2016年06月

2016年06月30日

批判されるべきは「英国」ではなく「EU」じゃないのか?

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非民主的・排他的なEUという存在が批判されるべき真の対象である

英国のEU離脱が決まった直後から主要なメディアで「英国がEU市場から締め出される!英国民は後悔している!」的なインテリたちの罵倒記事がひたすらアップされました。

元々残留派の主要な主張は「EU単一市場へのアクセスがEU離脱によって閉ざされる可能性」を指摘するものが多く、主に経済的な理由から残留を求める視点が強かったものと思います。

つまり、「EU官僚の政治的な支配を受け入れなければ、EU市場にアクセスできなくなるので、英国の民主主義は制約されても仕方がありませんね」ということ、そして「グローバルな経済が分からない離脱派は馬鹿だ」というキャンペーンだったわけです。

しかし、このような排他的な市場の存在を肯定する思考自体がグローバル経済の視点に立った場合に批判されるべき考え方ではないでしょうか?筆者は英国の決断よりもEUの存在のほうが批判されるべき対象であると考えています。

「政治統合を受け入れなければ市場統合は無い」という誤った考え方

欧州域内ではブリュッセルのEU官僚による指令によって実質的に様々な規制・財政措置が決定されています。国際的な官僚機構によって参加各国の民主主義は制約を受けているといっても良いでしょう。つまり、現代版の社会主義連邦がEU(欧州連合)の本質です。

そして、その社会主義連邦を抜けた英国がEU市場にアクセスできなくなると脅しをかけるEU官僚たちは、非民主的なEU機構を率いる重商主義者そのものであって、国際紛争を何度も引き起こしてきたブロック経済の亜種のようなものを堂々と主張していると捉えるべきです。

根本的な勘違いは「政治統合を受け入れなければ市場統合は無い」という誤った考え方です。

そもそもブリュッセルによる中央集権的な政治統合は欧州全域の自由市場の確立にとって必要条件ではありません。自由市場が必要であれば各国ごとに交渉して国民の合意を経ながら自由化を進めていけば良いだけです。

「政治統合と市場統合は一体である」という誤謬に基づく批判は的外れであり、欧州だけでなく日本のインテリたちも英国の離脱派を愚か者のように批判していますが、真に批判されるべき対象は非民主的・排他的なEUという存在なのです。

英国が間違った方向に進んでいた欧州を正す存在になるだろう

本来、国際的な言論として喚起される主張は、EUを離脱する英国に対するEU側の脅しを批判するものであるべきです。英国をEU市場から締め出すというコメントを発する人々の重商主義的な世界観が否定されるべきです。

離脱派のボリス・ジョンソン元ロンドン市長が発表した英国の民主主義を守りながら自由貿易を推進するという主張は「非現実な良いとこ取りだ!」としてメディアで批判されましたが、彼の主張は極めて真っ当な主張であって批判される理由は全く見当たりません。

むしろ、「巨大な市場へのアクセスのためには民主主義が制約されるべきだ!」とか、「民主主義を守るために自由貿易は止めても良い」とか、それらの主張が目指すべき理想として適切なはずがないのです。

EUは欧州での戦争の惨禍の再来を防止するとともに、旧ソ連などの地域に民主主義を拡げていくことに貢献しましたが、いつの間にか巨大な社会主義的連邦組織に自らが堕してしまいました。

ボリス・ジョンソン氏が述べた「英国がパワフルで自由で人間的でよりよい世界のための大きな力になる」という自己認識は正しく、間違った方向に進んでいた欧州を政治的に正す存在として英国の役割は大きくなるでしょう。

英国のEU離脱は初期は社会主義思想や短期的な投機思考に染まったインテリ・ビジネスマンらによって批判され続けると思いますが、長い歴史から見れば英国民が行った英断だったことが証明されることになります。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 10:22|PermalinkComments(0)社会問題 

2016年06月27日

それじゃ、日英EPAの交渉に入りましょうか

日英同盟

Brexitに狼狽えるばかりで未来を描く政治家が一人もいない日本に絶望する

Brexitが現実のものになり、「うむむ・・・今後一体どうなるのか」のような他人事のようなコメントを述べた政治家が多すぎて、日本の政治のレベルに本当に絶望せざるを得ない。

自分たちの無能さが災いして日欧EPAもさっぱり進展していない状況の中で、英国のEUからの離脱は経済成長のための千載一遇のチャンスだと捉えるべきです。

「日欧EPAが年内厳しくなったかも」というコメントしかできない経済産業大臣も少々残念だなと思います。中小企業対策などを講じることも重要ですが、予期された事態に対するコメントがそれだけですか、と。

「それじゃ、日英EPAの話に入りましょうか」という柔軟な発想が必要だ

利害関係が複雑に絡む欧州とのEPA交渉は一朝一夕に進むものではありません。グダグダと交渉を続けながら暗礁に乗り上げている程度が関の山といったところでしょう。

しかし、英国がEUから離脱した場合、日本にとって有力なEPA交渉先が一つ現れたと捉えることもできます。英国がEUから離脱するというのなら、「それじゃ、日英EPAの話に入りましょうか」という柔軟な発想が必要です。

