2016年04月
2016年04月29日
何故、NHKの大統領選挙報道は視聴する価値がないのか?
NHKの「米国大統領選挙に関する報道」は視聴するに値しない理由とは
トランプ氏 日本に負担増求め中ロ関係立て直しを(NHK、4月28日)
というニュースを目にして、現在無理やり加入させられているNHK解約を決意しました。ちょうど我が家のTVが故障して捨てるところだったこともありますが、正直言って報道取材のレベルの低さに飽き飽きしましたね。
本ブログの賢明な読者諸氏は、NHKなんぞ最初から見るに値しない、というかもしれませんが、私が呆れかえった理由は「自分以下の取材力」で「あるべき報道とは真逆の内容」を「堂々と国民に流布する」姿は辟易したということです。
自分はNHKが左翼だとか、現会長が安倍側近だとか、そんなことはどうでも良いんです。そうではなくて、まともに取材ができないなら報道を止めてしまえ、と思うわけです。この人たちは筆者から徴収した料金で常時ワシントンに駐在して何やってんだろうと。以下、何故NHKの米国大統領選挙報道を視聴する価値がないかを説明していきます。
トランプの外交ブレーンではなくトランプの政敵に取材して「トランプ外交」を語る愚劣な取材
一言で言うと、NHKは取材先すらまともに選択することができない組織だ、ということです。
本報道はトランプ氏の外交政策について日本国民に伝えるための報道だったと思います。それであれば、当然に「既に発表されているトランプ氏の外交ブレーン」に取材することが当然に求められます。
トランプ氏の外交ブレーンとして名前を公表している人物らの連絡先は調べれば直ぐに分かります。メディアとして取材依頼を行うことは簡単なことです。そして、NHKが取材を断られたら断られたでそれ自体が価値ある情報であり、トランプ氏の外国メディアへの対応姿勢の現われということができたはずです。
しかし、NHKはそのような当たり前の取材行為をせずに「取材先としてあり得ない人物」のコメントを掲載し、それをあたかもトランプ氏の日米関係の外交政策に関する見通しとして日本人に伝えたわけです。
では、NHKが取材した先はどんな人物だったかというと、簡単に言うなら「トランプ氏の政敵」です(笑)
つまり、トランプ氏の外交方針に関する分析を行うという趣旨で「トランプ氏の外交方針を最初から全否定する人物」を選んで取材しているのです。
報道中のAEIというシンクタンクは日本の親米派保守系議員が日参するシンクタンクとして有名です。そして、彼らは米国内でも屈指のネオコン系のシンクタンクであり、トランプ氏の外交政策とは真っ向から衝突する研究機関でもあります。
従って、AEIの日本担当者の意見を聞いたところで、それは「トランプ氏の外交政策」をまともに解説することになるか甚だ疑問です。本来取材するべきトランプ氏の「外交ブレーン」ではなく「政敵」に取材をしただけで報道化する神経を疑います。
トランプ氏について昨年から見るに耐えかねるレベルの報道が多い理由とは
日本のメディアを見ていると、いずれのメディアも共和党予備選挙とトランプ氏について昨年から一貫して無価値な情報を垂れ流し続けてきました。彼らの共和党予備選挙の予測はことごとく外れており、現在でもトランプ氏については「取材先すら分からない」有様が続いています。
筆者は、何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(2015年12月11日)、の中でも触れている通り、トランプ氏の放言は選挙戦略であり、本選時には発言内容を知的なものに修正していくと予言していました。他候補者のスタッフをM&Aしていくことで発言が修正されるということも断言させて頂きました。
そして、現実に直近に行われたトランプ氏の外交演説はまさに新規に加入したスタッフによる振付によるものであり、トランプ氏は本選を見据えて大統領らしい振る舞いに急速に自身のイメージを転換させつつあります。ほぼ全てが昨年に事前に予測した通りの状況です。
なぜ、NHKを始めとする日本メディアの予測が外れて、筆者の予測がほぼ全て当たるのでしょうか。それは筆者は米国に関する独自の取材網を構築しているとともに、日本の国会議員や政治家が頼りにしている「米国人の知日派」を重視していないからです。
米国には「知日派」と呼ばれる日本政策の担当者がいます。彼らはジャパンハンドラーズなどと呼ばれて、日本を操縦している云々と陰謀論が囁かれていることもありますが、「米国内での影響力は極めて限定的」です。
しかし、日本の国会議員もメディアもこれらの知日派を神のごとく崇めており、そのご託宣を並べて有り難がっています。そして、既存の日本人の外交ルート・取材ルートも「知日派」しかいないため、これらの日本に関する利権で飯を食っている米国官僚の掌の上で転がされている状況となっています。日本の政治家は彼らの見解を垂れ流すだけで外交している気分になれるし、日本のメディアは米国政治を報道した気になれる便利な人々です。
更に言うと、現在、大半の知日派はトランプ政権への批判のトーンを明確に絞っており、彼らがトランプ政権入りを目指していることは明らかな状況です。そのため、NHKは知日派の中でも反トランプ姿勢を鮮明にしているAEIしか取材に応じてくれるところがなかったので、このコメントをそのまま流したのではないかと推測します。何とも貧弱な取材体制だなあと思わざるを得ません。
新しい対米関係を構築するための「新しい日本側のプレーヤー」が必要だ
既存の日本の政治家、官僚、メディアは「知日派」との関係が深すぎて簡単に方針転換することが困難であるため、日本人は新たな対米関係を築いていくための研究機関やメディアを構築していくことが必要です。
そして、米国の日本担当者でしかない知日派ではなく、もっと米国政治の深部に辿り着くようなディープなレベルでの情報網を構築し、アジア政策などについての情報交換を行う体制を整備することが望まれます。
そのような体制を構築出来て初めて、米国外交や米国に関する報道が価値を持つようになっていくことでしょう。米国と対等な関係を構築していくためには、日本人が米国内に知日派を上回る情報力と人脈を持つことが重要です。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年04月26日
20世紀少年化した北海道5区・衆議院補欠選挙
あの・・・、21世紀に戻ってきてもらっても良いでしょうか?
