2018年10月
2018年10月28日
共和党保守派「水曜会」と自民党「部会システム」の比較
共和党保守派の水曜会・International coalition meeting に再び参加予定
米中間選挙に合わせて渡米し、共和党保守派が毎週水曜日にワシントンDCで開催している作戦会議でスピーチを行う予定となっています。この会議は「水曜会」と呼ばれており、完全内容非公開・参加者非公開・写真禁止・完全招待制というインナーミーティングであり、筆者もここで何を話したかということは多くを書くことができません。
強いて言うなら、上記の公開用イメージ写真の中心に座っている全米税制改革協議会グローバー・ノーキスト議長を中心に、様々な発言者が5分程度の問題提起を行って参加者からの質疑応答、終了後のネットワーキングが行われるというイメージです。今回は世界中から様々なシンクタンクの代表が訪米してスピーチを行っています。
筆者はワシントンDCを訪問する度に同会議に出席させていただき、DCにおける最新の政治情勢のトレンドを収集させて頂くことが出来ています。
「水曜会」小さな政府を求める共和党保守派が作り出した政治システム
水曜会は共和党においては極めて重要な政治システムの一部を形成しています。一つの民間の政治団体である全米税制改革協議会が主催するイベントにも関わらず、毎週のように設定される新たな政治アジェンダに対して保守派としての情報共有や行動方針が決定する場だからです。
また、共和党の政治家への応援の可否、新たな政権・議会スタッフの紹介、各団体のアジェンダに対する意見がテンポよく表明されていき、保守派を構成する様々な団体の意向が実際の政治過程に反映されていく様子を見ることが出来ます。もちろんプレゼンテーターのスピーチの内容が悪ければ何も起きず、内容が大うけするようであれば同アジェンダは一気に進むことになります。
この場に集っている方々は原則として「小さな政府」を求める共和党保守派の人々であり、同じ価値観をともにする人々が次々とアライアンスを形成して政策実現に向けた動きを展開する「民主導」の統治システムだと言えます。
「部会システム」大きな政府を志向する自民党が作り出した政治システム
一方、共和党保守派の「水曜会」と対比して、ほぼ真逆の機能を果たしている統治システムが自由民主党の政調部会システムです。
自民党の政調部会では、会議室の正面に部会長、有力議員、その横に部会を構成する議員席、関連する官僚が座る役人席が用意されています。そして、業界団体などの利益団体に対して、業界の意向を受けて発言する所属議員の先生方が(概ね役人に質問または叱責するポーズをして)自分は頑張ってますよというアピールをする場となっています。(筆者が見ていた頃の部会のイメージですが、今でも大差ないものでしょう。)
部会システムは、自民党という政党自体が中央省庁とほぼ一体化して業界団体の利益を拡大していく高度経済成長期のシステムであり、既に時代遅れの感はあるものの共和党保守派の理念とは対比的な自民党側の「大きな政府」を志向する政治システムとしては極めて優れたものだと思われます。
「官高党低」という状況下で変化が求められる政治システム
最近の政治的な傾向として、政党よりも官邸が強くなる、つまり官邸に予算・人事の権限が集中して、政党がスポイルされる「官高党低」が問題視されています。これは経済財政諮問会議や内閣人事局に象徴される一連の行政改革の中で進められてきた官邸主導の政治システムが確立されてきていることを意味します。
そして、このような状況下では、政党が各省庁と一体化することで運営してきた自民党の部会システムは時代遅れのものとして機能しなくなってきています。中央省庁の役人も予算・人事を握っている官邸を政党よりも重視することは当然です。日本は議院内閣制を取っているものの、実態としては大統領制に近いものになりつつあると言えるでしょう。
そこで、政党が存在感を取り戻そうとするのであれば、中央省庁の方針に反対する民間勢力を糾合して一つの政治的な勢力を形成してくことが必要だと思います。現在のように中央省庁とぶら下がっている業界団体と蜜月を築くだけでは、政党が官邸に追従する現在の構造から抜け出すことは困難です。(実際、自民党は中央省庁に紐づく業界団体の声を民主主義の声としてきたので難しいかもしれないですが。)
