2016年11月
2016年11月12日
「隠れトランプ支持者によって勝敗が決定した」は大嘘
「隠れトランプ支持者によって勝敗が決定した」は大嘘
トランプ大統領誕生直後、「報道の敗北、トランプの勝利 「世論調査」はなぜ外れた?」のように「隠れトランプ支持者が事前の世論調査を覆した」という報道が多数ありましたが、その実相は異なったものとなっています。
結論から述べると、トランプ大統領誕生の理由は、両陣営の支持者の投票率の違いではないか、と推測します。
2008年・2012年・2016年の大統領選挙の得票数と比較した場合、
2008年:オバマ69,498,215・マケイン59,948,240
2012年:オバマ65,915,795・ロムニー60,933,504
2016年:ヒラリー60,839,922・トランプ60,265,858
という状況であり、勝敗の境目は「オバマよりもヒラリーの得票数が圧倒的に少なかったこと」にあります。
また、トランプ氏については、モルモン教徒という特殊な宗教で保守派からの人気も低かったロムニー、正統派の候補者だったマケインよりも最終得票数を減らしている状況です。
更に事前の世論調査ではトランプ・ヒラリー両者の支持率は全米及び接戦州で拮抗していました。
ざっと数字を見ただけでも「隠れトランプ支持者」によって「世論調査が覆った」または「勝敗が決まった」は無理がある仮説であることは一目瞭然です。
ざっと数字を見ただけでも「隠れトランプ支持者」によって「世論調査が覆った」または「勝敗が決まった」は無理がある仮説であることは一目瞭然です。
「勝敗を決定した要因」はヒラリー・トランプ各陣営支持者の投票率の差
大統領選挙の勝敗を決した要因は、ヒラリー・トランプ各陣営支持者の投票率の差です。
元々ヒラリー・トランプの支持率差は極めて微小であり、両者の差は両陣営支持者の属性の差であったと捉えるべきです。具体的には拙稿「トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)」をご覧ください。
上記の分析は全米支持率に基づくものになりますが、その他の調査でも接戦州でも両者の差は統計の誤差の範囲内におさまるものであり、日々の報道で垂れ流されている世論調査に反してトランプが勝ったということ自体が事実に反します。
重要なポイントは、ヒラリー支持者の年代が若年世代に偏っていたこと&有色人種におけるヒラリー支持が圧倒的に高かったこと、の2点になります。
そして、米国の大統領選挙でも若者の投票率は元々高いものではなく、有色人種でもないヒラリーが黒人・ヒスパニックらの熱烈な支持を維持できるという根拠も薄弱であったため、表面的な支持率が拮抗していても支持者内訳による質的な差異が生じることは明らかでした。
したがって、筆者は上記の記事中で年代別投票率の差とキューバ系ヒスパニック(キューバ系は伝統的な共和党支持層、メキシコ系は民主党支持層)からの得票が勝負を決めると事前に述べてさせて頂きましたが、結果もおおよそ予想通りものになったものと言えます。
筆者としては米国の世論調査について語るなら、単純データをクロス分析した上で、アメリカ政治の質的要因を考量しながら、考察くらいしたらどうなの?と素朴に思いますね。案の定の結果となったため、個人的には何の驚きもありません。
トランプ氏の得票数増加は予備選挙段階から分かっていた話に過ぎない
トランプ氏側の得票数の増加についても容易に説明が可能です。こちらは拙稿「数字で分かる!トランプの大統領選挙・勝利の方程式とは(2016年5月7日)」をご覧ください。
2016年の共和党予備選挙は2012年時よりも圧倒的に多くの米国民が参加しています。2012年時の参加者総数は18,682,820名ですが、予備選挙のほぼ決着がついた5月3日のインディアナ州での予備選挙が終わった段階で参加者総数26,639,737名に激増している状態となっていました。
トランプ氏の加入によって共和党予備選挙が最高潮に盛り上がっていたことが分かります。
特に、重要な接戦州であるフロリダ州の共和党予備選挙では2012年・167万人から2016年・236万人まで増加しています。一方、民主党は2008年・175万人⇒2016年・171万人と予備選挙参加人数が減っている状況です。そのため、前回と比べた両陣営の得票数の増減は予備選挙参加者数からある程度予測することが可能な状況だったと言えます。
そして、実際にトランプ氏は大統領選本選で全米の得票数を増加させることに成功しました。一度予備選挙でコミットした有権者は本選でも投票すると考えることは当然でしょう。
ただし、トランプ氏は最終的に共和党主流派と諍いを起こしたため、一部の共和党員の得票が離れたことが控えめ目な得票増となったものと推測します。トランプ効果によって新規得票増と離反票の差し引き分だけの得票増加効果があったと言えるでしょう。
「隠れトランプ支持者」という虚構のストーリーが流布される心理的背景