今回の北海道補欠選挙を総括するならば「21世紀に戻ってきてほしい」の一言に尽きます。
与党も野党も「王様の弔い合戦だ!」とか、「我々は戦争に反対する!」とか、一体いつの時代の人達なんですか、って素朴に感じるわけです。あなたたちは「20世紀初頭のロマノフ王朝末期」の時代にでも生きてるんですかと、まさに北の大地だし。
世襲の二世議員候補者と極左の運動家しかいない選挙、これは何て名前の罰ゲームでしたっけ?ああ、日本国の衆議院議員の補欠選挙は罰ゲームの別名だったんですね。
さながら20世紀少年化した国政選挙を見せられても、エンタメとしては楽しめるかもしれませんが、この人たちで国政のかじ取りをしていくことになると思うと幻滅しますね。
先祖返りの最中に悪いんですが、与党も野党も21世紀に戻ってきてもらっても良いでしょうか?それができないなら、20世紀にタイムスリップしてそのまま帰ってこないでください。
官僚にせせら笑われる政党、政治家、運動家たちの成れの果てとして
民主主義の程度の問題として、20世紀マインドの人々によって政治が運営されることは、官僚の皆さんにとっては実に都合が良いことだと思います。
政治家と話すときに意思の疎通に若干のタイムラグが生じるフラストレーションを我慢すれば、何も分からない政治家のままで居てもらった方が良いわけです。
北海道5区の有権者だって、自分たちの選挙区がいきなり20世紀少年化するなんて想像してなかったんじゃないでしょうか?気が付いたら映画の舞台のような古びた因習とイデオロギーの固まりが街を覆いつくしたわけですから。
今回の選挙で投票しなかった人たちはさぞ冷ややかな目で20世紀のコスプレを纏った政党らを眺めていたでしょうし、それでも投票した責任感の強い有権者の人も投票所に入るときにタイムスリップに伴う次元の歪みを感じたことでしょう。
政党は選挙に勝てる候補者を立てるとともに、有権者に対して自らの政党の理念を伝えてお互いに成長していく責務があります。国民を過去に退行させる行為は慎んでもらいたいと思います。
世間は21世紀なんで自民党も民進党もそろそろ退場してもらいたい
21世紀になってから既に16年も経過しているわけです。20世紀コスプレ政党である自民党も民進党もそろそろ退場してもらっても良いでしょうか。少なくとも現代を生きている人は21世紀の時代で暮らしていく必要があるわけですから。
とはいうものの、いきなり現在の二大政党とは違う政党が出てこないでしょうね。そのため、現実的には各地方でしっかりとした社会や政治を作っていくしかないと思うわけです。国民から遠い国会はこのまま20世紀かもしれませんが、人々に身近な地方の政治から21世紀を始めることはできるかもしれません。
世襲政党の派閥争いやマルクス主義政党の権力闘争なんて、国民にしてみたら全然関係ないわけで、自分の一票でまともな議員を作ることができる身近な場所からスタートするしかないですね。
そういう地道な取り組みの積み重ねが大きな流れになって、国政における時計の針が2020年頃までには現代と同期するようになっていることを願っています。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
トランプの外交ブレーン公表に隠された真の意図を読み解く
トランプ氏に対するピントがずれた分析が日本で横行する理由は何故か?
筆者は昨年からドナルド・トランプ氏が共和党予備選挙で圧倒的優位を築くことを予測し、彼が大統領選挙本選を前にして発言を穏健な方向に切り替えてくることを明言してきました。
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(2015年12月11日)
一方、国内で米国通の有識者とされる人々は「ブッシュが本命」という嘘っぱちを垂れ流し続けた挙句、その後に乗り換えようとしたルビオ・ケーシックは大失敗、完全に「的外れな分析」を続けてきました。彼らの恥ずかしい米国大統領選挙分析のトラックレコードはインターネットを検索すれば山のように出てきます。
日本国内の米国通の有識者とされる人々は、「現在、米国で何が行われているのか」という単純なことさえ理解できないほどに、自らの知識を過信して盲目的になっています。
米国内の一部のグローバリストとの付き合いで自分が何者であるかを勘違いした人々の分析によって右往左往させられる日本政府関係者が可哀想だと思います。
現在、米国で行われていることは「共和党の予備選挙」という当たり前の事実を確認する
現在、米国で行われていることは「共和党の予備選挙」であって「米国大統領による外交」ではありません。この根本をはき違えているから、トランプ氏の発言にイチイチ過剰に反応する醜態をさらすことになるのです。
彼の発言は共和党の予備選挙を勝つために徹頭徹尾計算されたものであり、ドナルド・トランプ氏が置かれた状況中での最適な生存戦略として行われています。
筆者が昨年段階で上記の趣旨の意見を述べると「そんなことはない」とか、「それは悪夢だ」とか、色々な反応がありましたが、そういう発言をしていた人たちもそろそろ目が覚めてきたことでしょう。
メディアなどでコメントしている大学の先生らは、米国外交や米国社会などの専門家であって選挙の専門家ではなく、云わば全くの門外漢の人々が「米国の話題」というだけの理由で適当な私見を述べているに過ぎないのです。
本ブログでは賢明な読者と一緒に「現在は共和党の予備選挙の最中である」という小学生でも確認可能な事実を前提としてトランプ陣営の動きを分析していきたいと思います。
トランプ氏が公表した外交ブレーンの「正しい意味」を読み解けるか、という試金石
トランプ陣営が3月末に公開した外交ブレーンは下記の5名です。
(1)ワリド・ファレス氏(元国防大学教授、ロムニーのアドバイザー、ただしレバノンの暴力的民兵との繋がり)
(2)キース・ケロッグ氏(元陸軍中将、2003~4年にイラク暫定占領当局及びイラク駐留米軍司令官を率いた)
(3)ジョー・シュミッツ氏(元国防総省監察総監、同総監時代に様々な疑惑で辞任、ブラックウォーター幹部経験、サウド家が援助したシリア反政府勢力への武器輸出支援など)
