2017年01月14日

トランプ政権がそれでも親ロシアと言える理由

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ティラーソン国務長官・マティス国防長官の議会公聴会での発言の意味

レックス・ティラーソン氏とジェームズ・マティス氏に対する連邦上院議会公聴会での質疑が行われました。その中で、トランプ氏が主張する親ロシア的な方向性と両者のロシアに対する発言の間に溝があった、という報道が行われています。

しかし、筆者の感覚では、トランプ氏と両氏の間のスタンスは、あくまでも米国の政治の文脈の中ではロシアとの関係では融和派の中での表現の違いである、と思います。

流石にトランプ氏ほどに露骨にプーチン氏との協調姿勢を見せることはありませんが、両氏ともに米国政治のアクターとしては極めてロシアに対して協調的な発言を行っています。

ブッシュ政権・オバマ政権のロシアに対するスタンスと比較することが大事だ

トランプ政権で新たに任命される予定の二閣僚のロシアに対するスタンスについて絶対的な尺度ではなく相対的な尺度で捉えるべきです。

なぜなら、米国の対ロ関係は旧ソ連との対立の文脈を引きずっていることから、政治的なアクター―のほぼ全員が極端な反ロシア体質を有しているからです。

ロシアではジョージ・W・ブッシュの時代から米国は旧ソ連圏で一連の市民活動家を支援するカラー革命という形で、ロシアとの親和性が高かった権威主義的な指導者を放逐することに熱心だったとみなされています。、

2000年のセルビアにおけるブルドーザー革命や、2003年グルジアのバラ革命、2004年ウクライナのオレンジ革命、2005年キルギスのチューリップ革命など、プーチン政権は一連の革命の背後に米国政府または米国の財団が存在していたとみなされており、ブッシュ政権とプーチン政権の間の対立関係が鮮明になっていきました。

2008年のグルジア紛争で著しく悪化した米ロ関係をリセットすることを主張したオバマ政権は政権発足直後こそロシアとの間で政治的な妥協を成立させたものの、次第にカラー革命に親和的な対ロ外交を志向するようになり、2012年1月にロシア大使としてマイケル・マクフォール・スタンフォード大学教授を就任させました。

マクフォール大使は、反ロシアというよりも更に進んだスタンスで、ロシアや東欧の政権自体を市民活動を活発化させることによって事実上転覆させることを公言しており、着任直後からロシア国内の活動家と接触してプーチン政権との対立を先鋭化させました。

以上のように、ブッシュ政権もオバマ政権も反ロシアというレベルを超えて、ロシアのプーチン政権の転覆までも意図した対応を行っていた、というものがロシア側から見た前二政権への評価でしょう。

米国がロシアの国益への配慮を明示するだけで親ロシア的である

たしかに、ティラーソン・マティスの両氏ともにロシアに対する警戒心を示し、同盟国とともに厳しい対応を取っていくことを明言してはいます。

ただし、ティラーソン氏は公聴会に際して自らの外交の施政方針に関する文書を公開しており、同時にロシア側の国益と調整する意向を示しており、ロシアに対して政治的な妥協を行う可能性について示唆しています。

同施政方針に関する文書では、最初に中国、その後にロシア・ISISという順序でグローバルな脅威が述べられており、ロシアを問題視するトーンは明らかに弱くなっています。そして、その内容は概ねロシアに対して米国の力を示しつつも、お互いに妥協できるところは妥協するというスタンスがとられています。

共和党内ではロシアは妥協の余地がない永遠の宿敵のような扱いであり、同国は人権問題と国際秩序を蹂躙する国家というイメージが持たれています。

実際に、共和党予備選挙の候補者でもあった対ロ強硬派のマルコ・ルビオ氏などが公聴会の場でティラーソン氏に対してロシアでの人権問題やシリアでの戦争犯罪について質問しましたが、ティラーソンはそれらへの回答を拒否しています。米国におけるロシアに対する主流なスタンスはマルコ・ルビオ氏の立場であることは間違いありません。

したがって、ロシアの国益を予測可能なものとした上で、米国の不在によるロシアの増長を防止して同盟国とともにロシアに対抗する体制を構築しつつ、イスラムテロなどに協調して対応することを明言するだけでも、米国内ではロシアに対して十分に親ロシア的なスタンスだと言えます。

どこかの国の首相のように土下座的な外交を行うことは親ロ的という範疇を超えたものだと言えるでしょう。

また、そもそもトランプ氏をモンロー主義的な孤立主義の外交方針を持った人物とみなす向きは、メディアや政治的な敵対者による完全なミスリードであるために論ずるに値しないものです。

トランプもティラーソンもプーチンの強いリーダーシップの継続を前提としている

トランプ氏はプーチン大統領を称賛する発言が多いのですが、その内容はプーチン大統領のリーダーシップに関する点が多いことに特徴があります。そして、リーダーシップには自らの行動に対して説明責任、つまり何を意図しているのかを他者に説明できることが含まれることは当然です。

ティラーソン氏は上記の文書の中で米国の外交に最も必要な要素は「説明責任」だと述べています。つまり、米国が自らの立場を明確にした上で約束を履行していくことの重要性を述べているのです。これはオバマ政権に最も欠けていた外交的要素であったため、ティラーソン氏はその重要性を非常に強調しているわけです。

ティラーソン氏はロシアの国益を予測可能であるために交渉の余地があることを示唆しています。

その前提条件はロシアがプーチン大統領の強いリーダーシップの下にあることは言うまでもありません。つまり、トランプとティラーソンはプーチン政権の存続を前提とした外交方針を共有していることになります。

トランプ政権にとって対ロ問題で起きうる最も厄介な状況は何らかの形でプーチン大統領が指導力を失い、代わりに予測困難な新たな指導者が現れたり、ロシアの政治状況が混乱状態に陥ることだと思われます。

「プーチン政権の継続を容認し、プーチンが主張するロシアの国益との調整を行う」という姿勢は、ブッシュ・オバマ政権の在り方と比べて極めて親ロシア的なものだと言えるでしょう。

トランプ政権と事実上対立関係にある米国メディアやその報道を丸写しにする日本メディアは、トランプ氏とトランプ氏が任命する閣僚の方針の間に齟齬があるように見せたがっていますが、事実は少し異なっていると言えるでしょう。

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本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



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yuyawatase at 09:00│Comments(0)米国政治 | 社会問題

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