2016年12月

2016年12月13日

トランプ外交の「算盤勘定」への正しい対処法

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(国務長官に指名濃厚・レックス・ティラーソン・エクソンモービルCEO)

祭英文・中華民国総統との電話会談は何を意味するのか

12月2日、「トランプ次期大統領が台湾の祭英文氏と電話会談を行った」とTweetしたニュースは東アジアに激震をもたらしました。米国と中国が所与のものと看做していた「一つの中国」の原則を覆すものであり、米国内の保守派だけでなく日本の保守派からも喝采の声が上がりました。

また、トランプ氏は「米国は台湾に何十億ドルもの兵器を売っているが、私は台湾からの祝いの電話を受けてはならないとは興味深い」ともTweetしています。そして、この2つのTweetの中にトランプ政権の外交方針の一端を垣間見ることができます。

米国の保守主義者の考え方である「自由主義」とビジネスマンの考え方である「金銭的利益」、この2つの異なる思考法が絶妙なバランスでブレンドされた外交、これがトランプ政権の外交方針だと看做すべきでしょう。

そして、今後のトランプ外交で何が起きていくのかを理解するためには、トランプ政権内での力関係を注意深く観察する必要があります。

トランプ政権の中で圧倒的なポジションを獲得した保守派・茶会党の面々

トランプ政権は史上最も保守的な政権と呼ぶことができると思います。これは選挙戦において共和党主流派が手を引く中で、保守派がフル回転したことで勝利を掴むことができた論功行賞によるものだと推測されます。

マイク・ペンス副大統領以外の閣僚メンバーとして、ラインス・プリーバス大統領首席補佐官、ジェフ・セッションズ司法長官、ベッツィ・デボス教育長官、マイク・ポンぺオCIA長官、トム・プライス厚生長官、スコット・プルイット環境保護局長官、ベン・カーソン住宅長官などの保守派が推す人々が次々と任命されました。

また、ニッキー・ヘイリー国連大使は予備選挙期間中にトランプ氏の政敵をエンドースし続けたにも関わらず、同ポストを手に入れることに成功しました。彼女は保守派が推す次期大統領または副大統領候補者と目される人物として注目されています。彼女の国連大使就任は、共和党保守派の重鎮であるATRのグローバー・ノーキストが「素晴らしい選択だ。ニッキー・ヘイリーは共和党の未来。トランプは長期戦を行っている。」と喜んでコメントするほど保守派の人々にとって慶事でした。

更にトランプ氏は上記の他にもアンディー・パズダー労働長官やリンダ・マクマホン中小企業局局長などの極めて保守的な主張を持つ企業経営者らを規制撤廃を推進する重要なポジションに就けています。

これらは米国建国の理念(≒道徳)である「自由主義」を体現する人選であり、リベラルな傾向を持つとして保守派から警戒されているトランプ氏にが保守派に対して相当に配慮したものと思われます。

トランプ政権の算盤勘定を担う国務長官、商務長官、財務長官の3人

レックス・ティラーソン国務長官、ウィルバー・ロス商務長官、スティーブン・ムニューチン財務長官の3人はトランプ次期大統領肝入りの人事です。この3人はいずれもビジネスマン出身の人々であり、トランプ氏の算盤勘定を担当する人々だと言えるでしょう。

特に当初名前が挙がっていたボルトン氏やロムニー氏ではなく、ティラーソン氏を国務長官に指名したことはトランプ政権が極めて強いビジネス志向を持った政権であることを示唆しています。また、同時にシェール革命を経て、エネルギーの自立を確立した米国が今後は石油・ガスなどの資源外交の側面を強化していくことを表す象徴的な人事だとも言えるでしょう。

ただし、トランプ人脈からの上記3長官の任命には、米国建国の理念を奉じる共和党内保守派から極めて強い違和感を持たれていることも事実です。ウォール街やグローバル企業が政権と接近することによるクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)は共和党保守派が最も嫌うところだからです。両者のパワーバランスの推移は中長期的には政権の不安定要因となる可能性があります。

