2017年06月10日

加計学園、獣医学部を1個作ることが国家戦略なのか?

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加計学園の話で何かと話題の国家戦略特区について考える

メディアは加計学園の話で忖度があったかどうかについて毎日報道を重ねていますが、筆者は「国家戦略特区」や「構造改革特区」などの既存の制度自体に疑問を持っています。

国家戦略特区は安倍政権時代に始まった国(≒首相)の主導権を強めた規制改革のための政策であり、国の岩盤規制を突破するという意味では非常に良い制度だと思います。ボトムアップ型の構造改革特区と比べて、中央省庁の抵抗を打破して規制緩和を進める上で、政治家が剛腕を振るうための制度だと言えるでしょう。

したがって、内閣府に設置される諮問会議が音頭を取って改革を断行するわけですから、その過程で政治主導で物事が実行されていくことは当たり前のことであり、本制度について忖度云々を騒ぎ立てることがそもそもおかしいと思います。

国家戦略特区の問題は「特区の内容がショボすぎる」ことではないか

むしろ、筆者は国家戦略特区の内容が政治家が剛腕を振るうという意味では、認定事業の内容がショボすぎることが問題ではないか、と思います。

「たかが獣医学部を持つ大学を一つ新設すること」が国家戦略だと言ってしまう感覚がナンセンスなのです。加計学園だろうが京都産業大学であろうが、このような無意味な規制は最初から必要なものではなく、「国家戦略」と呼ぶこと自体が恥ずかしい、この国の官主導の体質を明らかにしたものだと言えます。

獣医師免許の需給状況について、文科省や業界団体がアレコレ理屈をごねるかもしれませんが、そもそも獣医師の受給を政府がコントロールしようという発想自体がおかしな話であり、その程度の規制の緩和すら簡単に実行できない現状を問題視するべきでしょう。(政治的な意味でこの程度の岩盤を破れないというのは政治の怠慢と利権そのものではないでしょうか。)

「国家戦略」が「四国に獣医学部を持つ大学を一つ作ること」という大変残念な有り様について議論するべきであるし、国家戦略特区で認定されている事業内容は実験するまでもなく全国で認めるべきものが多数あります。

下記は国家戦略特区の認定事業の一覧ですが、そもそも規制していることが理解不能なものが多数並んでいます。当然、一つひとつは真面目に取り組んでいる事業者の方がいることは理解しますが、これを国家戦略と銘打つことについては「いい加減にしてほしい」というのが正直な感想です。農地にレストランを建てるだけのことを国家戦略って言ってみたり、そもそも国家戦略の意味が分かっていると思えない(笑)

国家戦略特区の認定事業一覧

各地域が自分の判断と責任で大学の設置の認可を判断すべきではないか
 
本件の問題は獣医学部を新設する際に国会議員や文部科学省の御意向を伺う必要がある現行体制に問題あるわけで、最初から中央政府で判断すべき性質の問題ではありません。

ある地域で獣医が足りないか否かは各地域で判断すれば良いだけの話であり、しかも本件については育成された人材は移動しますから地域的な要件自体も意味がないかもしれません。国の規制を廃止して地方が自己責任で意味がある大学を創設していけばよいと思います。

現在、忖度がどうのこうの、文書があったか否か、などのどうでも良い話題に議論が割かれていますが、政府は国会での質疑について真摯に回答すれば良いだけの話です。本来、国民が気が付くべきことは、この程度のことすら大仰な組織を作らないと実行できないという、この国のお役所体質を改革しなくてはいけないということです。

与党も野党も国家戦略特区や構造改革特区などではなく、もっとスマートに廃止すべき規制を全て公約として掲げて国民の信任を取り付けて、一気に改革を進めていくべきだと思います。

この程度の改革をチンタラと何年もかけてやっていて、「国家戦略特区」が目的として掲げる「産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点の形成を促進する」ことなど到底不可能でしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。



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2017年06月09日

トランプ、ロシアゲート、補選、パリ協定、司法長官について

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トランプ大統領、コミ―証言の本質的な問題とは何か

トランプ大統領を取り巻くロシアゲートの正念場・第一弾のコミ―前FBI長官の上院情報特別委員会での公聴会が実施されました。

トランプ大統領にとって、有利なことは「トランプ氏自体はFBI捜査対象になっていないかった」点、不利なことは「大統領は自分に忠誠を誓うよう強要し、マイケル・フリン前大統領補佐官への捜査を打ち切るように示唆した」点です。後者は特に司法妨害として政敵が問題を複雑化させる可能性がある内容でした。

