の勝利を宣言する演説であると捉えるべきでしょう。

このような分析はトランプ特有のものではなくて共和党保守派は常に主張してきたことであり、同演説はトランプ政権内での共和党保守派の力の強さを示すものだと言えるでしょう。

ワシントンのリベラルなエスタブリッシュメントとの戦い

トランプは民主党や共和党主流派などのリベラルな傾向がある人々と決定的に対立しています。これらの人々が集うワシントンは腐敗の象徴とみなされており、トランプはそれらの人々が雇うロビイストをワシントンから一掃する形で権力闘争を行っています。

そして、今回の大統領選挙結果はメルセル財団らのドナー、ヘリテージ財団の政策、ティーパーティーらの選挙力を背景とした共和党保守派のエスタブリッシュメントへの勝利であり、その戦いに決着をつけるという決意表明が反ワシントン演説の本質です。

つまり、現在実行中の政治闘争の方針を示していることになります。共和党内部でリベラルな主流派の排除という権力構造の変化は閣僚人事にも反映されており、今後の政策の方向性が極めて保守的なものになっていくことを示しています。

ちなみに、日本の外交面のカウンターパートの基本は上記のエスタブリッシュメントに紐づいた人々であり、昨年の8月に共和党系でもあるにも関わらず、ヒラリー支持を打ち出して全面排除されている状況です。

共和党保守派内でのリバタリアン陣営の衰退という構造変化

今回の演説の一部で保護主義的な発言も見られましたが、それらはトランプ政権内の共和党保守派内での権力構造の変化も表しています。

共和党保守派内では完全な自由主義を標榜するリバタリアンの勢力が資金面・政策面で大きな力を持ってきました。具体的にはコーク財団を中心とする勢力であり、共和党の大統領候補者や連邦議員は同財団の影響力を強く受けてきました。

日本人でも多少関心がある人ならコーク財団の名称と影響力を知っていますが、実は今回の大統領選挙ではコーク財団はトランプの支援を行っておらず、同財団の系列下の関係者などからトランプに人材が流れる状態が発生しています。

コーク財団の影響力の低下は避けがたい状態となっており、共和党議会内部のパワーバランスもトランプに有利に働く可能性が高まっています。また、同財団自体も政治活動を縮小する再編を志向しており、今後は研究活動などに重点を移行する動きが出ています。

この演説内容は政権内の共和党保守派内での権力闘争の結果として、リバタリアンの影響力が低下していることを裏付けるものとなっています。日本人から見ると何が重要なのか分からないかもしれないですが、米国政治の動向を具体的に考える上で重要な変化です。

トランプ政権は共和党保守派の政権であるという基本認識を持つこと

今回のトランプ大統領の就任演説は、長年米国で主流を占めてきたリベラル勢力(共和党・民主党含)の排除、共和党保守派内部におけるリバタリアンの影響力低下を示すものとなりました。

極めて政治闘争的な意味合いを前面に押し出した戦闘的な演説だったと思います。イデオロギー的な抽象的な意味ではなく、具体的な政治闘争が伴う保守革命が確実に進んでいるということです。

人材面でも大きな変化が発生しつつあり、従来までの人脈のガラガラポンが起きていくことになるでしょう。仮に若くて実力がある人々にとっては政治的なチャンスが訪れている状況です。

米国大統領の演説とは、誰がその政権を作ったのか、という選挙のプロセスが色濃く表れるものであり、それらを理解した上で政策の予測と具体的な対策を考えることが必要となります。少なくとも共和党保守派の考え方についてほぼ無理解・偏見が溢れている日本の現状を変えることが必要です。

トランプ政権を創り上げた人々は共和党保守派であり、それらの人々を軽視してきた日本外交は危機的な状況に立たされていくことになるでしょう。

表面的な文言の意味を探る訓詁学のような分析は意味がありません。トランプが述べているように実行の時代です。就任演説について論評するだけの学者は不要であり、受け身ではなく自らが生き残るために誰に何をどのようにアプローチするべきかを考える実務家の時代が来たと言えます。


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2017年01月14日

まだ「イアン・ブレマーの世界の10大リスク」を信じてるの?

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まだ「イアン・ブレマーの世界の10大リスク」を信じてるの?

