2016年11月

2016年11月29日

なぜ、安倍首相はヒラリーのみと会談したのか?

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<The Japan Times から引用>

逢坂誠二・衆議院議員から提出された「9月に行われた安倍・ヒラリー会談に関する質問主意書」に対する政府からの回答がありました。質問主意書への回答は政府の公式見解ということになりますが、その内容は極めて問題の根が深いものとなっていることが分かります。


衆議院議員逢坂誠二君提出ヒラリー・クリントン候補重視の日本外交の問題意識に関する質問に対する答弁書


<逢坂議員の質問>

一 安倍総理が、九月の訪米時にドナルド・トランプ氏とは面談せず、ヒラリー・クリントン氏とだけ面談した理由は何か。政府の見解を示されたい。
 
四 政府は、ヒラリー・クリントン氏の当選が濃厚だとの見通しを持っていなかったのだとすれば、なぜ首相の九月の訪米時に、ヒラリー・クリントン氏とだけ面談したのか。政府の見解を示されたい。

<政府の回答>

一及び四について

平成二十八年九月十九日(現地時間)に行われた、ヒラリー・クリントン前米国国務長官による安倍内閣総理大臣への表敬は、同前米国国務長官側の発意を受け、調整し、実現したものである。ドナルド・トランプ氏からは安倍内閣総理大臣への表敬に関する提案はなされなかったため、同氏の表敬は実施されなかったところである。

<解説>
政府は安倍・ヒラリー会談はヒラリー側からの申し出があったために調整したとしています。そして、トランプ側からは表敬の申し入れがなかったとしています。つまり、同面談が受動的なものであったことが明示されています。


<逢坂議員の質問の続き>

二 九月の安倍総理の訪米時、ドナルド・トランプ氏と面談することを意図し、政府はトランプ陣営への働
きかけを行った事実はあるか。政府の見解を示されたい。

三 政府は、ヒラリー・クリントン氏の当選が濃厚だとの見通しを持っていたのか。見解を示されたい。

<政府の回答>

二及び三について

御指摘のような事実はない。


<解説>
ヒラリーに会うために米国を訪問するにあたって、バランスを取るためにトランプ陣営に働きかけた事実はない、と回答しています。

しかし、11月11日産経新聞によると「実は日本政府はこのとき、トランプ氏側にも会談を申し入れていた。結果的に本人は出てこなかったが、安倍首相はトランプ氏のアドバイザーの一人で投資家のウィルバー・ロス「ジャパン・ソサエティー」会長と会談している。ロス氏はこのとき、こう話したという。」とされています。

政府答弁が嘘をついているのか、産経新聞が飛ばし記事を書いたのか。両方が正しいとした場合、トランプ氏に元々会うつもりも無かったが、トランプ陣営の一人でジャパン・ソサエティーの会長であるウィルバー・ロス氏には個人的に会っておこうと考えたということだろうか。

<逢坂議員の質問の続き>

五 次期米国大統領にはドナルド・トランプ氏が就任するが、この間のヒラリー・クリントン氏だけを重視した日本外交は誤った見通しに基づいていたのではないか。政府の見解を示されたい。

六 米国大統領選挙の結果が出るまでは、ヒラリー・クリントン氏だけを重視する結果となったことは、情報収集と分析能力に課題があると思われる。米国における在外公館の情報収集活動や分析、さらには日本外交の前提となる政府内での情報収集や分析能力には課題があるのではないか。政府の見解を示されたい。

七 米ソ冷戦期および冷戦終結後という時代のレーガン政権からG・H・W・ブッシュ政権の終わった一九九三年以後、米国では二大政党による政権交代が繰り返され、民主党あるいは共和党の政権が連続して三期以上続いたことはないと承知している。その事実を踏まえれば、民主党のオバマ政権の次には共和党政権が誕生する可能性は低くないということは容易に推測できる。日米外交に携わる専門家であれば、当然踏まえておくべき認識であろう。それにもかかわらず、オバマ政権の次にヒラリー・クリントン政権が誕生すると推測し、ヒラリー・クリントン候補重視の日本外交の基本姿勢には、基本的な問題意識の欠如があるのではないか。政府の見解を示されたい。

<政府の回答>

五から七までについて

政府としては、ドナルド・トランプ陣営及びヒラリー・クリントン陣営双方との関係を早い時期から構築してきたところであり、「ヒラリー・クリントン氏だけを重視」したとの事実及び「オバマ政権の次にヒラリー・クリントン政権が誕生すると推測」したとの事実はなく「情報収集や分析能力には課題がある」及び「日本外交の基本姿勢には、基本的な問題意識の欠如がある」といった御指摘は当たらない。

<解説>
両陣営に人脈も持っており、ヒラリーを重視した事実はなく、情報収集や分析能力に課題はない、基本的な問題意識の欠如もないとの回答。

上記の回答を総合して考察すると「政府としては情報収集と分析能力は万全で、ヒラリーから打診が会ったから会っただけで、トランプ陣営には何も打診せず、元々繋がりがあったウィルバー・ロス氏だけは個人的に面談した。ヒラリーを重視していたわけではない。したがって、日本外交の基本姿勢に問題はない」ということになります。

<同時期に米国を訪問したイスラエルのネタニヤフ首相はヒラリー・トランプ両方に会っている>

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比較事例として米国に安倍首相と同時期に訪問したイスラエルのネタニヤフ首相はヒラリー・トランプ両氏に会っていることも紹介しておきます。

ユダヤ人国家という特殊な条件はあるものと思いますが、大統領選挙期間中に候補者の両方に会うことが当然の対応であることが分かります。

イスラエルはイラン核合意などで米国と関係が冷え込む中で、今年3月にオバマ大統領との面会することを取りやめるとともに、大統領予備選挙に干渉する印象を与えることを避けるため、ネタニヤフ首相の訪米日程を一旦キャンセルしていた経緯があります。

しかし、大統領選挙の最終盤に機を見て敏に共和・民主両候補者に面談する機会を持ったこと、そして両候補者からイスラエル寄りのコメントを引き出したことで、同国の卓越した外交力は示されたことになります。

自らの主張を通すために米国相手に駆け引きを行い、そして見事に果実を得る外交だと言えるでしょう。

<日本政府の問題点は「判断力」の欠如だった>

イスラエル政府が情報収集・分析能力に長けており、ネタニヤフ首相の判断力が極めて優れたものだったことは明らかです。

ウィルバー・ロス氏に個人的に面談したから「手を打っていた」という言い訳のリーク記事を新聞社に書かせて国民世論を誤魔化しつつ、正式な政府答弁で答えられない程度の対応しかしていなかった国とは違います。

逢坂議員の質問主意書に対する日本政府の答弁には大きな問題があります。

仮に政府の答弁通り、トランプ・ヒラリー両陣営との人脈を構築し、ヒラリーを重視した事実もなく、情報収集や分析能力に問題が無かったなら、「まともな対応を行ったイスラエルとの差」はどこから生まれたのでしょうか。

両者の差は「判断力」の差であったということが言えるでしょう。

つまり、この問題は「ヒラリーが会いたいと言ったから会いに行った」という受動的な姿勢、自分で外交的な意思決定を判断できない、という外交姿勢以前の根本的な問題だということです。

そして、米国大統領に就任する可能性がある前国務長官に呼びつけられたら、一国の首相が慌てて訪米するような「判断力の欠如した従属外交に問題が無い」という政府答弁に日本人の誇りはあるのでしょうか。

私は一人の日本人として、今回の政府答弁の内容に驚きを覚えました。同内容を公開すること自体に疑問を持たない現政権は日本人の代表としての誇りを問い直されるべきでしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



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百田津田論争に見る「ヘイトスピーチ規制」慎重運用の必要性

