2016年12月13日

トランプ外交の「算盤勘定」への正しい対処法

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(国務長官に指名濃厚・レックス・ティラーソン・エクソンモービルCEO)

祭英文・中華民国総統との電話会談は何を意味するのか

12月2日、「トランプ次期大統領が台湾の祭英文氏と電話会談を行った」とTweetしたニュースは東アジアに激震をもたらしました。米国と中国が所与のものと看做していた「一つの中国」の原則を覆すものであり、米国内の保守派だけでなく日本の保守派からも喝采の声が上がりました。

また、トランプ氏は「米国は台湾に何十億ドルもの兵器を売っているが、私は台湾からの祝いの電話を受けてはならないとは興味深い」ともTweetしています。そして、この2つのTweetの中にトランプ政権の外交方針の一端を垣間見ることができます。

米国の保守主義者の考え方である「自由主義」とビジネスマンの考え方である「金銭的利益」、この2つの異なる思考法が絶妙なバランスでブレンドされた外交、これがトランプ政権の外交方針だと看做すべきでしょう。

そして、今後のトランプ外交で何が起きていくのかを理解するためには、トランプ政権内での力関係を注意深く観察する必要があります。

トランプ政権の中で圧倒的なポジションを獲得した保守派・茶会党の面々

トランプ政権は史上最も保守的な政権と呼ぶことができると思います。これは選挙戦において共和党主流派が手を引く中で、保守派がフル回転したことで勝利を掴むことができた論功行賞によるものだと推測されます。

マイク・ペンス副大統領以外の閣僚メンバーとして、ラインス・プリーバス大統領首席補佐官、ジェフ・セッションズ司法長官、ベッツィ・デボス教育長官、マイク・ポンぺオCIA長官、トム・プライス厚生長官、スコット・プルイット環境保護局長官、ベン・カーソン住宅長官などの保守派が推す人々が次々と任命されました。

また、ニッキー・ヘイリー国連大使は予備選挙期間中にトランプ氏の政敵をエンドースし続けたにも関わらず、同ポストを手に入れることに成功しました。彼女は保守派が推す次期大統領または副大統領候補者と目される人物として注目されています。彼女の国連大使就任は、共和党保守派の重鎮であるATRのグローバー・ノーキストが「素晴らしい選択だ。ニッキー・ヘイリーは共和党の未来。トランプは長期戦を行っている。」と喜んでコメントするほど保守派の人々にとって慶事でした。

更にトランプ氏は上記の他にもアンディー・パズダー労働長官やリンダ・マクマホン中小企業局局長などの極めて保守的な主張を持つ企業経営者らを規制撤廃を推進する重要なポジションに就けています。

これらは米国建国の理念(≒道徳)である「自由主義」を体現する人選であり、リベラルな傾向を持つとして保守派から警戒されているトランプ氏にが保守派に対して相当に配慮したものと思われます。

トランプ政権の算盤勘定を担う国務長官、商務長官、財務長官の3人

レックス・ティラーソン国務長官、ウィルバー・ロス商務長官、スティーブン・ムニューチン財務長官の3人はトランプ次期大統領肝入りの人事です。この3人はいずれもビジネスマン出身の人々であり、トランプ氏の算盤勘定を担当する人々だと言えるでしょう。

特に当初名前が挙がっていたボルトン氏やロムニー氏ではなく、ティラーソン氏を国務長官に指名したことはトランプ政権が極めて強いビジネス志向を持った政権であることを示唆しています。また、同時にシェール革命を経て、エネルギーの自立を確立した米国が今後は石油・ガスなどの資源外交の側面を強化していくことを表す象徴的な人事だとも言えるでしょう。

ただし、トランプ人脈からの上記3長官の任命には、米国建国の理念を奉じる共和党内保守派から極めて強い違和感を持たれていることも事実です。ウォール街やグローバル企業が政権と接近することによるクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)は共和党保守派が最も嫌うところだからです。両者のパワーバランスの推移は中長期的には政権の不安定要因となる可能性があります。

とはいうものの、当面の間は対外交渉のツールとして冒頭の祭英文氏との電話会談のように保守派が満足するロジックをまぶしながら、トランプ政権内で保守派は米国国内の減税・規制緩和に注力し、国際的な外交・ビジネスについてはトランプ人脈がフル回転するという棲み分けによってお茶を濁す形になるのではないかと推測します。

卓越した職業軍人による効率的・効果的な国防政策の実施

ジェームス・マティス国防長官は「狂犬」というあだ名とは裏腹に極めて慎重な国防政策を立案する軍人だと言えます。同氏はブッシュ政権当時に無理な戦争計画を推進するネオコンと激しく対立し、同盟国重視の姿勢とアラブの価値観を理解した統治政策の必要性を説いた人物です。

今回の大統領選挙でもネオコン勢力によってトランプへの造反対抗馬として一時期名前が取り沙汰されましたが、それらの誘いを断ったという意味では論功行賞の意味合いもあるものと思われます。

一方、ジョン・ケリー国土安全保障長官も職業軍人出身の人物であり、トランプ政権は退役将校も含めた職業軍人経験者が多く踏まれることから軍事政権とも揶揄され始めています。また、国防費の増額などは共和党側も主張するところであり、財政の健全性の観点から心配する声もあります。