とはいうものの、当面の間は対外交渉のツールとして冒頭の祭英文氏との電話会談のように保守派が満足するロジックをまぶしながら、トランプ政権内で保守派は米国国内の減税・規制緩和に注力し、国際的な外交・ビジネスについてはトランプ人脈がフル回転するという棲み分けによってお茶を濁す形になるのではないかと推測します。

卓越した職業軍人による効率的・効果的な国防政策の実施

ジェームス・マティス国防長官は「狂犬」というあだ名とは裏腹に極めて慎重な国防政策を立案する軍人だと言えます。同氏はブッシュ政権当時に無理な戦争計画を推進するネオコンと激しく対立し、同盟国重視の姿勢とアラブの価値観を理解した統治政策の必要性を説いた人物です。

今回の大統領選挙でもネオコン勢力によってトランプへの造反対抗馬として一時期名前が取り沙汰されましたが、それらの誘いを断ったという意味では論功行賞の意味合いもあるものと思われます。

一方、ジョン・ケリー国土安全保障長官も職業軍人出身の人物であり、トランプ政権は退役将校も含めた職業軍人経験者が多く踏まれることから軍事政権とも揶揄され始めています。また、国防費の増額などは共和党側も主張するところであり、財政の健全性の観点から心配する声もあります。

しかし、訓練を受けた職業軍人が現代の高度に複雑化された国防政策や行政機構の運用を担うことも効率性を重視するなら当然のことと言えるかもしれません。文民統制の観点からは共和党が多数を占める議会がしっかりと監視する必要がありますが、従来よりも効率的で有効性が高い国防政策が実行されていくものと推測されます。

米国版の論語と算盤を体現するトランプ政権の外交政策

上記のようにトランプ政権では国内政策、外交政策、国防政策がそれぞれ明確に色分けされた状況となっていることが分かります。国防政策はどちらかというと勢力均衡政策とテロ対策に注力することが想定されるため、実際に外国から見ても目立つ変化は外交政策の変化ということになるでしょう。

この外交政策の基本はトランプ政権の主要3閣僚による「算盤外交」になるものと思われます。諸外国との交渉によって米国経済に利益をもたらす方向で様々な成果が挙げられていくことになるでしょう。

東アジアでは中国に対する経済的な摩擦が米国との間で表面化していくことになりますが、実はこれは大したことはないものだと考えています。なぜなら、トランプ政権が求めることは経済的な算盤勘定であって中国の国体を揺るがすことは本気で考えていないと推測されるからです。むしろ、米中両国で喧嘩と妥協の繰り返しが行われる中で両国の関係が深化していく可能性すらあります。

一方、中国と比べて日本の「算盤上の価値」は減価する一方です。中国から魅力的な対価を引き出すためのツール(台湾と同様に)として使用されることにすら成りかねません。日本政府はジャパン・ソサエティー会長で知日派のウィルバー・ロス氏が商務長官に任命されたことで一安心しているかもしれませんが、トランプ政外交の算盤勘定への対処という点ではそれだけでは話になりません。

減価していく日米の価値、つまり日米同盟の価値を算盤勘定以上のところで補う努力をしなくては、日米同盟の将来、ひいては日本の安全保障は悲観的なものにならざるを得ないでしょう。

相対的に減少する日本の経済的価値、日米同盟は風前の灯となるのか

日本の経済的価値の相対的な減少は避けがたいものであり、 今後はそれらの環境変化を前提とした上でトランプ政権への対応を考えていくべきです。

漫然と従来通りの日米関係の延長線上で行けると考えているとしたら、ある日突然梯子を外されることは十分にあり得ます。トランプ氏は中国にプレッシャーをかけるために「一つの中国」という前提をあっさりと破った人物であり、日米関係という所与の前提を揺るがしかねない人物だからです。

