米国政治

2017年03月20日

トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置とは

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スティーブ・バノン首席戦略官はトランプ政権の黒幕なのか? 

最近の報道などではスティーブ・バノン首席戦略官への注目が高まっているようです。

散々オルト・ライトを馬鹿にしてきた日本人有識者もバノンの存在感の大きさが無視できなくなりつつあり、欧米メディアがバノンの報道を増やすのに合わせて解説記事などが増えてきました。

たしかに、バノン首席補佐官はトランプ政権の意思決定について重要な役割を果たしていると思います。現在のトランプ政権における最重要人物の一人と言えるでしょう。しかし、バノンのトランプ政権内での立ち位置は共和党内の派閥争いの微妙な均衡の上に成り立つ砂上の楼閣でしかありません。

トランプ政権内での影響力を過大評価する論調には全く同意できず、彼も広義の保守派の中の一つのパートを担っている存在として冷静に認識していく必要があります。

スティーブ・バノンの人生、そして力の源泉とは何か

スティーブ・バノンの父は朴訥とした真面目な労働者であり、AT&Tを務め上げた米国における父親像を体現するような人物です。スティーブ・バノンは父であるマーティー・バノンのような人々が米国を支えていると認識しています。

一方、スティーブ・バノンは一流大学を卒業、機関投資家であるゴールドマン・サックスで活躍し、自らの父とは対極にある米国内の特権階級側に所属する一員としての人生を歩みました。

この二人の人生が交錯した瞬間がリーマンショックでした。

父のマーティーがコツコツと積み上げたAT&Tの株価が下落・一夜にして財産を失った一方、スティーブは政府と癒着した一部の人々が何ら責任を取らずにヌケヌケと暮らす姿を金融マンとして目の当たりにしました。この際、バノンは父のような真面目な米国民を蔑ろにした米国の政治への深い憤りを持ったと伝えられています。

この後、スティーブ・バノンはオルト・ライト系とされるネットメディア「ブライトバートニュースネットワーク」との関係を強化し、同サイトをニュースメディアとして大きく飛躍させることに成功しました。

ただし、バノンをホワイトハウスに送り込んだ力はネットメディアの力ではなく、このときブライトバートニュースネットワークの飛躍を支えた、ある有力者の存在にありました。

マーサー財団とトランプの同盟、その同盟関係の代理人としてのバノン

米国には政治運動の資金面を富豪が設立した財団が支えることは珍しくありません。有名な財団はコーク財団などであり、主に共和党系連邦議員らに対して巨額の資金援助が行われていることで有名です。

トランプは大統領選挙の過程でコーク財団と対立・ムスリム入国禁止などの舌禍によって共和党主流派とも対立関係に陥ってしまい、大統領選挙で資金面・運動力面でヒラリーに対して大きく劣後する状況に陥りました。

トランプの苦境に手を差し伸べた存在がマーサー財団です。マーサー財団は共和党予備選挙で保守派の大統領候補者であったテッド・クルーズのスーパーPACへの巨額資金提供者であり、ティーパーティー運動や保守系シンクタンクなどへの資金提供者として近年存在感を高めてきた財団です。

バノンのブライトバートニュースもマーサー財団から10億円以上の資金援助を受けていたと報道されており、バノンとマーサーは政治的同盟関係にあったものと推測されます。

テッド・クルーズの予備選挙撤退後、マーサー財団は急速にトランプに接近し、その過程の中で財団設立者のロバート・マーサーがバノンをトランプに引き合わせました。

また、クルーズのスーパーPACの責任者は現大統領顧問のケリーアン・コンウェイが務めていましたが、同スーパーPACはトランプを支援するためのものに看板が架け替えられるとともに、コンウェイはトランプの選挙対策本部長に就任することになりました。

バノンとコンウェイの合流以降、トランプ選対に保守派の政治運動が結集し始めてトランプとヒラリーの支持率差は急速に詰まっていくことになりました。

ロバート・マーサーの娘のレベッカ・マーサーはトランプ政権移行チームの執行役員に選ばれており、バノンとコンウェイのホワイトハウス入りも含め、人事面・資金面の観点からトランプとマーサー財団が緊密な関係を維持していることが分かります。

トランプの黒幕は「共和党保守派」であって「バノン個人」とは言えない

共和党内では保守派の政治運動を基盤としている保守派、様々な利権構造に支えられた有力な政治家を基盤とする主流派の2つの派閥が権力闘争を繰り広げています。

現在までトランプ政権は大統領選挙の経緯を反映してバノンを含めた保守派の影響力が相対的に強い状況となっています。

ただし、トランプを支える政治勢力の中心は大統領選挙の途中からトランプ陣営に合流したレーガン大統領の流れを組む保守派の政治運動の担い手です。たとえ、バノンやコンウェイなどのマーサー財団と近い関係にある人々が論功行賞でホワイトハウスの重要な地位を占めていたとしても、その影響力の過大評価することは誤っています。

バノンは保守主義運動の中ではニュースサイト運営者に過ぎず、バノンの権力基盤はマーサー財団という保守系の一つの財団が支えているに過ぎません。共和党保守派全体から見た場合、あくまでも彼の位置づけは保守派の一角を占めている新参者の重要人物というだけです。

そのため、共和党保守派の政治勢力全体を指してトランプを支える黒幕と表現することは可能であっても、バノン個人を黒幕と表現する行為は小説であって分析はありません。

また、保守派と対立する主流派はバノンの動きを警戒しており、陰に陽にバノンを追い落とそうとする動きが活発化している状況があります。バノンとコンウェイを支える政治的な背景は他の保守派の人々よりも弱いため、ホワイトハウスや連邦議会の主流派、そして彼らに近いメディアがバノンとコンウェイをネガティブキャンペーンのターゲットにしています。

大統領選挙の過程で生まれた保守派と主流派の対立の関係を背景とし、その天秤のバランスを保守派側に傾けるためにバノンは一時的に保守派から同盟相手として認識されている状態であり、その地位は砂上の楼閣として表現できるものと思われます。

したがって、バノンが首席戦略官として国内政策に強い影響力を持ちながら、国外政策に影響力があるNSCの常席になったとしても、その権勢を過大に評価する論調に与することは誤りです。

スティーブ・バノン首席戦略官の扱いは共和党内の権力闘争のバロメーター

それにも関わらず、筆者はトランプ政権におけるバノンの扱いについては注目すべきと考えています。なぜなら、バノンの扱いは共和党内の勢力争いを測る指標となるからです。

仮に何らかの勢力構造の変化によってバノンがトランプ政権から追放された場合、その現象は従来までの保守派が更に勢力を拡大したのか、それとも主流派が勢力を盛り返しているのか、のいずれかを意味します。

逆に現状のままバノンの権力が拡大し続ける場合、それは保守派・主流派の両派の力が拮抗している状況であり、トランプ大統領の独自の権勢が勢力均衡下で拡大している状況にあることを示唆しています。

スティーブ・バノン首席戦略官はその人生、政治観、歴史観を含めて小説のネタとしては非常に魅力的な人物像を持った人物だと思いますが、その人間性からトランプ政権の性格を導き出そうとする行為はバランスの悪い論評だと思います。

米国政治について面白い物語を描くだけでなく、冷静に分析を加えていく目線が必要です。

<ワタセユウヤ(渡瀬裕哉)初著作のご紹介>


 本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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2017年03月17日

トランプ「不完全な」予算教書が示唆すること

無題

3月16日予算教書(骨格)から分かるホワイトハウスと議会の確執

トランプ大統領が3月16日に発表した予算教書(骨格)は、国務省や環境保護局などの予算を削って、その分を防衛費の増額に充てるというものであり、内容の是非はともかくトランプ政権が明言してきた内容が反映されただけのものであり、それほど驚くべき内容ではありません。