毎年年初になると、イアン・ブレマー率いるユーラシアグループから「世界の10大リスク」が発表されます。しかし、2016年に彼らが予測した世界の10大リスクは、彼らが抽象的な表現ではなく明確な結果を予言したもの、については悉く外れることになりました。

その最たる事例はリスク・もどきとして扱われた「ドナルド・トランプは共和党指名候補者になることはなく、万が一指名候補になってもヒラリー・クリントンには勝てない。」です。

結果は誰もが知っている通り真逆のものとなり、彼らが議会と裁判所を説得できないと主張した「イスラム教徒の入国禁止」「国境に壁を建設」「数兆ドルの税制改革」の3つのトランプの予備選挙での発言のうち、国境の壁と税制改革は共和党の政策綱領に取り入れられるに至っています。

また、10大リスクに掲げられた各項目は非常に抽象的であり、どれも当たっているとも外れているとも言えるような内容によって構成されています。そのため、2016年で明確に当たり外れが判断できることは「ドナルド・トランプ大統領誕生」のみです。

他にもBrexit、トルコ・クーデター、シリア情勢の悪化など、諸々様々なことがありましたが、2016年の世界的な出来事の中で、ドナルド・トランプ大統領誕生、よりもインパクトがあるとは到底思えません。

ドナルド・トランプに対する偏見に基づく2017年の世界10大リスクは信用できない


イアン・ブレマー氏のユーラシアグループは2017年1月3日に、2017年の世界の10大リスク、も発表しています。そのうち、3つまでがトランプ大統領および共和党勝利に関するもので占められています。つまり、これはイアン・ブレマー氏と同グループのトランプ氏に対する偏った見解が如実に現われていると言えるでしょう。

1. INDEPENDENT AMERICA、6. CENTRAL BANKS GET POLITICAL、7. THE WHITE HOUSE VS SILICON VALLEYなどです。つまり、トランプが孤立主義的になり、中央銀行に介入し、シリコンバレーと対立するというものです。

しかし、現実は全く異なる様相を示し始めています。トランプ氏が指名したティラーソン国務長官やマティス国防大臣はグローバルな課題に積極的に関与し、米国の意図を明確にすることを強調しています。

また、そもそもトランプのAmerican FIrstやMake America Great Again、というキャッチフレーズを孤立主義だと解釈しているのは、リベラル派の一部知識人のみであり、トランプ氏は再三に渡って、中国の安全保障上の問題や中東におけるISの問題などにロシアなどと強調した対応を行うことを明言してきました。

中央銀行への関与については、トランプ氏は当選以来全くFRBについて触れていません。米国の経済環境は回復基調にありましたが、昨今発表されている経済指標からは本年もその傾向が続くかどうかは分からず、トランプ氏が利上げを積極的に邪魔をしなくても積極的な利上げが行われるかは分からない状況です。

また、中央銀行の意思決定の不透明性は以前から共和党からも問題視されており、その意思決定の恣意性を排除するために中央銀行への監査の仕組みを整えることが主張されています。これをもって中央銀行への政治関与の強化ということができますが、むしろ中央銀行の裁量的な金融政策の政治性を排除するための改革であると看做すべきでしょう。

最後に、トランプとシリコンバレーの対立についてですが、トランプとシリコンバレーの住人との対立関係は大統領選挙期間中の話であり、今後は修復されていく可能性が高いものと思います。

トランプ氏の政権移行チームにおける約4000人と言われる政治任用ポストの差配を握ったのは、新駐日大使に指名されたウィリアム・ハガティ氏であり、彼はシリコンバレーでプライベートエクイティを経営していた投資家です。それ以外にも当初は対立していたシリコンバレーから政権への協力者が次々現れています。

また、IT企業の海外における留保利益を国内に還元する際の課税を著しく引き下げるなど、同業界に対する経済的なプロフィットをもたらすことも行われています。トランプ氏は海外に蓄積された留保利益が国内に還元し、投資や雇用が産み出されることによって大いに満足するものと思われます。

更に、イアン・ブレマー氏はTwitterで「Trump almost surely unaware of Taiwan-China sensitivities before taking President's call. They don't yet have Asia expertise on team.」と述べています。簡単に言うと、トランプのスタッフにはアジア政策の専門家がいないから細かいことが分からないのだ、と述べていましたが、祭英文とトランプを仲介した人物はヘリテージ財団のフェローで台湾問題の専門家のイエーツ氏です。イアン・ブレマーとは方向性が違うかもしれませんが、ヘリ―テージは有力なシンクタンクで同氏が専門家であることは間違いありません。

以上のように、イアン・ブレマー氏が選んだリスクのうち、トランプ政権に関するものは1月14日段階で既に的外れの状況になりつつあります。少なくとも米国政治に関する見通しについては同グループの見解は必ずしも信用できるものでは無さそうです。

