2016年12月10日

トランプ政権の経済政策は何を目指しているのか?

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トランプ政権の経済政策が「何」を目指しているのか?

トランプ政権の経済政策について様々な識者が分析・報告を始めています。しかし、そのいずれも表面的にトランプ氏や共和党の公約について並べるものが多く、その背景に存在する共和党独自の経済認識が語られることはほとんどありません。

しかし、トランプ氏及び共和党の経済政策が目指している方向・標的を知ることで、列挙された政策の本質的な意味を知ることが出来ます。そこで、本論稿ではトランプ氏・共和党の経済認識及びソリューションについて説明していきます。

オバマ政権時代に行われた新たな規制増加と家計所得の不十分な回復への対処

オバマ政権下で米国経済はサブプライムショックからの回復を遂げることができました。最終的には株価・生産指標・失業率も再び上昇過程に入りました。家計所得はサブプライムショック以前から下がったままですが、それでも上昇傾向に転じていることは事実です。一見してオバマ政権の経済パフォーマンスはボチボチであるように思われます。

しかし、トランプ氏や共和党はオバマ政権でなければ更に急速に米国経済を回復できたと考えています。それはオバマ政権下で、経済的規制を増大させたこと、世界的な減税競争に負けたこと、と認識しているからです。そのため、共和党は規制撤廃と減税を推進して米国経済を回復させることを約束しています。

米国の規制

オバマ政権時代に米国の規制は増加する傾向にありました。そして、これらの規制は経済損失を生み出すため、オバマ大統領は米国経済に手枷足枷をはめてきたことになります。

そこで、トランプ氏や共和党は規制の撤廃という際に具体的には「何」の規制を撤廃するのでしょうか。

上記は保守派のシンクタンクであるヘリテージ財団が算出したオバマ政権における省庁別の規制による経済損失額のランキングです。規制によって経済損失をもたらしているワースト3は環境保護局、運輸省、エネルギ―省ということになります。

したがって、共和党は小さな政府を目指して規制を撤廃することを望んでいるわけですが、その主要なターゲットが環境規制・エネルギー規制であることが分かります。もちろん、トランプ氏の政策にも同様に環境規制・エネルギー規制の撤廃が盛り込まれています。

法人税
上記は財務省のHPに掲載されている法人税の実効税率です。財務省が恣意的に作ったグラフの側面があるため、上記の米国の数字は法人税の地方税率がべらぼうに高いカリフォルニア州の数字を参考としていますが、いずれにしても米国の法人税率が相対的に高いことが分かります。

トランプ氏は減税政策として連邦法人税を20%削減することを約束しており、同政策が実行されると米国の法人税率はイギリス並みになります。つまり、トランプ政権は世界的な法人税減税競争に参加することを通じ、米国産業の振興を図ることを狙っていると言えます。

更に所得税のフラット化・減税などが実施されることによって平均家計所得を4.3%程度引き上げるプランも発表されています。(Tax Policy Centerが算出)この政策を通じてオバマ政権下で十分に回復しなかった家計所得の底上げを図るということが意図されています。

ちなみに、ヘリテージ財団によって米国では所得上位50%で97.2%の所得税が支払われていると発表されています。そのため、所得税減税の利益の帰属は相対的な富裕層への恩恵が大きくなる傾向があると言えるでしょう。

巨額のインフラ投資・10年間で100兆円(1兆ドル)は可能なのか?

トランプ氏は米国経済の建て直し策として公共事業を10年・100兆円投入することを述べています。(つまり、毎年平均すると1年10兆円、5年で50兆円ということになります)

インフラ投資による景気振興は元々米国民主党の十八番であり、公約としてバーニー・サンダースは5年で100兆円、ヒラリー・クリントンは5年で27兆5000億円が掲げられていました。つまり、トランプ氏のインフラ投資の目標額はサンダースの半分、ヒラリーの倍という両者の真ん中を取った数字ということになります。

現在、報道されているインフラ投資用の銀行を設立する案も既にサンダース・ヒラリー両者が既に触れていたものであり、トランプ政権独自の構想というよりは民主党側の政策を踏襲していると言えるでしょう。

サンダースの5年で100兆円という数字は、米国土木工学技術者協会が2013年に発表したレポートに基づく公共インフラに必要な投資額をベースにされたものと考えられていますが、トランプ氏も老朽化する米国のインフラ投資の更新には積極的だということが言えます。

一方、共和党保守派は公共事業の拡大による財政悪化を良しとする人々ではないので、このインフラ投資に関しては反対の声が上がる可能性があります。しかし、上記で触れた通り、この政策は民主党が好む性格の政策であるため、民主党側からのクロースボートが発生して予算が承認されていく可能性があります。

トランプ政権は「保護主義」であるという勘違いが横行している

トランプ氏の保護主義的な発言を通じて、「トランプ政権は保護主義だ」という誤った認識が横行しています。過激な発言を繰り返すトランプ氏のTwitterなどを見ている限りでは、そのような認識が広まってもおかしくはありません。

米国がTPPに反対している理由は様々なものがありますが、共和党保守派がTPPに反対している理由は、保護主義的な意見だけではなく、TPPが自由貿易のディールとして相応しいかどうか、が疑問だからでしょう。ウィルバー・ロス氏も中国が事実上TPP締結国の市場に容易にアクセスできる欠陥があると指摘しており、TPPには懐疑的な姿勢を示しています。

TPPの協定書は分厚い書類の束となっており、新たなルール(国際的な規制)の創設につながっています。そして、多国間協定は一度決めてしまえば修正などが困難であることから、交渉力に自信がある国なら二国間協定を志向することも理解できます。

特に中国に対しては市場開放・為替問題などの観点から強い姿勢を示すことが想定されており、台湾総統との電話会談や海軍力の増強などの米国側のカードが次々と揃えられている状況です。

そして、これは反中国という単純な姿勢というよりも、中国に国際経済における責任ある立場を守らせるために直接的に交渉するための脅し、という文脈から理解するべきでしょう。

トランプ政権で米国は「エネルギー産業国」に進化することになる

トランプ政権は、ドッド・フランク法の廃止または弱体化によって金融業の自由度が回復し、多額のインフラ投資による関連産業の復活などが想定されています。しかし、最も重視すべき産業は、石油・ガスなどのエネルギー関連産業ということになるでしょう。

米国内の資源開発が本格的に進展することを通じて、米国はエネルギーの輸出国としての地位を新たに確立し、中東やロシアなどの資源国に対して独立した交渉力を持つ国に変貌するものと思われます。

その結果として、米国民主党政権時代に発生したIT関連産業の成長に匹敵する変化を米国と世界は体験することになるでしょう。

米国は今年の初めから45年ぶりに石油輸出を解禁しましたが、この流れは更なる拡大を見せていくことになります。その中で日本への石油輸出の大幅な解禁が行われることを通じて、中東に依存する日本の原油輸入先が米国に変わっていく可能性も秘めています。

東アジアへのエネルギー資源の輸出は対中・対日の文脈から米国の新たなカードとして機能していくことになります。

トランプ政権におけるエネルギー産業改革は、欧州に対するロシアのポジションのように米国が東アジア諸国をエネルギーと軍事力を使ってコントロールすることに繋がり、経済面だけでなく安全保障面からの地図を変えていくことになるでしょう。

スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー
日本経済新聞出版社
2015-12-19


本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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yuyawatase at 18:30│Comments(0)米国政治 | 社会問題

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