2017年04月
2017年04月08日
日経新聞・秋田浩之氏の「トランプ論」はデタラメ
(国連安保理緊急会合でシリアで化学兵器の犠牲になった子どもの写真を掲げるニッキー・ヘイリー米国連大使)*ニューズウィークから写真引用
日経新聞のトランプ政権論評のデタラメぶりが際立つ
シリア攻撃、処方箋なき劇薬 コメンテーター 秋田浩之
という日経新聞の記事が掲載されました。この内容があまりにも事実誤認に基づくデタラメであるため、日経新聞のクオリティーペーパーとしての信頼性が揺らぐのではなかと驚きました。
しかし、秋田氏の名前を見て納得、以前にトランプが極右 !? 日経新聞へのエール(笑)でも書いたように、現地取材もろくにせずに伝聞と想像だけでトランプと共和党保守派をディスる文章を書いているのだから仕方がないかと思います。
話にならない事実無視、そして取材不足の論評
今回のシリア空軍基地へのトマホークによる攻撃について、同記事中では
<秋田>
こんな体制で強行された今回の攻撃は、長期の中東戦略を描き、満を持した末の行動のようにはみえない。
<事実>
⇒トランプ大統領は1月27日に軍備の即応体制を整備するように大統領覚書を発し、その翌日にはシリアとイラクのISISを一掃する大統領覚書にもサインしています。その結果としてマティス国防大臣から1か月後に中東における軍事計画がトランプ大統領に提出されており、イラクとシリアへの地上軍の派兵が小規模ながら進みつつあります。
⇒また、ダンフォード統合参謀本部議長とゲラシモフ参謀総長(ロシア)はアゼルバイジャンで事前に接触し、軍事機関同士のホットラインもできています。今回、米軍はロシア軍に対して事前に連絡していたのもこのためです。
⇒当然ですが、トマホークを積んだ艦船を思い付きで中東に配備しているわけでもなければ、何の計画もなくシリア空軍基地を攻撃することは有り得ません。
<秋田>
それでも、今回の行動は性急すぎると言わざるを得ない。正当な攻撃であることを証明するための事前の努力が、あまりにも足りないからだ。シリアが化学兵器を使ったのなら、国際法違反であり、人道的にも許されない。ならば、国連安全保障理事会に証拠を示し、少なくとも議論を交わすべきだった。
<事実>
⇒シリアでは2013年にアサド政権が化学兵器を使用しており、当時もオバマ大統領がレッドラインを越えたら軍事介入すると明言(しかし、ほぼ何もしなかった。)
⇒国連と化学兵器禁止機関(OPCW)の調査で、シリア軍が2014年と2015年に3度、化学兵器を使用していることは明らかになっている。(BBC)
⇒2011年のシリア内線勃発以来、国連における非難決議は7回。(ロシア・中国が拒否権発動)直近は今年の2月28日。⇒ニッキー・ヘイリー国連大使は国連安保理でサリンで倒れた子どもの写真を掲げて演説し、米英仏は化学兵器使用を批判し、真相究明に向けた調査に関する決議案を提出。(少なくとも議論は行われている。アサドを守るロシアが聞く耳を持たないのは前提)
<秋田>
この攻撃はさまざまな副作用も生みそうだ。まず考えられるのが、中ロによる一層の接近だ。両国には根深い不信感が横たわるが、米国に対抗するため、静かに枢軸を強めるだろう。
<事実>
⇒中国報道官が「冷静さと抑制した対応を維持し、情勢をさらに緊張させないよう求める」と述べ、シリアで猛毒のサリンとみられる化学兵器が使用されたとみられる空爆については「厳しく非難する」と述べ、 真相解明に向けて国連機関による独立した調査が必要だとの考えを示した。(産経新聞)
⇒ロシアは化学兵器は反体制派が保有していたものであり、空爆の際にそれが飛散したものとしているため、中ロの立場は異なるものとなっています。米中首脳会談に被せたこともあり、中国の反応は極めて抑制的です。(ロイター)
<秋田>
こうした問題を精査し、トランプ氏に進言できる側近は少ない。ティラーソン国務長官や、最側近の娘婿であるクシュナー上級顧問はビジネス界出身だ。2人を知る元米高官は「実務や交渉力は優れているが、外交経験はない。危機への対応力は未知数」と語る。
