2016年10月
2016年10月31日
トランプ支持者は「白人ブルカラー不満層」という大嘘
<http://www.breitbart.com/から引用>
ミスリードされた「トランプ支持者像」が選挙結果を見誤らせるだろう
トランプ支持者像として典型的に語られるイメージは「白人ブルカラー不満層」というものです。このような誤ったイメージはヒラリー陣営による徹底したプロパガンダの結果として米国内外にまで浸透しています。
トランプ支持者を紹介する日本のテレビ番組でも「デトロイトまで出かけて白人労働者」をわざわざ見付けて取材しています。トランプ支持者なんてものは全米(ワシントンD.CやNYでも)に存在するのに随分と手が込んだ画作りだなと感心してしまいます。
しかし、現実にはトランプ氏とヒラリーの支持率は拮抗している(地域によってはトランプ氏が上回っている)状況です。「米国人の約半数が白人ブルカラー不満層」だというおよそ非現実な仮定を信じない限り、トランプ支持者に対する愚かな理解が通用しないことが分かります。
私たちはステレオタイプのプロパガンダをまき散らす有識者らの悪質なデマを信じこまされて米国の大統領選挙の状況を大きく見誤っている状況に陥っています。
性別・年代・所得・学歴・人種の観点から「トランプ支持者・ヒラリー支持者」を比較する
では、10月30日発表のIBD/TIPP poll という世論調査の詳細を見ながら、実際のトランプ支持者・ヒラリー支持者の実像を探っていきたいと思います。
同世論調査は回答者のデータを詳細に公開しているため、メディアが垂れ流すイメージとは異なるトランプ支持者・ヒラリー支持者像をしっかりと理解することができます。
女性の半数はヒラリー支持、ただし白人女性に限定するとトランプ支持の割合が多い
まず、性別から見ていきましょう。男女別の支持率としては男性はヒラリー38%・トランプ49%、女性はヒラリー50%・トランプ36%となっています。
ヒラリーが獲得している女性票は約半数でしかありません。しかし、これは回答者の人種ファクターの影響が大きく、白人女性だけに限定するとヒラリー41%・トランプ43%でトランプが上回っています。
つまり、トランプ氏が男性から支持を受けていることは明らかであるとともに、10月初旬を賑わせた一連の女性スキャンダルがあってもトランプ氏が女性からの一定の支持を維持していることが分かります。
トランプ氏はミドルエイジ~高齢層、ヒラリーは相対的に若年層から人気
次に、年代を見ていきます。トランプ支持者とヒラリー支持者に関して顕著な違いが出ている年代層は若年世代です。18~44歳までの層ではヒラリー45%・トランプ33%でトランプ支持は大きく水があけられています。
これはリバタリアン党のジョンソンが支持を拡大していることが影響しています。当初はヒラリーを削る可能性も予想されていたジョンソンですが、結果としてトランプ支持者を削る形になっています。
一方、45~64歳と65歳以上の層ではヒラリー・トランプの支持率は拮抗しています。誤差の範囲かもしれませんが、数字の上ではトランプ氏のほうがヒラリーを上回る状況となっています。若年層は米国においても投票率が低い傾向があるため、トランプ支持者のほうが投票率が高くなる可能性を示唆しています。
トランプ支持者は中間層から高所得者、ヒラリー支持者は低所得者が相対的に多い
所得についても冷静に見ていきましょう。3万ドル未満の層はヒラリー55%・トランプ31%、3~5万ドルの層はヒラリー46%・トランプ36%、5~7.5万ドルはヒラリー42%・トランプ42%、7.5万ドル以上はヒラリー43%・トランプ47%となっています。
つまり、「低所得者はヒラリー支持、高所得者はトランプ支持」は世論調査の数字から明確に確認できると言えるでしょう。トランプ支持者が「低所得の白人ブルカラー層」という嘘っぱちは一体どこからでてきたものでしょうか(笑)
トランプ氏は共和党の指名候補者であり、同世論調査では共和党支持層の8割以上を固めることに成功しています。したがって、米国においてはタックスイーターではなくタックスぺイヤー(納税者≒高所得者)側の候補者であることは改めて確認するまでもないことです。インデペンデントからの支持率もヒラリーを上回っており、「トランプ支持者はヒラリー支持者よりも所得が高い」が正しい分析です。