政治は志がある政治家が一人いれば変わるものではなく、政治システム自体が変わることで初めて大きな動きに繋がっていきます。筆者はそのための政治システムの一つとして、共和党保守派が運営している水曜会は極めて優れたシステムであり、自民党などの主要政党の志ある人々は同システムを採用していくことが望ましいと思っています。日本の政治システムはまだまだ途上であって海外の事例を参考にすべき点が多々残っています。
2018年10月27日
「安田純平」型ジャーナリストへの正しい政府対応
「安田純平」型ジャーナリストに関する是非が盛り上がる
安田純平氏を英雄扱いする朝日新聞などのリベラルメディアや自己責任論を述べるネット世論の双方が沸き上がっている。
筆者は「政府が渡航を禁止している地域に警告を無視して入るジャーナリスト」の存在を肯定的に捉えている。そもそも好奇心あるジャーナリストに「現場に触れたいという好奇心を抑えろ」と言ったところで無意味であるし、彼らの多くは政府の警告など相手にせずに戦場等の危険地域に入っていくだろう。また、戦場の状況について複数の情報源を持つことは国民の公益増進の観点からも重要なことだと言える。
問題はテロリストに捕まって自国政府に命乞いすることになる能力不足のジャーナリストの取り扱いについて、社会的なコンセンサスが形成されていないことにある。プロを名乗るならば自らの安全を確保しながら取材することは当然であり、今回のケースのように危機管理能力が不足したジャーナリストが渡航禁止地域に入る状況を想定した準備が必要である。
能力不足のジャーナリストの無謀な行為を抑制し、優れたジャーナリストの活動を支援できる環境づくりが必要だ。
政府は「国民を助ける」以外の選択肢を持つことは難しい
日本政府に国民を見捨てろということは極めて難しい。民主主義国である日本では一定数の国民が「政府は能力不足のジャーナリストも助けろ」という意見を持つことを前提とするべきだからだ。したがって、「ジャーナリスト本人が自己責任を強調していた」としても政府が何もしないということは事実上不可能だろう。
本件についても日本政府がカタール政府・トルコ政府と協力して、安田氏の解放のために力を尽くしたことは明白である。日本政府は「2013年G8ロック・アーン・サミット」で、
「我々は,関連の国際条約に従って,我々の国民を守り,テロリスト・グループがその生存及び繁栄を可能とする資金を得る機会を減少させることにコミットしている。我々は,加盟国に対し資金及びその他の資産凍結を通じて国連アル・カーイダ制裁レジームの下で指定されたテロリストに対する直接又は間接的な身代金の支払を防止するよう求める国連安保理決議第1904号(2009年)に従い,テロリストに対する身代金の支払を全面的に拒否する。」
と宣言しているため、表向きは身代金を支払ったとは口が裂けても言えない。したがって、身代金を支払ったことにはなっていないが、それであっても、政府関係諸機関が動いて安田氏の救出に取り組んだことは明らかだろう。
これは上述の理由で、安田氏の意志に関係なく、民主主義国の政府として動かざるを得ないことが背景にある。民主主義国では国民に「自己責任だから死んでください」とは言えないのだ。
能力不足のジャーナリストの行動を抑制して納税者負担を軽減する方法の導入を
したがって、政府が能力不足のジャーナリストを見捨てる、という安価で合理的な手法を選択できない以上、それらの行動に対して費用負担を過料することが民主主義国の政府の取り得る措置として妥当だろう。何らかの法規を無視した場合に賠償や罰金を支払わなくてはならないことと同じ原理だ。
具体的には、政府関係諸機関が費やした税コストに身代金分に相当する罰金を合算し、当該ジャーナリスト個人に支払わせる仕組みを導入するべきだ。政府は「身代金を支払った」と公式には発言できないので、予め身代金相場に基づく罰金も見積もって設定しておくべきだろう。
公益に基づく活動とは必ずしも税金によって行われる必要はない。仮にジャーナリストの活動が本当に公益に資するものであるなら、上記の賠償・罰金について、その活動が公益に資すると信じている支持者が寄付をして弁済すれば良い。
優れたジャーナリストであれば政府に費用を弁済することできるし、能力不足のジャーナリストは渡航をためらう様になるだろう。自己責任は義務と能力を前提として成り立つものであり、義務も能力もない自己責任はそもそも存在し得ない。
「安田純平」型ジャーナリストの問題とは、政府が「渡航禁止地域で取材開始直後にテロリストに拘束される能力不足のジャーナリストに対する法律上の罰則」を明確にしていないことに起因する。再発防止のために当然の議論が行われることに期待したい。
