2016年2月12日・首相動静ウォッチ中山俊宏教授のための共和党保守派入門(前篇)

2016年02月15日

トランプ氏は予備選挙1位でも共和党の指名を受けられない?

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共和党の米国大統領選挙の予備選挙の見通しを改めて整理してみました

共和党の大統領予備選挙の日程を改めて整理してみました。やはり相当にタフな日程であることを実感するとともに、政党の代表者とはこれだけのプロセスを踏んで選抜するものだということを痛感します。

大統領予備選挙では過半数の代議員2472人(()内の合計数)の過半数を確保することで指名を獲得できます。規定により三人以上候補者が乱立して過半数を獲得する人物が現れなかった場合、上位2名による決選投票という形になります。

前半山場は3月1日のスーパーチューズデーでほぼ決着がつくものと想定

既にアイオワ州党員集会とニューハンプシャー州予備選挙の結果が出ており、それぞれクルーズ氏とトランプ氏が1位を獲得している状況です。しかし、クルーズ氏もトランプ氏も圧勝というほどの数字ではなく、獲得代議員数も含めるとルビオ氏らの主流派候補者との決定的な差はついていません。(トランプ17、クルーズ11、ルビオ10、ケーシック5、ブッシュ4、カーソン3)

3月1日スーパーチューズデーの前にサウスカロライナ州予備選挙とネバダ州党員集会の2選挙が存在しています。サウスカロライナ州予備選挙は、トランプ氏が全体支持率一位の状況は不動ですが、州民の保守的な特性からクルーズ氏が善戦すること・上院議員がルビオ氏・ブッシュ氏を推薦していることから各区レベルでは混戦状態になることが予想されます。ネバダ州党員集会でも前回は主流派のロムニー氏が勝利していることから、やはりトランプ・クルーズ・主流派による激しいつばぜり合いが予想されます。

スーパーチューズデーは2008年の21州が参加した時よりも影響力が下がっているものの、多くの予備選挙・党員集会が行われるという意味では極めて重要です。特に今年のスーパーチューズデーは、ジョージア、ノースダコタ、オクラホマ、テネシー、アラバマ、コロラドなどの2012年に保守派のサントラムが勝利した州が多く、クルーズの地元であるテキサス州が入っていることなどが特徴です。そのため、保守派のクルーズにとっては予備選挙全体に有利なインパクトを与える最大のチャンス到来と言えるでしょう。

一方、主流派候補者はバラバラのまま苦戦することが予想されるため、スーパーチューズデー後には流石に撤退一本化の流れが出てくることになるでしょう。トランプ氏については全米での支持率は依然として高く、サウスカロライナ州での勢いに乗る形でスーパーチューズデーでも一定の成果を出すことになることが予想されます。

3月3日~5日に予定される保守派最大の集会CPACでの投票が与える影響にも注目

共和党の予備選挙に決定的な影響を与える要素は実は予備選挙そのものではありません。毎年年初に開催されている米国保守派の年次総会であるCPAC(Conservative Political Action Conference)において、数万人の保守派運動員による模擬投票が行われます。

CPACにおける投票は実質的に予備選挙の勝者を決めるものとして注目されており、2012年もCPACでロムニー氏がサントラム氏を破ったことでロムニー氏の指名内定が固まることになりました。そして、今回もCPACが予備選挙では最大のポイントになることは明白であり、CPACに一度も参加したこともなく米国共和党の予備選挙を語ることは不可能だと言えるでしょう。(ちなみに、私は過去のCPACで自分たち以外の日本人を見かけたことがありませんが。)

CPACでの投票結果を受けて、その後のミニチューズデーなどの投票傾向に違いが出てくることが予想されるため、クルーズなのか、ルビオなのか、共和党保守派の本選に向けた候補者選定は注目に値します。ここでルビオ氏が勝利すれば三つ巴状態が続き、クルーズ氏が勝利すればトランプ氏に挑む2位争いは事実上の決着ということになります。

トランプ氏に関しては、CPACでの投票で勝利することは困難であることが予想されるため、同氏としてはCPAC前のスーパーチューズデーで勝負を決着したいと思っているでしょうが、上述の通りかなり険しい道のりということが言えそうです。

トランプ氏との決戦投票を見据えた2位争いという隠れた競争に注目するべき

多くの日本人識者の予想を裏切り、主流派と保守派との三つ巴を演じながらトランプ氏は支持率トップを歩み続ける可能性が高いです。筆者もトランプ氏の巧みな選挙戦術を以前から評価しており、米国通の識者の皆さんや国会議員から白眼視されながらトランプ優位を主張してきました。

とはいうものの、トランプ氏の現状の支持率では共和党の指名を得ることはかなり難しいものと思います。理由はトランプ氏の支持率1位は全体の30%程度による支持を固めている状況でもたらされているからです。このまま三つ巴状態が続いた場合、共和党党大会までに過半数の代議員を獲得する候補者はいない可能性があります。