目の前に起きたことについて感想を述べている傍観者は政治家に不要であり、問題への対処を行うだけならば官僚が事務的に処理すれば良いだけのことです。

国際情勢について「べき論」ではなく「である論」で現実的に対応できる人々を求める

英国のEU離脱について「起きてしまったこと」について「こうあるべきだった」と述べている暇があるなら、既に英国のEU離脱の国民投票は結論が出たことを前提として現実的な選択を行っていくことが大事です。

国際情勢について現在の日本の国力で「こうあるべき」などと述べたところで実際に対応できるとは思えません。「アベノミクスの宴は終わった」とか無意味なコメントを述べる野党第一党の党首も要らないのです。

アジアにおいても英国を巡る綱引きを日中が行うことになるでしょう。その対応に早急に着手することが政治家に求められることだと思います。

むしろ、日本の政治家にとって重要な能力は状況の変化に対して強かに対応する力です。未来に進むべき候補者が完全に不在の参議院議員選挙。現在国民に提示されている選択肢を根本から見直すことが必要です。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 22:30|PermalinkComments(0)国内政治 

英国EU離脱・トランプ現象は「インテリンチ(Intelynch)」が原因

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エコノミスト、大学研究者、ジャーナリストの言葉は分析ではなく大衆への侮辱ばかり

英国国民投票や共和党予備選挙に際し、「インテリ」からEU離脱派・トランプ支持者は数え切れないほどの侮辱の言葉を浴びせられてきました。そして、それらの侮辱は国民投票で離脱派勝利・予備選挙でトランプ勝利に終わった現在も続いており、依然としてメディア各紙の紙面に新規に掲載され続けています。

インテリは「大衆」を「低所得・低学歴のポピュリズムに毒された人々」と定義して、勿体ぶった表現を駆使して社会分析に見せかけた大衆への罵倒・侮辱を楽しんでいます。

インテリに罵倒の限りを尽くされた低所得・低学歴とされた大衆は、反論する言葉を持たず、反論する媒体を持っていません。必然的に言論空間はインテリにとって大衆への容赦のない罵倒の言葉を吐き続けることが可能な安全圏となっています。

安全圏からの大衆への容赦のない罵倒は「インテリによる大衆への言論的なリンチ」(インテリンチ:筆者が作った完全な造語ですが・・・。)であり、絶対に反論できない対象をいたぶる虐待行為のようなものです。

「インテリンチ」は逆効果、インテリと大衆の断絶は決定的なものに

インテリは快適な執務室や研究室から実際の生産活動に従事している大衆を小馬鹿にし、離脱派・トランプ支持者を「嘘に騙された・金が無い・頭が悪い」と述べるだけで仕事になりました。(ちなみに筆者は片方が一方的にデマを述べており、もう片方が全て正しいことを述べていると思うほど政治的に初心な思考は持っていません。)

大衆の知性に対する罵倒行為である「インテリンチ」は、インテリを自称する人々による低所得・低学歴者への人権侵害行為であり、これらの無配慮なリンチに曝された人々が投票行動という言葉を用いない手段でインテリどもに一矢報いたことは当然のことでしょう。大衆はインテリに対して自らの尊厳を守る行動を行っただけです。

ちなみに、当然のことですが、トランプ支持者や離脱派の中にも高所得高学歴高リテラシーの人達は存在しています。しかし、彼らに原稿執筆の機会は与えられず、その機会が与えられたとしてもポピュリズムを煽る扇動者という評価がインテリンチによって同時に与えられることは明白でした。

したがって、インテリンチを良しとしない知識人も、その知識があるがゆえに声を上げることはありませんでした。その結果として、言論空間に表層的に現われる評論は「インテリンチ」しかなくなり、それを真に受けた「インテリ仲間」がひたすら「インテリンチ」を増幅させてきました。

「インテリンチ」はまさに弱いものを虐める学校のイジメのような構造を持っています。腕力の代わりに言語表現力と媒体紙面を持つインテリが言論的な弱者を寄って集って言葉で暴力を振るっているわけです。 彼らの言葉が大衆に届くわけがありません、政治的な体裁を整えただけのただの人権侵害行為なのだから。

深刻な問題は「大衆の無知」ではなく「インテリの言論のレベルの低さ」にある

現実に民主主義的手続きを経て下された結論は「インテリンチ」による虐待で悦に浸った「インテリ」の望みとは違うものとなりました。

そして、実際には思考停止した不毛な文章を生産し続けたインテリの知的劣化こそが問題なのです。インテリたちはそもそも政治的・社会的エリートとして、様々な言論発信を通じて大衆の意見を代弁してきました。いや、どちらかというと代弁するフリを続けてきたと言っても良いでしょう。

しかし、現在の彼らの姿はどうでしょうか。インテリたちは大衆への自らの言論の押しつけすら放棄し、大衆を罵倒するだけの無様な存在になり下がりました。それは彼らが社会を描く能力と意志を元々持っていなかったor失ったことの証左です。