百田尚樹

津田大介

百田・津田論争の問題の本質とは何か

筆者は百田氏の趣旨に賛同するものではありません。これはゴシップ的な推測みたいなものであり、同氏の発言に品が無いというだけの話だと思います。

ところが、この百田氏の発言に対してジャーナリストの津田氏が上記のような反応を示してTweetしたことで、本件は一気に炎上することになりました。

津田氏の主張はTwitterルール上の「特定の人種、性別、宗教などに対するヘイト行為: 人種、民族、出身地、信仰している宗教、性的指向、性別、性同一性、年齢、障碍、疾患を理由とした他者への暴力行為、直接的な攻撃、脅迫の助長を禁じます。また、以上のような属性を理由とした他者への攻撃を扇動することを主な目的として、アカウントを利用することも禁じます。」に抵触するというもの。

百田氏のTwitterがこのヘイト規制に当たるかどうかは議論があるところですが、本件では百田氏の発言を燃やすはずだった津田氏の発言もまとめて炎上するという事態が発生しています。それは何故でしょうか。

ヘイトスピーチ規制派が既に権力・体制側になっているということ

この問題の本質は「ヘイトスピーチ規制派が既に権力・体制側になっている」という自覚が足りないことによって起きています。

2016年6月に自民党すらも賛成する形で「「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が施行されてました。世論調査でも依然として賛否が分かれる・どこまで「不当」とするか議論が残る法律ではあるものの、民主主義における多数決(議決)によって立法府がヘイトスピーチを許さないという意志を示した形となっています。

しかし、この法案成立によって「ヘイトスピーチ規制派は従来までのように安易にヘイト認定する」ことは慎まなくてはならなくなったことを同時に意味しています。

なぜなら、既に彼らの側には政府がついていることになり、一個人が持つことが出来ない政府の非常に強力な力を陰に陽に利用できる環境が整えられたことになるからです。

そのため、従来までのように軽はずみに他者をヘイト認定することは、逆に権力の濫用行為として国民から厳しい目にさらされることになっていくでしょう。ヘイトスピーチ規制派は法律が成立したことで自らが責任ある批判される側に立ったことを踏まえて発言するべきです。

メディアやコメンテーターのエスタブリッシュメント化への危惧

筆者も少し前にテレ朝系の番組に一つ出演させて頂いたのですが、番組趣旨としてはトランプ氏のTwitter利用を欧州各国の極右政治家(&維新の橋下氏)の利用になぞらえて問題視するものでした。

筆者はメディア出演のペーペーなので適当に呼ばれた形ですが、上記のような偏ったものの見方に合わせなければ大手メディアに出続けられないとするなら非常に残念だと思っています。教条主義的な右寄りの考え方は持っていませんが、保守派とされる人々を無理やり貶める大手メディアの報道の在り方に個人的には引きました。

大手メディアは常に反体制を気取ってきましたが、もはや額面通りにその姿勢を受け止める人は少ないでしょう。

記者クラブや政府リークを通じた御用メディア化は言うに及ばず、コメンテーターのポリコレ化について権力・体制的な既得権(エスタブリッシュメント)だと受け止めている人も多いと思います。

報道・論調として何を流す・流さない、という第四の権力を持った人々への不信が強まるな中で、メディア関係者が政府または類似の規制機関の権力濫用につながる発想を公にすることへの忌避反応が出ることは当然です。

Twitterは一私企業であるため、実際のTwitterルールの適用は同社が判断すれば良いことですが、津田氏の発言の中に、多くの人が「権力の濫用の萌芽を見た」ことが炎上原因ではないかと思います。

権力・体制側は自らの力の行使に慎重であることが求められる

もちろん、津田さんも悪意があってやっているわけではないと思います。そして、百田氏の発言もゴシップ的な要素が強かったかもしれません。

しかし、今回の件では、多くの人にとっては「著名な一個人が何を言うか」ということよりも「メディアに頻繁に登場するジャーナリストが他者の発言について規制権力(Twitter社)に適用案件であることを指摘する」ことに脅威を感じたことは確かでしょう。

上記に指摘した通り、現在の世の中は自民党ですらヘイトスピーチを規制する法を通す世の中であり、言論的な大勢は既に決まっていると言えます。

百田氏の「在日外国人云々」という趣旨に賛同する人は少数であり、大半の人は「メディアの報道内容に対する不信」「ヘイト規制が濫用されることへの違和感」を示しただけのように思われます。

従来までのようにヘイトスピーチに関して敵対者を批判する行為だけでは体制・権力側に立った後は済まないということです。

昔の自民党が野党やメディアに何を言われても鷹揚に構えていたように、ヘイトスピーチ規制派も自らの発言や力の行使に慎重になるべきだと思います。

大半の国民は、主流ではない一個人の意見よりも、政府・メディアを背景とした権力の実質的な行使(及びその示唆)、のほうが自らの自由を制約することを知っています。

体制・権力側は安易に刀を抜かないからこそ権威が付加されるものです。ヘイトスピーチを規制する側も自分たちの置かれた立場の認識の見直しが必要になっていると思います。




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yuyawatase at 12:26|PermalinkComments(0)国内政治 | 社会問題

2016年11月25日

北方領土・プーチンがミサイルを配備した理由

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<内閣府HPより引用>

安倍外交は国際情勢の急速な変化についていけていない

安倍外交・完全崩壊、運命が逆回転を始めた日(2016年11月16日)
トランプ氏に「借り」を作った安倍・トランプ会談(2016年11月19日)

トランプ大統領誕生後に日本を取り巻く国際情勢に関する記事を2つほど作成しました。

筆者の見解通り、11月19・20日でAPEC首脳会談でロシアは北方領土交渉に関するハードルを上げるとともに、安倍・トランプ会談でTPPをトランプ氏に直接念押ししたにも関わらず、11月21日にはトランプ氏はビデオレターでTPP離脱を再び宣言しました。

上記のような記事を公表した当日には現役・元国会議員などの様々な方々から「お前の見解はおかしい」というご指摘を頂きましたが、地球儀を俯瞰する視点に立てば筆者の見解が妥当であったこと、はその後の顛末によって証明されたものと思います。

現在、日本政府の外交的な見通しの当てが外れて、安倍首相が右往左往している姿が連日報道される状況となっています。

世界各国はトランプ大統領を前提としたプランで動き始めていますが、安倍外交はこれまでのサンクコスト(埋没費用)に溺れており、慣性の法則にはまって頭の切り替えができていないだからです。

米国の経済制裁解除がロシアのナショナリズムに与える影響

ロシアが急激に北方領土交渉で態度を硬化させた理由は、トランプ大統領による経済制裁解除の見込みが極めて高いものとなったことと密接に関係しています。

プーチン政権を支えるロジックは「反米ナショナリズム」です。しかし、米国の経済制裁が解除されることが予見されることで、プーチン大統領は自らの存在意義について改めて問われる状況が生じています。

米国からの経済制裁によってロシアは反米ナショナリズムが盛り上がるとともに、各種国内産業保護のために産業振興のための補助金をばら撒いてきました。これらのナショナリストや補助金を受けている人々がプーチン政権を支持している人々です。

しかし、米国による経済制裁解除によって、プーチン氏を支えるはずの反米ナショナリズムと産業保護のための補助金は大義を喪失することになります。反ロシアの米国と欧米の経済制裁という共通の敵が突然いなくなることで、プーチン大統領は多民族国家ロシアを統治するための新たなナショナリズムを必要とする状況となっています。

したがって、領土返還交渉は米国経済制裁という特殊条件下で発生した周回遅れの話であり、プーチン政権の関心は一歩進んだ先の出来事への対応に注がれています。

プーチン政権にとって方向性を失ったロシアのナショナリズムを無駄に刺激する領土返還交渉を進めることは好ましい選択肢ではなくなったと推測するべきでしょう。

択捉島・国後島にミサイルを配備するというロシアの配慮

北方領土返還交渉において四島返還は最初から見込めないことは明白です。たとえ、領土が返還されても歯舞・色丹の二島ということになるでしょう。むしろ、現在のロシアの国内情勢に鑑み、ロシア側からの提案は共同経済開発のみという結果に終わる可能性が極めて高い状況となっています。