トランプ支持者は高卒・大学中退者が多く、ヒラリー支持者は大卒以上が多い
学歴については、高卒者でヒラリー35%・トランプ52%、大学中退者でヒラリー38%・トランプ47%、大卒以上でヒラリー50%・トランプ36%となっています。
トランプ支持者は相対的に学歴が低い傾向があり、ヒラリー支持者のほうが高学歴者が多いことが分かります。本人が望んだのか不幸にも進学できなかったかは定かではありませんが、トランプ支持者はたたき上げの人物ということになります。
しかし、大卒以上でも36%はトランプ支持であるわけで3人に1人はトランプ支持者であるわけです。したがって、トランプ支持を単純に低学歴だと断定することは明らかな間違いです。
また、上記の所得層と合わせて考えると、学歴についてはトランプ支持者はヒラリー支持者よりも低いけれども、所得についてはトランプ支持者はヒラリー支持者を上回っていると推量することができます。
ヒラリー支持者が高学歴層で多数派を占めていることで、メディア上のオピニオンは徹底的にトランプ・パッシングだらけになっているわけですが、それらは学歴エスタブリッシュメントのインナーサークルの言論でしかないと言えるかもしれません。
トランプ支持者は白人が中心ではあるものの、ヒスパニックも3人に1人はトランプ支持
白人男性はヒラリー31%・トランプ57%、白人女性はヒラリー41%・トランプ43%となっており、白人層においてはトランプ氏が相対的に優位な状況となっています。黒人層でヒラリー85%・トランプ4%と圧倒的な差がついている状況とは顕著な違いがあると言えるでしょう。
トランプ氏は「メキシコ国境に壁を築く」などの不法移民に対する厳しい姿勢を見せていますが、ヒスパニック層からの支持はヒラリー48%・トランプ35%という状況となっています。3人に1人のヒスパニックはトランプ支持という状況です。
ヒスパニックにはキューバ系とメキシコ系が存在しており、両者は異なる政治的な支持の傾向を持っています。キューバ系は自主独立の精神が高く、共和党の基本的な方向性と親和性があります。
その結果としてヒスパニックにもトランプ支持が一定層存在する形となっているため、トランプをレイシストと単純に罵る人々は複雑な現実を理解できない層と言えるでしょう。実際にフロリダ州ではキューバ系のトランプ支持が高まりつつあります。
<フロリダのキューバ系ヒスパニックでトランプの支持率上昇>
Poll: Donald Trump +4 in Florida; Jumps 19 Points Among Cubans
・・・以上となります。
トランプ支持者が「白人ブルカラー不満層」というステレオタイプが間違っていることが明らかになったと思います。トランプ支持者を馬鹿にしている日本人有識者よりも約3分の1のトランプ支持者は学歴も所得も上回っている可能性があります。
米国大統領選挙は依然として支持率が拮抗した状況が続いていますが、支持年代層の分布を加味した場合、トランプ氏が相対的に伸びると推測する見方が妥当です。この年代別の支持分布の構造は英国のBrexitと酷似しており、数%の差であればトランプ氏がヒラリーをまくることも現実的なものと言えるでしょう。
いずれにせよ、今回の選挙ほど有権者にレッテルを貼る酷いメディアのキャンペーンはありません。それらの偏ったメディア情報を鵜呑みにするのではなく、実際の世論調査の数字を見ながら冷静に状況を見ていきたいものです。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年10月27日
トランプ大統領が爆誕する5つの理由
米国大統領選挙投開票日まで2週間を切った状況となっており、既に「ヒラリーが勝利した」というヒラリー陣営のプロパガンダが大量に流れている結果、日本人の間でもスッカリ決着がついたかのように錯覚している人が多く存在しています。
特にいわゆる有識者と呼ばれる人々にとってはトランプ勝利の可能性に触れること自体がポリティカルコレクトネス(政治的に正しい言説)に反するものになっているため、米国の現実とはかい離したヒラリー万歳を繰り返すだけの有様となっています。
しかし、現実の米国世論はいまだトランプかヒラリーかで大きく割れている状態であり、一度はヒラリー勝利を予測したメディアでも第3回討論会後の世論調査の推移から情勢変化を見守る姿勢に変化しているものもあります。
