米国政治

2017年04月04日

「トランプの黒幕」アマゾンでの書評で☆5つを頂きました。

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アマゾンレビューで☆5つ頂戴しました。4月1日に発刊した「トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体」ですが、レビュワーの皆様から☆5を頂き続けております。感謝です!

そこで、現在まで頂いておりますレビュワーをご紹介したいと思います。

<1人目>
・トランプ大統領はなぜ当選できたのか。納得のいく論理的でまとまった説明に、はじめて出会いました。
・トランプ大統領が云々以前に、日本のメディアにはそもそも、共和党の価値観や考え方を理解しようとする以前に、拒絶したり、嘲笑ったりするようなトーンが目につきます。
・それに対して本書は、日本からは注目されない、けれど実はアメリカ政治を動かす重要な力を持っている共和党の保守派の見方から、トランプ政権を分析しています。本書を読むと、日本の報道のどこが、どこから、なぜズレているのか、根本の部分に戻って理解できます。
・また、現在のアメリカ政治全体を見ようとする上での論点が網羅されており、入門書としても価値があります。

<2人目>
・政権内にも議会内にも共和党保守派の名だたる人物たちが存在し紹介もされていますが、その正体は、建国の理念である「自由」を守ろうとする愛国心にあふれた普通の市民です。
・トランプとは相いれない部分もありましたが、これ以上、民主党(クリントン)のような、インテリぶったエスタブリッシュメントにアメリカを任せておけないと譲歩してトランプを支持する事で、政権内での発言力やポストを手に入れ、トランプに協力しつつ保守主義に基づいた政治の実現を目指そうとしています。
・「最も名誉なことは一有権者であることだ」という言葉を思い出さずにはいられません。ティーパーティーや全米税制改革協会のような各種の団体の力もありましたが、それを作り上げたのは普通の市民だと思います。低学歴の低所得というレッテル貼りやカテゴライズこそ、差別や偏見ではないでしょうか?

<3人目>

・第4章P172トランプ政権の二重外交の可能性について、分かりやすく解説していて興味深い。
そもそも外交の本質は、国益のためならあらゆる努力を惜しまないことであるからして、二重だろうが三重だろうがありなのである。
・たとえばトランプの娘イヴァンカさんは、彼女の幼い娘がピコ太郎体操をする動画を投稿して親日ぶりを示したが、一方その幼い娘に中国服を着せ中国の詩歌を歌わせている。イヴァンカさんのアパレルブランドの工場は中国にあるし、彼女の夫は中国とはビジネス上、切っても切れないほど深いつながりがある。このあたりは、なかなか面白い。もちろん、ここはトランプ政権自体の台湾への姿勢と対中政策についての分析がテーマだ。
・冷徹な米国の本質がわかり、日本はトランプ政権に甘い期待など持ってはいられないことが痛感された。
・本書で印象に残ったのは、共和党内部の主流派と保守派の違いである。共和党の主流とは言えないトランプが、どうやって共和党主流派を納得させて舵取りをしてゆこうとしているかという部分が興味深い。トランプ政権は、ナヴァロ、ロス、バノンなどの対中強硬派をそろえ、通商問題で中国に強い態度を示すことで2018年の中間選挙の勝利をめざす。イデオロギー、安全保障面で中国に「揺さぶり」をかけることで、共和党保守派と同盟国を満足させ、出来れば中国から一定の譲歩を得ることで「妥協点」を見出そうとしているとのこと。そこから、共和党全体を何とか納めて大統領としての足場を築きたいというところだろう。
・著者は、現実を伝えないヒステリックなマスゴミを批判、また「米中戦争」のような非現実的な仮定をたてるのではなく、冷静にトランプ政権の人事、行動、環境を見据え分析し、楽観を許さない現状を読み解いている。
・米国の共和党保守派との関係が濃密な著者ならではの一冊!是非ご一読ください。

<4人目>
・二重というのは、民主党から共和党へそして共和党主流派から共和党保守派(草の根団体)へという意味である。
・トランプ大統領とは、共和党保守派が押し上げたものである。「白人低所得者層の不満」、「ポピュリズム」ではない。「隠れトランプ」などは、予測を誤ったメディアのお粗末な言い訳に過ぎない。
・さて、共和党保守派とは一体何ものであろうか。日本に入って来る情報は、彼らを蔑視するアメリカリベラル学者の言説であり、日本の学者はその受け売りをするのである。翻訳学者のレベルである。
マスコミにしてもアメリカのリベラルメディアのそれを垂れ流すのみである。
・これらの状況は、トランプ政権誕生後も変わっていない。何故、誤ったのかの検証をしせず、それに対して知らんぷりしているからである。このままでは、日米関係に致命的ミスを犯す可能性がある。
・トランプ大統領は、大統領令・覚書により法の厳格な適用・規制緩和・政府関与の縮小・許認可のスピードアップ・テロリスト対策等々を粛々として実行中である。その政策の本質は「行政国家」の解体である。それは、通常の独裁者であれば自殺行為である。
・著者は、日本国内で数えきれない選挙に関わったプロであった。早くから、トランプ当選を予測し適中した。選挙分析を正しく解釈したのであった。知性の自主性である。
・全米保守連合がワシントンに於いて毎年開催する年次総会がある。著者は、毎年参加していて知人も多い。「保守とは何か」、「何が解決すべき課題か」を三日間に亘り論議するのである。政治家の発掘・養成・政治手法の機会も用意されている。日本の保守もこういったシステムを参考にすべきではないのか。
・日本のメディアは、ごく一部を除き無関心であるが何故、誤ったのかの検証をせずに参加してもステレオタイプな結論となるのは目に見えている。外務省も完全に予想を外し茫然とした状態であった。
救いは、政治家の動物的勘による安倍総理の行動であった。今回は、成功したがこれは、危ない。
3月27日、橋下さんはワシントンの戦力国際研究所で講演した。司会者は、マイケル・グリーンであった。トランプ政権は、従来のカウンターパートの大半を放逐中であるそうである。果して、吉か凶か。

<5人目>
日本のテレビ、新聞では分からない事が満載でビックリした本でした!本当の事を知るにはやはり本だなと改めて思いました。

<6人目>
・著者のブログの読者であり、他の有識者・知識人・専門家とされている方達との見解の違いに関心を持っていました。今回初めてのメジャー出版物となる様ですが、今後も多数出版をされていく存在になられることでしょう。
・くれぐれも物書きにとどまらず、確かな取材・分析・検証の上、共和党保守派の流れを日本の政治にも持ち込んでいただきたいと考えます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<筆者>
読者の皆様の期待に応えてこれからも頑張ります!