(4)カーター・ペイジ氏(外交問題評議会研究員経験者、露・ガスプロムとの取引経験)
(5)ジョージ・パパドプロス氏(弁護士、ベン・カーソンのアドバイザー)
米国通とされる識者らによって、これらのアドバイザーについて無名だとか・過激発言だとか、トランプ外交の見通しについて散々な評価が下されて、見通しが不安なトランプ外交のリスクが喧伝されています。正直言って、あまり筋が良くない面子かもしれないので、WSJ論評の焼き直しのような評価を下したくなる気持ちも理解できます。
しかし、筆者にしてみれば、この面子を見て「その程度の分析」しかできないことのほうが「日本外交」にとってはリスクだと断言します。
何度も言いますが、米国で現在行われていることは「米国共和党の予備選挙」です。そして、トランプ氏は共和党の予備選挙を勝ち抜くために最適な選択を行ってきています。トランプ氏も当然にこれらの面子が外交アドバイザーとして十分でないことは承知していることでしょう。
では、何故トランプ氏はこれらのメンバーを公表したのでしょうか?この理由が分からない人はトランプ氏について語る資格はないでしょう。
共和党予備選挙に影響を与えるエスタブリッシュメントの機密を知り尽くした人々
トランプ氏が発表した外交ブレーンは、ハハドプロス氏以外は「米国の軍事・エネルギー政策の現場実務に携わってきた人」であり、同時に「共和党のエスタブリッシュメントに切り捨てられた人々」です。
言い換えるなら、彼らは、米国の外交の裏面(暴力的民兵や反政府組織への支援)、イラク戦争及びイラク占領の内実、国防省内の不祥事に関する記録、ロシアなどとのエネルギー企業との取引など、つまりは「ブッシュ政権時代の影の部分」を知る人々です。そして、その後、ワシントンにおけるエスタブリッシュメントに使い捨てにされて軽蔑や嘲笑の対象となっている人々でもあります。
ここまで言及すれば本ブログの賢明な読者は理解できたと思います。トランプ氏の外交ブレーンとは「単なる外交ブレーン」ではありません。彼らの名前が公表された真の目的は「予備選挙に影響を与えるエスタブリッシュメントに対する脅し」だと理解するべきでしょう。
現在、エスタブリッシュメントの大半は反トランプで結束して共和党からトランプを追放すべく動いていますが、トランプ氏の外交ブレーン公表はエスタブリッシュメント内、その奥深いところで波紋を与えているものと推測されます。
グローバルな権益を持つエスタブリッシュメントにしてみれば、彼らのアキレス健を知るトランプのアドバイザーからの情報が「トランプ拡声器」を通じて全米に公表されることは恐るべき事態だからです。
そのため、トランプ氏の外交ブレーンには実は外交的な意味はなく国内の選挙対策として公表されたものと理解すべきです。トランプ氏の外交政策について上記のメンバーから読み解くことは「不毛であるばかりか、完全なミスリードに過ぎない」と言うことができます。
日本の対米分析力の強化は急務、既存の外交ルートの見直しが求められている
以上のように、トランプ氏の外交ブレーンの公表の真の意図を読み解いてきました。しかし、驚くべきことに筆者と同じような分析を行っている論説にはいまだ出会ったことがありません。そのため、筆者の分析をバカげた意見だと思う人も多いことでしょう。
ただし、昨年の状況を思い返してみれば、筆者のように一貫してトランプ優位とブッシュ没落を予言してきた日本人はほとんどいませんでした。しかし、実際の物事の経過を見れば明らかなように、トランプを過小評価していた米国通の識者らは惨めな予測分析の残骸をネット上に晒し、現実の共和党予備選挙は筆者が予測した範囲で展開してきています。
筆者と他の識者のどちらの分析が正しいか、賢明な読者の皆さんに判断は任せたいと思います。
しかし、筆者の理解では現在の日本の対米分析力は表層的すぎて話にならない、と痛感しています。今後は米国のエスタブリッシュメントからの伝聞情報の垂れ流しではなく、自分の頭で考えて思考できる人々が独自の情報ルートを築いていくことが必要でしょう。
それこそがトランプ外交のリスクに備える真の対処法になるものと信じています。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年04月25日
池田まきの「でんわ勝手連」は米国では常識的な手法である
補選の結果は予想通りであり、数字以上の成果が出ることなどあり得ない
北海道5区補欠選挙の結果については、与党が勝つことは当たり前の状況だったと思っています。
あえて言うなら、選挙は計算して逆算できる票以上の票は出ないので、
前回の自公票 131394 今回の自公票 135842
前回の野党票 126498 今回の野党票 123517(前回よりも投票率は-0.8ポイント)
新党大地の基礎票2万票が前回の野党票から自公票にスライドしたことを考えると勝ち負けは最初から決していた勝負なので、「北海道5区」で民進党が勝つかも?みたいなことを言っていた人は選挙を知らないと思います。結果としては前回と変わらない開票結果であり、投票率が落ちる中で与党は得票数を増やして勝利しています。(大地票は脱落した票もあるでしょうから、概ね妥当な数字だと思います。)
つまり、自公側はスキャンダルの影響などで大勝を逃しましたが、野党側も通常運転の票が出ただけなので、この選挙結果について評価するなら、「ハナから結果は分かっていたと思いますが・・・」っていう感じです。そして、自分の率直な感想は「どっちが勝っても罰ゲームみたいな投票結果に興味あるの?」とも思います。
なぜ、新党大地は野党統一候補に協力しないのか?(2015年12月29日)
でんわ勝手連は「米国の選挙学校では普通に教えていること」である
筆者は共和党系の保守系選挙学校であるThe Leadership Instituteの選対事務局長を育成する教育カリキュラムを受講したことがありますが、その際に電話作戦の手法についてもレクチャーを受ける機会を得ました。
同レクチャーの中で教えられた電話作戦の手法が、ネット上でボランティアを募集して作成したマニュアルの通りに電話かけを手伝ってもらう、という手法です。まさに今回の「でんわ勝手連」のことであり、2009年当時はなかなか斬新だなと思ったために記憶に残っています。