トランプ現象・英国EU離脱派は陳腐化したインテリの知性に対する大衆の知性の反逆であり、インテリによる大衆への私刑の場と化した言論空間への拒否反応です。

インテリを自称するor自覚している勘違いしたエリートは「インテリンチ」への参加は程々にして、未来の姿を描く言葉を身に付けるためにもう一度大衆の中に入ってみたらどうでしょうか。なぜなら、インテリの無知による言論レベルの低さこそが問われるべき真の問題だからです。

アメリカの反知性主義
リチャード・ホーフスタッター
みすず書房
2003-12-19


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yuyawatase at 21:05|PermalinkComments(0)米国政治 | 社会問題

2016年06月24日

英国国民投票、トランプ現象、舛添への絶望を読み解く

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貴族化した政治家の声は大衆には届かなくなった

今回の英国国民投票で主要政党の有力政治家が散々残留を支持する呼びかけてきた。メディアや有識者も賛否は分かれたものの、彼らの残留を支持する声が多く掲載されてきた。
 
米国においてもトランプが共和党予備選挙に出馬して以来、有力政治家、メディア、有識者はトランプを袋叩きにしてきたが、トランプは予備選挙において他候補を退けて圧勝することになった。
 
大衆の結論は「民主主義で選ばれたはずの既存の有力政治家の声を受け入れない」というものだった。この結論は「彼ら政治家の顔はもはや民主的なものではない」ということ、を意味している。
 
有力政治家たる貴族もどきが声を上げれば上げるほど、大衆の間には言葉にできない嫌悪が募る、その心の断絶は確かなものだと証明された。彼らの主張は大衆には届かない。もはやその顔と言葉が嫌悪の対象なのだから。

政治家主導の民主主義で提示される腐ったメニューをガラガラポンした人々
 
大衆の行動の裏側には有力政治家によって予め選択肢が調整されてきた政治への嫌悪がその根底にあるのだ。閨閥や縁故によって貴族化した政治家の声など、民主主義とはもはや関係が無く、貴族と官僚が作り出したルールなど糞くらえだという民衆の声が聞こえてくるようだ。

大衆は馬鹿ではなくて自分たちが政治家に馬鹿にされていることは理解している。EU全体の経済システムなんて分からないだろ、俺たちエリートに任せろよ、というキャンペーンが成功するわけがない。そのことが分からないくらいに政治家は貴族化しているのだと思う。
 
民主主義の形式を取って提示されるメニューが全て腐った料理であり、自分たちがシェフによって馬鹿にされていること、そのことに対する反感が噴出したのだ。

ジャーナリストや金融関係者が解説するBrexit以後に何が起きるのか?という解説記事が溢れているが、「エリートの分析など糞くらえ、お前らの記事を読みたくない」という意志が示されたわけで大衆の空気を読めないにもほどがある。

なぜ、大衆の意志は言語化されてきていないのか?

「民主主義と既存の政治家の顔が分断している」ということが最も意味ある結論であり、民衆が求めていることはEU離脱やトランプの台頭という表層的な現象ではなく、貴族と官僚から民主主義を取り戻すことなのだと思う。
 
しかし、貴族と官僚の代弁者であるメディアや有識者は、英国国民投票は「移民への反感」、トランプは「格差問題」として、彼らの文脈での評価を下し、決して貴族・官僚・メディア自身の存在こそが問題だとは言わない。
 
したがって、大衆は言葉にできない憤りを投票行動による数字、として表現することしかできない。彼らに言葉を与えるべき有識者は大衆性を失って、エスタブリッシュメントのお友達になっているのだから。
 
大衆の「無名の意志」に名前を付けてもらっては困るわけで、それらを無名のままにしておく、または既存の自分たちが作った文脈の中に押し込めるのが彼らの仕事である。

せいぜい「政治不信」という既存の体制への不満を表現しつつ選択を与えない表現が選ばれるくらいで限界だろう。

偽装された民意の解釈、日本は怒りではなく絶望として表現されるのか
 
日本においても安倍首相・岡田代表の非大衆振りはもちろん、小泉進次郎の似非大衆性への違和感は国民の間に広がりつつあると思う。そして、それは左翼の欺瞞的な大衆性とも違う形で噴出するべく、マグマが貯まり始めている。
 
自らもエリート化したメディアとそれに出演するフィルタリングされた有識者では、大衆の気持ちを表現することなどできもない、そしてそんなことをやろうともしない。SEALDsに「民主主義って何だ!」と言わせてメディアが取り上げたところで、メディアと既存の政治家達による欺瞞性の匂いは消しようがないのだ。

また、小泉進次郎が何を言おうとピンと来ないのは、彼が大衆と違うことが外形的に明らかであるにもかかわらず、その言葉だけが民衆の声を代弁しているように見えるように演出されていること、つまりはガス抜きであることが本能的に感じ取れるからだ。

日本では大衆の怒りが選挙で表現するような機会が与えられず、舛添氏を袋叩きにする形で表現されただけだ。そこに深い絶望を感じざるを得ないし、目の前を通り過ぎていく喧しい選挙カーの音がむなしく響くだけだ。