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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2017年04月02日

トランプの対中国政策(1)「揺さぶり」と「妥協」

AP
(AP)

トランプ政権の対中国政策は「揺さぶり」と「妥協」 

トランプ政権の東アジア政策、特に中国に対する政策について憶測が飛び交っています。そして、日本の有識者からはトランプ政権は対中強硬派であるとする見解も散見されます。

しかし、これらについては部分的には当たっているものの、トランプ政権の人事や行動を冷静に分析する限りは同政権を中国強硬派と断定するのは早計です。

トランプ政権は中国というプレーヤーに対して「揺さぶり」と「妥協」という交渉を行っています。

「揺さぶり」とは中国の国益に反する言動、そして「妥協」とは「揺さぶり」を引っ込めることへの対価を得ることを指します。

ただし、この「揺さぶり」は、中国からの譲歩、または日本・韓国・台湾などの米国の対中政策の変数として扱われる国々からの協力を引き出すための道具に過ぎません。実際には、「揺さぶり」は米中間での妥協、東アジア諸国からの協力、を引き出した後には一定の「妥協」による手打ちが行われてきています。

そして、この「揺さぶり」は共和党保守派の意向、「妥協」は共和党主流派の意向、という対応関係が存在しており、トランプ政権の対中政策は両派の国内政局の綱引きからの影響を受けることにもなります。したがって、トランプ政権の対中国政策を理解するためには、米国の国内政治情勢、その力関係を踏まえなくては片手落ちの状態となります。

日本人識者らは表面的な「揺さぶり」だけに注目し、徒にトランプ政権の対中政策を日本国民にミスリードしている人が多数存在しています。しかし、これらは米中関係・米国国内関係に関して理解できていない人々であり、基本的に話を真面目に聞くだけ野暮です。

そこで、本ブログでは、上記の観点を踏まえながら今後複数回に渡ってトランプ政権の対中国政策を分析し、その見通しについて予測を行っていきます。

トランプ政権の対中国政策に関する現実的な視座を持つべき

本分析はトランプ政権の対中国政策を、人事、行動、環境、の3点から解説していきます。具体論に入っていく前に、トランプ政権の対中国政策の基本的な理解について概要を整理しておきたいと思います。

筆者は米中戦争のような非現実な仮定を喧伝し、書籍の売上部数を稼ごうとする輩には嫌悪感を持っています。また、トランプ政権が無能であるという非現実な仮定についても賛同しません。

トランプ政権は「主に通商問題で有利な立場を構築するためにイデオロギーや安全保障を絡めた交渉事を行う」可能性が高い、という分析が筆者の結論です。

これは実際に配置されているトランプ政権の人事、大統領選挙から現在までの行動、そして中間選挙を見据えた米国国内の政局状況などを踏まえれば妥当なものだと思います。トランプ政権の対中国政策派国内政局の影響を受けるため、若干のブレはありますが概ね間違いないものと思います。

米国の保守派はイデオロギー的な自由主義の拡張を望んでおり、トランプ政権における外交政策においても一定のパワーを有しています。トランプは共和党内のこれらの支持基盤に配慮する必要があります。また、中国の拡張主義に対して安全保障上の懸念を示すことも必要であり、マティスをはじめとした同盟国との関係を重視する職業軍人らからの支持を得ることも重要です。

さらに、選挙の観点に立つのであれば、中国に強い態度を示すことで国内の選挙面での得点を稼ぐことを目指すことになります。こちらはナヴァロやロス、そしてバノンが志向している方向性になりますが、これは2018年の中間選挙での勝利を手にするためのデモンストレーションに過ぎないと思われます。その上で、輸出補助金問題などで中国側からの一定の譲歩を引き出すことができれば大きなポイント獲得となります。

しかし、現実には米中関係は経済面・金融面で非常に深い関係となっており、相互依存は切っても切れない状況となっています。また、中東方面などの地球上の別地域での安全保障上の課題を抱える米国は東アジアに新たな戦略正面を抱えることは困難であり、北朝鮮問題について中国の積極的な役割を求めています。これらの事象は共和党内での主流派からのトランプ政権へのプレッシャーとして働くことでしょう。

したがって、トランプ政権は中国に対して、イデオロギー・安保面での「揺さぶり」をかけることで保守派・同盟国を満足させるとともに、通商問題での強硬姿勢を示すことで選挙上の成果を上げた上で、更に中国から一定の譲歩を得ることで同国との妥協を模索する主流派を納得させる、という高度な外交戦略を実践に移すことになるでしょう。(それが成功するか否かは不透明だと言えます。)

明日以降、具体的なファクトベースでトランプ政権の対中国政権の方向性を検証していきます。

トランプの対中国政策(2)対中政策人事の二面性 に続く。




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2017年03月30日

著作『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)のご紹介

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著作『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)を発刊します

ブログ読者の皆様のおかげで『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)を2017年4月1日に出版する運びとなりました。深く感謝いたします。(一部都心の本屋さんでは既に陳列が始まっているようです。)

読者の皆様のおかげで現在Amazonのカテゴリー「アメリカ」で1位~2位で推移しています。

本作を執筆するきっかけとなりましたのは、まさに本ブログの更新及びアゴラへの転載を祥伝社の編集の方に注目して頂いたことです。

日本国内ではヒラリー勝利が喧伝していたいい加減な言論が蔓延する中、データと事実を用いてトランプ当選の可能性を予測した圧倒的な少数派として、日本人に正しい情報を伝える取り組みを続けてきたことを認めて頂いたことを嬉しく感じております。

本作の読みどころ「日本人と180度真逆の発想を持った共和党保守派を知ること」

本作で取り上げた大統領選挙やトランプ政権の解説について是非多くの皆様にご一読いただければと思います。その上で、筆者が読者の皆様に強調したいことは「共和党保守派」という大半の日本人とは180度真逆の発想を持った人たちについて理解を深めてほしいということです。

多くの日本の有識者は共和党保守派について良く知らないまま、彼らについて偏見に基づく解説を行っています。米国政治に関する研究は共和党保守派を蔑視する学者らによって行われてきており、無自覚なのか意図的なのか分かりませんが、日本人に対して正しい情報が伝わりにくい環境があります。

本書は筆者が2009年当時から付き合ってきた保守派の人々の政治的な思考・行動を大統領選挙及び組閣に絡めてまとめたものであり、政権与党である米国の共和党の中で影響力を強める保守派の考え方を知るための一助となるものと思います。

なぜ共和党保守派は「小さな政府」を求めているのか、そして大統領選挙にどのように関わってきており、トランプ政権の中で自らのポジションをどのように位置付けているのか、リベラルな関係者によって寡占されている一面的な報道などでは伝わらない米国の今を理解できるものと思います。

次回作があれば、今度は「共和党保守派の政治システム」について書かせてほしい

万が一、本作が人々に受け入れて貰えて一定数以上販売実績が出た場合、将来的には「共和党保守派の政治システム」について解説する本を出したいと思います。

共和党保守派が有する、①統合機能(年次総会)、②司令塔機能(毎週実施される作戦会議)、③運動支援機能、④訓練機能(選挙学校)⑤政策立案(シンクタンク)、⑥資金源(財団)、⑦メディア及びメディア監視機能、➇歴史教育、などがどのように有機的に結びついて機能しているのかという分析をまとめたものを想定しています。日本の政治では見たことがない近代的なシステムが存在しており、筆者は非常に驚かされた経験を持っております。

2年前に我が大学に上記のシステムを調査する研究計画を提出したときに、このイデオロギー的に偏った企画は君の趣味だよね、という感じで却下された研究企画なのですが、米国政治やトランプ政権を理解するためだけでなく、日本の政治改革にとっても重要な示唆が含まれたものだと確信しています。(むしろ、本件について一緒に研究して頂ける大学研究室などがあれば同時に募集しています。)

上記の内容を出版という形でまとめることができれば、単なる研究というだけではなく多くの日本の方に知って頂く機会にもなるため、非常に有意義なものになるのではないかと夢想しております。