元々決定的な証拠が出ることは期待されていなかった公聴会であるため、実はコミ―証言は大したものではないと言えます。では、今後重要になる要素は何か、それはトランプ大統領と共和党の上下両院議員との間の信頼関係です。

ロシアゲートの問題を左右する共和党議員からの大統領への信任

トランプ大統領を捜査する機関は、モラー特別検察官、リチャード・バー議員が率いる上院情報委員会、マイク・コナウェイ及びとデビン・ニューネス両議員が率いる下院情報委員会、チャック・グラスリー議員率いる上院司法委員会、ジェイソン・チェイフェッツ議員率いる下院政府改革委員会など、非常に多岐に及んでいます。

今後、上院情報委員会だけでなく他組織による調査などが実施されていくこと、トランプ大統領の腹心である娘婿のジャレド・クシュナー上級顧問や既にロシアとの濃厚な関係が指摘されているカーター・ペイジ外交アドバイザーなどへの公聴会への追及が進む可能性があること、など、コミ―氏の証言を凌ぎきっても政治的には依然としてピンチが続くことは間違いありません。

ただし、いずれの場合もトランプ大統領は上院・下院で過半数を占めている共和党議員からの信頼を固めることができている場合、余程の証拠が出てこない限りは安泰な状況が続くものと思います。

共和党議員及び共和党員からの支持を繋ぎ止めるための一連の行動

トランプ大統領は最近になって急速に保守派回帰を選択するようになりました。

元民主党員のクシュナー上級顧問、ムニューチン財務長官、コーン国家経済会議議長などを重視し、オルト・ライトの顔であったバノン首席戦略官を遠ざけ、レーガン保守派とも距離を取りつつあった方針を見直し、元々の自らの政権基盤を固める動きを強めています。

その最も象徴的な事案が「パリ協定からの脱退」であり、貿易不均衡などの問題をフォーカスする一連の大統領令の連発やTwitterを利用した入国禁止令(当初)を褒める発言や改めて壁の設置を確認する発言でしょう。外交的にも対イラン・ISIS強硬姿勢は共和党支持者を喜ばせるものだと言えます。

これらは崩れかけた共和党、特に保守派からの信頼を回復することで、自らへの弾劾機運を回避するため、共和党議員及び共和党員からの支持を繋ぎ止めようとしていると見ることが妥当です。

トランプ大統領の直近の試練は、ジョージア州の補欠選挙の行方である

トランプ大統領と共和党連邦議員の関係は、トランプ大統領が政策的に共和党議員と同じ方向を志向していることは当然のこととして、何よりも2018年の中間選挙でトランプ大統領が共和党議員を勝たせてくれる存在か否かということにかかっています。

各省長官などの任命によって発生した補欠選挙において、カンザス州やモンタナ州で行われた選挙結果は長官を輩出するほどに共和党有利の州でありながら比較的苦しい選挙結果となりました。

そして、6月20日に予定されているトム・プライス厚生長官の選挙区で予定されているジョージア州の補欠選挙では、民主党候補者が共和党候補者を世論調査で上回っている状況となっています。共和党の目玉政策であるオバマケアの廃止・見直しを所管するトム・プライスの地元で番狂わせが発生した場合、その衝撃は共和党全体のトランプ政権への信任を揺るがすものになる可能性があります。

また、トランプ側近であるジェフ・セッションズ司法長官が辞意を漏らしたと報道されるなど、トランプ大統領を守ろうとするインセンティブを持つ人たちの士気が十分に回復していないことが示唆される状況となっています。

共和党関係者はトランプ大統領を表面的には支持している状況ではあるものの、トランプ大統領が選挙が弱いことが明らかになりつつある現状に鑑み、本音レベルではペンス副大統領の大統領昇格を望む気持ちもあることは確かでしょう。

地雷原を歩き続けることになるトランプ政権

トランプ大統領は極めて党内基盤が弱い大統領であり、共和党主流派とは当初から対立状態または是々非々、共和党保守派は敵の敵は味方という消極的支持、という状況でした。

政権発足から約150日程度経とうとしていますが、トランプ大統領の曖昧な態度によって、共和党各派との関係は深まることはなく一層混迷を深めている現状と言えるでしょう。

