100冊以上の米国政治・トランプ本から選んだ読むべき7冊クリスチャントゥデイで「トランプの黒幕」の書評を頂きました。

2017年04月22日

北朝鮮有事、日本の「勝利」はどこにあるのか

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photo by MATTA odai by マエリベリ・ハーン

米国が北朝鮮に攻撃することは、勝者なきゲームに過ぎない

米国が北朝鮮問題に本腰を入れ始めた背景には習近平と張徳江の中国国内の政争があるものと推測されるわけですが、米国が本気になる大前提は北朝鮮の核を積んだICBMが米本土に届く可能性が出てきたことにあります。

北朝鮮の核やミサイルは日本や韓国などをそもそもターゲットにして久しいわけであり、在日米軍・在韓米軍はあるものの、米国の国内政局的なリアルに影響を与えていたとは思えません。

筆者は現状では米国の北朝鮮攻撃の可能性は極めて薄いと思います。しかし、仮に米国が北朝鮮を攻撃したとしても米本土はほぼ何も傷つかず、主な戦場となるのは韓国・日本です。その際、北朝鮮はミサイルだけでなくインフラテロで確実に都市機能が崩壊しにかかることでしょう。

また、北朝鮮から発生した難民問題に苦慮するのは中国・ロシアということになるでしょう。そして、北朝鮮も体制崩壊は必然であり、金王朝も終わりということになります。

つまり、北朝鮮に対して米国が実際に攻撃するという事態は、米国以外の全ての国々の負けがその場で決定します。そして、実際には米軍にも被害は出ますし、東アジア経済が混乱することで米経済も打撃を受けるという勝者のいない戦争が行われるに過ぎません。

米国はICBMさえ放棄させればOKであり、なおかつ核放棄をさせれば上々ということになります。北朝鮮有事を実際に発生させることは避けたい、ということが関係各国の指導部ほぼ全員の意図が一致している本音ではないかと思われます。

北朝鮮問題の「勝利」はどこにあるのか、日本人はどこを目指すべきなのか

日本は自由と民主主義の価値観を米国と共有する国だと安倍首相は何度も海外に向けて表明していますが、東アジアの理想はどのような状況か、というビジョンは実際には無いように見受けます。

そのため、この緊迫する事態に対して殆ど政治的なメッセージらしいメッセージも出せず、米国の同盟国として危機に慄くばかりの対応となっています。

北朝鮮有事が発生することは上記の観点から日本にとっては負けであり、現状維持またはICBMを放棄させたとしても負けに近い引き分けしかないゲームに参加していることになります。

安全保障上の脅威にさらされている日本人、北朝鮮に拉致された拉致被害者の方々、北朝鮮国内で圧政に苦しむ北朝鮮国民、そして東アジアの自由は、金王朝に脅かされ続けます。

もちろん、核とミサイル、そしてテロへの対抗策を整備していくことで、日本への安全保障上の脅威を緩和できるので大いに進めるべきです。更に難しいとは思いますが、現在議論されている先制攻撃能力の獲得やサイバー能力の拡充も急ぐべきです。

しかし、北朝鮮問題とは日本の安全保障が問われているだけではなく、世界の中、そして日本の隣国に圧政を敷く独裁国が存在していることについて、日本人としてどのように考えるべきなのか、というビジョンが問われている問題だと思います。

現在発生している事態は、北朝鮮という独裁国をコントロールするために米中の接近が生まれており、米国が軍事的・経済的にも大国でありかつ事実上の独裁国家である中国の東アジアにおける影響力を容認する方向に動いています。

日本は、北朝鮮や中国の政治体制を認めるのか、それとも自由主義・民主主義がアジア地域に拡がることを良しとするのか、仮に後者だとするなら米国も含めた国際社会に自国のビジョンを提示するべきではないでしょうか。

トランプ政権は中国政府を動かしましたが、日本は中国政府を動かすこともできず、米国政府を動かすこともほとんどできません。それは軍事力の不足も当然ですが、日本に本当はビジョンがないからに他なりません。

北朝鮮に対して中国が生殺与奪権を持っているのは理解しますが、米中のやり取りを傍観して追認するだけの存在のままで良いのでしょうか。

実際に有事が起きたときの脅威への対処で「負け」の被害を少なくすることは大事ですが、日本の「勝利」とは何か、それに向けて何をするべきか、ということをもう少し議論・準備しても良いのではないかと思います。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 15:19│Comments(0)米国政治 | 国内政治

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