ロシア軍の機関紙によると18日段階で択捉島・国後島の二島にミサイルを配置した旨が発表されています。多くの日本人は、インタファックス通信による報道がAPECの日ロ首脳会談後であったことから、同会談後にミサイルが配備されたと錯覚していますが、実際には日ロ首脳会談前に二島にミサイルが配備されていたことになります。

そのため、安倍首相の「簡単ではない」というコメントは上記の状況を踏まえた上での発言だったと推察します。(逆にミサイル配備を把握していなかったとしたら、その情報収集能力には著しく問題があると思われます。)

一方、ロシア側としては択捉島・国後島のみの軍事力を強化することで、ロシア国内のナショナリズムに配慮しつつも、日本側に領土交渉に対する希望を残すように見せる配慮を行っています。

日本の政府関係者がミサイル配備と平和条約交渉は関係が無い、とコメントしているのは、このロシア側からの間接的なメッセージに可能性を見出しているからでしょう。

安倍政権が対ロ外交で取り得る3つの選択肢について

安倍外交が取り得る選択肢は下記の3つのように思われます。

(1)領土交渉を希望的観測に基づいて推進し、ロシアとの経済共同開発・経済協力を進める。
(2)領土交渉は事実上失敗したものと看做し、ロシアとの経済共同開発・経済協力を棚上げする。
(3)北方領土に新たに配備された軍事的脅威に抗議し、北海道周辺で軍事演習を実施する。

おそらく安倍政権は(1)の路線を推進することになるでしょう。従来までの対ロ交渉は官邸主導で実施しているため、同交渉が日本国民から失敗したように見えることは政権基盤を揺るがしかねないからです。

万が一、ロシア側が領土交渉で譲歩してくることに期待したい気持ちも分かります。絶好調から急激に転び始めたギャンブラーのような状況ですが、安倍政権の思惑通りに事が上手く進めば非常に素晴らしいことだと思います。

(2)の路線は国際情勢の変化に対してある程度配慮した理性的な選択肢であるよう思います。上述の通り、トランプ大統領誕生で米ロ関係が変化することで、ロシア側の国内事情も大きく変化することが予想されるからです。

従来までの日ロ交渉のサンクコストを一旦清算した上で、新たな環境を踏まえた仕切り直しを行うことは妥当な選択と言えるでしょう。ただし、この選択肢には「安倍外交の失敗」という官邸にとってのリスクが生まれるために選択として取りづらいものと思われます。

(3)の路線は通常の国家の対応としては当然の措置です。自国領土を射程に収めるミサイルが配置されたことに抗議し、軍事力を持って対抗的措置を取ることは通常の対応です。そして、そのような強い態度こそが相手からの妥協を引き出すための交渉術だと言えます。

しかし、ミサイル配備報道後の安倍政権の腑抜けなコメントは保守政権とは思えないレベルのものであり、政権としては国民の生命・財産よりも政権の面子を優先して(1)の路線を取る方向で進んでいることが分かります。

安倍首相には「真に地球儀を俯瞰する外交」が求められている

トランプ大統領誕生が国際情勢に与える影響は極めて多層的なものであり、日米関係、日中関係、日ロ関係などの二国間外交の発想では情勢変化についていくことは困難だと思われます。

安倍外交の発想は、米国の意向を踏まえた上での二国間外交、そして対中包囲網という視点にこだわり過ぎています。およそ地球儀を俯瞰する外交とは言えず、米国の目線に配慮する外交でしかありません。そのため、肝心要の米国における政権交代が発生した変化についていけない結果となっています。

米国大統領選挙直後に安倍首相がトランプ氏に慌てて会いに行く段取りをつけている間に、ロシア側は日本との窓口であるウリュカエフ大臣を拘束しつつ、北方領土へのミサイル配備を行ってAPECでの日ロ首脳会談に備えていました。両国の間で見えている世界のレベルが違うことは明らかでしょう。

安倍首相は「真の地球儀を俯瞰する外交」を推進するために、まずは足元の首相官邸に散らかっているサンクコストを見直すべきです。




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yuyawatase at 13:29|PermalinkComments(0)国内政治 | 社会問題

2016年11月24日

ヒラリーがトランプを全米得票数で上回った本当の理由

無題


全米総得票数でヒラリーがトランプを上回っても無意味

大統領選挙の全米総得票数でヒラリーがトランプ氏を上回る結果となりました。この一事をもってヒラリーに民主的な正統性があるかのように主張する人々がいます。

しかし、重要なことは「ヒラリーは選挙に負けた」ということです。

民主主義国家では、選挙の前提として法律によってルールが設けられており、各候補者はそのルールに従って選挙活動を行っているという当たり前の現実があります。

ヒラリーがトランプ氏に総得票数で上回って選挙人数で負ける、という構図については「ふーん」という参考値程度の話題でしかなく、殊更取り上げて重要視するほどの意味はありません。

選挙活動はルールに最適化された戦略に基づいて実施される 

選挙はルールが決まった民主主義の試合です。そして、完璧なルールは存在せず、その時点で人々が妥当と認めているルールで行われることになります。そのため、事前に決められたルールを熟知した上で、各候補者陣営によって勝利に向けて最適化された戦略が採用されます。

米国大統領選挙は各州ごとに割り振られた選挙人の過半数を獲得する競争です。そのため、既に過去の記録から勝敗が決定している州よりも、スウィング・ステイト(接戦州)と呼ばれる州の勝敗で決着がつくことは誰の目から見ても明らかなことです。

当然、トランプ・ヒラリー両陣営ともに同じルールの中で選挙を行います。したがって、本来であればヒト・モノ・カネ・情報を戦略的に接戦州に投下してくことになります。そして、戦略の良否は最終的に各州における得票数に反映されることになります。

民主党陣営の選挙は「死ぬほど下手くそだった」ということ

ヒラリー陣営はトランプ陣営に比べて選挙キャンペーンに圧倒的な資金を投入しましたが、最終的な選挙人数獲得数でトランプ氏に大敗北を喫することになりました。

しかし、全米での得票数はヒラリーがトランプ氏を上回った状況となっています。これは何故でしょうか。

各州ごとに最終得票数を比較してみた場合、両者の得票差はカリフォルニア州の得票差によって生まれたものであることが分かります。

全米得票差は200万票差でヒラリー勝利、カリフォルニア州の得票差は400万票差でヒラリー勝利(同州のヒラリー総得票数802万票)です。つまり、ヒラリーの全米得票数での勝利の要因はカリフォルニア州による得票差で説明可能です。

しかし、カリフォルニア州でヒラリーが勝つことは世論調査上元々揺るぎない状況でした。そのため、同州でヒラリーが大量得票をしても選挙戦全体には何の影響もありません。

むしろ、2012年のオバマVSロムニーのカリフォルニア州での得票差は300万票(ヒラリー総得票数785万票)なので、ヒラリー陣営の選挙は西海岸で勝敗に関係が無い無駄な盛り上がりを見せていた、ということが言えます。

ヒラリー陣営は2012年オバマと比べて、アリゾナ、ジョージア、テキサス、ネバダ、フロリダなどで獲得票数を大幅に伸ばしていますが、ネバダ・フロリダ以外の得票増は完全に戦略ミスだったように思われます。

投票日近くのヒラリーの動きを見ても従来までの共和党の鉄板(レッド・ステート)をひっくり返すため、ジョージアやアリゾナにヒラリー自らが足を踏み入れて集会を実施していました。

