2018年10月25日
サウジアラビア人記者殺害疑惑を巡る陰謀の対立構造を考える
(Jamal Kashoggi記者)
サウジアラビア政府に一貫して批判を行ってきたジョマル・カショギ記者がトルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館で姿を刑した事件によって、トランプ政権の対中東政策の根幹を揺るがす事態が発生している。
中東地域における対立構造は世界のイスラム化を掲げる原理主義「ムスリム同胞団」の勢力とサウジアラビア王家のような世俗の政治勢力の間のパワーゲームにある。したがって、本件もサウジアラビアの王政を批判していた記者が殺害された疑いがある事件として単純に捉えることは難しい。
米紙ウォールストリート・ジャーナルがトルコ政府が入手したというカショギ氏殺害時の音声は社会的な衝撃を与えているが、最近同紙はトルコ政府の主張を掲載しすぎる傾向があるように感じている。シリア政府軍によるイドリブ地方の反政府派を攻撃する直前、同紙はエルドアン大統領による一方的な主張の手記をそのまま掲載していたことが記憶に新しい。
トルコのエルドアン大統領はムスリム同胞団に近いスタンスを取っており、エジプトにおいて軍のクーデターで同胞団政権が倒れた際に激しくエジプト軍を批判した経緯がある。そのことを巡ってトルコは湾岸諸国の王政と対立しており、現在でも中東地域における両者の影響力争いは深刻なものとなっている。
そのトルコが提供した情報だけでサウジアラビアを断罪することは早計と言えるだろう。一部の報道では、カショギ氏はムスリム同胞団支持者であり、同氏が結婚を予定していた女性(総領事館前で待っていたとされる)は、トルコ政府情報員だったとの情報も飛び交っている。トルコ政府もカショギ氏が殺される可能性を十分に考慮した上でハナから動いていたように感じられる。
サウジアラビア政府が実際にカショギ氏に手を下したかどうか、更にそれがどのように行われたものか、について世界が注目しているが、そのこと自体についてはサウジアラビア政府の「弁明」でしかないものと思う。この弁明が与える政治的影響については未知数であり、トランプ政権がこの難しい状況への対処をどのように行うのか見物である。
いずれにせよ本件は複雑な背景を持った陰謀の対立である可能性が高く、中東における政治対立や人権感覚の無さが浮き彫りになったと言えるだろう。
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