予算を削られる分野に関連している人々からは様々な批判が寄せられると思いますが、それは予算削減の折に見られるお約束の批判であるので重要な情報として相手にする必要も特にありません。

一部のバラマキ的なプロジェクト停止が上院・下院の選挙に影響を与える可能性はあるものの、大半の分野が民主党議員の利権分野であることから肉を切らせて骨を断つ内容とも言えます。

ただし、本予算教書は全く不完全なものであり、現在の段階でこれ以上の議論を行っても仕方がありません。そして、その不完全さがトランプ政権の今後の道筋の困難さを表すものとなっています。

春先まで減税案と財政赤字の見通しの公表は先送りに
 
トランプ大統領が提示する予算で最も焦点になるポイントは、国境税調整を含めた減税改革、の内容となります。しかし、その中心となる減税案の公表が先送りとなったことで、今後の展望が見えにくい状況となっています。

これはトランプ政権と連邦議会の間で税制改革の合意がほとんど得られていないことを意味しています。米国大統領は予算教書で自らの見解を述べることしかできず、実際の予算策定・承認の全ては連邦議会で行われます。

そのため、トランプ大統領は事前にある程度連邦議会側とネゴシエーションして税制改革案を提示するわけですが、現段階まで減税案を示すことができていないことは、肝心の議会対策が不調であることを示唆しています。

トランプ政権の苦しい議会運営、トランプを支持する勢力の実数は25~30%程度か

共和党が上下両院過半数を占めているため、トランプ政権の議会運営が楽になったとみなす向きもありますが、それは現実の政局構造を踏まえていない論説だと思います。

トランプ政権に対して連邦議会の共和党内の約半数を占める保守派が支持、残りの半数の主流派は是々非々というスタンスです。これは選挙戦の軋轢を反映した結果として生まれた構図であり、トランプ政権側が掌握している連邦議会の共和党保守派に属する勢力は全体の25~30%程度でしかありません。

特に連邦上院では100議席中60議席以上を獲得しなくてはフィリバスター(議事妨害)によって予算決議は妨害されるために大幅な妥協が強いられます。また、予算決議に付帯させることが可能な財政調整措置に減税の規模・内容を技術的に委任することもできますが、その方法を採用しても技術的に過半数の賛成が必要となります。

トランプは予算教書(骨格)に先立つ一般教書演説で議会に協力を求めましたが、それは上記のような苦しい議会運営の状況が表れたものでした。

連邦下院の保守派が推進する国境税調整の行方、上院との落としどころを巡る争いは続く

元々共和党下院のポール・ライアン議長とケビン・ブレイディ歳入委員長は国境税調整を含めた大幅な法人税などの減税案を推進しています。連邦下院は共和党の議席の絶対数が上院よりも多く、共和党保守派が推進する税制改革案を推し進めやすい構造があるからです。

しかし、上院は共和党・民主党の議席数が拮抗しているとともに、共和党議員でありながら実際の投票行動が民主党と変わらない「名ばかり共和党員」、マケインなどのトランプと大統領選の過程で深刻な亀裂を抱えた有力議員、国境税調整に反対するウォルマートが地元にある州選出議員などがおり、下院の税制改革案がそのまま通る状況ではありません。

したがって、トランプ政権としては、減税規模や減税内容について上下両院議員との間である程度の合意の目途をつけてから春先に予算教書の本格版を提示する形を取ったのでしょうが、実際にどの程度合意できるかということは不透明感が漂っています。

筆者の見立てでは大統領の予算教書(本格版)と下院が国境税調整入りの減税案を推進し、上院が減税規模の縮小と一部の財源を国境税調整以外のものに切り替える修正を行うのではないかと想定しています。(もちろん、全てが崩壊して減税案自体がほぼ骨抜きになる可能性もゼロではありません。)

トランプ政権の減税改革は世界経済、日本企業に与えるインパクトも非常に強烈なものであり、今後もその展開から目を離すことはできません。

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本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。 

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2017年03月15日

日経新聞の欧米政治に関する偏向報道が酷すぎる

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先週の土日の日経新聞の内容が酷すぎてびっくりした

今週はオランダの総選挙があるため、日経新聞に米国・欧州の選挙情勢について解説した記事が掲載さました。ただし、一言で述べるならば、極めて稚拙な演出がなされた偏向報道でした。

「国粋の枢軸」危うい共鳴 本社コメンテーター(3月11日・日経新聞・秋田浩之)
極右政党 欧州に烈風 15日にオランダ議会選仏独に連鎖 (3月12日)

筆者の感想としては、欧米のポピュリズム(≒極右、左翼ポピュリズムもあるため)について考察しているにも拘わらず、その考察の解像度が著しく低く、前者の記事であればせめて現地取材をすべきであり、後者の記事であれば前提として新書一冊くらいは読んでから取材結果を公表すべきだと思います。

トランプ、ルペン、ウィルダース、AfDなどの欧州の右派勢力を同じカテゴリーの極右という形でまとめるのは無理があります。これらの政治勢力は主張の根幹となるイデオロギーや政策が全く異なり、これらを同一の極右勢力として論じることは、根本的に頭が悪いのか、それとも欧米人に対する偏見があるのか、いずれなのか迷うところです。

最近では他の新聞の権威が落ちている中で、日経新聞はそれなりのポジションを保っているのだから程度が低い政治解説記事を載せていることは極めて残念です。そこで、両者の記事について徹底的に反証をしておきたいと思います。

「国粋の枢軸」危うい共鳴 本社コメンテーター」の記事の支離滅裂さ

秋田浩之氏が記事中で2回も触れている「ワシントン近郊で開かれた米保守系政治団体のイベント」とは、Coservative Political Action Conserence(CPAC)と呼ばれる全米保守派の年次総会のことです。筆者はこちらの集会に直接参加しましたが、日本のメディアは一部のテレビメディア以外ほとんど姿はありませんでした。

「2月下旬の米保守系政治団体のイベントには、欧州から極右や右派政党も顔をそろえた。報道によれば、フランスの国民戦線やイタリアの北部同盟、オーストリアの自由党の幹部らがトランプ政権側と熱心に接触を重ねた。」という記述もありますが、会場内では「欧州からの極右勢力なんてどこにいたの?」というほどに存在感が薄く、たとえ彼らが居たとしてもあくまでも国内イベントに過ぎないCPACでは端役でしかありません。これを誇張して記事化するのはもはやプロパガンダの類に過ぎません。

CPACにはスティーブ・バノン首席戦略官とともに、オルト・ライトの一部とみなされているブライトバートニュースも初参加の状況でした。会場に参加している保守派の人々からは彼らは形式上の参加を許されているに過ぎず、暖かい歓迎もなければ生暖かい目線が向けられていただけです。ちなみに、CPACの主催団体であるAmerican Conservative Unionのダン・シュナイダー事務局長は自らの講演のタイトルを「オルト・ライトは全く保守ではない」と名付けてオルト・ライトを激しく糾弾していました。

CPACでバノンは当初単独公演の予定でしたが、急遽予定を変更して保守派のラインス・プリーバス首席補佐官と同じ時間に現れて、保守派内での蜜月を演出しました。ただし、この行為はトランプ政権の中でバノンが浮いていると認識されていることを逆に意味しており、バノンが保守派に対して恭順の意を示したものと捉えることもできます。また、バノンとトランプが思想を共有しているという根拠も全くありません。

したがって、CPACがまるでバノンの独壇場であり、欧州の極右が顔をそろえて仲良しでした、というような個別の事象を都合よくつなぎ合わせた記事内容は捏造に近い解釈だと言えます。バノンは保守派の中でも浮いた存在であり、トランプ政権におけるキーマンではあるものの、保守派・主流派に挟まれて好き勝手振舞えているわけではありません。

