2017年01月14日

まだ「イアン・ブレマーの世界の10大リスク」を信じてるの?

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まだ「イアン・ブレマーの世界の10大リスク」を信じてるの?

毎年年初になると、イアン・ブレマー率いるユーラシアグループから「世界の10大リスク」が発表されます。しかし、2016年に彼らが予測した世界の10大リスクは、彼らが抽象的な表現ではなく明確な結果を予言したもの、については悉く外れることになりました。

その最たる事例はリスク・もどきとして扱われた「ドナルド・トランプは共和党指名候補者になることはなく、万が一指名候補になってもヒラリー・クリントンには勝てない。」です。

結果は誰もが知っている通り真逆のものとなり、彼らが議会と裁判所を説得できないと主張した「イスラム教徒の入国禁止」「国境に壁を建設」「数兆ドルの税制改革」の3つのトランプの予備選挙での発言のうち、国境の壁と税制改革は共和党の政策綱領に取り入れられるに至っています。

また、10大リスクに掲げられた各項目は非常に抽象的であり、どれも当たっているとも外れているとも言えるような内容によって構成されています。そのため、2016年で明確に当たり外れが判断できることは「ドナルド・トランプ大統領誕生」のみです。

他にもBrexit、トルコ・クーデター、シリア情勢の悪化など、諸々様々なことがありましたが、2016年の世界的な出来事の中で、ドナルド・トランプ大統領誕生、よりもインパクトがあるとは到底思えません。

ドナルド・トランプに対する偏見に基づく2017年の世界10大リスクは信用できない


イアン・ブレマー氏のユーラシアグループは2017年1月3日に、2017年の世界の10大リスク、も発表しています。そのうち、3つまでがトランプ大統領および共和党勝利に関するもので占められています。つまり、これはイアン・ブレマー氏と同グループのトランプ氏に対する偏った見解が如実に現われていると言えるでしょう。

1. INDEPENDENT AMERICA、6. CENTRAL BANKS GET POLITICAL、7. THE WHITE HOUSE VS SILICON VALLEYなどです。つまり、トランプが孤立主義的になり、中央銀行に介入し、シリコンバレーと対立するというものです。

しかし、現実は全く異なる様相を示し始めています。トランプ氏が指名したティラーソン国務長官やマティス国防大臣はグローバルな課題に積極的に関与し、米国の意図を明確にすることを強調しています。

また、そもそもトランプのAmerican FIrstやMake America Great Again、というキャッチフレーズを孤立主義だと解釈しているのは、リベラル派の一部知識人のみであり、トランプ氏は再三に渡って、中国の安全保障上の問題や中東におけるISの問題などにロシアなどと強調した対応を行うことを明言してきました。

中央銀行への関与については、トランプ氏は当選以来全くFRBについて触れていません。米国の経済環境は回復基調にありましたが、昨今発表されている経済指標からは本年もその傾向が続くかどうかは分からず、トランプ氏が利上げを積極的に邪魔をしなくても積極的な利上げが行われるかは分からない状況です。

また、中央銀行の意思決定の不透明性は以前から共和党からも問題視されており、その意思決定の恣意性を排除するために中央銀行への監査の仕組みを整えることが主張されています。これをもって中央銀行への政治関与の強化ということができますが、むしろ中央銀行の裁量的な金融政策の政治性を排除するための改革であると看做すべきでしょう。

最後に、トランプとシリコンバレーの対立についてですが、トランプとシリコンバレーの住人との対立関係は大統領選挙期間中の話であり、今後は修復されていく可能性が高いものと思います。

トランプ氏の政権移行チームにおける約4000人と言われる政治任用ポストの差配を握ったのは、新駐日大使に指名されたウィリアム・ハガティ氏であり、彼はシリコンバレーでプライベートエクイティを経営していた投資家です。それ以外にも当初は対立していたシリコンバレーから政権への協力者が次々現れています。

また、IT企業の海外における留保利益を国内に還元する際の課税を著しく引き下げるなど、同業界に対する経済的なプロフィットをもたらすことも行われています。トランプ氏は海外に蓄積された留保利益が国内に還元し、投資や雇用が産み出されることによって大いに満足するものと思われます。

更に、イアン・ブレマー氏はTwitterで「Trump almost surely unaware of Taiwan-China sensitivities before taking President's call. They don't yet have Asia expertise on team.」と述べています。簡単に言うと、トランプのスタッフにはアジア政策の専門家がいないから細かいことが分からないのだ、と述べていましたが、祭英文とトランプを仲介した人物はヘリテージ財団のフェローで台湾問題の専門家のイエーツ氏です。イアン・ブレマーとは方向性が違うかもしれませんが、ヘリ―テージは有力なシンクタンクで同氏が専門家であることは間違いありません。

以上のように、イアン・ブレマー氏が選んだリスクのうち、トランプ政権に関するものは1月14日段階で既に的外れの状況になりつつあります。少なくとも米国政治に関する見通しについては同グループの見解は必ずしも信用できるものでは無さそうです。

ただし、世界中における地政学上の政治動向に影響を与える米国政治の動向に関する考察が正確ではないということは、世界中の政治現象に対する見通しが間違っている可能性を示唆していますが。。。

2017年の真の世界のリスクは、リベラルな知識人の現実社会からの遊離、だ

2017年の世界におけるリスクは、欧米のリベラルな知識層の世界認識と現実の世界状況の間に齟齬が生じ、その情報を摂取している先進諸国の人々の認識が歪められることです。

その最たる事例が2016年のドナルド・トランプ大統領誕生であり、その選挙戦を通じて欧米のメディアや知識人への信用が著しく低下することになりました。

本年においてもそれらの人々の現実から遊離した民衆に対する傲慢な態度は継続したままであり、既存の知的な権威の凋落は留まることを知らないでしょう。たとえ、彼らは民衆と同じ事象を目の前で見たとしても、古びた理想主義と大衆への侮蔑に満ちた空想の世界にいざなわれてしまうからです。

そして、欧米のリベラルな知的権威の衰退は、そのまま非西欧社会の思想的な指導者の力の増加に繋がります。たとえば、イスラム世界における宗教指導者の台頭などの背景に欧米の知的権威の衰退と合わせ鏡となっているのです。

現状のまま欧米の知的権威のポストにリベラル勢力による非現実な集団が留まり続ければ、世界の混乱は一層進むことになるでしょう。もはや古びたポリティカル・コレクトネスを後生大事に大切にするだけの人々は、世界の変化には実質的についていけなくなっているのです。

米国が置かれている環境はオバマ政権時代に極めて厳しい状況に後退しており、空想的な知識人ではなく、同国の真の主力であるビジネスマンと軍人などの実務者が投入される政権が誕生しています。

私たちも世界における環境の変化を直視し、新しい世界に順応する努力を行っていくべきです。


本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



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yuyawatase at 12:29│Comments(0)米国政治 | 国内政治

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