<事実>
⇒本件はマティス国防長官とマクマスターNSC議長主導のものであり、両氏ともに中東政策を専門とする戦略家です。また、キャスリーン・マクファーランド副補佐官も中東に強く、NSCに復帰したCIA長官のマイク・ポンぺオも中東問題に熱心な下院議員でした。
⇒ティラーソンやクシュナーは中東政策について一定の影響力はあるものの、この問題を精査し、トランプに進言できる側近が2名しかいない、というのは、トランプ政権に対してあまりに無知。
・・・とまさに、事実誤認と取材不足のオンパレード。中学生の文章かと思いました。
日本経済新聞は「偉い人」が書いたからといって駄文を掲載するな
日本経済新聞は「自社の偉い人」が書いた文章だからといって無批判に記事を掲載することは慎むべきです。少なくともジャーナリズムを名乗るのであれば、最低限思い込みではなくファクトベースで語る習慣を身に付けてほしいと思います。
日本のメディアも「トランプ政権」が誕生したことを受け入れて、リベラルの狼狽という醜態をさらし続けることをそろそろ恥ずかしい事だと認識するべきです。
日経新聞内にも当然事実について気が付いている人も多数おり、駄文を掲載することを読者に申し訳ないと思っている記者・編集者もいるはずです。しかし、筆者は自社の偉い人にすら抗議できないジャーナリストがジャーナリズムを守れるとは思いません。是非ジャーナリストとしての矜持を取り戻してほしいと思います。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2017年04月06日
バノンが「トランプの黒幕」ではないのは当たり前だ
(ひぐらしのなく頃に、から引用)
スティーブ・バノンは重要人物だが「黒幕」と呼べるほどの存在ではない
トランプ大統領誕生以来、新設の首席戦略官というポストに就任したスティーブ・バノンは「トランプの黒幕」と表現されてきました。バノンの存在は米国共和党のことを良く知らない「ど素人」の有識者らには格好のネタだったのだと思います。
筆者はバノンについては「トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置」でも指摘してきた通り、「バノンのトランプ政権内での立ち位置は共和党内の派閥争いの微妙な均衡の上に成り立つ砂上の楼閣」として評価してきました。
今回NSC常席からバノンが外されたことについてトランプ政権は理由をつけて大したことがないように表現していますが、同政権内での力関係に変化が生じつつあることは明らかです。
トランプの黒幕は「トランプ政権を作った共和党保守派」の人々である
3月31日発刊した拙著は「トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体」(祥伝社)というタイトルで、全国の書店に置いていただいています。もちろんバノン単体をトランプの黒幕だと断定する内容ではありません。
しかし、正直言って、「バノン」や「クシュナー」、挙句の果てには「イヴァンカ」がトランプの黒幕であるというトンデモ解説が溢れており、Googleで「トランプの黒幕」のワードを検索するとロクな分析が出てこない有り様です。
トランプ政権を作った原動力であり、現在も同政権を支えている人々は「共和党保守派の人々」です。小さな政府などの保守的な価値観、建国の理念を信じる人々の集団、そのリーダーたちがトランプ政権を支えています。
その多くはレーガン政権時代から続く保守派の流れの中で育ってきたプロフェッショナルです。彼らは黒幕というよりも本来は「黒子」という表現が正しいかもしれないと思っています。
バノンはマーサー(メルセル)財団という新興のパトロンを背景とした保守派内の新参勢力に過ぎず、トランプを支える保守派の中では明らかに浮いた存在です。実際に共和党保守派の重鎮らに会って話を聞けばバノンとの距離が離れていることは直ぐに分かることであり、彼をトランプをコントロールする黒幕として過大評価してきた有識者らは共和党のことを何も知らない人たちです。
