日経新聞・秋田浩之氏の「トランプ論」はデタラメ在日米海軍司令部が「激おこ」の件について

2017年04月11日

トランプが「シリアの子どもの写真」を見て爆撃したと本気で思っている人へ

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🄫AFP (ISISはイラクでほぼ敗北しシリアでも風前の灯に)

トランプ大統領が「シリアの子どもの写真」を見て本気で爆撃を決意したと思っているのか?

トランプが化学兵器を散布した軍が駐留しているとされる空軍基地をトマホークで爆撃した件について、人道的な措置として大義名分が必要であることは理解できます。そして、国連でも度重なる議論を行った上での措置(ロシアの拒否権で話が進まない)であり、米国はシリアのアサド政権に対する軍事介入のための正当性作りは過去から粛々と行ってきました。

そのため、今回のシリアの空軍基地爆撃に際して、「トランプ大統領が化学兵器で苦しめられるシリアの子どもの写真を見て爆撃を決意した」と人道上の理由を強調することは武力行使にあたって当然強調されるべきでしょう。オバマ政権が実施できなかったことをトランプがやって見せたことの意義も大きいものと思います。

しかし、国際政治学者やジャーナリストとされる人々が「上記の理由」を真に受けて「トランプ政権が孤立主義から介入主義に転じたor軍事政権化したor思い付きで攻撃した」と論評している姿は残念すぎるどころか滑稽ですらあります。この人たちはホワイトハウスのHPすら見たことないのか?と思う次第です。

トランプ大統領が1月に発表した2つの大統領についておさらいする

トランプ大統領は1月27日に「軍備増強に関する大統領覚書」、1月28日に「シリアとイラクのISISを掃討するための大統領覚書」の2つの大統領覚書を発表しています。これはイスラム圏7か国からの入国禁止の大統領令とバノンをNSCの常任メンバーに加えた大統領覚書の影に隠れて現在までほとんど報道されないままとなっています。

1月27日「軍備増強に関する大統領覚書」は米軍の即応体制を整えることに主眼を置いたものであり、そのための行政管理局とともに予算措置なども併せて講じることになっています。また、1月28日「シリアとイラクのISISを掃討するための大統領覚書」は、国防総省に関係各機関と連携してISISを打倒するためのコンティンジェンシープランを1か月以内に策定して提出するものでした。

マティス国防長官はこれらの大統領覚書にしたがってトランプ大統領に指示された報告しており、その後から小規模ではあるものの、シリアとイラクに対して地上軍の派兵が進みつつある状態となっています。

一方、トランプ大統領・ペンス副大統領・ティラーソン国務長官らは中東の関係諸国に安全地帯の設置やISIS掃討キャンペーンへの協力を求める外交努力を続けてきました。粛々とトランプ政権の中東への介入及び派兵の準備は進んでいたものと言えます。

シリアへの攻撃は「マティス&マクマスター」の軍人コンビが主導したもの

仮に報道の通り、マティス及びマクマスターの二名によってシリア空軍基地の爆撃を行ったとした場合、上記の経緯から「アサド政権に対する人道的介入」も計画プランに入っていたと想定することが極めて妥当だと思われます。

元々アサド政権の化学兵器使用は度々国連でも制裁の議題としてあがっており、中東地域のISIS掃討計画の要素の中に組み込まれていないとすることには無理があります。マティスとマクマスター主導の軍事展開が無計画に行われると考えるのは中学生以下の妄想です。(相手は米軍ですよ?(笑))

では、なぜトランプ政権はアサド政権に対して人道的介入に踏み切ったのでしょうか。それはISISが当初想定していたよりも早く壊滅しつつあることが要因として大きいと見るべきです。直近では、米軍が本格的に介入する前に、米軍の介入根拠であるはずのISISがアサド・反政府軍・クルドによって片づけられてしまい、米国抜きで和平に向けたプロセスが進む可能性が高まっていました。

ISIS掃討計画には戦後構想が含まれることは当然であり、上記の大統領覚書には国防総省だけでなく幅広い政府機関の協力が求められています。そして、ISISが壊滅しつつある現在、シリアの状況は既に戦後構想を巡る主導権争いに移っていると理解するべきでしょう。

アサド政権による化学兵器の使用は、上記の文脈の中で反体制派に対して「米軍は助けに来ない」ことを印象付けるためのアサド政権の示威行為であったと見ることが妥当であり、米軍はそれを拒否してシリア情勢に介入する意志を見せたことになります。

軍事介入をを正当化する理由として人道介入を強調することは当然ですが、米国が同地域の和平プロセスについてロシアや関係各国に米国の存在を見せつけることが理由でしょう。今後、更に主導権を取り戻すために米軍が何らかの関与を強めるのか、ロシア・アサド側が何らかの妥協を行うのか、交渉フェーズに改めて入ったと見るべきでしょう。

NSCの構成メンバーの変更が持つ意味合いについて

バノンなどのオルト・ライトとして位置づけられる勢力が中東地域への介入に否定的であったために外されて、軍人主導の中東への介入政策がとられる方向に舵が切られたと理解することは間違いです。

元々バノンも含めてトランプ政権は中東、ISIS絡みの事案への介入に関しては積極的であり、孤立主義でも無ければ非介入主義でもありません。むしろ、中東地域については地上軍の派兵も含めて積極的な介入を当初から謳っていました。

NSC常任メンバーからバノンが外れた理由は、バノンやセバスチャン・ゴルカなどが主張するグローバル・ジハード(つまり、テロ)への対応よりもシリア、ロシア、イランなどの敵性国家への対応に重点が置かれたからでしょう。バノンらは米国内でテロが発生した場合に再び台頭してくる可能性が高いものと思います。

今回のNSC人事の中で国家情報長官と統合参謀本部議長が復活するとともに、核管理を所管しているエネルギー省のリック・ペリー長官も加わることになりました。これはロシアとの核軍縮やイランとの核合意(エネルギー省も関与)についての交渉を進めていく上で必要な人事として捉えるべきでしょう。特に5月に行われるイラン大統領選挙は反米勢力が勝利する可能性があり注目に値します。

したがって、トランプ政権としての優先目標の変更はあったものの、基本的な対中東シフトの方向性は変わらず、むしろ元々政権の中に存在していたISISやイランに対する強硬姿勢が徐々に表面化しつつあるといったところです。

議会対策などの国内政局上の意味合いも考慮するべき

オバマケア代替法案(ライアンケア)に反対した保守強硬派はコーク兄弟からの支援を受けており、コーク兄弟はムスリムの入国禁止を巡ってトランプと激しく対立してきた経緯があります。

主流派を推す一部のメディアの報道によると、議会対策に失敗した理由はバノンの傲慢な対応にあったとするプロパガンダまがいの記事が公定力を持って垂れ流されており、議会対策をしたいならバノンを主要ポストから外せ、という反対勢力の意思表示は明確であったように思われます。

したがって、同入国禁止を主導してきたバノンをNSC常任メンバーから外すことは、国内政局上の観点からトランプのコーク兄弟に対する恭順の意を示すものとも言えそうです。

以上のようにアサド政権への介入やNSCメンバーの変更は孤立主義から介入主義へとか、軍国主義化したとか、何も考えていないとか、そのような論調が論外であることはお分かり頂けたことでしょう。

以上のように、トランプ政権の行動を陰謀まがいの「バノン黒幕説」「クシュナー黒幕説」で説明することはナンセンスです。国内外の情勢を時系列で並べながら分析を加えていくことが重要です。


 本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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yuyawatase at 17:37│Comments(0)米国政治 | アジア(中東)

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