では、トランプ政権への対応方針として、国内の一部で主張されている米軍基地費用の全額負担や武器購入費の増額のような経済的対応は正しいでしょうか。残念ながらそれらの対応は焼け石に水に過ぎず、中国の経済的価値の増大に伴う米中接近の危機への対処としては不十分です。

トランプ政権にお金の話で対応しようと試みたところで、次から次へと新たな取引を迫られることを通じて、多くの対価を払う割には実りの薄い結果がもたらされることになるでしょう。そのような場当たり的な対応は日米同盟の将来すら危うくするものと思います。

真の知米派を育てる試みの重要性、対米外交人脈の全面的な見直しが必要

上記の通り、筆者はトランプ政権はトランプ人脈と共和党保守派の政権であると分析しました。

トランプ人脈が政権の「算盤」を担当するなら、共和党保守派は「価値観」を担っている人々です。そして、トランプ政権と対峙するためには、共和党保守派との政治的な信頼関係を醸成することが極めて重要であると考えます。

政権発足当初は共和党保守派は国内改革に注力するものと思いますが、中長期的にはトランプ政権の外交政策に対して連邦議会から強い影響力を持ち続けることに変わりはありません。

そのため、経済的利害を越えて米国保守派と「価値観」で結ばれた信頼関係を作ることができれば、日本経済の相対的な減価という現実を覆す強固な日米同盟の礎を築くことができます。

しかし、そのためには対米外交人脈の全面的な見直しが必要です。

具体的には、安倍政権が対外的に主張する「自由と民主主義の価値観を共有する」という形式上の文言だけでなく、もう少し深いレベルでの米国理解を担う人材の育成が重要となります。日本のエスタブリッシュメントや国会議員の従来までの感覚で米国保守派と付き合うことは外交的な自殺行為だからです。

一例を挙げると、先日ある会合で国会議員が来日した米国保守派重鎮らに対し、「政官財でがっちりと組んで対米外交に取り組む」「自分の配偶者はウィルバー・ロスとジュリアーニと友人」と堂々と発言していました。筆者は非常に驚くとともに大きな危機感を覚えました。

上記でも述べた通り、政官財のトライアングルはクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)として米国保守派が毛嫌いする政治屋そのものであり、更に上記の二人はウォール街・リベラルとして保守派から距離が遠い人物だからです。わざわざ来日した米国保守派の方々に対するあまりに無理解な発言に日米同盟の未来を考えて暗い気持ちになりました。

米国ではGoogle社が対保守派のパブリックリレーションを行う人材の求人広告を出して話題になっていましたが、日本政府も米国保守派の思想・文脈を理解できる外交人材を採用・育成することが必要です。

表面的な米国の姿ではなく、米国建国の理念に対する深い理解力を持った「真の知米派」による対米外交政策の立案が望まれます。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2016年12月12日

「息をするようにウソをつき続けてきた」野田佳彦・幹事長の罪

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「息をするように嘘をつき続けてきた」野田佳彦・幹事長


蓮舫・民進党代表が安倍首相との党首討論で「息を吐くように噓をつく」と揶揄しました。蓮舫氏の二重国籍に関する疑惑も当然ですが、この言葉は自党の大番頭である野田佳彦・幹事長にこそ相応しいと思います。

筆者は野田佳彦・幹事長が消費税増税という国家の重要事項の判断について、自らの主張について「大嘘」を突き続けてきており、現在に至っては完全に開き直った感じすらあります。

<街頭におけるシロアリ演説>

「野田総理 マニフェスト 書いてあることは命懸けで実行」(街頭演説動画)

「消費税1%分は、2兆5千億円です。12兆6千億円ということは、消費税5%ということです。消費税5%分のみなさんの税金に、天下り法人がぶら下がってる。シロアリがたかってるんです。それなのに、シロアリ退治しないで、今度は消費税引き上げるんですか?消費税の税収が20兆円になるなら、またシロアリがたかるかもしれません。