選挙戦の経緯からトランプ政権にマーサーの意向が強く反映する傾向はあるものの、現在ではバノンは局的な下手を打ち過ぎたことから影響力の低下が起きていることは明らかでしょう。
ライアンケアの先送り後、急速に議会対策を綿密に行うようになったトランプ政権
ライアンケア(オバマケア代替法案)の先送り後、トランプ政権は議会対策・政局対策の面で極めて巧みな動きを見せるようになってきています。
切り崩し可能な様々な議連に接触したり、法案に反対しそうな個別の議員の説得に応じたり、保守派の重要人物らの囲い込みに走ったり、と今までにない積極的な対応を行うようになってきました。
ワシントン政治への対応力の急速な向上は、政権発足以来政局を担ってきたバノンから共和党の生え抜きの人々に議会対策・政局対策の主導権が移ったことを示唆しています。
また、バノンはテロリスト渡航防止法対象国からの入国禁止大統領令の積極的な推進者であり、彼のスタッフであるセバスチャン・ゴルカはグローバル・ジハード論者です。
この観点から保守派内のリバタリアン陣営(≒フリーダムコーカス)を率いる大富豪のコーク兄弟と対立してきましたが、バノンがNSC常任から外れることはコーク兄弟に対してトランプが議会対策の観点も踏まえて一定の恭順の意を示したものと捉えるべきでしょう。
ちなみに、バノンが外れるとともに、コーツ国家情報長官、ダンフォード統合参謀本部議長、常任に復帰、エネルギー長官、中央情報局長官、国連大使が追加されたところを見ると、これは5月19日のイラン大統領選で反米強硬派が勝利する可能性をを踏まえた布陣を敷いたと見るべきです。
トランプ政権を偏見や陰謀論で語る「小説」ではなく「分析・考察」が必要だ
現在、トランプ政権が発足してから随分と時が経った状況となっています。それにも関わらず、書店のトランプ本コーナーには相変わらず、国内の有識者の人々による偏見や陰謀論まがいの書籍が大量に並んだままです。
筆者は「バノン、クシュナー、イヴァンカなどがトランプの黒幕だ!」というトンデモ話をそろそろやめるべきだと確信しています。それらは小説的な読み物としては面白いかもしれませんが、トランプ政権を真剣に理解しようと思っている人には害悪でしかありません。
我々日本人もトランプ政権に対して真面目に「分析」と「考察」を行っていく段階となっています。
*下記の拙著をご覧いただければ米国で何が起きているのか、は論理的に分かります。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2017年04月05日
元かがやけTokyo都議は「都民ファースト」から離党すべき
<TBSから引用>
連合東京と政策合意なら、元かがやけTokyo都議は「都民ファースト」から離党すべきだ
「7月都議選、都民ファーストの会と連合東京が政策合意」という報道がありました。
連合東京には当然ですが、 東京都の職員組合も所属しています。したがって、職員給与に関しては基本的に守るor増やす方向であることは間違いなく、事業の民間委託や民営化にも反対であることは明白です。
一方、元々小池百合子東京都知事を知事選挙で応援した「かがやけTokyo」の議員たちは、旧みんなの党のメンバーであり、職員給与の引き上げについては反対姿勢を取るとともに、都事業の民間委託などに前向きな姿勢を見せていたものと記憶しています。
彼らの元所属政党である「みんなの党」は2013年都議会議員選挙時に「東京アジェンダ」を発表し、その中で「公務員の総人件費20%カット」を謳っていましたので、このような政治姿勢の転換はほぼ180度真逆の方向に舵を切ったと言って過言ではありません。
したがって、仮に都民ファーストの代表が小池知事の野田特別秘書であったとしても、現在の都議会所属議員には連合東京との政策協定を結ぶことには責任があります。連合東京から支援を受けた都議候補者が自党から立候補することを黙認することは2013年の都議選挙の公約への事実上の裏切りでしょう。それとも、既に党名も内容も違う、または連合東京と一緒になっても公約は守れると嘯くつもりでしょうか?