しかし、訓練を受けた職業軍人が現代の高度に複雑化された国防政策や行政機構の運用を担うことも効率性を重視するなら当然のことと言えるかもしれません。文民統制の観点からは共和党が多数を占める議会がしっかりと監視する必要がありますが、従来よりも効率的で有効性が高い国防政策が実行されていくものと推測されます。

米国版の論語と算盤を体現するトランプ政権の外交政策

上記のようにトランプ政権では国内政策、外交政策、国防政策がそれぞれ明確に色分けされた状況となっていることが分かります。国防政策はどちらかというと勢力均衡政策とテロ対策に注力することが想定されるため、実際に外国から見ても目立つ変化は外交政策の変化ということになるでしょう。

この外交政策の基本はトランプ政権の主要3閣僚による「算盤外交」になるものと思われます。諸外国との交渉によって米国経済に利益をもたらす方向で様々な成果が挙げられていくことになるでしょう。

東アジアでは中国に対する経済的な摩擦が米国との間で表面化していくことになりますが、実はこれは大したことはないものだと考えています。なぜなら、トランプ政権が求めることは経済的な算盤勘定であって中国の国体を揺るがすことは本気で考えていないと推測されるからです。むしろ、米中両国で喧嘩と妥協の繰り返しが行われる中で両国の関係が深化していく可能性すらあります。

一方、中国と比べて日本の「算盤上の価値」は減価する一方です。中国から魅力的な対価を引き出すためのツール(台湾と同様に)として使用されることにすら成りかねません。日本政府はジャパン・ソサエティー会長で知日派のウィルバー・ロス氏が商務長官に任命されたことで一安心しているかもしれませんが、トランプ政外交の算盤勘定への対処という点ではそれだけでは話になりません。

減価していく日米の価値、つまり日米同盟の価値を算盤勘定以上のところで補う努力をしなくては、日米同盟の将来、ひいては日本の安全保障は悲観的なものにならざるを得ないでしょう。

相対的に減少する日本の経済的価値、日米同盟は風前の灯となるのか

日本の経済的価値の相対的な減少は避けがたいものであり、 今後はそれらの環境変化を前提とした上でトランプ政権への対応を考えていくべきです。

漫然と従来通りの日米関係の延長線上で行けると考えているとしたら、ある日突然梯子を外されることは十分にあり得ます。トランプ氏は中国にプレッシャーをかけるために「一つの中国」という前提をあっさりと破った人物であり、日米関係という所与の前提を揺るがしかねない人物だからです。

では、トランプ政権への対応方針として、国内の一部で主張されている米軍基地費用の全額負担や武器購入費の増額のような経済的対応は正しいでしょうか。残念ながらそれらの対応は焼け石に水に過ぎず、中国の経済的価値の増大に伴う米中接近の危機への対処としては不十分です。

トランプ政権にお金の話で対応しようと試みたところで、次から次へと新たな取引を迫られることを通じて、多くの対価を払う割には実りの薄い結果がもたらされることになるでしょう。そのような場当たり的な対応は日米同盟の将来すら危うくするものと思います。

真の知米派を育てる試みの重要性、対米外交人脈の全面的な見直しが必要

上記の通り、筆者はトランプ政権はトランプ人脈と共和党保守派の政権であると分析しました。

トランプ人脈が政権の「算盤」を担当するなら、共和党保守派は「価値観」を担っている人々です。そして、トランプ政権と対峙するためには、共和党保守派との政治的な信頼関係を醸成することが極めて重要であると考えます。

政権発足当初は共和党保守派は国内改革に注力するものと思いますが、中長期的にはトランプ政権の外交政策に対して連邦議会から強い影響力を持ち続けることに変わりはありません。

そのため、経済的利害を越えて米国保守派と「価値観」で結ばれた信頼関係を作ることができれば、日本経済の相対的な減価という現実を覆す強固な日米同盟の礎を築くことができます。

しかし、そのためには対米外交人脈の全面的な見直しが必要です。

具体的には、安倍政権が対外的に主張する「自由と民主主義の価値観を共有する」という形式上の文言だけでなく、もう少し深いレベルでの米国理解を担う人材の育成が重要となります。日本のエスタブリッシュメントや国会議員の従来までの感覚で米国保守派と付き合うことは外交的な自殺行為だからです。

一例を挙げると、先日ある会合で国会議員が来日した米国保守派重鎮らに対し、「政官財でがっちりと組んで対米外交に取り組む」「自分の配偶者はウィルバー・ロスとジュリアーニと友人」と堂々と発言していました。筆者は非常に驚くとともに大きな危機感を覚えました。

上記でも述べた通り、政官財のトライアングルはクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)として米国保守派が毛嫌いする政治屋そのものであり、更に上記の二人はウォール街・リベラルとして保守派から距離が遠い人物だからです。わざわざ来日した米国保守派の方々に対するあまりに無理解な発言に日米同盟の未来を考えて暗い気持ちになりました。

米国ではGoogle社が対保守派のパブリックリレーションを行う人材の求人広告を出して話題になっていましたが、日本政府も米国保守派の思想・文脈を理解できる外交人材を採用・育成することが必要です。

表面的な米国の姿ではなく、米国建国の理念に対する深い理解力を持った「真の知米派」による対米外交政策の立案が望まれます。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 18:07│Comments(0)米国政治 | 社会問題

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