そのため、今回の池田まき勝手連の「でんわ勝手連」は通常のやり方として米国の選挙では普通に取り入れているものとして理解しています。
それにしても、ネット募集に応じてバーニー・サンダースのボランティアの方も参加されたという話題性もあり、ネットの使い方や運動のやり方で世界中から情報収集・手法採用を行っている左派の運動にはなかなか関心させられます。
プロの選挙プランナーの皆様から指摘が出ているように、日本では時代遅れの公職選挙法が実質的に民主主義の発展を阻害しているため、同手法を採用することは未成年者対応や外国人対応などの問題があります。
そのため、このやり方が日本で受け入れられるかどうかは分かりませんが、左派系の皆さんが勝手連という形式を取ることでグレーな部分を堂々とスルーしようとする度胸はなかなかのものだと感心しました。
公職選挙法違反だ!と叫ぶ人々は民主主義の首を絞めていることを学ぶべき
選挙運動の話になると、重箱の隅をつつくようなことを並べて、選挙違反だ!と叫ぶ人がいますが、その際にお願いしたことは「選挙違反だ!」と叫ぶのと同じくらい、「公職選挙法を変えるべき!」と叫んでほしいということです。
現在の公職選挙法の規定には治安維持法時代の名残り(戸別訪問の禁止など)の意味不明なものが多く残っており、筆者は日本は「なんちゃって民主主義国」であるという感覚を持っています。現行の公職選挙法は自由な政治活動や選挙運動を阻害するための法律であると言っても過言ではなく、立候補予定者が有権者に思いや政策を届けることを阻止するための様々な規制のオンパレードです。
上記の問題については全ての立候補経験がある人が同意してくれると思いますが、基本的には現職有利の規定であるために選挙後に公職選挙法が改正されることはほぼありません。そのため、一般有権者にまで問題点が浸透せず、公職選挙法が制定されてから50年以上も日本は「なんちゃって民主主義」の下で選挙を行ってきています。(むしろ、選挙期間などは短縮を繰り返しており、なんちゃって民主主義度合は強まっています。)
公職選挙法は投票日と投票方法だけを決めて、後のことは全て有権者の良識に任せるべきです。それ以上の細かい規制などは単なる言論の自由と政治活動の自由への侵害でしかありません。
そのため、今回の池田まきの「でんわ勝手連」について、プロの選挙プランナーの方などから公職選挙法違反が早速叫ばれていることが非常に残念であり、そのような負のエネルギーを公職選挙法の改正というポジティブなほうに向けることが必要だと感じています。
専門家として果たすべき役割を認識し、専門家の皆さんが時代遅れの公職選挙法の規制で飯を食っている存在に堕すことを恥じるべきではないかと思った次第です。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年04月22日
TPP交渉「聖域を守れ!」という亡国の国会審議で滅びる日本
TPP国会審議、「聖域を守れ!」最低のやり取りに明け暮れる与野党の有様
TPP国会審議が始まっているわけですが、極めて不毛かつ絶望的な国会審議の有様に溜息しか出ません。TPPの聖域5品目とされる農産品について、野党が「聖域を何も守れていないではないか」と声を荒げているからです。
まず、現状認識の根本的な問題として、日本政府は聖域5品目に対して成功裡に交渉をしたと思います。しかし、その頑張りは日本の農業、納税者、そして未来にとっては、まさに亡国の頑張りでしかないことが問題です。
今回のTPP交渉における主要農産品の交渉結果について、一言で表現すると、「日本の農業は甘やかされた聖域を守ることで未来を失った」ということです。
野党はガタガタとくだらないことを述べていますが、実際に起きていることは「米などの高い関税を維持した代わりに、国家管理貿易で他国の米・麦を納税者負担で強制輸入する量が増加し、更には加工食品の関税引き下げで食品加工業の海外流出は加速していく」ということです。その結果として、産業としての農業の衰退に拍車がかかることになるでしょう。
現在の与党はTPPの農業自由化を骨抜きにして聖域を守る(農水省・農業関係者の既得権を守る)ことに成功しており、本来であればTPP交渉への参加を表明した民主党や一貫して賛成してきた第三極に所属していた国会議員らは怒りを表すべきです。
しかし、現実には彼らは「聖域が守れていない」の大合唱。これらの人々が我が国でそもそもTPPを推進しようとしていた人々であるかと思うと、自論の変節ぶりと政策論のレベルの低さに呆れるしかありません。そんなことを求めるなら野党など辞めてしまって、自民党と一緒に既得権保護にまい進すれば良いのです。
TPPには自由貿易・自由投資以外にも安全保障コスト削減のメリットがある
TPPは参加国に高度な自由貿易・自由投資へのコミットを要請するものであり、先進国である日本にとっては経済的なメリットが多い協定です。そのため、上記のような農業に関する本末転倒な議論を論外であるとともに、様々な分野の市場での経済的価値は極めて大きいものと思われます。
また、TPPは米国のアジア回帰戦略の主軸となる側面もあり、オバマ大統領が度々言及している通り、安全保障上の意味合いも重要なポイントとなってきます。つまり、TPP参加国によって自由市場の権益が共有されることで、同地域での安全保障上のコストを共有・削減していくことが可能になるからです。
特に日本の場合は同盟国・米国との間でアジア地域での共通の利益が強化されることを通じて、潜在的な競争相手である中国からの軍事的プレッシャーに対抗する意味合いが強くあります。
米国はそもそも東アジアや東南アジア地域への関心が強くありません。彼らの安全保障上の主要な関心事項の大半はロシアと中東問題です。そのため、むしろ東アジア・東南アジア地域では中国の軍事的な台頭に対して米国は及び腰であり、米国による関与を維持することが極めて難しい局面となっています。
トランプ氏やサンダース氏の台頭、日本・アジアへの関心の低さは彼ら特有の問題ではありません。彼らがTPPに否定的な理由の一つにはアジア地域への安保上のコミットを避けたいという意図があるはずです。
