2015年11月29日

アグロ・アマゾニア(ブラジル)に見る日本の農業の未来

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住友商事が買収したアグロ・アマゾニアの規模が凄いということ

今年初めに住友商事はブラジルの農業資材会社のアグロ・アマゾニアの株式の65%を取得して経営参入しています。本件は日本の農業の未来を考える上で非常に示唆的だと感じています。

アグロ・アマゾニアは、唯一マットグロッソ州全域に展開する農業生産資材問屋であり、同州は日本の2.5倍の広大な土地を生かして、大豆やトウモロコシ、肉牛や綿花を始めとする農畜産物の最大生産地となっています。
ブラジルでは農業系大学の出身者の地位は高く、ビジネス分野として農業が極めて有望な扱いを受けています。

マットグロッソ州は数千~数万ヘクタール規模の大規模農地開発が続いており、投資会社のファンドによって世界各国から資金を調達し、保管・流通施設等も一体とした開発を行う傾向にあります。ちなみに、同国におけるトップクラスの投資ファンドは約20~30万ヘクタールの農地を経営しています。

住友商事は同州の農家に対して農協に類似する事業を展開して支援を開始しています。安倍首相も2014年8月にブラジル訪問時に、日本や世界の食料需給安定に貢献するため、穀物の増産や物流効率化に向けた支援を表明しています。

日本の農業の高付加価値化・規模拡大で競争できるのか

日本の農業の高付加価値化・規模拡大を促進するという議論がなされていますが、如何にも日本的というか中途半端なことばかり実施していると思います。

農業生産性が世界的に向上していく中で日本の農業は高齢化・陳腐化によって競争力が低下し続けていくことになるでしょう。また、農業保護向けの関税・補助金などによる政府依存も若者の就業忌避・生産性の低下に繋がっています。

そこで、高付加価値面も然ることながら、農地の大規模化ということについて全く発想を変更して臨むべきだと思います。つまり、農業への補助金などを徐々に削減していくことで農業経営に熾烈な競争を起こし、1つの県やそれ以上の規模を誇る経営主体を生み出していく必要があります。

現状のように隣近所の耕作放棄地を力がある農家が合併する程度ではなく、合併の視野のスケールを大きく変えていく必要があります。日本の1戸当たりの耕作面積は米は50年前と比べて2倍ですが、肉牛は32倍、養豚は600倍になっています。国際競争を含めた競争の激化は確実に大規模化を進める要因となっています。

高付加価値化は農地集約の競争過程で自然と行われていくため、自由競争に任せることが望ましいです。そのため、まずは運営主体への大規模な合併を促すとともに企業参画を大幅に進めるべきです。現状のように中途半端に経営面の補助金を維持したまま、高付加価値化のために更に税金を投入するやり方を見直すことが必要です。

むしろ、農業就業人口を低下させて一人当たりの利益を増やすことが大事

経営力がある若者が農業に就業して生産性を改善していくためには、農業就業人口の一人当たりの利益が増加していくことが重要です。逆説的には農業の低収益性に対して高齢者が大量に就労している状況こそが問題です。

そのためには、農業の大規模化を推進して1戸当たりの経済規模を拡大すること、安価で高付加価値な農産物の製造を推進していくことが重要です。

たとえば、水田の6割を占める乾田を飼料用トウモロコシに転換したほうが安価に大量に作物の製造が可能ですが、農林水産省の補助金政策によって実行されていない事など、既存政策の全面的な見直しが必要です。作物転換のプロセスの中で農地集約を推進していくべきです。

グローバル環境の中で日本に真の「大規模農家」が生まれていくことこそが日本農業の競争力強化に繋がっていくことになるでしょう。





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yuyawatase at 15:53|PermalinkComments(0)社会問題 
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地方分権改革私論、「腐敗の論理」を行革に生かす

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日本の行政機構や公務員制度は既に確立されて出来上がっているため、小さな政府を実現していく場合、完全に廃止・民営化を実現していくことは極めて困難です。そのため、まずは税制度全体及び天下りなどの腐敗の面で、中央・地方関係に対立・牽制関係を働かせていくことで、行政改革へのインセンティブを付与することが重要です。

中央政府=社会保障、地方自治体=産業政策という役割分担の見直し

まずは中央政府と地方自治体の根本的な役割分担を実施していくことが望ましいと考えます。具体的には中央政府は社会保障全般(所得・衛生)、地方自治体は産業政策全般(サービス・補助金)というような役割分担に再編する必要があります。