クリントン氏、再び過半数割れ=米大統領選
そのため、Brexitと同様にメディアの論調ではなく世論調査の数字で実際の見通しを予測することが肝要です。筆者は5月段階で「トランプはヒラリー・クリントンに勝つ!」5つの理由という記事を書きました。
残念ながらトランプ氏と共和党の関係は大人の関係を築くことができず、トランプ氏と共和党主流派は仲たがいする形になりました(ヒラリーの健康問題は炸裂しましたが・・・)が、それでもトランプVSヒラリーの状況は五分五分の状況となっています。
今回は数字と情勢から読み取ることができるトランプ氏が勝利できる5つの要素についてまとめました。米国大統領選挙は依然として伯仲した争いが続いており、読者の皆様にも冷静な判断を求めたいものと思います。
(1)トランプVSヒラリーの世論調査は第3回討論会後に縮小傾向を見せている
トランプVSヒラリーの支持率差は一部の世論調査結果を除いて第3回討論会後に縮小傾向を見せています。
つまり、大方のメディアの評価に反して有権者による第3回討論会の評価はトランプ優勢であったと考えることができます。最新の世論調査では一部を除いて約5%以内の支持率差の範囲に留まっており、調査によっては互角または1%程度の差、つまり両者の支持率差はほとんど無いとするデータも存在しています。
トランプ氏は討論会で共和党保守派の支持者に効果的なアピールを行ったため、女性問題で離反しつつあった共和党保守派系を自陣営に繋ぎとめることに成功しています。一方、共和党の30%程度である主流派支持者がトランプ陣営を離反してヒラリーに流れている状態です。
離反した共和党支持層がトランプ支持に転ぶことは困難かもしれませんが、実際の投票段階でこれらの層が投票棄権に転んだ場合、ヒラリーへの投票が減少して相対的にトランプ氏が浮上する状況となるでしょう。
(2)大統領選挙の勝敗を決める接戦州ではトランプ・ヒラリーの支持率は拮抗している
米国の大統領選挙の勝敗は接戦州とされている州の投票結果で決まります。各州に割り振られた選挙人を勝者が総取りできる制度となっており、接戦州以外は既に共和党勝利・民主党勝利がほぼ確定的な状況となっています。
トランプ氏は接戦州のうちオハイオ州・アイオワ州で優位な状況にあり、最新のブルームバーグによる世論調査ではフロリダ州でもヒラリーの支持率を上回りました。
Trump Has 2-Point Edge in Bloomberg Politics Poll of Florida
全米支持率でも支持率差が再び縮まりつつある中で、接戦州では両者の支持率が更に拮抗または逆転した数字が出てくることになるでしょう。
(3)トランプは共和党主流派と縁を切ったことで接戦州の勝敗に集中できる
トランプ氏の共和党主流派との決別は選挙戦略上は極めてマイナスに働くものとして捉えることが妥当です。実際に共和党主流派と同傾向を持つ比較的リベラルな傾向を持つ共和党員からの支持は失われています。
しかし、物事には負の側面もあれば良い側面もあります。
共和党主流派との決別はトランプ氏が「連邦議会選挙」を気にせずに「大統領選挙を決める接戦州のみ」に全力を注ぐことができることを意味します。ヒラリー陣営が民主党の連邦議員候補者らに配慮して全米的なキャンペーンを実行する必要があるのに比べて、トランプ陣営は大統領選挙における自分達の勝敗のみを意識したキャンペーンが可能です。
トランプ氏は全米支持率でヒラリーに負けたとしても接戦州の投票結果でヒラリーを逆転することができれば大統領選挙に勝利することができます。
たしかに、トランプ陣営が上記の戦略を実行し続けたことで、ヒラリー陣営の全米的なキャンペーンによってテキサス州などの共和党の金城湯池が攻め落とされた場合、トランプ氏は歴史的な大敗を帰することになる可能性もあります。
しかし、大統領選挙の慣習通りにレッドステイツ(共和党優位の州)でトランプ氏が勝利することになれば、トランプ陣営の接戦州に特化する戦略を成功を収めることになるでしょう。トランプ陣営にとっては状況を有利に活用して一か八かの博打を打つことが可能な状況が生まれていると言えます。
(4)ヒラリー支持者は若年世代が多く実際の投票率が低い可能性がある
ヒラリー支持者はトランプ支持者よりも若年層が相対的に多い状況となっています。