そのため、仮にTPPが米国または日本が抜けて非成立になった場合、TPPに加入した場合と比べて日本は中長期的には中国の安全保障上の脅威に対して米国抜きで対応するだけの防衛コストの負担が迫られることになるでしょう。また、東南アジア諸国の軍拡も継続していくことになり、日本にとって重要な地域の平和維持のためのコストが増加していくことが予想されます。
防衛費等の増加は日本国内における社会保障、教育、地方交付税などの他予算を削減することによって賄うしかないため、TPPに加入しないことは現在の政府による行政サービスの低下を間接的に招くことになるでしょう。そして、拡大する防衛予算は非採算部門である政府規模の拡大に繋がり、日本の経済成長は更に鈍化していくことになります。
巷ではTPPに入ると皆保険が崩壊するなどと議論にも値しない論が横行していますが、安全保障環境の中長期的な見通しに立てばTPPに入らないほうが政府予算内での資源の取り合いが浅ましいことになっていくことは容易に想定されるのです。
国会議員らはくだらない政争をやめて、さっさと大政翼賛会を結成したら良い
冒頭でも触れた通り、かつては自由主義を掲げた政党の所属国会議員らが現在では「聖域を守れ!」と主張している姿を見ると、日本の国会議員の節操のなさはここに極まれりだなとしみじみしてくるわけです。
私の20代・30代前半は小泉構造改革や第三極ブームとともにありましたが、当時と比べて現在の与党と野党の議論の質の低下は著しくもはや見る影もないということが言えるでしょう。
聖域を守ると述べながらも守っているのは既得権者だけで産業自体を衰退させていることにも気が付かない有様。そして、米国自体がアジアへのコミットメントに引き気味であるためにTPPにも既に及び腰になりつつあることを知らず、他国に交渉でやられた!というチャチな陰謀論を振りかざす有様。
国会審議のレベルの低さは真剣に成長・発展、そして平和・繁栄を求める他国の政治家から見た場合に絶句に値する状況です。
与党と野党の議論は双方ともに自分たちが何の議論をしているかも分からず、既得権集団のための「ためにする議論」をしているプロレスみたいなものです。与党も野党も求める結論が一緒ならさっさと大政翼賛会を結成すれば良いわけで、あえて違う政党のフリをしてくれなくても良いのです。
国会議員は今更民主主義をやっているフリをしなくても問題ありません。国民は皆さんが官僚・既得権の言いなりであることを十分に知っているのだから。それよりももっと分かりやすく自分たちがやっていることの説明責任を国民に果たしてほしいものです。自分たちが一般納税者の敵であることを明らかにすることはアカウンタビリティーを果たす上で重要な意思表明だと思います。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
2016年04月17日
世界で最も質素な大統領・ムヒカ氏が支持される本当の理由
ホセ・ムヒカ大統領がウルグアイで人気な本当の理由とは・・・
世界で最も質素な大統領として有名なホセ・ムヒカ大統領。もちろん、筆者もホセ・ムヒカ大統領の政治姿勢は一つの主張として理解できるところもあると思います。
しかし、日本で行われた「ホセ・ムヒカ大統領の言うことはなんでも素晴らしい」キャンペーンは思考停止の典型であり、ウルグアイでホセ・ムヒカ大統領が何故人気なのか、の一側面しか取り上げていないように感じます。
ウルグアイでホセ・ムヒカ大統領が人気の理由は、彼の在任期間中の経済実績のそれなりのパフォーマンスによるものであり、ウルグアイ国民が支持している理由は彼の発言内容だけではないのです。
リーマンショックからの景気の回復で好パフォーマンスだった在任期間
ホセ・ムヒカ大統領の経済成長を否定する発言からは想像できないほどに、ウルグアイは同大統領の在任期間中に経済成長の果実を得ることができました。
同大統領の在任期間は2010年3月1日~2015年2月末なので、彼の在任期間中は世界経済の回復に合わせた南米の途上国らしい経済成長率を記録しています。
つまり、ホセ・ムヒカ大統領の発言とは「うちの国は経済成長しちゃって仕方がない。でも、そこには幸せがないのだ」という無いものねだりの発言です。どこかの国ように「経済が第一」と言いながら、マイナス成長を記録している残念な国家の諦めの念とは真逆の趣旨であることを理解するべきです。
南米においてはウルグアイは着実に成長してきた歴史があり、一人当たりのGDPはアルゼンチンらを抜かして第3位の高さを誇っています。(2014年)そして、現在、同国はまさに三丁目の夕陽が失われるプロセスの中にあるわけで、経済改革が進まず低迷する日本が「これからは成熟社会だ」という敗戦の弁を述べるのとはわけが違います。
ただし、大統領の在任時の経済パフォーマンスは「運が良かっただけ」かもしれない
それでも、ホセ・ムヒカ大統領は「経済成長をさせた上に、本人も清廉で立派な人物だ」という人もいることでしょう。しかし、そういう人は上記の経済成長率の数字を良く見てほしいと思います。
ホセ・ムヒカ大統領が就任した2010年から2015年、ウルグアイ経済は2014年・2015年には5%を切る状況となっています。これはリーマンショックがあった2009年未満の数字です。一応数%のプラス成長ですが、近年のウルグアイの経済成長率からみると疑問符が付く数字です。
そして、政権についた直後の経済パフォーマンスは、タイムラグの関係から前政権の経済政策の結果が反映されるものであり、彼の政権後期及び退任直後の数字こそが彼の評価に値するものだと思います。
ホセ・ムヒカ大統領の闘争の人生に敬意は表するものの、やはり経済運営者としてはイマイチな感じがしますね。したがって、彼がもう1期大統領を務めていたらその評価は大きく変わったのではないかと推測します。
良い人なんだろうなーと思うものの、日本国内の適当な報道を見ていると、なんだかなーと思わざるを得ないものがありました。偶像はやはり偶像に過ぎず、我々は現実の日本と戦っていく必要があると思います。
浦和高校に「分断社会」解消の答えが「本当に」あった話
東洋経済さん、いい加減な記事を載せるのはホドホドにしたほうが良い
浦和高校に「分断社会」解消の答えがあった!