現在の政府方針では、中央政府は社会保障・産業政策のいずれも強い権限を持ち、地方自治体はその執行役としての役割を担わされています。さらに、中央政府は財政難の状態から徐々に社会保障関連の事務を地方に移管していこうとしている姿が散見されます。

そのため、中央政府と地方政府の実質的な一体化を前提として、社会保障を餌に地方自治体側が消費税増税などに安易に賛成する、という大きな政府に陥るスパイラルが形成されています。

このような状況を根本から見直し、中央政府は社会保障全体を担うもの、地方自治体は産業政策を担うものと明確に区分することで、各地方自治体間の経済競争が促されることになります。地方自治体間の経済競争の総和として日本経済全体の浮揚に繋がることは明白です。

税制の抜本的な構造改革、所得税・法人税の地方自治体への移管を進めるべき

中央政府が社会保障を担うものとした場合、中央政府の財源は消費税などの安定財源によって担われていることが重要です。そのため、逆説的に所得税・法人税などの景気に左右される生産関連の税収は不要となります。

従来までは中央政府が所得税・法人税も吸収していたため、好況不況時の税収・支出にバラつきが生じて計画的な行政運営が難しい状況があります。そのため、中央政府の運営は消費税などの安定財源に限定することを通じて社会保障の計画的な支出を実現することが重要です。

逆に所得税・法人税などは地方自治体に移管することが重要です。生産関連税収は従来までは地方交付税の原資となっていましたが、これらを地方税と位置付けて地方自治体の予算として直接収受できる環境を整備していくべきです。

なぜなら、地方自治体に生産関連税収を移管することを通じて、地方自治体間の経済競争を促進していくことができるからです。現在、財政改革・規制改革などが遅々として進まない理由は、財政改革・規制改革の担い手となる地方自治体に改革へのインセンティブが何も働いていないことに原因があります。

地方自治体職員の待遇と地域の経済成長が連動している状態とすることで、初めて日本の構造改革が進む状態になるとともに、国と地方の間での力関係が変わってくることになります。各地域の生産関連税収と地方自治体の公務員給与が一致するからです。

中央政府が社会保障全般を計画的に実施することで、地方自治体は社会保障関連の制約から抜け出て、経済成長を実現するための施策を総合的に構築していくことが可能となります。

中央省庁の天下りなど不要、地方自治体に利権を移していくことで改革を促進する

現在、中央省庁でも地方自治体でも大量の天下りが発生しており、それらの目に見える負担・目に見えない負担は日本経済全体の重しとなっています。重要なことはこれらを一掃することは極めて難しいということです。

そのため、日本全体に影響が発生する中央政府レベルでの天下りを防止するとともに、地方自治体への利権移管を進めることで、天下りが酷くてダメな地域が勝手に潰れる環境を整えていくことが望まれます。

中央の天下り及び利権は日本全体に与える影響が大きいため、地方自治体レベルに天下り及び利権を移していくことで被害を最小限に抑えるべきです。

現在、国政では消費税を地方税に移管して社会保障を担わせる議論がされていますが、それでは日本全体レベルで産業と癒着した中央省庁が温存されることになります。中央省庁には社会保障関連の天下り・利権を残し、地方自治体は産業関連の天下り・利権を受け取るべきです。

所得税・法人税などの生産関連税収と日本の産業全体を規制する権限を中央省庁に残しているから、様々な既得権に阻まれて日本の経済改革は全く進まないのです。

日本全体では過去に築いた経済のパイがあるため、多少経済が傷ついてもそれらの腐敗を受け入れる余地があります。そのため、非常に不毛な政策が存在していても、全国横並びで実行されるために誰も不毛さに気が付かず、財政改革・規制改革が進んでいきません。

公務員による天下り・利権、つまり腐敗による支出・規制執行は無くならないことを前提とし、各腐敗の影響範囲を地理的に限定し、各地方自治体間の競争で腐敗を抑制する政策を実行していくことが望ましいです。

無駄な中央官庁を一掃してスリム化を実現していくことが大事である

日本の中央省庁は様々な名称では多様な業務を行っていますが、それらの大半は社会保障(所得・衛生)か産業政策(サービス・補助金)に分類することが可能です。

社会保障に分類できるものは中央省庁に残し、それ以外は全て地方自治体に移管することが望まれます。地方自治体の主要税収を生産関連税収とすることで、地方自治体の自主的判断で中央省庁から移管された大半の不要事業は廃止されることになるでしょう。