実際に起きた出来事は「隠れトランプが多かった」ではなく「ヒラリー支持者が選挙行かなかった」だけです。トランプ支持者は最初から元気一杯で予備選挙に参加して世論調査にも回答しています。
では、メディア・有識者が何故「隠れトランプ支持者」」といういい加減な存在を作り出して今回の大統領選挙の結果を論評する風潮が生まれたのでしょうか。
「隠れトランプ支持者」の存在を吹聴している人々は、「トランプを支持していると言う人は馬鹿だと思われる」という偏見を前提として持っている、米国民主党系メディアのプロパガンダを信じ込んでいる人です。
つまり、自分達が予測を外した責任を「自分達が馬鹿だと思っている人たちのせい」に転嫁する見苦しい行為に戯れているわけです。一部の高学歴サークルの中で隠れトランプ支持者がいたかもしれませんが、それらの人々が大統領選挙の勝敗を決したとする論調の方向性は間違っています。
ここは重要なポイントなので明確に述べておきたいと思います。
一般に流布している話と異なり「トランプ支持者はヒラリー支持者を馬鹿な世間知らず」と思っています。
一般に流布している話と異なり「トランプ支持者はヒラリー支持者を馬鹿な世間知らず」と思っています。
トランプ支持者の中核は独立ビジネス系の人間または自ら何らかの生産活動に従事している層の人々です。彼らにしてみたら現実を知らない規制・税金をかけてくるヒラリー支持者(特に有識者)は世間知らずでしかありません。
だから、世論調査でも約半数の人々は堂々と「トランプ支持」と回答しているのです。彼らは最初から全く隠れてなかったし、その数字がヒラリーシンパの識者の目に入らなかっただけです
トランプ氏には多少は女性問題などで恥ずかしいところはあったかもしれません。しかし、トランプ氏は元々テレビのエンターテイナーなので、共和党支持者は笑って済ませる人も多かったでしょう。彼らにとってはヒラリーの綺麗事よりも目の前の経済問題・不法移民問題などを解決するほうが先決なのです。
「隠れトランプ支持者」という概念はトランプ支持者に対する一方的な偏見に基づく概念です。
米国のメディア・世論調査機関がその存在を報じたからと言って、それを鵜呑みにしてドヤ顔で日本人に伝える日本の有識者・メディアは猛省してください。「米国の有名な世論調査屋のネイト・シルバーが『隠れトランプ支持者』で間違ったって言っているから正しい」という発想は論外です。
米国のメディア・世論調査機関がその存在を報じたからと言って、それを鵜呑みにしてドヤ顔で日本人に伝える日本の有識者・メディアは猛省してください。「米国の有名な世論調査屋のネイト・シルバーが『隠れトランプ支持者』で間違ったって言っているから正しい」という発想は論外です。
日本のメディア・有識者は「ヒラリー万歳の米国メディアの報道」を丸パクリして大恥かいたことを思い出した方が良いでしょう。自分の頭で考えられないなら有識者としての存在価値は低いですから。
英字情報を取るだけの舶来信仰は捨てて、自分の頭で考える習慣を日本人の有識者・メディアとされる人々には身に付けてほしいと思います。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年11月11日
大統領選の「インテリンチ」の空気に飲まれていた人へ
トランプ大統領誕生まで繰り返された「酷すぎるインテリンチ」
2016年米国大統領選挙では、インテリによって「大衆」を「低所得・低学歴のポピュリズムに毒された人々」と定義する社会分析に見せかけた罵倒・侮辱が繰り返されました。
筆者は、この政治的な体裁を整えた人権侵害行為を「インテリンチ」と呼んでいます。(Brexitの際にも見られた同様の現象)
英国EU離脱は「インテリンチ(Intelynch)」が原因(2016年6月28日)
今回の大統領選挙期間中、有識者らはトランプ支持者を「白人ブルーカラー不満層」、場合によってはヒルビリー(彼らの薬物中毒の描写まで)として描き続けて徹底的な人格攻撃をメディア上で行い続けました。
そもそもトランプ氏は「共和党指名候補者である」ため、世論調査を見ても明らかな通り、米国の中産階級以上の人々に支持されていた人物です。そして、白人だけでなくヒスパニックからの一定の支持もありますし、女性からの根強い支持も十分に獲得しています。
トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)
あえて、トランプ氏の熱烈な支持者として白人労働者を取り上げたとしても、それらの人々に対する人間像の描写は酷すぎるものだったと思います。全体の一部の事例を誇大宣伝するのはいかがなものでしょうか。
白人労働者が求める民主党が実施してきたアファーマティブアクション・不法移民に寛容な政策などの方針に反対し、フラットな条件での競争を行うことを求めることは検討に値する一つの意見です。
賛成するにしても反対するにしても、特定の意見を持つ集団を構成する人々の人格を貶めて、その主張の正当性を考慮に値しないものと切り捨てることは許されるべきではありません。
メディア上で「言論的弱者」をイジメ続ける嫌なヤツらのままで良いのか?