ただし、世界中における地政学上の政治動向に影響を与える米国政治の動向に関する考察が正確ではないということは、世界中の政治現象に対する見通しが間違っている可能性を示唆していますが。。。

2017年の真の世界のリスクは、リベラルな知識人の現実社会からの遊離、だ

2017年の世界におけるリスクは、欧米のリベラルな知識層の世界認識と現実の世界状況の間に齟齬が生じ、その情報を摂取している先進諸国の人々の認識が歪められることです。

その最たる事例が2016年のドナルド・トランプ大統領誕生であり、その選挙戦を通じて欧米のメディアや知識人への信用が著しく低下することになりました。

本年においてもそれらの人々の現実から遊離した民衆に対する傲慢な態度は継続したままであり、既存の知的な権威の凋落は留まることを知らないでしょう。たとえ、彼らは民衆と同じ事象を目の前で見たとしても、古びた理想主義と大衆への侮蔑に満ちた空想の世界にいざなわれてしまうからです。

そして、欧米のリベラルな知的権威の衰退は、そのまま非西欧社会の思想的な指導者の力の増加に繋がります。たとえば、イスラム世界における宗教指導者の台頭などの背景に欧米の知的権威の衰退と合わせ鏡となっているのです。

現状のまま欧米の知的権威のポストにリベラル勢力による非現実な集団が留まり続ければ、世界の混乱は一層進むことになるでしょう。もはや古びたポリティカル・コレクトネスを後生大事に大切にするだけの人々は、世界の変化には実質的についていけなくなっているのです。

米国が置かれている環境はオバマ政権時代に極めて厳しい状況に後退しており、空想的な知識人ではなく、同国の真の主力であるビジネスマンと軍人などの実務者が投入される政権が誕生しています。

私たちも世界における環境の変化を直視し、新しい世界に順応する努力を行っていくべきです。


本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



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トランプ政権がそれでも親ロシアと言える理由

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ティラーソン国務長官・マティス国防長官の議会公聴会での発言の意味

レックス・ティラーソン氏とジェームズ・マティス氏に対する連邦上院議会公聴会での質疑が行われました。その中で、トランプ氏が主張する親ロシア的な方向性と両者のロシアに対する発言の間に溝があった、という報道が行われています。

しかし、筆者の感覚では、トランプ氏と両氏の間のスタンスは、あくまでも米国の政治の文脈の中ではロシアとの関係では融和派の中での表現の違いである、と思います。

流石にトランプ氏ほどに露骨にプーチン氏との協調姿勢を見せることはありませんが、両氏ともに米国政治のアクターとしては極めてロシアに対して協調的な発言を行っています。

ブッシュ政権・オバマ政権のロシアに対するスタンスと比較することが大事だ

トランプ政権で新たに任命される予定の二閣僚のロシアに対するスタンスについて絶対的な尺度ではなく相対的な尺度で捉えるべきです。

なぜなら、米国の対ロ関係は旧ソ連との対立の文脈を引きずっていることから、政治的なアクター―のほぼ全員が極端な反ロシア体質を有しているからです。

ロシアではジョージ・W・ブッシュの時代から米国は旧ソ連圏で一連の市民活動家を支援するカラー革命という形で、ロシアとの親和性が高かった権威主義的な指導者を放逐することに熱心だったとみなされています。、

2000年のセルビアにおけるブルドーザー革命や、2003年グルジアのバラ革命、2004年ウクライナのオレンジ革命、2005年キルギスのチューリップ革命など、プーチン政権は一連の革命の背後に米国政府または米国の財団が存在していたとみなされており、ブッシュ政権とプーチン政権の間の対立関係が鮮明になっていきました。

2008年のグルジア紛争で著しく悪化した米ロ関係をリセットすることを主張したオバマ政権は政権発足直後こそロシアとの間で政治的な妥協を成立させたものの、次第にカラー革命に親和的な対ロ外交を志向するようになり、2012年1月にロシア大使としてマイケル・マクフォール・スタンフォード大学教授を就任させました。

マクフォール大使は、反ロシアというよりも更に進んだスタンスで、ロシアや東欧の政権自体を市民活動を活発化させることによって事実上転覆させることを公言しており、着任直後からロシア国内の活動家と接触してプーチン政権との対立を先鋭化させました。

以上のように、ブッシュ政権もオバマ政権も反ロシアというレベルを超えて、ロシアのプーチン政権の転覆までも意図した対応を行っていた、というものがロシア側から見た前二政権への評価でしょう。