鳩山さんが4年間消費税を引き上げないといったのは、そこがあるんです。シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです。徹底して税金の無駄遣いをなくしていく。それが民主党の考え方です。」

<国会におけるシロアリ演説(平成21年7月14日)>

加えて、一番国民が問題にしている天下りやわたりを実効性ある方法でなくしていこうという熱意が全くありません。私どもの調査によって、ことしの五月に、平成十九年度のお金の使い方でわかったことがあります。二万五千人の国家公務員OBが四千五百の法人に天下りをし、その四千五百法人に十二兆一千億円の血税が流れていることがわかりました。その前の年には、十二兆六千億円の血税が流れていることがわかりました。消費税五%分のお金です。さきの首都決戦の東京都政の予算は、一般会計、特別会計合わせて十二兆八千億円でございました。これだけの税金に、一言で言えば、シロアリが群がっている構図があるんです。そのシロアリを退治して、働きアリの政治を実現しなければならないのです。残念ながら、自民党・公明党政権には、この意欲が全くないと言わざるを得ないわけであります。

<直近の本会議における増税賛成演説(平成28年9月27日)>

「アベノミクスの失敗により、消費税引き上げ再延期はやむを得ない状況になってしまいました。それだけではありません。私が政治生命をかけて取り組んできた三党合意も風前のともしびとなってしまいました。まことに残念です。その発端は、安倍総理が二〇一四年秋に一回目の延期を決めて衆議院を解散したことです。消費税を政争の具にしないという魂が失われてしまいました。この再延期で、財政健全化への道のりは、より険しいものとなってしまいました。次の世代より次の選挙を重視する姿勢は、後世で厳しく糾弾されることになるでしょう。そのことを警告しておきます。

ちなみに、過去には消費税増税反対の請願の紹介議員にもなっています。

第168回国会 1 消費税率の引き上げ・大衆増税反対に関する請願
第170回国会 83 消費税率の引き上げ・大衆増税反対に関する請願

以上のように、消費増税という日本経済に大きな影響を与える項目について、首相になるビフォー・アフターで180度意見が変わるとは何事でしょうか。筆者は増税の是非については様々な立場があると理解しています。しかし、このような民主主義を踏みにじる姿勢は、後世で厳しく糾弾されることになるとともに、現代に生きる我々も許すべきではありません。

「政権をとったら、その舌の根も乾かぬうち、交渉参加するなど、国民にうそを平然とつく姿勢は言語道断です。(直近の本会議にて)」

野田氏はTPPからの撤退を主張していますが、現職総理大臣時には強烈にTPPを推進した人物の一人です。

たしかに、TPPは米国大統領に選任されたトランプ氏が撤退を表明したことで頓挫した形となっており、日本が承認手続きを経ることで相対的に前のめりの状態となっています。

そのため、TPPの国会承認を見送ることも一理ありますが、トランプ政権の発足前段階であること、現職のオバマ大統領がTPP推進である以上、日本が国会承認をしないことは道理に合わないことでしょう。実際にはTPPについてはトランプ新大統領と再交渉ということになるかと思います。(国会承認が滑稽な事態になる可能性は高いとは思いますが、日本側が国会承認を経ておく対応は妥当だと思います。)

その上で筆者が気になったポイントは、9月の本会議での野田氏の発言です。民進党がTPP賛否に云々という以前にもはや議論にするに値しない嘘つきだと思います。

<本会議での質問(平成28年9月27日)>

「私が内閣総理大臣のとき、自由貿易、FTAAP推進の基本的な立場から、交渉参加に向けて協議に入りましたが、ハードルが高く、国益を考えるとTPP交渉参加に踏み切れずにいました。そのとき、二〇一二年暮れの総選挙で、TPP断固反対、ぶれないと約束したのは、ほかならぬ安倍総裁です。政権をとったら、その舌の根も乾かぬうち、交渉参加するなど、国民にうそを平然とつく姿勢は言語道断です。」