その際、重要となるのは上述の決選投票のシステムです。各州代表者は投票一回目は予備選挙の結果に影響を受けて投票先を拘束されていますが、2回目の決選投票時には自由投票ということになります。そうなると、トランプ氏は30%程度の代議員しか確保できず、残りの代議員が反トランプということになればトランプ氏は完敗することになるでしょう。(上下両院議員などの自由投票の権利を持つ特別代議員(約5%)もトランプ氏には入れないでしょう。)

そのため、共和党の予備選挙候補者はなかなか撤退せず、トランプ氏を除く事実上の1位争いである党内2位のポジションを争っているということになります。つまり、トランプ氏という上澄みを抜かした事実上の1位争いをクルーズ氏VS残りの主流派で行っているわけです。

トランプ氏は取り得る選択は意外と少ないという厳しい現実を超えられるか

筆者はトランプ氏が予備選挙で勝つ可能性は高いと思うものの、その後に予想される決選投票で勝つことは極めて困難であると思います。トランプ氏が予備選挙で勝利するためには、予備選挙段階で50%以上の代議員を確保することが必須条件だからです。

仮に50%以上の代議員を予備選挙段階で確保できずに決選投票に流れ込んだ場合、トランプ氏が取り得る選択は独立系の候補者として出馬する可能性を共和党執行部に伝える、という一手になることでしょう。つまり、予備選挙で圧倒的な数字を出した自分を差し置いて共和党の指名を受ける人物がいることがあり得ない、と主張することで牽制する形となります。

このような状況に持ち込むためには、そもそも予備選挙段階で1位を維持することが必要ですが、スーパーチューズデーやCPACによる情勢変化を粘り切ることが最初の難問ということになります。トランプ氏が独立系の候補者として出馬した場合は民主党勝利が自動的に決定するため、トランプ氏が予備選1位となった場合に共和党執行部も厳しい情勢判断が必要となります。

今年の米国大統領選挙は最後まで目を離すことが難しい選挙ということが言えるでしょう。ブルームバーグ氏や民主党側の動向にも注目していきたいと思います。


〇2016年・共和党大統領予備選挙のスケジュール
<2月1日>
アイオワ州(30)クルーズ1位、トランプ2位、ルビオ3位

<2月9日>
ニューハンプシャー州(23)トランプ1位、ケーシック2位

<2月20日>
サウスカロライナ州予備選挙(50)

<2月23日>
ネバダ州予備選挙(30)

<3月1日(スーパーチューズデー)>
アラバマ州予備選挙(50)
アーカンソー州予備選挙(40)
コロラド州予備選挙(37)
ジョージア州予備選挙(76)
マサチューセッツ州予備選挙(42)
ミネソタ州予備選挙(38)
オクラホマ州予備選挙(43)
テネシー州予備選挙(58)
テキサス州予備選挙(155)
バーモント州予備選挙(16)
バージニア州予備選挙(49)
アラスカ州予備選挙(28)
ワイオミング州党員集会(29)
ノースダコタ党員集会(28)

<3月5日>
ケンタッキー州党員集会(45)
ルイジアナ州予備選挙(46)
カンザス州党員集会(40)
メイン州党員集会(23)

*CPACにおける保守派の投票結果発表

<3月8日>
ハワイ州党員集会(19)
アイダホ州予備選挙(32)
ミシガン州予備選挙(39)
ミシシッピー州予備選挙(59)

<3月12日>
ワシントンDC党員集会(19)
グアム島党員集会(9)

<3月13日>
プエルトリコ予備選挙(23)

<3月15日(ミニチューズデー)>
フロリダ予備選挙(99)
イリノイ予備選挙(69)
ミズーリ予備選挙(52)
ノースカロライナ予備選挙(72)
オハイオ予備選挙(66)
北マリアナ諸島党員集会(9)

<3月19日>
ヴァージン諸島(9)

<3月22日>
アリゾナ州予備選挙(58)
ユタ州予備選挙(40)
サモア自治州党員集会(9)

<4月5日>
ウィンスコンシン州予備選挙(42)

<4月19日>
ニューヨーク州予備選挙(95)

<4月26日>
コネチカット州予備選挙(28)
デラウェア州予備選挙(16)
メリーランド州予備選挙(38)
ペンシルバニア州予備選挙(71)
ロードアイランド州予備選挙(19)

<5月3日>
インディアナ州予備選挙(57)

<5月10日>
ネブラスカ州予備選挙(36)
ウェストバージニア州予備選挙(34)

<5月17日>
オレゴン州予備選挙(28)

<5月24日>
ワシントン州予備選挙(44)

<6月4日>
カリフォルニア州予備選挙(172)
モンタナ州予備選挙(27)
ニュージャージー州予備選挙(51)
ニューメキシコ州予備選挙(24)
サウスダコタ州予備選挙(29)

<7月18日>
共和党全国大会

 

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yuyawatase at 09:00│Comments(0)米国政治 

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