2018年10月25日
サウジアラビア人記者殺害疑惑を巡る陰謀の対立構造を考える
(Jamal Kashoggi記者)
サウジアラビア政府に一貫して批判を行ってきたジョマル・カショギ記者がトルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館で姿を刑した事件によって、トランプ政権の対中東政策の根幹を揺るがす事態が発生している。
中東地域における対立構造は世界のイスラム化を掲げる原理主義「ムスリム同胞団」の勢力とサウジアラビア王家のような世俗の政治勢力の間のパワーゲームにある。したがって、本件もサウジアラビアの王政を批判していた記者が殺害された疑いがある事件として単純に捉えることは難しい。
米紙ウォールストリート・ジャーナルがトルコ政府が入手したというカショギ氏殺害時の音声は社会的な衝撃を与えているが、最近同紙はトルコ政府の主張を掲載しすぎる傾向があるように感じている。シリア政府軍によるイドリブ地方の反政府派を攻撃する直前、同紙はエルドアン大統領による一方的な主張の手記をそのまま掲載していたことが記憶に新しい。
トルコのエルドアン大統領はムスリム同胞団に近いスタンスを取っており、エジプトにおいて軍のクーデターで同胞団政権が倒れた際に激しくエジプト軍を批判した経緯がある。そのことを巡ってトルコは湾岸諸国の王政と対立しており、現在でも中東地域における両者の影響力争いは深刻なものとなっている。
そのトルコが提供した情報だけでサウジアラビアを断罪することは早計と言えるだろう。一部の報道では、カショギ氏はムスリム同胞団支持者であり、同氏が結婚を予定していた女性(総領事館前で待っていたとされる)は、トルコ政府情報員だったとの情報も飛び交っている。トルコ政府もカショギ氏が殺される可能性を十分に考慮した上でハナから動いていたように感じられる。
サウジアラビア政府が実際にカショギ氏に手を下したかどうか、更にそれがどのように行われたものか、について世界が注目しているが、そのこと自体についてはサウジアラビア政府の「弁明」でしかないものと思う。この弁明が与える政治的影響については未知数であり、トランプ政権がこの難しい状況への対処をどのように行うのか見物である。
いずれにせよ本件は複雑な背景を持った陰謀の対立である可能性が高く、中東における政治対立や人権感覚の無さが浮き彫りになったと言えるだろう。
2018年10月24日
生物学上の男性が女性オンリーの競技に参加して1位になることに関する論争
女性オンリーのスポーツ競技でトランスジェンダーの人物の競技参加を認めるかどうかが論争の的になっている。通常の場合、トランスジェンダーの女性が生物学的に男性の肉体を持ったまま競技に参加することは身体構造上圧倒的な優位さを持つことになる可能性が高い。しかし、この競技参加問題をトランスジェンダーの権利の問題として幅広く解釈すると、我々の社会はこの問題に現実的に向き合って回答を得る必要が生じてくる。
実際、カリフォルニア州で行われたUCI Masters Track Cycling World Championshipsという自転車の世界競技の35~39歳女性部門の優勝者は、カナダ人のトランスジェンダーの女性であった。この結果については、もちろん本人の競技者としての努力は前提ではあるものの、トランスジェンダーの人物の競技参加が競技上の優位性の問題ではなく人権の問題として取り扱われたことの影響の大きさを否定することは難しい。
日本の多くのスポーツ競技関係者はこの問題について我が事として深刻に捉えるべきだろう。リベラルな空気が世界中に拡がりつつある中で、全ての競技関係者がこの問題といつまでも無関係でいられるわけではないからだ。仮に、トランスジェンダーの競技者の参加を正当な理由なく拒んだ場合、事と次第によっては訴訟に発展する可能性すら存在する。
また、スポーツに限らず、性差の問題はパンドラの箱のようなものであり、本質的には男女だけでなく無数に存在する性の在り方について対応を迫られるものだ。そのため、安易に多様性が大事と口にするだけではなく、どこまで何を社会・コミュニティとして許容するのかという議論が行われるべきだろう。
筆者はスポーツに関しては男女の別をやめて全ての人類間で無差別に競争したら良いと思うが、一朝一夕にそのような形になるわけがない。「性」を巡る問題については奥深いものがあり、人間の知性による熟慮が求められる分野と言えるだろう。