民進党は健全な二大政党政治を機能させるつもりがあるのか


筆者は嘘つき度合いは自民党も野田氏も良い勝負だと思いますが、野党の良いところは正論を述べることができる点に尽きると思っています。しかし、政権奪取時に明らかな嘘を実行して恥じず、なおかつ自らが再度当選してきた人物が幹事長にいる政党のどこに正論があるでしょうか。

蓮舫氏の政治の師匠は野田幹事長とのことですが、「この幹事長にしてこの代表あり」ということが言えるかもしれません。

選挙戦については間違ったことを言うことは往々にしてあるものと思います。しかし、国会質問及び答弁で堂々と嘘をつく行為は民主主義を踏みにじる行為であって許されるべきではないと思います。まして、自分自身の国籍について過去のメディア上での発言を平然と無視する行為も論外です。

二大政党政治が機能していくためには、理念ある二大政党が国会の質疑を通じて両党の考え方を国民に明らかにし、そして国民が投票を通じて判断を下すことが重要であることは言うまでもありません。

したがって、国会での質問内容の正常化は大前提であり、民進党はこれ以上蓮舫氏・野田氏の国会質疑を許すべきではありません。左派・右派というレベルではなく、誰でも分かる嘘つきか否かが国会の質疑の重要なポイントになる事態について一刻も早い是正措置が行われることを期待します。



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2016年12月10日

トランプ政権の経済政策は何を目指しているのか?

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トランプ政権の経済政策が「何」を目指しているのか?

トランプ政権の経済政策について様々な識者が分析・報告を始めています。しかし、そのいずれも表面的にトランプ氏や共和党の公約について並べるものが多く、その背景に存在する共和党独自の経済認識が語られることはほとんどありません。

しかし、トランプ氏及び共和党の経済政策が目指している方向・標的を知ることで、列挙された政策の本質的な意味を知ることが出来ます。そこで、本論稿ではトランプ氏・共和党の経済認識及びソリューションについて説明していきます。

オバマ政権時代に行われた新たな規制増加と家計所得の不十分な回復への対処

オバマ政権下で米国経済はサブプライムショックからの回復を遂げることができました。最終的には株価・生産指標・失業率も再び上昇過程に入りました。家計所得はサブプライムショック以前から下がったままですが、それでも上昇傾向に転じていることは事実です。一見してオバマ政権の経済パフォーマンスはボチボチであるように思われます。

しかし、トランプ氏や共和党はオバマ政権でなければ更に急速に米国経済を回復できたと考えています。それはオバマ政権下で、経済的規制を増大させたこと、世界的な減税競争に負けたこと、と認識しているからです。そのため、共和党は規制撤廃と減税を推進して米国経済を回復させることを約束しています。

米国の規制

オバマ政権時代に米国の規制は増加する傾向にありました。そして、これらの規制は経済損失を生み出すため、オバマ大統領は米国経済に手枷足枷をはめてきたことになります。

そこで、トランプ氏や共和党は規制の撤廃という際に具体的には「何」の規制を撤廃するのでしょうか。

上記は保守派のシンクタンクであるヘリテージ財団が算出したオバマ政権における省庁別の規制による経済損失額のランキングです。規制によって経済損失をもたらしているワースト3は環境保護局、運輸省、エネルギ―省ということになります。

したがって、共和党は小さな政府を目指して規制を撤廃することを望んでいるわけですが、その主要なターゲットが環境規制・エネルギー規制であることが分かります。もちろん、トランプ氏の政策にも同様に環境規制・エネルギー規制の撤廃が盛り込まれています。

法人税
上記は財務省のHPに掲載されている法人税の実効税率です。財務省が恣意的に作ったグラフの側面があるため、上記の米国の数字は法人税の地方税率がべらぼうに高いカリフォルニア州の数字を参考としていますが、いずれにしても米国の法人税率が相対的に高いことが分かります。