これは勝利を確信していたヒラリー陣営が歴史的大勝を狙った驕りの表れでしょう。最終的な結果はそれらのレッド・ステートは従来通りの共和党(トランプ)勝利となり、ヒラリーの積極的な選挙キャンペーンは人材・時間・資金の全てをドブに捨てたことになりました。

トランプ陣営の各州選挙結果に見る試合巧者ぶりについて

トランプ陣営の選挙戦略は各州ごとに検証すると極めて明確なものだったと評価できます。

トランプ陣営の得票結果を見ると、ヒラリー優勢が明白であったカリフォルニア州を完全に捨てていたことが分かります。同州でトランプ氏は2012年のロムニーよりも65万票近い得票減という憂き目にあいました。しかし、カリフォルニア州はどうせ負けることが分かっていたため、トランプ氏にとっては大統領選挙の勝敗とは何の関係もない得票減でしかありませんでした。

また、その他の州でもトランプ氏がロムニーと比べて得票数を減らしたほぼ全ての州は元々民主党・共和党の勝敗が決している州ばかりでした。これらの州に勢力を投入しても結果は変わらないので、実に見事な手の抜きぶりであったと思います。

つまり、トランプ氏は、勝敗に関係がない州からの得票を減らしつつも、勝利に直結する州についての得票は着実に増加させていた、ということになります。これはトランプ陣営がメリハリをつけた選挙戦略を採用しており、その結果が得票数という形で如実に表れたものと推測できます。

また、トランプ陣営は費用対効果が不明瞭なテレビCMではなく、費用対効果が明白なネット広告に当初から予算を大きく割いてきたことも大きな勝因の一つとなったものと思います。

以上のように各州の得票数から、戦略と集中、という経営学の教科書のような選挙をトランプ陣営が行ってきたことは明らかになりました。大手メディアが支援するヒラリー陣営の惰性的で驕慢に満ちた選挙戦略とは明確な違いがあったと言えるでしょう。

総得票数で勝負する選挙でもトランプは勝利していただろう

何度も言いますが、選挙はルールが決まった民主主義の試合です。トランプ陣営はヒラリー陣営よりもルールを熟知した上で優れた選挙戦略を実行しました。

筆者は「全米の総得票数を争う選挙」であったとしてもトランプ陣営が勝利したものと予測します。冒頭にトランプ氏が自身のTwitterで述べていた通り、トランプ氏がカリフォルニア、NY、フロリダでのキャンペーンに力を入れれば大幅に得票が増えたことは明白だからです。

上記の通り、ルールを熟知した試合巧者が勝利するゲームが選挙です。

「総得票数が多い者が勝つ」というルールならば、トランプ陣営の優秀なスタッフは総得票数で勝利とするために最適な戦略を採用し、ヒラリーを上回る得票を獲得する戦いを行ったことでしょう。

選挙人獲得競争のルールの中で、総得票数で上回って選挙人獲得で負ける、ことが意味していることは1つです。それは、ヒラリーの選挙戦略を立案したスタッフが無能であり、トランプ陣営はヒラリー陣営と比べて極めて優秀だったということだけです。

以上のように、「総得票数でヒラリーが勝っていた!民主的正統性がトランプに欠けるのでは?」という疑問は、選挙というルールを前提にした場合は愚問だと言えるでしょう。事前に決められたルールの中で候補者がベストを尽くす、民主主義社会における選挙とはそういうものだからです。





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2016年11月21日

なぜ、朝日新聞はウソをついてまでトランプを叩くのか

朝日新聞

<朝日新聞社ロゴマークから引用>

朝日系有識者の「小学生の作文」並みのトランプ叩き

トランプ氏を低所得者層が支持するカラクリ(2016年11月21日・国末憲人朝日新聞GLOBE編集長)という文章を拝読させて頂きました。筆者の感想としては事実誤認・偏見・教養不足に基づく極めて劣悪な論稿だと思います。

「トランプ氏は、金持ちなのになぜ庶民から人気を得るのだろうか。エリートに対する羨望の眼差しと権威はなぜ失墜してしまったのか。もしかすると、トランプ氏はアメリカ人が一度失ってしまった「安心感」を持っているのかもしれない。」という解説文からスタートする時点で正直クラクラしてきます。

トランプ氏をポピュリスト、大衆をポピュリストに従う無知な存在として描く「インテリンチ」の典型にもはや失笑するしかありません。、上記の論稿には「勘違いしたエリート」が裸の王様であることを指摘された逆切れのような文章が並んでいます。

大統領選の「インテリンチ」の空気に飲まれていた人へ

トランプ氏を支持した人々は中・高所得層、しかも必ずしも低学歴に限らない

そもそも国末氏の認識は根本的に誤っています。トランプ氏に投票した層は中所得層よりも上に属する人々が大半です。トランプ氏は従来までの共和党支持層からの支持を獲得することに最終的に成功しています。

トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)

したがって、そもそもトランプ勝利を低所得者層によるポピュリズムの産物と位置付けるような言説はウソです。むしろ、年収3万ドル以下の低所得者層はヒラリー支持者が圧倒的に多く、国末氏が馬鹿にする低所得者はヒラリーに投票した人々だと言えます。同氏がご自身の所得と比べて、5~7.5万ドル(500万円~750万円)の共和党の中核的な支持層も低所得というなら話は違うかもしれませんが。。。

また、上記の世論調査や選挙後の出口調査発表を見ても明らかなように、トランプ氏は高学歴者・高所得者層からも一定の支持を受けています。トランプ氏の経済政策はヒラリーよりもビジネスフレンドリーな政策が盛り込まれており、経済政策を重視する「政策が理解できる人」もトランプ氏に投票しています。その中には学歴だけで単純に比較しても国末氏よりも高学歴者も多数含まれていることでしょう。

さらに、今回の大統領選挙についてはスカリア最高裁判事の後任を事実上選ぶ意味合いもあり、学歴・所得に関わらず、保守的な信条を持った人々もトランプ氏に投票したものと思います。そのような個人の思想信条を軽視してポピュリズムと切り捨てる行為は、自由と民主主義の敵だとすら言えます。

米国においてヒラリーに偏向したCNNなどの大手メディアの報道が選挙結果によって否定された理由は、欧米版の「朝日的なモノ」が「自由と民主主義を大切に思う」多くの人々に敵として認知された結果だと思われます。

そもそも共和党をマルクス主義に基づいて分析する思想的な浅薄さを恥じよ

さらに、国末氏の論稿には、思想的な浅薄さ、米国政治思想についての無理解も表れています。

共和党は米国の保守主義に立脚した政党であり、彼らの依って立つ思想は「マルクス主義」とは対極を成すものです。したがって、共和党または共和党指名候補者を所得階層に基づくイデオロギー的な分析によって説明すること自体が無理がある行為ではないかと考えます。

自らの置かれている経済環境への不満から格差の是正などを訴える人々は「共和党ではなく民主党」に投票します。ラスト・ベルトのブルーカラーが経済的な不満によってトランプに投票した、と言われる説は米国の底流に流れる政治思想を軽視するものです。

多くのメディアや大学研究者は唯物的な分析手法に染まっているため、それらと全く異質な存在である共和党及び同党支持者への適切な説明ができていないように見受けられます。

実際に共和党の保守派の人々と話せば直ぐに理解できることですが、彼らは自身の所得階層とは関係がなく、「政府からの自由を尊ぶ」傾向があります。

彼らは減税・規制廃止などを重視して政府からの干渉を嫌うだけでなく、アファーマティブアクションなどの政府によって人為的に作られた区別にも反対します。また、不法移民や為替操作などの不公正な行為に対しても敏感な反応を示す傾向があります。

仮に自らの苦境を凌ぐだけの意見表明であれば民主党に投票して政府の保護下に入るべきでしょう。わざわざ共和党指名候補者を支持・投票する理由はありません。

米国民は結果の平等ではなく「公正さ」を求める選択肢として共和党を支持するのです。共和党は米国の保守主義(≒自由主義)に立脚し、人間の自主独立の精神を尊ぶ人々の政党です。