さらに、秋田氏は記事の中でバノンの思想に関する説明をしていますが、「知人の噂話」を根拠にバノンの思想を解説しています。ワシントンのメディア関係者のひそひそ話の結果が「ヒラリー優勢」の誤報を日本にまき散らした原因だったことを忘れたのでしょうか。

CPACの現地取材もろくにせずに先入観で内容を語り、バノンについては直接取材したわけでもない噂話を掲載したことについて、ジャーナリストとして恥ずかしいものと認識してほしいと思います。

極右政党 欧州に烈風 15日にオランダ議会選仏独に連鎖 (3月12日)」の解像度の低さ

こちらの記事については言うならば、ウィルダースとルペンを同一の極右政党のように扱って並列的な記事にしていますが、彼らの政治的な主張は全く異なるものです。取材をしていることは秋田氏の文章と比べて一定の評価に値しますが、その内容については疑問が残ります。

ポイントは「極右」という表現にあります。基本的に欧州のポピュリズムは反EUの文脈で構成されることが多い状況です。したがって、政治運動を形成するためには「EU」に対置する「我々」を定義する必要があります。

そのため、各国の歴史・文化によるアイデンティティーポリティクスが必要とされた結果、右派系のポピュリズムは躍進しやすい状況があります。しかし、各国民のアイデンティティーは全く異なるため、表出してくるポピュリズム政党の政治的主張にも相違が生じることになります。

たとえば、

ウィルダース率いるオランダの自由党はリベラルな政策を追求した結果として生まれた極右政党です。元々オランダは自由主義の影響が強く、様々な社会政策が極めてリベラルな形で運営されてきました。

しかし、このようなオランダ文化を破壊する存在としてイスラム教やEUが認知されたことにより、自由主義の文化を守るための主張が盛り上がった状況となっています。ただし、社会政策に関しては相変わらずリベラルなままです。また、ウィルダースは貿易の自由化については否定的とは言えません(ただし、貿易自由化=EUのことを意味するわけではない。)

一方、

ルペン率いる国民戦線は元々ネオナチなどの系譜を引き継ぐ人々が多数含まれていた立党状況が示すようにオランダの自由党は真逆の成り立ちとなっています。特にマリーヌ・ルペンは大きな政府に党の経済政策の舵を切るとともに、グローバリズムを批判しています。共和国的な価値観を維持しつつ、それらに反するイスラム教には厳しいという面はあるものの、それ以外はオランダの自由党とはかなり違うものだと言えます。

さらに、

ドイツのAfDは元々経済学者らが作った政党であり、欧州単一市場にも公式には反対の立場ではなく、ユーロの解体と各国通貨の導入を謳っています。AfDはギリシャのようなお荷物国家への金融支援を拒否していることが特徴です。

また、AfDはグローバル化を拒否しておらず、主権を保った上での市場統合については是としています。高度技術者の移民受け入れを主張し、難民や低技能者の移民を拒否する姿勢を示しています。イスラムに関してはやはり文化面から拒否。

ということで、「反イスラム」は共通かもしれませんが、その理由も極めて欧州的な考え方によるものであり、日本で想像しているような極右とは少し趣が異なるわけです。しかも、EUの統治機構には反対であっても、グローバル化や単一市場について各々のポピュリズム政党によって濃淡あるわけです。

「TPP・EU」=「グローバル化」というリベラルなエスタブリッシュメントの安易な発想

筆者は安全保障・国内市場改革の観点から米国がTPPを推進したほうが良かったと考えています。

ただし、TPPやEU自体を「グローバル化」の象徴だとみなす思考は各国の中のリベラルなエスタブリッシュメントの典型的な思考パターンでしかありません。

TPPやEUは見方によってはブロック経済の亜種のような存在であり、これらの枠組みをグローバル化とイコールの存在だと思うことは間違っています。そもそも煩雑な官僚的手続きがそれらの枠組みには求められるため、筆者も参加する自由主義者の国際会議などでは自由経済の観点から否定的な意見が出ることも少なくありません。

欧米型のリベラルな教育を受けた有識者やメディア関係者の頭の中にはグローバル化といえばTPPやEUが大前提であり、それらを否定するポピュリズム政党は全て反グローバルだと思うのかもしれませんが実態としては誤りだと言えるでしょう。

また、メディアはトランプ政権について無根拠なアジテーションを記事にすることは即刻改めるべきです。それらの行為は書き手の自らの知的貧困をさらす行為であるとともに読者にとっても有害であるからです。

日経新聞には一面的な記事内容を掲載するのではなく、各国の政治状況の内実にまで踏み込んだ、読む価値がある記事を生産することに注力してほしいと思います。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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日経新聞の数字がわかる本
小宮 一慶
日経BP社
2013-09-06

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2017年03月07日

トランプ「新大統領令」の真の狙いを検証する

新大統領令
<ロイターから引用>

トランプ大統領が「訴訟対策版・一時入国禁止に関する新大統領令」に署名

3月6日、トランプ大統領が1月27日に署名した旧大統領令を更新する新大統領令に署名しました。この大統領令の主な狙いは国内訴訟を回避するための修正を施すことにあるものと思われます。

トランプ大統領による旧大統領令は地裁・高裁で違憲判決を食らって執行停止状態となっていますが、そもそも米国大統領は入管規制を行う権限を形式上有していることは司法省が確認しています。

では、なぜ前回は違憲判決を受ける結果になったかというと、立法趣旨が宗教差別を認めない合衆国憲法に触れる、ということで違憲になったという経緯があります。つまり、形式上は問題ないけれども、選挙期間中の発言や旧大統領令中の規定からイスラム差別と読み取れるという判断が下されたわけです。

具体的には、旧大統領令中の、

・合衆国は暴力を振るう、憎悪する(名誉殺害、女性への暴力、自らと異なる宗教を実践する人々への迫害)、または人種、性別、性的指向を侮蔑する人々を認めない。

という文言と、

・迫害を受けている少数派の宗教を信じる難民は優先的に受入れいる、

という方針がセットになって、トランプ政権はイスラム教徒とは一言も名指していませんが、

「これはイスラム教が多数派を占める国を対象とした入国制限であり、宗教差別で違憲だ!」という論理構成を立てられて、裁判闘争でトランプ政権は民主党側に一本取られる形となりました。

実際には旧大統領令の入国禁止国は元々オバマ政権時代からのテロリスト渡航防止法の対象国であり、全イスラム人口に占める割合も高くないために、完全に油断していたトランプ政権は自らの支持基盤であるキリスト教団体らの意向を不用意に反映し過ぎてしまったと言えるでしょう。(イスラム教国でキリスト教徒が迫害されているという国際的なキリスト教団体などのレポートが影響したと考えます。)

ちなみに、民主党側の狙いは「最高裁での違憲訴訟勝利」⇒「連邦議会への大統領弾劾」だったと思いますが、政治的な危険を察知したトランプ政権が方針転換を実施し、今回の大統領令からは上記の趣旨が消えたことで、民主党側は思惑通りに物事を進めることが難しくなりました。

新大統領令の狙いは「シリアへの地上軍の派兵」であると推測する

筆者は以前からトランプの一時入国禁止の大統領令は「シリアへの地上軍の派兵」に向けた予防的措置であるという仮説を主張しています。

入国禁止措置でトランプの頭がおかしくなったと思う貴方へ(2017年1月31日)
トランプ側に立って入国禁止の合理性を検証する(2017年2月4日)

今回の大統領令からはイラクが対象から外れることになりましたが、イラク政府のアバディ首相は先月にペンス副大統領とミュンヘン安全保障会議で面会した際に、イラクを大統領令の対象から外すように求めていました。ペンス大統領はイラク政府の対ISISへの協力を高く評価しています。(マティス国防長官も現地司令官とは常に情報のやり取りを行っており、対ISISで共闘するイラク政府からの要求を断ることは難しかったものと思われます。)