以前にも書きましたが、インテリは快適な執務室や研究室から実際の生産活動に従事している大衆を小馬鹿にしトランプ支持者を「嘘に騙された・金が無い・頭が悪い」と述べるだけで仕事になります。
元々ジャーナリズムなどに奉仕する人々は権力者と対峙することが務めだと思うのですが、現代では大学・メディア関係者らは自ら権力となって平然と大衆を侮蔑するようになりました。実に楽な時代になったものだと思います。
彼らは強大な発信力を有するメディア媒体を寡占することで、言論的な弱者である市井の人が反撃できない場所から特定カテゴリーの人々に対する人格的な批判を行っています。
そして、それらに対して政治的な正統性の体裁を整えて、「自分達と意見が異なる愚かな人々は批判しても良い」という空気を作り出しています。腕力自慢の学校のいじめっ子が言論自慢の社会のいじめっ子に変わっただけです。
近年の顕著な勘違いとして、SNSの普及によって一般の人々が自由に情報発信できるようになったから、自分と意見が違う特定のカテゴリーの市井の人々を叩いて良いという風潮すらあります。
しかし、SNSの拡散過程は影響力が強いインフルエンサーが情報を発信・媒介することで進んでいくものです。そのため、本来はインフルエンサー同士の言論の応酬で競われるべき問題であり、特定の言論を拡散している市井の人を叩いてもあまり意味がありません。
自分が「ひょっとしたらインテリかもしれない」と自覚がある人に求めたいこと
筆者が「自分がひょっとしたらインテリかもしれない」と自覚がある人に求めたいことは、データを示しながら人々に有益な情報を提供するべきだということです。
毎日一生懸命自分の持ち場で人生を送っている人たちを、彼らが反撃できないメディア上から侮蔑すること、は間違っていると気が付いてほしいのです。
今回の大統領選であればインテリな人々はトランプ支持者を「白人のゴミ」と揶揄することでちょっとだけ楽しい気持ちになれたかもしれません。しかし、そこは自制心を持ってほしいと思います。
そして、言うまでもなく、政治家らの権力者に関しては、誰でも舌鋒鋭く追及してもらいたいと思います。トランプ氏やヒラリー氏の言動などを徹底的に精査した上で、その真偽や意図について論証していくことは良いことだと思います。
また、自らが海外メディアの尻馬に乗る形で何も考えず、米国の有権者の人格を貶めてきたことを反省することも必要でしょう。
米国メディアや世論調査機関の論調に合せて誤った予測を引用し、予測が外れたら同じように外国メディアらの「世論調査の精度がおかしかった」とする弁明を丸写しする行為は言論人として恥ずかしいことだと知ってください。
あなた方が間違っていた理由は「インテリンチ」の空気に飲まれて目が曇っていたからです。
なぜ有識者は「トランプ当選」を外し続けたのか?
そろそろ「インテリンチ」への参加は程々にして、未来の姿を描く言葉を身に付けるためにもう一度大衆の中に入ってみたらどうでしょうか。
インテリの無知・傲慢による言論レベルの低さこそが問われるべき課題となっています。言論的弱者ばかりを叩いて悦に入っている状況を止めて、彼らには切磋琢磨の言論空間を築く努力をしてほしいと思います。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年11月10日
なぜ、有識者は「トランプ当選」を外し続けてきたのか
筆者が1年越しで予測してきたトランプ大統領が誕生しました
兼ねてから筆者が予想してきた通り、トランプ大統領が誕生することになりました。昨年末に始めたブログなのでトランプ大統領誕生でほぼ1年になります。(下記はトランプ関連から抜粋)
米国大統領選挙・選挙人予測「トランプ勝利のシナリオ」(2016年11月3日)
トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)
トランプ大統領誕生の可能性を示す数字(2016年10月18日)
そろそろトランプ大統領誕生を真剣に考えたら?(2016年9月13日)
トランプをレイシストだと罵る人に不都合な真実(2016年5月19日)
数字で分かる!トランプの大統領選挙・勝利の方程式とは(2016年5月7日)
「トランプはヒラリー・クリントンに勝つ!」5つの理由(2016年5月5日)
トランプを低評価するか否かは「情弱」のリトマス試験紙だ(2016年2月28日)
トランプVSルビオ、ニューハンプシャー州予備選挙は佳境に(2016年2月6日)
ドナルド・トランプ共和党予備選勝利宣言としての「健康診断書」(2015年12月15日)
なぜ反イスラム発言でトランプの支持率は落ちないか(2015年12月12日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(2015年11月25日)
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙(2015年11月6日)