このような考え方は米国内に所得に関係なく広く浸透しているものであり、同党を人々が支持する理由を経済環境だけで語ることはナンセンスです。

国末氏の論稿は上記のような米国政治の基礎的な要素を無視したものなので論外だと言えるでしょう。自らの理解を超えた投票行動を行う米国の有権者に接した際に、彼らとロクに会話も観察もせずに人々を見下すだけのエリートには一生分からない話かもしれませんが・・・。

朝日新聞は国民を卑下する「選民思想」に立脚したメディアに過ぎない

朝日新聞の思想の本質は「エリートである自分たちが無知で哀れな大衆を保護する」というものです。

そのため、今回の米国大統領選挙で「本来は朝日的なモノを支持するべき層=無知な低所得者」が自分達エリートを否定することの屈辱に耐えられないのでしょう。ヒラリーを支持したエスタブリッシュメントに自らを重ね合わせて言葉を綴る姿は醜悪だとすら言えます。

大新聞のオフィスや大学の研究室で暮らす人々から「無知で可哀想な存在」として描かれて、実際には彼らの商売のネタとして生きていくことに人々は飽き飽きとしています。人間は彼らのモルモットではなく自由意志を持った存在です。

今回の大統領選挙で自由と民主主義の敵へと変質した現代のメディアがSNSを中心とした大衆の声によって打倒されたことは慶事です。

今後日本でも「朝日的なモノ」=選民思想を倒す、自立した国民の声が湧き起こることに期待しています。







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2016年11月20日

休眠預金活用法案の法案内容に反対する

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<休眠預金活用法案とは>

休眠預金活用法案とは、10年以上使用されていない銀行口座等から資金を預金保険機構に移し、内閣総理大臣が指定した指定活用団体が預金保険機構に移された資金の運用を任されて、民間のNPO法人などに資金を助成・貸付することを求める法案です。
 
2016年の臨時国会で衆議院を通過して参議院での法案審議となっています。しかし、同法案の内容には疑問が多く、筆者はこのような新たな利権を生み出す法案が制定されることに強く反対します。

具体的には、法案中の下記の内容

・基本理念に意味が分からない都市差別条項が入っている
・利用使途が限定され過ぎて特定団体への利益誘導に近いものになっている
・約800億円と言われる休眠口座資金を扱う指定活用団体のガバナンスが極めて不透明なものになっている

に疑問を感じますし、そもそも私人間の取引に政府が介入することは控えるべきだからです。

筆者はNPO法人が民間の寄付などを通じて公益的な活動を実践していくことは大いに振興されるべきという考えを持っています。しかし、同法案を具体的に読み込んでみると、NPOを支援する健全な寄付文化や行政からの独立性などを阻害する可能性を秘めたものではないかと感じています。

以下、具体的な法案内容の疑問点について触れていきたいと思います。(法律案要綱法律案はこちら)

<休眠預金活用法案の意味が分からない基本理念規定>

休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本理念には、

「第一六条四 休眠預金等交付金に係る資金の活用に当たっては、これが大都市その他特定の地域に集中することのないように配慮されなければならないこと。」

という項目が入っています。この都市差別条項は何でしょうか。この法案は地方への利益誘導を目的としたものなのでしょうか。私は東京に住んでいますが、このような条項が盛り込まれた法案には断固反対します。

同じ基本理念には、

「第一六条三 休眠預金等交付金に係る資金の活用に当たっては、これが預金者等の預金等を原資とするものであることに留意し、多様な意見が適切に反映されるように配慮されるとともに、その活用の透明性の確保が図られなければならないこと。」

と書いてありますが、内容如何に関わらず「地域」によって交付するか否かを決める旨が法案に盛り込まれている時点で、透明性の確保など絵に描いた餅でしょう。上記の非合理な規定が盛り込まれた法文がある限り、地方に対する配慮が透明性を確保された形で行われるとは思えません。

<休眠預金資金の利用使途があまりにも限定されている>

休眠口座活用法案は第17条で休眠口座の資金のバラマキ先として下記の項目を指定しています。

・子ども及び若者の支援に係る活動
・日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動
・地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動
・①~③までに準ずるものとして内閣府令で定める活動
しかし、総則の目的(第一条)には、

・この法律は、休眠預金等に係る預金者等の利益を保護しつつ、休眠預金等に係る資金を民間公益活動を促進するために活用することにより、国民生活の安定向上及び社会福祉の増進に資することを目的とすること。

そして、基本理念(第一六条)には、

・休眠預金等交付金に係る資金は、人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することとなるもの(以下「民間公益活動」という。)に活用されるものとすること。

としか規定していません。

「国民生活の安定向上及び社会福祉の増進」がいつの間にか「子育てNPO」のような特定目的の資金配分団体のためのものに制限・変質しています。法案中に言及している要素があるとしたら、強いて言うなら人口減少や少子高齢化への言及がそれにあたるのでしょうか?法案の目的・理念からはより幅広い分野の活動が対象になってもおかしくないと思いますし、何故支援先となる非営利活動の内容をここまで特定の目的に絞ったのかが分かりません。

これでは同法案に関係する特定分野の団体への利益誘導だと思われても仕方がありません。同利用使途に限定した理由をもう一度周知するべきでしょう。

<新たな利権を生み出す「指定活用団体」の存在>

更に第二十条で休眠預金資金約800億円の利用使途は内閣総理大臣が指定する「指定活用団体」が決めることが出来るとされています。

「内閣総理大臣は、民間公益活動の促進に資することを目的とする一般財団法人であって、2(1)の民間公益活動促進業務(以下「民間公益活動促進業務」という。)に関し次に掲げる基準に適合すると認められるものを、その申請により、全国に一を限って、指定活用団体として指定することができること。」

この法案内容で問題になる点は全国で「たった1つの指定活用団体」が選ばれるということです。

指定活用団体の活動内容について健全な運営が行われているかどうかを測るためには、複数の比較対象になる団体が存在しているほうが望ましいです。同法案は複数の指定活用団体による健全な競争の存在を否定し、指定活用団体の切磋琢磨によってより良い支援先を選定していくガバナンスを行うインセンティブを軽視しています。

内閣総理大臣が「たった1つの指定活用団体」に資金を任せる先を限定する理由は何でしょうか。

この指定活用団体のガバナンスについて政府が計画を審査するから良いというような言い訳に国民は騙されるべきではありません。同団体が内閣府からの天下り先と関係者らによるNPO団体等への権力装置になることは目に見えています。そのような状況が生まれる要素を強く持った指定活用団体による資金の独占構造は、政府からの非営利活動の独立性を中長期的に脅かす存在となるでしょう。

基本理念にも「多様な意見が適切に反映されるように配慮されるとともに、その活用の透明性の確保が図られなければならないこと。」と明記されていることから、せめて同法案は「指定活用団体」は複数設定できるものとし、特定の人々に資金使途の選択に関する権限が集中し過ぎないように配慮するべきでしょう。

<私人間の契約に土足で踏み込む法案>

同法案では、口座に預けた預金の引き下ろしを本来の預金者が求めた場合、預金保険機構から支払われる仕組みが導入されています。

しかし、そのときには既に同預金は上記の指定活用団体に受け渡された後になっているため、その費用負担は預金保険機構に資金を提供している銀行等(つまり、預金者・銀行株主)と納税者の負担となっています。

銀行預金者や納税者などはこのような負担について認めているわけではありません。もちろん、同法案の内容が国民に十分に周知されて国会で成立したというフィクションを経ることは可能ですが、上記のような法案の問題点について国民が理解しているとは到底思えません。