米国がロシアの国益への配慮を明示するだけで親ロシア的である

たしかに、ティラーソン・マティスの両氏ともにロシアに対する警戒心を示し、同盟国とともに厳しい対応を取っていくことを明言してはいます。

ただし、ティラーソン氏は公聴会に際して自らの外交の施政方針に関する文書を公開しており、同時にロシア側の国益と調整する意向を示しており、ロシアに対して政治的な妥協を行う可能性について示唆しています。

同施政方針に関する文書では、最初に中国、その後にロシア・ISISという順序でグローバルな脅威が述べられており、ロシアを問題視するトーンは明らかに弱くなっています。そして、その内容は概ねロシアに対して米国の力を示しつつも、お互いに妥協できるところは妥協するというスタンスがとられています。

共和党内ではロシアは妥協の余地がない永遠の宿敵のような扱いであり、同国は人権問題と国際秩序を蹂躙する国家というイメージが持たれています。

実際に、共和党予備選挙の候補者でもあった対ロ強硬派のマルコ・ルビオ氏などが公聴会の場でティラーソン氏に対してロシアでの人権問題やシリアでの戦争犯罪について質問しましたが、ティラーソンはそれらへの回答を拒否しています。米国におけるロシアに対する主流なスタンスはマルコ・ルビオ氏の立場であることは間違いありません。

したがって、ロシアの国益を予測可能なものとした上で、米国の不在によるロシアの増長を防止して同盟国とともにロシアに対抗する体制を構築しつつ、イスラムテロなどに協調して対応することを明言するだけでも、米国内ではロシアに対して十分に親ロシア的なスタンスだと言えます。

どこかの国の首相のように土下座的な外交を行うことは親ロ的という範疇を超えたものだと言えるでしょう。

また、そもそもトランプ氏をモンロー主義的な孤立主義の外交方針を持った人物とみなす向きは、メディアや政治的な敵対者による完全なミスリードであるために論ずるに値しないものです。

トランプもティラーソンもプーチンの強いリーダーシップの継続を前提としている

トランプ氏はプーチン大統領を称賛する発言が多いのですが、その内容はプーチン大統領のリーダーシップに関する点が多いことに特徴があります。そして、リーダーシップには自らの行動に対して説明責任、つまり何を意図しているのかを他者に説明できることが含まれることは当然です。

ティラーソン氏は上記の文書の中で米国の外交に最も必要な要素は「説明責任」だと述べています。つまり、米国が自らの立場を明確にした上で約束を履行していくことの重要性を述べているのです。これはオバマ政権に最も欠けていた外交的要素であったため、ティラーソン氏はその重要性を非常に強調しているわけです。

ティラーソン氏はロシアの国益を予測可能であるために交渉の余地があることを示唆しています。

その前提条件はロシアがプーチン大統領の強いリーダーシップの下にあることは言うまでもありません。つまり、トランプとティラーソンはプーチン政権の存続を前提とした外交方針を共有していることになります。

トランプ政権にとって対ロ問題で起きうる最も厄介な状況は何らかの形でプーチン大統領が指導力を失い、代わりに予測困難な新たな指導者が現れたり、ロシアの政治状況が混乱状態に陥ることだと思われます。

「プーチン政権の継続を容認し、プーチンが主張するロシアの国益との調整を行う」という姿勢は、ブッシュ・オバマ政権の在り方と比べて極めて親ロシア的なものだと言えるでしょう。

トランプ政権と事実上対立関係にある米国メディアやその報道を丸写しにする日本メディアは、トランプ氏とトランプ氏が任命する閣僚の方針の間に齟齬があるように見せたがっていますが、事実は少し異なっていると言えるでしょう。

フォーリン・アフェアーズ・リポート2012年8月10日発売号
ビョルン・ロンボルグ
フォーリン・アフェアーズ・ジャパン
2012-08-10


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2017年01月11日

トランプTwitter、経団連会長は民主主義を知らない

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経団連会長の「ツイッターは政策発表の場でない」の時代錯誤

経団連の榊原定征会長は10日午後の記者会見で、トランプ次期米大統領がトヨタ自動車のメキシコ新工場の建設をツイッターで非難したことについて「ツイッターは一個人、私人のつぶやきであり、大統領の政策発表ではない」との見方を示した。(日経新聞2017年1月10日)

とのことです。経団連会長のおっしゃる意味を分からないでもないですが、トランプ氏への理解を根本的に欠いている、というよりも民主主義を理解できていないと思います。

現在トランプ氏は主流派メディアと対立している上に大統領就任前なのでTwitterでの情報発信に頼らざるを得ないという側面がありますが、だからこそTwitter上での発言を軽視することは時代錯誤です。