元かがやけTokyoの都議会議員が「都民との公約」をまともに守るつもりがあるなら、「都民ファースト」から離党するか、連合東京との政策協定を撤回するように働きかけるべきです。
政治家なのか、政治屋なのか、それが問題だ
自分達が推薦した都知事が連合東京と組むからといって自らの政治スタンスを180度転換する議員は、政治家ではなく政治屋でしかありません。地方議会は小池知事の私塾である希望の塾の都議選候補者選抜試験にもあったように「二元代表制」であるため、小池知事の方針に従って自党が連合東京と組む必要はありません。現在の都民ファーストの都議会議員らはこの事態を容認したのでしょうか。
連合東京と政策協定を結ぶと言うならば、みんなの党⇒維新の党⇒民進党、と所属政党を変えてきた、旧みんなの党の都議会議員らと何も変わりません。自分達が受かりたいだけの都議会議員なら既に十分足りてますから、政策方針を転換するなら次の選挙に出馬するべきではありません。有権者にとっては改革派を僭称する勢力が存在することは紛らわしいだけで迷惑です。
明確に申し上げておきますが、ここで黙って都民ファーストに残って政策協定を追認するようであれば、それは「政治屋」です。元かがやけTokyoに所属していた都議会議員は、政治家なのか、政治屋なのか、それが問題なのです。現在の政治的な党派性をとるのか、前回の選挙で自分を都議会に送ってくれた有権者を信頼するのか、どちらを選ぶべきなのかが問われています。
ちなみに、筆者はかがやけTokyoの人々は都民ファーストを離党したほうが良いと考えています。なぜなら、筋が悪い公営市場移転問題に政局的に振り回されることなく、本来政策的に必要なことを有権者に訴えられるようになるからです。
元かがやけTokyoの都議会議員のTwitterアカウント
下記が元かがやけTokyoの都議会議員のTwitterアカウントです。おかしいと思う人はこちらに意見投稿を行って、彼らに都民ファーストからの離党または連合東京の政策協定の撤回を要望してください。これは彼らに期待した都民への明白な裏切りであり、彼らに政治家としての志があるなら筋を通させるべきです。
音喜多駿 https://twitter.com/otokita
上田令子 https://twitter.com/uedareiko
もろずみみのる https://twitter.com/morozumi_m
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
トランプの対中国政策(2)対中政策人事の二面性
<最新著作「トランプの黒幕」はアマゾン品切れの場合、お近くの書店または紀伊國屋ウェブストアでお求めください。>
トランプ政権の対中国人事は「揺さぶり」と「妥協」の二面性
トランプ政権の対中国人事は、通商面・外交面で「揺さぶり」を担当する対中強硬派、そして「妥協」を担当する対中融和派に分かれています。トランプ政権の対中政策は、これらの人事に明確に反映されており、同政権のおおよその意図を推測することが可能となります。
トランプ政権の「東アジア政策」は通商・貿易、そして地域の安定性確保を目的とする
トランプ政権の東アジア政策、特に対中人事の特徴は通商関連の人事に偏向しています。そして、対中強硬派とみなされる人々も軍人ではなく、あくまでも外交政策の専門家が配置されています。
これは現実に軍事力の行使(地上軍の派兵)が始まりつつある中東方面に対し、同政権が安全保障関連の軍人・専門家を任命している状況とは明確に異なります。
一部には米中衝突を煽る論説がありますが、それはトランプ政権の面子を見る限りでは直ぐには有り得ません。また、北朝鮮への武力行使の可能性も過大評価するべきではなく、あくまでも中国に交渉を通じて対処を促すことを念頭に置いているものと推測されます。(ただし、北朝鮮側が中国の言うことを聞くかどうかは定かではありません。)
トランプ政権は中東方面での軍事力行使を行う一方、東アジアでは中国の地域大国化を事実上容認(北朝鮮への対応含む)しながら、安全保障面でのプレッシャーと通商面での交渉を両立させていく形になるものと予測されます。
対中国強硬派による「揺さぶり」、通商問題の専門家を配置、狙いは2018年中間選挙
トランプ政権は貿易赤字などの通商問題で中国に対して強硬な姿勢を取っています。特に中国との通商問題を安全保障とリンクさせて語るピーター・ナヴァロ国会通商会議議長は目立つ存在です。
