2017年02月08日

安倍首相・トランプ会談の狙いに関する考察

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 <安倍・トランプ会談で日本が提案する内容とは>

安倍政権は2月10日のトランプ大統領との会談に先立ち、「日米日米成長雇用イニシアチブ」という包括的なプログラムを準備し、約51兆円のインフラ投資と70万人の雇用創出を提案することが報道されています。

同イニシアティブは5項目で構成されているとされており、米国でのインフラ投資、世界でのインフラ投資に関する連携、ロボットや人工知能での連携、サイバー分野での協力、雇用を守る分野での連携が含まれているとのことです。その上で、トヨタをはじめとした自動車関連産業が米国で150万人の雇用を作っていることを強調するものと思われます。

トランプ政権は安倍首相を歓待した上で、フロリダのリゾートで安倍・トランプのゴルフを設定し、個人的な関係を築く用意を準備していると報道されています。

<元々トランプ政権発足直後に外務省の有識者会議で提言されていたこと>

米国へのインフラ投資推進は日本政府としては規定路線であり、外務省が設置していた民間有識者の「日米経済研究会2016」が昨年11月段階で対米政策の方向性について提言書を提出しています。

その内容はトランプ大統領が推進する米国のインフラ整備について、高速鉄道・再生エネルギー・水関連インフラなどで協力する旨が記載されており、日本政府が力を入れているインフラの輸出が謳われているものでした。

そのため、トランプ政権に対する処方策として予め準備していたカードを切ったということが言えそうです。安倍政権や自民党の支持基盤を見ても高速鉄道の輸出などは悲願とも言えるものかと思います。

また、私見では、安倍政権は第三国への共同投資などにロシアのプロジェクト(ヤマルなど)を含めることで、対中包囲網にロシアを加えることへの米国のコミットを得にいくのではないかと推測します。

<日本が提案する内容が持つトランプ政権に対するインパクト>
 
筆者は安倍政権の外交・安全保障政策は終局的に失敗すると思っているので評価していません。ただし、今回の対米外交の「お土産」についてはトランプ政権に対しては極めて有効だと思います。

トランプ大統領にとってはインフラ投資による雇用創出は願ったり叶ったりのものです。トランプ政権は100兆円のインフラ投資を主張しているためにその財源が問題となってきました。しかし、日本政府が約51兆円の投資を宣言したために数字の上では目標の半分を解決したことになります。(*日本側の投資期間が不明なのでざっくり数字のみ。)

トランプ政権の経済政策の政策効果が出始めるには数年かかると想定されるため、トランプ政権としてはそれまでに象徴的な成功事例が幾つか必要になっています。そのため、日本からの多額の投資が決まったニュースは大きな意味を持っています。(トランプ氏が当初Twitterで指先介入をしたのもセンセーショナルな効果を狙った意味合いもあるものと理解すべきです。)

<インフラ投資が持つ米国外交上の多面的な効果>

また、インフラ投資は米国においては運輸省が所管する領域となります。運輸省はエレーン・チャオ運輸長官が所管していますが、彼女の夫は連邦上院の共和党院内総務のミッチー・マコーネル氏です。同氏はトランプ氏と実質的に対立している共和党主流派のボスです。

つまり、インフラ投資への協力は上記の通りトランプ氏に対して恩を売れるとともに、共和党が支配する議会に対しても友好的なメッセージを送ることになります。米国では連邦上院が外交政策に持つインパクトは大きいため、日本政府の対応は米国の共和党内の分裂にも配慮した賢いやり方だと思われます。また、インフラ投資については米国民主党も積極的であるため、米国の議会野党対策としても機能することが予想されます。

今後、インフラ投資でプラスの経済効果を受ける地域の連邦議員らに対してしっかりと影響力を拡大していくことを通じ、トランプ大統領とその周辺だけでなく連邦議会にも橋頭保から影響力を拡大していくことが望まれます。

<金で解決する外交が持つ限界点も認識すべきだ>

ただし、安倍政権の対米外交のスタンスにも問題はあります。

筆者は金で解決する外交のやり方には必ずしも肯定的ではありません。なぜなら、金で結びついた関係は、自分よりも金を持っているライバルパートナーが現れたときに終わるからです。

この場合にライバルとして登場する存在は中国です。中国は経済成長が鈍化しつつあるものの、世界第二位の経済大国となり、現在でも新常態の中で中速度の経済成長を続けています。

米中の貿易高こそが非常に大きなものがありますが、中国は米国本土にほとんど投資を行っていません。したがって、米国は民主主義国なので中国からの輸出品が選挙区の「雇用」に与える影響が無視できず、米中の距離は現状では比較的遠いものとなっています。

逆説的には、トランプ政権の圧力に屈する形で中国政府や中国企業が米国に直接投資を開始すると、日中の米国に対する影響力のバランスは崩れることになり、日中の今後の経済力の逆転が進展する中で、米国への貢ぎ物競争では最終的に日本は中国に敗北する可能性があります。したがって、日米間の問題を金だけで解決しようという日本の現在の姿勢は好ましいものとは言えない部分もあります。

そのため、筆者が以前から指摘している通り、本来は「金」ではない「価値観」を通じた日米同盟、を目指すべきであり、金はそのための下支え的なものだと認識する必要があります。

<米国から得られるものが皆無の会談になる可能性も>

日本側は米国側に貢物を用意して訪米することになるのですが、米国側が日本に与えるものが何になるのか、ということがイマイチ判然としません。たしかに、安倍・トランプ、日米関係が良好なものになるものと思います。しかし、筆者はそれだけのことに米国のATMとして約51兆円もの資金を拠出するカードを切ることの意味が分かりません。

米国の閣僚人事を見る限りでは、表面的な部分では反中派(ただし、習近平との繋がりは重視)を揃えており、トランプ政権は少なくとも数年は反中姿勢を崩さないものと思います。マティスもティラーソンも正式任命前の上院公聴会の段階から東アジアへの安全保障にコミットする発言をしています。また、日本が固執するTPPについてはトランプが既に撤退を宣言し、二国間協定に対しては日米ともに前向きな姿勢を示しています。

そのため、現段階で「インフラ投資」という日本最大の切り札を使ってトランプ政権から引き出す対価があるとは思えません。

そのため、筆者の見立てでは、安倍政権の狙いは「憲法改正に対するトランプ政権の了解を得ること」にあるものと見ています。安倍政権の悲願は憲法改正であり、その最大の障害は米国です。

国内では左派だけでなく保守にも米国が反対している・懸念していることを理由に、憲法改正や靖国参拝への自制を求める声が少なからず存在しています。それらを抑えるためのトランプとの取引ということであれば同取引を行うことも政権の理屈としては成り立つものと思います。直接的なコメントは無くとも「日本の地域における更に積極的な役割を望む」などの婉曲的な表現は出る可能性があります。

昨年、ヒラリー勝利⇒北方領土進展⇒解散総選挙という一部でささやかれたシナリオがトランプ勝利でご破算になったように、年内と想定されている総選挙にも安倍政権とトランプ政権との関係は影響を与えていきそうです。

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米中もし戦わば 戦争の地政学 (文春e-book)
ピーター・ナヴァロ
文藝春秋
2016-12-02

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。
 

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yuyawatase at 13:10│Comments(0)米国政治 | 社会問題

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