2018年01月21日
トランプ大統領・エルサレム首都認定の3つの実態
エルサレム首都認定の騒動は昨年末から現在に至るまでメディアを賑わせる形となっています。しかし、実際には同行為は米国内の政局や中東情勢に決定的な影響を与えるものではありません。
第一に、米国内においては連邦議会議員がトランプ大統領の決定を歓迎しています。元々エルサレム首都認定と米国大使館の移転はクリントン大統領時代に1995年に連邦議会が通過させた法案を根拠としています。そして、それ以降クリントン・ブッシュ・オバマの3代の大統領は同法案の半年間の執行を延期する権限を使って決定を先送りしてきました。トランプ大統領も2017年6月に一度見送りを決定しています。しかし、その際、連邦議会上院で<a href="https://www.congress.gov/bill/115th-congress/senate-resolution/176?q=%7B%22search%22%3A%5B%22senate+resolution+jerusalem+50%22%5D%7D&r=2">、A resolution commemorating the 50th anniversary of the reunification of Jerusalem</a>という決議がなされており、共和党・民主党も含めた全会一致(90対0)で、トランプ大統領に首都認定と大使館移転を行うように求めています。つまり、米国政界は12月のトランプ大統領の決定を促し、それらを支持していることになります。
第二に、現在、中東地域におけるパレスチナ問題は最も大きな政治問題ではなくなっています。近年はイスラム国の台頭から壊滅への急転、そしてサウジアラビアとイランの対立が深刻化しており、パレスチナ問題は中東の緊急の課題とは言えなくなっています。特に中東におけるスンニ派諸国の盟主を自称するサウジアラビアは、イランとの対決姿勢を強めており、敵の敵は味方という状況で反イランのイスラエルとの無用の対立を避けるようになっています。したがって、トランプ大統領はサウジアラビアの中東版NATO構想を支持しており、同国の政情不安な情勢下でもいち早く現政権の支持を打ち出しています。それらの前にとっては首都認定及び大使館移転は些事と言えそうです。
第三に、トランプ大統領が実際に本格的な大使館の移転を行う時期は相当に先送りされるということです。トランプ大統領は12月の発言後に再び大使館の移転を先送りする指示を出しました。これは名目上は大使館移転のための準備のためとなっていますが、本格的な大使館の移転には数年の月日を要する可能性が高い状況となっています。その間は意思決定が事実上保留された状況となっており、外交上・安全保障上の変化及び交渉の進展によって幾らでも意思決定の変更の余地が残されています。
つまり、トランプ大統領の発言は米国内のユダヤ社会、そしてキリスト教保守派に対する指示を獲得するための象徴的な行為であり、そして外交安全保障上も状況を冷静に見据えたギリギリの中で意思決定であると推量されます。
トランプ大統領は昨年8月のシャーロッツビルでの白人至上主義者団体と極左アンティファなどとの衝突時に、白人至上主義団体に反ユダヤ団体が混ざっているにも関わらず喧嘩両成敗のような発言を行った結果、ユダヤ社会からの猛反発を受けて政権基盤が危うくなった経緯があります。その際、ユダヤと距離が遠いバノンが更迭されるとともに、イスラエルに対する大統領の特使であったアイカーン氏も辞職しました。そして、ユダヤ系が影響力を持つ経済関連の大統領の諮問会議などが解体されるとともに、同じユダヤ系のコーン国家経済会議議長、ムニューチン財務長官にも辞職圧力が強まりました。これらの政権運営にとって致命的な失点を取り戻すためのエルサレム首都認定と米国大使館の移転の意思決定であることは明白です。
日本人はトランプ大統領を取り巻く状況、そしてその意思決定の内容について理解を深めることが必要です。
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yuyawatase at 21:00│Comments(0)│米国政治
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