注目すべき点はこの大統領令は「対ISISの文脈で対象国が変わる大統領令」だということです。そして、現実は筆者の仮説が想定している方向に動き始めています。

以前のブログでも触れた通り、旧大統領令が発された翌日1月28日にトランプ大統領はシリアとイラクのISISを掃討する大統領覚書を発しており、国防長官及び関係省庁は30日以内に詳細なプランを提出するように求められています。

その結果として、

More US Troops May Be Needed Against ISIS in Syria, a Top general says(2月22日、NYT)
Pentagon delivers plan to speed up fight against Islamic State that may boost US troop presence in Syria(2月27日、CNBC)

など、最近ではシリアへの地上軍派兵の可能性が米国メディアを賑わせる状況となっています。今回の大統領令がISISへの軍事的な協力を勘案して対象国が選ばれている(イラクが外れただけでなくサウジも外れている)ことから、入国禁止措置の一側面が対ISISの軍事行動と連動していることが一層示唆される状況となっています。

ちなみに、シリアに安全地帯を設ける構想については既にトランプ大統領との電話会談でサウジアラビアとUAEが賛成しており、ヨルダン国王もトランプ・ペンスとの面談時に協議している状況です。トランプ大統領の電話会談も基本的には中東諸国が中心であり、安倍首相とのゴルフ日程日にも中東諸国の元首達と対ISISの文脈で電話会談を行っていました。

現在メディアにアナウンスされ始めているトランプ政権の軍拡(年間10%増)は約5兆円程度であり、シリアに安全地帯を設置するためにかかるコスト(およそ年間1兆円超)は賄えるものと思われます。

トランプ政権の政策の本質を知るには背景情報を整理することが必要となる

トランプ政権の政策の本質を知るためには、トランプ政権の支持基盤がどのような人々であるかを確認することが必要です。これは政策のタマが出てくる大前提を理解することであり、外国政府の動向をチェックする上で基本的なことです。

その上で、大統領令・大統領覚書・議会署名、政権人事・要人面談、などの動きを丁寧に追って、政権の動向に関する仮説を構築して、現実の流れの中で検証を試みていくことが重要です。これは政策の推移を把握していくために必要な作業であり、ある程度の精度を持った予測を行うためには必須の作業です。

巷には有識者と呼ばれる学者先生が大量に溢れかえっていますが、あの人たちは絶対にトランプ政権の動向をしっかりとチェックしているとは言い難く、いい加減な抽象論ばかりが世の中に溢れかえっています。

今回の新大統領令もイラクが対象から外れたという表面的な事象ばかりが報道・解説されていますが、その背景には何があるのか、トランプ政権の行動をじっくりと吟味することが必要です。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07





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2017年03月04日

トランプの大統領令・覚書「行政国家の解体」という本質

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トランプの大統領令の大半は「政府(≒ホワイトハウス)が権限を手放すため」のもの
 
トランプ大統領が就任以来発してきた大統領令・大統領覚書、多くの有識者とされる人々がトランプ大統領の精力的な仕事ぶりを独裁と揶揄してきました。しかし、それはこれらの大統領令・大統領覚書の内容を見ていないことを同時に意味しています。

トランプ大統領が命令した大統領令・大統領覚書の大半は、連邦政府が所管している規制権限を手放すことを求めることか、法の厳格な運用を求めるものでしかありません。つまり、政府の権限を小さくして人々の行動の自由を拡げるものであり、または議会に与えられた権限を実直に実行するというものです。

したがって、トランプが独裁者であるというのは馬鹿げた妄想でしかなく、同じく大統領令を連発したオバマ大統領が発してきた、連邦政府の権限を強化したり・法の運用を骨抜きにするような大統領令・大統領覚書と比べることは全く意味を成しません。

1月20日就任式から2月末までに発されたトランプの大統領令・大統領覚書

トランプ大統領が発令した大統領令・大統領覚のうち、

規制緩和、政府関与の縮小、許認可スピードアップを求めるものは、

・医療保険制度改革法の廃止に向けた大統領令(オバマケアの廃止・置き換え) 
・国内製造業に関する規制負担の許可制の合理化及び削減に関する大統領覚書
・規制改革に関する大統領令(1つ新たな規制を作る度に2つ規制を廃止する)
・連邦金融システムを規制するための基本原則に関する大統領令(金融規制の緩和)
・受託者責任ルールに関する大統領覚書(退職口座に関する投資アドバイスへの規制適用を止める)
・連邦政府機関に規制改革タスクフォース(作業部会)を新設する大統領令
・連邦政府機関に規制改革タスクフォース(作業部会)を新設する大統領令
・米国の水に関す再評価による法の支配、連邦制、経済成長を回復させる大統領令
・雇用凍結に関する大統領覚書(コスト増につながる新規職員採用停止)
・キーストンXLパイプラインの建設に関する大統領覚書(連邦政府の不許可の見直し)
・ダコタ・アクセス・パイプラインの建設に関する大統領覚書(連邦政府の不許可の見直し)
・メキシコシティー・ポリシーの復活に関する大統領覚書(中絶を支援する国際組織への補助金停止)
・高い優先順位のインフラ計画に関する環境評価・承認の迅速化についての大統領令

などです。政府の社会に対する干渉を廃止してビジネスの自由度を増やす改革ばかりであり、これらが粛々と実行されていくとホワイトハウスをはじめとした政府機関の権力は大いに縮小していくことでしょう。

そして、法の厳格な運用を求める大統領令・大統領覚書は、

・米国内の治安強化に関する大統領令
・国境警備及び移民執行改善に関する大統領令
・犯罪抑止と公共の安全のタスクフォースに関する大統領令
・警察官に対する暴力を防止する大統領令
・国際的な犯罪組織に対する法執行及び国際的取引を防止するための大統領令

などです。治安維持、国境管理の厳格化などが求められています。極めて当たり前の内容であり、むしろ現在まで十分な対応が取られてこなかったことに驚きを禁じ得ません。

そして、そのほかには、国防系の対応としてISISなどのテロリスト対策として

外国人テロリストの流入からの米国の保護に関する大統領令(テロリスト渡航防止法対象7か国からの一時的な入国禁止等)
軍備増強に関する大統領覚書(米軍の即応体制の準備等)
シリアとイラクのISISを打ち負かす作戦立案に関する大統領覚書
国家安全保障会議及び国土安全保障会議の組織に関する大統領覚書

などが行われています。これらはテロの脅威に対する公約を遂行するためのものであり、今後更に具体化が進んでいくものと思います。(話題になった入国禁止の大統領令は司法省法律顧問は形式上合法としたものの、立法趣旨論で高裁まで違憲とされたに過ぎません)

いわゆる保護主義的な政策は全体の一部であり、海外との貿易・投資は二国間協定に切り替える(特にTPP三か国のGDPの大半を占める日米)ことから、それほど問題があるものとは思えません。

TPP交渉と合意からの離脱に関する大統領覚書
米国のパイプラインに関する大統領覚書(パイプライン建設に米国産資材を活用)

最後に触れておきたい大統領令は、

・行政機関の任命者の倫理に関する大統領令
・黒人の多い大学についての大統領令

です。

前者は日本でいうところの天下りによる腐敗防止(政府機関に奉職していた人の退任後のロビーイングの禁止など)をまとめたものです。このような行為は米国でも腐敗の温床とみなされていますが、トランプ政権は大胆にメスを入れる指令を出しました。日本で天下り云々で騒いだりしている人がトランプ大統領がやろうとしていることをろくに見もせず否定していることはナンセンスでしょう。