2018年10月23日
マティス国防長官の辞任はトランプ政権の政治リスクを増大させる
トランプ大統領がTV番組の取材中にマティス国防長官の辞任の可能性を示唆した。事実であれば、ニッキー・ヘイリー国連大使に続くトランプ政権を揺るがす辞任になる可能性がある。
マティス国防長官は米国の安全保障戦略を安定化させる要である以上に、実はトランプ大統領にとっては容認しがたい政治的なリスクを持った存在だ。トランプはマティスに関して批判を口にすることはほとんどなかった。その理由はマティスの能力を評価していたこともあるだろうが、マティスはトランプにとっては2020年大統領選挙における対抗馬に成り得る存在だから、ということが大きい。
マティスがトランプとの関係で最初に名前が挙がったシチュエーションは、実は2016年4月頃に「トランプの対立候補として」であった。共和党予備選挙で指名獲得が濃厚になっていたトランプに対し、共和党内の反トランプ陣営は第三の候補者を立てる画策をしており、その白羽の矢が立ったのがマティスであった。マティスは2016年大統領選挙でもトランプの対抗馬・独立系候補として大統領選挙本選に出馬した場合、十分に共和党票を分裂させる存在としてみなされていた。
結果としてマティスは出馬を辞退したものの、現在でもトランプにとっては2020年の大統領再選を阻む最も大きな障害となる可能性が捨てきれない存在である。そのため、トランプがマティスを国防長官として政権内部に取り込んでおこうとしてきてたとしても何ら不思議ではない。(そもそも国防長官への抜擢は大統領選挙出馬辞退の論功行賞的側面もある。)したがって、トランプがマティスを正当な理由なく罷免することがあれば、マティスを担いで大統領選挙をやろうとする共和党内の動きは活発化する可能性がある。
マティス自身はネオコンとは若干距離がある人物であり、共和党内で徐々に勢力を回復しつつあるネオコンとの政治的軋轢が生じていることが推量される。中間選挙後に反トランプ派のネオコン勢力が更に力を盛り返してくることを想定した場合、せっかくある程度立て直してきた主に中東方面での安全保障上の責任を持つことの困難性を感じていることだろう。
いずれにせよ、トランプはヘイリーとマティスという政治的ライバルを2名も閣外に放出する政治リスクは非常に高い。マティスの辞任はトランプの再選に向けた黄信号と看做していいだろう。
2018年10月21日
消費増税が必要なくなる簡単な方法
安倍首相が来年10月に消費税を10%に引き上げることを決めたとのこと。
一方、日銀の試算によると、同時に実行する様々な歪なバラマキとの差し引きで事実上の税収効果は2兆円とされている。
壊れた蛇口である日本の官僚機構にとって僅か2兆円程度の追加増税が何の意味もないことは明らかであり、前回の増税時と同様に「本来の使用目的」に後々転用されていくことは想像に難くない。
筆者は2兆円の増税を行う必要性がないと断言できる。そのための財源の筆頭は「地方公務員の人件費」だ。
地方公務員給与総額は20.3兆円である。これを10%カットするだけで消費増税分の税効果がある。
財政難を訴えておきながら自分たちの給与がほとんど横ばいのままいけると思うことがおかしい。地方公務員の給与水準は同地域の大企業の給与に合わせているため、同地域の平均的な所得水準よりも高い状況だ。あまり知られていないが、多くの地方自治体で職員給与総額が住民税総額と同等または上回っているデタラメぶりだ。
たとえば、平成28年度決算カードを見る限り、内閣府が地方創生の成功事例として喧伝している島根県海士町の地方税総額は2億円、人件費は5億円となっている。
これのどこが地方創生の成功事例なのか。親会社からの財政援助を食いつぶす典型的な子会社の放漫経営そのものだ。
真の地域活性化には「地方公務員という経済成長にほとんど貢献しない部門に地域の優秀な人材を集中させる給与構造」が問題であり、地方公務員給与を引き下げて、民間就職と比べて相対的に魅力的でない仕事にしていくことが大事だと思う。
地域が誇る人材を民間部門に投入し、役所ではなく民間から給与を上げていく仕組みがあることで初めて地域は元気が出ることになる。それ以外はソ連が作るようなマヤカシの豊かさがそこにあるだけだからだ。
おそらく国が「地方公務員給与10%カットされたくないなら無駄な事業を地方側からも出してほしい」と伝えた場合、
「まち・ひと・しごと創生事業費」(1兆円)