とはいうものの、まずは本作が売れてくることを願っております。読者の皆様にもご協力を賜れれば幸いです。



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2017年03月25日

何故「ライアンケア」の採決は見送りになったのか

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ライアンケア(オバマケア代替法案)の採決が見送りになった理由

オバマケアの代替法案であるライアンケア(オバマケア・ライト)の採決が民主党からの頑強な抵抗と共和党内の保守派の一部からの抵抗で可決の見通しが立たないために採決が見送りになりました。

今回のポイントは、トランプ政権を支える保守派が反旗を翻すとトランプ政権は法案を通すことができないということが如実になった ということです。

筆者は1月政権発足時に「 トランプを黙らせる方法」(アゴラ)という記事を執筆しました。内容としては政権基盤がぜい弱なトランプ政権は自らを支える保守派を他者におさえられると身動きが取れなくなるというものです。

トランプは自らを支える保守派を軽視して主流派に阿ったオバマケア改革案を認めたことで、保守派の一部から手痛くお灸を据えられた形になりました。

トランプ政権はコーク兄弟に一瞬の隙を突かれて保守派の一部を切り崩された
 
左傾化が進んでいる民主党がオバマケアを見直す同法案に賛成しないことは当然ですが、今回はトランプ政権を支えているはずの保守派の一部が強硬に反対を主張したことは注目に値します。

特に反対の急先鋒に立った人々はFreedom Caucusというリバタリアン色の強い保守系の議員連盟に所属している連邦議員です。彼らはライアンケアはオバマケアを廃止するとしていた政権公約に反する中途半端な粗悪品に過ぎないものとして批判を展開しました。

この背景には選挙期間中からトランプと激しく対立してきた大富豪のコーク兄弟との確執があります。

コーク兄弟はリバタリアン系(一応保守派の一部とみなされる)を中心に共和党連邦議員らに巨額の資金援助を実施しており、今回はライアンケア廃案と資金提供をバーターにする取引を連邦議員に持ちかけました。 the Club for Growth、the Heritage Foundation's political arm、Americans for Prosperity、Freedom Partnersなどのコーク兄弟と関係が深い団体もライアンケアに一斉に反旗を翻しました。

トランプと下院共和党指導部が法案通過を意図して共和党内主流派と妥協を行ったことで、コーク兄弟に保守派内に生まれた亀裂を突かれてお膝元の保守派を切り崩された形となります。

しかも、その理屈はライアンケアは手ぬるく公約違反であるというものでした。つまり、政局的な要素ではなく、あくまでもコーク兄弟はトランプ政権の最優先政策を頓挫させる大義名分まで得て政局を制するという大勝利となりました。(もちろん、トランプにとっては完敗となりました。)

連邦議会の掌握に失敗したホワイトハウス・共和党下院指導部

ライアンケアはポール・ライアン下院議長が主導した紛い物であると反旗を翻した保守派からは非難されています。そのため、ポール・ライアン議長にしてみれば連邦下院という自らの庭でコーク兄弟に赤っ恥をかかされたことになりました。

ホワイトハウスでもポール・ライアン議長と懇意にしていたラインス・プリーバス首席補佐官、コーク財団系の運動団体であるFreedom Partnersの元代表のマーク・シュートを議会対策の文脈で顧問に据えているペンス副大統領などは、連邦議会との調整力という意味では疑問符がついたことになります。

連邦上院では民主党によるフィリバスターや反トランプの議員らの抵抗が想定されるため、元々ライアンケアがそのまま成立する可能性が薄かったわけですが、トランプ政権と近い関係にあるはずの連邦下院、しかも保守派からの造反が出たことは、トランプ政権が議会対策を根本的に見直す必要があることを示唆しています。

トランプ政権が取り得る選択肢にはどのようなものがあるのか

トランプ政権が取り得る選択肢としては、最も手堅いものはコツコツと難易度の低い法案を通して、議会運営の実績を積んで成果が出ているように見せていくことでしょう。

しかし、次の山場はトランプ政権が想定している下院の税制改革案ということになります。こちらは国境税調整を含むものであり、主流派との妥協が必要な点、保守派の団結に綻びがある点、コーク兄弟が反対している点、など、ライアンケアとほぼ同じ構図が成立しており、コーク兄弟の影響力を見せつけられた現在、予算成立は極めて困難になってきました。

トランプ政権とポール・ライアン下院議長は保守派をまとめ上げて国境税調整を含む税制改革をごり押しすることができるのか、それとも民主党や主流派との妥協を通じた対応を継続していくのか、その際コーク兄弟の影響力をどのように排除または利用するのか、ということが問われることになります。

仮に今回同様の失敗の可能性がある場合、保守派と一緒にごり押しして来年の中間選挙で民主党・主流派との全面対決姿勢を取るのか、保守派と距離を取ってインフラ投資などをバーターとして民主党・主流派との関係を仕切り直しするのか、それとも何もしないで無策でいくのか、次の一手が非常に興味深いことになりました。

今回のライアンケアの一件は、トランプ政権内における保守派の重要性を再認識させる出来事であるとともに、ホワイトハウス内での勢力争いの力関係の変更にも繋がることから、トランプ政権の動向からますます目が離せない状況となってきました。



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2017年03月20日

トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置とは

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スティーブ・バノン首席戦略官はトランプ政権の黒幕なのか? 

最近の報道などではスティーブ・バノン首席戦略官への注目が高まっているようです。

散々オルト・ライトを馬鹿にしてきた日本人有識者もバノンの存在感の大きさが無視できなくなりつつあり、欧米メディアがバノンの報道を増やすのに合わせて解説記事などが増えてきました。

たしかに、バノン首席補佐官はトランプ政権の意思決定について重要な役割を果たしていると思います。現在のトランプ政権における最重要人物の一人と言えるでしょう。しかし、バノンのトランプ政権内での立ち位置は共和党内の派閥争いの微妙な均衡の上に成り立つ砂上の楼閣でしかありません。

トランプ政権内での影響力を過大評価する論調には全く同意できず、彼も広義の保守派の中の一つのパートを担っている存在として冷静に認識していく必要があります。

スティーブ・バノンの人生、そして力の源泉とは何か

スティーブ・バノンの父は朴訥とした真面目な労働者であり、AT&Tを務め上げた米国における父親像を体現するような人物です。スティーブ・バノンは父であるマーティー・バノンのような人々が米国を支えていると認識しています。

一方、スティーブ・バノンは一流大学を卒業、機関投資家であるゴールドマン・サックスで活躍し、自らの父とは対極にある米国内の特権階級側に所属する一員としての人生を歩みました。

この二人の人生が交錯した瞬間がリーマンショックでした。

父のマーティーがコツコツと積み上げたAT&Tの株価が下落・一夜にして財産を失った一方、スティーブは政府と癒着した一部の人々が何ら責任を取らずにヌケヌケと暮らす姿を金融マンとして目の当たりにしました。この際、バノンは父のような真面目な米国民を蔑ろにした米国の政治への深い憤りを持ったと伝えられています。

この後、スティーブ・バノンはオルト・ライト系とされるネットメディア「ブライトバートニュースネットワーク」との関係を強化し、同サイトをニュースメディアとして大きく飛躍させることに成功しました。

ただし、バノンをホワイトハウスに送り込んだ力はネットメディアの力ではなく、このときブライトバートニュースネットワークの飛躍を支えた、ある有力者の存在にありました。