中央政府として、不要な省庁は、経済産業省、文部科学省、農林水産省、総務省、国土交通省、などのサービス提供・補助金系系省庁です。これらの省庁の所管政策については地方自治体側で移管される所得税・法人税によって運営されていくか、民間事業者が参入するかを決定していけば良いと思います。

これらを地方に移すことで地方レベルの腐敗(天下り・利権)は拡大するでしょうが、あまりにも酷い地域から潰れていけば良いだけなので日本全体で見た問題に比べれば小さなことです。

これらの改革を実行することで、毎年の概算要求の度に各省から数百から千枚以上の要求のための書類が出てくるような愚かな文化も無くなることでしょう。その他の中央省庁の政策も外交・防衛は除いて社会保障に似つかわしくないものは徹底的に排除し、不要な特別会計も全て整理してしまうべきです。

中央政府の社会保障、地方自治体の経済成長の対立が財政健全化への道

上記の一連の改革によって、中央省庁に社会保障費用が集中することによって膨大な量の財政支出を中央省庁が担うようになるものと思います。しかし、財源は消費税しかないという状況を創り出していくことが重要です。

そのような状況を作ることで初めて消費税は社会保障目的の税金として使用されていくことになります。

一般会計ベースでみると、地方交付税、文教科学振興費、公共事業費、その他の産業関連分の予算を地方に移すと30兆円弱になるため、法人税・所得税の約30兆円弱とほぼ同額となります。これらを地方自治体に移すと同時に、既存の国債の一部も自治体の担税力に応じて中央政府から地方自治体に移譲します。

そうすることで、地方自治体は景気悪化による所得税・法人税の減収を恐れることになるので、現在の日本政府のように安易な消費税増税に反対するようになります。

政府内で牽制関係が働く環境を作ることによって政治的な議論が喚起されることとなり、消費税増税の是非がまともな形の政治争点として国民に示されることになります。

その結果として、中央政府が消費税を増税するためには、地方自治体からの同意が実質的に必要となるため、社会保障支出の徹底的な削減、医療・介護などの規制緩和などが自然と実行されていくことになります。

日本の再生には、所得税・法人税を地方に移すことで、肥大化を続ける政府内部での牽制・対立関係を創り出すことが重要です。





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yuyawatase at 12:07|PermalinkComments(0)国内政治 
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2015年11月28日

「アベノミクス」、全ての矢が折れた後に(金融政策編)

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アベノミクス、つまり安倍政権の政策は、弱肉強食、格差拡大、福祉切り捨てなどの色々な名目で批判されます。そして、アベノミクスを「新自由主義的な政策で小さな政府だ」と総括する人々もいます。

しかし、アベノミクスの本質は「弱肉強食・格差拡大」ではあるものの、「反自由主義的で巨大な政府」であるということ、そして超巨大な政府を創りだした金融緩和・財政支出・規制不緩和による経済停滞による不都合な事実こそが問題だということをお話ししていきます。

アベノミクスの金融緩和は「庶民」にも「大企業」にも無意味だった

金融緩和とは「日本円」という通貨価値を意図的に引き下げる政策です。そして、日本円を安くすることによって輸出を増加させること、人為的にインフレを生じさせることでお金を使わせて景気を浮揚させることを狙うことを目的としています。

しかし、現実に起きたことは輸出数量はほとんど増加せず、デフレからの脱却も行うこともできませんでした。実際に金融緩和によって発生した「メリットはほとんど無いということ」です。

つまり、何となく日本円がジャブジャブになったような印象があるだけで肝心のGDPへの影響があまりなかったということ、要は庶民にも大企業にもほとんど関係がないことが行われただけだったのです。

輸出も増加しなければデフレからも脱却しなかった異次元緩和


まず、輸出面ですが、ドルベースで日本からの輸出額を見た場合、円高で苦しんでいるとされた2009年のほうが中国市場の過熱から輸出総額が高い状況でした。

アベノミクス以前の2011-12年のほうがアベノミクス以後の13-14年よりも輸出額が多い状況となっており、輸出は買い手の経済の影響を大きく受けるので、日本の金融政策の影響は微々たるものであることが明らかになっています。

また、目標とした物価上昇2%というデフレからの脱却も達成できておらず、実際の食品と原油を除いた消費物価指数は直近の数か月でも1%未満の上昇率で推移しています。人口減少によって総需要が縮小を続ける日本で金融緩和によるインフレ効果は限定的だからです。