また、トランプは黒人からの一定の支持があるとともに、歴代大統領と同じように黒人が多い大学への補助金に関する大統領令に賛成しています。メディアが垂れ流す人種差別的なイメージも実態は異なっていると言えるでしょう。

トランプが推進している政策の本質は「行政国家の解体」である
 
トランプ大統領が実際に遂行しようとしている行為の大半は、米国内において政府の権限を縮小しようというものです。スティーブ・バノン大統領首席戦略官が保守派の年次総会であるCPACで宣言したように、その狙いは「行政国家の解体」なのです。

トランプ大統領が行っていることは、通常の独裁者であれば自殺行為である、自らの権限を次々と手放す指令を発していることになります。本当に独裁者になりたいのであれば、行政権を次々と強化する大統領令を発して、国民の生活の隅々まで政府による監視の目を張り巡らせれば良いのです。
 
トランプ大統領をメディアで報道されている受け売りで評価することは間違いであり、その実際の行動を評価することが必要です。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

 

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2017年02月28日

共和党・税制改革のドン、国境税調整を語る

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ワシントンDC・全米税制改革協議会(ATR)のグローバー・ノーキスト議長と懇談

本日はトランプ政権の一般教書演説の日です。それに先立ち2月22日にワシントンDCにて、全米税制改革協議会のグローバー・ノーキスト議長と懇談の場を設けて頂きました。筆者とノーキスト議長は8年間の知己であり、現在でも渡米の度にお話を伺う機会を頂いております。

グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長(ATR議長)とはどのような人物なのか?


本日はトランプ政権の一般教書演説の日です。それに先立ち2月22日にワシントンDCにて、全米税制改革協議会のグローバー・ノーキスト議長と懇談の場を設けて頂きました。筆者とノーキスト議長は8年間の知己であり、現在でも渡米の際には政治・経済の見通しを伺う機会を頂いております。

<h3>グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長(ATR議長)とはどのような人物なのか?</h3>

グローバー・ノーキスト議長が率いる全米税制改革協議会(ATR・Americans for Tax Reform)は、共和党連邦議員の税制改革に対して最も影響力を持つ米国のグラスルーツです。

グローバー・ノーキスト議長はレーガン政権大統領からの依頼で同団体の活動を開始し、共和党議員らはグローバー・ノーキスト議長の顔色を常に見ながら税制改革の議論を行っています。共和党議員は選挙に際して同団体が提示する「納税者保護誓約書」という全ての増税に反対する署名にサインさせられており、当選後もATRによって連邦議会における言動を常に監視されています。

ATRは毎週水曜日にワシントンDCの事務所で全米から保守派のリーダーを招く「水曜会」を開催していることで知られています。同会は招待制・非公開・マスコミ無しで実施されており、様々なテーマについて保守派の運動方針が決まる場となっています。筆者も出席者としてカウントして頂いていますが、毎回200名程度の運動のリーダーが集まって濃密な議論が行われています。

グローバー・ノーキスト議長は、水曜会に集まる保守派のネットワークと影響力を行使し、共和党の連邦議員の生殺与奪の権力を事実上握っています。したがって、グローバー・ノーキスト議長の承認が無ければ予算・税制を司る共和党議会は身動きを取ることができません。まさに共和党保守派のドンの一人と言えます。
 
共和党税制改革のドン・日本からも大注目の「国境税調整」についての見通しを語る

トランプ政権の税制改革案として最も注目されている項目は「国境税調整」です。ノーキスト議長は連邦下院でポール・ライアン議長やブレイディ歳入委員会議長などと税制改革について議論を行っています。


ノーキスト議長によると、減税の方向性については下記の通り。


・トランプ大統領と連邦議会は米国全体の減税を押し進めることで合意している。

・連邦の所得税・法人税をカットすることで世界的に競争力がある税制改革を実行している。

・税制改革は直近8年間よりもビジネスへの投資を促すものになるだろう。

・また、所得税・法人税の減税だけでなく相続税やAMTの廃止を含むものになるだろう。

・税制全体のパッケージで、約2.5兆ドル(10年間)の減税になり、非常にpro-growthなものである。


そして、懸案の国境税調整については非常に前向きであり、


・税制改革案は国境税調整を踏まえた全体的なパッケージの形として提案される。

・「国境税調整」が導入される最大のポイントはこの仕組みから生まれる数兆ドルの税収にある。

・全ての税制改革計画に互いに合致するのは国境税調整がパッケージに含まれているからである。


国境税調整に関する懸念事項については、


・国境税調整は実質的な増税ではないかと懸念する人もいるが間違っている。税制改革は輸出では減税して輸入に増税する一つのパッケージで全体で約2.5兆ドル(10年間)の減税となる。

・目標の経済成長の数字は減税や規制改革などもあわせてオバマの2%成長ではなく、レーガンのような4%成長を導くことにある。

・国境税調整を導入すると為替の敗北が是正されて実際に米国の消費者に影響を与える、という経済学者の見解もあるが、実際には少し時間がかかることになるだろうと思う。


国境税調整が連邦議会に提出されることについて、

・実は連邦下院と大統領はほぼ税制改正案に同意している。たしかに、連邦議員の中には難色を示している人が数名いるが、税制改革全体のパッケージとしては非常に魅力的である。

・仮に国境税調整以外の要素をパッケージの中に代わりに入れてシステム全体が機能する場合、私はそれについてOKだと言うだろう。ただし、それは劇的に支出を削減して他に税収を上がる方向があればの話だが。

・国境税調整を批判する人々は現段階ではレパトリ課税による課税案を出しているが、私は国境税調整のほうが良いと思っている。


連邦議会での議論の見通しについては、


・税制改革案の話は今後6カ月で議論され、法案が可決することになるだろう。連邦下院とトランプ大統領が同意している現在の案になる可能性が極めて高いが、若干の変更の可能性も残っている。

・ 上院は税制改革の議論に積極的ではない(国境税調整が好きではない)が、税制改革のパッケージ全体を判断することになるため、国境税調整のみを見て判断するわけではない。

・下院が税制改革案を大統領に提出した時、トランプ大統領は「I want this」と発言しており、連邦下院は「We pass this」と発言している。

・ 税制改革案の背景として、下院での可決見通し、大統領のI want this nowという発言、ビジネスコミュニティのthis is goodという発言、スモールビジネスにもビッグビジネスにもgoodという意見、が存在している。

・上院やウォルマートは国境税調整が好きではない、と言っているが、数千・数万のスモールビジネス・個人契約者・プロフェッショナルらは支持しており、それは非常に強力である。

・仮に上院が修正したいのであれば、それは早く始める必要があるだろう。その可能性は残っているが、全体のパッケージを見直す作業になるので非常に困難である。今回の全体パッケージは経済にとって良くデザインされた計画である。

・ 彼らが「国境税調整は好きではない」と言うならば、私はその気持ちは理解していると言うだろう。しかし、投票は国境税調整のみではなく、全体パッケージに対してのものである。


と述べられています。いかがでしたでしょうか。


日本企業にも大きな影響を与える「国境税調整」に対する共和党のドンの発言

今回のワシントンDC訪問では「国境税調整」について、共和党の税制改革のドンの話を聞きたかったので、ノーキスト議長と非常に濃密な時間を過ごさせて頂きました。

一般教書演説の中でどこまで税制改革が触れられるかはわかりませんが、トランプ政権の改革の最重要項目であることは間違いありません。この他にもスティーブ・バノン首席戦略官やトランプ政権への保守派の見解など、共和党内の最前線での政局のお話を伺ってきましたが、それについては別途ブログに書くか、それとも講演のような形で皆さまにお伝えしていけるようにしていきます。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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「保守革命」がアメリカを変える
グローバー・G. ノーキスト
中央公論社
1996-06





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2017年02月10日

トランプは本当にHPから気候変動の記述を削除したのか?