ピータ・ナヴァロ議長の共和党のメインストリームである自由貿易から距離がある政治スタンスは、大統領選挙のプロセスでトランプが共和党内のリバタリアン勢力と揉めて同勢力の影響力が落ちていること、グローバリゼーション推進派の主流派の力が落ちていることなども影響しています。
その他の閣僚級の対中強硬派人事として、ウィルバー・ロス商務長官、ロバート・ライトハイザー通商代表なども挙げることが出来るでしょう。これらの人々は中国への市場開放論者であるとともに、主に中国を対象とした二国間の不公正貿易に対する厳しい姿勢を取っている人々です。
2018年の中間選挙の上院が製造業州が多いことを踏まえた場合、中国に対する通商問題に対する姿勢で強気の立場を選挙対策としても非常に良く機能することになるでしょう。
また、国家安全保障会議にも2名の対中強硬派が存在しています。
ケネス・ジャスター国際経済問題担当補佐官はその表面的な経歴からグローバリストや穏健派として語られていますが、実際には対中国強硬派です。ジャスターは第一次ブッシュ政権時代商務省次官(産業安全保障局担当)、米印戦略的パートナーシップ構想の設計者(ハイテク協力、原子力協定等推進)、対中輸出規制強化を標榜している人物です。
マット・ポッティンジャーアジア担当上級部長は、在中国時代に腐敗や環境問題を記者として追及して拘束された経験を持つ人物であり、その後海兵隊に入ってインテリジェンスの立て直しをマイケル・フリンとともにレポートにまとめた経験を持つ人物です。
さらに、政権外ではあるものの、トランプ政権を支えるシンクタンクであるヘリテージ財団は、親台湾派であり、THAADなどのミサイルディフェンスに対して積極的に取り組む傾向があります。トランプと祭英文の電話会談を仲介したシンクタンクであり、韓国へのTHAAD配置の意義について詳細なレポートを公表しています。
これらの人々は中国に直接的な軍事行動を起こすための布陣ではなく、あくまでも中国に対してプレッシャーをかけるための材料を提供する存在として機能していくことになります。
「妥協」を担当する習近平への権力集約を見越した親中派
トランプ政権では表向きは対中強硬派を揃えている形となっていますが、実際には中国との関係が深い人々も配置されています。
トランプを取り囲む経済人の会議である大統領政策戦略フォーラムのスティーブン・シュワルツマン議長はその筆頭格と言えるでしょう。
シュワルツマンは習近平国家主席と非常に懇意であり、彼の出身大学である精華大学に多額の寄付を実施して自らの名前を冠する学院を発足させています。この際、習近平からも直々の祝辞が届いています。また、今年のダボス会議では習近平とランチミ―ティングを実施するなど、トランプの取り巻きの経済人のトップではあるものの、習近平・シュワルツマンの両者の蜜月ぶりは顕著です。
トランプが大統領選勝利早々に駐中国大使に任命したテリー・ブラウンスタッド・アイオワ州知事も習近平人脈です。ブラウンスタッドは習近平が訪米する度に接触するほど関係値が高く、両者は30年間の友好関係を持つ朋友です。習近平に権力集約が進む中で国家主席直結ルートの外交チャネルとして機能することになります。
トランプ一族も中国とは懇意な関係にあります。ジャレド・クシュナー大統領上級顧問は、中国の財閥とのビジネス関係を有しており、トランプ・祭英文の電話会談後の後処理に奔走する役割を担いました。本業の不動産業ではジャック・マーとの繋がりも有しており、トランプ・馬会談のお膳立てを行った人物です。また、実娘にはチャイナ服を着せて中国語の詩文を読ませるなど、一族ぐるみで中国への配慮を行う広報としての機能を果たしています。
ティラーソン国務長官は長官就任の際に行われる上院公聴会向けに公表した文書の中で、中国に対する問題意識を冒頭に掲げていた人物です。その内容は中国の振る舞いを脅威としつつも、中国を粘り強く交渉をしていく相手として強く認識しているものでした。また、同文書には北朝鮮問題については中国に積極的な役割を果たすことを促す論旨も含まれていました。ビジネスマンとして極めて妥当な現状認識だったと思います。
つまり、前述の閣僚級の対中強硬派とは裏腹に、大統領の意向で動く側近らは習近平や中国財界との関係を有しており、強気の交渉を裏側でいつでも手打ちを行う二重外交のための要員は揃っていることになります。
連邦議会内・共和党上院・下院の対中国政策のキーパーソン
中国に対する反中・親中の姿勢は連邦議会・共和党の内部で二重外交にあります。