また、本来は2018年の中間選挙は共和党にとっては民主党が上院で大勝した年の選挙区が対象になるために有利な環境があるのですが、上院だけでなく下院すら厳しい状況となりつつある今、万が一連邦議会での過半数割れが発生した場合、トランプ大統領の問題は人気期間中蒸し返され続けることになるでしょう。

トランプ大統領の命運は、共和党連邦議員及び共和党支持者からの支持にかかっている状況となっており、トランプ大統領は今後一層選挙戦を意識した政権運営を行うことが求められることになるでしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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2017年05月23日

経産省次官・若手ペーパーへの意見に対する考察に見る言論ガラパゴス

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リバタリアンとしてぶった切ったら、意外と盛り上がっているみたいなので一度だけ返事しようと思う


経済産業省の次官・若手プロジェクトが作ったペーパーについて、リバタリアンの視点から容赦なくぶ一刀両断してほしい、という要望を受けて下記のようなコメントを述べさせていただきました。

「時代遅れのエリートが作ったゴミ」発言者に訊く!若手経産官僚のペーパーに感じた違和感とは。 | 一般社団法人ユースデモクラシー推進機構

夜中に行われたインタビューだったので眠くてやや表現が過激になりました(笑)が、日本国内の左寄りの方々から下記のように議論を整理して頂いたので、筆者も一度だけ応答しようと思います。

経産省「次官・若手ペーパー」に対するある一つの「擬似的な批判」をめぐって – HIROKIM BLOG / 望月優大の日記
選択肢を理解する――経産省、若手・次官プロジェクト資料について
鈴木謙介氏の整理に沿ってーー経産省「次官・若手ペーパー」論(3)

筆者はこの手のダラダラとコメントするタイプの感想を述べるのは気が進まないのですが、自分自身の主張を他者のパースペクティブで全く異なる文脈で整理されることについては文句を言っておこうと思います(笑)

日本の言論空間の感覚はガラパゴス化によるイデオロギーの選択の幅が狭すぎる

さて、筆者が論評を頂いた内容で決定的に違和感を感じる点は、筆者の主張と経済産業省の若手の政策的な方向性が同一のものとして整理されていることです。

たしかに、経済産業省の若手の本音は、筆者と同じ新自由主義路線であると思います。それは現場第一線にいる彼らが政府の限界性を最も強く認識していると理解しているからです。(買いかぶりかもしれませんが。。。)

しかし、彼らの本音はともかく、筆者は経産省ペーパー自体を新自由主義路線だと解釈したことは一度もありません。むしろ、筆者は経産省ペーパーも望月氏もその程度の差は微々たるレベルの社民主義的な内容だと解釈しています。

望月氏の見解では、経産省ペーパーや筆者は同じように新自由主義路線に見えるのかもしれません。

しかし、筆者の視点から見ると、経産省ペーパーの上に示された内容はあくまでも彼らの立場による「小さな政府を目指すフリ」をするポジショントークであり、現実には他省庁の権益に切り込むための文章でしかないものと理解しています。

政府規模の拡大を事実上容認し続ける支出拡大の方向性すら含む同ペーパーの内容と望月氏が望んでいる社民主義的な政策の方向の本質は同じものです。

社民主義的な方向性が明らかである望月氏の主張から自由主義的な方向に一歩だけ足を踏み出したとしても、筆者にとっては同じ社民主義であって何も変わらないのです。

この程度の内容が新自由主義的な方向に見えてしまうこの手の政策理解の幅の狭さこそが日本の言論空間のガラパゴス化を象徴するものです。そして、この政策議論の振れ幅の少なさが現在の日本の政策の手詰まり感を産み出す原因だと思います。

正直に申し上げると、この程度の新自由主義的な方向性の主張を筆者が述べている政策の方向性と同じものとして扱われることは心外であり迷惑です。

日本が新自由主義化しているという誤り、日本はケインジアン的な縁故資本主義国に過ぎない

筆者、そして望月氏と鈴木氏の間では、現在の日本の政策の方向性が新自由主義的あるという理解すら違いがあります。

日本政府の一般会計の予算規模は、一時的に減少した年度もあるものの、基本的には増加傾向にあります。地方自治体の中には自主財源が数%しか存在せず、中央からの財政移転でほぼ全ての歳出を賄っている財政的自治を事実上放棄した自治体も少なくありません。