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<トランプ大統領就任式当日(1月20日)にホワイトハウスHPから気候変動の記述が削除された?>

約3週間前の話になりますが、日本でも「トランプ政権発足に合わせてホワイトハウスHPから気候変動の記述が削除された」というオルタナファクトが平然と垂れ流されていました。

トランプ政権が気候変動の政策的な優先順位が低い共和党政権であることから、各種メディアが「トランプによってホワイトハウスHP上から気候変動に関する記述が削除された!(or記述が消された!)」と騒ぎたい理由は分かります。

しかし、これは明らかな事実を歪曲した誇張報道であり、これらを報道した米国主要メディアと日本の各種メディアの倫理観が問われるべきものだったと思われます。

<単なるWEBページの移行:事実の歪曲報道で記事の訂正に追い込まれたメディア>

米国では大統領が変わると前大統領のホワイトハウスのデータは別サイトでアーカイブ化されることで保存されることになります。そして、ホワイトハウスHPは新大統領の施政方針が示されたものに入れ替わります。

つまり、トランプ大統領はホワイトハウスHP上から気候変動に関する記述を「削除した」わけではなく「内容が入れ替わった」ために他の記述も含めてまとめて消えたということが正しいのです。

新政権発足時のHPの内容はまだ十分な情報も無いことは当たり前であるとともに、数少ない掲載されている情報は政権として優先順位が高いものになることは必然的なことです。それを持って記述を削除した・記述が消えた、ということはやや誇張が過ぎると言えるでしょう。

ちなみに、現状ではトランプ政権では閣僚の承認に伴う公聴会でも気候変動に強面とされる閣僚候補のコメントが軟化しつつあり、OPECからの石油ではなく自国のシェールガス主体のエネルギー構造になるとCO2排出量と減少するため、米国がパリ協定に代わる新たな枠組みを提示する可能性すらあるものと思われます。

したがって、日本語サイトでもこのような当たり前の事実認識すらできない偏向したメディアが一部記事内容の修正を行うことになり見苦しい釈明に追われることになりました。ちなみに、多くのメディアはこのことに対する偏向報道についてほとんど訂正も釈明もしていません。

<EPAに対する気候変動に関する記述削除指示、ロイター報道は事実か否かが証明されていない>

上記のようなミスリーディングが米国のメディアを賑わせている中、追い打ちをかけるようにロイターが下記のような報道を行いました。

トランプ政権、米環境保護局に気候変動に関するページ削除を要求

この記事はオバマ政権時代から働いている環境保護局の職員の内部リークが記事化されたものです。しかし、同内部リークが指摘した指示の有無についてはトランプ政権側から裏が取れておらず、なおかつ環境保護局HPから気候変動のページ自体が削除されることもありませんでした。(一部の項目では政策の見直しから修正がありました。)

反トランプ勢力などの論評ではロイターの記事が引き金となり、社会的な抗議・対策の動きが広まったため、トランプ政権が指示を撤回したという理解になっていますが、それを裏付ける証拠は同リーク証言以外にほぼありません。ただし、同指示の存在は環境保護関連の人たちによって誠しやかに事実として語り続けられています。

<米国メディアの報道はタイトルだけでなく内容の吟味も必要>

最近の米国メディアの報道は「タイトルによる釣り」が常態化しており、その報道内容までじっくり読まないといけません。たとえば、ニューヨークタイムズの

With Trump in Charge, Climate Change References Purged From Website(1月20日)

の記事はタイトルだけみれば「気候変動の記事がパージ(追放)された」と書いてありますが、記事内容まで読むと上記で指摘したHPの入れ替わりの過程で生じたものであることが触れられています。しかし、多くの人はタイトルしか見ないことも多く、偏向した世論誘導目的の記事であることが明らかです。

米国では主要メディアが反トランプ勢力に加担する政治的な党派対立が深刻化しています。したがって、その米国の主要メディアの報道だけで情勢に判断することは間違っています。

日本のメディアの大半も「欧米のメディアがこんな報道をしてました」という言い方で責任回避しているつもりかもしれませんが、それらの行為は責任回避になっておらず、米国内の政治闘争に間接的に加わっているだけに過ぎません。

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2017年02月09日

なぜトランプの入国禁止措置に違憲訴訟が起きているのか?

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<トランプ政権は入国禁止を行う入管に関する権限を持っている>

本日はトランプのイラン・シリアなどの7か国からの一時的な入国禁止措置に関する違憲訴訟の狙いについて考えていきたいと思います。

メディア上では入国できなかった人々のお涙頂戴的な内容が流れ続けてきており、難民の入国などをいきなり制限するとは何事だ!きっと違憲に違いないと思った人もいるかもしれませんが、実はそのようなことは裁判の主要な争点になってはいません。

そもそも多くの日本人の多くは、トランプに一時的な入国禁止措置を講じる権限が無い、と思っているかもしれませんが、司法省法律顧問室で同措置が形式的には合法であると確認しており、同措置がただちに違憲になるということはありません。

<極めて米国的な事情に基づく違憲訴訟の観点とは>

では、米国では違憲訴訟で一体何が主に争点になっているのでしょうか。

本件では私たち日本人には馴染みが無い論点が違憲訴訟の対象になっています。

合衆国憲法修正第1条には「合衆国議会は、国教を制定する法律もしくは自由な宗教活動を禁止する法律、または言論・出版の自由もしくは人民が平穏に集会して不満の解消を求めて政府に請願する権利を奪う法律を制定してはならない。」と書いてあります。

本件で問題となっている争点は、今回の入国禁止措置が修正第1条で禁止している宗教差別、つまりイスラム教徒に対する宗教的な差別にあたるのではないかというものです。

単純な入国禁止措置だけでは過去にオバマやカーターが行った入国禁止措置もあり、司法省法律顧問室の形式的なリーガルチェックも経ているために大統領令を制止することが難しいものと思います。そこで、トランプ政権に反対する勢力は「修正第1条」を使った違憲訴訟に持ち込んでいる状況です。

特に政権反対勢力は「トランプ陣営の過去の発言」(イスラム教徒入国禁止など)を例示し、これがテロ対策ではなく宗教差別の意図で行われていることを立証するやり方を取っています。つまり、トランプ政権側としては大統領令自体の形式性よりも選挙期間中などの発言に基づく立法趣旨を問われる展開となっており、おそらくこの状況は多少想定外だったのではないかと推測します。

そして、何よりも本件では大統領令の違法性を単純な違法性ではなく憲法違反に持ち込んでいるところが最大の肝になってくるのです。

<目的は違憲判決から連邦議会における弾劾のコンビネーション>

今回の政権に反対する勢力の訴訟目的は、大統領令を単純に撤回させることだけではありません。むしろ、この大統領令に難癖をつけて違憲判決を得ることによって、トランプ政権を一気に瓦解させることが真の目的であるように推測されます。

合衆国憲法第2章第1条8項では、大統領は合衆国大統領の職務を忠実に執行し、全力を尽して合衆国憲法を維持し、保護し、擁護する ことを宣誓することが求められています。

仮にトランプの大統領令が違憲だということになった場合、現職大統領の行為は憲法を維持・保護・擁護する存在ではないと司法が認めることになります。そのため、トランプに反対する政治勢力は違憲判決後に一気に議会における大統領弾劾に持ち込んでトランプ大統領の首を殺る計画を仕込んでいるわけです。

そして、この強引なトランプ殺しの方法は、最高裁判事でトランプが指名した9人目の保守派の判事が任命される前に進めるしかチャンスはありません。数か月後に最高裁で保守派判事が任命されるまで司法の見通しは極めて不透明であり、民主党側は連邦議会で同判事の就任を徹底的に妨害しつつしつつ、米国各地で同党系の司法関係者によって違憲訴訟が乱発する戦略を取っているわけです。