マーサー財団とトランプの同盟、その同盟関係の代理人としてのバノン

米国には政治運動の資金面を富豪が設立した財団が支えることは珍しくありません。有名な財団はコーク財団などであり、主に共和党系連邦議員らに対して巨額の資金援助が行われていることで有名です。

トランプは大統領選挙の過程でコーク財団と対立・ムスリム入国禁止などの舌禍によって共和党主流派とも対立関係に陥ってしまい、大統領選挙で資金面・運動力面でヒラリーに対して大きく劣後する状況に陥りました。

トランプの苦境に手を差し伸べた存在がマーサー財団です。マーサー財団は共和党予備選挙で保守派の大統領候補者であったテッド・クルーズのスーパーPACへの巨額資金提供者であり、ティーパーティー運動や保守系シンクタンクなどへの資金提供者として近年存在感を高めてきた財団です。

バノンのブライトバートニュースもマーサー財団から10億円以上の資金援助を受けていたと報道されており、バノンとマーサーは政治的同盟関係にあったものと推測されます。

テッド・クルーズの予備選挙撤退後、マーサー財団は急速にトランプに接近し、その過程の中で財団設立者のロバート・マーサーがバノンをトランプに引き合わせました。

また、クルーズのスーパーPACの責任者は現大統領顧問のケリーアン・コンウェイが務めていましたが、同スーパーPACはトランプを支援するためのものに看板が架け替えられるとともに、コンウェイはトランプの選挙対策本部長に就任することになりました。

バノンとコンウェイの合流以降、トランプ選対に保守派の政治運動が結集し始めてトランプとヒラリーの支持率差は急速に詰まっていくことになりました。

ロバート・マーサーの娘のレベッカ・マーサーはトランプ政権移行チームの執行役員に選ばれており、バノンとコンウェイのホワイトハウス入りも含め、人事面・資金面の観点からトランプとマーサー財団が緊密な関係を維持していることが分かります。

トランプの黒幕は「共和党保守派」であって「バノン個人」とは言えない

共和党内では保守派の政治運動を基盤としている保守派、様々な利権構造に支えられた有力な政治家を基盤とする主流派の2つの派閥が権力闘争を繰り広げています。

現在までトランプ政権は大統領選挙の経緯を反映してバノンを含めた保守派の影響力が相対的に強い状況となっています。

ただし、トランプを支える政治勢力の中心は大統領選挙の途中からトランプ陣営に合流したレーガン大統領の流れを組む保守派の政治運動の担い手です。たとえ、バノンやコンウェイなどのマーサー財団と近い関係にある人々が論功行賞でホワイトハウスの重要な地位を占めていたとしても、その影響力の過大評価することは誤っています。

バノンは保守主義運動の中ではニュースサイト運営者に過ぎず、バノンの権力基盤はマーサー財団という保守系の一つの財団が支えているに過ぎません。共和党保守派全体から見た場合、あくまでも彼の位置づけは保守派の一角を占めている新参者の重要人物というだけです。

そのため、共和党保守派の政治勢力全体を指してトランプを支える黒幕と表現することは可能であっても、バノン個人を黒幕と表現する行為は小説であって分析はありません。

また、保守派と対立する主流派はバノンの動きを警戒しており、陰に陽にバノンを追い落とそうとする動きが活発化している状況があります。バノンとコンウェイを支える政治的な背景は他の保守派の人々よりも弱いため、ホワイトハウスや連邦議会の主流派、そして彼らに近いメディアがバノンとコンウェイをネガティブキャンペーンのターゲットにしています。

大統領選挙の過程で生まれた保守派と主流派の対立の関係を背景とし、その天秤のバランスを保守派側に傾けるためにバノンは一時的に保守派から同盟相手として認識されている状態であり、その地位は砂上の楼閣として表現できるものと思われます。

したがって、バノンが首席戦略官として国内政策に強い影響力を持ちながら、国外政策に影響力があるNSCの常席になったとしても、その権勢を過大に評価する論調に与することは誤りです。

スティーブ・バノン首席戦略官の扱いは共和党内の権力闘争のバロメーター

それにも関わらず、筆者はトランプ政権におけるバノンの扱いについては注目すべきと考えています。なぜなら、バノンの扱いは共和党内の勢力争いを測る指標となるからです。

仮に何らかの勢力構造の変化によってバノンがトランプ政権から追放された場合、その現象は従来までの保守派が更に勢力を拡大したのか、それとも主流派が勢力を盛り返しているのか、のいずれかを意味します。

逆に現状のままバノンの権力が拡大し続ける場合、それは保守派・主流派の両派の力が拮抗している状況であり、トランプ大統領の独自の権勢が勢力均衡下で拡大している状況にあることを示唆しています。

スティーブ・バノン首席戦略官はその人生、政治観、歴史観を含めて小説のネタとしては非常に魅力的な人物像を持った人物だと思いますが、その人間性からトランプ政権の性格を導き出そうとする行為はバランスの悪い論評だと思います。

米国政治について面白い物語を描くだけでなく、冷静に分析を加えていく目線が必要です。

<ワタセユウヤ(渡瀬裕哉)初著作のご紹介>


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2017年03月17日

トランプ「不完全な」予算教書が示唆すること

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3月16日予算教書(骨格)から分かるホワイトハウスと議会の確執

トランプ大統領が3月16日に発表した予算教書(骨格)は、国務省や環境保護局などの予算を削って、その分を防衛費の増額に充てるというものであり、内容の是非はともかくトランプ政権が明言してきた内容が反映されただけのものであり、それほど驚くべき内容ではありません。

予算を削られる分野に関連している人々からは様々な批判が寄せられると思いますが、それは予算削減の折に見られるお約束の批判であるので重要な情報として相手にする必要も特にありません。

一部のバラマキ的なプロジェクト停止が上院・下院の選挙に影響を与える可能性はあるものの、大半の分野が民主党議員の利権分野であることから肉を切らせて骨を断つ内容とも言えます。

ただし、本予算教書は全く不完全なものであり、現在の段階でこれ以上の議論を行っても仕方がありません。そして、その不完全さがトランプ政権の今後の道筋の困難さを表すものとなっています。

春先まで減税案と財政赤字の見通しの公表は先送りに
 
トランプ大統領が提示する予算で最も焦点になるポイントは、国境税調整を含めた減税改革、の内容となります。しかし、その中心となる減税案の公表が先送りとなったことで、今後の展望が見えにくい状況となっています。

これはトランプ政権と連邦議会の間で税制改革の合意がほとんど得られていないことを意味しています。米国大統領は予算教書で自らの見解を述べることしかできず、実際の予算策定・承認の全ては連邦議会で行われます。

そのため、トランプ大統領は事前にある程度連邦議会側とネゴシエーションして税制改革案を提示するわけですが、現段階まで減税案を示すことができていないことは、肝心の議会対策が不調であることを示唆しています。

トランプ政権の苦しい議会運営、トランプを支持する勢力の実数は25~30%程度か

共和党が上下両院過半数を占めているため、トランプ政権の議会運営が楽になったとみなす向きもありますが、それは現実の政局構造を踏まえていない論説だと思います。

トランプ政権に対して連邦議会の共和党内の約半数を占める保守派が支持、残りの半数の主流派は是々非々というスタンスです。これは選挙戦の軋轢を反映した結果として生まれた構図であり、トランプ政権側が掌握している連邦議会の共和党保守派に属する勢力は全体の25~30%程度でしかありません。