それにも関わらず、安易に「長年使用していないお金だから」「債権放棄の期間が過ぎたものだから」という理由で、現在は求めに応じて銀行から返還される事実上の私有財産を勝手に他人に交付するような法案を通すことは極めて問題だと思います。このような私人間の取引に土足で踏み込む法律の前例を作るべきではありません。

<衆議院での質疑で提起された宮本徹議員の問題提起>

実は同法案の衆議院の質疑で共産党の宮本徹議員からも問題提起がなされています。詳細はこちらか見てください。(第190回国会財務金融委員会第18号

宮本議員からは、

・私有財産に触れる法案を作るには国民への周知徹底が十分に進んでいない。法律が成立してから周知するというのは違うのではないか。
・NPO法で規定されている二十分野ではなく三つの分野を限定的に列挙されていることはなぜか。
・「社会の諸課題を解決するための革新的な手法の開発を促進するための成果に係る目標に着目した助成等その他の効果的な活用の方法を選択すること」という資金配分条件は地道な活動をしている団体を排除するのではないか
・、休眠預金等活用審議会の委員だとか指定活用団体の役員や職員に、資金配分を受ける団体、資金分配団体や民間公益活動を行う団体の役員、関係者が入ることが法律上排除されておらず、なぜ利益相反を避ける仕組みを法文上書かないのはなぜか(赤い羽根は同様の規定がある)

など、至極まっとうな問題定義が行われましたが、法案提出者側はシドロモドロの答弁をして話を誤魔化しています。同法案については国会においても問題が指摘されていることを国民は認識すべきです。

<銀行が休眠口座に関する事前取り決めを行うべきだ>

以上のように休眠預金活用法案には、法の趣旨も然ることながら、その法案内容にも問題がある欠陥法だと思います。

銀行口座にある休眠口座の預金をどうしても何らかの形で活用したいならば、個々の銀行が長期で使用されていない口座については銀行のCSR活動に利用する旨を最初から明示し、預金者との間で口座開設契約を結ぶべきでしょう。

上記のように特定の団体への非合理な利権誘導を正当化するような法案内容のままで、休眠預金活用法案が制定されることに疑問を感じざるを得ません。

<参議院での賛同議員はこの人たち>

上記のような問題や疑問が残された法案について参議院で推進している議員は下記のとおりです。心ある有権者の皆さんは下記議員事務所に疑問点を問いただされると良いのではないかと思います。せめて上記の疑問くらいは解消した上で法案を審議するべきではないでしょうか。

坂井 学 衆議院議員 自民党
山本朋広 衆議院議員 自民党
谷合正明 参議院議員 公明党
岸本周平 衆議院議員 民進党
大塚耕平  参議院議員 民進党
平木だいさく  参議院議員 公明党










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2016年11月18日

トランプ氏に「借り」を作った安倍・トランプ会談

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<首相官邸HPから引用>

外務省が己の失敗をリカバリーするために行われた会談

安倍首相・トランプ氏のニューヨークにおける会談は穏やかな形で終わった模様です。現段階では両者が話す内容も特に無いでしょうから予定通りといったところでしょう。

筆者は大統領選最中の9月にヒラリーにだけ会った外交上の失策で面目を失った外務省が自らの立場を挽回するためにセッティングしたものと推測しています。安倍首相としてもヒラリーとだけ面談した稚拙な外交について世論の批判が噴出する前に火消しを図りたかったことでしょう。

評価としては「とりあえず、「早めにトランプ氏に会っておくべき」という場当たり的な対応ではあるものの、同会談は行わないよりはマシというぐらいでしょうか。

しかし、トランプ氏側から見ると、この会談は特に行う必要は無いので「日本側はトランプ氏に対して借りを一つ作った」ことになります。したがって、「取引」を重視するトランプ氏に早くも一つ得点を取られた形になりました。

外務省の誤った判断によるツケを払う結果になったと言えるでしょう。

国務省長官が決まる前に訪米して面談することは意味があるのか?

面談時間は約1時間半だったということですが、事前にアジェンダが詰まっていたわけではないと思われます。したがって、会談内容は本当に挨拶程度のものだったと捉えるべきでしょう。

国務長官すらまだ内定していない状況の中で外交的な話が進められるわけがありません。

一方、同会談にはトランプ氏の娘婿夫婦が同席されていたことばかりが注目されていますが、トランプ氏が信頼する外交アドバイザーであるフリン氏も参加していました模様です。

この事からフリン氏は今秋に来日して日本の対米外交関係者と懇親した経緯もあり、今後もトランプ政権における対日政策のキーマンとなることが分かります。今年春に書いた記事にもフリン氏に関しては簡単に触れさせてもらいました。同氏は腕利きの情報機関出身者です。

トランプを低評価するか否かは「情弱」のリトマス試験紙だ(2016年2月28日)

同氏はネオコン及びオバマ政権の中東政策と鋭く批判した人物であり、選挙が終了した後もトランプ氏の外交政策面で重要なアドバイザーとして留任していることになります。安倍・トランプ会談自体というよりもフリン氏が参加していたことはトランプ政権の外交方針を推し量る意味で重要だったと思います。

今回はほとんど意見を交わすこともない挨拶程度の参加だったと思いますが、大駒の意図というものは周辺の動向から自然と悟ることができるものです。

安倍首相とメルケル首相を比べる愚説は何の意味もない

一部にはドイツのメルケル首相の発言などと比較し、安倍首相の行動を批判する声もありますが、それらは失笑ものの勘違いだと思います。批判のための批判は建設的なものとは思えません。

欧州諸国も渋々ではあるものの、トランプ大統領就任後は自らの発言を顧みる必要が出て来ることになるでしょう。他国が大統領選挙を行っている最中に、各国首脳が片方の候補者を批判する外交的な非礼を繰り返してきたのは欧州諸国のほうです。

ロシアの脅威を目の前に抱える欧州諸国(特にドイツ)と中国の脅威を目の前に抱える日本では外交的な立場も全く異なるものです。その意味で安倍首相は下手をうったので早急にリカバリーを行うことは日本の国益を考えるなら当然の行為です。

また、トランプ氏は民主主義の手続きで選ばれた人物であり、しかも経済的には自由主義的傾向が強い共和党大統領です。そのトランプ氏と会談することは何らおかしなことではありません。左翼運動家には不快かもしれませんが、単なる民主主義国同士の実質的なトップ会談です。

むしろ、欧州諸国は自国の中で台頭するファシズム勢力を責任を持って抑える責任があり、他国の大統領に対して論評している場合ではありません。欧州の人々には是非頑張ってほしいものだと思います。

安倍・トランプ会談に関する総括、トランプ氏に借りができてしまった日本政府

筆者の見解は下記の通りです。

・今回の会談はヒラリー単独会見の失敗から外務省の面子をリカバリーするためのものだ
・安倍首相も単独会見の国内からの批判を回避するために迅速な行動を行う必要があった
・トランプ氏側には同会談を行うインセンティブは無いので、日本はトランプ氏に「借り」を作る形になった
・フリン氏が同席していたことは今後の対日政策の方向性を推察できる情報であった
・日本とドイツは立場が全く異なるので、両首相の発言・行動を比較することは無意味な行為

今後、日本政府は余計な「借り」を他国に作らないようにインテリジェンス能力を高めてほしいです。









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2016年11月17日

トランプ政権におけるオルト・ライト(右翼)について

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(Breitbart News Networkのロゴ)

大統領選挙を通じて俄かに注目されたオルト・ライトという存在

2016年の大統領選挙を経て、オールド・ライト、ニューライト、ネオコン、リバタリアンなどの従来までの共和党陣営に属する思想的系譜の枠組みに収まりきらない「オルト・ライト(右翼)」という存在が注目されました。