今、最も必要なことは貴族・官僚・メディアへの嫌悪という大衆の意志が、彼らによって捻じ曲げた解釈を与えられる前に、その意思に名前をつけて呼ぶことだろう。

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)
オルテガ・イ ガセット
筑摩書房
1995-06




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yuyawatase at 17:50|PermalinkComments(0)国内政治 | 社会問題

2016年06月23日

世代間対立が表面化する英国の国民投票(Brexit)

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(Guardianから引用)

Bookmakerは残留組が圧倒的に優勢という数字を示しているものの・・・

英国の最大手のBookmakerの残留・離脱のオッズはそれぞれ1.2倍・4倍程度で推移しており、英国人の多くの人々が、賛否拮抗する世論調査の結果に関わらず、英国のEU残留派の勝利を予測しているようです。

上記の判断の根拠になっているポイントは、スコットランド独立に関する国民投票が直前までの下馬評に反して、現状維持の残留を支持する投票が多かったことが挙げられています。その結果として、今回もEU残留という穏当な結論が出るという理由が散見されます。

しかし、果たして本当にそうでしょうか?むしろ、筆者は、大勢の予測に反し、スコットランド独立に関する国民投票の結果を参考にするからこそ、英国のEU離脱の可能性は高いものと推測しています。

何故、スコットランド独立投票の実際の投票結果は「残留」が多かったのか

アシュクロフト卿が実施した世論調査で、スコットランド独立に関する国民投票で独立を熱烈に支持したのは若年層であり、独立に反対したのは高齢者層であったことが報告されています。

http://lordashcroftpolls.com/wp-content/uploads/2014/09/Scotland-Post-Referendum-poll-Full-tables-1409191.pdf

スコットランド独立か否か、という議論は独立=若者VS残留=高齢者という世代間対立を背景としており、結果として絶対数と反対割合の多い高齢者の声が政治に反映されたものと思われます。

若年世代の有権者登録数も多かったものの、実際の投票行動では高齢者の堅牢な投票行動には敵わなかった状況があったと言えるでしょう。

EU残留は「若者」の政治的な主張に過ぎないという弱点を抱えている

今回のEU残留についても事前の世論調査は、残留・離脱の双方が拮抗した状況となっています。そして、大方の見方は現状維持の「残留」という結論になるというものが多いのではないかと思います。

しかし、このEU残留という主張は、Brexitに関する世論調査を見る限りでは、上記のスコットランド独立と同じように「若年世代が支持し、高齢世代が反対している」主張と構図が一緒であることを見逃すことはできないでしょう。

「ブリュッセル政治動向」さんの記事

つまり、実際の投票結果では、高齢者の分厚い離脱票と若者の脆い残留票がぶつかり合うことになり、スコットランド独立とは逆の結果、つまりEU離脱への賛成票が上回る可能性が出てきています。

ちなみに、残留を支持するキャメロン政権は、7日に予定されていた有権者登録の締め切りをシステム上の問題を理由に、2日間の登録期間延長を行ったことで延長期間に若者が大量に登録させる方策を取っています。

シルバーデモクラシーに不戦敗するユースデモクラシー

日本でも大阪都構想の住民投票が否決されたとき、高齢者の反対票によるシルバデモクラシーの影響が注目されました。実際に、若年世代の投票率の低さが主要因ではあるものの、高齢者票の分厚さの前に若者の意見が通らない構図は日本でも英国でも変わらないのかもしれません。

ただし、今回の国民投票ではそもそも離脱派が残留派を上回っている世論調査は信頼性がある電話調査ではなくネット調査などの信ぴょう性がやや欠けるデータによるものも多く、上記のような単純な世代間対立の構造だけで決着するものではないことは承知しています。

しかし、この英国の国民投票に決定的な影響を与える要因は若者の投票率であることは間違いなく、英国の若者の政治意識を知る上で最終的な結果が現在から楽しみな状況となっています。

若者の政治的意見(ユースデモクラシー)は、シルバデモクラシーに飲み込まれ続けていくのでしょうか、英国の国民投票においてどのような結果になるのか、民主主義における世代間対立に関する考察の観点からも面白い結果になるでしょう。






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yuyawatase at 11:50|PermalinkComments(0)社会問題 

参議院議員選挙、掲示板の候補者の顔ぶれを見て感じたこと

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本当の政治的なマイノリティーってどんな人だろうか、と素朴に思う

昨年からSEALDsみたいなのが出てきて、若者の代表のような顔をしていますが、正直言って相当に違和感を持っています。それは三宅洋平さんのキャンペーン「選挙フェス」にも同じものを感じるわけです。

彼らの活動を否定するわけではないのですが、学生時代から「感じてきたこと」を本日は述べたいなと思います。

それは「あなたたちは言うほど少数派ではないし、俺たちの方がよほど少数派で居場所ないんですが」ということ。彼らは自分らしく十分生きているし、それなりに通用するカルチャーの中で生きてますよね、と。

筆者はロックフェスにも行かないような地味な人間ですが、そういうものがセンス良いというような風潮に押しつぶされた感じを持ってきた一人です。

SEALDsみたいなチャラい学生がいる一方、地道に大学で勉強したり、起業したりする人間もいます。社会人も一緒でそういうノリのカルチャーの中にいない人もいるのです。