ご覧の通り、予備選挙から大統領本選挙まで一貫してトランプ勝利を予測し続けてきた形になります。その際、共和党に内在する定性的な要因を加味して、世論調査の内容を淡々と分析してきました。そのため、トランプ大統領誕生は順当な結果で驚くに値しませんので、今更世間が何で騒いでいるのかサッパリ分かりません。
予測を外し続けてきた有識者らは「世論調査の精度」に責任転嫁を開始(笑)
さて、その一方で予備選挙の段階から「有識者」と呼ばれてきた人々は予測を外してトランプ氏を「トンデモ」「泡沫」扱いしてきました。早速ですが、ここでネタバレしてしまうと彼らが外してきた要因は下記の通りと推測します。
(1)共和党の予備選挙は「主流派の候補者が勝つ」って言っておけば大体当たってきた
(2)英字新聞が読める+米国の学者&政治関係に知り合いがいるだけで有識者として通用してきた
(3)世論調査の数字について正確な分析ができなかった
さて、(1)と(2)は専門家のバイアスというもので、従来通用したやり方が古臭くなって通用しなかった、という理解で良いと思います。一昔前までは海の向こうの話をネットで一次情報を取る人もあまりいなかったので、その程度のやり方でも十分に専門家として通用してきました。ただし、時代が変わったことで、それらの人々の慣習・ネットワーク・能力は時代遅れになりました。
そこで、それらの不足を補うために今回必要だった能力は「次々と発表される世論調査の数字を追って世論調査内容を吟味する」というものでした。しかし、日本の有識者らは数字を悉く無視した分析を継続するか、または表面的な数字のみを追って世論調査の回答者内訳などの深読みが全くできませんでした。
その結果として、「世論調査自体の精度が落ちている」「隠れトランプ支持者が拾えなかった」「今回は数字ではなく空気を読むのが大事だった」という見るも無残な言い訳を並べ始めています。
しかし、明確に述べさせていただきますが、このような言い訳を述べている人々に世論調査に基づく分析を語る資格はありません。なぜなら、これらは選挙のド素人以下の言い訳だからです。
世論調査の数字は「回答者の属性を分析して初めて意味を持つ」という常識
当たり前の話過ぎて閉口するのですが、単純に世論調査全体の数字で勝敗を予測できるわけではありません。今回の共和党予備選挙のようにトランプが圧倒的支持率1位を継続していれば、トランプ勝利の予測は簡単です。しかし、トランプVSヒラリーの予測は世論調査の数字をそのまま追っても予測は困難でしょう。
そこで、分析上の常識として「回答者の属性」を見ていくことになります。最も分かりやすい事例として下記の記事を改めて紹介したいと思います。
トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)
この世論調査を見ればわかるように、トランプとヒラリー支持者の相対的な差を幾つかあげると、
・トランプは中高年者以上、ヒラリーは若年層
・トランプは中~高所得者、ヒラリーは低~中所得者
・トランプは高卒・大学中退者、ヒラリーは大卒者以上
・トランプは白人とヒスパニックの35%、ヒラリーは黒人・ヒスパニックから圧倒的な支持
であることが分かります。
さて、ここから導き出せる分析の結論は、トランプ支持者のほうが結果的に投票に行くだろう、ということです。
・若者よりも年配者は投票率が高いこと
・オバマと比べてヒラリーでは有色人種の投票率が下がること
は選挙を知っていれば分かることです。そして、
・共和党に親和性があるキューバ系ヒスパニックの動向がフロリダでは鍵になること(選挙直前にキューバ系ヒスパニックからの支持率に関してトランプがヒラリーを抜かしました)
・今回の両陣営の選挙キャンペーンによって白人労働者の投票率が上がること、
も明らかでした。意味がある情報を選別してデータ内容を細やかに精査すれば十分に導き出せる仮説です。
さらに、共和党・民主党の予備選挙時の参加者数を分析すると、
数字で分かる!トランプの大統領選挙・勝利の方程式とは(2016年5月7日)
予備選挙時から共和党陣営は盛り上がっていましたが、民主党陣営は平常運転以下の状況だったことが分かります。本選挙にインパクトを与えるだけのトランプ支持者数が存在することは既に予備選挙時に確認済であり、予測を外した有識者が「隠れトランプ支持者」なる都合が良い存在をでっちあげるのは論外です。
したがって、大前提として接戦州ではトランプ及びヒラリーの支持率差は誤差の範囲に収まっていたことを確認した上で、上記の定性的な要因を加味していくことで支持者の実際の投票行動についてトランプ氏に有利に働くことは十分に予測することができます。
つまり、有識者とされた人々は「選挙のど素人以下」だから、世論調査や情勢分析から意味がある仮説が立てられなかっただけのことです。
筆者は日本国内で数え切れない選挙に関わり、米国共和党系の選挙プログラムを受講した経験から上記のことは比較的簡単に予測できました。選挙に馴れた人ならその程度の票読みができることは常識的なことです。
有識者の言い訳ってのは本当に見苦しいものだなと改めて実感した
一般の人々が分からないだろうと思って、有識者とされる人々は「世論調査の精度」に難癖をつけて弁明していますが、それは大きな間違いです。彼らは本来は「自分の分析力の無さ」を恥じるべきであり、速やかに謝罪をするべきでしょう。プロ(専門家)を自称しているのだから当たり前です。