そして、それに民主党系に与するメディアは国務省が指定している「テロ支援国やテロリスト・セーフ・ヘイブン」ではなく、あえて「イスラム教徒が多数派を占める国」という表現を使って「これはテロ対策ではなく差別なんですよ」というメッセージを流布し続けています。これらは裁判を有利に行うための世論誘導による支援と言えるでしょう。

つまり、これは入国禁止で理不尽な思いをした人がいる、という表面上の話ではなく、もはやトランプ政権と反対勢力による単なる政争の延長線上のものでしかなくなってしまっているわけです。

<党派的な政争目的で犠牲になる米国のセキュリティ>

ジョージ・ワシントン大学のジョナサン・タリー教授が言うように「あからさまなイスラム教禁止ではなく、7か国からの入国を一時的に制限しても世界の大多数のイスラム教徒は影響を受けない」という見解に従って、筆者も同大統領令を軽はずみに違憲とすることは難しいのではないかと思っています。

そして、筆者がそれ以上に問題であると感じていることは、既にトランプ政権は同禁止措置の大統領令を発布した翌日にシリア・イラクのISISを掃討する計画の立案を国防総省らに求める大統領覚書を出してしまっていることです。

つまり、トランプ政権は入国禁止の大統領令を即時適用することによってISIS掃討計画の立案命令を出す前に、彼らが逃げられないor米国に入国できないようにしていたわけです。ところが、連邦地裁の判決によって大統領令が停止したことで、ISISがシリア・イラクから脱出して米国に侵入する千載一遇のチャンスが生まれてしまっています。

上記の状況に鑑み、筆者には同大統領令の立法趣旨はこれから実施するISIS掃討に伴うテロ対策にしか見せませんし、米国内の政治的な党派対立によってテロリストを利する結果となっている状況については疑問を感じざるを得ません。

また、このことを分かった上で違憲訴訟を行う政権反対勢力に倫理観の無さには憤りを覚えます。実際に筆者も月末に仕事で米国に行く必要があるのですが、このような温い対応状況では一抹の不安を覚えざるを得ません。米国民には無暗な反トランプ騒動はいい加減にしてもらって冷静さを取り戻してほしいと思います。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07


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2017年02月08日

安倍首相・トランプ会談の狙いに関する考察

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 <安倍・トランプ会談で日本が提案する内容とは>

安倍政権は2月10日のトランプ大統領との会談に先立ち、「日米日米成長雇用イニシアチブ」という包括的なプログラムを準備し、約51兆円のインフラ投資と70万人の雇用創出を提案することが報道されています。

同イニシアティブは5項目で構成されているとされており、米国でのインフラ投資、世界でのインフラ投資に関する連携、ロボットや人工知能での連携、サイバー分野での協力、雇用を守る分野での連携が含まれているとのことです。その上で、トヨタをはじめとした自動車関連産業が米国で150万人の雇用を作っていることを強調するものと思われます。

トランプ政権は安倍首相を歓待した上で、フロリダのリゾートで安倍・トランプのゴルフを設定し、個人的な関係を築く用意を準備していると報道されています。

<元々トランプ政権発足直後に外務省の有識者会議で提言されていたこと>

米国へのインフラ投資推進は日本政府としては規定路線であり、外務省が設置していた民間有識者の「日米経済研究会2016」が昨年11月段階で対米政策の方向性について提言書を提出しています。

その内容はトランプ大統領が推進する米国のインフラ整備について、高速鉄道・再生エネルギー・水関連インフラなどで協力する旨が記載されており、日本政府が力を入れているインフラの輸出が謳われているものでした。

そのため、トランプ政権に対する処方策として予め準備していたカードを切ったということが言えそうです。安倍政権や自民党の支持基盤を見ても高速鉄道の輸出などは悲願とも言えるものかと思います。

また、私見では、安倍政権は第三国への共同投資などにロシアのプロジェクト(ヤマルなど)を含めることで、対中包囲網にロシアを加えることへの米国のコミットを得にいくのではないかと推測します。

<日本が提案する内容が持つトランプ政権に対するインパクト>
 
筆者は安倍政権の外交・安全保障政策は終局的に失敗すると思っているので評価していません。ただし、今回の対米外交の「お土産」についてはトランプ政権に対しては極めて有効だと思います。

トランプ大統領にとってはインフラ投資による雇用創出は願ったり叶ったりのものです。トランプ政権は100兆円のインフラ投資を主張しているためにその財源が問題となってきました。しかし、日本政府が約51兆円の投資を宣言したために数字の上では目標の半分を解決したことになります。(*日本側の投資期間が不明なのでざっくり数字のみ。)

トランプ政権の経済政策の政策効果が出始めるには数年かかると想定されるため、トランプ政権としてはそれまでに象徴的な成功事例が幾つか必要になっています。そのため、日本からの多額の投資が決まったニュースは大きな意味を持っています。(トランプ氏が当初Twitterで指先介入をしたのもセンセーショナルな効果を狙った意味合いもあるものと理解すべきです。)

<インフラ投資が持つ米国外交上の多面的な効果>

また、インフラ投資は米国においては運輸省が所管する領域となります。運輸省はエレーン・チャオ運輸長官が所管していますが、彼女の夫は連邦上院の共和党院内総務のミッチー・マコーネル氏です。同氏はトランプ氏と実質的に対立している共和党主流派のボスです。

つまり、インフラ投資への協力は上記の通りトランプ氏に対して恩を売れるとともに、共和党が支配する議会に対しても友好的なメッセージを送ることになります。米国では連邦上院が外交政策に持つインパクトは大きいため、日本政府の対応は米国の共和党内の分裂にも配慮した賢いやり方だと思われます。また、インフラ投資については米国民主党も積極的であるため、米国の議会野党対策としても機能することが予想されます。

今後、インフラ投資でプラスの経済効果を受ける地域の連邦議員らに対してしっかりと影響力を拡大していくことを通じ、トランプ大統領とその周辺だけでなく連邦議会にも橋頭保から影響力を拡大していくことが望まれます。

<金で解決する外交が持つ限界点も認識すべきだ>

ただし、安倍政権の対米外交のスタンスにも問題はあります。

筆者は金で解決する外交のやり方には必ずしも肯定的ではありません。なぜなら、金で結びついた関係は、自分よりも金を持っているライバルパートナーが現れたときに終わるからです。

この場合にライバルとして登場する存在は中国です。中国は経済成長が鈍化しつつあるものの、世界第二位の経済大国となり、現在でも新常態の中で中速度の経済成長を続けています。

米中の貿易高こそが非常に大きなものがありますが、中国は米国本土にほとんど投資を行っていません。したがって、米国は民主主義国なので中国からの輸出品が選挙区の「雇用」に与える影響が無視できず、米中の距離は現状では比較的遠いものとなっています。

逆説的には、トランプ政権の圧力に屈する形で中国政府や中国企業が米国に直接投資を開始すると、日中の米国に対する影響力のバランスは崩れることになり、日中の今後の経済力の逆転が進展する中で、米国への貢ぎ物競争では最終的に日本は中国に敗北する可能性があります。したがって、日米間の問題を金だけで解決しようという日本の現在の姿勢は好ましいものとは言えない部分もあります。

そのため、筆者が以前から指摘している通り、本来は「金」ではない「価値観」を通じた日米同盟、を目指すべきであり、金はそのための下支え的なものだと認識する必要があります。

<米国から得られるものが皆無の会談になる可能性も>

日本側は米国側に貢物を用意して訪米することになるのですが、米国側が日本に与えるものが何になるのか、ということがイマイチ判然としません。たしかに、安倍・トランプ、日米関係が良好なものになるものと思います。しかし、筆者はそれだけのことに米国のATMとして約51兆円もの資金を拠出するカードを切ることの意味が分かりません。