トランプ氏のTwitterは約2000万のフォロワーを抱えています。大統領に選出された人物が国民に直接声を届けることができるメディアの価値を正しく認識するべきです。

Twitterは民主主義の新たなメディアとして認知されるべき
 
トランプ氏は民主主義によって選ばれた大統領です。そして、彼の選挙の勝利に際して、Twitterによる支持者への訴えかけが非常に効果的な役割を果たしたことは明らかでした。そして、現在では主流派のメディアもトランプ氏のTwitterの後追い報道に終始しています。

トランプ氏には約6300万人以上の米国市民が投票しており、トランプ氏のTwitterはトランプ氏一個人の発言と見ることは間違っています。トランプ氏の意向は多くのトランプ氏に投票した人々の声でもあると理解することは米国という民主主義国を理解する上で重要な視点です。

たとえば、トヨタがトランプ氏のTwitterを意図的に軽視したり不快感を示した場合、おそらく共和党支持者が主要な顧客であるトヨタのピックアップトラックなどは一瞬で不買運動に巻き込まれる可能性があります。米国企業も同様であり、フォードなどが米国国内に工場を回帰させることはリスク回避策として妥当です。

メキシコに立地する工場に高関税をかけることは実質的に困難だと思いますが、それらの発言を通じて米国の巨大な市場を利用した事実上の経済政策としてのメッセージを発することが可能なのです。

そして、それらの米国の消費者が構成する市場に直接的かつ非公式に訴えかける手法としてTwitterは極めて有効な手段だと言えるでしょう。

トランプ氏の外交政策の基本は米国市場を背景とした圧力だ

トランプ氏はビジネスマンとしての大統領であると捉えることが妥当です。したがって、単純な自由貿易礼賛論者でも偏狭な保護主義者でもありません。まして、同氏をグローバル化を否定する存在であると看做すことは同氏の政策に対する根本的な錯誤に繋がるでしょう。(新たに任命される駐日大使を見ても明らかです。

トランプ氏が実施しようとしていることは、自国の巨大な市場を背景として各国に経済改革を迫る、というものであることは明らかです。自国民の感情を良く理解した上で、自国の市場の性質を操作することで、国際経済の基本的な構造を変化させようとしています。

ブッシュやオバマのような理想主義的な政権と違って、トランプ政権はグローバリズムとリアリズムの折衷のような政権だと言えるでしょう。

トランプ政権は今後中国に対して強烈な態度を更に見せ始めるものと思いますが、それらの動きは米国市場を巧みに活用しながら中国への更なる改革開放を迫る結果に繋がっていくはずです。その際、公式な場での政策発表では表明しづらいが、国民感情に訴えかけたいものについてはTwitterを積極的に利用していくものと思われます。

大統領就任後、主流メディアとTwitterなどの使い分けについて、それぞれの意味についてしっかりと汲み取っていく作業を行うべきでしょう。



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新駐日大使・ウィリアム・F・ハガーティとは何者か


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(AP)

新しい米国大使・ウィリアム・F・ハガーティ氏とは何者なのか

オバマ政権のキャロライン・ケネディ駐日大使が皇室への離任の挨拶を終わらせました。

各国大使ポストは論功行賞などの情実任用のポストとして使用されることが多く、元大統領の縁故として名前に世界的な知名度はあるものの、トランプ氏から能力に見合っていない人事として批判されるなど、ケネディ駐日大使はお飾りの情実ポストの典型であったように思われます。

一方、 トランプ政権が新たに日本に派遣する新駐日大使・ウィリアム・F・ハガーティ氏は、ケネディ大使とは似ても似つかない本格的な実務派人材です。日本のメディアでは「知日派」という相変わらず無意味な紹介ばかりなので、今回は同氏の経歴・背景をもう少し詳しく掘り下げながら、トランプ政権の対日政策の方針を読み解きます。

トランプ政権で政治任用ポストを割り振るポストを担った人物

ハガーティ氏はトランプ政権の選対幹部として活躍した人物であり、トランプ政権の政権移行チームにおいて政治任用ポストを割り振るポジションについていました。米国では大統領が変わる度に約4000人の政府関係の役職者が交代することになり、その中でも重要な役職は政権移行チームが検討を重ねて任命することになります。

同氏は2012年大統領選挙ではロムニー氏を支えるスタッフとして役割を果たし、2016年大統領選挙における共和党予備選挙でブッシュ氏を当初はサポートしていました。しかし、ブッシュ氏の予備選挙撤退に伴い、途中からトランプ陣営に参加する形となっています。したがって、共和党関係者に関する幅広い人脈を持っているこ
とで、政権移行チームにおける人事担当という重要な役職に就任したものと思われます。