有識者サークル内で皆がヒラリー優勢だと言っているから、メディアを使って反論できないトランプ支持者を安全圏からボロクソに叩いていただけのことなのです。これはBrexitの時にも同様に見られた現象(インテリンチ)と共通しています。
英国EU離脱は「インテリンチ(Intelynch)」が原因
特定の有権者層(たとえば白人労働者)をスケープゴートにしてディスるだけの無価値なイジメ的な言論はエリートのお仲間内だけでやってほしいものです。世の中にまで間違った分析をばらまかれると、国際情勢を勘違いした首相が最後に落選する大統領候補者に選挙前に訪問するような国益を損ねる事態が発生します。
日本の対米関係の有識者の選定は見直されていくべきであり、予備選挙・本選挙で両方とも外したような人たちがいまだにメディアでトランプ政権について解説していることに違和感を覚えています。
<渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)の最新著作のご紹介>
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本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年11月05日
米国保守派の定例会議「水曜会」について説明する
<全米税制改革協議会(ATR)グローバー・ノーキスト議長@水曜会)
某ネット記事が炎上中?で自分も名前を出されて若干巻き込まれているため、この際だから「自分が何をやっているのか?」「ワシントンD.Cで開催される水曜会はどのようなものか」について紹介記事を書いておこうと思います。
全世界の自由主義者とのネットワークへの紹介者としての役割
筆者は米国流の保守主義(≒自由主義)の考え方を持つ人を増やすことを是としており、世界中の自由主義者の人々とのネットワークを構築しています。
そして、米国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フランス、イギリス、オーストリア、オーストラリア、中東諸国、その他諸々の団体と連携し、日本人の希望者に日本ではほぼ学ぶことができない自由主義の考え方に触れる機会を提供しています。
数年前に筆者が同ネットワークと接点を持った時点で日本は自由主義者の国際的な枠組みからは完全に置いていかれた存在となっていました。
関係者からのヒアリングによると、筆者が関与する以前に日本国内に海外から様々なアプローチを行ったものの、東大を頂点とする半社会主義コミュニティの皆様に間違ってアプローチしたために骨抜きにされてきた経緯があると伺っています。
日本の長期不況は経済政策の根本的な発想が与野党ともに縁故資本主義か社会主義でしかなかったことに起因しており、本当の意味での自由主義的な経済政策が実行されてこなかったことにあります。(自民党の縁故資本主義が新自由主義であるという頓珍漢なガラパゴス左翼言論が蔓延っている原因もここにあります。)
非常に残念なことですが嘆いても仕方がありません。そのため、現在は学生・国会議員スタッフ・経営者まで基本的な理解力がある方がいれば人材として選別した上で海外に渡航する場を設けています。
筆者の連携先には下記に述べる米国共和党関係者の人々だけでなく、アジア・欧州各国で現政権とも深い関係を持つ先なども存在しており、世界各国の必要な人材へのアクセスが可能となっています。
水曜会は米国共和党保守派の中心地・登竜門としての機能を持つ場
ワシントンD.Cに存在している全米税制改革協議会(共和党最大の支持母体の一つ)は筆者の連携先の一つです。主に米国中の保守系グラスルーツが集合する週1回のミーティングである「水曜会」を主宰しています。
水曜会は米国共和党保守派の関係団体の重鎮らが顔を並べているため、大統領候補者のスタッフや連邦議会議員などが保守派のグラスルーツからの支持を受けるために日参しています。同会はメディア完全非公開で議事内容・出席者についても部外者には原則は他言しないことになっています。
実際の運営は、グローバー・ノーキスト議長がテンポよく発言者を回していき、発言者が提案する内容への良否・支援の有無などを決定していく形となります。発言者にとっては米国共和党系の保守派の人々との付き合いを深めていくための登竜門のような空間だと言えます。
日本人でも紹介者がある場合は水曜会に出席することが可能であり、過去には国会議員・有識者とされる人々が参加してプレゼンの機会が与えられています。(ちなみに、日本人の国会議員・有識者は発言がコロコロ変わるために原則として信頼されていません。同会議出席後に増税に賛成してみたり、保守派への罵詈雑言を並べる人々ばかりだから(笑))
筆者は紹介者の一人として米国の保守主義が理解できる人を出席者としてエンドースする役割を担っています。水曜会でプレゼンを行った方々は興味を持った保守派の大物たちに声をかけられます。彼らとネットワークができて道が開けた各個人の進路は各々の判断で歩んでもらうことにしています。