このオルト・ライトは従来までの理論化・体系化された思想とは違い、非常に雑多な主張の寄せ集めのような形で世間に表出してきたとされています。ネット発の分散化された運動であって、既存のポリティカルコレクトネス(ポリコレ)へのアンチテーゼを提示して挑発・嘲笑を繰り返すことに特徴があります。

今回の大統領選挙では、オルト・ライトのたまり場である「ブライトバート」のスティーブン・バノンがドナルド・トランプ陣営の選挙対策本部責任者に就任していたことから、その思想性・関係性などがリベラル陣営から批判の的となってきていました。(実際にはブライトバートには強烈な内容も掲載されますが、2014年のピューリサーチ研究所の調査によると、読者層の約8割は中道右派の人々とされています。)

日本でもオルト・ライトの存在が指摘されるや、鬼の首を取ったかのように左派系の有識者らがその問題性を指摘し、トランプ氏に対する誹謗中傷を徹底的に行ってきた経緯があります。

理論化・体系化されていない「オルト・ライト」は政策に反映されることはない

筆者はオルト・ライトの主張には基本的に与しない自由主義の立場です。しかし、多くの有識者とされる人々のように「無駄なことを徒に騒ぎ立てる」ようなことは好みません。

なぜなら、「オルト・ライト」が提示するアンチテーゼとしての主張は現実の政策過程において具体的な政策に落とし込むことが極めて困難だからです。

政策が形になって実行されていくためには「正統性」が必要となります。そして、正統性は理論化・体系化によって提供されるものであって、リベラルな政策に対する単純な反発衝動は政策にはなりません。

また、「オルト・ライト」にはシンクタンクが策定した具体的な政策集も存在しないため、既存のリベラル政策の撤廃という以外には何ら意味を持たないものでしょう。

日本でも「反対!反対!」と叫んでいるだけの政治運動では行政の仕組みを変えることはできません。米国においても事情は同じだと理解するべきです。

共和党・トランプ大統領政権下で実現されていく政策はどのようなものか

かつては共和党の伝統的な保守層も政策立案能力が欠落しており、仮に政権を奪取した場合でも民主党の分厚い利権構造に対抗する具体的な能力を持っていませんでした。

しかし、これらの伝統的な保守層が自らの理念を明確に有していたため、その理念の理論化・体系化などを実行することが可能だったことで、共和党陣営(特に保守派)は民主党陣営への政策対抗力を高めることができました。

具体的には、ヘリテージ財団のような優れたシンクタンクを立ち上げることで、民主党陣営寄りの大学・政府機関などに対抗できる人材を育成し、ホワイトハウス及びキャピトルヒルの共和党メンバーをバックアップする体制を構築してきた経緯があります。

これらのシンクタンクから共和党関係者に供給されるポリシーペーパーの価値は非常に高いものです。

そして、民主党が構築した税制・規制を解体するため、優れたシンクタンクのフィルタリングを経ることで、適切な形で正統性を有した理念とプランとして落とし込まれることになります。

そのプロセスの中でオルト・ライトの実現不可能な主張は振り落とされていき、健全な形での政策が大統領・議会に承認されて行くことになるでしょう。 したがって、オルト・ライトの過激な主張を過度に取り上げることは徒に問題をこじらせて複雑化させるだけで実質的な意味はありません。

エモーショナルな選挙運動の時間は終わりました。これからは立法・行政のフェーズにステージが移ることになります。この期に及んでいつまでもトランプ政権・共和党の上下両院を印象論でしか語れないレベルの有識者の意見は忘れましょう。

既にトランプ氏及び共和党のHPでも多数の政策が公開されており、共和党系のシンクタンクからも様々なペーパーが発表されています。今後、私たちに求められることは現実的な政策を冷静に見定めることです。



トランプ思考
ドナルド・トランプ
PHP研究所
2016-06-24








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2016年11月15日

安倍外交・完全崩壊、運命が逆回転を始めた日

写真:覚書を交換する世耕経済産業大臣とウリュカエフ経済発展大臣
<経済産業省HP・覚書を交換する世耕経済産業大臣とウリュカエフ経済発展大臣>

北方領土交渉のキーパーソン・突然の逮捕劇が起きた!

本日ロシアの連邦捜査委員会によって、ウリュカエフ経済発展相が国営石油会社を巡る収賄容疑で身柄を拘束されました。同人物は世耕・ロシア経済分野協力担当大臣(経済産業大臣)のカウンターパートとして日ロ関係のキーパーソンとなっていた人物です。

ウリュカエフ大臣が身柄を拘束されたことで、日本側が望む北方領土交渉は完全に暗礁に乗り上げる形となり、既に約束した対ロシア経済協力の果実のみをロシア側に提供するだけ状況になる公算が高まりました。

報道ベースではあるものの、世耕大臣のコメントを見る限り、日本政府はこの事態を全く予見できていなかったのではないかと推測します。そして、この致命的な外交ミスも米国大統領選挙と密接に関係したものと言えるでしょう。

トランプ大統領で米ロ関係が改善、用済みになった日本は捨てられた形に

トランプ大統領は予てから中東地域、つまり米国にとって最も厄介な地域での対ロ協調を打ち出してきました。そして、現実にトランプ大統領が誕生した以上、当面の間は米ロ関係はオバマ政権時代と比べて友好的な関係が続くものと思われます。

一方、日本は外交的な情報能力不足から「ヒラリー大統領誕生」を前提に様々な外交交渉を進めてきたように見受けられます。ヒラリー陣営に所属していたカート・キャンベル氏が「安倍・ヒラリー会談時に日本側が意図している日ロ関係改善についての大筋を認めた」趣旨の発言をしていました。

ロシア側にとっては日ロ関係の改善は、米国によるロシア包囲網を切り抜けるための重要なカードであり、経済協力と引き換えに北方領土問題で妥協する可能性は十分にあったものと思います。

ただし、それはヒラリー政権が誕生して米国がロシアに対して引き続き厳しい立場を取り続ける可能性がある場合のケースです。

トランプ勝利が決まったことによって、米ロ関係が二国間レベルで改善してしまうことで、ロシアにとって日本の位置づけは相対的に低下することになります。そのことを端的に示した事件が上記のウリュカエフ大臣の身柄の拘束です。ウリュカエフ氏は今月予定されているAPECで世耕大臣に会う予定になっていましたが、日本側は完全に梯子を外された形になりました。

日本エスタブリッシュメントの頭の中、致命的な外交失敗を引き起こした頭の中
 
安倍政権の外交政策の基本方針は対中包囲網であったように思われます。

歴史修正主義のイメージを払拭して米国の支持を取り付け、南シナ海でASEAN諸国と結んで中国に対抗し、インドに巨額の支援を約束して抱き込む、最後に北方領土問題を前進させて、中国を四方八方から抑え込むというイメージです。

しかし、このような対中包囲網の発想は、日本のエスタブリッシュメント独特の極東の島国の外交センスでしかありません。なぜなら、世界の基本的な外交状況は中国の脅威にそれほど重きを置いていないからです。

国際政治の基本的な構図は、米ロ対立の構図、そして中東地域におけるテロとの戦いです。米国のシンクタンクの外交文書でも東アジアに触れる量の何倍もの分析がロシア・中東に対して行われています。

中国をロシアや中東よりも安全保障上の脅威として上だとみなしている米国の専門家は少数でしょう。一部の日本をヨイショしてくれるような都合が良い米国のカウンターパートから情報収集をしているから、木を見て森を見ずの外交政策が実行されてしまうのです。

そのため、対中包囲網という枠組みは、米ロが激しく対立している状況においては、ロシア側の思惑(日米同盟の切り崩し)によって有効に機能しているかのように見えましたが、実は掌の上で踊らさられていたということが言えそうです。

南シナ海においてもフィリピンをはじめとして、安倍外交が作り上げた中国封じ込めの枠組みは崩れつつあり、韓国でも政権が転覆して日韓合意のレガシーが破棄される可能性も高まっています。まさに、世界情勢は大きく変動しつつある状況です。