首相が企業に賃上げ要請を行うなど民間経済に公然と介入し、ベンチャーとして新規事業を行うにも様々な業法による縛りによって自由に事業を営むことすらできず、経済産業省なども含めた天下りが民間企業で幅を利かせています。

日銀による異次元緩和や年金の株式運用比率の上昇など、民間市場に中央銀行や政府機関が与えるインパクトも極めて増大してきました。日本の年金制度は政府が運用する世界最大級のネズミ講でもあります。

また、移民・難民政策という観点に立ったとしても、トランプは2017年は年間5万人の難民受け入れを発表していますが、日本の難民受け入れ数はトランプ政権の方針を遥かに下回るものです。

で、日本政府の政策の一体どこが新自由主義なのでしょうか。筆者には毎年のように日本政府が肥大化しているようにしか見えません。

筆者はハイエクが創設したモンペルランソサエティーなどの「本物の自由主義者が集まる国際会議」に参加する機会もありますが、日本経済や安倍政権を「新自由主義だと解釈する人は一人もいません」よ。そのような話をしても失笑されるだけです。日本の位置づけは完全なケインジアンです。

ちなみに、派遣労働が拡大した時期のように、経営側にレントシーキングを与える規制をそのままにして労働法制を中途半端に緩和した行為は、新自由主義ではなく縁故資本主義そのものです。経営の生産性を上げずに労働者の一部のみの法制を緩和した場合に所得が下がってしまうことは当然です。縁故資本主義が社会のあらゆるビジネスシーンに蔓延する日本でトリクルダウンが起きるとも思えません。

このような政府と企業幹部が癒着した腐敗した政治スタイルは縁故資本主義と呼ばれるものであり、新自由主義と同一のものとして語るべきではありません。縁故資本主義は倫理的にも正当化されるものではありません。

また、硬直化した教育行政などによって労働者への職業的教育が時代に対応したものにならず、教育の質が向上した途上国労働者との競争に敗れたことによる所得減少は政府の失敗ではないかと考えます。筆者の教育の考え方はこちらを参照ください。(「教育無償化」の憲法明記という思考停止を超えた改革を

日本の問題は言論のイデオロギーの幅の狭さ、役所関係者以外の言論空間への参加を希望

長くなってしまいましたが「何を言いたいか」というと、「新自由主義」でもないものが「新自由主義」だと見えてしまう現在の日本の有様は、言論空間に参加しているアクターが、

・左派系の大学研究者
・役人または元役人
・グローバルなリベラルエリート
・大企業お抱えの総研の人

というエスタブリッシュメントばかりであって、日本の言論空間の中央値が大きく左に寄り過ぎており、イデオロギーの方向性を議論するほどの自由度がないということです。米国で言うならサンダース支持者やヒラリー支持者の声ばかりということになります。

筆者は何度もベンチャー企業の立ち上げに関わってきましたが、毎回のように役所の規制(しかも不明瞭な)に悩まされます。自営業者、中小企業、ベンチャー企業、フリーランスの方は役所から目をつけられるのが嫌なので公の場で堂々と政治的な発言しません。(彼らを政策的に代弁するヘリテージ財団のようなシンクタンクもありません。)

それを良いことに日本では左派寄りの言論人が幅を利かせすぎており、政策議論のイデオロギーの振れ幅の健全性が完全に失われた状態となっています。そのため、欧米の基準で言論のイデオロギーを表面的に分類しているように見えても、本当は顕微鏡で見るような誤差の範囲に過ぎない違いを無理やり区分している状況となってしまいます。

一例を挙げるなら、新自由主義を支持している米国の共和党保守派の大統領予備選候補者であったテッド・クルーズは商務省廃止論者でした。(日本の経産省廃止に相当)経済産業省のペーパー程度の内容が「新自由主義的な要素が含まれている」と過大評価を受ける日本とは全く別次元です。

上記の日本の言論制約の中で作られた同ペーパーに明確なソリューションが無いことは当然だと言えます。なぜなら「そこ」には答えはないからです。

現在の言論空間の貧困状況を続けるならば、10年後にもほぼ同じ内容のペーパーを経済産業省は提出していると断言させて頂きます。そして、その頃には確実に政府は更なる肥大化を遂げていることでしょう。



本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。


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