2016年03月27日

トランプ外交で日米安保・TPPはどうなるのか?

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ドナルド・トランプ氏が大統領になる可能性が出てきた途端に・・・

筆者は昨年からドナルド・トランプ氏の共和党予備選挙優位を一貫して主張してきましたが、最近になってようやくトランプ大統領の可能性を認める日本人有識者の言説が出てくるようになりました。

しかし、大半の有識者は「トランプが大統領になる!」とは、コレッポチも想定していなかった人ばかりであり、極めてその場しのぎのいい加減な論考が目立っています。特に、日米関係についての外交方針に関するものなど、トランプ氏の発言に振り回されているだけでモンロー主義がどうのこうの、という解説しか世の中にはないわけです。

そこで、本稿では、ドナルド・トランプ氏が大統領になった場合の東アジア・東南アジア政策についての分析を行ってみたいと思います。在日米軍が撤退するとか、TPPから撤退するとか、などのトランプ氏の発言の真意に迫りたいと思います。

ジャパン・ハンドラーズとドナルド・トランプ氏の関係について

米国側には知日派という対日政策の専門家(ジャパン・ハンドラーズ)が存在しています。日本のニュースなどでも時折目にすることがあるリチャード・アーミテージ氏やマイケル・グリーン氏などがその代表的なメンバーです。

日本の親米派の国会議員が渡米する際には、これらのジャパン・ハンドラーズに詣でることが通例です。(私が以前に米国を訪れた際もたまたま渡米中の国会議員たちがジャパン・ハンドラーズの私邸で飯を食べに行ってました。)これらのネットワークは日本の与野党を超えて存在しており、親米派の国会議員とはジャパンハンドラーズと仲が良い国会議員であると言い換えても良いでしょう。

実は、このジャパン・ハンドラーズは対トランプ氏についての立場を鮮明にしていません。トランプ氏の外交・安保姿勢を外交安全保障の専門家が連名で批判したことは有名ですが、その中に上記のジャパン・ハンドラーズは名前を連ねることがありませんでした。(最終的には外部圧力によって同連名に加わる可能性もありますが・・・)

つまり、ジャパン・ハンドラーズはトランプ大統領誕生に備えて政権でのポスト獲得のために態度を保留している、またはトランプ氏に対日政策について進言するチャンスを待っていると言えるでしょう。

日米安保とTPPは「偉大な米国」(ただし、非覇権国)にとって都合が悪い政策

トランプ氏は「交渉の達人」と呼ばれています。その観点から見ると、ドナルド・トランプ氏からは日米同盟とTPPは極めて不合理な条約として目に映ることでしょう。なぜなら、これらの条約は米国の最大の切り札である軍事的なコミットメントを明示的・暗黙的に行うものだからです。

東アジアからの米国への民間投資額の大半及び米国債の購入の約35%は日本によるものであり、新たに構築されるTPPは成長著しいアジア太平洋地域の果実を日米で分け合うことを合意するものです。そして、これらの果実を得ることの前提として、米国は同地域に軍事的なコミットメントを行っている状況があります。

特にオバマ大統領はTPPの安全保障上の重要性について、昨年ホワイトハウスにキッシンジャーなどの国務長官経験者、元安全保障担当補佐官経験者、米軍トップなどを招集して大いに語ったと言われています。つまり、TPPは単なる経済条約ではなく安全保障のための側面を強く持った条約なのです。

しかし、本来、米国にとっては虎の子の軍事的なコミットメントをさせられることは極めて不本意なはずです。なぜなら、米国が一定の権益を持つことで軍事的コミットメントを実質的に保証した場合、東アジア・東南アジア諸国は「米国が離反する可能性を気にせず、競争相手である中国との関係を深めることができる」からです。

現在、日本は米国の軍事的なコミットメントにフリーライドする形で、中国からの軍事的・政治的な圧力を撥ね退けつつ、自らの経済的な利益を追求することができています。TPPはその領域をアジア太平洋全域に実質的に拡大するものと言えるでしょう。

世界中で最大限の影響力を維持しようという覇権国であれば上記の政策は価値があるものと思われます。しかし、トランプ氏が目指そうとしている「偉大な米国」は明らかに従来までの覇権国とは異なるものです。

米国にとって東アジア・東南アジアの優先順位は極めて低く、同地域の国々に軍事的にフリーライドされ続けることはコストばかりで益が無いと判断するのも論理的な判断と言えるでしょう。

米国からの武器購入圧力が高まることが予想される日本の脆弱な立場

上記のような状況の中で、トランプ大統領の下で日本に求めることは「米国製兵器の大量購入」ということになるかと思います。

現在の安倍政権下でも円安にも関わらず高価な米国製兵器を購入するカモそのものですが、トランプ政権下では安全保障面でのコミットメントの対価として従来以上に商売のターゲットになることは間違いないでしょう。そして、対日政策の担当者は引き続きジャパン・ハンドラーズが踏襲するということになります。