そのため、今回の某メディアに掲載されたように同会に人物を紹介することは良くあることであり、今回の単一ケースのみの文脈で記事紹介されることはどうかなと感じています。
ガラパゴス化した日本の政治・メディア、世界の政治のネットワークに伍する人材の育成を
今回の大統領選挙においてはメディア・大学によるトランプ氏に対するバッシングは劣悪を極めています。米国のリベラルと仲良くしていても一方的な情報源からのインプットに偏ることになり、世界の趨勢について考察するために不十分な状況となっています(もっともトランプ氏については保守派からも厳しい意見は多いとは思いますが・・・)
日本の政治・メディアは完全にガラパゴス化しており、留学などでリベラル派と繋がりを得た英字新聞が読めて論文を翻訳できる程度の人が有識者として大きな顔をしています。しかし、現代の日本に本当に必要なことは世界の政治的な思想の対立について理解し、それらの深い洞察に基づいて行動できる人物を創り出すことです。
筆者の願いは世界の対立軸の一つである自由主義の思想を正しく理解できる人を日本からも見出していくということです。これは困難な道かもしれませんが、筆者の考え方に理解がある人達と幅広く連携して推進していきたいと思います。
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トランプ大統領誕生で米国経済は好景気になる
トランプ大統領誕生は米国経済の浮揚に向けた切り札として機能する
政策音痴な識者たちによって「トランプ大統領が誕生した場合、経済にとってマイナスに作用する」という言論が行われています。しかし、それらのポジショントークの言論は経済政策の常識から考えて明らかに間違っています。
本日はヒラリーとトランプ氏の経済政策を比較することで、11月8日の米国大統領選挙後に経済がどのように推移していくのか、について予測を行うことにします。従来までの米国通とされる識者らが「実は政策をほとんど見ていない」で米国メディアの猿真似で論評していることが良く分かると思います。
ヒラリーの社会主義政策、トランプの減税&景気刺激政策の優劣は明らか
まず最初に基本的事項として確認して置くべきことはヒラリー・トランプ両氏が「何党」の代表者かということです。そして、言うまでもなく、ヒラリーは民主党、トランプ氏は共和党の指名候補者です。
ヒラリーを擁する民主党は企業活動や富裕層に対して厳しく規制強化・増税路線の政党だと言えます。更に、今回の大統領選挙でヒラリーはサンダース支持者を取り込むために左寄りの政策を採用せざるを得なくなっています。
富裕層への増税、企業への課税強化、金融機関への規制強化、TPPへの反対など、経済活動に制約を加える政策のオンパレードです。もちろんヒラリーはクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)の権化なので、それらの政策はいずれも骨抜きになるかもしれませんが、現状においては経済フレンドリーな候補者ではありません。
そして、ヒラリー大統領の下で何よりもオバマケアをはじめとした社会保障制度を強化していくことになるでしょう。ただし、社会保障費の増大が経済成長の足枷になることは既に日本で証明済のことです。
一方、トランプ氏を擁する共和党は企業活動や富裕層にフレンドリーな規制緩和・減税路線の政党です。
たしかに、今回の大統領選挙では減税路線についてはトランプ氏・共和党の政策は共同歩調であるものの、両者の方向性が必ずしも全てが一致しているわけではありません。
トランプ氏は大型のインフラ投資に向けた財政出動を標榜しています。そして、財源としては予備選挙段階では巨額の軍事費支出について言及する場面もありました。TPPなどの自由貿易に反対す方針についても明確に述べています。これらは従来までの連邦議会を牛耳る共和党と対立する政策だと言えます。
ただし、筆者はそれらの政策的齟齬は大統領・議会の間で深刻な対立にはならないものと推量します。トランプ氏と共和党にとってはオバマケアなどのオバマ時代の社会主義的政策を廃止することが重要であり、トランプ氏の政策に反対すること自体の優先順位は高くないからです。
そのため、財政規律に関しては減税・財政出動・軍事費の折り合いをつける形でなし崩しとなり、米国経済の景気過熱が拡大していくものと推測します。また、トランプ大統領誕生時には上下両院は共和党が多数を占める可能性が高く規制緩和に関しては議会主導で粛々と進んでいくものと思います。
政策音痴の勘違いは無視、米国は一瞬の株安・ドル安後に株高・ドル高に向かう
上記のように、ヒラリーの経済政策は経済成長を阻害する要因が多く含まれており、トランプ氏の経済政策は景気を過熱させる要素が盛り込まれていることが分かります。
オバマ政権からの安定性という観点からトランプ大統領誕生の瞬間には一時的に株価などの経済指標が悪化するかもしれませんが、中長期的にはトランプ大統領の政策によって米国は株高・ドル高に向かうことになるでしょう。