共和党内で最も反中姿勢が強い連邦議員は、ダナ・ローラバッカー下院議員です。同氏はカリフォルニア州選出の下院議員であり、連邦下院外交委員会の重鎮です。トランプ政権の国務長官候補として有力な人物として名前が挙がっていた人物です。中国の人権問題について非常に強硬な姿勢を持っており、下院での中国政府の法輪功に関する人権弾圧に関する非難決議を取りまとめた経緯があります。
また、共和党内では少数派の親ロシア派としても知られており、日米露の三国による対中政策を取るべきであるという持論を有しています。そのため、トランプ政権とは極めて政策的な方向性が近いと言えるでしょう。
一方、連邦議会・共和党内で親中派として知られる人物は、ミッチ・マコーネル上院院内総務です。同氏の妻は台湾系のエレーン・チャオ(現・運輸長官)であり、東アジア地域とは深い人間関係を有しています。
チャオ一族は江沢民国家出席と一族ぐるみで仲が良く、マコーネルも現在では親中的な姿勢を取るようになっています。米国における大学での講演会で駐米中国大使と同席した際、同大使が米国による中国の法輪功に対する弾圧への批判への反論を試みた際、マコーネルはそれを黙認したまま聞いていたエピソードが有名です。
共和党は民主党と比べて親日であるかのように語られますが、それらは共和党関係の外交関係者によって日本人の国会議員や有識者が思い込まされている幻想にすぎません。現実には共和党内での対中・対日政策は振れ幅が非常に大きい状況だと言えるでしょう。
政策とは「人事」のことであり、対中政策人事の微妙な変化を観察することが大事
政策は「人」によって実行されていきます。したがって、トランプ政権の対中政策の方向性を知りたければ「人事」を見ることが大事なのです。
東アジアに精通した軍人が主要なポストに配置されていない現状では、少なくとも米国側から仕掛ける米中衝突論は非現実な想定に過ぎず、米中という二大大国の間で我々が議論するべきことは、エキセントリックな煽情論ではなく現実を踏まえた生き残りのための施策です。
次回の更新記事ではトランプ大統領当選以来の米中間でのやり取りを概観し、今後の米中関係についての分析を加えていきます。
<最新著作「トランプの黒幕」はアマゾン品切れの場合、お近くの書店または紀伊國屋ウェブストアでお求めください。>
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2017年04月04日
「トランプの黒幕」アマゾンでの書評で☆5つを頂きました。
(Amazonでの購入はこちらをClick!)
(紀伊國屋での購入はこちらをClick!*アマゾンは品切れぎみのため)
アマゾンレビューで☆5つ頂戴しました。4月1日に発刊した「トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体」ですが、レビュワーの皆様から☆5を頂き続けております。感謝です!
そこで、現在まで頂いておりますレビュワーをご紹介したいと思います。
<1人目>
・トランプ大統領はなぜ当選できたのか。納得のいく論理的でまとまった説明に、はじめて出会いました。
・トランプ大統領が云々以前に、日本のメディアにはそもそも、共和党の価値観や考え方を理解しようとする以前に、拒絶したり、嘲笑ったりするようなトーンが目につきます。
・それに対して本書は、日本からは注目されない、けれど実はアメリカ政治を動かす重要な力を持っている共和党の保守派の見方から、トランプ政権を分析しています。本書を読むと、日本の報道のどこが、どこから、なぜズレているのか、根本の部分に戻って理解できます。
・また、現在のアメリカ政治全体を見ようとする上での論点が網羅されており、入門書としても価値があります。
<2人目>
・政権内にも議会内にも共和党保守派の名だたる人物たちが存在し紹介もされていますが、その正体は、建国の理念である「自由」を守ろうとする愛国心にあふれた普通の市民です。
・トランプとは相いれない部分もありましたが、これ以上、民主党(クリントン)のような、インテリぶったエスタブリッシュメントにアメリカを任せておけないと譲歩してトランプを支持する事で、政権内での発言力やポストを手に入れ、トランプに協力しつつ保守主義に基づいた政治の実現を目指そうとしています。
・「最も名誉なことは一有権者であることだ」という言葉を思い出さずにはいられません。ティーパーティーや全米税制改革協会のような各種の団体の力もありましたが、それを作り上げたのは普通の市民だと思います。低学歴の低所得というレッテル貼りやカテゴライズこそ、差別や偏見ではないでしょうか?