特に連邦上院では100議席中60議席以上を獲得しなくてはフィリバスター(議事妨害)によって予算決議は妨害されるために大幅な妥協が強いられます。また、予算決議に付帯させることが可能な財政調整措置に減税の規模・内容を技術的に委任することもできますが、その方法を採用しても技術的に過半数の賛成が必要となります。

トランプは予算教書(骨格)に先立つ一般教書演説で議会に協力を求めましたが、それは上記のような苦しい議会運営の状況が表れたものでした。

連邦下院の保守派が推進する国境税調整の行方、上院との落としどころを巡る争いは続く

元々共和党下院のポール・ライアン議長とケビン・ブレイディ歳入委員長は国境税調整を含めた大幅な法人税などの減税案を推進しています。連邦下院は共和党の議席の絶対数が上院よりも多く、共和党保守派が推進する税制改革案を推し進めやすい構造があるからです。

しかし、上院は共和党・民主党の議席数が拮抗しているとともに、共和党議員でありながら実際の投票行動が民主党と変わらない「名ばかり共和党員」、マケインなどのトランプと大統領選の過程で深刻な亀裂を抱えた有力議員、国境税調整に反対するウォルマートが地元にある州選出議員などがおり、下院の税制改革案がそのまま通る状況ではありません。

したがって、トランプ政権としては、減税規模や減税内容について上下両院議員との間である程度の合意の目途をつけてから春先に予算教書の本格版を提示する形を取ったのでしょうが、実際にどの程度合意できるかということは不透明感が漂っています。

筆者の見立てでは大統領の予算教書(本格版)と下院が国境税調整入りの減税案を推進し、上院が減税規模の縮小と一部の財源を国境税調整以外のものに切り替える修正を行うのではないかと想定しています。(もちろん、全てが崩壊して減税案自体がほぼ骨抜きになる可能性もゼロではありません。)

トランプ政権の減税改革は世界経済、日本企業に与えるインパクトも非常に強烈なものであり、今後もその展開から目を離すことはできません。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。 

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2017年03月15日

日経新聞の欧米政治に関する偏向報道が酷すぎる

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先週の土日の日経新聞の内容が酷すぎてびっくりした

今週はオランダの総選挙があるため、日経新聞に米国・欧州の選挙情勢について解説した記事が掲載さました。ただし、一言で述べるならば、極めて稚拙な演出がなされた偏向報道でした。

「国粋の枢軸」危うい共鳴 本社コメンテーター(3月11日・日経新聞・秋田浩之)
極右政党 欧州に烈風 15日にオランダ議会選仏独に連鎖 (3月12日)

筆者の感想としては、欧米のポピュリズム(≒極右、左翼ポピュリズムもあるため)について考察しているにも拘わらず、その考察の解像度が著しく低く、前者の記事であればせめて現地取材をすべきであり、後者の記事であれば前提として新書一冊くらいは読んでから取材結果を公表すべきだと思います。

トランプ、ルペン、ウィルダース、AfDなどの欧州の右派勢力を同じカテゴリーの極右という形でまとめるのは無理があります。これらの政治勢力は主張の根幹となるイデオロギーや政策が全く異なり、これらを同一の極右勢力として論じることは、根本的に頭が悪いのか、それとも欧米人に対する偏見があるのか、いずれなのか迷うところです。

最近では他の新聞の権威が落ちている中で、日経新聞はそれなりのポジションを保っているのだから程度が低い政治解説記事を載せていることは極めて残念です。そこで、両者の記事について徹底的に反証をしておきたいと思います。

「国粋の枢軸」危うい共鳴 本社コメンテーター」の記事の支離滅裂さ

秋田浩之氏が記事中で2回も触れている「ワシントン近郊で開かれた米保守系政治団体のイベント」とは、Coservative Political Action Conserence(CPAC)と呼ばれる全米保守派の年次総会のことです。筆者はこちらの集会に直接参加しましたが、日本のメディアは一部のテレビメディア以外ほとんど姿はありませんでした。

「2月下旬の米保守系政治団体のイベントには、欧州から極右や右派政党も顔をそろえた。報道によれば、フランスの国民戦線やイタリアの北部同盟、オーストリアの自由党の幹部らがトランプ政権側と熱心に接触を重ねた。」という記述もありますが、会場内では「欧州からの極右勢力なんてどこにいたの?」というほどに存在感が薄く、たとえ彼らが居たとしてもあくまでも国内イベントに過ぎないCPACでは端役でしかありません。これを誇張して記事化するのはもはやプロパガンダの類に過ぎません。

CPACにはスティーブ・バノン首席戦略官とともに、オルト・ライトの一部とみなされているブライトバートニュースも初参加の状況でした。会場に参加している保守派の人々からは彼らは形式上の参加を許されているに過ぎず、暖かい歓迎もなければ生暖かい目線が向けられていただけです。ちなみに、CPACの主催団体であるAmerican Conservative Unionのダン・シュナイダー事務局長は自らの講演のタイトルを「オルト・ライトは全く保守ではない」と名付けてオルト・ライトを激しく糾弾していました。

CPACでバノンは当初単独公演の予定でしたが、急遽予定を変更して保守派のラインス・プリーバス首席補佐官と同じ時間に現れて、保守派内での蜜月を演出しました。ただし、この行為はトランプ政権の中でバノンが浮いていると認識されていることを逆に意味しており、バノンが保守派に対して恭順の意を示したものと捉えることもできます。また、バノンとトランプが思想を共有しているという根拠も全くありません。

したがって、CPACがまるでバノンの独壇場であり、欧州の極右が顔をそろえて仲良しでした、というような個別の事象を都合よくつなぎ合わせた記事内容は捏造に近い解釈だと言えます。バノンは保守派の中でも浮いた存在であり、トランプ政権におけるキーマンではあるものの、保守派・主流派に挟まれて好き勝手振舞えているわけではありません。

さらに、秋田氏は記事の中でバノンの思想に関する説明をしていますが、「知人の噂話」を根拠にバノンの思想を解説しています。ワシントンのメディア関係者のひそひそ話の結果が「ヒラリー優勢」の誤報を日本にまき散らした原因だったことを忘れたのでしょうか。

CPACの現地取材もろくにせずに先入観で内容を語り、バノンについては直接取材したわけでもない噂話を掲載したことについて、ジャーナリストとして恥ずかしいものと認識してほしいと思います。

極右政党 欧州に烈風 15日にオランダ議会選仏独に連鎖 (3月12日)」の解像度の低さ

こちらの記事については言うならば、ウィルダースとルペンを同一の極右政党のように扱って並列的な記事にしていますが、彼らの政治的な主張は全く異なるものです。取材をしていることは秋田氏の文章と比べて一定の評価に値しますが、その内容については疑問が残ります。

ポイントは「極右」という表現にあります。基本的に欧州のポピュリズムは反EUの文脈で構成されることが多い状況です。したがって、政治運動を形成するためには「EU」に対置する「我々」を定義する必要があります。

そのため、各国の歴史・文化によるアイデンティティーポリティクスが必要とされた結果、右派系のポピュリズムは躍進しやすい状況があります。しかし、各国民のアイデンティティーは全く異なるため、表出してくるポピュリズム政党の政治的主張にも相違が生じることになります。