トランプ氏は減税政策として連邦法人税を20%削減することを約束しており、同政策が実行されると米国の法人税率はイギリス並みになります。つまり、トランプ政権は世界的な法人税減税競争に参加することを通じ、米国産業の振興を図ることを狙っていると言えます。

更に所得税のフラット化・減税などが実施されることによって平均家計所得を4.3%程度引き上げるプランも発表されています。(Tax Policy Centerが算出)この政策を通じてオバマ政権下で十分に回復しなかった家計所得の底上げを図るということが意図されています。

ちなみに、ヘリテージ財団によって米国では所得上位50%で97.2%の所得税が支払われていると発表されています。そのため、所得税減税の利益の帰属は相対的な富裕層への恩恵が大きくなる傾向があると言えるでしょう。

巨額のインフラ投資・10年間で100兆円(1兆ドル)は可能なのか?

トランプ氏は米国経済の建て直し策として公共事業を10年・100兆円投入することを述べています。(つまり、毎年平均すると1年10兆円、5年で50兆円ということになります)

インフラ投資による景気振興は元々米国民主党の十八番であり、公約としてバーニー・サンダースは5年で100兆円、ヒラリー・クリントンは5年で27兆5000億円が掲げられていました。つまり、トランプ氏のインフラ投資の目標額はサンダースの半分、ヒラリーの倍という両者の真ん中を取った数字ということになります。

現在、報道されているインフラ投資用の銀行を設立する案も既にサンダース・ヒラリー両者が既に触れていたものであり、トランプ政権独自の構想というよりは民主党側の政策を踏襲していると言えるでしょう。

サンダースの5年で100兆円という数字は、米国土木工学技術者協会が2013年に発表したレポートに基づく公共インフラに必要な投資額をベースにされたものと考えられていますが、トランプ氏も老朽化する米国のインフラ投資の更新には積極的だということが言えます。

一方、共和党保守派は公共事業の拡大による財政悪化を良しとする人々ではないので、このインフラ投資に関しては反対の声が上がる可能性があります。しかし、上記で触れた通り、この政策は民主党が好む性格の政策であるため、民主党側からのクロースボートが発生して予算が承認されていく可能性があります。

トランプ政権は「保護主義」であるという勘違いが横行している

トランプ氏の保護主義的な発言を通じて、「トランプ政権は保護主義だ」という誤った認識が横行しています。過激な発言を繰り返すトランプ氏のTwitterなどを見ている限りでは、そのような認識が広まってもおかしくはありません。

米国がTPPに反対している理由は様々なものがありますが、共和党保守派がTPPに反対している理由は、保護主義的な意見だけではなく、TPPが自由貿易のディールとして相応しいかどうか、が疑問だからでしょう。ウィルバー・ロス氏も中国が事実上TPP締結国の市場に容易にアクセスできる欠陥があると指摘しており、TPPには懐疑的な姿勢を示しています。

TPPの協定書は分厚い書類の束となっており、新たなルール(国際的な規制)の創設につながっています。そして、多国間協定は一度決めてしまえば修正などが困難であることから、交渉力に自信がある国なら二国間協定を志向することも理解できます。

特に中国に対しては市場開放・為替問題などの観点から強い姿勢を示すことが想定されており、台湾総統との電話会談や海軍力の増強などの米国側のカードが次々と揃えられている状況です。

そして、これは反中国という単純な姿勢というよりも、中国に国際経済における責任ある立場を守らせるために直接的に交渉するための脅し、という文脈から理解するべきでしょう。

トランプ政権で米国は「エネルギー産業国」に進化することになる

トランプ政権は、ドッド・フランク法の廃止または弱体化によって金融業の自由度が回復し、多額のインフラ投資による関連産業の復活などが想定されています。しかし、最も重視すべき産業は、石油・ガスなどのエネルギー関連産業ということになるでしょう。

米国内の資源開発が本格的に進展することを通じて、米国はエネルギーの輸出国としての地位を新たに確立し、中東やロシアなどの資源国に対して独立した交渉力を持つ国に変貌するものと思われます。