だから、彼らが政治にそういう若者文化のメインストリームの音楽を持ち込んできても、戦略としては理解できるものの、彼らとは心の壁というか距離を感じてしまいます。

政治や社会について「真面目に勉強する少数派」の声は一体どこにあるのか

筆者は現在の政治シーンでは政治や社会について真面目に勉強する少数派の居場所はないよなーと感じています。

政党は単なるレッテル貼りを繰り返すばかり、運動系は単純化された政策とイメージを垂れ流すだけ、社会啓発的な取り組みは「選挙に行こう」「政策を比較しよう」という低レベルなものばかり。つまり、政治や政策の初心者や素人向けのものばかりが幅を利かせています。

若くても勉強している人々は恥ずかしくて、音楽フェス的なノリの政治イベントには参加できないし、大日本帝国を妄信しているような老人のイベントにも参加できないのです。そして、既存の大政党の歯の浮くようなポリティカルコレクトネスにはウンザリしています。

人間関係上たまたま地元の餅つきなどに参加しているかもしれませんが、その場ではあいさつに来た政治家と密度の濃い政策議論を交わすこともないでしょうし、その機会は現状では永遠に訪れないと思います。

大学でマトモに政策の勉強をした人々、自分で事業を起こした起業家の人々などの政治的な居場所はこの国の中にはほとんどないと実感を込めて言えます。

「弱者のために云々」は別に良いのですが、その枠にも入れない政治的少数派・弱者として、真面目に勉強した人や実社会で活躍している人が存在しています。

既存の大政党だけでなく、チャラい兄ちゃん・姉ちゃんやヒッピーみたいな人々でも吸収しきれない人々はどうするべきでしょうか。

ポスター掲示板の前で一有権者として責任を感じざるを得ない

参議院東京選挙区の顔ぶれを見ていても、積極的に投票しようと思えるメンツが一人もいない、わけです。

「何でこんなにイデオロギー的に偏っているのか?」と素朴に感じざるを得ないし、その他にも訳が分からないキャッチフレーズの人達が並んでいます。もう少しだけでも中道的で理性的であることが確認できそうな人はいないものでしょうか。

これが政治の劣化ってやつなのかと悲しい気持ちになりました。このような政治を育ててきてしまったことについて、ポスター掲示板の前で一有権者として責任を感じざるを得ませんでした。

今回の立候補者の顔ぶれを見て「このままでは日本が危うい」と思う人が増えると良いなと思っています。この有様まで政治を劣化させてきたのは私たち自身であり、政治が理性を取り戻すようにしたいものです。






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yuyawatase at 04:31|PermalinkComments(0)国内政治 

2016年06月22日

参議院議員選挙は「野党統一名簿不成立」で事実上終了した。

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参議院議員選挙の最大のポイントは「野党統一名簿」だったということ

本日から参議院議員選挙に突入したわけですが、この参議院議員選挙は結果を見るまでもなく終わった、ということができます。原因は、小沢一郎代表が構想していた「オリーブの木」構想、つまり「野党統一名簿」が頓挫したことです。

なぜ、野党統一名簿が頓挫したことで、参議院議員選挙が終わったと言えるのでしょうか。下記、その理由についてまとめていきたいと思います。

自公お維無で参議院3分の2は確実な情勢、したがって与野党対決は選挙争点にすらならない

今回の参議院議員選挙は、2010年の野党が当選者数が比較的多かった改選選挙であり、2013年の直近の参議院議員選挙の実績を見る限りは野党の惨敗は免れ得ないと思います。

非改選組の数字を加味すると、改選議席数のうち約60%を改憲に賛成する勢力で勝つことで3分の2を達成することは、現状の与野党の勢力関係に鑑み、与党側にとってはかなり低いハードルということが言えます。

また、個別の政党の比例得票数では自民党が圧倒的な状況になることは予想に難くなく、共産党と協力した民進党の総得票数に大きなブレーキがかかることは間違いありません。

民進党の岡田代表が多大な批判にあった「3分の2阻止ポスター」を発表するほどに、非常に低い目標設定を行ったことも現実の数字として妥当だと思います。

真の対立は「野党内の主導権争い」、民進党と共産党の勢力バランス変化による地殻変動

今回の選挙にとって、野党側の生命線は「対与党」ではなく「選挙後の崩壊」を事前に防止することにあったと思われます。「選挙後の崩壊」とは言うまでもなく、「民進党の崩壊」のことを意味しています。

今回の参議院議員選挙の真の争点は「民進党と共産党がどこまで拮抗するのか」ということにあります。

つまり、万が一、参議院比例票で共産党が民進党を上回るか・拮抗した場合、野党における主導権争いで共産党が台頭することが予測されます。

戦後の労働組合の主導権争いで共産系は主流派を追放されており、民進党を支える連合が労組界の覇者として君臨してきましたが、参議院議員選挙の結果は労組内での勢力構造にも地殻変動を与えていくことになるでしょう。