2年以内で目標不達成なら辞めると明言した黒田日銀総裁がしどろもどろの言い訳を実施していますが、潔く辞任したらよいのではないかと思います。

企業業績の回復は「人件費を減らしたこと」と「為替による見せかけ」の複合現象

ここからが重要なのですが、アベノミクスの本質を知るにはドルベースで企業業績に注目するべきです。

2011-12年から日本企業のドルベースの売上は大幅に減少しているにも関わらず営業利益は横ばい・微減程度になっています。営業利益を維持できた主要因の一つはドルベースの人件費は2011-12年段階から2015年現在で約3分の2に減少しているからです。

円安によって円ベースの見かけ上の企業収益は改善していますが、ドルベースの実際の収益状況を見た場合の重要な一つの要素として人件費を減らしたことのインパクトは大きいです。

これが日本企業の実態であり、本当の日本の実体経済だと思います。人件費を削って利益を出しているので働く人の間で景気回復の実感が無くて当たり前です。

また、円安に推移している原因は金融緩和の影響もあるとは思いますが、経常黒字の内容の変化による構造問題が影響しております。海外資産からの所得収支の黒字を貿易赤字が侵食し始めていることに注目すべきです。むしろ、円安は金融政策だけではなく産業競争力の低下という日本経済の構造上の問題です。

従って、日本企業は付加価値の向上によって競争力を高めたわけではなく、コストカットと為替で収益を出している虚構の業績改善を達成しただけなので、企業が日本市場への再投資や賃金アップを実施しないことは必然なのです。

政府から企業への賃上げ要請は完全にお門違いの議論でしかない

アベノミクスは効果が無かったどころか、アベノミクス時代に行われたことは人件費の大幅な削減と為替の構造調整だけだったのです。

たしかに、株価は上がりましたが、それは世界経済の回復に日本経済も便乗したこと及び過剰な人件費を急激に削減して利益を維持したことを好感したものだと推測します。

株価の上昇の主要因は2012年末頃に実施された欧米の政策による世界同時株高の影響であり、日銀による株価上昇は2014年末の国債大量購入の発表によるものくらいのはずです。

そのため、安倍政権発足後の株価が上昇した理由をアベノミクスに求めることは明らかな間違いです。

現在、安倍政権は労働組合のように大企業らに対して賃金アップを政治力を用いて交渉していますが、アベノミクスで実質的な業績回復が実行されたわけではなく、あくまでも「人件費削減」と「為替効果」での業績改善であるため、企業側は政権に恩に着せられる覚えは全く無いはずです。

ただし、現政権のもう一つの柱であった財政支出によって利権に浴した企業群は、安倍政権への政治献金の増額を決定しています。これこそがアベノミクスの本質的な姿と言えるでしょう。まあ、一党支配状態の政権に政治献金の増額を求められたら断る気概がある経済人がいると思えませんが。。。

「大企業が儲けているのにトリクルダウンが起こらない」という認識が間違っている

アベノミクスでは、経済的に豊かになれる人から豊かになっていき、その後社会の隅々まで順番に豊かになる、というトリクルダウンが発生しない理由は明白になったと思います。

トリクルダウンが起きない理由は日本全体が豊かになっていなからです。ドルベースの日本のGDPも2013年以降には激減しており、日本の国際的な中での競争力自体も著しく低下しています。アベノミクスとは少なくなっていくパイの取り合いをしているだけなのです。

大企業であっても自衛を実行するだけで精一杯の状態であり、まして中小企業やそこで働く従業員にまでお金が回るわけがないのです。つまり、簡単に言うと、実体経済の状況は悪化しているのです。GDPが2期連続でマイナスに陥っているにも関わらず景気が良いわけがありません。

2009年リーマンショック後から安倍政権まで続く失業率の低下は、高齢化による労働量人口の減少と比較的賃金が安い福祉関連の就業者が増加したことが原因であり、少なくなった労働者向けのパイを薄く広く分け合ったに過ぎないのです。

このような状態になっている理由は、アベノミクスの2本目・3本目である財政政策と規制緩和政策が「ゴミ」のようなものだったからであり、さらには本当に必要な4本目の矢は議論すらロクにされなかったからです。

左派なら労働法制の強化などを打ち出すのでしょうが、上記で見てきたように問題は日本全体の経済停滞または衰退状態にあるため、本来は新しいパイを創り出していくことが必要です。

それらについても追々とりあげていこうと考えていますが、今回はここまでにしてきおきます。

戦後経済史
野口 悠紀雄
東洋経済新報社
2015-05-29




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yuyawatase at 12:35|PermalinkComments(0)国内政治 
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