筆者は「トランプ氏の自由貿易を阻害すること・巨額の財政出動を実施すること」には極めて懐疑的な立場ではあるものの、経済成長という観点からは民主党よりも共和党の方が優れた政策を掲げていると理解しています。したがって、共和党指名候補のトランプ氏と共和党主導の連邦議会によって妥当な経済政策が採用されていく可能性は十分にあります。
「トランプ大統領で米国経済は長期不況に突入し、世界経済にもトランプ・ショックが甚大な被害を与える」という類の妄言は杞憂に終わることでしょう。ヒラリーとトランプ、どちらの経済政策を良しとするかによって、その人が政策音痴かどうか明確に分かると思います。
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2016年11月03日
米国大統領選挙・選挙人予測「トランプ勝利のシナリオ」
<Battle for White House(11月3日現在)、RCPから引用>
「支持率じゃなくて選挙人数が大事なんだよ・・・」という人に向けて説明
米国の大統領選挙は全米支持率ではなく各州に割り振られた選挙人数の獲得合計で争うことになります。そして、過半数(270議席)を得た陣営が大統領選挙での勝者ということになります。
直近数日の間でトランプ氏の全米支持率がヒラリーを上回る数字が出てきたことで、ヒラリー万歳派の日本人有識者らが「支持率じゃなくて選挙人数だから」という言い訳を始めています。今まで散々「支持率で論評しきてた」のにご都合主義「ここに極まれり」ですね。
しかし、残念ながら、その選挙人数の獲得予測でもヒラリーはトランプ氏に激しい追撃を食らっており、RCPの選挙人予測で日々数字を落としています。同予測でヒラリーは一度過半数を獲得しましたが、その後大きく選挙人数を失っている状況です。
選挙人数予測から考える「トランプ勝利のシナリオ」
現在の選挙人数の予測はヒラリー226・トランプ180でヒラリーが有利な状況となっています。しかし、接戦州に分類されている州の中でトランプ氏が有利な州が複数存在しています。
現状の支持率で推移した場合、バージニア13はヒラリー陣営、オハイオ18、ネバダ6、アイオワ6、アリゾナ11、はトランプ陣営に転ぶ可能性が高い状況です。したがって、実際にはヒラリー239・トランプ221が妥当な現状分析でしょう。
フロリダ、ノースカロライナ、ペンシルバニア、コロラド、ニューハンプシャー、メイン(2)は激戦中であり、どちらの陣営に軍配が上がってもおかしくない状況です。
トランプ氏が勝利するためには、フロリダ29、ノースカロライナ15、ニューハンプシャー4、メイン(2)1で270人の選挙人を獲得するというシナリオが最も妥当なシナリオでしょうか。ペンシルバニア20やコロラド9を陥落させた場合、形勢は一気にトランプ大勝利に流れていくことになるでしょう。(支持率を参考にするとトランプ氏のニューハンプシャー勝利は若干厳しいため、現実的にはコロラドが重要になるものと思います。)
上記のシナリオは現状の各州における支持率を見ている限りでは不可能ではありません。
鍵となるフロリダ州ではキューバ系移民からのトランプ支持が増加したこともあり、トランプ氏に有利な世論調査結果が出始めています。大票田であるフロリダがトランプ陣営の手中に入った場合、トランプ勝利の選択肢は大きく拡がることになります。
ヒラリー陣営は崩れ落ちる牙城を支え切ることができるのか?
選挙最終盤を迎えてヒラリーの獲得選挙人数予測の数字は下落し続けています。トランプ氏に比べて大量の広告費を投入して選挙戦を行ってきたヒラリー陣営にとってショックは隠しきれないものでしょう。
ヒラリー陣営は既に大統領選挙を勝利したものと看做して接戦州での対応を怠り、トランプ氏による徹底した反撃に対して後手に回った状況に置かれています。まさにエスタブリッシュメント特有の慢心と驕りによって、トランプ陣営の窮鼠猫を噛む攻撃に苦しめられる結果となったと言えるでしょう。
ヒラリー優位の残りの州の中で、ウィンスコンシン州とミシガン州は比較的崩れる可能性がありますが、ヒラリー陣営も流石にこれ以上は止血すると思います。そのため、上記の接戦州での勝敗こそが大統領選挙の勝敗を左右することになると言えるでしょう。
ちなみに、ヒラリー・トランプの獲得選挙人数が269VS269となった場合、連邦下院議員の投票によって大統領が選ばれることになります。連邦下院議員は共和党多数がほぼ確定的であるため、ヒラリー寄りの議員らが造反しなければトランプ大統領誕生ということになります。
開票日まで1週間を切っている米国大統領選挙ですが、両者の鎬を削る戦いは熱くなる一方です。毎日、米国で何が起きるのか目が離せません。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年11月02日
トランプ大統領誕生時、「日本の米国研究者」というリスク
< Abe urges TPP approval in meeting with Clinton in New Yorkから引用>
トランプ支持率急上昇、ヒラリーは予測獲得選挙人数が減少