Clinton Vs. Trump: IBD/TIPP Presidential Election Tracking Poll
そして、米国大統領選挙においても若年層の投票率は低い傾向があるため、表面上のヒラリーVSトランプの数字が拮抗していたとしても、実際のヒラリー陣営の支持率から若年層の支持率を割り引いて考えることが妥当です。
英国のBrexitの国民投票時にも若年層の相対的な投票率の低さによって事実上の決着がついたこともあり、米国の大統領選挙においても若年層の投票率は大きな勝敗を決めるファクターとなるでしょう。
(5)消極的な選択肢であるヒラリー支持は第三極候補者に流れる可能性がある
ヒラリーは予備選挙・本選挙を通じて「何故自らが大統領になるのか?」ということを有権者に十分にアピールしてきませんでした。ヒラリーは常に「消去法としてのヒラリー」でしかなく、米国の有権者は彼女を積極的に大統領に押し上げる理由がありません。彼女は現在もせいぜい「トランプを大統領にしてはいけない」という程度の消極的支持を得ているに過ぎません。
ヒラリー支持者の票は若者が多いこと・熱心な支持者ではないことから、流石にトランプに流れることはないものの、ジョンソンやステインらの第三極候補者に流れる可能性があります。エスタブリッシュメントらに配慮して無意味なポリティカルコレクトネスに基づくセリフを繰り返し、大統領候補者として自らの言葉を失った結果ということが言えるでしょう。
ヒラリーに比べてトランプ氏は「何故トランプ氏なのか」ということについて、「アメリカを再び偉大にする」というキャッチフレーズとともに、経営者経験があるアウトサイダーとしてのメッセージを有権者に提示し続けました。そのため、トランプ支持者は全くの政治素人が多いものの、熱心な支持者としてメディアの異常なバッシング下でも高い士気を保ち続けています。
一例を挙げると、2016年の共和党予備選挙は2012年時よりも圧倒的に多くの米国民が参加しています。2012年時の参加者総数は約1860万人でしたが、今回の予備選挙では3100万人を超えています。民主党の予備選挙の参加人数が2008年のオバマVSヒラリーのデットヒート時よりも減少している点とは対照的な状況です。
以上のように、トランプVSヒラリーの支持率差は縮小しつつあり、特に接戦州では逆転している数字も存在しており、トランプ陣営が接戦州に戦力を集中する中で、ヒラリー支持者の若者が投票に行かないか・第三極候補者に投票することによって、トランプ氏がヒラリーに逆転できる可能性が残されています。
これらはメディア・有識者によるイメージ操作ではなく世論調査の数字に基づく分析結果です。2016年の米国大統領選挙は未曽有の大接戦になっています。そして、米国にエスタブリッシュメントを葬り去るアウトサイダーの大統領が誕生する日が現実になる日が近付きつつあるのです。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年10月14日
トランプVSヒラリー、トランプ勝利の可能性はあるのか?
トランプの女性蔑視スキャンダル炸裂、しかし接戦州の世論調査はまだまだ拮抗状態
トランプ氏のいわゆる「ロッカールームの中」の会話が暴露されたことで、共和党のエスタブリッシュメントらが次々と離反し、トランプ陣営は崩壊するかと思われました。しかし、その支持率は意外と粘り腰を発揮している状態です。
10月13日のNBC/WSJ/Maristの世論調査でオハイオ州ではトランプ氏がヒラリーを僅かに上回る支持率を獲得しており、その他の地域を対象とした各種世論調査でも接戦州でヒラリーとの差は5%以内におさまっています。
確かにトランプ氏の最も支持率が高かった状態から著しい落ち込みを見せていますが、巷で語られているように「ヒラリー圧勝で完全に勝負がついた」と言い切れるほど現実の数字は離れていません。
共和党支持者・民主党支持者の間に広がる溝は簡単に乗り越えられるものではない
トランプ氏の女性蔑視発言(というよりも家族の価値観を毀損する発言)は、伝統的な家庭像を大切にする米国共和党保守派にとっては極めて問題があるものでした。ただし、トランプ陣営は第二回テレビ討論会などの大舞台で共和党保守派に対する強烈なメッセージを送って止血を図ることに成功しています。