たとえば、

ウィルダース率いるオランダの自由党はリベラルな政策を追求した結果として生まれた極右政党です。元々オランダは自由主義の影響が強く、様々な社会政策が極めてリベラルな形で運営されてきました。

しかし、このようなオランダ文化を破壊する存在としてイスラム教やEUが認知されたことにより、自由主義の文化を守るための主張が盛り上がった状況となっています。ただし、社会政策に関しては相変わらずリベラルなままです。また、ウィルダースは貿易の自由化については否定的とは言えません(ただし、貿易自由化=EUのことを意味するわけではない。)

一方、

ルペン率いる国民戦線は元々ネオナチなどの系譜を引き継ぐ人々が多数含まれていた立党状況が示すようにオランダの自由党は真逆の成り立ちとなっています。特にマリーヌ・ルペンは大きな政府に党の経済政策の舵を切るとともに、グローバリズムを批判しています。共和国的な価値観を維持しつつ、それらに反するイスラム教には厳しいという面はあるものの、それ以外はオランダの自由党とはかなり違うものだと言えます。

さらに、

ドイツのAfDは元々経済学者らが作った政党であり、欧州単一市場にも公式には反対の立場ではなく、ユーロの解体と各国通貨の導入を謳っています。AfDはギリシャのようなお荷物国家への金融支援を拒否していることが特徴です。

また、AfDはグローバル化を拒否しておらず、主権を保った上での市場統合については是としています。高度技術者の移民受け入れを主張し、難民や低技能者の移民を拒否する姿勢を示しています。イスラムに関してはやはり文化面から拒否。

ということで、「反イスラム」は共通かもしれませんが、その理由も極めて欧州的な考え方によるものであり、日本で想像しているような極右とは少し趣が異なるわけです。しかも、EUの統治機構には反対であっても、グローバル化や単一市場について各々のポピュリズム政党によって濃淡あるわけです。

「TPP・EU」=「グローバル化」というリベラルなエスタブリッシュメントの安易な発想

筆者は安全保障・国内市場改革の観点から米国がTPPを推進したほうが良かったと考えています。

ただし、TPPやEU自体を「グローバル化」の象徴だとみなす思考は各国の中のリベラルなエスタブリッシュメントの典型的な思考パターンでしかありません。

TPPやEUは見方によってはブロック経済の亜種のような存在であり、これらの枠組みをグローバル化とイコールの存在だと思うことは間違っています。そもそも煩雑な官僚的手続きがそれらの枠組みには求められるため、筆者も参加する自由主義者の国際会議などでは自由経済の観点から否定的な意見が出ることも少なくありません。

欧米型のリベラルな教育を受けた有識者やメディア関係者の頭の中にはグローバル化といえばTPPやEUが大前提であり、それらを否定するポピュリズム政党は全て反グローバルだと思うのかもしれませんが実態としては誤りだと言えるでしょう。

また、メディアはトランプ政権について無根拠なアジテーションを記事にすることは即刻改めるべきです。それらの行為は書き手の自らの知的貧困をさらす行為であるとともに読者にとっても有害であるからです。

日経新聞には一面的な記事内容を掲載するのではなく、各国の政治状況の内実にまで踏み込んだ、読む価値がある記事を生産することに注力してほしいと思います。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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日経新聞の数字がわかる本
小宮 一慶
日経BP社
2013-09-06

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2017年03月07日

トランプ「新大統領令」の真の狙いを検証する

新大統領令
<ロイターから引用>

トランプ大統領が「訴訟対策版・一時入国禁止に関する新大統領令」に署名

3月6日、トランプ大統領が1月27日に署名した旧大統領令を更新する新大統領令に署名しました。この大統領令の主な狙いは国内訴訟を回避するための修正を施すことにあるものと思われます。

トランプ大統領による旧大統領令は地裁・高裁で違憲判決を食らって執行停止状態となっていますが、そもそも米国大統領は入管規制を行う権限を形式上有していることは司法省が確認しています。

では、なぜ前回は違憲判決を受ける結果になったかというと、立法趣旨が宗教差別を認めない合衆国憲法に触れる、ということで違憲になったという経緯があります。つまり、形式上は問題ないけれども、選挙期間中の発言や旧大統領令中の規定からイスラム差別と読み取れるという判断が下されたわけです。

具体的には、旧大統領令中の、

・合衆国は暴力を振るう、憎悪する(名誉殺害、女性への暴力、自らと異なる宗教を実践する人々への迫害)、または人種、性別、性的指向を侮蔑する人々を認めない。

という文言と、

・迫害を受けている少数派の宗教を信じる難民は優先的に受入れいる、

という方針がセットになって、トランプ政権はイスラム教徒とは一言も名指していませんが、

「これはイスラム教が多数派を占める国を対象とした入国制限であり、宗教差別で違憲だ!」という論理構成を立てられて、裁判闘争でトランプ政権は民主党側に一本取られる形となりました。

実際には旧大統領令の入国禁止国は元々オバマ政権時代からのテロリスト渡航防止法の対象国であり、全イスラム人口に占める割合も高くないために、完全に油断していたトランプ政権は自らの支持基盤であるキリスト教団体らの意向を不用意に反映し過ぎてしまったと言えるでしょう。(イスラム教国でキリスト教徒が迫害されているという国際的なキリスト教団体などのレポートが影響したと考えます。)

ちなみに、民主党側の狙いは「最高裁での違憲訴訟勝利」⇒「連邦議会への大統領弾劾」だったと思いますが、政治的な危険を察知したトランプ政権が方針転換を実施し、今回の大統領令からは上記の趣旨が消えたことで、民主党側は思惑通りに物事を進めることが難しくなりました。

新大統領令の狙いは「シリアへの地上軍の派兵」であると推測する

筆者は以前からトランプの一時入国禁止の大統領令は「シリアへの地上軍の派兵」に向けた予防的措置であるという仮説を主張しています。

入国禁止措置でトランプの頭がおかしくなったと思う貴方へ(2017年1月31日)
トランプ側に立って入国禁止の合理性を検証する(2017年2月4日)

今回の大統領令からはイラクが対象から外れることになりましたが、イラク政府のアバディ首相は先月にペンス副大統領とミュンヘン安全保障会議で面会した際に、イラクを大統領令の対象から外すように求めていました。ペンス大統領はイラク政府の対ISISへの協力を高く評価しています。(マティス国防長官も現地司令官とは常に情報のやり取りを行っており、対ISISで共闘するイラク政府からの要求を断ることは難しかったものと思われます。)

注目すべき点はこの大統領令は「対ISISの文脈で対象国が変わる大統領令」だということです。そして、現実は筆者の仮説が想定している方向に動き始めています。

以前のブログでも触れた通り、旧大統領令が発された翌日1月28日にトランプ大統領はシリアとイラクのISISを掃討する大統領覚書を発しており、国防長官及び関係省庁は30日以内に詳細なプランを提出するように求められています。

その結果として、

More US Troops May Be Needed Against ISIS in Syria, a Top general says(2月22日、NYT)
Pentagon delivers plan to speed up fight against Islamic State that may boost US troop presence in Syria(2月27日、CNBC)