その結果として、米国民主党政権時代に発生したIT関連産業の成長に匹敵する変化を米国と世界は体験することになるでしょう。

米国は今年の初めから45年ぶりに石油輸出を解禁しましたが、この流れは更なる拡大を見せていくことになります。その中で日本への石油輸出の大幅な解禁が行われることを通じて、中東に依存する日本の原油輸入先が米国に変わっていく可能性も秘めています。

東アジアへのエネルギー資源の輸出は対中・対日の文脈から米国の新たなカードとして機能していくことになります。

トランプ政権におけるエネルギー産業改革は、欧州に対するロシアのポジションのように米国が東アジア諸国をエネルギーと軍事力を使ってコントロールすることに繋がり、経済面だけでなく安全保障面からの地図を変えていくことになるでしょう。

スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19


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2016年12月03日

ポリコレ馬鹿につける薬、米国の分断の真相とは何か?

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米国の分断を一側面から語り続ける「インテリンチ」の偏向ぶり
 
トランプ勝利から1か月が経とうとしていますが、その間に様々な有識者と報道関係者が「米国の分断は深刻だ!」という発言を繰り返し続けています。

これらの人々は「レイシスト」「格差社会」「反知性主義」「不法移民への差別」などの理由をつけて、トランプ及び共和党が米国の分断の元凶であるかのように語り、トランプと共和党が米国を分断させたがっているかのように見せています。

しかし、その話の大半は民主党側、つまりポリコレ側に立った物言いばかりであり、米国の政治状況を一側面から見たものでしかありません。これでは米国政治の実態がまるで掴めず、「ヒラリー勝利を予測・礼賛し続けた愚かな人々」の意見を鵜呑みにするだけの状態が継続することになってしまいます。

大統領選挙も終わったわけですから、そろそろいい加減に「トランプ」「共和党」の視点から米国政治を語ることも必要です。そのため、本稿ではトランプ・共和党の視点から米国の分断と統合について語っていきます。

学者やジャーナリストなどの自らが発見した「ポリコレ」で社会を統合しようとする人々

民主党支持のポリコレ識者や報道関係者は、人間を属性に基づいて区別して語る傾向を持っています。つまり、上記の事例を挙げるならば、人種、所得、学歴、などの分かりやすい属性ラベリングによって人間を区別した上で、それらの違いを再否定することによって自らの主張の正当性を得ようとしています。

「トランプ支持者は、白人、低所得、低学歴、不満層だ!」という話は、大統領選挙が終わるまでメディア上の様々な場面で耳タコだったと思います。これがポリコレ・パーソンの人間を見るときの目線です。

そして、ポリコレ・パーソンにとっては「自らの知性が見出した社会の構成員間にある違い」を無くすということが正義です。そして、その差異を無くすという考え方を受け入れるべきだ、という主張を通じて、自らが見出だした社会の分断の再統合を図ろうとします。具体的には、人種平等、格差是正、不法移民容認など、自らが人々の間に見出した違いを政府機能を使って埋めようとするわけです。

半ばマッチポンプみたいなものですが、この手の人は学者やジャーナリストに山ほど存在しており、日々新しいポリコレを発見・生産しては非ポリコレ・パーソンに対する知的マウンティング作業に精を出しています。そして、日本に暮らしていると発信力が強いポリコレ側の意見が世の中の正義であるように見えてしまいます。

しかし、トランプや共和党は人間を属性ラベリングによって区別して再統合しようという発想はそもそも持っていません。そのため、ポリコレパーソンからは「酷い差別主義者だ!」というレッテルが貼られることになります。