<3人目>
・第4章P172トランプ政権の二重外交の可能性について、分かりやすく解説していて興味深い。
そもそも外交の本質は、国益のためならあらゆる努力を惜しまないことであるからして、二重だろうが三重だろうがありなのである。
・たとえばトランプの娘イヴァンカさんは、彼女の幼い娘がピコ太郎体操をする動画を投稿して親日ぶりを示したが、一方その幼い娘に中国服を着せ中国の詩歌を歌わせている。イヴァンカさんのアパレルブランドの工場は中国にあるし、彼女の夫は中国とはビジネス上、切っても切れないほど深いつながりがある。このあたりは、なかなか面白い。もちろん、ここはトランプ政権自体の台湾への姿勢と対中政策についての分析がテーマだ。
・冷徹な米国の本質がわかり、日本はトランプ政権に甘い期待など持ってはいられないことが痛感された。
・本書で印象に残ったのは、共和党内部の主流派と保守派の違いである。共和党の主流とは言えないトランプが、どうやって共和党主流派を納得させて舵取りをしてゆこうとしているかという部分が興味深い。トランプ政権は、ナヴァロ、ロス、バノンなどの対中強硬派をそろえ、通商問題で中国に強い態度を示すことで2018年の中間選挙の勝利をめざす。イデオロギー、安全保障面で中国に「揺さぶり」をかけることで、共和党保守派と同盟国を満足させ、出来れば中国から一定の譲歩を得ることで「妥協点」を見出そうとしているとのこと。そこから、共和党全体を何とか納めて大統領としての足場を築きたいというところだろう。
・著者は、現実を伝えないヒステリックなマスゴミを批判、また「米中戦争」のような非現実的な仮定をたてるのではなく、冷静にトランプ政権の人事、行動、環境を見据え分析し、楽観を許さない現状を読み解いている。
・米国の共和党保守派との関係が濃密な著者ならではの一冊!是非ご一読ください。
<4人目>
・二重というのは、民主党から共和党へそして共和党主流派から共和党保守派(草の根団体)へという意味である。
・トランプ大統領とは、共和党保守派が押し上げたものである。「白人低所得者層の不満」、「ポピュリズム」ではない。「隠れトランプ」などは、予測を誤ったメディアのお粗末な言い訳に過ぎない。
・さて、共和党保守派とは一体何ものであろうか。日本に入って来る情報は、彼らを蔑視するアメリカリベラル学者の言説であり、日本の学者はその受け売りをするのである。翻訳学者のレベルである。
マスコミにしてもアメリカのリベラルメディアのそれを垂れ流すのみである。
・これらの状況は、トランプ政権誕生後も変わっていない。何故、誤ったのかの検証をしせず、それに対して知らんぷりしているからである。このままでは、日米関係に致命的ミスを犯す可能性がある。
・トランプ大統領は、大統領令・覚書により法の厳格な適用・規制緩和・政府関与の縮小・許認可のスピードアップ・テロリスト対策等々を粛々として実行中である。その政策の本質は「行政国家」の解体である。それは、通常の独裁者であれば自殺行為である。
・著者は、日本国内で数えきれない選挙に関わったプロであった。早くから、トランプ当選を予測し適中した。選挙分析を正しく解釈したのであった。知性の自主性である。
・全米保守連合がワシントンに於いて毎年開催する年次総会がある。著者は、毎年参加していて知人も多い。「保守とは何か」、「何が解決すべき課題か」を三日間に亘り論議するのである。政治家の発掘・養成・政治手法の機会も用意されている。日本の保守もこういったシステムを参考にすべきではないのか。
・日本のメディアは、ごく一部を除き無関心であるが何故、誤ったのかの検証をせずに参加してもステレオタイプな結論となるのは目に見えている。外務省も完全に予想を外し茫然とした状態であった。
救いは、政治家の動物的勘による安倍総理の行動であった。今回は、成功したがこれは、危ない。
3月27日、橋下さんはワシントンの戦力国際研究所で講演した。司会者は、マイケル・グリーンであった。トランプ政権は、従来のカウンターパートの大半を放逐中であるそうである。果して、吉か凶か。
<5人目>
日本のテレビ、新聞では分からない事が満載でビックリした本でした!本当の事を知るにはやはり本だなと改めて思いました。
<6人目>
・著者のブログの読者であり、他の有識者・知識人・専門家とされている方達との見解の違いに関心を持っていました。今回初めてのメジャー出版物となる様ですが、今後も多数出版をされていく存在になられることでしょう。
・くれぐれも物書きにとどまらず、確かな取材・分析・検証の上、共和党保守派の流れを日本の政治にも持ち込んでいただきたいと考えます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<筆者>
読者の皆様の期待に応えてこれからも頑張ります!