このように米国によるロシア包囲網の枠組みが偶然に日本の中国包囲網の枠組みとリンクしたことで、安倍外交はここまで実に見事な成果をあげてきましたが、この年末にかけて運命は逆回転の道をたどることになるでしょう。
 
外交失敗によって日本国内で政変が起きる可能性も高まった

安倍外交の失敗は日本国内における自民党内でのパワーバランスの変更を迫ることになるかもしれません。国内では民進党が非常に弱体であるため、選挙による政権交代が発生する可能性は極めて低いものと思います。

しかし、自民党内では今年の参議院議員選挙・都知事選挙を通じて反主流派の力が増加している状況があり、安倍首相をはじめとした政権主流派の影響力が外交的な失敗によって低下することで、党内のパワーバランスが崩れて政変に繋がる可能性もあるのではないかと推測します。

日ロ関係で大見得を切った安倍外交は北方領土問題で成果を挙げられるかどうかで成否が問われる状況となりました。トランプ氏の親ロ的方向性から意外と前向きに話が進む可能性もありますが、プーチン大統領が利用価値が下がった安倍首相を引き続き必要とするかどうかは分かりません。

来年のトランプ政権の本格稼働によって米国のエスタブリッシュメント人脈に依存した安倍政権の限界が更に露呈していくことなるでしょう。日本は一気に危機的な状況に立たされた状況となっています。








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2016年11月14日

大統領選挙・日本を覆いつくした米国メディアのソフトパワー

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大統領選挙・日本を覆いつくした米国メディアのソフト・パワー

米国の大統領選挙に関して日本人は当然投票権を持っているわけではありません。しかし、多くの人が米国大統領選挙に関心を持っていたことも事実です。そして、大半の人がヒラリー勝利を確信していたものと思います。

実際にはヒラリー勝利は「米国メディがそう報じたこと」以外はほとんど無根拠な予測でしかなく、トランプ氏がヒラリーを破ったことで皆が幻想を見せられていたことが分かりました。このことについて筆者は散々論じてきたので今回は割愛します。興味ある人はこちらまで。(なぜ有識者は「トランプ当選」を外し続けたのか?

今回、筆者が伝えたいことは、巨大なメディアを有している国のソフトパワーについてです。

ソフトパワーは元々ジョセフ・ナイ(クリントン大統領時代のブレーン・知日派)によって提唱された通貨、文化、その他諸々多様な要素を含む国力の新しい概念でした。そして、この概念はグローバル社会におけるハードパワー(軍事力)に匹敵する力として様々な批判を浴びながらも定着したものになっていると思います。

今回、米国大統領選挙に関する日本の様子を見ていて、筆者が感じたことは「この国は簡単に米国のプロパガンダにやられる、ソフトパワーとしては三流国なのだ」ということです。

日本のメディアは米国の報道を垂れ流し続けて何の疑問もなく、そして国内からもほとんど報道内容がおかしいという検証もなされないわけです。ヒラリー万歳報道に散々騙された挙句、更に米国メディアの「かくれトランプ支持者」なる言い訳報道を何の検証もなく鵜呑みにしているわけです。オレオレ詐欺が無くならないわけだとしみじみします。

まさに文化的・メディア的な植民地状態を露呈した有り様であり、米国のメディアが持つ影響力は日本にとって非常に脅威だと感じました。

米国エスタブリッシュメントの代弁者としての日本人有識者という存在

さらに、単純に日本のメディアが米国メディアの丸写しであるというだけでなく、そこに登場する有識者の大半も米国エスタブリッシュメントの代弁者に善意によって自然となってしまう構造があります。

それらの有識者とされる人々は官僚・学者・メディアの人間ですが、彼らは米国滞在中に大学・メディア・役人などの極めてリベラルな人たちと接触する機会を多く持つことになります。

そして、日本人は米国政治における基礎的な政治教育を受けることないので、先方のエリート大学などに留学して教育を受けてすっかりリベラルに染め上げられてしまいます。更に、ハーバードをはじめとした米国のエリート大学の中でエスタブリッシュメントとの人間関係が出来上がります。

彼らが米国の友人に聞いたとか、米国でヒアリングしたとか、という際に接触しているのは、リベラルなエスタブリッシュメントばかりなので情報にバイアスがかかります。

そのため、これらの人々が日本のメディアに出て解説を行うことでメディアの偏りが一層加速する形になります。これは陰謀説というよりも、人間ってそういうものだよね、っていう話だと思ってください。彼らが悪いというよりも構造上仕方がないことなのです。

こうして米国エスタブリッシュメントの無自覚な代弁者が出来上がっていくものなのです。筆者は一方に偏り過ぎた情報のみが真実として日本に入ってくることには強い疑問を感じます。

米国のように優れた大学などの教育機関を有していると、世界各国から人材を受け入れてネットワークを作ることができるという「ソフトパワー戦略の見本」を示してくれているとも言えますが。。。

なぜ米国民の半数は強力なメディアキャンペーンに屈しなかったか

私たちのような外人(日本人)がすっかりヒラリー大統領だと思い込まされていたにも関わらず、米国では何故半数の人々がヒラリーを拒絶するような不屈の精神を発揮できたのでしょうか。

それは共和党系のグラスルーツ(草の根団体)による政治教育の結果です。米国共和党系の保守派グラスルーツは長年のCNNを筆頭とした偏向報道に対して非常に深い懸念を抱いています。そのため、大手メディアは常に民主党に偏向していることを自らの支持者に伝えているため、もはや米国共和党支持者にとっては米国メディアの偏向報道は慣れっこ&スルーになっているわけです。

更に、どのテレビ番組が放映時間の何分間で偏向報道を行ったのか、を計測して発表するような非営利団体まで存在しており、大手メディアは国民側からも常に監視されています。もはや権力と化したメディアは国民に根差したグラスルーツに監視される存在になっているのです。

また、共和党側からはリベラルに偏重する米国の大学への信頼も地に落ちているため、その代替機関として政府から独立した民間シンクタンクが発達しています。これらの組織は自由主義の立場(米国のリベラル=大きな政府の反対)から独自の提言・レポートを生産しており、共和党支持者はシンクタンクからの情報を信頼しています。

上記の通り、米国内ではメディア・大学・政府を牛耳るエスタブリッシュメントに対抗するソフトパワーが準備されており、 米国民はそれらの情報を摂取しているため、多少メディアが煽ったところで簡単に騙されにくい構造ができあがっています。

日本の課題はメディア報道に振り回されないリテラシーを構築すること

日本は独自のメディア情報網が非常に脆弱であり、米国における情報収集能力でも上記の有り様という状況になっています。そのため、一朝一夕で日本独自の情報発信組織を作ることは困難です。

そこで、一般的なメディアなどに対する免疫をつけることから始めるべきでしょう。

筆者は特に今回のヒラリー勝利の誤情報を国会議員ですら信じ込んでいた人も多かったことを懸念しています。このような貧弱なソフトパワー・脆弱な国家のままでは簡単に外国にひっくり返されるのが関の山だからです。今回、ヒラリーが必ず勝つと思っていた国会議員の人たちはリテラシーが低すぎて外交に携わって頂くのが心配で仕方がありません。

そのため、初歩としては、日本国内のメディア・大学などのリベラル偏向に対する米国流のグラスルーツの対抗措置を参考にして、日本版のリテラシーを高める試みを実践していくことが望まれます。そうすることで、外国メディアに対するリテラシーを高めることは自然とできるようになってくるでしょう。

米国エスタブリッシュメントが有する圧倒的なソフトパワーを見せつけられたこと、それが今回の大統領選挙における日本人としての最大の収穫だったと感じています。





本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 20:02|PermalinkComments(0)米国政治 | 社会問題