2017年08月18日

人種問題、トランプ発言が影響を与えるのはリベラル勢力だ

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トランプ大統領の「シャーロッツビル」暴動への発言が与える影響

トランプ大統領がシャーロッツビルでの一連の暴動・衝突について「白人至上主義を明確に否定しなかった」とされる発言は米国政界にどのような影響を与えるでしょうか。

一部の有識者の見解では、共和党主流派や保守派の議員らからも批判が出ていることから、白人至上主義に対して嫌悪感を持つ共和党のレーガン保守派からも離反が生じることでトランプ政権自体が危なくなるという意見もあります。

しかし、昨今のトランプ政権の支持率低下はその実行力に対する疑問であり、トランプ大統領の発言は不支持率を増加させる傾向はあるものの、共和党員からの支持率の低下には必ずしも直結していません。本件が共和党支持層に与える影響も限定的なものに留まると思います。

筆者はトランプ政権が危機的な状況に陥っていることは認めるものの、その原因は共和党内部ではなく、あくまでもトランプ政権にコミットしているリベラル勢力の離反によって生じるものと推測します。

極左と極右の衝突、そして共和党員の根深いメディア不信という米国の政治状況

米国では極右の白人至上主義団体も然ることながら、極左の反ファシスト勢力による過激な暴力についても共和党勢力には広く認知されています。したがって、共和党支持者が極右の白人至上主義を批判することは当然のことではあるものの、極左勢力への激しい反発も背景には当然に存在しています。

最近でも共和党系連邦議員がサンダース支持者によって狙撃されるとともに、極左勢力によって警察官が死傷する事態が生じており、その暴力への認知は大衆レベルでは周知されているところです。実際、保守系メディア・シンクタンクは、本件へのレスポンスとしてトランプ発言への擁護ではないものの、極左勢力の横暴について激しく追及しています。

実際、8月14日・15日に実施されたThe NPR/PBS NewsHour/Marist pollの全米有権者調査によると、問題となった南軍の彫像の扱いについて、そのまま残すことを選んだ人は62%、取り除くことを選んだ人は27%に過ぎません。

共和党員の間では左派に著しく偏った主流派メディアへの不信が募っており、上記の事実と相まって連邦議員らによる表面的なトランプ大統領への糾弾は行われるものの、「本件自体が共和党員からのトランプ大統領の支持の低下につながる」という見方はそれ自体がリベラル・バイアスがかかった見当違いの分析だと思います。

トランプ発言は共和党員にとっても容認されるものではないことは事実ですが、極左勢力への嫌悪と左派メディアに対する不信がトランプ発言の共和党員への影響を減殺するものと推察されます。

トランプ発言が影響を与える対象は「政権内のリベラル」と「リベラルからの批判を恐れる人々」

トランプ発言が実際に影響を与える対象は、政権内のリベラル、そしてリベラルからの批判を恐れる人々でしょう。彼らはリベラルなメディアの影響を強く受ける層であり、またリベラル側の抗議活動に対して弱みを持っています。

政権内のリベラルとは、自らのアイデンティティーがリベラルであるトランプ一族、そして彼らが連れてきたゲーリー・コーン国家経済会議議長やムニューチン財務長官らの元民主党員の人々です。これらの人々はトランプ発言を受けて、自らがそれと同一視されることに嫌気がさす可能性があります。そして、今後は従来以上にリベラルな立場に近い層からの政治任用が難しくなることでしょう。

また、既に解散された大統領戦略・政策フォーラムなどに属していた企業人などは、左派からの攻撃や内部統治上の問題から企業経営リスクを回避するためにリベラルな立場を取らざるを得ないため、トランプ政権にコミットすることは一層難しくなるでしょう。そのため、今後は大統領が企業人を巻き込んだ諮問会議を組織することは極めて困難なものとなります。

つまり、トランプ大統領の政権運営に与える影響は、共和党というよりもリベラルな勢力からの政権への協力が完全に得られなくなる、という点で大きなインパクトがあると言えそうです。その結果として、政権運営に更なる困難が生じることで、その政策の実行力について共和党員からの疑問に晒されるという展開が想定されます。

一方、リベラル勢力や共和党主流派は本件を機にバノン首席戦略官の首を取りたいところでしょうが、どちらかというと政権内におけるリベラルの影響力が相対的に低下する可能性すらあります。米国の左派勢力は典型的な合成の誤謬に陥っているのではないでしょうか。

トランプ大統領と共和党が取り得る選択肢とは何か

上記の理由からトランプ大統領の政権運営が一層厳しくなったことは確かですが、逆にトランプ大統領と共和党にとっては政権内の政争にケリをつけるチャンスが訪れたとも言えます。

本件の影響によってロシアゲートが深刻化して一足飛びにトランプ大統領弾劾からペンス副大統領の大統領昇格という可能性は必ずしも高くありません。しかし、トランプ大統領の自由奔放な行動と民主的正統性に欠けるトランプ一族の専横にはストップがかけられることになるでしょう。

むしろ、おそらく実際に検討される内容は、トランプ政権の完全な共和党化ではないかと思います。トランプ大統領はホワイトハウス内に元民主党員のリベラルな勢力を多数抱えており、政権発足以来ホワイトハウス内で共和党の生え抜き勢力との権力争いを行ってきました。

しかし、今回の一件で従来よりも更にリベラル勢力からの協力を得ることは不可能になりつつある中で、ホワイトハウス内での争いを終わらせて、完全に共和党主導のホワイトハウス運営に切り替えることができれば一旦全て丸く収まるものと思われます。それは実質的にトランプ大統領とペンス副大統領の力関係が大きく変化する影響をもたらすでしょう。

逆にそのような形にならない場合、トランプ政権はいよいよ手詰まりという感になり、どのような政変が起きてもおかしくない状況となっていくことが予測されます。今後も米国政界から目を離すことはできません。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 08:20│Comments(0)米国政治 

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