という記事が結構読まれているらしいですね。最近、筆者はこの手の「ためにする」議論に食傷気味であるため、「また言ってるわ、ははは」って感じでしたが、今回は某所から読後感想を依頼されたのであえてコメントしてみます。
最初に言っておきたいことは、佐藤優さんも井手英策さんも一つの主張としては尊重したいということです。そして、悪いのは「東洋経済」であると断言しておきます。なぜ悪いのかというと、対談者による新自由主義への定義が曖昧な単なるプロパガンダを堂々と掲載しているからです。
同対談のテーマが「格差社会・分断社会が新自由主義によってもたらされた」であるにも関わらず、実際の対談内容が「新自由主義批判として成立していない」ということを理解せず、有名な識者が述べていることだからと恥ずかしげもなく掲載していること、を経済誌として反省するべきなのです。
アベノミクスを新自由主義だと述べる人は馬鹿か確信犯のどちらかである
筆者は以前に下記のような記事を書いてみました。
大人の教科書(15)日本一分かりやすいポリティカル・コンパス解説
大人の教科書(21)「新自由主義批判」という様式美
この2つの記事を要約すると、「新自由主義を批判すると日本の知識人の仲間入りできるが、実は何を批判しているかすら認識できていない言論に耳を傾けてはならない」ということです。
少なくとも安倍政権、そしてアベノミクスは「新自由主義」ではありません。現政権の経済政策は典型的なケインジアンであって「新自由主義からかけ離れた」ものです。財政拡大を繰り返しながら中央銀行に意図的に大規模な金融緩和を強いる行為は、新自由主義の経済政策とは正反対のものです。
アベノミクスを新自由主義と批判する人々は、モノを知らないのか、それとも意図的な確信犯なのか、の二択に当てはまります。今回対談されている二人は日本を代表する識者の方ですから当然に後者であることは明らかです。
そして、東洋経済は日本を代表する経済誌の一つです。したがって、用語の誤用によるプロパガンダに気が付かないわけがないので、同対談の掲載を許可した編集者としての識見や矜持を疑わざるを得ません。
縁故資本主義を新自由主義に偽装する人々の頭の中身について
新自由主義批判を行う際に多用されるプロパガンダは「新自由主義と縁故資本主義を混同する」というものです。これは日本における左派が採用する「自民党政権批判」のプロパガンダの手法の一つです。
上記で述べた通り、本来、新自由主義とは「肥大化した政府の機能を小さくする」思想であり、財政拡大・金融緩和を大規模に推進する自民党政権とは似ても似つかないものです。
むしろ、安倍政権の経済政策は「これでもか!」というくらい大きな政府のケインジアンなので、左派系の大きな政府を求める人は本来は大満足するべき政権なのです。
外国では新自由主義は「小さな政府」(減税・規制緩和)を求める政策は主に保守政党によって実行されています。しかし、日本では同じ保守政党である自民党が世界の潮流を一切無視して巨大な政府路線をエンジョイし続けています。
そのため、保守政党・自民党の小さな政府路線に対峙するはずだった左派系の人達は「あれれ、困ったなーどうしよう。自分で何を言っていいのか分からないので、外国の真似して新自由主義批判したいんだけども・・・」となるわけです。
そこで、大きな政府に付き物の「縁故資本主義」を「新自由主義」にでっち上げて語るというプロパガンダ戦術が展開されることになります。
日本の格差は市場ではなく政府が人為的に作り出したものだと認識するべき
縁故資本主義の下では、政権と癒着する大企業らが利益を上げることができます。そして、縁故資本主義の具体的な政策とは、財政拡大・金融緩和という大きな政府を実現する政策なのです。
政権に近しい人々が利益を上げる財政出動、金融資産保有者が利益を上げる金融緩和、アベノミクスは縁故資本主義の教科書のような政策です。
そして、左派は縁故資本主義に基づく大きな政府の政策によって人為的に発生した格差を「まるで自由市場が作り出したかのように偽装する」ことで自らの存在意義を日本の世間にアピールしているのです。
つまり、現状の自民党と新自由主義批判者との争いとは、「限られた政府財源」を「大資本と貧困者」が争っているだけなのです。佐藤優さんと井手さんが述べているように、あちらから引きはがしてこちらに回す、という実に醜い奪い合いですね。
生活水準の向上に必要な市場経済による富の拡大は語られることなく、タックスイーター同士のコップの中のつまらない争いを「壮大な政治思想の争い」のように演出することで多くの知識人はご飯を食べています。彼らは知識人という名のプロレスラーでしかありません。
アベノミクスでトリクルダウンが起きないのは当たり前です。市場による健全な形での経済成長を実現しないアベノミクスで全体のパイが増えるわけがありません。
なぜなら、アベノミクスは新自由主義政策ではなく縁故資本主義であり、左派が求めている社会主義的な政策の親戚だからです。したがって、左派の政策でもトリクルダウンやボトムアップも起きません。そこにあるのは麻薬の切れたアベノミクスと同じような経済衰退だけです。
飼いならされたブロイラーは自分が食用肉としての運命を義務付けられていることを知らない
最後に、彼らは「小さな政府になると自由が失われる」と主張しています。
なるほど、それはそうかもしれないと思います。小さな政府は「政府によって設計された人生劇場の台本通りに生きたい」という自由を侵害していることは確かです。
ただし、その際に彼らが想定している自由とは「食用ブロイラーの自由」、「牢屋の中の自由」、「予め設計された自由」を意味しています。食用ブロイラーは自分たちの運命が生まれた瞬間からすべて決まっているとは夢にも思わないでしょう。
残念なことに、彼らは他人が作った人生設計図を他者に強要することに何ら疑問も持たないのでしょう。実に素晴らしい自由主義者です。まさに、1984のビックブラザーも真っ青なダブルスピークです。「ゆりかごから墓場まで設計通りに生きることは自由なことだ」とは知りませんでした。
そうはいっても私は知識人を批判するつもりはありません。なぜなら、知識人はビジネスマンと比べて自由市場では役に立たないため、他人の人生を政府と一緒に設計することでご飯が食べられるからです。そのため、経済合理性の観点から彼らの言動は理解できます。全体のパイが減っても自分の懐が温かくなることが重要なので。
東洋経済などの経済誌の責任は非常に重いと思います。日本の代表的な経済誌として、新自由主義批判というプロパガンダ祭りはそろそろ終わりにして、もう少しマシな話題を読者に提供してほしいと思います。
ちなみに、東洋経済の中で述べられている「浦和高校のOBによる寄付」は新自由主義による民間の共助(≠政府)の話であって、富裕なOBによる愛校心の賜物であり、彼らが否定する強者による慈善行為そのものです。
