2017年08月21日

バノン辞任後の米国政局に関する見通し

バノン
(ロイターから引用)

バノンの更迭は共和党保守派からの支持にほとんど変化を及ぼさないだろう

スティーブ・バノン首席戦略官が更迭されたことは、共和党保守派からの「共和党大統領」への支持にほとんど影響を及ぼすことはないでしょう。

筆者は、バノン氏はそもそも砂上の楼閣であって「黒幕でも何でもない」ことを繰り返し述べてきました。バノン氏を思想的支柱だとか、黒幕だとか、言っていた人たちは、米国政治のことをほぼ何も理解していない人たちだと言えます。

トランプの黒幕?スティーブ・バノンの微妙な立ち位置(2017年3月21日)

シャーロッツビルの出来事については、連邦議員や大企業経営者らの立場ある人々はポリティカル・コレクトネスを遵守する立場を見せる必要がありますが、一般の大衆レベルではその必要はほとんどないと言えます。

本件は元々南軍のリー将軍像を撤去しようとする動きに対する反対運動であり、一部の白人至上主義団体が紛れ込んでいたとしてもデモの趣旨は人種差別とは関係ありません。

トランプ大統領以外は誰も口には出しません(笑)が、主要メディアによって「テロリスト渡航制限国からの入国停止の大統領令をムスリムの多数派の国からの渡航禁止と言い換えられた」時と同じように、今回も「南軍のリー将軍像撤去に反対するデモを白人至上主義団体のデモと言い換えられた」だけだということは、多くの共和党員には理解されています。

そして、米国では一部の極左団体と極右団体が小競り合いを行うことは常態化しており「ああ、またやってるよ」という程度の印象だと思います。そのため、オルトライトに限らず、レーガン保守派団体やキリスト教右派もトランプ大統領の発言を積極的に擁護はしないものの、左翼過激派の横暴について激しく糾弾しています。

実際、トランプ大統領発言後の8月14日・15日に実施されたThe NPR/PBS NewsHour/Marist pollの全米有権者調査によると、問題となった南軍の彫像の扱いについて、そのまま残すことを選んだ人は62%、取り除くことを選んだ人は27%に過ぎません。

したがって、トランプ大統領の発言によって、共和党大統領を支える共和党保守派からの支持が直ぐに離れることはないでしょう。バノン更迭への不満を一部のオルトライトが表明したところで、彼らは元々共和党保守派の中では浮いているので影響力は極めて微小です。

元民主党員のリベラル派とネオコンが影響を強めるホワイトハウスの現状

しかし、バノン氏を更迭した影響は、ジワジワと出てくることになるものと思います。それはバノン氏が政権を離れたこと(そして、それに先立ちプリーバス首席補佐官らの更迭)は、トランプ政権内(特にホワイトハウス内)がリベラル勢力とネオコン勢力によって共和党員から簒奪されたことを象徴する出来事だからです。

トランプ大統領は、政権発足当初はナショナリスト(マーサー財団系)や共和党保守派に人事面・政策面で配慮するスタンスを示してきました。しかし、徐々に自らの親族(クシュナー・イヴァンカ)とその友達(ゲーリー・コーン氏やムニューチン氏)を中心とする元民主党員のリベラルな勢力が力関係で逆転するようになってきました。

その結果として、オバマケアの見直し法案が大統領の煮え切らない態度によって廃案となり、税制改革ではリベラル勢力の巻き返しで既に保守派内で合意があった大減税&国境税調整の組み合わせが破棄されることになりました。

保守派最高裁判事の指名、パリ協定からの脱退、パイプライン計画の承認、規制改革の発令などの保守派の意向に沿った行動も一部行われたものの、肝心要のオバマケア見直しと減税政策がホワイトハウスのリベラル派の影響で腰砕けになった印象は共和党員に強く残ったものと思います。

また、対外不介入派のバノン氏が更迭されたことで、政権内に復権しつつあるネオコン勢力が一層勢いづくことが予測されます。

これまでの過程を見てもマクマスター氏、ディナ・パウエル氏、フィオナ・ヒル氏などのネオコンに親和的勢力が既にNSCでの要職を占めています。バノン氏は既に実権を失ってはいたものの、今後は彼が原則として排除していたネオコン系のシンクタンクから人材採用が模索されることになるでしょう。