という総額約1兆円の役人の玩具のような経費がそっくり返ってくることになるだろう。これだけで増税効果の半分の合理化が見込まれる。筆者の所感では、地方自治体の事務事業評価票を見た上で「要らないと思うものを他にも出してください」と言うだけで更に1兆円分くらいの事業費削減はできると思う。
国がやったふりをする事業に付き合うだけなら地方側もやるだろうが、それが地方公務員の懐を痛める可能性があるとなった場合、多くの地方自治体が「要らない」という回答が来ると思う。どうしても地方創生予算が必要だという地域は自ら地方税を造成してもやってみたいかを聞いてほしい。
筆者は地方公務員が嫌いなわけではなくて、入と出が完全に破綻した仕組みを維持しながら、更に国民から税金を搾り取って投入しようとすることに納得性がないということを申し上げたいだけだ。
役所は自分が住んでいる地域の住民に決算カードを見せながら「地方税の大半は自分たちの給与になっているんですが、財政が苦しいので増税しても良いですか?」と言えるものなら言ってみてほしい。国民が財政に無知であることを良いことに「自分たちが創り出した財政難」を危機であるかのように煽ることは罪だろう。
2018年10月20日
RCEP妥結、日本政府のトランプ政権への事実上の宣戦布告となる可能性を考慮したのか
出典www.postwesternworld.com
日本政府は本気でRCEPについて年内に妥結するつもりのようだ。
上記の画像を見てほしいが、①米国抜きでTPPが発効されるとともに、②非RCEP国である米国・カナダ・メキシコがUSMCAを新たに締結、という状況がインド太平洋圏においてトランプ政権によって新たに作り出された環境である。
トランプ政権の貿易政策は事実上対中国圧力をベースとした側面が強い。
USMCAはNAFTAを改組したものであるが、その狙いは米国と他二国の貿易環境の再構築だけでなく、カナダ・メキシコが中国との間で貿易協定を独自で結ぶことを防止することを狙った内容となっている。また、トランプ政権は7月末の米欧首脳会談でも両国の貿易問題では直接関係ない知財侵害などについて事実上中国を批判する声明を行うことに成功している。直近ではペンス副大統領やポンペオ国務長官がインド太平洋地域への巨額の投資・支援を表明したばかりである。
このような環境下で、日本はインド太平洋圏における経済大国として、中国を実質的に中心に据えたRCEPを発効させるために非常に前向きな姿勢を示している。もちろん、日本がRCEPから抜けることは非現実的であり望ましくないことも確かであるが、①日米の貿易交渉が本格的に開始される、②米中の貿易戦争が最低半年程度は激化する、ことが予想されるタイミングで、日本政府が中国に助け船をわざわざ出す行為には疑問を抱かざるを得ない。
もちろんEUも米国を無視して中国との間で巨額の取引を進めることを今年の夏に新たに約束しているが、地理的環境も含めた政治リスクが全く異なる日本がこのタイミングで親中的な対応を行うことは率直に言って悪手だろう。中国政府は「トランプ政権に対抗して自由貿易を守る」ことを公言しているが、まさか日本政府はそんなお題目を本当に真に受けているのかとビックリする状況だ。
これで日本が米国と中国の間でバランスを取った外交をしていると能天気なことを考えているならお笑い種だと思う。
日本の国益は巨大な貿易パートナーである中国の貿易慣行を是正することに決まっている。
トランプ政権はRCEPに加盟する見込みの国々との貿易関係を見直し、幾つかのFTA非締結国についてはFTA交渉を求める方針を打ち出しているが、その目的は中国に有利な国際環境を構築しないようにすることにあるだろう。米国が貿易相手国に対して「国際的なルールを守れない国とは貿易協定を結んではならない」という方向に持っていこうとしていることは明らかだ。
日本が米国の同盟国として行うべき行動は、RCEPに加盟しようとしている国に対して「米国とともに中国に圧力を実質的にかけるため」に日本との貿易ルールの見直しを迫ることだろう。トランプ政権の存在は中国の貿易慣行を是正するための圧力をかける最大のチャンスであり、このタイミングに中国の顔色を窺ってRCEPを推し進めるなど愚策の極みである。
むしろ、米国側は日本がRCEPを推進している姿を「敵対的」と看做して、本来はかかるはずもない自動車関税などを事実上の報復としてかけてくる可能性がある。万が一の事態が起きた時、まさか日本側は中国側に立って米国に対抗するとでも言うのだろうか。今、この政治リスクを取ることの意味が理解できない。