華やかなキャリアを誇る米国の最強のビジネスマンの一人

Hagerty Peterson & Company, LLC  というプライベート・エクイティバンクの創業者であり、同社はテネシー州のナッシュビルとシカゴにオフィスを構えています。テネシー州のサッカーチームを始めとし、保険会社、銀行、病院、ホテル、などのボードメンバーを務めており、マルチタスクをこなす非常に優れた人材です。

そして、同氏を語る上ではテネシー州との関係を外すことはできません。米国は超学歴社会であり、同氏は米国屈指の名門校であるヴァンダービルト大学で優秀な成績を修め、「Phi Beta Kappa」のメンバーとなっています。Phi Beta Kappaとは米国における成績優秀者の会のようなもので、真のエリートが所属することができる組織です。その後、同大学ロースクールに進学してLaw Reviewを作成するなどの圧倒的なパフォーマンスを発揮しました。

ハガーティ氏の最初のキャリアはボストン・コンサルティング・グループ(BCG)であり、世界5か国に渡ってヘルスケア、金融、消費者サービス、メディア、技術などの多岐に渡る分野のコンサルティングをこなしてきました。同社勤務時代の最後の3年間を日本で過ごしたことが知日派と言われる理由となっています。

その後パパ・ブッシュ政権時代にホワイトハウスのスタッフを務め、国際通商問題などを担当し、副大統領に対するレポーティングを行う仕事についています。ホワイトハウス勤務後はシリコンバレーとかかわりを持ち、プライベートエクイティを創業し、投資先のMapquest社(現在はAOL傘下)を上場させるなどの手腕を発揮しました。その後もハンズオンの投資を心がけ、数々の企業の経営に参画してイグジットまで繋げることに成功しています。

テネシー州への日本からの投資誘致に貢献した実績

2011年にはテネシー州の知事の下で経済開発庁コミッショナーとして、貿易、雇用、経済成長に関する問題に取り組むとともに、米国議会、財務省、商務省、通商代表部、中小企業局などに対する提言などを定期的に行ってきています。同氏の手腕が発揮されたことで人件費・予算が大幅にカットされるとともにアカウンタビリティーなども飛躍的に向上したとされています。

テネシー州での在任期間中、経済開発庁内に貿易に関する新たな部門を設立し、日本・米国東南部の代表団のトップとして活躍しました。この際、日産、カルソニックカンセイ、ブリジストンなどの同州への誘致に成功するなど、15bilionドル以上の投資と9万人の雇用を確保することに成功しました。テネシー州に進出している日本企業は180社以上に上り、同州への海外からの直接投資の約半分は日本によるものとなっています。

トランプ氏の政権移行チームには、米議会日本研究グループに所属するマーシャ・ブラックバーン・テネシー州下院議員も参加しており、ブラックバーン議員は来日時の感想として日産・テネシー州の未来について熱く議論を交わした旨を述べています。これらの人事から米国政府の対日交渉はテネシー州人脈がキーになっていくことが分かります。ちなみに、日産ではなくトヨタがトランプ氏のTwitterの標的になったのも、このあたりが関係しているのではないかと邪推してしまいますね。

メディアなどは前述のBCG時代の在日3年間で知日派としているピンボケ報道ばかりでしたが、実際にはハガーディ氏は対米投資誘致の関係で日本との関係はかなり太いことになります。

トランプ政権は日本にビジネス目的でやってくる

上記の経歴から、キャロライン・ケネディ駐日大使からウィリアム・F・ハガ―ティ氏新駐日大使に人事が交代する意味がお分かり頂けたかと思います。一言でいうと、日米関係は従来までの牧歌的な時代は終わり、これからはシビアなビジネスの時代になるということです。

米国国内で雇用を作るために様々な直接投資案件を提案してくることは当然であり、二国間通商条約なども大胆な形で進んでいくことになることが予測されます。

トランプ政権が保護主義であるという理解は誤解であり、教条主義的な自由貿易礼賛論ではない現実的な実務的交渉がメインになって進んでいくことになります。結果としては、両国の貿易・投資関係は一層進展していくことになることは想像に難くありません。

新しい大使を迎えてビジネス上の成果をお互いにどのように出していくのか、日本側もビジョンと行動力があるビジネスマンが外交交渉の窓口に立っていくことが望まれる時代になったと言えるでしょう。