まさに、タイトルの通り、答えのうちの一つはそこにあるわけです。タイトルからしてダブルスピークなんですね。その徹底したプロパガンダぶりに感心したことを付け加えてコメントを終了したいと思います。
2016年04月14日
東大入学式、学長は何を語るべきだったのか
東京大学の入学式で学長が「新聞」を話題にすること自体がピントがずれている
東京大学入学式で学長が「新聞を読め」と言ったと報道してみたり、ネットから「新聞の内容を疑えの間違いだろ」という突っ込みが入ったりしているが、そもそも大学の入学式で「新聞」を話題に取り上げることのレベルの低さに呆れざるを得ません。
学長の式辞の趣旨が「世の中に出ている情報を疑う気持ちをもって自ら事実を確認して考えよ」という意味だったとしても、筆者が思う感想としては「だったら、大学なんかに入学するなよ」と思うわけです。
学長は「知のプロフェッショナル」になるため、「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの力が必要と述べられています。
しかし、学生が大学でそれら3つの力を身に付けるために示された方法論が浅薄に感じられたのは気のせいでしょうか。グローバル化への対応、多様性の受容、学際教育の有益さなど、いずれも重要なテーマであるものの、それらは大学で教えるよりも社会に出たほうが大切さが理解できると思います。
それに、新聞というかネット上のニュースくらいは、トイレの中か移動時間中に読んどけよ、と思うわけで、大学に行ってわざわざ新聞を読んでいるくらいならさっさと就職したら良いのです。
大学はリベラルアーツ(教養)を身に付けて新聞を読む前提となる知性を得る場所だ
学生にとって大学で読むべきものは「古典的名著」であり、それらを精読することでリベラルアーツを身に付けることが重要です。哲学や思想的素養を身に付けることを通じて、社会事象を正しく分類するための能力を得ることができます。
大学は専門的な技術知識、グローバルな感性、生涯の友人を得るだけでなく、異なる事象を貫く要素を分析・解析するための視座を身に付ける場所です。これらは学長が述べている「自己を相対化する視野」を身に付けることそのものですが、視座を得るための基本的な作法はある程度はメソッドとして確立しており、それらは訓練をしっかりと受けた大学教育者であれば教授することが可能だと思われます。
大学生に基礎的な教養がない状態でグローバル化やニュースを消費することを求めたところで、自分が何をして何を読んでいるか、ということすら実際には分からないはずです。
ニュースの字面をなぞってみたり、それに対する多様な意見を参照してみたり、ということは、縄文人が目の前の事象について色々な意味解釈を加えている行為と何も変わらず、人類が近代以降に発達させてきた知の体系を習うこととは全く別の事柄です。
大学とは人間の知の体系を教える場所であり、その意義について述べることが「学長に求められる本来の入学式の式辞」だと思います。学長の式辞は「知のプロフェッショナルを目指せ」という内容ですが、少々物足りなさを覚えたことも事実です。
変化が激しい時代であるからこそ教養教育の重要性が増している
目の前で様々な事象が起きるスピードが増して情報が氾濫する時代にあるからこそ、知の体系を学ぶ教養教育を受けたかどうか、ということが決定的な差を生み出すことになります。
瞬時に正しい判断を下して新しいコンセプトを生み出す力は、優れた教養教育によって決定的に基礎づけられています。そのため、今後は従来以上に大学で体系的に学習できるはずの教養教育の必要が増していきます。
多くの国内大学が職業専門学校化・就活予備校化していく中で、東京大学には最高学府としての矜持を保ってほしいと願っています。そして、日本の大学教育を高い教養を身に付ける場所として再定義していくべきです。
2016年04月09日
参議院選挙の争点は消費税5%への引き下げになる
7月参議院議員選挙・増税先送りは昨年予想した通りの展開だということ
筆者は昨年の段階で増税先送りを予想しており、自民の高齢者重視路線、維新の教育無償化路線についても予測してきました。大阪維新の全国的な拡がりが遅々としていること以外は、現実は予想した通りの展開となっています。安倍政権の主要目的は憲法改正と中国への優位を築くことなので政治行動が非常に分かりやすい政権だと言えます。
自民党は高齢者、維新は子育て世代、参議院選挙圧勝の構図へ(2015年12月)
日中限定戦争への道、慰安婦・日韓合意の真意を探る(2015年12月)
安倍政権の財政再建や消費増税に対する熱意はほとんどない
安倍政権はクルーグマンとの会合の中でG7の場でドイツなどの参加国に財政出動を行うことを要請する旨を述べた上で、更に最近では日本としても景気対策として巨額の財政出動を行う方針を示しています。つまり、現政権には財政再建への意志というものはほとんどないと言って良いでしょう。
筆者は消費増税が財政再建に繋がるとは思っていませんが、安倍政権は更に財政支出を削ることの重要性を理解しておらず、日銀による財政ファイナンスで経済運営感覚が完全にマヒしていることが分かります。そのため、消費増税の先送りはほぼ確定的な状況であると言えるでしょう。
外国人に世界経済の悲観的な見通しを語らせた上で、G7で経済危機による財政出動の必要性を訴えるという、日本国内での大胆な経済対策を行うための地ならしを進めています。筆者は消費増税の単純な先送りということだけのために、ここまでの準備を行うのかということについて疑問を持っています。
自民党は消費税5%への引き下げで勝負する可能性が高まっている
一方、野党・民進党は自民党が最終決断を行う前に致命的なミスを犯した状態となっています。それは、消費増税先送りを自民党よりも先に宣言をしてしまったことです。
これが何故野党のミスなのかというと、自民党にとって「消費税を5%に引き下げる」という宣言を行った場合、ほぼ確実に選挙で勝利できる状況が生まれたからです。野党が見送りで主張を固定したことで、それ以下の数字を出せば衆参同時選挙で圧勝できる構図が出来上がっています。
参議院議員選挙において、景気失速はアベノミクスの失敗として野党は攻め立てる予定だと思いますが、自民党側が先送りではなく消費税5%を打ち出せば野党の批判は空虚なものになるでしょう。
安倍政権の戦略目標は財務省の夢である増税ではなく、憲法改正と中国への優位構築を行うことであるため、平然と消費税5%の決断を下すものと思います。これは軽減税率で大幅に譲歩を迫った公明党にとっても飲める内容です。
夏の選挙に向けて野党はバンバンとカードを切り始めていますが、与党側はまだ一切カードを切っていない状況です。衆議院補欠選挙の結果を受けた今後の展開が楽しみな状況となりつつあります。
2016年04月06日
米国大統領選挙本選はトランプVSサンダースの展開に