など、最近ではシリアへの地上軍派兵の可能性が米国メディアを賑わせる状況となっています。今回の大統領令がISISへの軍事的な協力を勘案して対象国が選ばれている(イラクが外れただけでなくサウジも外れている)ことから、入国禁止措置の一側面が対ISISの軍事行動と連動していることが一層示唆される状況となっています。

ちなみに、シリアに安全地帯を設ける構想については既にトランプ大統領との電話会談でサウジアラビアとUAEが賛成しており、ヨルダン国王もトランプ・ペンスとの面談時に協議している状況です。トランプ大統領の電話会談も基本的には中東諸国が中心であり、安倍首相とのゴルフ日程日にも中東諸国の元首達と対ISISの文脈で電話会談を行っていました。

現在メディアにアナウンスされ始めているトランプ政権の軍拡(年間10%増)は約5兆円程度であり、シリアに安全地帯を設置するためにかかるコスト(およそ年間1兆円超)は賄えるものと思われます。

トランプ政権の政策の本質を知るには背景情報を整理することが必要となる

トランプ政権の政策の本質を知るためには、トランプ政権の支持基盤がどのような人々であるかを確認することが必要です。これは政策のタマが出てくる大前提を理解することであり、外国政府の動向をチェックする上で基本的なことです。

その上で、大統領令・大統領覚書・議会署名、政権人事・要人面談、などの動きを丁寧に追って、政権の動向に関する仮説を構築して、現実の流れの中で検証を試みていくことが重要です。これは政策の推移を把握していくために必要な作業であり、ある程度の精度を持った予測を行うためには必須の作業です。

巷には有識者と呼ばれる学者先生が大量に溢れかえっていますが、あの人たちは絶対にトランプ政権の動向をしっかりとチェックしているとは言い難く、いい加減な抽象論ばかりが世の中に溢れかえっています。

今回の新大統領令もイラクが対象から外れたという表面的な事象ばかりが報道・解説されていますが、その背景には何があるのか、トランプ政権の行動をじっくりと吟味することが必要です。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07





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2017年03月04日

トランプの大統領令・覚書「行政国家の解体」という本質

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トランプの大統領令の大半は「政府(≒ホワイトハウス)が権限を手放すため」のもの
 
トランプ大統領が就任以来発してきた大統領令・大統領覚書、多くの有識者とされる人々がトランプ大統領の精力的な仕事ぶりを独裁と揶揄してきました。しかし、それはこれらの大統領令・大統領覚書の内容を見ていないことを同時に意味しています。

トランプ大統領が命令した大統領令・大統領覚書の大半は、連邦政府が所管している規制権限を手放すことを求めることか、法の厳格な運用を求めるものでしかありません。つまり、政府の権限を小さくして人々の行動の自由を拡げるものであり、または議会に与えられた権限を実直に実行するというものです。

したがって、トランプが独裁者であるというのは馬鹿げた妄想でしかなく、同じく大統領令を連発したオバマ大統領が発してきた、連邦政府の権限を強化したり・法の運用を骨抜きにするような大統領令・大統領覚書と比べることは全く意味を成しません。

1月20日就任式から2月末までに発されたトランプの大統領令・大統領覚書

トランプ大統領が発令した大統領令・大統領覚のうち、

規制緩和、政府関与の縮小、許認可スピードアップを求めるものは、

・医療保険制度改革法の廃止に向けた大統領令(オバマケアの廃止・置き換え) 
・国内製造業に関する規制負担の許可制の合理化及び削減に関する大統領覚書
・規制改革に関する大統領令(1つ新たな規制を作る度に2つ規制を廃止する)
・連邦金融システムを規制するための基本原則に関する大統領令(金融規制の緩和)
・受託者責任ルールに関する大統領覚書(退職口座に関する投資アドバイスへの規制適用を止める)
・連邦政府機関に規制改革タスクフォース(作業部会)を新設する大統領令
・連邦政府機関に規制改革タスクフォース(作業部会)を新設する大統領令
・米国の水に関す再評価による法の支配、連邦制、経済成長を回復させる大統領令
・雇用凍結に関する大統領覚書(コスト増につながる新規職員採用停止)
・キーストンXLパイプラインの建設に関する大統領覚書(連邦政府の不許可の見直し)
・ダコタ・アクセス・パイプラインの建設に関する大統領覚書(連邦政府の不許可の見直し)
・メキシコシティー・ポリシーの復活に関する大統領覚書(中絶を支援する国際組織への補助金停止)
・高い優先順位のインフラ計画に関する環境評価・承認の迅速化についての大統領令

などです。政府の社会に対する干渉を廃止してビジネスの自由度を増やす改革ばかりであり、これらが粛々と実行されていくとホワイトハウスをはじめとした政府機関の権力は大いに縮小していくことでしょう。

そして、法の厳格な運用を求める大統領令・大統領覚書は、

・米国内の治安強化に関する大統領令
・国境警備及び移民執行改善に関する大統領令
・犯罪抑止と公共の安全のタスクフォースに関する大統領令
・警察官に対する暴力を防止する大統領令
・国際的な犯罪組織に対する法執行及び国際的取引を防止するための大統領令

などです。治安維持、国境管理の厳格化などが求められています。極めて当たり前の内容であり、むしろ現在まで十分な対応が取られてこなかったことに驚きを禁じ得ません。

そして、そのほかには、国防系の対応としてISISなどのテロリスト対策として

外国人テロリストの流入からの米国の保護に関する大統領令(テロリスト渡航防止法対象7か国からの一時的な入国禁止等)
軍備増強に関する大統領覚書(米軍の即応体制の準備等)
シリアとイラクのISISを打ち負かす作戦立案に関する大統領覚書
国家安全保障会議及び国土安全保障会議の組織に関する大統領覚書

などが行われています。これらはテロの脅威に対する公約を遂行するためのものであり、今後更に具体化が進んでいくものと思います。(話題になった入国禁止の大統領令は司法省法律顧問は形式上合法としたものの、立法趣旨論で高裁まで違憲とされたに過ぎません)

いわゆる保護主義的な政策は全体の一部であり、海外との貿易・投資は二国間協定に切り替える(特にTPP三か国のGDPの大半を占める日米)ことから、それほど問題があるものとは思えません。

TPP交渉と合意からの離脱に関する大統領覚書
米国のパイプラインに関する大統領覚書(パイプライン建設に米国産資材を活用)

最後に触れておきたい大統領令は、

・行政機関の任命者の倫理に関する大統領令
・黒人の多い大学についての大統領令

です。

前者は日本でいうところの天下りによる腐敗防止(政府機関に奉職していた人の退任後のロビーイングの禁止など)をまとめたものです。このような行為は米国でも腐敗の温床とみなされていますが、トランプ政権は大胆にメスを入れる指令を出しました。日本で天下り云々で騒いだりしている人がトランプ大統領がやろうとしていることをろくに見もせず否定していることはナンセンスでしょう。

また、トランプは黒人からの一定の支持があるとともに、歴代大統領と同じように黒人が多い大学への補助金に関する大統領令に賛成しています。メディアが垂れ流す人種差別的なイメージも実態は異なっていると言えるでしょう。

トランプが推進している政策の本質は「行政国家の解体」である
 
トランプ大統領が実際に遂行しようとしている行為の大半は、米国内において政府の権限を縮小しようというものです。スティーブ・バノン大統領首席戦略官が保守派の年次総会であるCPACで宣言したように、その狙いは「行政国家の解体」なのです。

トランプ大統領が行っていることは、通常の独裁者であれば自殺行為である、自らの権限を次々と手放す指令を発していることになります。本当に独裁者になりたいのであれば、行政権を次々と強化する大統領令を発して、国民の生活の隅々まで政府による監視の目を張り巡らせれば良いのです。
 
トランプ大統領をメディアで報道されている受け売りで評価することは間違いであり、その実際の行動を評価することが必要です。

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2017年02月28日

共和党・税制改革のドン、国境税調整を語る

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ワシントンDC・全米税制改革協議会(ATR)のグローバー・ノーキスト議長と懇談

本日はトランプ政権の一般教書演説の日です。それに先立ち2月22日にワシントンDCにて、全米税制改革協議会のグローバー・ノーキスト議長と懇談の場を設けて頂きました。筆者とノーキスト議長は8年間の知己であり、現在でも渡米の度にお話を伺う機会を頂いております。

グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長(ATR議長)とはどのような人物なのか?