米国の閣僚人事を見る限りでは、表面的な部分では反中派(ただし、習近平との繋がりは重視)を揃えており、トランプ政権は少なくとも数年は反中姿勢を崩さないものと思います。マティスもティラーソンも正式任命前の上院公聴会の段階から東アジアへの安全保障にコミットする発言をしています。また、日本が固執するTPPについてはトランプが既に撤退を宣言し、二国間協定に対しては日米ともに前向きな姿勢を示しています。

そのため、現段階で「インフラ投資」という日本最大の切り札を使ってトランプ政権から引き出す対価があるとは思えません。

そのため、筆者の見立てでは、安倍政権の狙いは「憲法改正に対するトランプ政権の了解を得ること」にあるものと見ています。安倍政権の悲願は憲法改正であり、その最大の障害は米国です。

国内では左派だけでなく保守にも米国が反対している・懸念していることを理由に、憲法改正や靖国参拝への自制を求める声が少なからず存在しています。それらを抑えるためのトランプとの取引ということであれば同取引を行うことも政権の理屈としては成り立つものと思います。直接的なコメントは無くとも「日本の地域における更に積極的な役割を望む」などの婉曲的な表現は出る可能性があります。

昨年、ヒラリー勝利⇒北方領土進展⇒解散総選挙という一部でささやかれたシナリオがトランプ勝利でご破算になったように、年内と想定されている総選挙にも安倍政権とトランプ政権との関係は影響を与えていきそうです。

<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>

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米中もし戦わば 戦争の地政学 (文春e-book)
ピーター・ナヴァロ
文藝春秋
2016-12-02

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2017年02月06日

なぜトランプ大統領は豪州首相に電話会談でブチ切れたのか

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<写真はThe Gurardianから引用>

豪州首相との電話会談ブチ切れ事件の真相とは何か

トランプ大統領の豪州首相との電話会談でのブチ切れ事件、毎日事件が起きるので既に過去のものとなりつつありますが、一応本ブログでも内容についてフォローしておきたいと思います。

結論から申し上げると、筆者は「電話会談でブチ切れるのもどうか」と思いますが、トランプ大統領が怒っても仕方がない内容だと感じています。

なぜなら、原因となった「米国と豪州の難民交換の取引」は明らかに不当な内容であり、オバマ前大統領がトランプ大統領を困らせるためだけに実施したものだからです。前大統領が行った国際的な取り決めだからそれを引継げ、という主張はまともな取引なら成立する話ですが、単なる嫌がらせまでその類に入れるのはあまりに理不尽です。

難民交換が行われるきっかけは豪州の難民への虐待が暴露されたことだった

そもそも豪州から米国に引き渡されるはずの難民はどのような人々なのでしょうか。

豪州の難民制度は極めて劣悪であり、豪州に海を渡って入国しようとする難民は海上で拿捕された上に、豪州本土ではなくパプアニューギニアやナウルの収容所送りになります。

これはインドネシアなどの密航業者が手引きして豪州に船で難民(≒不法移民)を送り込むビジネスが発達し、それらへの対応に苦慮した豪州政府が編み出した苦肉の対応策でした。豪州本土で難民を受け入れる代わりに、資金難の周辺の島国に援助金を払って収容所の管理をさせるというご都合主義のモデルです。

ところが、昨年8月10日、豪州政府は同収容所の超絶劣悪な環境を英国のガーディアン紙に暴露されてしまう事態に陥りました。収容者への性的虐待、人権侵害、自傷行為などの数々が記録された凄まじい内容であり、豪州の人権侵害ぶりが白日の下にさらされることになったのです。

豪州は自らを頼って辿り着いた入国希望者への責任を放棄し、事実上の迫害をそれらの人々に加え続けていたため、世界中の人権団体からの厳しい非難にさらされることになりました。

ここで人権侵害国家である豪州に手を差し伸べたのが、米国のオバマ大統領でした。

オバマ大統領はトランプ勝利直後に取引を決定、連邦議会から激烈な反発を受けていた

11月9日のトランプ大統領の大統領選挙勝利の直後、オバマ大統領は豪州政府との間で難民の受入れを成立させました。

オバマ大統領が豪州政府からの難民受け入れを実施することを決めたとき、米国連邦議会は何の相談もされていませんでした。当然ですが、既に退任が決まったオバマ大統領が議会に何の断りもなく唐突に難民の受け入れを決定したことは連邦議員からの強い反発を招きました。

同11月チャック・グラスリー上院司法委員会委員長はオバマ政権に対して豪州政府との間で行われた「秘密取引」について公開の場で説明するように正式な要求を行っています。

要約すると、連邦議会に無断で数か月の交渉を行ってきたこと、合意内容の詳細が不明であること、国務省が指定したテロ支援国家の人々が含まれていること、豪州の責任であるはずの難民を引き受ける正当性がないこと、などの疑念が激烈に表現されています。

つまり、メディアの影響で多くの人が錯覚しているように、トランプ大統領が突然「酷い取引だ!」と言ったわけではなく、オバマ大統領が自分の任期中に完了しないことを承知で強引に進めた劣悪な取り決めに対して、連邦議会で当初から問題となっており、議会の難民政策の責任者である司法委員会のトップが強い反発の意志を示していたことになります。

難民を受け入れる・受け入れない、どちらを選んでも罰ゲームに追い込まれたトランプ

トランプ大統領は選挙期間中から不法移民に対して強い姿勢を示してきており、イスラム教徒への入国禁止などの物議を醸す内容の発言を行ってきました。

そのため、オバマ前大統領は豪州からイスラム教徒を受け入れる代わりに、米国から中南米からの難民を豪州に渡すという意味不明な取引を無理やり成立させることで、トランプ政権の出鼻を挫く仕掛けを準備することにしたのでしょう。

結果として、トランプ大統領は難民を受け入れなければ国際的な取り決め違反、そして難民を受け入れれば公約違反という、どちらにしても負ける罰ゲームを強いられることになりました。

上記の通り、本来は豪州から難民を受けれ入れる必要は全くなかったので、この取り決めはオバマ大統領が豪州政府と結託して行った完全な嫌がらせ行為だと言えるでしょう。

豪州首相に一度はブチ切れるスタンスを示したトランプ、直後に国際的な取り決めを受け入れる対応

トランプ大統領としてはオバマ前大統領と豪州首相に「はめられた」形になっているため、豪州首相との電話会談でわざとブチ切れて見せたものと思われます。

つまり、どっちに転んでも罰ゲームであれば自分の支持者の満足を取ったということです。しかし、当然に国際的な取り決めを反故にするわけにもいかないので、その後難民の受け入れを正式に発表しています。

豪州首相にとってはなかなか良い取引であり、自国の劣悪な難民受け入れ制度についてトランプ大統領が言及しない代わりに、トランプ大統領の政治的なパフォーマンスを受け入れた上で、トランプの入国禁止措置についてもほとんど発言していない状況となっています。

豪州は米国の政争に付け込むことで、自国からテロ懸念国の難民を米国に引き取らせた上に、自国の劣悪な人権状況についてオバマ前大統領やトランプ大統領に指摘されないように話をもっていくことができたわけです。まさに、豪州にとっては最高、米国にとっては最低の取引だったと言えるでしょう。

以上のように、オバマ前大統領が残したマッチポンプ的な嫌がらせに焼かれ続けるトランプ大統領ですが、メディアはオバマ大統領の陰湿な行為に全く触れようとしないどころか、トランプ大統領を責め続けるばかりで流石に気の毒になってきました。

少なくとも本件については豪州との難民交換での米国側には何のメリットもなく、また筋論として豪州自体が自らの難民問題への責任を果たすべきものであり、メディアもこの程度のことくらいはまともに報道してほしいものだと思います。







本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 08:00|PermalinkComments(0)