そもそもジャパン・ハンドラーズと呼ばれている人々は、米国にとっては数ある外交相手国の一つの担当者に過ぎず、最近の米国政権の中で主導的な立場にあるとは思えません。日本から見た場合の交渉窓口がそこしかなかったので、外交力が欠落した日本の官僚・国会議員が日参しているに過ぎないのです。

そのため、トランプ大統領の下で、ジャパン・ハンドラーズが対中政策を含めた東アジア政策などを実行できるわけもなく、日米間に横たわれる従来の利権の拡充に力を入れるのが関の山ではないかと思います。

むしろ、個人的にはジャパン・ハンドラーズには米国内でもう少し力を持ってほしいと思いますが、日本自体の経済力・影響力が急速に凋落していく現状では難しいことなのかもしれません。

したがって、日米安保は現状の延長線上となることが予測されます。

そして、トランプ大統領の下で日米同盟は維持するけれども、基地のための費用だけでなく軍事的・非軍事的な高額商品・サービスを米国側から購入させられることになるでしょう。さらに、ディールが不調に終われば何時でも中国カードで揺さぶりをかけられるようになる可能性すら考慮すべきだと思います。

TPPについては米国の国内批准がうまくいかない可能性も・・・

そもそもTPPとは民主党のオバマ政権下のレガシーに過ぎず、オバマ政権のアジア回帰を象徴する政策として位置付けられてきたものです。トランプ大統領がTPPにこだわる政治的な理由は特に無いため、今までの経緯を無視すればTPPから米国が抜ける可能性すらあります。

TPPは日米安保と違って現状を変更する条約です。何事でも現状を変更することにはエネルギーが必要です。日本国内でもTPPに対する反対運動が存在しているように、米国にもTPPに対する反対運動が存在しています。両国の中に渦巻く利権構造が現状変更を阻止する方向で働き続けているのです。そして、政治的な力学としては何もしない方が楽なのです。

そして、上記の通り、安全保障としての側面を持つTPPは既に戦争で疲弊した米国にとっては看過しがたい負担となることは明白です。アジア回帰を訴えてきたオバマ政権がその実ほとんどアジア太平洋地域にはコミットできなかったことからも、米国の軍事的な限界が如実に表れていると言えるでしょう。

その上で、トランプ氏はTPPから脱退するとは口にしていませんが、TPPについては激しく交渉内容について批判を行っています。トランプ氏の政治的な発言は「有権者ではない人々(≒自分に投票しない層)を攻撃する」ことに特徴があり、TPP参加国の国民は有権者ではないのでトランプ政権下での政権運営上は無視できます。

TPPは今年2月に参加国による署名式が行われましたが、米国内において実質的な国内批准の議会審議が始まる時期は来年の新大統領就任後となるでしょう。2016年段階でもTPPに関する影響評価などが公開されることになるため、同条約に関する議論は続くことになると思いますが、その重要性に鑑みてレームダック化するオバマ大統領の任期中に国内批准が決まるとは考え難いです。

したがって、同条約は日米のどちらかが脱落すると実質的に発効ができない内容であるため、TPPについては破棄される可能性が相当程度あると看做すべきです。

日本外交は「カモ」から「白鳥」になることができるのか?

ここまで長い文章を読んで頂いた方々は、トランプ大統領と対峙した場合、従来までの日米関係の思考の延長線上では「カモ」になることがお分かり頂けたと思います。

従来まで日本をカモにし続けてきた人々(ジャパン・ハンドラーズ)が今まで以上にカモりに来るのがトランプ政権であり、ジャパン・ハンドラーズに頭が上がらない既存の親米派国会議員に対米外交を任せていると、一気に身ぐるみ剥がされて太平洋を漂流する島国になる姿が目に浮かびます。

そして、アジア太平洋地域における日米共同権益のシンボルであるTPPが危機に瀕することで、日本は中国・米国について戦前のように政治的に挟まれた状況に回帰することになるでしょう。

TPPとは満鉄の共同経営を日米で行うことを持ちかけたハリマン提案のようなものであり、同提案を断った後の日本が戦前に辿った運命は皆さんご承知の通りだと思います。万が一TPPから米国が抜けてしまった場合、中長期的にアジア太平洋地域の安全保障バランスの不安定化は避けられないものになるでしょう。

日本人は従来までの対米外交チャネル以外の交渉チャネルを持ち、日米中の衝突の危機が高まる中で本気で生き残るための道を模索する段階がきています。外国に金をばら撒き続けて人気取りを行う呑気な外交をやっている場合ではないのです。

日本人の政治的な知力が問われる正念場であり、カモが白鳥になれるかどうか、もしくは、カモが丸焼きになるかどうか、がかかっています。トランプ大統領とは「日本人の実力」が問われる大統領なのです。

ドナルド・トランプ 300の言葉
ドナルド・トランプ
2016-03-08







本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。 


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yuyawatase at 15:24│Comments(0)米国政治 | 国内政治

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