「米国人であること≒米国の建国の理念を受け入れること」で社会を統合しようとする人々

トランプや共和党が人々を区別する尺度は「米国の価値観を受け入れているかどうか」です。

つまり、建国の理念である「自由」の概念を共有できる相手か、それとも、それを否定する相手か、ということで人間を区別します。

具体的には、米国はイギリスによる課税などに反対して独立・建国された経緯があります。そのため、政府介入を意味する増税や規制強化に非常に厳しい主張を持っています。

米国の建国の理念の立場に立つならば、「政府の役割は小さい方が良いか?(≒税金は安い方が良いか)?」という問いに対し、極めて単純化して考えると「Yesと答える人は共和党支持」、「Noと答える人は民主党支持」ということになります。

共和党保守派議員などの演説を耳にすると直ぐに気が付きますが、「私たちは米国人である。だから、税金が安くて規制が少ない方が良いのだ」というスピーチの論理構成になっています。また、共和党支持者らの話を聞くと、彼らが合衆国憲法を非常に大切にしており、その読書会などが催されていることも分かります。

共和党にも黒人・ヒスパニックなどの有色人種系の候補者・支持者もいますが、彼らは須らく上記の米国の建国の理念に賛同し、それらを擁護することを誇りに思っています。特に共産主義全盛時代に母国で政治的な弾圧を受けて米国に逃れてきた有色人種は共和党支持の傾向があります。そして、多少粗削りなところもありますが、トランプ支持者も同様の理念には大筋賛成することでしょう。

したがって、共和党は「米国人であること≒米国の建国の理念を受け入れること」で社会を統合しようとしていると言えるでしょう。いわば郷に入れば郷に従えに近い発想ですが、そこではポリコレ勢力が区別した人種、所得、学歴ではなく、「同じ米国の価値観を信じる」という枠組みで人々の統合が図られることになります

共和党が不法移民に対して強く反対する(合法移民に関してはOK)理由は、不法移民は米国の価値観を受け入れる宣言をしていない人々であり、共和党が持つ米国統合の発想と根本的に相容れない存在だからです。

「米国の分断」の根本原因を理解できていない人は米国政治のことを知らない

したがって、主に民主党側の学者やジャーナリストが作り出したポリコレのうち、共和党が主張する「米国人の価値観」とぶつかる部分が社会の分断として表面化しているわけです。(もちろんポリコレと米国の価値観が一致することもあります。)

具体的には、ポリコレ勢力が推進する、アファーマティブアクション、大きな政府による腐敗、学者が作り出す新たな規制、米国の価値観を相容れない不法移民の容認などは、共和党側からは絶対に受け入れることができない要素ということになります。共和党側にとっては「米国を米国で無くす≒米国を分断させる」存在はポリコレ側だということです。

一方、ポリコレ・パーソンから見ると、ポリコレに反対する人を自分の知性が見出だした分断を統合する試みを邪魔する差別主義者として認定することになります。

ちなみに、外国人である日本人が犯しがちな勘違いは、米国の国是が「自由主義」であることを理解できず、「欧州のファシスト右翼」と「米国の保守派」が同じものに見えてしまうというものです。米国の保守派は「自由主義」という合衆国の理念を受け入れる人のことであり、欧州のファシスト右翼とは本質的な部分で真逆の発想を持った人々のことです。米国政治の理解が足りない人は両者を同じ文脈で語っているために注意が必要です。

米国の分断とは「どのような基準で社会を統合するのか」という価値観の違い

共和党・民主党の差は根本的な部分で既に異なっているために埋めようがない分断だと言えるでしょう。

以上のように、米国の分断とは「どのような基準で社会を統合するのか」という価値観の違いによって生じています。したがって、ポリコレ勢力の話を垂れ流しているだけの翻訳家に毛が生えた程度の人々の説明だけでは何も理解することができません。

「米国の分断は深刻であること」を理解すると同時に、「民主党側も共和党側も異なる価値観・方法で社会統合を図ろうとしていること」も明瞭になったと思います。

少なくとも今後4年間はトランプ&共和党政権が継続するわけですから、米国政治に対する一面的な言説だけでなく、共和・民主両サイドの側の主張を理解していく取り組みが必要です。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 17:44|PermalinkComments(0)米国政治 | 社会問題