日本政府は前身となる構想も含めて10年以上RCEPを検討してきて既に惰性に陥っているために、この最悪の瞬間に交渉が妥結することの意味を理解しているとは思えない。他の貿易協定のように交渉にあたってきた官僚機構の惰性で進めて良い問題ではなく、政治家は目の前に生じつつある世界の対立構造を見極めた判断を行うべきだろう。
2018年10月19日
カバノー最高裁判事誕生が「トランプ再選」に直結する理由
(写真はAP通信から引用)
ブレット・カバノー氏の最高裁判事承認手続きが米国上院で50対48で通過した。
本件を巡って同氏の高校時代の性的暴行疑惑が浮上したことで、9月末の承認が10月頭にまで延期される事態となっていた。そのため、今回の採決はFBIによる追加調査結果を待つ形で10月7日に連邦上院で行われたものである。
カバノー最高裁判事誕生は2020年の「トランプ再選」に直結している重要な出来事である。今回の承認人事は中道派のケネディ判事の退任に伴うものであり、保守派と看做されるカバノーが選ばれることで最高裁判事構成は保守派5対リベラル派4と大きく保守寄りに傾く。その結果は民主党側は自らの支持母体である公務員労組を弱体化させる「ある判決」を覆すことが事実上不可能になったことを意味する。
昨年スカリア判事の死去に伴うポストにニール・ゴーサッチ判事が補充されたことで、最高裁の構成は保守派5(中道派1)対リベラル派4という状況に既になっていた。この最高裁判事の構成が露骨に影響した同判決が2018年6月末に出ている。
その判決とは「公務員労組に入っていない公務員から組合費を徴収することを違憲とする」判決である。これはカリフォルニア州の教員が「非加盟員から組合費を徴収すること」に疑義を呈した訴えに対する判決であり、1977年の最高裁判決から認められてきた組合費の徴収方式をひっくり返すものであった。非加盟員から徴収した組合費は政治目的に使用できないことになっていたが、実質的に政治目的に使用されていることを問題視したものである。
米国においては公務員労組の組織率が民間労組の組織率を遥かに上回っており、民主党の選挙運動の支持母体として公務員労組は中心的役割を担っている。したがって、公務員労組の資金力が弱体化することは中長期的な民主党の党勢衰退に直結することになる。2018年の中間選挙に同判決が影響を与えるためには時間が不足しているが、2年後の大統領選挙までには公務員労組の衰退は決定的な状況になることが想定される。
民主党がなりふり構わずカバノー最高裁判事の承認に抵抗した理由は、最高裁判事の構成が保守派に一層傾くことで民主党側が同判決を覆すチャンスがゼロになることが背景にあった。米国の最高裁人事は日本と比べて政治的要素が極めて強く、表面的なイザコザだけでなくもう一段深いところまで踏み込んで分析する必要がある。
今回のカバノー判事誕生は米国の歴史に残るものになるだろう。
2018年10月18日
10月31日(水)19時『トランプ再選のシナリオ』出版記念講演会@八重洲ブックセンター
渡瀬裕哉氏は、トランプ大統領の言動の分析の正確さから、国内外30社以上のファンドの支持を得るアナリスト。中間選挙目前の本イベントで、トランプ劇場のこれからと、日本への影響について独自予測します。
<日時>
2018年10月31日 (水) 19:00~(開場時間18:30)
<会場>
八重洲ブックセンター本店 8F ギャラリー
<申込方法>
1階カウンターで参加対象書籍をお買い求めの方に、参加券をお渡しいたします。
(参加券1枚につき、お1人のご入場とさせていただきます。)
また、お電話によるお申込みも承ります。(電話番号:03-3281-8201)
電話予約の方もご購入+参加券お渡し後のご入場となります。当日開場時間までにお求めください。
開演1時間前からは8階カウンターで受付いたします。
<▼参加対象書籍:『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社刊、本体価格1,500円)>
※八重洲ブックカードゴールド会員の方は、ご予約のみでご参加いただけます。会場入口でカードをご提示ください。
主催
主催:八重洲ブックセンター 協賛:産学社
*会場には来れないけれども書籍に興味がある形は下記バナーをポチっと!>
2018年10月17日
「トランプ国連演説に失笑」と報じるメディアに冷笑を浴びせたい
先週行われたトランプ大統領の国連演説の自画自賛の部分で「失笑」が起きた、とメディアが報じた。