トランプ氏の支持率が急速に改善しつつあり、ヒラリー陣営のRCPの獲得選挙人予測も減少しつつあります。勝負の予測はもはや選挙当日にならないと分からない状況となっています。(筆者はヒラリー支持の若年層比率の高さからトランプが逆転できる可能性はあるものと予測しています。)
このような伯仲した選挙戦になることは支持率、特に接戦州の支持率調査を見ていればある程度は予測できました。
ヒラリー支持の各種メディアの発表よりも毎日発表される世論調査の数字を追いかけることで、米国政治の専門家でなくても状況を把握することが可能な状況があります。
トランプ大統領誕生時の最大のリスクは「ヒラリー万歳に偏った日本の米国研究者」たち
ところで、トランプ大統領誕生時の日本外交のリスクはトランプ氏自身にあるわけだけではありません。最大のリスクは「日本の外交チャネルの一部を担ってきた米国研究識者」たちです。
トランプ陣営も含めて米国政界では東アジア情勢に対する関心は中東・ロシアと比べて高くありません。そのため、トランプ大統領が誕生した場合、トランプ氏に対する東アジア各国の国内世論の情勢について再調査することが想定されます。
我が国の米国通とされる識者たちは、共和党の予備選挙段階からトランプ氏を「泡沫扱い」するような言動を繰り返してきました。そして、最近に至るまでヒラリー万歳の姿勢でトランプ氏に対して罵詈雑言に近い論評を発表し続けています。
筆者は個人としてのヒラリー支持が悪いと言っているわけではなく、メディアが登場させる「識者」とされる人々のヒラリー支持への傾斜ぶりが危険だと思っています。
これら日本の米国通とされる識者は予備選挙段階から予想を外し続けていますが、それでも米国側から見た場合、彼らの意見は日本の識者の見解の総意に見えるからです。トランプ陣営のスタッフがそれらの人々のせいで「日本の政府関係者はここまで反トランプなのか」と驚くことになる姿が想像できます。
対米外交の観点から見た場合、日本の大統領選挙関連の論評はかなりバランスが悪い状況だと言えるでしょう。
大統領選挙の結果が出る前に「ヒラリー支持を間接に打ち出した日本政府」というリスク
安倍首相は9月下旬にヒラリーと面会してTPPについてプッシュすることに成功しました。ヒラリー自身はTPPに選挙上は慎重な姿勢を取っているため迷惑だったかもしれませんが、安倍首相が大統領選挙の片方の候補者に間接的に支持を表明したことになります。(当然ですが、TPPの要望を行うことはヒラリーが大統領になることが前提だからです)
これはトランプ氏の全米的な猛追の可能性を予測できず、メディアや米国通の識者を妄信した安倍政権の暴走とも言える外交的な一手だったと思います。
同会談に関してはヒラリーの外交ブレーンであるカート・キャンベル氏が「(安倍総理は)より良い日ロ関係は利益になると説明した。クリントン氏は『戦略的な見識を受け入れる』と答えた」と内容を暴露しました。つまり、北方領土交渉で喉に刺さった骨になる米国側の了解がほしい安倍政権の外交的な賭けだったわけです。
しかし、現実にはヒラリーはトランプ氏に猛追されており、万が一トランプ氏が勝った場合に本件は外交的な大失敗ということになるでしょう。
キャンベル氏の発表直後にトランプ氏の外交アドバイザーであるフリン氏を来日させて意見交換していますが、このような対応を実施してもトランプ氏からの心証が良いはずがありません。
国の命運を賭けた外交は万が一を考えて慎重に行うべきものです。一か八かの賭け事のようなやり方に賛同できませんし、これも日本国内の米国研究識者らの意見の偏りが招いたリスクだと思います。
トランプ大統領が誕生した場合、日米外交のパイプは極めて希薄なものになる
米ブッシュ前政権で国家安全保障会議アジア上級部長を務めた知日派のマイケル・グリーン氏らはトランプ氏に対して批判的であり、ヒラリー寄りの発言を繰り返しています。
日本の米国通とされる国会議員・識者らはグリーン氏のような従来までの米国とのパイプしか持っておらず、トランプ陣営との繋がりは脆弱なものとなっています。これらの国会議員の中には大統領選挙中のトランプ氏を公然と批判するような事例も存在しています。
筆者はトランプ陣営に関与している安全保障関連のスタッフに面会する機会を得ましたが、同スタッフによると日米の外交的な関係は極めて希薄なものになっているとのことでした。
このような状況を招いてきたのは、ヒラリー万歳のポジショントークに終始し、トランプ陣営との外交チャネルの構築を怠ってきた既存の対米外交関係者の責任です。更に言及するならグリーン氏らのお馴染みの人々だけでなく、共和党・民主党の更にディープなレベルにまで恒常的に関係性を築いておくべきです。
まだ見たこともないトランプ外交をリスク扱いする以前に、日本政府及び米国研究の識者らの外交チャネルの偏りこそが最大のリスクになっていると思います。
仮にトランプ大統領が誕生した場合、従来までの外交チャネルを全面的に見直し、対米外交の在り方そのものを根本的に改革することが重要になるでしょう。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。