モビリティー革命2030 自動車産業の破壊と創造
デロイト トーマツ コンサルティング
日経BP社
2016-10-06






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2017年01月10日

意外と現実的なトランプのメキシコ国境の壁

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トランプが主張する「メキシコ国境の壁」について知られていないこと

トランプ氏が主張するメキシコ国境の壁はリベラルに偏向するメディアの情報を摂取しているだけでは荒唐無稽な主張のように感じるのも無理はありません。メディアはトランプ氏が実現不可能な馬鹿なことを述べているように演出していますが、実際は果たしてそうでしょうか。

従来までのセオリー通りで行くと、トランプ氏に対するレッテル貼りは極めて悪質なものが多く、物事は複数の角度から分析を加えることで初めて本質的なものが見えてくると思います。

そこで、今回は壁の建設を肯定する側からの見解を紹介することを通じ、メキシコ国境との壁に関する基本的な知識について、私たちが知っておいても損はないことをまとめていきたいと思います。

オバマもヒラリーも賛成していた「メキシコ国境の壁を建設する」法案

トランプ氏は万里の長城を作る荒唐無稽な妄想に取りつかれているのでしょうか。彼の発言には法的根拠は何もないのでしょうか。これらの思い込みは明確に間違っています。

メキシコ国境に壁(フェンス)を建設する法案については、ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2006年にSecure Fence Act of 2006が連邦上院・下院で承認されたことで法的な根拠を持っています。

この法案の趣旨は国境管理と移民システム改革を改善する努力に関して重要なステップとなり、物理的な障壁と21世紀の技術を展開することで、国境管理員の活動を支援して国境をより安全なものとすることでした。

そして、同法案は連邦上院・下院で上院80対19、下院283対138の圧倒的な多数に支持されました。このとき、当時上院議員であったバラク・オバマもヒラリー・クリントンも同法案に賛成票を投じたことは知られていません。

この際、同法案の推進者であった下院の国土安全保障委員会のピーター・キング委員長が議場で同法案は700マイル以上の二重のフェンスを設置することを目的としていることを説明しています。

全ての国境に二重の壁を作るための予算が全て承認されたわけではありませんが、共和党・民主党の両党の議員が「壁」の建設に賛同したことは事実として残っています。

つまり、トランプ氏とオバマ・ヒラリーの両者の違いはどこまで壁を作るのか、という点に過ぎません。

したがって、トランプ氏はゼロから法案を提出するのではなく、同法案の追加提案として予算を確保していくことによって壁の建設を粛々と進めていくことになります。

実際に壁を建設するために必要な費用はおおよそ幾らなのか

現在までに壁(フェンス)の建設に使用された予算は、1ドル100円換算で約2300億円程度です。これは現状までに建設された約650マイルの一重目の壁と約50マイルの二重目の壁の費用です。

ヘリテージ財団のDailySignalによると、国境管理を強化することを目的としたシンクタンクであるthe Center for Immigration Studiesの Jessica Vaughanの試算では、追加的な建設費用の最も野心的な見積りでは約1.1兆円程度になるとのことです。

ただし、上記のJessica女史のコメントとして、不法移民の犯罪や福祉に関するコストは、米国の納税者に少なく見積もっても毎年・約5兆円以上かかっていることも指摘されています。仮に壁を建設していくことで同コストを抑えることに繋がるのであれば一定の経済的な正当性もあるということになります。

なお、共和党は新予算案の承認期限である4月末までに予算を作成・承認する予定です。今回の予算で承認される予算規模はまだ発表されていませんが、何らかの形で予算付けがされることはほぼ確実と言えそうです。

メキシコ政府に費用負担させるために考えられる方法とは何か

トランプ氏は同壁の建設費用をメキシコ政府に負担させる旨を明言していますが、こちらについての実現性はどの程度あるのでしょうか。国家間の面子の張り合いという文脈では実現へのハードルはかなり高そうですが、経済的な交渉事としては成立する可能性も十分にあります。

2015年のメキシコへの直接投資額・約3兆円の半数は米国からであり、大手企業の一社当たりの投資額は数百億円規模のケースとなっています。

これらがトランプ氏が行っているTwitterによるメキシコに工場立地を予定している企業への介入によって撤回されていくことは、メキシコ政府にはボディーブローとして確実に効いてくるはずです。

また、数兆円規模とされるメキシコへの犯罪性資金の送金に関する管理を厳格化することにより、メキシコ政府はジワジワと首を締め上げられる状況となるものと思います。

公式的な圧力としては、米国からメキシコへの政府援助額の減額を示唆する事もあり得ます。

トランプ政権は、これらの厳しい措置を実施しつつ、メキシコ政府に同時にアメを配ることも考えられます。メキシコ政府のうち歳入・石油関連収入は約20%を占めており、この点についてメキシコ政府とエネルギー開発を進めるトランプ政権との利害は一致している状況です。