民進党の比例票下位の労組代表は軒並み落選し、特に共産党系と対立関係にある同盟系の労働組合から民進党への不満は相当なものになるだろうと予測されます。

「野党統一名簿」不成立、参議院選挙後に野党は空中分解へ

野党統一名簿とは、各政党の比例得票数をアヤフヤにし、民進党・共産党の勢力バランスの逆転に蓋をする妙案だったと思うのですが、同方式が民進党指導部に受け入れられることはありませんでした。

野党統一名簿は民進党・共産党の関係強化だけでなく、民進党からの離脱を防止するための最後の切り札であったと言っても過言ではありません。共産党による乗っ取りを飲み込むくらいの度量が無くなった民進党指導部は自らの政党自体を崩壊させることになるでしょう。

野党の主導権争いでの民進党の事実上の敗北という事態を受けて、参議院議員選挙後に民進党解体による与野党の再編が進むことになるものと思われます。民進党議員らは参議院選挙後の解党を念頭に生き残りに向けた行動に既に走り始めていると推測されます。

そして、憲法改正に反対する勢力は「共産党」と「左派の一部」となることは明白となり、日本から自民党に代わる政権交代可能な野党は事実上消滅することになるでしょう。

参議院選挙後、憲法改正に向けた3分の2を大きく上回る勢力が衆参両院で形成されることになり、日本の政治シーンは現状の冷戦時代の名残りのような対立構造から次の段階に進んでいくことになります。







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yuyawatase at 18:23|PermalinkComments(0)国内政治 

2016年06月13日

大人の教科書(24)BIは弱者切り捨ての「心の免罪符」に過ぎない

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BI(ベーシック・インカム)が俄かに持て囃される風潮が出てきたようだ

スイスでBI(ベーシック・インカム)の導入是非に関する国民投票が行われて否決されました。昨今では人工知能の発達などによって人間が仕事を奪われることへの懸念、複雑化した行政機構と社会保障政策の整理、格差問題の解消のための切り札としてBIが取り上げられることが増えてきました。

筆者はBIについて非常にナンセンスな仕組みであると理解しており、政治的システムとしても倫理上の問題としても拒否されるべき命題だと思っています。BIの政治的なシステムとしての欠陥は多く指摘されるところであり、今回はBIの「倫理上の問題」について取り上げていきます。

BIを受給する人々が「賢く行動する」可能性は極めて低いということ

全ての人に一定のBIを与えることで生活の保障を行った場合どのようなことが起きるでしょうか。

もちろん、BIが配給された結果として、BIの範囲内で慎ましやかに暮らす人も少なくないことでしょう。しかし、そもそもBIが無いと生活ができない人々が全て生存に向けて合理的に行動する根拠は全くありません。

むしろ、確実な収入源であるBIを担保に無謀な借り入れなどを実行して散財を繰り返した挙句、生計を破滅させていくことになる人は後を絶たないことでしょう。金貸しにとっては確実な担保であるとともに、愚者にとってはBIは所詮は他人の金に過ぎないのです。

そこまで行かなくてもBI需給早々に全て使い切る人も現れることは確実であり、そのような人はBIがあろうがなかろうが、そもそも生きていくことが極めて困難な生活癖を持っているということになります。

BIの本質は「弱者切り捨て」のための「心の免罪符」を与えるものだということ

人間は本質的には誰しも愚者であるため、上記のような状況には誰もが陥る可能性があるものと思います。

この際、BIの存在自体が「BIを貰っているのだから、愚かな人々への救済は不要」という正当性を人々に与えることになるでしょう。

人間はどうしようもなく愚かな存在なのですが、その愚者を愚者として正しく認識して社会から破棄する仕組みがBIなのです。人々は一定の財政的負荷をBIを通じて背負うことによって、愚者を見捨てた心理的な負担を放棄することができます。

BIの本質は「弱者切り捨て」のための「心の免罪符」を発行することにほかならず、その表面的な人道性とは対極の人間の心理的な逃避欲求を満たすためのものだと言えるでしょう。

富裕な人々が担うべき心理的な負担を捨て去るべきではない

残念ながら、人間社会ではどのような制度を整えたところで弱者も愚者も消え去ることはありません。人間が人間の欲求にしたがって生きている限り、それは変えようがない真実だと思います。

その際、富裕な人々の弱者や愚者に対する心理的な負担を放棄するための仕組みを導入することは倫理的に肯定しても良いでしょうか。富裕な人々が彼らに心理的な負担を背負わない社会は極めて非人道的な社会かもしれません。

人間社会ではどのような制度を創ろうとも貧富の差は発生するものです。BI導入によってその現実から目をそらすことにつながるのではないか、BIは倫理の問題から問い直されるべきものだと言えるでしょう。






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yuyawatase at 07:00|PermalinkComments(0)大人の教科書 

2016年06月11日

全米支持率でヒラリー有利でも「トランプが勝つ」理由

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FOX世論調査でクリントン有利、反トランプの主要メディアは大はしゃぎ

6月10日、FOXニュースが発表した全米支持率調査でヒラリーがトランプ氏の支持率で上回りました。保守系メディアであるFOXニュースの調査でのトランプ氏の敗北について米国の主要メディアは同氏の勢いが落ちてきていると指摘しています。