TV討論会についてもトランプ・ヒラリー両者の勝敗に関して共和党支持者・民主党支持者の理解には相違が存在しており、同じテレビ討論を見ても同一の評価に辿り着くことが難しい状況です。また、そもそもトランプ氏に圧倒的に不利な問題設定がなされているテレビ討論会自体を共和党支持者は快く感じていない向きもあります。
共和党のエスタブリッシュメントがトランプ氏への不支持を表明したとしても有権者の間に生じている亀裂は解消されるわけではなく、トランプ支持・ヒラリー支持の割合が大きく崩れず、選挙戦までギリギリの拮抗した状況が続くものと思います。
次にトランプ・ヒラリーどちらかの陣営にスキャンダルが新たに発生することになった場合、現在のヒラリーやや優勢の状況に変更圧力が加わることになり、場合によってはトランプ氏の支持率が相対的に回復する可能性もあります。
トランプ・ヒラリーの争いに嫌気が差した有権者が第三極に流れていく可能性も・・・
最近、オバマ大統領を始めとする民主党陣営はリバタリアン党のジョンソン候補に対するネガティブキャンペーンに力を入れていました。これはサンダース支持者などの積極的にヒラリーを支持しているわけではない民主党支持層がリバタリアン党のジョンソン候補や緑の党のステイン候補に流れ始めていたからです。
ヒラリーを表面的に支持する層は決して積極的なヒラリー支持者ばかりというわけではありません。むしろ、サンダース支持者などの反ヒラリー的な要素を抱えた有権者も多く存在しており、それらの層が大統領選挙への投票を棄権する可能性や第三極候補に流れる可能性が存在しています。
サンダース氏との予備選挙中から常に指摘されてきたことですが、ヒラリー自身は何故彼女が大統領になるべきなのか、という説明を怠り、いまだにその正統性について十分に有権者にアピールできていません。
トランプ支持者・共和党保守派はエスタブリッシュメントの牙城を崩せるのか
一方、トランプ氏の支持者は、熱烈なトランプ支持者、共和党保守派、名ばかり共和党員(RINO:republican in name only)に分かれています。熱烈なトランプ支持者は予備選挙中に新たに共和党に加わった層であり、トランプ自身を積極的に支えるインセンティブを持っています。
トランプ氏が共和党保守派へのメッセージが功を奏して同支持者からの支持低下を食い止めることが出来た場合、最初からヒラリーを事実上推している共和党のエスタブリッシュメントなどのリベラルな傾向があるRINOが裏切ったところで十分に戦うことができるでしょう。
実際、トランプ支持者と保守派支持者からの突き上げを食らって、トランプ不支持を表明した議員らが態度を一転して軟化させるケースも出てきています。共和党指導部が諦めても地場の共和党員はまだまだ戦う意欲が残っている状況です。
不確定要素が多く残された米国大統領選挙、トランプ勝利の可能性はあるのか?
関ヶ原の合戦中に小早川の裏切りにあったようなトランプ陣営ですが、困難な状況を逆転する可能性が残されているのでしょうか。かなり苦しい状況ではあるものの、トランプ勝利の可能性は残されていると言うことが出来ます。
その根拠はヒラリー・クリントンの不人気です。現在、米国では毎日のようにメディアとセレブがトランプ・バッシングを繰り返して滅茶苦茶な状況になっていますが、トランプのネガティブ情報のシャワーを浴びさせられているはずの有権者がヒラリー支持に雪崩を打って流れ込む状況になっていません。
世論調査によってはトランプ氏よりもヒラリーのほうが当選後のスキャンダルについて心配する比率が相対的に高いという結果になったものすら存在しています。ヒラリーも有権者から信任を得ているとは全く言えない状況です。
むしろ、ヒラリーに対する不信感はメディアが盛り上げるトランプへの拒絶感よりも米国民の底に根差したものであるように感じられます。ヒラリーに対する不信感はマグマのように滞留しており、一度噴き出すことになれば押し止めることは困難でしょう。そのとき、トランプ氏が大統領選挙で勝利を得るという構図が生まれることになります。
いずれにせよ、既に米国大統領が決まる日まで一か月を切りました。「既に決着がついた」というヒラリー陣営の選挙キャンペーン(笑)が横行していますが、勝敗はまだ予断を許さない状況となっています。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。