2017年04月02日
トランプの対中国政策(1)「揺さぶり」と「妥協」
(AP)
トランプ政権の対中国政策は「揺さぶり」と「妥協」
トランプ政権の東アジア政策、特に中国に対する政策について憶測が飛び交っています。そして、日本の有識者からはトランプ政権は対中強硬派であるとする見解も散見されます。
しかし、これらについては部分的には当たっているものの、トランプ政権の人事や行動を冷静に分析する限りは同政権を中国強硬派と断定するのは早計です。
トランプ政権は中国というプレーヤーに対して「揺さぶり」と「妥協」という交渉を行っています。
「揺さぶり」とは中国の国益に反する言動、そして「妥協」とは「揺さぶり」を引っ込めることへの対価を得ることを指します。
ただし、この「揺さぶり」は、中国からの譲歩、または日本・韓国・台湾などの米国の対中政策の変数として扱われる国々からの協力を引き出すための道具に過ぎません。実際には、「揺さぶり」は米中間での妥協、東アジア諸国からの協力、を引き出した後には一定の「妥協」による手打ちが行われてきています。
そして、この「揺さぶり」は共和党保守派の意向、「妥協」は共和党主流派の意向、という対応関係が存在しており、トランプ政権の対中政策は両派の国内政局の綱引きからの影響を受けることにもなります。したがって、トランプ政権の対中国政策を理解するためには、米国の国内政治情勢、その力関係を踏まえなくては片手落ちの状態となります。
日本人識者らは表面的な「揺さぶり」だけに注目し、徒にトランプ政権の対中政策を日本国民にミスリードしている人が多数存在しています。しかし、これらは米中関係・米国国内関係に関して理解できていない人々であり、基本的に話を真面目に聞くだけ野暮です。
そこで、本ブログでは、上記の観点を踏まえながら今後複数回に渡ってトランプ政権の対中国政策を分析し、その見通しについて予測を行っていきます。
トランプ政権の対中国政策に関する現実的な視座を持つべき
本分析はトランプ政権の対中国政策を、人事、行動、環境、の3点から解説していきます。具体論に入っていく前に、トランプ政権の対中国政策の基本的な理解について概要を整理しておきたいと思います。
筆者は米中戦争のような非現実な仮定を喧伝し、書籍の売上部数を稼ごうとする輩には嫌悪感を持っています。また、トランプ政権が無能であるという非現実な仮定についても賛同しません。
トランプ政権は「主に通商問題で有利な立場を構築するためにイデオロギーや安全保障を絡めた交渉事を行う」可能性が高い、という分析が筆者の結論です。
これは実際に配置されているトランプ政権の人事、大統領選挙から現在までの行動、そして中間選挙を見据えた米国国内の政局状況などを踏まえれば妥当なものだと思います。トランプ政権の対中国政策派国内政局の影響を受けるため、若干のブレはありますが概ね間違いないものと思います。
米国の保守派はイデオロギー的な自由主義の拡張を望んでおり、トランプ政権における外交政策においても一定のパワーを有しています。トランプは共和党内のこれらの支持基盤に配慮する必要があります。また、中国の拡張主義に対して安全保障上の懸念を示すことも必要であり、マティスをはじめとした同盟国との関係を重視する職業軍人らからの支持を得ることも重要です。
さらに、選挙の観点に立つのであれば、中国に強い態度を示すことで国内の選挙面での得点を稼ぐことを目指すことになります。こちらはナヴァロやロス、そしてバノンが志向している方向性になりますが、これは2018年の中間選挙での勝利を手にするためのデモンストレーションに過ぎないと思われます。その上で、輸出補助金問題などで中国側からの一定の譲歩を引き出すことができれば大きなポイント獲得となります。
しかし、現実には米中関係は経済面・金融面で非常に深い関係となっており、相互依存は切っても切れない状況となっています。また、中東方面などの地球上の別地域での安全保障上の課題を抱える米国は東アジアに新たな戦略正面を抱えることは困難であり、北朝鮮問題について中国の積極的な役割を求めています。これらの事象は共和党内での主流派からのトランプ政権へのプレッシャーとして働くことでしょう。
したがって、トランプ政権は中国に対して、イデオロギー・安保面での「揺さぶり」をかけることで保守派・同盟国を満足させるとともに、通商問題での強硬姿勢を示すことで選挙上の成果を上げた上で、更に中国から一定の譲歩を得ることで同国との妥協を模索する主流派を納得させる、という高度な外交戦略を実践に移すことになるでしょう。(それが成功するか否かは不透明だと言えます。)
明日以降、具体的なファクトベースでトランプ政権の対中国政権の方向性を検証していきます。
トランプの対中国政策(2)対中政策人事の二面性 に続く。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。