この結果はヒラリー・クリントンが民主党の指名を獲得したことを受けた情勢の変化として受け止められた向きもあると思います。しかし、筆者はヒラリーが全米支持率でトランプ氏を上回っても、トランプ氏の勝利は揺るがないものと確信しています。

全米支持率が大統領選挙の勝敗に直結しない理由

米国大統領選挙の勝敗は全米総得票数ではなく米国各州での得票の勝敗によって決定します。全米支持率では大まかな選挙の情勢を知ることができても、大統領選挙の勝敗に関する分析のための情報としての価値を過大評価するべきではありません。

大統領選挙の勝敗を分析する重要な情報は「接戦州」における支持率の状況です。接戦州とは大統領選挙の度に共和党と民主党の間で勝者が変わる、大統領選挙の結果を左右する州のことです。

たとえば、近年、フロリダ州は大統領選挙に与える影響も大きく、同州の勝敗が大統領選挙の勝敗に直結する重要州として良く知られています。一方、テキサス州は共和党、カリフォルニア州は民主党が勝利することは選挙前から分かっているため、その重要性は低いということが言えます。

フロリダ州はトランプ優勢の調査結果、その他の接戦州もトランプ・ヒラリー拮抗

6月7日にPPP(Pubic Policy Polling)から発表されたフロリダ州の世論調査結果では、トランプ45、ヒラリー44でトランプがヒラリーの支持率を微妙に上回っています。

その他の直近の調査でも影響が大きいペンシルバニア州では両者互角、ノースカロライナ州・オハイオ州はトランプ優勢、ミシガン州・ニューハンプシャー州ではヒラリー僅か優勢など、両者は接戦州では激しいデッドヒートを演じています。

トランプ氏の選挙参謀であるマナフォート氏はメディアへのインタビューの中で、トランプ陣営の選挙戦略は接戦州における勝利に重点が切り替わっていることと述べています。

トランプ陣営は全米支持率を捨てて、ヒラリーを確実に差し切るための戦略にシフトしていたのです。したがって、冒頭に触れた全米支持率調査の結果は参考情報ではあるものの、大統領選挙の現在の趨勢を分析するにあたって大きな意味はないということになるでしょう。

必要最小限の努力で勝つ「トランプ流」の大統領選挙の本領発揮

トランプ陣営は共和党内の予備選挙も莫大な選挙費用と運動員を動員する他陣営に対し、必要最小限の選挙リソースを投入することによって勝利を掴みました。

トランプ陣営の選挙スタイルは大統領選挙本選のヒラリー対策でも同様の戦略を採用しているように思われます。彼らは共和党議員らとの政治的妥協が成立した今、レッドステーツ(共和党勝利が確実)での勝利が確定しており、ブルーステーツ(民主党勝利が確実)を捨てて接戦州に全力を注いでいるのです。

ポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)を遵守する言動や民主党の利害関係者に縛られているヒラリーには、トランプ氏ほどの大胆な戦略を採用することは困難であり、トランプ陣営は勝敗を実質的に左右する戦いを有利進めることが出来るでしょう。





 

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yuyawatase at 15:37|PermalinkComments(0)米国政治 

2016年06月01日

安倍演説から読み解く「衆議院解散総選挙」の可能性

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安倍首相の会期末演説から「衆議院解散」の可能性を読み解く

「本日、通常国会が閉会いたしました。」の一文で始めった安倍首相の会期末演説。(全文はこちら

非常に良く計算された文章によって構成されており、しっかりとしたスピーチライターと練りに練った内容だったように思われます。直前まで世論動向を踏まえて修正を繰り返したものであることも伝わってきました。そして、安倍首相の質疑への流暢な答弁から記者とのやり取りも事前の仕込みは万端であったことからも明らかです。

つまり、本演説は計算され尽した内容であるからこそ、筆者はその内容から「衆議院解散」の可能性を探ることができると考えています。

ちなみに、衆議院解散自体は参議院選挙の1か月前程度に臨時国会を召集して解散すれば良いだけなので、まだ十分に解散総選挙に至る道は留保された状態にあります。したがって、筆者は解散がある場合を想定し、以下安倍演説の読み解きをしていきます。

安倍首相が設定した「参議院議員選挙の争点」について

「1年半前、衆議院を解散するに当たって、まさにこの場所で、私は消費税率の10%への引き上げについて「再び延期することはない」とはっきりと断言いたしました」

「新しい判断(増税再延期)について、国政選挙であるこの参議院選挙を通して国民の信を問いたいと思います。 」

安倍首相は今回の参議院議員選挙の争点を上記のように設定しました。つまり、「消費税増税再延期の是非」「アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか」の2点ということになります。

前回の衆議院議員選挙で「消費税増税延期」については争点として問うていますので、同じ争点で衆議院を再解散することはできません。そのため、「消費税増税再延期を参議院で問う」という形式になるわけです。

つまり、あくまで消費税増税再延期は「参議院議員選挙の争点」であることが強調されています。ここは大きなポイントであり、仮に臨時国会を開いて衆議院解散を実行するなら「消費税増税再延期」は「衆議院議員選挙」の争点ではないということです。