したがって、トランプ政権は今後は対外派兵などに積極的な方向に舵を切ることが予想されます。バノン氏の世界観によって戦争が起きて世界が滅びると述べていたいい加減な有識者たちは筆者の予測に噴飯ものでしょうが、現実の人事はそれらの有識者の人たちの予測とは全く別方向に向かっていくものと思われます。

トランプ政権の安定性を測るための指標としての政治任用数

8月22日現在、トランプ政権の政治任用スケジュールは非常に遅れており、既に連邦上院の承認を受けた人数は124人に留まっています。その大半は国務省の大使人事と必要最低限の人事でしかありません。

トランプ政権は既存のワシントン政治の弊害を排除する観点から、政治任用職への採用の厳選化を行ってきたため、なかなか政治任用が進んできませんでした。選挙の時に対立した党内勢力からの登用はほとんど進んでいません。

しかし、ワシントン政治の弊害排除を掲げたバノン氏らの勢力がほぼ完全に一掃されたことで、今後は恙なく腐敗したワシントン政治界隈から人材を採用していくことが可能となります。

ただし、それはリベラル勢力と散々対立を繰り返し、そして共和党主流派との間で内部抗争を繰り広げてきたトランプ政権に対し、現在野に存在している既存の反トランプ派のリベラル人材や共和党主流派人材が政権ポストに就任することを受け入れた場合にしかうまくいかないでしょう。

つまり、一連の過程によって人事登用の選択権は政権側ではなく登用される側が持っている倒錯した状況が生まれていると言えるでしょう。半ば泥船と化した政権の採用要請にどれだけの人々が応じるかは依然として不透明です。そのため、今後のトランプ政権の安定性(=ワシントン政治との妥協の進捗)を評価する指標として、政治任用数の推移は常に見守っていくことが重要であるように思います。

トランプ大統領がワシントン政治に全面降伏した象徴的人事がバノン更迭であり、それでも政治任用が進まなければトランプ政権は相当に危機的状況のままと言えるでしょう。

「トランプ大統領」と「共和党大統領」の間に存在する溝

さて、上述の一連の流れにも関係することですが、今後は「トランプ大統領」と「共和党大統領」の間に存在する溝が一掃表面化していくことになっていくものと思います。

「トランプ大統領」でないと困る人々は、「マーサー財団系のナショナリスト(バノン派)」と「トランプ大統領が任用した親族とお友達」だけです。前者が右派の側近、後者が左派の側近ということになります。

バノン氏が去り際に語った「トランプの対立者と戦う」「トランプ政権は終わった」という言葉の意味は、オルトライトから見た象徴(ワシントン政治の腐敗と戦う存在)としての「トランプ」は終わったことを意味しています。バノン氏やマーサー財団の視点に立てば、トランプ大統領自体が存在価値を失ったと言えそうです。つまり、トランプ大統領は度重なるメディアバッシングや党内抗争の結果として、自らを守る盾のうちの1つを今回捨て去ってしまったわけです。

そのため、「トランプ大統領でなければ困る」勢力は残された一勢力「トランプ大統領が任用した親族とお友達」に固まった状況となってしまっています。しかし、その中核であるクシュナー上級顧問はロシアゲートの問題で党内外から激しいプレッシャーにさらされている状況にあります。今回のバノン氏の一件が無ければ高確率で政権から早々に放逐されていた可能性も高く、今後もトランプ大統領にとってアキレス腱となり続けるでしょう。

そして、トランプ大統領の運命を決する上で重要なことは、多くの共和党関係者は「トランプ氏個人」ではなく「共和党大統領」を支持しているに過ぎないということです。つまり、彼らにとっては大統領は「共和党」でさえあればよく「トランプ」である必要はないのです。これは大統領選挙時から何ら変わらない事実であり、共和党員が「トランプ」を推した理由の1位は「ヒラリーではないから」でした。

右派の側近を失ったトランプ大統領を左派の側近たちは守り切ることができるでしょうか。筆者はトランプ大統領が自らに反対する勢力の「離間の計」にハマった結果として、自らと利害を共有する勢力を切り捨ててしまったことで、大統領の地位は一層危険水域に突入したと考えています。

共和党員が支持する存在は「共和党大統領」であって「トランプ氏個人」ではありません。この微妙な差異が後々決定的な状況を生み出すことになるものと思います。






本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 19:45│Comments(0)米国政治 

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