しばらく体調不良で更新が滞っていたものの、その間に米国大統領選挙情勢が大きく変化してきたようです。今回は、久方ぶりに米国大統領選挙の予測について書いていきたいと思います。
世界の命運を決める米国大統領選挙の構図は・・・
筆者にとっては当然の結果ではあるものの、トランプVSサンダースという本選構図がおぼろげながら姿を現してきました。半年前だと何言ってんの?と多くの有識者の皆さんが言っていた構図がリアリティーを帯びてきています。
代議員数獲得数は4月5日時点でトランプ758・クルーズ499、クリントン1298・サンダース1089ということで、トランプ1位は不変の状況であり、クリントン・サンダースの差は猛烈に詰まっています。
ちなみに、筆者はかなり前からトランプVSサンダースがあり得ることを指摘してきました。そのため、今から書くことはいい加減な米国研究者の人々よりも信ぴょう性があると思ってもらって良いです。
<過去記事から一部抜粋>
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(2015年12月)
米国大統領選挙、トランプVSサンダースの究極バトルがあり得る?(2016年1月頭)
共和党の指名はトランプでほぼ決まり、決選投票逆転説は無根拠である
筆者はトランプ氏が党大会までに過半数取れなかった場合、決選投票で厳しいのではないかという見通しを持っていましたが、病床に臥せっている間に過去の見解は周回遅れのものになったように思います。
現在の筆者の見解では、トランプ氏の党大会での指名はほぼ確実だと思われます。たしかに、トランプ氏が党大会までに過半数の代議員を獲得することは困難であり、おそらく決選投票になる可能性は依然として高い状況にあります。しかし、ドナルド・トランプ氏が党大会で指名を受けれなかった場合に大人しく撤退する可能性はほとんど無くなりました。
理由は2つあります。
第一の根拠はお金です。大方のイメージと異なってトランプ氏は最近までほぼ自己資金を使わない選挙を行ってきました。しかし、直近では20億円以上の自己借入を実施して選挙キャンペーンを行うようになっています。つまり、今までトランプ氏は自己資金を使わない手抜き選挙をやってきたわけですが、勝利を意識し始めたために、お試し期間を終了して資金的なリスクを取り始めたと言えます。そのため、サンク・コストが発生して引くに引けない状況になっていくものと思います。
第二の根拠は本選です。たしかに、現状においてはトランプ氏は本選でヒラリー・サンダースの両氏に対して世論調査で不利な数字が出ています。しかし、共和党はトランプ氏が代議員数1位の状況で指名を受けられなかった場合、独自の第三の候補者として出馬する事態を恐れています。その時点で共和党側の負けが確定するからです。トランプ氏がその状況を理解していないわけがありません。
したがって、決選投票でのトランプ敗北説は周回遅れの議論になっており、今後の焦点は共和党との落としどころとして副大統領候補者を誰にするのか、ということが重要になるでしょう。私見では、副大統領候補者として有力な人物はクリスティー、ケーシック、ルビオなどの主流派の予備選候補者、または女性のイメージが良い人物ということになるかと思います。
蛇足ですが、日本の大部分の有識者やメディアは私から更に1周遅れており、最近になってトランプ有力説をやっと認める現状否定論者ばかりです。上記の決選投票でトランプ敗北説にやっとたどり着いたといったところでしょう。
最近では米国研究者があまりにも使い物にならないため、コミュニケーションコンサルタントによるトランプの話術に関するどうでも良い解説が増えてきたり、彼の選挙用の発言にイチイチ反応する選挙音痴の外交専門家の論評が発表されていたり、本当に日本の対米研究は末期だなあと感じる次第です。
WSJで安倍首相がトランプ氏に対して懸念を示したそうですが、無能な外交ブレーンに乗せられて「一国の首相が米国大統領に最も近い人物に無意味ないちゃもんをつける行為」はリスクが高いので勘弁してほしいです。
サンダースはヒラリーを倒すことができるのか?かなり面白いことになってきた
トランプ優勢は当たり前のことですが、筆者は民主党側のサンダースの巻き返しには驚いています。
最近のサンダースの勝利の大半は党員集会なので、予備選挙で今後も勝利できるかどうかは疑わしいのですが、クリントンがここまで苦しめられるのは意外な展開だと思います。
全国的な世論調査ではヒラリーとサンダースの支持率差は僅差であり、なおかつ大統領選挙本選では「ヒラリーよりもサンダースのほうが共和党候補者に対して強い」という結果が出ています。つまり、民主党側では本選で勝利するならサンダースのほうが良いのでは?という共和党側のトランプ評価とは真逆の現象が起きています。
ヒラリー陣営は現在の獲得代議員数及び特別代議員数でサンダースを上回っている状況ですが、万が一NY州で敗北することがあればその後は雪崩を打って崩壊する可能性があります。同州の世論調査で今年初めの頃までは余裕で20ポイント以上(場合によっては48ポイント)引き離していましたが、現在は10ポイント前後まで詰められています。残り2週間程度で接戦になることは明らかであり、ヒラリーはここで終わる可能性が出てきています。
数字を見た議論が必要であり、大統領候補者の発言に右往左往するのは役人だけで十分だ
外務省はトランプ氏が勝つことを予測できていなかったので、急きょトランプ対策班を作ってレーガン大統領とトランプ氏を比較する資料を慌てて作ってみたりしているらしいですが、米国政治を知っている人々から見れば「意味不明な作業」をしているだけです。
政治家でもトランプ氏の発言に本気でコメントしている人がいますが、「選挙用の発言と外交用の発言は違う」ことくらい、普段から自分も選挙やっているのだから理解してコメントしてほしいものだと思います。
要は数字でモノを考えるという当たり前のことをやることからスタートするべきでしょう。トランプ優位は「トランプは1回しか予備選の支持率で負けたことがない」という当たり前のことを認識すれば「小学生でも分かる」ことでした。また、現在サンダースがヒラリーを逆転できる可能性が出てきたことは世論調査の数字を見れば誰でも分かります。
そして、トランプ・サンダースに共通することは「真面目に選挙マーケティングに取り組んでいる」ということだけです。米国大統領選挙の解説で頻繁に語られている「トランプ・サンダースの両者の支持者が格差を問題にしている」という主張は「何の数的根拠もない印象論」です。共和党と民主党の支持者を同じ尺度で考えることがナンセンスだと何故気づかないのでしょうか?
今回の米国大統領選挙では、日本人が不得意な「数字で選挙を考える」という当たり前の思考を訓練するには良いケーススタディになったと思います。今後の展開が益々楽しみな状況となってきました。