したがって、トランプ氏は非石油関連収入を得る機会を口先介入で制限しつつ、メキシコ政府と適当なところでエネルギー分野で握ることで壁建設のための予算を支出させることも不可能ではないと思います。

トランプ氏と共和党の思惑通りに全てが進むとは限りませんが、トランプ氏の「メキシコ国境の壁」を最初から荒唐無稽と切り捨てることは少なくとも間違っていることは確かです。

分断されるアメリカ
サミュエル ハンチントン
集英社
2004-05


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2017年01月09日

「Post-Truth」論は言論の自由に対する脅威だ

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「Post-Truth」は「ヒラリー大統領選挙勝利」を垂れ流してきた大メディア・学識者

トランプ氏が米国大統領選挙に勝利したことで、Post-Truthという言葉が俄かに「リベラル界隈」では話題になっています。簡単に言うと、「客観的な事実ではなく感情に訴える事実らしいものが影響力を持つようになった」ことを意味するワードで、トランプ勝利はその象徴的な出来事だそうです。メディア関係者や学識者などがこの概念に飛びついて議論を始めています。

それにしても、自分が気に入らない存在を叩くために、ポリコレ的な形式を整える能力と努力に感心させられます。なぜなら、米国大統領選挙に関して言うならば、

「ヒラリー勝利確実」

こそが最大のデマであり、彼ら自身が垂れ流してきたPost-Truthだったわけですから。大統領選挙が終了するまで読む価値がない偏向報道があまりに多く、筆者と同じく大メディアの偏向報道の酷さに米紙の購読を一時中断した人も米国にもいたのではないかと思います。

「Post-Truth」論は言論の自由に対する脅威になり得る

Post-Truthを過度に強調する既存のメディア・学識者は自らが「正しい言論の擁護者」だと錯覚し、FakeNewsなどの問題性を指摘しています。しかし、明確に言えることは、これらの「正しい言論の擁護者」は「言論の自由に対する脅威」でしかありません。

彼らの多くはFakeNewsを問題視するあまり、それらを防止するために言論をフィルタリングにかける行為を擁護しがちです。または、そこまで行かなくても、Post-Truth論を盛り上げていくことで、それらのフィルタリングをかける行為を正当化する環境づくりに貢献していると言えるでしょう。

特に、既存の権威の中心(かつ、その信頼性が失われつつある)である大手メディアらは、新しいメディアの成功によって自らの権威が脅かされることに敏感です。

しかし、大手メディアも創刊当初からエモーショナルな内容が多く、なおかつ現在でも社説などを通じて自らの愚にもつかない感情を読者に吐露していることもしばしばです。これはそれらのメディアに寄稿している学識者も同じことが言えるでしょう。

いまさら「事実よりも感情に訴えかけるニュースを初めて見ました!」と言われて真に受ける人がどれだけいるのでしょうか、偏差値高いだけの世間知らずだけが信じる戯言だと思います。そして、大半の人は嘘ニュースも含めて冷静に受け止めていることでしょう。

分散化された多様な言論空間の存在が重要である

筆者は様々な意見の相違はあるものの、Post-Truthなどの言葉を使って他人の言論を封殺しようとすることを容認するべきではないと思います。

言論の自由と言論の質の多様化は表裏一体のものであり、質が高いとされる言論のみを残そうとすれば、必然的に言論の自由を制限せざるを得ません。その際のデメリットはメリットを遥かに上回ることになるのは想像に難くありません。

したがって、仮に冷静な議論を求めたいのであれば、それは言論の供給の在り方を問題視するのではなく、言論の需要者側をサポートするシステムや情報の合理的な選別を可能とする仕組みの議論を行うべきでしょう。

現在の日本で一例を挙げると、極めて脆弱な立法府の議員を支援する機能の強化、行政権と実質的に一体化した司法の改革、一部の大手メディアに対する制度的な既得権の付与の見直しなど、より多様な言論が共有される環境を整備するとともに、その選別のプロセスを効果的に行う仕組みを作ることが求められます。

Post-Truth論争は、昔からある話を焼き直して現在の言論的強者が既得権を守ろうとしている行為でしかなく、いまさら相手にするべき類の議論ではありません。まずは積み残された過去の課題をしっかり片づけていくことを優先するべきです。

プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く
アンソニー プラトカニス
誠信書房
1998-11-01

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



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