本日はトランプ政権の一般教書演説の日です。それに先立ち2月22日にワシントンDCにて、全米税制改革協議会のグローバー・ノーキスト議長と懇談の場を設けて頂きました。筆者とノーキスト議長は8年間の知己であり、現在でも渡米の際には政治・経済の見通しを伺う機会を頂いております。

<h3>グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長(ATR議長)とはどのような人物なのか?</h3>

グローバー・ノーキスト議長が率いる全米税制改革協議会(ATR・Americans for Tax Reform)は、共和党連邦議員の税制改革に対して最も影響力を持つ米国のグラスルーツです。

グローバー・ノーキスト議長はレーガン政権大統領からの依頼で同団体の活動を開始し、共和党議員らはグローバー・ノーキスト議長の顔色を常に見ながら税制改革の議論を行っています。共和党議員は選挙に際して同団体が提示する「納税者保護誓約書」という全ての増税に反対する署名にサインさせられており、当選後もATRによって連邦議会における言動を常に監視されています。

ATRは毎週水曜日にワシントンDCの事務所で全米から保守派のリーダーを招く「水曜会」を開催していることで知られています。同会は招待制・非公開・マスコミ無しで実施されており、様々なテーマについて保守派の運動方針が決まる場となっています。筆者も出席者としてカウントして頂いていますが、毎回200名程度の運動のリーダーが集まって濃密な議論が行われています。

グローバー・ノーキスト議長は、水曜会に集まる保守派のネットワークと影響力を行使し、共和党の連邦議員の生殺与奪の権力を事実上握っています。したがって、グローバー・ノーキスト議長の承認が無ければ予算・税制を司る共和党議会は身動きを取ることができません。まさに共和党保守派のドンの一人と言えます。
 
共和党税制改革のドン・日本からも大注目の「国境税調整」についての見通しを語る

トランプ政権の税制改革案として最も注目されている項目は「国境税調整」です。ノーキスト議長は連邦下院でポール・ライアン議長やブレイディ歳入委員会議長などと税制改革について議論を行っています。


ノーキスト議長によると、減税の方向性については下記の通り。


・トランプ大統領と連邦議会は米国全体の減税を押し進めることで合意している。

・連邦の所得税・法人税をカットすることで世界的に競争力がある税制改革を実行している。

・税制改革は直近8年間よりもビジネスへの投資を促すものになるだろう。

・また、所得税・法人税の減税だけでなく相続税やAMTの廃止を含むものになるだろう。

・税制全体のパッケージで、約2.5兆ドル(10年間)の減税になり、非常にpro-growthなものである。


そして、懸案の国境税調整については非常に前向きであり、


・税制改革案は国境税調整を踏まえた全体的なパッケージの形として提案される。

・「国境税調整」が導入される最大のポイントはこの仕組みから生まれる数兆ドルの税収にある。

・全ての税制改革計画に互いに合致するのは国境税調整がパッケージに含まれているからである。


国境税調整に関する懸念事項については、


・国境税調整は実質的な増税ではないかと懸念する人もいるが間違っている。税制改革は輸出では減税して輸入に増税する一つのパッケージで全体で約2.5兆ドル(10年間)の減税となる。

・目標の経済成長の数字は減税や規制改革などもあわせてオバマの2%成長ではなく、レーガンのような4%成長を導くことにある。

・国境税調整を導入すると為替の敗北が是正されて実際に米国の消費者に影響を与える、という経済学者の見解もあるが、実際には少し時間がかかることになるだろうと思う。


国境税調整が連邦議会に提出されることについて、

・実は連邦下院と大統領はほぼ税制改正案に同意している。たしかに、連邦議員の中には難色を示している人が数名いるが、税制改革全体のパッケージとしては非常に魅力的である。

・仮に国境税調整以外の要素をパッケージの中に代わりに入れてシステム全体が機能する場合、私はそれについてOKだと言うだろう。ただし、それは劇的に支出を削減して他に税収を上がる方向があればの話だが。

・国境税調整を批判する人々は現段階ではレパトリ課税による課税案を出しているが、私は国境税調整のほうが良いと思っている。


連邦議会での議論の見通しについては、


・税制改革案の話は今後6カ月で議論され、法案が可決することになるだろう。連邦下院とトランプ大統領が同意している現在の案になる可能性が極めて高いが、若干の変更の可能性も残っている。

・ 上院は税制改革の議論に積極的ではない(国境税調整が好きではない)が、税制改革のパッケージ全体を判断することになるため、国境税調整のみを見て判断するわけではない。

・下院が税制改革案を大統領に提出した時、トランプ大統領は「I want this」と発言しており、連邦下院は「We pass this」と発言している。

・ 税制改革案の背景として、下院での可決見通し、大統領のI want this nowという発言、ビジネスコミュニティのthis is goodという発言、スモールビジネスにもビッグビジネスにもgoodという意見、が存在している。

・上院やウォルマートは国境税調整が好きではない、と言っているが、数千・数万のスモールビジネス・個人契約者・プロフェッショナルらは支持しており、それは非常に強力である。

・仮に上院が修正したいのであれば、それは早く始める必要があるだろう。その可能性は残っているが、全体のパッケージを見直す作業になるので非常に困難である。今回の全体パッケージは経済にとって良くデザインされた計画である。

・ 彼らが「国境税調整は好きではない」と言うならば、私はその気持ちは理解していると言うだろう。しかし、投票は国境税調整のみではなく、全体パッケージに対してのものである。


と述べられています。いかがでしたでしょうか。


日本企業にも大きな影響を与える「国境税調整」に対する共和党のドンの発言

今回のワシントンDC訪問では「国境税調整」について、共和党の税制改革のドンの話を聞きたかったので、ノーキスト議長と非常に濃密な時間を過ごさせて頂きました。

一般教書演説の中でどこまで税制改革が触れられるかはわかりませんが、トランプ政権の改革の最重要項目であることは間違いありません。この他にもスティーブ・バノン首席戦略官やトランプ政権への保守派の見解など、共和党内の最前線での政局のお話を伺ってきましたが、それについては別途ブログに書くか、それとも講演のような形で皆さまにお伝えしていけるようにしていきます。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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「保守革命」がアメリカを変える
グローバー・G. ノーキスト
中央公論社
1996-06





本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 08:00|PermalinkComments(0)