すっぽりと抜け落ちたサミットで主張した「財政出動の具体策」の存在

「今こそ、アベノミクスのエンジンを最大に噴かし、こうしたリスクを振り払う、一気呵成に抜け出すためには脱出速度を最大限まで上げなければなりません。アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか。これが、来る参議院選挙の最大の争点であります。」

「しかしこの選挙で、しっかりと自民党、公明党の与党で過半数という国民の信任を得た上で、関連法案を秋の臨時国会に提出し、アベノミクスを一層加速させていく、その決意であります。 」

上記のように 安倍首相は演説と質疑応答で上記のように回答して「消費税増税再延期」とともに、アベノミクスの加速、そして財政出動を含めた関連法案の提出に言及しています。

つまり、サミットでも散々主張した財政出動については今回の演説では「まったく具体策が示されなかった」わけです。経済学者ヒアリング、サミット、会期末演説など消費税増税再延期に向けて周到な準備をしてきた政権としては些か拍子抜けの感があります。

あくまで上記は参議院議員選挙の文脈で語られていますが、本来は「財政出動の具体策」がここで示されて選挙に突入するのが当たり前の流れであるように思われます。しかし、消費税増税再延期=参議院議員選挙を印象付けることが狙いだと思うのですが、あえて何ら具体策への言及はありませんでした。


衆議院解散で問われるのは「アベノミクスを加速させる財政出動」ではないか

筆者が「衆議院解散の可能性が残っている」と思う理由は、まさに「財政出動の具体策が言及されていない」という一点に尽きます。

現状のままでは野党が設定した「アベノミクスは失敗した」という選挙争点が主流となる可能性が高く、安倍首相が主張する「アベノミクスを加速させるか否か」という争点に落ち着く可能性は低いと思われます。

これから選挙に突入するにも関わらず、財政政策の目玉となる具体策を何も打ち出さない、ことは考えれず、与党側が意図的に発表を留保しているのではないでしょうか。

筆者は与党が直近1週間程度で消費税増税再延期に伴なうネガティブなイメージを払拭するためのキャンペーンを実行した上で、「衆議院議員選挙の争点」として「財政出動の具体策」を打ち出す可能性があると想定しています。

このような流れを経ることで選挙争点を「アベノミクスは失敗したのか?」から「アベノミクスを加速させるか」に切り替えることが可能になるからです。

そして、野党は相変わらず批判するばかりで目を引く対案が無く、「巨額の財政出動」という餌がぶら下げられればひたすら「反対」を繰り返すばかりということになるのが目に浮かびます。

そう考えると、安倍首相が今回の演説で再三に渡ってアベノミクスの期間中の税収増に触れている点も怪しく、税収増の果実を巨額の財政出動に転用する、というロジック形成のための下準備ではないかと訝しくなります。

参議院議員選挙と衆議院議員選挙の「争点を切り分ける」というロジック

上記のように参議院議員選挙は「消費税増税再延期の是非」、衆議院議員選挙は「巨額の財政出動の是非」という形で切り分けることで、衆議院解散総選挙の大義を整えることが可能となります。

安倍首相は、質疑応答の中で、

「しかし、熊本地震の被災地ではいまだ多くの方々が避難生活を強いられている中において、参議院選挙を行うだけにおいても、その準備でも大変なご苦労をおかけをしているという状況であります。こうしたことなどを考慮いたしまして、同じく国政選挙である参議院選挙において、「国民の信を問いたい」と、このように判断したわけであります。」

「そして、私の任期は、18年の12月でなく9月まででありまして、この任期の間に、選挙をやるかどうか。今の段階では、解散の「か」の字もないということであります。」

ということで、熊本地震を理由としながら解散しないことを述べていますが、あくまで任期中の解散については同じセリフ「解散の「か」の字もない」を繰り返しているだけです。

しかし、重要な仕掛けをする際に表現がぶれることは最も避けるべきことであり、安倍首相の「同じセリフ」を繰り返す行為は官邸にとって重要な決め事だということが逆に伺い知ることができます。

一方、安倍首相は熊本震災については、

「世界経済は今大きなリスクに直面しています。しかし率直に申し上げて、現時点でリーマンショック級の事態は発生していない。それが事実であります。熊本地震を大震災級だとして、再延期の理由にするつもりももちろんありません。そうした政治利用は、ひたすら復興に向かって頑張っておられる皆さんに、大変失礼だと思います。 」

「こうした諸改革と合わせて、今なお地震が続く、熊本地震の被災者の皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、被災地のニーズをしっかりと踏まえつつ、本格的な復興対策を実施致します。」

と述べており、消費税増税再延期の理由にはしないが、本格的な復興対策のための予算を講じる旨が述べられており、イザとなれば「熊本復興に向けた巨額予算」を組み込む形で財政出動した場合に衆議院解散の大義は立つわけです。

上記のような観点から衆議院解散の可能性は十分に残されていると思いますが、現実はどのように推移していくでしょうか。まだまだ衆議院解散が無くなったと最終判断するには早計な状況と言えるでしょう。

自省録
中曽根 康弘
新潮社
2004-06-26


本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

 

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yuyawatase at 23:58|PermalinkComments(0)国内政治